IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-逐次成形方法 図1
  • 特開-逐次成形方法 図2
  • 特開-逐次成形方法 図3
  • 特開-逐次成形方法 図4
  • 特開-逐次成形方法 図5
  • 特開-逐次成形方法 図6
  • 特開-逐次成形方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021167
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】逐次成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/18 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
B21D22/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124927
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】濱野 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐田 和美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 瞭
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰志
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA10
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA05
4E137CA11
4E137CA25
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA16
4E137EA22
4E137FA08
4E137FA22
4E137GA02
4E137GA16
4E137HA06
(57)【要約】
【課題】従来の逐次成形方法では、成形後にスプリングバックによる変形が生じることがあり、改善が要望されていた。
【解決手段】金属板Wの一方の主面側に配置した棒状工具Tと、金属板Wの他方の主面側に配置した成形型1を用い、金属板Wに棒状工具Tの先端を押し付けて移動させながら、金属板Wを成形型1に沿って三次元形状に成形する成形工程と、成形工程を経た金属板Wの成形部分Wfの一部である要矯正領域Wcに対して、棒状工具Tを押し付けて移動させながら、棒状工具Tと成形型1との間で要矯正領域Wcに圧縮応力を付与する矯正工程とを備えた逐次成形方法とし、成形後の金属板Wにおけるスプリングバックによる変形を抑制する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の一方の主面側に配置した棒状工具と、前記金属板の他方の主面側に配置した成形型を用い、
前記金属板に前記棒状工具の先端を押し付けて移動させながら、前記金属板を成形型に沿って三次元形状に成形する成形工程と、
前記成形工程を経た前記金属板の成形部分の一部である要矯正領域に対して、前記棒状工具を押し付けて移動させながら、前記棒状工具と前記成形型との間で前記要矯正領域に圧縮応力を付与する矯正工程とを備えたことを特徴とする逐次成形方法。
【請求項2】
前記金属板の成形前の主面と成形後の傾斜面とが成す角度を成形角度とし、
前記要矯正領域が、前記成形部分において相対的に前記成形角度の小さい領域であることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項3】
前記矯正工程において、前記棒状工具から前記成形型までの距離cと、前記金属板の板厚tとの関係が、t>c>0.7tであることを特徴とする請求項1又は2に記載の逐次成形方法。
【請求項4】
前記棒状工具が、球面状の先端部を有する工具であることを特徴とする請求項3に記載の逐次成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状工具と成形型を用いて金属板を三次元形状に成形する逐次成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の逐次成形方法としては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1には、成形型の上側に金属板と棒状工具を配置し、棒状工具を金属板に押し付けて移動させながら、同金属板を成形型に沿って三次元形状に成形する逐次成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-244493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の逐次成形方法では、成形後に金属板の拘束を解除すると、スプリングバックによる変形が生じることがあり、とくに、アルミニウム製の金属板では変形が顕著に生じるので、その変形を抑制するための改善が要望されていた。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、成形後の金属板におけるスプリングバックによる変形を抑制することができる逐次成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる逐次成形方法は、金属板の一方の主面側に配置した棒状工具と、金属板の他方の主面側に配置した成形型を用いる。