(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002131
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 5/18 20060101AFI20241226BHJP
B43K 8/12 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B43K5/18
B43K8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102075
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 悠一郎
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA11
2C350KA03
2C350NC02
2C350NC15
(57)【要約】
【課題】比較的簡便な構成で製造しやすい筆記具を提供する。
【解決手段】筆記具1は、インク保持部99が収容されるインク保持空間19が内部に形成された軸筒10と、インク保持空間19に収容されたインク保持部99からインク98を受け入れてインク98の供給流量を調節するコレクター30と、コレクター30に接続された筆記部50とを備える。筆記部50は、主部と錐体部とを有し、錐体部は筆記対象物に接触する先端部55を有する。コレクター30は、主部を収容する収容部31と、インク主路35が内部に形成された本体部とを有し、本体部の外面にはインク98の一部を保持可能な櫛溝部36が設けられている。収容部31に収容された主部の外面と収容部31の内面との間にはインク細路32が形成されている。少なくとも錐体部の外面には、インク細路32から先端部55へインク98を導くインク誘導溝58が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するインク保持部が収容されるインク保持空間が内部に形成された軸筒と、
前記インク保持空間に前記インク保持部が収容された場合に、前記インク保持部からインクを受け入れて、流入したインクの供給流量を調節するコレクターと、
前記コレクターに接続された筆記部と、を備え、
前記筆記部は、所定の長さを有する棒状の主部と、前記主部の一端から延びる錐体部と、を有し、前記錐体部は、先端に、筆記対象物に接触する先端部を有し、
前記コレクターは、前記主部を収容する収容部と、前記インク保持部から流入したインクを前記収容部に導くインク主路が内部に形成された本体部と、を有し、前記本体部の外面にはインクの一部を保持可能な櫛溝部が設けられており、
前記収容部に収容された前記主部の外面と前記収容部の内面との間には、インクが流通可能なインク細路が形成されており、
前記筆記部は、前記インク細路から前記先端部へインクを導くインク誘導溝が、少なくとも前記錐体部の外面に形成されている、
筆記具。
【請求項2】
前記筆記部は、JIS K7215に準拠したデュロメーターD硬さが60以上の材料で形成されている、
請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記筆記部は、透光性を有する材料で形成されている、
請求項1に記載の筆記具。
【請求項4】
前記筆記部は、軸線に直交する断面における前記インク誘導溝の対向する面のなす角が、40度以上110度以下に形成されている、
請求項1に記載の筆記具。
【請求項5】
前記筆記部に形成された前記インク誘導溝の数が8本以上12本以下である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀初頭に初めて作られたといわれているつけペンタイプのガラスペンは、美感に訴えるだけでなく、書き心地もよく実用性を兼ね備えた筆記具として、近年人気が高まっている。つけペンタイプのガラスペンは、インクに付けたペン先にためられたインクの分の筆記が可能なものであり、筆記可能な文字や線図等の量が比較的少ない。このような不都合を解消するものとして、特許文献1には、ペン先にインクを持続的に供給可能なガラスペンが開示されている。特許文献1のガラスペンは、複数本のガラスが捻れ成形された本体の外表面に複数の渦巻切割りが形成され、一端には複数本の溝が先端に集中するヘッド部が、他端には引き延ばされて細長い末端部が、それぞれ形成されたペン先を有する。ペン先の細長い末端部が、インクチューブカートリッジ内のインク表面に触れて表面張力を突き破ると、インクが渦巻切割りに導入された後にペン先のヘッド部に集中して、インクを自動的に持続供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のガラスペンは、ペン先を手作業で生成することになるため、各部の寸法が安定せず、製造コストが嵩むことになる。
