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特開2025-21181車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021181
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 30/0202 20230101AFI20250205BHJP
   G06Q 30/0283 20230101ALI20250205BHJP
【FI】
G06Q30/0202 318
G06Q30/0283
G06Q30/0202
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124948
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】500080317
【氏名又は名称】システム・ロケーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100169797
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】林 雅大
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕一
【テーマコード(参考)】
5L030
5L049
【Fターム(参考)】
5L030BB01
5L030BB04
5L049BB01
5L049BB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中古車の買取価格及び販売価格に影響を与える様々な要因が複雑に絡み合う場合でも、適切な状況把握及び中古車の価格決定を支援できる車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法を提供する。
【解決手段】車両価格決定支援システムは、所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、落札価格の偏差値を示す基準分布を取得し、中古車の複数の販売拠点を含む販売拠点全体における中古車の買取価格実績及び中古車の販売価格実績を取得し、基準分布に基づいて販売拠点全体における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出するとともに、販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における中古車の買取価格実績及び中古車の販売価格実績を取得し、基準分布に基づいて特定販売拠点における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出し、全体分布及び個別分布の少なくとも何れかを提示する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、前記落札価格の偏差値を示す基準分布を取得する基準分布取得部と、
前記中古車の複数の販売拠点を含む販売拠点全体における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記販売拠点全体における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出する第1算出部と、
前記販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記特定販売拠点における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出する第2算出部と、
前記全体分布及び前記個別分布の少なくとも何れかを提示する提示部と
を備える車両価格決定支援システム。
【請求項2】
前記提示部は、前記全体分布と前記個別分布との比較結果を提示する請求項1に記載の車両価格決定支援システム。
【請求項3】
前記第2算出部は、前記全体分布または前記個別分布における前記販売価格の所定偏差値に対応する販売価格水準及び前記中古車の平均在庫日数と、前記特定販売拠点における前記中古車の平均在庫台数とに基づいて、前記特定販売拠点における前記中古車の販売による予想売上額が最大となる販売価格水準を算出し、
前記提示部は、前記予想売上額及び前記予想売上額が最大となる前記販売価格水準の少なくとも何れかを提示する請求項1に記載の車両価格決定支援システム。
【請求項4】
前記第2算出部は、前記販売価格の偏差値を変化させた場合における複数の前記予想売上額のシミュレーションを実行し、
前記提示部は、前記予想売上額のシミュレーション結果を提示する請求項3に記載の車両価格決定支援システム。
【請求項5】
前記第2算出部は、前記シミュレーションにおいて、実績データに基づく実績売上額と、実績データに基づく前記販売価格の平均偏差値を用いて算出される前記予想売上額との比率である偏差値係数を適用する請求項4に記載の車両価格決定支援システム。
【請求項6】
所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、前記落札価格の偏差値を示す基準分布を取得するステップと、
前記中古車の複数の販売拠点を含む販売拠点全体における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記販売拠点全体における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出するステップと、
前記販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記特定販売拠点における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出するステップと、
前記全体分布及び前記個別分布の少なくとも何れかを提示するステップと
を含む計算装置による車両価格決定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中古車の価格決定を支援する車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中古車の買取価格及び販売価格は、車両の状態、仕様、市場での在庫状況などの様々な要因によって大きく変動することが知られており、適切な買取価格や販売価格を決定することは容易ではない。
【0003】
このような状況を踏まえ、Information Technology(IT)を用いて価格決定を支援するシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。このようなシステムを用いることによって、専門的な知識を必要とせずに適切な価格を設定できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-129024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では想定していないような事象(新型コロナウィルスの感染拡大、慢性的な半導体不足、及び不安定な海外情勢などの複合的な要因による、新車の販売台数低迷など)が発生している。
【0006】
このため、中古車の販売価格が乱高下し、中古車の販売価格が新車価格を上回るような車種も出現するなど、不測の事態も生じている。このような状況において、中古車の適正な買取価格及び販売価格を継続的に決定することは、上述したようなシステムを用いたとしても極めて困難な状況になっている。
【0007】
そこで、以下の開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、中古車の買取価格及び販売価格に影響を与える様々な要因が複雑に絡み合う場合でも、適切な状況把握及び中古車の価格決定を支援できる車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、前記落札価格の偏差値を示す基準分布を取得する基準分布取得部(基準分布取得部110)と、前記中古車の複数の販売拠点を含む販売拠点全体における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記販売拠点全体における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出する第1算出部(全体分布算出部125)と、前記販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における前記中古車の買取価格実績及び前記中古車の販売価格実績を取得し、前記基準分布に基づいて前記特定販売拠点における前記買取価格及び前記販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出する第2算出部(拠点別算出部130)と、前記全体分布及び前記個別分布の少なくとも何れかを提示する提示部(提示部140)とを備える車両価格決定支援システム(車両価格決定支援システム100)である。
【発明の効果】
【0009】
