(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002112
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】抗ウイルス評価用組成物、抗ウイルス評価用インジケーター、抗ウイルス評価方法及び洗浄条件の探索方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20241226BHJP
A61B 90/70 20160101ALI20241226BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241226BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20241226BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241226BHJP
C12Q 1/22 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C12Q1/70
A61B90/70
G01N33/569 G
C12N7/00
C12M1/34 B
C12Q1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102045
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(72)【発明者】
【氏名】山内 朝夫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 嘉
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029BB13
4B029CC02
4B029CC03
4B029CC08
4B029FA05
4B063QA05
4B063QA06
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4B063QR72
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4B063QR82
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA96X
4B065AA98X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】安全かつ短期間でHBVそのものの除去性を評価できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む抗ウイルス評価用組成物である。前記生体由来の夾雑物は、血清タンパク質を含むことが好ましい。また、本発明は上記抗ウイルス評価用組成物を基材表面に有する抗ウイルス評価用インジケーターも含み、この抗ウイルス評価用インジケーターを、体液で汚染された医療用具とともに洗浄し、洗浄後の前記抗ウイルス評価用インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記エンベロープ型バクテリオファージ量を測定することで、前記医療用具の抗ウイルス評価を行う医療用具の抗ウイルス評価方法もまた本発明に含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む抗ウイルス評価用組成物。
【請求項2】
前記生体由来の夾雑物は、血清タンパク質を含む請求項1に記載の抗ウイルス評価用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗ウイルス評価用組成物を基材表面に有する抗ウイルス評価用インジケーター。
【請求項4】
請求項3に記載の抗ウイルス評価用インジケーターを、体液で汚染された医療用具とともに洗浄し、洗浄後の前記抗ウイルス評価用インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記エンベロープ型バクテリオファージ量を測定することで、前記医療用具の抗ウイルス評価を行う医療用具の抗ウイルス評価方法。
【請求項5】