【0005】
本開示は上述の課題に鑑み、比較的簡便な構成で製造しやすい筆記具を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様に係る筆記具は、インクを貯留するインク保持部が収容されるインク保持空間が内部に形成された軸筒と、前記インク保持空間に前記インク保持部が収容された場合に、前記インク保持部からインクを受け入れて、流入したインクの供給流量を調節するコレクターと、前記コレクターに接続された筆記部と、を備え、前記筆記部は、所定の長さを有する棒状の主部と、前記主部の一端から延びる錐体部と、を有し、前記錐体部は、先端に、筆記対象物に接触する先端部を有し、前記コレクターは、前記主部を収容する収容部と、前記インク保持部から流入したインクを前記収容部に導くインク主路が内部に形成された本体部と、を有し、前記本体部の外面にはインクの一部を保持可能な櫛溝部が設けられており、前記収容部に収容された前記主部の外面と前記収容部の内面との間には、インクが流通可能なインク細路が形成されており、前記筆記部は、前記インク細路から前記先端部へインクを導くインク誘導溝が、少なくとも前記錐体部の外面に形成されている。
【0007】
このように構成すると、棒状の主部とインク誘導溝が形成された錐体部とを有する筆記部の主部をコレクターの収容部に収容し、主部の外面と収容部の内面との間のインク細路及びインク誘導溝を介してインクを先端部に供給することが可能になる。このため、機械加工可能な比較的簡便な構成で製造しやすい筆記具となる。
【0008】
また、本開示の第2の態様に係る筆記具は、上記本開示の第1の態様に係る筆記具において、前記筆記部は、JIS K7215に準拠したデュロメーターD硬さが60以上の材料で形成されている。
【0009】
このように構成すると、筆記具が比較的固い材料で形成されているので、硬質材料特有の筆記感を享受することができる。
【0010】
また、本開示の第3の態様に係る筆記具は、上記本開示の第1の態様又は第2の態様に係る筆記具において、前記筆記部は、透光性を有する材料で形成されている。
【0011】
このように構成すると、インク誘導溝を流動するインクの色を筆記時に視認することができ、意匠性に優れた筆記具とすることができる。
【0012】
また、本開示の第4の態様に係る筆記具は、上記本開示の第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つの態様に係る筆記具において、前記筆記部は、軸線に直交する断面における前記インク誘導溝の対向する面のなす角が、40度以上110度以下に形成されている。
【0013】
このように構成すると、筆記部に対するインク誘導溝形成の難易度の上昇を抑制しつつ、インク誘導溝におけるインクの流動性の低下を抑制することができる。
【0014】
また、本開示の第5の態様に係る筆記具は、上記本開示の第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つの態様に係る筆記具において、前記筆記部に形成された前記インク誘導溝の数が8本以上12本以下である。
【0015】
このように構成すると、隣接するインク誘導溝の間隔を確保して各インク誘導溝を独立して機能させつつ、インク細路から先端部へインクを円滑に供給することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、棒状の主部とインク誘導溝が形成された錐体部とを有する筆記部の主部をコレクターの収容部に収容し、主部と収容部との間のインク細路及びインク誘導溝を介してインクを先端部に供給するので、比較的簡便な構成で製造しやすい筆記具となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は一実施の形態に係る筆記具の側面図、(B)は一実施の形態に係る筆記具の側面断面図である。
【
図2】一実施の形態に係る筆記具の分解斜視図である。
【
図3】(A)は一実施の形態に係る筆記具が内蔵する継手の斜視図、(B)は当該継手の側面断面図である。
【
図4】(A)は一実施の形態に係る筆記具が内蔵するコレクターの斜視図、(B)は当該コレクターの側面図、(C)は(B)におけるC-C断面図である。
【
図5】(A)は一実施の形態に係る筆記具が内蔵する筆記部の側面図、(B)は当該筆記部の正面図である。
【
図6】一実施の形態に係る筆記具の先端部分を示す部分側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
まず
図1(A)及び