そして、逐次成形方法は、金属板に棒状工具の先端を押し付けて移動させながら、金属板を成形型に沿って三次元形状に成形する成形工程と、成形工程を経た金属板の成形部分の一部である要矯正領域に対して、棒状工具を押し付けて移動させながら、棒状工具と成形型との間で要矯正領域に圧縮応力を付与する矯正工程とを備えたことを特徴としている。上記構成において、要矯正領域は、スプリングバックが生じ易い領域であり、成形部分の形状に応じて設定される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係わる逐次成形方法は、上記構成を採用したことにより、成形後の金属板におけるスプリングバックによる変形を抑制することができ、金属板の形状精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】逐次成形方法の第1実施形態として成形開始時の状態を示す断面図である。
図2図1に続いて成形工程を説明する断面図である。
図3】棒状工具の移動経路を示す平面図である。
図4図2に続いて矯正工程を説明する断面図である。
図5】矯正工程における要部の断面図である。
図6】成形後の金属板を示す断面図である。
図7】逐次成形方法の第2実施形態を工程順(A)~(D)に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
図1図6は、本発明に係わる逐次成形方法の第1実施形態を説明する図である。
逐次成形方法は、図1に示すように、金属板Wの一方の主面側(図中で上側)に配置した棒状工具Tと、金属板Wの他方の主面側に配置した成形型1を用いる。金属板Wは、成形品の素材である平板である。
【0010】
棒状工具Tは、図示しない駆動装置により、軸線を上下方向にした姿勢で保持されており、下側となる先端部が球面を成している。駆動装置としては、多軸制御型の作業ロボットやNC工作機械などが挙げられる。これにより、棒状工具Tは、直交する3軸方向、又は直交する3軸方向及び各軸回りに駆動される。
【0011】
成形型1は、その周囲に肩部1Aを有すると共に、肩部1Aの内側に、上方に開放された成形用凹部1Bを有する。成形型1は、水平状態にした金属板Wを肩部1Aに載置した後、同肩部1Aと昇降可能な枠状のクランプ2とで金属板Wの周縁部を挟んで強固に保持する。なお、本発明に係わる逐次成形方法は、金属板Wが傾斜状態又は垂直状態であっても実施可能であり、金属板Wの姿勢に応じて棒状工具Tや成形型1を配置する。
【0012】
逐次成形方法は、図2に示すように、金属板Wに棒状工具Tの先端を押し付けて移動させながら、金属板Wに棒状工具Tの先端を押し付けて移動させながら、金属板Wを成形型1の成形用凹部1Bの内面に沿って三次元形状に成形する成形工程を備える。
【0013】
上記の成形工程では、図3中の矢印Aで示すように、棒状工具Tを等高線状に周回移動させると共に、各周回毎に棒状工具Tを内側及び下方に移動させるピッチ送りを行う。これにより、逐次成形方法では、金属板Wの底部を次第に押し下げるようにして、三次元形状の成形部分Wfを成形する。
【0014】
また、逐次成形方法は、図4に示すように、上記の成形工程を経た金属板Wの成形部分Wfの一部である要矯正領域Wcに対して、棒状工具Tを押し付けて移動させながら、棒状工具Tと成形型1との間で要矯正領域Wcに圧縮応力を付与する矯正工程を備えている。
【0015】
要矯正領域Wcは、金属板Wの成形前の主面と成形後の傾斜面とが成す角度を成形角度とした場合に、成形部分Wfにおいて相対的に成形角度の小さい領域であって、この実施形態では、図4中に梨地のハッチングで示す成形部分Wfの底面領域である。要するに、要矯正領域Wcは、成形後にスプリングバックが生じ易い領域である。
【0016】
上記の矯正工程では、図3中の矢印Bや図4に示すように、棒状工具Tを一方向に移動させた後、その軌道を平行にずらすようにして、棒状工具Tを他方向に移動させ、このような往復移動を繰り返して、要矯正領域Wcの全域に対して圧縮応力を付与する。なお棒状工具Tの移動は、適宜選択することができ、例えば、要矯正領域Wcの中心や外周に開始点を設定して、渦巻き状の軌道にしても良い。
【0017】
また、上記の矯正工程では、図5に示すように、棒状工具Tから成形型1の成形用凹部1Bの内面までの距離cと、金属板Wの板厚tとの関係を、t>c>0.7tとすることが好ましく、これにより、要矯正領域Wcに対して、スプリングバックを抑制し得る圧縮応力を付与することができる。
【0018】
さらに、上記の矯正工程では、成形工程に用いた棒状工具Tをそのまま使用しても良いし、別の棒状工具Tを使用しても良く、いずれにしても、先述の如く球面状の先端部を有する棒状工具Tを用いることが望ましい。なお、上記の矯正工程は、要矯正領域Wcに対して複数回行うことも可能であるが、1回だけでも充分な圧縮応力を付与することが可能である。
【0019】
ところで、金属板Wに成形工程だけを行った場合、金属板Wは、クランプ2による拘束を解除すると、図6中に点線で示すように、成形角度の小さい底部が、スプリングバックにより平坦に戻る方向に変形し、全体的に開いた状態に変形する。
【0020】