請求項3に記載の抗ウイルス評価用インジケーターを洗浄し、洗浄後の前記抗ウイルス評価用インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記エンベロープ型バクテリオファージ量を測定する工程を、洗浄条件を変えて繰り返す、洗浄条件の探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス評価用組成物、抗ウイルス評価用インジケーター、抗ウイルス評価方法及び洗浄条件の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関で用いられる医療用具には、血液などの体液や、組織片等の生体由来の汚れが付着する可能性がある。ウイルスや細菌等の感染を防ぐため、使用後の医療用具は洗浄してから再使用され、再使用にあたっては洗浄の度合いを確認する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、シート基材の表面に、疑似汚染物としての植物性蛋白質を含む塗膜が形成されてなる医療器材洗浄評価用インジケーターが開示されている。特許文献1では、シート基材表面の塗膜に含まれる疑似汚染物である植物性蛋白質が、洗浄によってどの程度除去されているかを評価し、これにより洗浄に関する多くのパラメーターが洗浄装置に正常に反映されているかを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体由来の汚れに含まれるウイルスの中でも、B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus、HBV)は、感染リスクが極めて高いことが知られており、HBVを含む生体由来の汚れが付着したものが、医療行為に起因して、または傷を介するなどして感染する恐れがある。外科的処置や歯科処置などの観血処置が多い場面では、患者の血液や飛沫で医療用具または医療機器類が汚染される可能性が高く、また医療現場のみならず、食品工場、介護施設、公共施設(トイレなど)などでもHBV感染リスクを評価できることが望ましい。洗浄評価を行う汚染モデルやインジケーターはいくつか提案されているが、上記特許文献1で示されるようにタンパク質などの擬似汚染物の除去性をもって洗浄の評価を行っており、ウイルスそのものの除去性は評価されていない。
【0006】
また、HBVを用いて抗ウイルス評価を行った例もいくつか報告されているが、評価時の感染リスクを抑えるため特別な設備が必要であるとともに、評価期間も長期に亘るという欠点がある。
【0007】
そこで、本発明は、安全かつ短期間でHBVそのものの除去性を評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む抗ウイルス評価用組成物。
[2]前記生体由来の夾雑物は、血清タンパク質を含む[1]に記載の抗ウイルス評価用組成物。
[3][1]または[2]に記載の抗ウイルス評価用組成物を基材表面に有する抗ウイルス評価用インジケーター。
[4][3]に記載の抗ウイルス評価用インジケーターを、体液で汚染された医療用具とともに洗浄し、洗浄後の前記抗ウイルス評価用インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記エンベロープ型バクテリオファージ量を測定することで、前記医療用具の抗ウイルス評価を行う医療用具の抗ウイルス評価方法。
[5][3]に記載の抗ウイルス評価用インジケーターを洗浄し、洗浄後の前記抗ウイルス評価用インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記エンベロープ型バクテリオファージ量を測定する工程を、洗浄条件を変えて繰り返す、洗浄条件の探索方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バクテリオファージを用いているため、HBVに感染するリスクを排除して、かつ短期間でHBVの除去性を代替評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが検討した結果、HBVと同じ膜形質でありながら、ヒトに対する病原性が低いバクテリオファージと、生体由来の夾雑物を含む組成物が、HBVの除去性の代替評価に用いることができることを見出して本発明を完成した。
【0011】
(1)バクテリオファージ
本発明では、HBVの洗浄による除去評価の代替として、エンベロープ型バクテリオファージを用いる。バクテリオファージは、細菌に感染するウイルスであり、また限定的な細菌にしか感染しないため、ヒトに対する病原性が低いウイルスである。HBVは、エンベロープを有するウイルスであるため、同様の構造を有するエンベロープ型バクテリオファージを用いることで、ヒトへの安全性を確保しつつ、HBVが洗浄によりどの程度除去できるか(以下、抗ウイルス効果と呼ぶ場合がある)を代替して評価できる。バクテリオファージとしては、φ6ファージを用いることがより好ましい。
【0012】
(2)生体由来の夾雑物
医療用具等にHBVが付着する際、通常はHBVと共に生体由来の夾雑物が存在している。従って、エンベロープ型バクテリオファージと共に生体由来の夾雑物を用いることで、医療用具等におけるHBVの実際の存在状態を忠実に模擬でき、HBV除去性の代替評価ができる。
【0013】