上述した車両価格決定支援システム及び車両価格決定支援方法によれば、中古車の買取価格及び販売価格に影響を与える様々な要因が複雑に絡み合う場合でも、適切な状況把握及び中古車の価格決定を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、車両価格決定支援システムを含む中古車販売ネットワークの構成例を示す図である。
図2図2は、車両価格決定支援システム100の機能ブロック構成図である。
図3図3は、所定の車両特徴を有する中古車の基準分布の一例を示す図である。
図4図4は、買取価格分布の例を示す図である。
図5図5は、販売価格分布の例を示す図である。
図6図6は、車両価格決定支援システム100による中古車の買取価格または販売価格の決定支援動作の概要を示す図である。
図7図7は、買取市場M1及び販売市場M2における中古車の買取及び販売実績の画面表示例を示す図である。
図8図8は、販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における中古車の買取及び販売実績の画面表示例を示す図である。
図9図9は、中古車販売によるシミュレーションの説明図である。
図10図10は、車両価格決定支援システム100による売上額のシミュレーション結果の例を示す図である。
図11図11は、販売価格(小売価格)の平均偏差値を変化させた場合における回転率、平均単価、平均在庫台数及び予想売上額のシミュレーション例を示す図である。
図12図12は、中古車の価値と経過との関係例を示すグラフである。
図13図13は、中古車の経過月数、走行距離及び価値の関係例を示すグラフ(その1)である。
図14図14は、中古車の経過月数、走行距離及び価値の関係例を示すグラフ(その2)である。
図15図15は、偏差値算出方法の概要説明図である。
図16図16は、価格の偏差値と在庫日数との関係例を示すグラフである。
図17図17は、買取価格に関する施策の反映例を示す図である。
図18図18は、買取車両に対する商品化処理の優先順位を決定結果の反映例を示す図である。
図19図19は、絶対値に基づく買取価格及び販売価格の分布例及び平均在庫日数の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0012】
(1)車両価格決定支援システムを含む中古車販売ネットワークの構成例
図1は、車両価格決定支援システムを含む中古車販売ネットワークの構成例を示す。図1に示すように、中古車販売ネットワーク10は、中古車の買取市場M1及び販売市場M2に対応した中古車の買取(新車販売に伴う下取り車を含んでよい)及び販売に関する組織の集合である。中古車販売ネットワーク10は、複数の事業体(例えば、中古車専門の買取・販売会社、自動車メーカー系列の中古車販売会社など)が参入することによって形成されてよい。
【0013】
中古車販売ネットワーク10は、中古車の買取及び販売に関する複数のシステムを含んでよい。具体的には、中古車販売ネットワーク10は、車両価格決定支援システム100、販売会社基幹システム200及び専用ウェブサイト300を含む。
【0014】
車両価格決定支援システム100は、買取市場M1における中古車の買取価格(または下取価格)、及び販売市場M2における中古車の販売価格の決定を支援する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、既存の中古車の売買データをベースとした中古車の推定価格提示機能を活用しつつ、さらに、買取車両V1の買取価格分布と、販売車両V2の販売価格分布とに基づいて、中古車の買取価格または販売価格(初期に設定する販売価格、及び在庫状況によって改定される販売価格を含む)の決定に関するアドバイスを車両価格決定支援システム100内または販売会社基幹システム200側に提示できる。
【0015】
また、車両価格決定支援システム100は、買取された中古車に対して施される商品化処理の実施推奨タイミングを販売会社基幹システム200側に提示できる。
【0016】
販売会社基幹システム200は、中古車の販売会社によって運用される中古車の買取、販売及び流通に関する基幹システムである。販売会社基幹システム200は、当該販売会社が取り扱う中古車(買取車両V1及び販売車両V2)に関するデータを車両価格決定支援システム100と共有できる。また、販売会社基幹システム200において設定された中古車販売ネットワーク10の経営方針に関する内容を、車両価格決定支援システム100と共有することも可能である。
【0017】
販売会社基幹システム200は、管理者用端末250及び従業員用端末260を含んでよい。管理者用端末250は、販売会社の管理者P1向けの端末である。管理者P1は、例えば、販売会社の経営層、中古車の買取及び販売の責任者などが該当してよい。管理者用端末250は、車両価格決定支援システム100から通知された中古車の買取価格または販売価格の決定に関するアドバイスを表示できる。また、管理者用端末250は、当該アドバイスに対する管理者P1の意思決定の結果を取得できる。
【0018】
従業員用端末260は、販売会社の従業員P2向けの端末である。従業員用端末260は、従業員P2によって入力された買取車両V1の情報(車種、年式、走行距離など)を、販売会社基幹システム200を経由して車両価格決定支援システム100に送信できる。なお、従業員用端末260は、販売会社基幹システム200を経由せずに、車両価格決定支援システム100に直接当該情報を送信してもよい。
【0019】
従業員用端末260は、買取車両V1の情報に基づいて車両価格決定支援システム100によって決定された買取価格(査定価格または下取価格と読み替えてもよい)を表示できる。また、従業員用端末260は、買取された中古車に対して施される商品化処理の実施推奨タイミングを表示できる。商品化処理とは、買取によって仕入れた中古車に対する整備、部品交換、清掃、補修などの作業を意味してよい。仕入れた中古車に対して、商品化処理が施されることによって、販売(小売)が可能となる。
【0020】
専用ウェブサイト300は、車両価格決定支援システム100及び販売会社基幹システム200と連携し、販売車両V2の在庫情報を保持できる。具体的には、専用ウェブサイト300は、販売会社基幹システム200から提供される在庫情報を一括で登録できる。また、専用ウェブサイト300は、中古車販売会社において在庫されている販売車両V2に対する車両価格決定支援システム100からの販売価格の変更指示に基づいて、販売価格の変更を反映できる。
【0021】
専用ウェブサイト300は、販売されている中古車の情報を提供する複数の中古車サイト(不図示)と接続され、当該中古車サイトに対して中古車販売会社の在庫情報を提供できる。また、販売車両V2の販売価格の変更に関する専用ウェブサイト300と中古車サイトとの情報連携用のツールが中古車サイトに提供されてよい。
【0022】
(2)車両価格決定支援システムの機能ブロック構成
図2は、車両価格決定支援システム100の機能ブロック構成図である。図2に示すように、車両価格決定支援システム100は、基準分布取得部110、データ保持部120、全体分布算出部125、拠点別算出部130及び提示部140を備える。
【0023】
基準分布取得部110は、中古車の価格分布を取得する。具体的には、基準分布取得部110は、中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、落札価格の偏差値の分布を取得する。
【0024】
中古車のオークションとは、いわゆるオートオークション(AA)を意味してよく、主に中古の自動車を販売する者と買取する者とが、競り売りの形式で自動車を売買できる仕組みと解釈されてよい。AAは、商売人同士のやり取りであり、情報の非対称による中古車の買取価格と販売価格との差は非常に少なくなり、オークション出品者の販売価格が、オークション落札者の買取価格とほぼ同一になる特徴を有する。
【0025】
基準分布取得部110は、所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、当該落札価格の偏差値を示す基準分布を取得できる。
【0026】
所定の車両特徴には、販売時期、買取時期、車種、グレード、年式(経過月数)、走行距離(月走距離)、装備・仕様、特定オプションの有無などの項目が含まれてよい。また、所定の車両特徴には、当該中古車の平均在庫日数(買取から売却までの日数、及び当該中古車の販売価格設定または販売価格変更から売却までの日数)が含まれてもよい。
【0027】
所定の車両特徴は、当該項目の1つ(例えば、車種)のみを含んでもよいし、複数の項目(例えば、車種、グレード及び走行距離)を含んでもよい。なお、所定の車両特徴は、必ずしも細かく設定或いは設定されなくてもよい。つまり、詳細な特徴を規定せず、複数の車種、グレードなどを対象として基準分布が取得されてもよい(後述する全体分布及び個別分布についても同様である)。但し、この場合、買取価格分布及び販売価格分布の粒度、及び後述する予想売上額の精度は、所定の車両特徴を細かく設定する場合と比較して低下する。
【0028】
データ保持部120は、基準分布取得部110によって取得された基準分布を示すデータを保持できる。また、データ保持部120は、全体分布算出部125及び拠点別算出部130によって算出される中古車の偏差値の分布を示すデータを保持できる。
【0029】
また、データ保持部120は、拠点別算出部130によって算出された予想売上額及び当該予想売上額が最大となる中古車の販売価格水準(平均単価)を示すデータを保持することもできる。ここで、販売価格水準(平均単価)は、基本的には、所定の車両特徴が設定されている中古車が対象とされてよい。