図1(B)並びに
図2を参照して、一実施の形態に係る筆記具1を説明する。
図1(A)は筆記具1の側面図、
図1(B)は筆記具1の側面断面図である。
図2は筆記具1の分解斜視図である。なお、以下の説明において、筆記具1を構成する各部の詳細を説明するために新たな図に言及した場合、それ以降の説明においても当該図を適宜参照することとする。筆記具1は、概ね、手で持つのに適した大きさの細長い棒状に形成されている。筆記具1は、細長い棒状の一端から、筆記対象物としての紙にインクを供給することで、紙面に文字や線図等を筆記することができるものである。以下の説明において、細長い筆記具1の、紙面に接する端部の側を「先端側」といい、先端側に対して反対の端部の側を「後端側」という場合がある。
【0020】
筆記具1は、軸筒10と、コレクター30と、筆記部50とを備えている。さらに本実施の形態では、筆記具1は、継手20と、口先部材40と、キャップ60とを備えている。筆記具1は、本実施の形態では、筆記部50がガラスで形成されており、いわゆるガラスペンと称するものになっている。筆記具1は、本実施の形態では、インク98が収容されたインクタンク99を装着することにより、紙面にインク98を供給することが可能になる。本実施の形態では、筆記具1の使用者が好みのインク98の色を選択することができるように、筆記具1の流通過程においてはインクタンク99を装着させていない。また、筆記具1は、状況に応じてインク98の色を変更することができるように、インクタンク99を着脱することができるようになっている。インクタンク99は、インクカートリッジと呼ばれることもあり、カートリッジにインク98を貯留し保持することができるものであり、インク保持部に相当する。
【0021】
軸筒10は、筆記具1の長さの過半を占める部分であり、典型的には筆記具1の長さの0.6~0.7倍程度の長さを有する部分である。軸筒10は、筆記具1において後端側に配置されている。軸筒10は、典型的には筒状に形成されている。軸筒10は、本実施の形態では、概ね中空円筒状に形成されているが、筒状の軸線に直交する断面形状が六角形や八角形等の多角形に形成されていてもよい。軸筒10は、中空円筒状の先端側の端面が開口し、後端側の端面が閉塞している。軸筒10は、本実施の形態では、先端部側から、軸筒10の長さの約2/3程度までは基本形状が同径となっており、そこから後端側に進むにつれて直径が漸減する先細り形状になっている。軸筒10は、典型的には、筆記具1を筆記可能な態様で利き手で持ったときに、第1指間腔(親指と人差し指の間)又はその周辺(典型的には人差し指の付け根)に接する長さを有している。この構成により、筆記時に筆記具1のぶれを抑制することができ、安定した筆記が可能となる。軸筒10は、中空円筒状の内部が、インクタンク99を収容可能なインク保持空間19になっている。軸筒10は、本実施の形態では、中空円筒状の側面に、内部を視認可能な窓18が形成されている。窓18は、本実施の形態では、軸筒10の軸線方向に細長い開口となっており、インク保持空間19にインクタンク99が収容された場合に窓18を介してインクタンク99に触れることができるようになっている。軸筒10は、先端側における中空円筒状の内面に、ねじ山12が形成されている。
【0022】
継手20は、軸筒10に対するコレクター30の接続を仲介するものである。継手20は、本実施の形態では、軸筒10の形状に合わせて、概ね円筒状の外観を呈している。継手20は、円筒状の軸線が延びる方向の途中に、半径方向に突き出た鍔部23が設けられている。継手20を形成する円筒状に関し、鍔部23よりも先端側を先筒21といい、鍔部23よりも後端側を後筒22ということとする。継手20は、先筒21の内部にコレクター30が差し込まれ、後筒22が軸筒10に嵌まるようになっている。後筒22は、図示は省略するが、先端側寄りの外面にねじ山が形成されている。後筒22の先端側寄りの外面に形成されたねじ山が、軸筒10の内面に形成されたねじ山12と係り合うことにより、継手20が軸筒10に連結するようになっている。鍔部23は、典型的には、継手20の軸線に直交する断面が円環状に形成されており、その外径は軸筒10の先端側の外径と概ね同じになっている。
【0023】
図3(A)及び
図3(B)に、継手20の構成をより詳細に示す。
図3(A)は継手20の後端側から見た斜視図、