生体由来の夾雑物(以下、単に夾雑物と呼ぶ場合がある)とは、例えば血液由来の夾雑物であることが好ましく、血清タンパク質を含む夾雑物であることがより好ましく、アルブミンを含む夾雑物であることが更に好ましい。生体由来の夾雑物として、具体的には、ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)、ウシ血清アルブミン(Bovine Serum albumin、BSA)、ヒツジ全血液などを用いることができる。生体由来の夾雑物は、例えばウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、マウスなどの動物から常法により適宜入手することができるが、市販品を用いることもできる。
【0014】
(3)抗ウイルス評価用組成物
抗ウイルス評価用組成物は、上記したエンベロープ型バクテリオファージと、夾雑物を含む。後述の実施例で示す通り、同一の洗浄剤を同一の希釈倍率で用いて、本発明の抗ウイルス評価用組成物と、実際のHBVを含む血清を、それぞれ混合して、混合前後のバクテリオファージ量を比較した抗バクテリオファージ活性値及び混合前後のHBV量を比較した抗HBV活性値を求め、抗バクテリオファージ活性値及び抗HBV活性値が2.0以上を抗ウイルス効果があると評価し、2.0未満を抗ウイルス効果が不十分であると評価するとき、両者の抗ウイルス評価はよく一致している。したがって、本発明の抗ウイルス評価用組成物は、HBVの抗ウイルス評価に好適に用いることができる。
【0015】
抗ウイルス評価用組成物は、通常、水などの液体を含んでいる。抗ウイルス評価用組成物中の、エンベロープ型バクテリオファージの濃度は、105~109PFU/mLであることが好ましく、107~109PFU/mLであることがより好ましい。抗ウイルス評価用組成物が水を含む場合、組成物100質量%中の水の量は、例えば0.01体積/体積%以上、99.99体積/体積%以下である。
【0016】
夾雑物は、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。夾雑物は好ましい態様において血清タンパク質を含んでおり、そのような場合のタンパク質量は、抗ウイルス評価用組成物全体の容量に対して、10~130mg/mLであることが好ましく、40~120mg/mLであることがより好ましい。
【0017】
夾雑物が、ウシ血清アルブミン(BSA)である場合には、抗ウイルス評価用組成物全体の容量に対して、20~80mg/mLであることが好ましい。夾雑物が、ウシ胎児血清(FBS)である場合には、抗ウイルス評価用組成物全体の容量に対して、0.6~0.9mL/mLであることが好ましく、タンパク質量で20~70mg/mLであることが好ましい。更に、夾雑物がヒツジ全血液である場合には、抗ウイルス評価用組成物全体の容量に対して、0.2~0.9mL/mLであることが好ましく、タンパク質量で10~130mg/mLであることが好ましく、40~120mg/mLであることがより好ましい。
【0018】
抗ウイルス評価用組成物は、エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を、混合することにより得られ、必要に応じて水も混合することが好ましい。エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物は、これらを含む水性の液(水溶液または水懸濁液)をそれぞれ用意してから混合してもよい。また、抗ウイルス評価用組成物には他の成分が含まれていてもよく、特に市販の夾雑物を用いる場合、本発明の組成物は、塩化ナトリウム、アジ化ナトリウム、グリシンなどが含まれていてもよいし、ヘパリン酸ナトリウムなどの抗凝固剤が含まれた血液を用いる場合などには、硫酸プロタミン、プロタミン塩酸塩などの抗凝固剤の拮抗剤が含まれていてもよい。これら他の成分、すなわちエンベロープ型バクテリオファージ、生体由来の夾雑物及び水以外の成分は、組成物中、合計で1質量/体積%以下であることが好ましく、0.5質量/体積%以下であることがより好ましい。
【0019】
抗ウイルス評価用組成物は、後述するように基材に塗布し固化させてインジケーターを作製して、評価対象物とともに、洗浄装置に投入して抗ウイルス評価を行う態様で用いることができる他、洗浄装置によらない洗浄を行う場合にも使用可能である。すなわち洗浄剤を、体液で汚染された洗浄対象箇所にスプレー、かけ流し、ロールなどにより塗布する工程、水洗及び/又は拭き取りする工程を含む洗浄操作において、前記洗浄対象箇所とは異なる場所に本発明の組成物を塗布し固化させ、本発明の組成物固化物に同様の洗浄操作を行った後、本発明の組成物固化物の洗浄箇所をこすり取って培養して評価するという使い方も可能である。
【0020】
(4)抗ウイルス評価用インジケーター
抗ウイルス評価用インジケーターは、上記したエンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む抗ウイルス評価用組成物を基材表面に有する。具体的には、エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む液を基材に塗布し、固化させることで抗ウイルス評価用インジケーターを作製することができる。固化は、通常、前記液を塗布した基材を乾燥させることで行われ、室温で1~24時間程度静置すればよい。エンベロープ型バクテリオファージ及び生体由来の夾雑物を含む組成物(好ましくは水を含む液組成物)の塗布量は、基材1cm2あたり、例えば容量で1~27μLであることが好ましく、質量で1~27mgであることが好ましい。