【0030】
全体分布算出部125は、所定の車両特徴に合致する中古車の複数の販売拠点を含む販売拠点全体における中古車の買取価格実績、及び当該中古車の販売価格実績を取得する。また、全体分布算出部125は、基準分布取得部110によって取得された基準分布に基づいて、販売拠点全体における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出できる。本実施形態において、全体分布算出部125は、第1算出部を構成する。
【0031】
複数の販売拠点を含む販売拠点全体とは、上述したような中古車の販売会社(1社でもよいし、複数社でもよい)の全体を意味する。当該販売会社は、例えば、地域別または資本系列別などの複数の販売拠点を含んでよい。また、販売拠点全体には、特定の販売会社などに限定されず、中古車の買取及び販売に関する複数のシステムが取り扱う全て(または特定の一部)のデータが対象とされてもよい。
【0032】
具体的には、全体分布算出部125は、過去の中古車の買取実績データ(外部データ・自社の実績など)を用いて当該中古車の買取価格分布を算出できる。買取価格分布とは、中古車(買取車両V1)の買取価格実績を元にした偏差値の分布を示す。買取価格分布は、所定の車両特徴を有する複数の買取車両V1の買取価格データを用いて算出される。買取価格は、仕入価格などと呼ばれてもよい。買取価格分布は、所定の車両特徴毎に取得されてよい。
【0033】
また、全体分布算出部125は、中古車の販売価格分布も算出できる。販売価格分布とは、中古車(販売車両V2または外部データ)の販売価格実績、或いは推定の販売価格を元にした偏差値の分布を示す。販売価格分布は、所定の車両特徴を有する複数の販売車両V2の販売価格データを用いて算出される。販売価格は、小売価格などと呼ばれてもよい。
【0034】
販売価格分布も、所定の車両特徴毎に取得されてよい。但し、買取価格分布と同様に、所定の車両特徴は、必ずしも設定されなくてもよい。
【0035】
買取価格分布は、上述したように、複数の買取価格データを用いて算出され、所定の車両特徴を有する買取車両V1の買取価格の底値から天井値の間において、それぞれの買取価格の位置を判定できるように構成されてよい。同様に、販売価格分布は、複数の販売価格データを用いて算出され、所定の車両特徴を有する販売車両V2の販売価格の底値から天井値の間において、それぞれの販売価格の位置を判定できるように構成されてよい。
【0036】
拠点別算出部130は、販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における当該中古車の買取価格実績及び当該中古車の販売価格実績を取得する。また、拠点別算出部130は、基準分布取得部110によって取得された基準分布に基づいて、当該特定販売拠点における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出できる。本実施形態において、拠点別算出部130は、第2算出部を構成する。
【0037】
拠点別算出部130は、全体分布算出部125と同様に、当該特定販売拠点における中古車の買取価格分布及び販売価格分布を算出できる。なお、当該特定販売拠点は、特定の販売会社の何れかの拠点(販売店舗など)でもよいし、複数の拠点(全体分布が複数の販売会社を対象とする場合には、特定の販売会社(1社または複数社)の拠点(一部の拠点または全部の拠点)としてもよい)を含んでもよい。
【0038】
また、拠点別算出部130は、特定販売拠点における中古車の販売による予想売上額が最大となる販売価格水準(平均単価)を算出できる。予想売上額は、例えば、1年間など、一定の期間を対象としてよい。
【0039】
具体的には、拠点別算出部130は、全体分布または個別分布における販売価格の所定偏差値に対応する販売価格水準及び中古車の平均在庫日数と、特定販売拠点における中古車の平均在庫台数とに基づいて、当該特定販売拠点における中古車の販売による予想売上額が最大となる販売価格水準を算出できる。
【0040】
全体分布における販売価格の所定偏差値は、指定した特定の偏差値を想定した場合に、どのよう販売金額・平均在庫日数になるかを算出モデルにより算出するために必要になる。
【0041】
例えば、所定偏差値が偏差値55の場合、当該所定偏差値に対応する販売価格水準は、次のように算出されてよい。具体的には、拠点別算出部130は、当該所定偏差値に基づいて実績データより販売車両V2毎の販売価格を再計算し、再計算し直した販売金額合計と、実績データの販売金額合計とを用いて偏差値係数(詳細については後述する)を算出する。拠点別算出部130は、実績データの販売金額の平均に対して、当該偏差値係数を乗じたものが、所定偏差値における販売価格の平均(平均単価と呼ばれてもよい)であり、販売価格水準となる。
【0042】
販売価格水準(平均単価)は、所定の車両特徴に合致する中古車(例えば、図3に示したように、車種、グレード、経過月数、走行距離など)を対象として設定されてよい。
【0043】
平均在庫日数とは、所定偏差値を含めた所定の車両特徴に合致する中古車の買取(仕入れ)から売却までの平均日数を意味してよい。
【0044】
拠点別算出部130は、全体分布における販売価格の所定偏差値(例えば、68)に対応する販売価格水準(例えば、2,400千円)及び平均在庫日数(例えば、60日)を利用する。また、拠点別算出部130は、個別分布における販売価格の偏差値の所定偏差値に対応する販売価格水準及び中古車の平均在庫日数と、特定販売拠点における中古車の平均在庫台数(例えば、260台)を利用する。
【0045】
拠点別算出部130は、全体分布における販売価格水準及び平均在庫日数と、個別分布における販売価格水準及び平均在庫日数と、特定販売拠点における平均在庫台数とに基づいて、当該特定販売拠点における予想売上額を算出する。
【0046】
また、拠点別算出部130は、当該予想売上額が最大となる販売価格水準を算出できる。具体的には、拠点別算出部130は、全体分布及び個別分布における販売価格の所定偏差値に対応する販売価格水準及び平均在庫日数と、上述した平均在庫台数とに基づいて、複数の異なる販売価格水準(偏差値と読み替えてもよい)を適用した場合における予想売上額を複数算出し、算出した複数の予想売上額のうち、最も金額が高い予想売上額となる販売価格水準を決定する。
【0047】
また、拠点別算出部130は、販売価格の偏差値を変化させた場合における複数の予想売上額のシミュレーションを実行できる。例えば、拠点別算出部130は、販売価格の偏差値を50, 55, 60などと変化させた場合における予想売上額をそれぞれ算出できる。なお、予想売上額の具体的な算出例については、後述する。
【0048】
拠点別算出部130は、当該シミュレーションにおいて、実績データに基づく実績売上額と、実績データに基づく販売価格(小売価格)の平均偏差値を用いて算出される予想売上額との比率である偏差値係数を適用してよい。
【0049】
例えば、拠点別算出部130は、実績データに基づく実績売上額(昨年の販売合計金額)が3,744百万円であり、実績データに基づく販売価格(小売価格)の平均偏差値が「68」、当該平均偏差値を用いて算出された予想売上額(実績平均偏差値合計金額)が3,893百万円であった場合、3,893百万円を3,744百万円で除した値(1.039797)を偏差値係数として適用してよい。
【0050】
全体分布算出部125及び拠点別算出部130は、買取価格及び販売価格に関する統計値を算出することもできる。具体的には、全体分布算出部125及び拠点別算出部130は、買取価格分布に基づいて、買取価格分布に含まれる買取価格毎の偏差値を算出できる。また、全体分布算出部125及び拠点別算出部130は、販売価格分布に基づいて、販売価格分布に含まれる販売価格毎の偏差値を算出できる。なお、販売価格データが少ない場合などには、買取価格分布に基づいた買取価格毎の偏差値によって販売価格データの代用としてもよい。
【0051】
図3は、所定の車両特徴を有する中古車の基準分布の一例を示す。図3に示すように、統計処理によりモデル化された基準分布が、車種、グレード、経過月数、月走距離などの車両特徴に応じて作成されてよい。
【0052】
上述したように、基準分布は、オートオークション(AA)での落札価格のデータ(AAデータ)に基づいて作成される。AAでは、買取価格と販売価格との差は生じず、オークション出品者の販売価格が、オークション落札者の買取価格と一致する。
【0053】
図3の例では、偏差値40, 45, 50, 55, 60に相当する所定の車両特徴毎の買取価格(=販売価格)が示されている。ここで、偏差値50の買取価格は、標準価格と呼ばれてよい。
【0054】
このように、基準分布は、統計処理によりモデル化されており、基準分布を用いることによって車種、グレードに加えて、経過月数及び走行距離を考慮した上で、所定の車両特徴を有する車両毎の買取価格及び販売価格を評価するための標準価格(偏差値50)を算出できる。
【0055】
図4は、買取価格分布の例を示す。図5は、販売価格分布の例を示す。買取価格分布は、基準分布を用いて、販売会社などにおける買取車両V1の価格を偏差値に置き換えてグラフ化したものである。例えば、車種AAA、グレードX、経過月数60、月走距離1,000kmの中古車の買取価格が2,133千円(図3参照)であれば、偏差値は40となる。