これに対して、上記の逐次成形方法では、成形工程に続いて、要矯正領域Wcに圧縮応力を付与する矯正工程を経るので、図6中に実線で示すように、成形後の金属板Wにおけるスプリングバックによる変形を抑制することができ、金属板Wの形状精度を高めることができる。これにより、上記の逐次成形方法では、スプリングバックが生じ易いアルミニウム製の金属板Wを用いた場合でも、形状精度の良好な成形品を得ることができる。
【0021】
ここで、試験として、棒状工具Tから成形型1の距離(クリアランス)cを異ならせて矯正工程を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から明らかなように、クリアランスcを1.0tにした場合、つまり、クリアランスcを金属板Wの板厚tと等しくした場合には、工具痕は無いものの、圧縮応力の付与が不充分になり、金属板Wの周縁部に変形が生じた。また、クリアランスcを0.6tにした場合には、圧縮応力の付与が過大になって工具痕が発生した。これらに対して、クリアランスを0.7tや0.8tにした場合には、充分な圧縮応力の付与が成されて変形の発生が無く、工具痕の発生も無いことを確認した。
【0024】
これにより、上記の逐次成形方法は、棒状工具Tから成形型1の距離cと、金属板Wの板厚tとの関係をt>c>0.7tとすることにより、成形後の金属板Wのスプリングバックを抑制して良好な形状精度が得られると共に、工具痕の無い良好な表面品質を得ることができ、高品質な成形品を製造することができる。
【0025】
なお、金属板Wの成形部分Wfにおいて、成形角度の大きい領域は、成形時に材料に引張力が作用するので、板厚が小さくなる。これに対して、成形角度の小さい領域は、板厚の減少量が非常に少ないので、上記のような距離cと板厚tとの関係(t>c>0.7t)を設定することができる。また、形状精度につては、CAD等の設計データと成形品の実測値とを比較すれば良い。
【0026】
さらに、上記の逐次成形方法は、球面状の先端部を有する棒状工具Tを用いることで、金属板Wに対して棒状工具Tの先端部が充分に接触することとなり、スプリングバックによる変形の抑制機能をより高めることができる。なお、棒状工具Tは、その先端部を球面状にすることが最良であるが、金属板Wに対して充分な圧縮応力を付与し得るものであれば、曲面状などの他の形状にすることも可能である。
【0027】
<第2実施形態>
図7は、本発明に係わる逐次成形方法の第2実施形態を示す図である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同じ構成部位に同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
逐次成形方法は、図7(A)に示すように、金属板Wの一方の主面側(上側)に配置した棒状工具Tと、金属板Wの他方の主面側に配置した成形型11と、金属板Wの周縁部を保持するクランプ装置12を用いる。この実施形態の成形型11は、その上部に、上方向に膨出した成形用凸部11Bを有している。クランプ装置12は、金属板Wの周縁部を上下から挟持する上枠12A及び下枠12Bを備えており、図外の駆動装置により、金属板Wを保持した状態にして昇降駆動される。
【0029】
上記の逐次成形方法は、成形工程として、図7(B)に示すように、金属板Wに棒状工具Tの先端を押し付けて移動させながら、金属板Wを成形型11の成形用凸部11Bに沿って三次元形状に成形する。この際、この実施形態では、クランプ装置12を徐々に下降させながら、金属板Wを成形型11に沿って次第に変形させる。また、棒状工具Tは、第1実施形態と同様に、等高線状の軌道で移動させる。
【0030】
なお、この実施形態では、クランプ装置12を不動にして成形型11を上昇させても良いし、図7(B)中に矢印で示すように、クランプ装置12と成形型11とを相対的に移動させても構わない。
【0031】
その後、上記の逐次成形方法は、矯正工程として、図7(C)に示すように、成形工程を経た金属板Wの成形部分Wfの一部である要矯正領域Wcに対して、棒状工具Tを押し付けて移動させながら、棒状工具Tと成形型11との間で要矯正領域Wcに圧縮応力を付与する。この実施形態の要矯正領域Wcは、金属板Wの成形部分Wfにおいて、相対的に成形角度の小さい頂部領域である。
【0032】
ここで、金属板Wに成形工程だけを行った場合、金属板Wは、クランプ装置12による拘束を解除すると、図7(D)中に点線で示すように、成形角度の小さい底部が、スプリングバックにより平坦に戻る方向に変形し、全体的に開いた状態に変形する。
【0033】
これに対して、上記の逐次成形方法では、成形工程に続いて、要矯正領域Wcに圧縮応力を付与する矯正工程を経るので、図7(D)中に実線で示すように、成形後の金属板Wにおけるスプリングバックによる変形を抑制する。このようにして、上記の逐次成形方法は、第1実施形態と同様に、金属板Wの形状精度を高めることができ、スプリングバックが生じ易いアルミニウム製の金属板Wを用いた場合でも、形状精度の良好な成形品を得ることができる。
【0034】
本発明に係わる逐次成形方法は、その構成の細部が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1,11 成形型
T 棒状工具
W 金属板
Wc 要矯正領域
Wf 成形部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7