【0021】
基材の材質は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、ステンレス、アルミニウム、チタンなどの金属、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、またはガラスなどであってもよいが、金属であることが好ましく、特にステンレスであることがより好ましい。また、基材の形状も限定されないが、板状、棒状などが挙げられ、板状である場合の大きさは、短辺の長さが1~4cm、長辺の長さが5~10cm、厚みが0.1~2mm程度であればよい。
【0022】
(5)抗ウイルス評価方法
上記インジケーターを、体液で汚染された医療用具とともに洗浄し、洗浄後の前記インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記バクテリオファージ量を測定することで、体液で汚染された医療用具の抗ウイルス効果の評価を行うことができる。
【0023】
インジケーターは、洗浄装置にそのまま投入してもよいし、ホルダーに挿入して投入してもよいし、また洗浄装置に固定しても固定しなくてもよいが、これらの条件について洗浄対象の医療用具と同様の配置状態とすることが好ましい。
【0024】
洗浄は、公知または市販の装置で実施される洗浄方法を適用できる。用いられる洗浄剤は、HBVを不活化可能な公知または市販の洗浄剤を用いることができ、例えば、太平化学産業株式会社製のライザー4、タイフレッシュ・エースNEOなどを挙げることができる。また、洗浄方式も特に限定されず、浸漬洗浄、超音波洗浄、ウォッシャーディスインフェクター、用手洗浄などが挙げられる。
【0025】
体液には、血液、リンパ液、唾液、分泌液、組織液、その他の体液が含まれる。医療用具としては、手術、検査、治療等に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、鑷子、鉗子、剪刀、吸引管、内視鏡、カテーテル、注射針等が挙げられる他、手術着や検査着などの衣服も含まれる。
【0026】
宿主菌とバクテリオファージを混ぜて、宿主菌が増殖できる寒天平板培地上で培養してバクテリオファージを増殖させると、宿主菌がバクテリオファージによって溶菌し、透明な溶菌斑(プラーク)が観察されるため、このプラーク数(Plaque Forming Unit、PFU)をカウントすることで、バクテリオファージ量を評価できる。より具体的な手順は例えば以下の通りである。まず、洗浄後のインジケーター表面をスワブで回収し、回収物をSCDLP(Soybean-Casein Digest with Lecithin & Polysorbate)液体培地に溶出させる。溶出液の一部を、更にSCDLP液体培地と混合するという操作を繰り返して、SCDLP液体培地により体積基準で10-5まで希釈し、希釈液と同体積の宿主菌を混合後、LB(Luria-Bertani)液体培地に混和させ、LB寒天平板培地で培養を行えばよい。培養条件は、例えば25~30℃で20~30時間行うことが好ましい。洗浄剤に代えて水を用いること以外は同様の方法で洗浄した後のインジケーターについても、前記手順でバクテリオファージ量を測定し、下記式で算出される抗バクテリオファージ活性値を求め、この活性値が2.0以上であれば、HBVの抗ウイルス効果ありと評価でき、2.0未満であれば、HBVの抗ウイルス効果なしと評価できる。
抗バクテリオファージ活性値=log10{水での洗浄後の板上残存ファージ数(PFU)/洗浄剤での洗浄後の板上残存ファージ数(PFU)}
【0027】
(6)洗浄条件の探索方法
上記インジケーターを洗浄し、洗浄後の前記インジケーター表面の残存物を回収して培養し、前記バクテリオファージ量を測定する工程を、洗浄条件を変えて繰り返すことで、洗浄条件を探索することができる。
【0028】
上記探索方法におけるバクテリオファージ量の測定は、上記した抗ウイルス評価方法において具体的に説明した手順を採用すればよい。
【0029】
本発明によれば、体液で汚染された箇所の抗HBV評価を安全にかつ迅速に行うことができ、医療現場、食品工場、介護施設、公共施設等で有用に用いることができる。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
(1)抗B型肝炎ウイルス(HBV)活性値の測定