【0056】
同様に、販売価格分布は、基準分布を用いて、販売会社などにおける販売車両V2の価格を偏差値に置き換えてグラフ化したものである。例えば、車種AAA、グレードX、経過月数60、月走距離1,000kmの中古車の販売価格が2,933千円(図3参照)であれば、偏差値は60となる。
【0057】
図4に示す買取価格分布の例では、偏差値41~45に相当する買取価格で買取された車両の数が最も多いことが示されている。図5に示す販売価格分布の例では、偏差値56~60に相当する販売価格で販売された車両の数が最も多いことが示されている。
【0058】
図4の実線は、中古車の買取(下取)に成功した確率である下取率を示し、点線は、下取率の近似直線を示す。偏差値(買取価格)が上昇するに連れて下取率も高くなっている。なお、下取率は、販売会社などにおいて査定した中古車の台数のうち、実際に買取(下取)できた中古車の台数をパーセンテージで示したものであり、販売会社などにおけるデータ調査などから導き出せる。
【0059】
以下、買取と下取とは、広義には同義の用語として扱い、特に断りがない限り、同義の用語と解釈されてよい。買取及び下取は、仕入と同様の意味と解釈されてもよい。また、販売は、小売などと読み替えられてもよい。
【0060】
図5の実線は、所定の車両特徴を有する複数の販売車両V2が販売拠点に在庫していた在庫日数の平均(平均在庫日数)を示し、点線は、平均在庫日数の近似直線を示す。図5に示すように、販売価格(初期に設定する販売価格、及び在庫状況によって改定される販売価格を含む)と在庫日数には、一定の因果関係があり、在庫日数は、販売価格の偏差値の上昇に合わせて長くなる傾向にある。
【0061】
なお、本実施形態では、偏差値が用いられているが、買取価格分布または販売価格分布の中における特定の価格の位置を特定できる統計値であれば、偏差値以外が用いられてもよい。例えば、中央値、分散、標準偏差などが用いられても構わない。
【0062】
拠点別算出部130は、買取価格分布または販売価格分布における特定の車両(特定の価格と読み替えてもよい)の位置を判定する。ここでは、買取価格分布における特定の買取車両V1、または販売価格分布における特定の販売車両V2は、選定車と呼ばれてよい。なお、選定車となる買取車両V1と販売車両V2とは、必ずしも同一車両でなくても構わない。
【0063】
具体的には、選定車は、買取価格分布に含まれる特定の買取車両V1(の買取価格)を意味してよい。また選定車は、買取価格分布に含まれる特定の販売車両V2(の販売価格)を意味してよい。なお、選定車は、特定の車両に限定されず、車種など所定の車両特徴を有する複数の車両としてもよい。
【0064】
或いは、選定車は、管理者P1が意思を持って決定した買取価格の強弱に応じた「値付け対象車」と解釈されてもよい。
【0065】
拠点別算出部130は、買取価格分布における選定車の位置を示す第1位置、及び販売価格分布における当該選定車の位置を示す第2位置を判定する。拠点別算出部130は、所定の車両特徴を有する選定車の第1位置と第2位置とを判定できる。
【0066】
具体的には、拠点別算出部130は、選定車の買取価格分布内における位置を判定する。位置は、典型的には、選定車の買取価格分布における偏差値としてよいが、最高(または最低)の偏差値を基準とした順位などでも構わない。
【0067】
同様に、拠点別算出部130は、選定車の販売価格分布内における位置を判定する。位置は、典型的には、選定車の販売価格分布における偏差値としてよいが、最高(または最低)の偏差値を基準とした順位などでも構わない。
【0068】
提示部140は、全体分布算出部125によって算出された全体分布、及び拠点別算出部130によって算出された個別分布の少なくとも何れかを提示できる。また、提示部140は、基準分布取得部110によって取得された基準分布も提示できる。
【0069】
提示部140は、全体分布、個別分布及び基準分布を販売会社基幹システム200の管理者用端末250に出力できる。また、提示部140は、全体分布、個別分布及び基準分布を販売会社基幹システム200の従業員用端末260にも出力できる。なお、従業員用端末260に対しては、一部の分布に制限して提示されてもよい。
【0070】
提示部140は、全体分布と個別分布との比較結果を提示できる。具体的には、提示部140は、販売拠点全体を対象とした全体分布(買取価格分布及び販売価格分布)のグラフ(図7参照)と、特定販売拠点を対象とした個別分布(買取価格分布及び販売価格分布)のグラフ(図9参照)とを管理者用端末250などに出力できる。全体分布及び個別分布には、下取率または平均在庫日数(近似直線を含む)の情報が含まれてよい。なお、全体分布と個別分布との比較結果の具体例については、さらに後述する。
【0071】
提示部140は、中古車の予想売上額、及び当該予想売上額が最大となる販売価格水準の少なくとも何れかを提示できる。具体的には、提示部140は、拠点別算出部130によって算出された特定販売拠点における予想売上額(例えば、年間)を提示できる(図11参照)。
【0072】
また、提示部140は、特定販売拠点における予想売上額のシミュレーション結果を提示することもできる。具体的には、提示部140は、拠点別算出部130によって算出された複数の異なる販売価格水準(偏差値)を適用した場合における予想売上額の変化をシミュレーション結果として提示できる(図11参照)。予想売上額、及び当該予想売上額が最大となる販売価格水準の具体例については、さらに後述する。
【0073】
また、提示部140は、買取価格または販売価格の決定に関係するアドバイスを提示してもよい。具体的には、提示部140は、買取価格分布における選定車の位置(第1位置)と、販売価格分布における当該選定車の位置(第2位置)とに基づいて、買取価格または販売価格の少なくとも何れかの決定に関係するアドバイスを提示する。
【0074】
提示部140によって提示されるアドバイスは、販売会社基幹システム200の管理者用端末250に出力できる。当該アドバイスは、管理者P1向けのアドバイスとなる。また、提示部140によって提示されるアドバイスは、販売会社基幹システム200の従業員用端末260に出力できる。当該アドバイスは、従業員P2向けのアドバイスとなる。
【0075】
このように、提示部140は、管理者P1向けのアドバイス及び従業員P2向けのアドバイスを提示できる。アドバイスの具体例については後述するが、管理者P1向けのアドバイスとしては、例えば、粗利率及び商品(車両)の回転率などを考慮した買取価格または販売価格の値下げまたは値上げに関する内容が挙げられる。また、従業員P2向けのアドバイスとしては、例えば、標準の買取価格または販売価格に関する内容が挙げられる。
【0076】
提示部140は、所定の車両特徴を有する中古車を対象としたアドバイスを提示できる。具体的には、提示部140は、拠点別算出部130によって判定された買取価格分布における所定の車両特徴の有する選定車の位置を示す第1位置と、販売価格分布における当該選定車の位置を示す第2位置とに基づいて、同一の所定の車両特徴を有する中古車を対象としたアドバイスを提示できる。
【0077】
例えば、選定車が特定の車両である場合、当該特定の車両と同一車種の中古車を対象としたアドバイスを提示できる。すなわち、買取価格または販売価格に関するアドバイスは、拠点別算出部130によって判定の対象とされた特定の車両(選定車)に限らず、同様の車両特徴を有する車両(中古車)全てを対象としてよい。なお、上述したように選定車は、特定の車両に限定されず、車種など所定の車両特徴を有する複数の車両としてもよく、この場合、当該複数の車両を対象とした共通のアドバイスが提示されてもよい。
【0078】
提示部140は、買取価格分布(偏差値)における選定車の位置を示す第1位置と、販売価格分布(偏差値)における当該選定車の位置を示す第2位置との差異、及び中古車の販売方針に基づいて、買取価格または販売価格の少なくとも何れかの推奨値を提示できる。
【0079】
例えば、提示部140は、第1位置と第2位置との差異が所定値以上の場合、値上げした買取価格の推奨値、または値下げした販売価格の推奨値の少なくも何れかを管理者P1向けとして提示してよい。一方、提示部140は、第1位置と第2位置との差異が所定値未満の場合、値下げした買取価格の推奨値、または値上げした販売価格の推奨値の少なくも何れかを管理者P1向けとして提示してよい。
【0080】
提示部140は、買取価格分布における選定車の位置を示す第1位置と、販売価格分布における当該選定車の位置を示す第2位置とに基づいて、当該選定車と同一の所定の車両特徴を有する車両、具体的には、買取車両V1に対して施される商品化処理の実施推奨タイミングを提示することもできる。
【0081】
具体的には、提示部140は、第1位置と第2位置との差異が所定値以上の場合や基準分布の経過月数経過による金額差が所定値以上の場合、買取車両V1の買取タイミングに関わらず、当該買取車両V1に対して施される商品化処理を他の買取車両よりも先に実施することを従業員P2向けとして提示できる。なお、当該アドバイスは、管理者P1向けとしても提示されてもよい。
【0082】