評価には、ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス)から分離した新鮮ヒト肝細胞であるPXB-cells(登録商標、ドナー:Hispanic,1Y,女児)を使用した。不活化(抗ウイルス)効果の検討には、器具用防錆清浄液(洗浄剤)として、太平化学産業株式会社製のタイフレッシュ・エースNEO及びライザー4を用いた。HBVを含む血清(HBV量は5GEq/cell、タンパク量は35~75mg/mL程度)を感染源として各洗浄剤と混合し(HBVを含む血清と洗浄剤との混合割合は体積比率で1:1)、室温にて30分間反応を行った後に、PXB-cellsに接種した。接種12日後に培養上清中及び細胞中のHBV関連パラメーター(HBsAg)を、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)にて測定し抗HBV活性値を算出した。抗HBV活性値の算出方法は下記式の通りである。
抗HBV活性値=log10{洗浄剤無添加の上清中HBsAg量(IU/mL)/洗浄剤添加の上清中HBsAg量(IU/mL)}
【0032】
各洗浄剤の抗HBV活性値を表1に示す。
【0033】
【0034】
上述の抗HBV活性値は、値が大きいほど洗浄剤無添加時のウイルス量に対して洗浄剤添加時のウイルス量の方が十分に低減しており、抗ウイルス効果が良好であることを意味する。表1に示す通り、ライザー4の2倍希釈の抗HBV活性値は2.8、タイフレッシュ・エースNEOの10倍希釈の抗HBV活性値は3.1で両者とも抗HBV活性値2.0以上であったため抗ウイルス効果ありと判断した。一方、ライザー4の10倍希釈の抗HBV活性値は0、タイフレッシュ・エースNEOの100倍希釈の抗HBV活性値は0.1で両者とも抗HBV活性値2.0未満であったため抗ウイルス効果なしと判断した。
【0035】
(2)抗ウイルス評価用組成物による抗バクテリオファージ活性値の測定
実施例1-1、実施例1-2
まず、φ6バクテリオファージ液、ウシ血清アルブミン(BSA)液を以下の手順で調製した。
バクテリオファージ液の調製方法は以下の通りである。ファージ(Bacteriophageφ6 (NBRC No.105899))を、事前にLB液体培地で培養していた宿主菌(Pseudomonas Syringae(NBRC No.14084))液に添加し、27℃で4時間振とう培養を行った後、培養液を4℃で24時間静置する。この培養液を10000Gで20分間遠心し、上澄み液を0.45μmのフィルター(Poly Vinylidene DiFluoride)に通し、バクテリオファージの水懸濁液を得た。
上述の手順で調製したφ6バクテリオファージ液20μL及びウシ血清アルブミン(BSA)液180μLの混合液と、器具用防錆清浄液(洗浄剤)200μL(太平化学産業株式会社製のライザー4またはタイフレッシュ・エースNEO)を滅菌チューブ内で混和し、30分間27℃で反応させた。φ6の終濃度(バクテリオファージ液、BSA液及び洗浄剤の混合液に対する濃度)は、107~109PFU/mLであり、上記180μLのBSA液は、BSA(ナカライテスク(株) 牛血清アルブミン(脂肪酸フリー)、型番:012-66)800mgを10mLとなるようメスアップし、8.0質量/体積%のBSA水溶液を調製し、このBSA水溶液100μLを滅菌水80μLに溶解させたもの(BSAの終濃度が2質量/体積%)または、8.0質量/体積%のBSA水溶液150μLを滅菌水30μLに溶解させたもの(BSAの終濃度が3質量/体積%)を用いた。またライザー4については、終濃度2倍希釈または10倍希釈となるように調製したものを用い、タイフレッシュ・エースNEOについては、終濃度10倍希釈または100倍希釈となるように調製したものを用いた。
30分反応させた後の液を100μL採取し、SCDLP培地900μLに添加して10-1希釈液を調製した。この操作を繰り返して行い、10-5まで段階希釈した。希釈液100μLと宿主菌(Pseudomonas Syringae)100μLを混合後、軟寒天培地(LB培地)3.5mLに混和させ平板培地に全量撒き27℃で24時間培養を行った。培養後形成したプラークを測定し得られたファージ数から抗バクテリオファージ活性値を算出した。抗バクテリオファージ活性値の算出方法は下記式の通りである。
抗バクテリオファージ活性値=log10{初期ファージ数(PFU/mL)/洗浄剤との反応後ファージ数(PFU/mL)}
上記式で算出された抗バクテリオファージ活性値が2.0以上であれば抗ウイルス効果あり、抗バクテリオファージ活性値が2.0未満であれば抗ウイルス効果なしと判断した。
【0036】
実施例2-1、実施例2-2
ウシ血清アルブミン(BSA)液180μLの代わりに、ウシ胎児血清(FBS)((株)ニチレイバイオサイエンス FETAL BOVINE SERUM 型番:171012)160μLと水20μLを混合したFBS水溶液180μLまたは前記ウシ胎児血清180μL(FBS終濃度、すなわちバクテリオファージ液、FBS水溶液及び洗浄剤の混合液に対する濃度は40体積/体積%または45体積/体積%)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして培養後形成したプラークを測定し得られたファージ数から抗バクテリオファージ活性値を算出した。