一方、提示部140は、第1位置と第2位置との差異が所定値未満の場合や基準分布の経過月数経過による金額差が所定値未満の場合、買取車両V1の買取タイミングに関わらず、当該買取車両V1に対して施される商品化処理を他の買取車両よりも後に実施してもよいことを提示できる。
【0083】
また、提示部140は、買取価格分布における選定車の位置を示す第1位置と、販売価格分布における当該選定車の位置を示す第2位置とに基づいて、当該選定車と同一の所定の車両特徴を有する買取車両の予測在庫期間を提示することもできる。
【0084】
具体的には、提示部140は、買取価格分布における選定車の位置(偏差値と解釈されてもよい)、または販売価格分布における当該選定車の位置を変更した場合、当該選定車と同一の所定の車両特徴を有する車両の予測在庫期間を提示できる。予測在庫期間は、買取市場M1における買取車両V1の買取から、商品化処理を施し、販売車両V2として売却されるまでの期間を意味してよい。
【0085】
買取価格または販売価格の少なくとも何れかの偏差値を変更すると、当該選定車(と同一の所定の車両特徴を有する車両)の在庫期間は影響を受ける。例えば、買取価格の偏差値を上げれば、買取車両V1の台数が増加し、販売車両V2の台数も増加することから、商品化処理に相応の時間を要するようになるため、在庫日数は、増加する傾向を示す。また、販売価格の偏差値を下げれば、当然ながら在庫日数は、減少する傾向を示す。提示部140は、このような買取価格または販売価格(の偏差値)の変更に伴う在庫期間の変化を予測し、予測在庫期間を提示できる。
【0086】
(3)車両価格決定支援システムの動作
次に、車両価格決定支援システム100の動作について説明する。具体的には、車両価格決定支援システム100による中古車の買取価格または販売価格の偏差値の分布を利用した車両価格決定の支援に関する動作例について説明する。
【0087】
(3.1)動作概要
(3.1.1)中古車販売の特徴
中古車販売の場合、下取及びオートオークション(AA)による仕入が棚卸資産に該当する。このうち、AA仕入については、競り売り形式のため価格のコントロールが難しいが、下取(買取を含んでよい)については、中古車販売会社が価格水準を調整することが可能である(但し、価格水準の高さにより下取率に影響を及ぼす)。
【0088】
粗利率及び商品回転率は、次のように表現できる。
【0089】
・粗利率=仕入価格÷販売価格(小売・AA売却)
・商品回転率=年間販売台数(小売・AA売却)÷在庫台数
商品回転率は、在庫期間と同義である。在庫期間には小売するための商品化に要する期間(商品化処理に要する期間)も含まれる。
【0090】
一概に中古車(クルマ)としても、形状・排気量・メーカー・価格帯など、多岐にわたるため、それぞれをセグメント毎に管理することが望ましいと考えられる。
【0091】
下取価格(仕入価格)の水準を上げると、在庫単価及び在庫台数が上がる。在庫単価が上がることは粗利率の低下につながる一方、在庫台数の増加は販売機会の増加に寄与し得る。
【0092】
また、車両の販売時に既に確定している仕入価格を調整することは不可能であり、よって、売上を最大化することが重要である。
【0093】
中古車は、それぞれ経過月数や走行距離が異なるため、車両毎の適正価格を判別することが難しい。そこで、車両価格決定支援システム100では、経過月数や走行距離を考慮した上で算出される統計分析における偏差値を用いることによって、一台毎の仕入価格や販売価格を相対的に捉えることが実現される。
【0094】
(3.1.2)中古車の買取価格または販売価格の決定支援動作の概要
図6は、車両価格決定支援システム100による中古車の買取価格または販売価格の決定支援動作の概要を示す。
【0095】
車両価格決定支援システム100を用いた中古車の買取価格または販売価格の決定の具体的なアプローチの手順は、次のとおりである。
【0096】
(i)現状の把握
車両価格決定支援システム100は、中古車販売会社それぞれにおける現状の仕入価格(買取価格)水準、小売価格水準(販売価格水準)、AA売却水準及び在庫期間の情報を取得し、当該情報を見える化し、モニタリングを可能にする。
【0097】
(ii)シミュレーションと施策決定
車両価格決定支援システム100は、過去のモニタリング結果に基づいて、仕入価格水準、小売価格水準、AA売却水準それぞれを変更した場合における売上額の変化のシミュレーションを実行する。車両価格決定支援システム100は、中古車販売会社の収益向上が図れるように、下取価格及び小売価格の水準決定を支援する情報を提供できる。
【0098】
(iii)施策の反映(下取)
車両価格決定支援システム100は、顧客への下取価格提示の際、決定した施策による価格水準を自動反映できる。また、下取車両を査定する専用アプリケーションが提供されてもよく、当該専用アプリケーションは、従業員用端末260などにおいて実行できる。
【0099】
(iv)施策の反映(小売)
車両価格決定支援システム100は、中古車の小売販売用サイトの機能を提供できる。当該サイトへの車両登録時には、決定した施策による価格水準を自動的に反映できる。当該サイトから他サイトへの情報連携用ツールが提供されてもよい。
【0100】
(v)売場の在庫充足率管理
車両価格決定支援システム100は、中古車の展示在庫の数をモニタリングし、展示場における販売車両V2の充足率が所定値以下となった場合は、商品化処理の優先順位を指示する。
【0101】
(3.2)実施例
次に、車両価格決定支援システム100による中古車の買取価格または販売価格の決定支援に関する実施例について説明する。
【0102】
図7は、買取市場M1及び販売市場M2における中古車の買取及び販売実績の画面表示例を示す。具体的には、図7は、全体分布のグラフの例であり、管理者用端末250(必ずしも管理者用端末250に限定されない)表示できる。
【0103】
図7に示すように、全体分布のグラフは、買取価格分布と販売価格分布とが合成されている。車両価格決定支援システム100は、データ抽出基準(全データ、自社データ別など)、対象メーカー(国産など)、形状(ミニバンなど)、車種などの条件を指定できるインタフェースを提供できる。
【0104】
買取価格分布は、基準分布の偏差値(図3参照)を参照し、販売拠点全体を対象とした全ての下取車の買取価格(偏差値)別の台数を示している。販売価格分布は、基準分布の偏差値(図3参照)を参照し、販売拠点全体を対象とした全ての販売車両の販売価格(偏差値)別の台数を示している。また、全体分布のグラフは、下取率及び平均在庫日数(近似直線を含む)を含んでよい。
【0105】
図8は、販売拠点全体に含まれる特定販売拠点における中古車の買取及び販売実績の画面表示例を示す。具体的には、図8は、個別分布のグラフの例であり、管理者用端末250及び従業員用端末260に表示できる。
【0106】
上述したように、特定販売拠点は、特定の販売会社の何れかの拠点(販売店舗など)でもよいし、複数の拠点(全体分布が複数の販売会社を対象とする場合には、特定の販売会社(1社または複数社)の拠点(一部の拠点または全部の拠点)としてもよい)を含んでもよい。
【0107】
全体分布のグラフと同様に、個別分布のグラフも買取価格分布と販売価格分布とが合成されている。
【0108】
図7及び図8において、販売価格の偏差値が40以下に設定されている車両も存在するが、事故車(修理履歴あり)などの可能性もある。平均在庫日数は、偏差値の上昇に合わせて、長くなる傾向である。
【0109】
(3.2.1)シミュレーション例
図9は、中古車販売によるシミュレーションの説明図である。シミュレーションは、下取価格(買取価格)水準の検討、小売価格(販売価格)の検討及び平均在庫日数のフェーズを含んでよい。図9において、買取、小売及び在庫日数の太線は現状(実データ)を示し、細線は、シミュレーション結果を示す。
【0110】
下取価格水準の検討フェーズ(図中の(1))では、車両価格決定支援システム100は、例えば、買取価格及び販売価格のデータ調査から導き出される下取率と下取価格水準との関係に基づいて、下取価格水準を変更した場合における下取可能台数の変化をシミュレーションできる。
【0111】
買取実現率の検討フェーズ(図中の(2)では、車両価格決定支援システム100は、買取価格の偏差値に基づいて、買取価格を上下させた場合における中古車の買取(下取を含んでよい)の成功率をシミュレーションできる。図中の(1)及び(2)に示すように、買取価格の偏差値を上昇させると、当然ながら買取の成功率も上昇し、買取台数も増大する。
【0112】
小売価格の検討フェーズ(図中の(3))では、車両価格決定支援システム100は、当該データ調査から導き出される小売価格と在庫期間との関係に基づいて、不当に安価な小売価格に設定されていないかを判定できる。
【0113】
平均在庫日数の検討フェーズ(図中の(4))では、車両価格決定支援システム100は、例えば、販売価格の偏差値に基づいて、販売価格を上下させた場合における販売車両V2の平均在庫日数をシミュレーションできる。
【0114】
図10は、車両価格決定支援システム100による売上額のシミュレーション結果の例を示す。図10に示すように、シミュレーション結果としては、販売拠点全体における全体分布のグラフ(図中の<全データ>)と、特定販売拠点における個別分布のグラフ(図中の<自社データ>)とを表示できる。
【0115】