【0037】
実施例3-1~実施例3-4
まず、硫酸プロタミン100mgを10mLとなるようにメスアップし、1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液を調製した。
ウシ血清アルブミン(BSA)液180μLの代わりに、ヒツジ全血液((株)ジャパン・バイオシーラム ヒツジヘパリンNa全血液 型番:027-H0043)と1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液を容量比10:1で混和した液180μLを、当該混和液の終濃度が、20体積/体積%、30体積/体積%、40体積/体積%、または45体積/体積%となるように用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして培養後形成したプラークを測定し得られたファージ数から抗バクテリオファージ活性値を算出した。
前記ヒツジ全血液と1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液を混和した液180μLの内訳はそれぞれ以下の通りである。
終濃度20体積/体積%の時:1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液7.3μL、ヒツジ全血液72.7μL、滅菌水100μL
終濃度30体積/体積%の時:1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液10.9μL、ヒツジ全血液109.1μL、滅菌水60μL
終濃度40体積/体積%の時:1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液14.5μL、ヒツジ全血液145.5μL、滅菌水20μL
終濃度45体積/体積%の時:1.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液16.4μL、ヒツジ全血液163.6μL
【0038】
比較例
実施例1-1及び1-2と同じφ6バクテリオファージ液20μL(φ6の終濃度は107~109PFU/mL)及びファージ希釈用液180μL(10mg/Lポリペプトンおよび0.85mg/L塩化ナトリウムを含む水性の液)の混合液と、器具用防錆清浄液200μL(太平化学産業株式会社製のライザー4またはタイフレッシュ・エースNEO)を滅菌チューブ内で混和し、30分間27℃で反応させたこと以外は、実施例1-1と同様にして抗バクテリオファージ活性値を計算した。
【0039】
実施例1-1、実施例1-2、実施例2-1、実施例2-2、実施例3-1~実施例3-4及び比較例の結果を表2に示す。なお、表2中、「w/v%」は、質量/体積%を意味し、「v/v%」は、体積/体積%を意味する。
【0040】
【0041】
実施例1-1、実施例1-2、実施例2-1、実施例2-2及び実施例3-1~実施例3-4のいずれについても、ライザー4の2倍希釈にて抗ウイルス効果あり(抗バクテリオファージ活性値が2.0以上)、ライザー4の10倍希釈にて抗ウイルス効果なし(抗バクテリオファージ活性値が2.0未満)であり、またタイフレッシュ・エースNEOの10倍希釈にて抗ウイルス効果あり(抗バクテリオファージ活性値が2.0以上)、タイフレッシュ・エースNEOの100倍希釈にて抗ウイルス効果なし(抗バクテリオファージ活性値が2.0未満)との結果であり、これらは上記表1で示したB型肝炎ウイルス(HBV)の抗ウイルス効果の評価と一致していた。
一方、夾雑物を含まなかった比較例では、ライザー4の10倍希釈及びタイフレッシュ・エースNEOの100倍希釈にて上記表1で示したB型肝炎ウイルス(HBV)の抗ウイルス効果の評価と一致しなかった。
【0042】
比較例に示す通り、ファージは夾雑物が共存していない場合には表2のいずれの洗浄剤の条件においても良好に除去されている。しかし、実際のHBV汚染の現場では血清などの夾雑物が共存しており、そのような条件ではライザー4の10倍希釈や、タイフレッシュ・エースNEOの100倍希釈の場合に、十分な抗ウイルス効果が得られないというのが現状である(表1)。実施例に示す通り、エンベロープ型バクテリオファージと共に夾雑物を含む組成物を用いて、該組成物と洗浄剤を混合した後のファージの抗バクテリオファージ活性値を評価する本発明の方法は、HBVの抗ウイルス効果の評価と一致しており、すなわちHBV汚染される実際の状況を忠実に模擬できていると言え、HBVの抗ウイルス評価の代替方法として適しており、安全かつ簡便に短期間でHBVの抗ウイルス評価を行うことができる。
【0043】