また、シミュレーション結果としては、当該特定販売拠点による売上額が最大となるポイント(最大ポイント)での予想売上額を表示できる。具体的には、車両価格決定支援システム100は、販売価格水準(の偏差値)に応じた回転率(平均在庫日数より計算)と、平均の在庫台数(平均在高)を、算出モデル(詳細については後述)を用いて算出する。
【0116】
図10では、当該回転率と平均在高との積が最大になる販売価格帯(販売価格水準)が点線枠で示されている(<全データ>では計算により偏差値73が最大と計算されたため、<全データ>偏差値71~75が対象となり、<自社データ>では偏差値55と計算されたため、<自社データ>偏差値51~55が対象となっている)。
【0117】
図10に示す例では、当該特定販売拠点における個別分布を用いた場合、最大ポイントでの予想売上額は、4,420百万円と算出されている。この場合における平均在高は260台、販売価格水準は2,000千円、平均偏差値は55、予想回転数は8.5となる。
【0118】
一方、図10に示す例では、当該特定販売拠点における個別分布を用いた場合、昨年実績(売上額)は、3,744百万円であることが示されている。この場合における平均在高は260台、販売価格水準は2,400千円、平均偏差値は68、実績回転数は6.0であった。回転数は、365日/平均在庫日数によって算出される。
【0119】
次に、車両価格決定支援システム100による最大ポイントでの予想売上額のシミュレーションについてさらに説明する。図11は、販売価格(小売価格)の平均偏差値を変化させた場合における回転率、平均単価、平均在庫台数及び予想売上額のシミュレーション例を示す。
【0120】
図11に示すように、車両価格決定支援システム100は、小売価格の平均偏差値を上下させた場合における回転率、平均単価、平均在庫台数及び予想売上額の変化をシミュレーションできる。
【0121】
具体的には、車両価格決定支援システム100は、当該特定販売拠点における個別分布(実績)に基づいて、実績回転数(=365/実績平均在庫日数)、実績平均単価(=実績の総売上/実績平均在庫台数/実績回転数)、及び実績平均偏差値を算出する。
【0122】
実績平均偏差値は、各売上実績の偏差値と対応する小売価格から逆算することによって算出できる。或いは、当該偏差値の相加または相乗平均としてもよい。
【0123】
車両価格決定支援システム100は、実績回転数、実績平均単価及び実績平均偏差値を用いて、偏差値係数を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、実績平均偏差値を用いて各売上額を再計算し、計算された金額の合計を実績の総売上額で除算する。
【0124】
(3.2.2)シミュレーション例の詳細
車両価格決定支援システム100は、図11に示した各偏差値と対応する平均単価及び年間予想売上額などを、次のような手順に従って算出できる。
【0125】
(3.2.2.1)前準備
車両価格決定支援システム100は、算出モデルを用いて所定の車両特徴を有する車両の標準価格、買取車両V1及び販売車両V2の偏差値を算出する。
【0126】
本実施形態では、算出モデルは、AAデータを含む各種取引結果データに基づいて重回帰分析によるモデル化を実行し、平均単価及び年間予想売上額など(以下、金額などと適宜表記する)の算出式を導出する。
【0127】
ここで、シミュレーションの対象車両の条件(車種、グレード、年式、経過月数、走行距離、装着オプション及び状態(評価点)など)を指定することができ、当該条件に応じた金額を推定できる。導出された算出式を用いることによって、当該算出式によって推定される標準価格と実績金額の金額差を算出できる。当該金額差から標準偏差を算出することによって偏差値を算出できる。
【0128】
次に、上述した算出モデルにおいて用いられる回帰分析について説明する。当該回帰分析によって、実績に対して最も説明できる計算式が導出される。なお、実績とは、AAデータを含む各種取引結果データにおける中古車の販売実績(買取価格及び販売価格)を意味してよい。
【0129】
図12は、中古車の価値と経過との関係例を示すグラフである。図12では、横軸が経過(距離または経過月数を1次元にした数値)、縦軸が価値(価格または残価率)である。各実績(金額)を点で示し、経過に対応する価値をグラフにプロットする。(この時点で線ではない)。当該プロットした各実績を最もよく説明できる線(計算式)が回帰分析によって導出される。
【0130】
なお、横軸は「経過」と表記されているが、経過には、車両の製造からの経過月数、走行距離、車両の状態などが包含されてよい。また「回帰分析」により最もよく説明できる線(計算式)を導出しているが、説明を適切に行なえるのではあれば回帰分析以外の適用手法から導出してもよい。
【0131】
図13は、中古車の経過月数、走行距離及び価値の関係例を示すグラフ(その1)である。図13では、「経過」が走行距離と経過月数という2つのパラメータ(説明変数)に分解した場合が例示されている。このように説明の軸(次元)が増えることによって、回帰分析などによって導出される計算式も次元が上がる。図13に示す例では、図12の線から面に変化している。
【0132】
ここで、経過を説明する項目は、対象によって最適なものが存在し、当該項目が増えても回帰分析を始めとするモデル構築の手法は様々ある。
【0133】
図14は、中古車の経過月数、走行距離及び価値の関係例を示すグラフ(その2)である。図14は、図13と同様に、経過月数、走行距離及び価値の関係例を示しているが、経過月数の方向が図13と逆になっている。図14では、経過が走行距離と経過月数とに分離され、実績が3次元で表現されている。図14の例でも、説明変数は、経過月数と走行距離とされている。
【0134】
重回帰分析では、ここでいう経過が様々なパラメータによって設定される。また、経過以外にも車種、オプションなどもカテゴリーまたはパラメータとされてよい。
【0135】
次に、買取価格または販売価格の偏差値算出方法の概要について説明する。図15は、偏差値算出方法の概要説明図である。図15では、標準価格と実績金額(販売価格)との差分がカテゴリー毎(例えば、車種)にグラフ(例えば上のグラフは車種:ModelA
で集約され、下のグラフは車種:ModelBで集約されている)として示されている。
【0136】
図15に示すように、各実績の分布と計算式の線を参照すると、カテゴリーによって差が生じる(図中の点線部分参照)。差の大小(図中の括弧の大きさ)は、カテゴリーによって異なり、適切なカテゴリーを設定し、差を集計することによって標準偏差が計算されてよい。標準偏差を算出することによって対象とするカテゴリーにおける偏差値を算出できる。
【0137】
当該計算式の線(標準線)と実績との差が全て計算され、これにより、標準偏差が算出される。算出された標準偏差に基づいて、各実績の偏差値を算出できる。
【0138】
算出モデルを用いて各価格(例えば、販売価格)の偏差値を算出できるように、偏差値50の価格(=標準価格)も算出できる。
【0139】
このような算出モデルによる機能として、「金額」が与えられた場合には「偏差値」を算出し、「偏差値」が与えられた場合には「金額」を算出してよい。
【0140】
(3.2.2.2)偏差値、平均在庫日数、平均単価及び平均在庫台数の算出
図10に示したように、当該特定販売拠点における昨年実績では、1,560台の実績データが存在していたため、ここでは、当該特定販売拠点における中古車の展示及び保管スペースを考慮し、平均在高は260台とし、実績回転数が6.0であったと仮定(260×6.0=1,560)する。
【0141】
車両価格決定支援システム100は、各実績データについて、上述した算出モデルを用いて偏差値を算出する。例えば、図15の表に示したように、ここでは、次のように偏差値が算出される。
【0142】
・modelA, 3年落ち, 走行15千km, 状態等,販売価格3,442千円 → 偏差値 72
・modelB, 8年落ち, 走行120千km, 状態等,販売価格723千円 → 偏差値 43
・modelC, 4年落ち, 走行27千km, 状態等,販売価格1,670千円 → 偏差値 64
・modelB, 5年落ち, 走行30千km, 状態等,販売価格1,451千円 → 偏差値 57
また、車両価格決定支援システム100は、各実績データについて、販売までに掛かった日数(在庫日数)を算出する。
【0143】
次に、車両価格決定支援システム100は、図10に示すように、実績の「小売価格平均偏差値」を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台の各実績データから算出された「偏差値」を平均する。この結果、ここでは、小売価格平均偏差値=68が算出されたものとする。
【0144】
また、車両価格決定支援システム100は、実績の「平均在庫日数」を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台の各実績データから在庫日数を取得し、取得した在庫日数を平均する。この結果ここでは、平均在庫日数=60日が算出されてものとする。
【0145】
次に、車両価格決定支援システム100は、実績の「平均単価」を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、昨年の販売合計金額3,744百万円を昨年の販売実績1,560台で除し、2,400千円を算出する。2,400千円の平均単価は、平均偏差値から逆算されてもよい。
【0146】
また、車両価格決定支援システム100は、実績の「平均在庫台数」を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、1年(365日)を平均在庫日数(60日)で除し、約6.0回を回転率(在庫回転数)として算出する。
【0147】
さらに、車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台を回転率(6.0回)で除し、260台を平均在庫台数として算出する。なお、平均在庫台数は、上述したように、当該特定販売拠点における中古車の展示及び保管スペースから直接的に導き出されてもよい。
【0148】
(3.2.2.3)推定在庫日数の算出
次に、車両価格決定支援システム100は、各偏差値の推定在庫日数を算出する。図16は、価格の偏差値と在庫日数との関係例を示すグラフである。推定在庫日数は、各実績の価格(例えば、販売価格)に対応する偏差値と、各実績の在庫日数とを用いて回帰分析などを適用することによって算出できる。
【0149】
図16に示すように、偏差値が高くなると、在庫日数が長くなることが実績データから確認できる。このような実績データを用いて、回帰分析などのモデルによって偏差値に応じた在庫日数を推定するための計算式が導出される。図16に示すグラフでは、線が導出された計算式によるものである。
【0150】
このような計算式を用いることによって、偏差値が与えられた際、当該偏差値に対応する推定在庫日数を算出することが可能となる。
【0151】
車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台の偏差値毎の推定在庫日数計算し、偏差値と在庫日数との推移の相関関係を、回帰分析などを用いてモデル化してよい。これにより、偏差値を指定すると、指定した偏差値における平均在庫日数を推定できるようにする。
【0152】
当該モデルは、実績の「小売価格平均偏差値」では実績の「平均在庫日数」になるように調整されている算出モデルが用いられてよい。実際には、回帰分析などによって算出されたモデル計算式を用い、上述した例であれば、実績の「小売価格平均偏差値」である「68」がモデル計算式に出力される。
【0153】
計算された結果が66日だった場合、実績の「平均在庫日数」の60日との比を係数として保持してよい。上述した例であれば、66/60=1.1であるため、算出された日数に当該係数(1.1)を適用し推定在庫日数が調整されてよい。
【0154】
このようなモデルを作成する場合、1台ずつ状態が大きく異なる中古車という特殊性を考慮すると、金額というパラメータによって回帰分析を実行するのではなく、偏差値をベースとしたモデルを構築することが好ましい。偏差値をベースとしたモデルのメリットについては、さらに後述する。
【0155】
(3.2.2.4)実績平均偏差値合計金額及び偏差値係数の算出
次に、車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台を対象として、「小売価格平均偏差値」(68)と対応する販売予想価格を、上述した算出モデルを用いて算出する。例えば、図15の表に示した車両については、次のように販売予測価格が算出される。
【0156】
・modelA, 3年落ち, 走行15千km, 状態等,偏差値68での予想価格3,241千円
・modelB, 8年落ち, 走行120千km, 状態等,偏差値68での予想価格1,364千円
・modelC, 4年落ち, 走行27千km, 状態等,偏差値68での予想価格1,753千円
・modelB, 5年落ち, 走行30千km, 状態等,偏差値68での予想価格1,733千円
ここで算出された「小売価格平均偏差値」(68)と対応する各販売予想価格の合計である「実績平均偏差値合計金額」は、3,893百万円(ここでは、個別の計算結果の記載は省略する)となる。
【0157】
このように、「小売価格平均偏差値」(68)と対応する各販売予想価格の合計は、必ずしも昨年実績の3,744百万円とはならない場合がある。つまり、飽くまで昨年実績の小売価格の平均偏差値が「68」であり、昨年実績には、平均偏差値よりも大幅に高い偏差値或いは大幅に低い偏差値も含まれているためである。
【0158】
そこで、車両価格決定支援システム100は、このような平均化による販売実績金額とのずれを補正するため、「偏差値係数」を適用してよい。具体的には、車両価格決定支援システム100は、「実績平均偏差値合計金額」(3,893百万円)を「昨年の販売合計金額」(3,744百万円)で除した値(1.039797)を「偏差値係数」として適用してよい。
【0159】
(3.2.2.5)指定偏差値ベースの年間予想売上額の算出
車両価格決定支援システム100は、各販売車両の実績データを用い、指定された特定の偏差値に基づいて、当該偏差値に対応する各車両の販売予想価格を算出し、各販売予想価格の合計を算出する。例えば、車両価格決定支援システム100は、指定偏差値として、偏差値50, 55, 60に対応する各車両の販売予想価格を算出し、各販売予想価格の合計を算出する。
【0160】
車両価格決定支援システム100は、複数の指定偏差値のうち、各販売予想価格の合計が最も高くなるパターンを推奨する。
【0161】
以下では、指定偏差値が「55」の場合における計算例について説明する。車両価格決定支援システム100は、販売実績1,560台を対象として、「指定偏差値」(55)と対応する販売予想価格を、上述した算出モデルを用いて算出する。例えば、図15の表に示した車両については、次のように販売予測価格が算出される。
【0162】
・modelA, 3年落ち, 走行15千km, 状態等,偏差値55での予想価格2,887千円
・modelB, 8年落ち, 走行120千km, 状態等,偏差値55での予想価格1,031千円
・modelC, 4年落ち, 走行27千km, 状態等,偏差値55での予想価格1,483千円
・modelB, 5年落ち, 走行30千km, 状態等,偏差値55での予想価格1,400千円
ここで算出された「指定偏差値」(55)と対応する各販売予想価格の合計である「指定偏差値合計金額」は、3,244百万円(ここでは、個別の計算結果の記載は省略する)となる。
【0163】
次に、車両価格決定支援システム100は、指定された偏差値に対応する「推定在庫日数」を上述した算出モデルを用いて算出する。ここでは、指定偏差値「55」と対応する推定在庫日数は、43日と算出される。
【0164】
また、車両価格決定支援システム100は、1年(365日)を推定在庫日数(43日)で除し、約8.5回を「推定回転率」(在庫回転数)として算出する。
【0165】
さらに、車両価格決定支援システム100は、「指定偏差値平均単価」を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、「指定偏差値合計金額」/「偏差値係数」/「昨年の販売台数」(3,244百万円/1.039797/1,560台)を計算し、2,000千円を指定偏差値「55」に対応する平均単価(指定偏差値平均単価)として算出する。
【0166】
次に、車両価格決定支援システム100は、指定偏差値ベースの年間予想売上額を算出する。具体的には、車両価格決定支援システム100は、「指定偏差値平均単価」(2,000千円)×「回推定転率」(8.5回)×「平均在庫台数」(260台)を計算し、小売価格平均偏差値が「55」の場合における年間予想売上額(4,420百万円)を算出する。
【0167】
なお、このような指定偏差値ベースの年間予想売上額の算出方法を、昨年実績の平均偏差値「68」を用いて計算すると、昨年の販売合計金額3,744百万円が算出される。
【0168】
具体的には、指定された偏差値「68」に対応する「推定在庫日数」は、60日と算出され、「推定回転率」は、6.0回と算出される。また、「指定偏差値合計金額」は、3,893百万円と算出される。次いで、「指定偏差値平均単価」は、「指定偏差値合計金額」/「偏差値係数」/「昨年の販売台数」により、3,893百万円/1.039797/1,560台=2,400千円と算出される。「指定偏差値平均単価」(2,400千円)×「回推定転率」(6.0回)×「平均在庫台数」(260台)を計算し、小売価格平均偏差値が「68」の場合における年間予想売上額(3,744百万円)が算出される。
【0169】
このようなシミュレーション(売上額の再計算)の結果、当該特定販売拠点においては、平均偏差値55と対応する平均単価2,000千円とし、回転率を8.5とすること(平均在庫台数は260台に固定)によって、予想売上額が4,420百万円と算出される。
【0170】
なお、上述したシミュレーションは、上述したように、任意の偏差値または回転率を適用して実行することも可能である。この場合、特定販売拠点の個別分布における在庫日数の近似直線が用いられてもよい。
【0171】
また、上述したシミュレーションは、販売価格だけではなく、買取価格(下取価格)についても同様に実行することができる。
【0172】
(3.2.3)施策の実行
次に、車両価格決定支援システム100によるシミュレーション結果に基づいて決定された施策の実行例について説明する。
【0173】
(3.2.3.1)買取価格に関する施策