なお、表2に示した実施例2-1及び実施例2-2、並びに実施例3-1~実施例3-4のタンパク質量は、それぞれ、ウシ胎児血清及びヒツジ全血液のタンパク質量をBradford法によって測定することによって求めた。2mg/mL標準BSA溶液(Thermo Fisher Scientific PierceTM Bovine Serum Albumin Standard Ampules, 2mg/mL 型番:23209)に滅菌水を加え、検量線作成用標準溶液を調製した。この検量線作成用標準溶液20μLおよびプロテインアッセイブラッドフォード試薬(富士フィルム和光純薬(株) 型番:168-25911)380μLをテストチューブにて混和し10分間室温で静置した。10分間室温で静置後混和液を、分光光度計(日立(株) 型番:U-3310)を用いて595nmの波長で吸光度を測定し検量線を得た。ウシ胎児血清またはヒツジ全血液20μLとプロテインアッセイブラッドフォード試薬380μLをテストチューブにて混和し同様の操作で吸光度を測定し、作成していた検量線よりタンパク質量を算出した。ウシ胎児血清1mL中の蛋白質量は66.4mgであり、ヒツジ全血液1mL中のタンパク質量は130mgであった。
【0044】
(3)抗ウイルス評価用インジケーターによる抗バクテリオファージ活性値の測定
実施例4
まず、硫酸プロタミン200mgを10mLとなるようメスアップし、2.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液を調製した。
次に、2.0質量/体積%の硫酸プロタミン水溶液と、実施例1-1及び1-2と同じφ6バクテリオファージ液を、容量比1:1で混和して、硫酸プロタミン濃度が1質量/体積%である混和液(硫酸プロタミン水溶液とφ6バクテリオファージ液の混和液)9.1μLを得た。この混和液9.1μLと、実施例3-1~3-4で用いたのと同じヘパリン酸Na処理ヒツジ全血液90.9μLを混和した液(容量比1:10)をSUS板に100μL塗布し室温にて2時間乾燥させた。SUS板に塗布した液における、硫酸プロタミンの終濃度は1質量/体積%であり、φ6バクテリオファージの終濃度は107~108PFU/mLである。この試験片を器具用防錆清浄液(ライザー4の2倍希釈液、10倍希釈液、タイフレッシュ・エースNEOの10倍希釈液、または100倍希釈液)に30分間浸漬後、板表面をスワブで回収し、SCDLP培地1mL中に溶出させた。溶出液100μLをSCDLP培地900μLに添加し10-1希釈液を調製した。これを繰り返し行い10-5まで段階希釈した。希釈液100μLと宿主菌(Pseudomonas Syringae)100μLを混合後、軟寒天培地(LB液体培地)3.5mLに混和させ平板培地(LB寒天培地)に全量撒き27℃で24時間培養を行った。培養後形成したプラークを測定し、前記洗浄剤に代えて水に浸漬した試験も行い、同様にファージ数を測定し、これらファージ数から抗バクテリオファージ活性値を算出した。抗バクテリオファージ活性値の算出方法は下記式の通りである。
抗バクテリオファージ活性値=log10{水に浸漬後の板上残存ファージ数(PFU)/各洗浄剤浸漬後の板上残存ファージ数(PFU)}
【0045】
上記式で算出された抗バクテリオファージ活性値が2.0以上であれば抗ウイルス効果あり、2.0未満であれば効果なしと判断した。結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表3によれば、夾雑物とエンベロープ型バクテリオファージを表面に有するインジケーターを用いて、洗浄後のインジケーター上のファージ量を評価する方法でも、上記表1で示したB型肝炎ウイルス(HBV)の抗ウイルス効果の評価が一致していた。
【0048】
また、本実施例では板上および浸漬液に溶出したタンパク質量をBSA換算でBradford法により定量した。結果を表4に示す。
【0049】
【0050】
表4によれば、洗浄後でも板上にタンパク質が残存していることが分かる。従来の洗浄評価(インジケーター)は、器具に付着したタンパク質を洗浄により完全に除去することで感染性のウイルスも完全に除去することができているという考え方であり、タンパク質を所定以下に低減することをもって、ウイルスも所定以下に除去できたと判断されていた。しかし、臨床においてタンパク質を完全に除去することは難しく、洗浄評価判定ガイドライン2012年8月((一社)日本医療機器学会・滅菌技士認定委員会)ではウォッシャーディスインフェクターや超音波洗浄後の洗浄物に残存するタンパク質の許容値(200μg/機械)と目標値(100μg/機械)を設定しており、許容値および目標値以下のタンパク質量であってもわずかに残存するタンパク質内に感染性のウイルスが存在している可能性があった。本評価方法によればタンパク質の残存量ではなく、ウイルスの不活化効果を直接評価することができるので、例えば外科処置後の器材表面や環境表面(仮にタンパク質が残っていたとしても)にウイルスが残存または減少しているか確認することができる。