図17は、買取価格に関する施策の反映例を示す。図17に示すように、車両価格決定支援システム100は、上述したシミュレーションの結果に基づいて決定された買取価格(下取価格)の水準金額を、従業員用端末260などにおいて実行可能な専用アプリケーションにおいて示される査定価格に反映させることができる。
【0174】
(3.2.3.2)商品化処理に関する施策
図18は、買取車両に対する商品化処理の優先順位を決定結果の反映例を示す。図18に示すように、システム間、具体的には、車両価格決定支援システム100、販売会社基幹システム200及び専用ウェブサイト300間では、買取価格、販売価格及び在庫状況に関する情報が連携されてよい。また、車両価格決定支援システム100は、上述したように、シミュレーション結果に基づいて商品化処理の優先順位(例えば、特定の車種を優先するなど)を、従業員用端末260などを介して従業員P2に指示できる。
【0175】
中古車販売の場合、上述したように、棚卸資産=店頭在庫ではなく、仕入れた中古車は小売するためには、「整備工場における商品化」と呼ばれる作業が発生する。買取車両の当該「商品化」と「店舗への配送」とが完了することによって、はじめて店頭在庫として陳列される。
【0176】
下取車の場合、小売の対象とせず、そのまま業者間に販売(業販)されることもある。この場合、商品化作業は発生せずにそのまま販売となり、下取対象車を小売にするか業販にするかについても、車両価格決定支援システム100を活用して販売会社などにおける意思決定を支援してもよい。
【0177】
また、小売販売による店頭在庫の減少が急激に進んだ場合、店頭在庫に補填する中古車の商品化が間に合わず、売場の展示台数が極めて少ない状況となる可能性がある(充足率が低下)。車両価格決定支援システム100は、中古車展示台数が一定数を割り込み充足率の低下が顕著となった場合、システム(車両価格決定支援システム100でもよいし、販売会社基幹システム200でもよい)において解析された収益率の高い車種、かつ「未商品化在庫」となっている車両を商品化する指示を従業員用端末260に表示できる。
【0178】
(4)作用・効果
上述した実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。具体的には、車両価格決定支援システム100は、所定の車両特徴に合致する中古車のオークションでの落札価格のデータに基づいて、当該落札価格の偏差値を示す基準分布を取得できる。また、車両価格決定支援システム100は、基準分布取得部110によって取得された基準分布に基づいて、販売拠点全体における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である全体分布を算出するとともに、特定販売拠点における買取価格及び販売価格の偏差値の分布である個別分布を算出できる。車両価格決定支援システム100は、算出された全体分布と個別分布との比較結果などを提示できる。
【0179】
基準分布(図3参照)は、統計処理によりモデル化されており、基準分布を用いることによって車種、グレードに加えて、経過月数及び走行距離を考慮した上で、所定の車両特徴を有する車両毎の買取価格及び販売価格の標準価格(偏差値50)を算出できる。
【0180】
このような基準分布を用いることによって、図4及び図5などに示した偏差値ベースの買取価格分布及び販売価格分布を算出することが可能となる。すなわち、車両価格決定支援システム100は、当該偏差値を「物差し」として活用することで、従来では困難だった価値評価の尺度を揃えることを可能とする。
【0181】
図19は、絶対値に基づく買取価格及び販売価格の分布例及び平均在庫日数の例を示す。図19に示すように、買取価格及び販売価格の偏差値ベースではなく、金額の絶対値をベースとした場合、販売価格と平均在庫日数との間には、因果関係は存在しない。一方、偏差値をベースとした場合、図5などに示したように、販売価格と平均在庫日数とには、近似直線によって示せるように、明確な因果関係が存在する。
【0182】
つまり、中古車の場合、同一車種・グレードであっても、使用状況(使用期間月数・走行距離など)によって買取価格及び販売価格が大きく変化する。また、このような価格変動も車種やグレードによって異なる。このため、このような特性を考慮した上で分析しない限り、買取価格及び販売価格の妥当性の判断を歪めることになる。
【0183】
例えば、中古車販売の売上金額が先月よりも10,000千円少ない場合、販売した車両の構成が先月よりも年式が古く、走行距離は多い車両が多かった可能性がある。また、販売した車両の構成(年式が古く、走行距離が多め)を考慮すると、販売価格が高かった可能性がある。
【0184】
このように、単純な価格比較ではなく、車両の状況に応じた分析が必要となるが、中古車のオークションでの落札価格のデータを用いることによって、買取価格及び販売価格の両方を、同一の基準に基づく偏差値として評価することが可能となる。
【0185】
すなわち、車両価格決定支援システム100によれば、中古車の買取価格及び販売価格に影響を与える様々な要因が複雑に絡み合う場合でも、適切な中古車の価格決定を支援できる。
【0186】
なお、偏差値の母集団は、保有するデータ全体とすることも可能であるが、例えば、セダン、SUV(Sport Utility Vehicle)、ミニバン、商用車などの車種毎に選択することも、ICE(Internal Combustion Engine)、HV(Hybrid Vehicle)、MHV(Mild Hybrid Vehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)、BEV(Battery Electric Vehicle)、FCV(Fuel Cell Vehicle)などの動力形式別、さらには、適用したシャーシーなどのプラットフォーム別などにより選択することも可能である。上述したような選択をして個別に検討するだけでなく、相互間を比較することにより、動向を把握して、さらには将来に向けての、新車販売へのマーケティングにも活用することが可能である。加えて、EV購入などに対する補助金などの中古車の買取価格及び販売価格への影響も検討することが可能である。
【0187】
また、本実施形態では、車両価格決定支援システム100は、特定販売拠点における中古車の予想売上額、及び予想売上額が最大となる販売価格水準の少なくとも何れかを提示できる。具体的には、車両価格決定支援システム100は、販売価格の偏差値を変化させた場合における複数の予想売上額のシミュレーションを実行し、当該予想売上額のシミュレーション結果を提示できる。
【0188】
さらに、本実施形態では、車両価格決定支援システム100は、当該シミュレーションにおいて、実績データに基づく実績売上額と、実績データに基づく販売価格(小売価格)の平均偏差値を用いて算出される予想売上額との比率である偏差値係数を適用できる。このため、偏差値を平均化することによる販売実績金額とのずれを補正でき様々な偏差値による下取り率変化による台数変化や、平均在庫日数と販売金額の変化などを考慮したシミュレーションを実現し、当該特定販売拠点における特性を反映させた、より正確な予想売上額のシミュレーションを実行できる。
【0189】
このため、販売会社などにおいて、中古車販売による売上額を向上し得る精度の高い施策の検討に資することができる。
【0190】
(5)その他の実施形態
以上、実施形態について説明したが、当該実施形態の記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0191】
例えば、上述した実施形態では、主に買取価格分布と販売価格分布との両方が提示される例(図7,8など)について説明したが、販売会社などにおける中古車の買取または販売方針に関する施策を策定する観点からは、何れの分布のみが提示されてもよい。
【0192】
また、上述した実施形態では、主に全体分布(全取得データ)と個別分布(自社データ)との比較結果(図10など)が提示される例が示されていたが、何れか一方の分布のみが提示されてもよい。
【0193】
以上、本開示について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示が本開示中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本開示は、請求の範囲の記載により定まる本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とするものであり、本開示に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0194】
10 中古車販売ネットワーク
100 車両価格決定支援システム
110 基準分布取得部
120 データ保持部
125 全体分布算出部
130 拠点別算出部
140 提示部
200 販売会社基幹システム
250 管理者用端末
260 従業員用端末
300 専用ウェブサイト
M1 買取市場
M2 販売市場
V1 買取車両
V2 販売車両
P1 管理者
P2 従業員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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