図3(B)は継手20の側面断面図である。継手20は、先筒21の内部が先収容部26となっており、後筒22の内部が後収容部27となっている。先収容部26は、コレクター30を収容可能な空間である。後収容部27は、インクタンク99を収容可能な空間である。また、継手20は、円筒状の内部に、仕切24が設けられている。仕切24は、円板状に形成された部材であり、その中心に孔が形成されている。仕切24は、円板状の面に対して垂直に延びる仮想直線が、継手20の軸線と同じ方向に延びる向きで配置されている。仕切24は、典型的には、継手20の軸線が延びる方向における位置が、鍔部23が設けられた位置と実質的に同じになっている。仕切24には、後端側に延びる装着筒25が接続されている。換言すれば、後収容部27に、装着筒25が配置されている。装着筒25は、インクタンク99(
図2参照)が装着される筒である。装着筒25は、使用するインクタンク99の規格に適合する形状及び大きさに形成されており、その外径は後筒22の内径よりも小さくなっている。装着筒25は、一端が仕切24の中心の孔と連絡しており、他端がインクタンク99からインクが流入可能なように開口が形成されている。装着筒25は、内部に、インクが通過可能なインク道28が形成されている。
【0024】
コレクター30は、インクタンク99からインク98を受け入れて、流入したインク98の供給流量を調節する部品である。コレクター30は、本実施の形態では、インクタンク99から、継手20を介して間接的にインク98を受け入れるようになっている。コレクター30は、本実施の形態では、継手20の先収容部26(
図3(B)参照)に一部が収容されるようになっている。また、コレクター30は、筆記部50を保持することができるようになっている。コレクター30は、筆記部50を保持する収容部31と、コレクター30の過半部分を占める本体部33とを有している。筆記具1に組み込まれた状態のコレクター30において、収容部31は先端側に配置され、本体部33は後端側に配置されている。
【0025】
図4(A)~
図4(C)に、コレクター30の構成をより詳細に示す。
図4(A)はコレクター30の後端側から見た斜視図、
図4(B)はコレクター30の側面図、
図4(C)は
図4(B)におけるC-C矢視断面図である。収容部31は、本実施の形態では、概略円筒状に形成されており、先端側の端面に概略円筒状の内径と同径の開口が形成され、後端側の端面に概略円筒状の内径よりも小さい開口が形成されている。収容部31は、外面の適宜の複数箇所に一段下がった窪みが形成されている。収容部31の内径は、典型的には、筆記部50を丁度収容することができる大きさに形成されている。収容部31は、その内面に、軸線方向に延びる細溝32が複数形成されている。収容部31の内面に形成された細溝32は、周方向に適宜の間隔をあけて形成されており、その周方向の間隔は、一本ずつ等間隔であってもよく、近接した複数本のセットが等間隔となっていてもよい。
【0026】
コレクター30の本体部33は、
図4(C)において明確に把握されるように、本実施の形態では概ね円筒状に形成された中筒34が設けられている。中筒34は、収容部31の後端側の端面から、軸線方向に延びている。中筒34の内径は、典型的には、収容部31の後端側の端面に形成された開口と同径になっており、当該後端側端面に形成された開口と中筒34の内部とは連絡している。中筒34の内部は、軸線方向の両端が開口した空間になっており、インク98(
図1(B)参照)の通り道であるインク主路35となっている。本体部33は、その外面に、櫛溝部36が設けられている。櫛溝部36は、円板状の部材(本実施の形態では収容部31の外径よりも大きな外径を有する)が、軸線方向に間隔をあけて複数が配列されていることで、隣接する円板状の部材の間に溝が形成されている。櫛溝部36は、中筒34の軸線を通り当該軸線に平行な断面(
図4(C)参照)において櫛歯状に形成されていることから、櫛歯状部ということもできる。櫛溝部36における円板状の部材の間に形成された溝の間隔は、典型的には、溝に流入したインク98をその表面張力で溝内に保持することができる寸法である。櫛溝部36は、複数配列された円板状の部材のそれぞれに対して、円周方向の特定の箇所において、中筒34の外面に達する連通溝37が形成されている。連通溝37は、複数の円板状の部材にまたがって、中筒34の軸線方向に延びている。櫛溝部36は、インク主路35に入りきらずに中筒34の外側に回った分のインク98を保持することができるようになっている。また、櫛溝部36の先端側の円板状の部材に空気導入溝が形成されていることにより、コレクター30は外圧の変化に対応することができるようになっている。本体部33の後端側の端面は、円板状の部材の面が現れており、その中心にはインク主路35に通じる開口が現れていると共に、中筒34の外側で円板状の部材の半径方向に延びる連通溝37が現れている。コレクター30は、典型的には、収容部31と本体部33とが一体に成形されている。
【0027】
口先部材40は、継手20の先収容部26にコレクター30を収容した継手20の先端側を塞ぐ部材である。口先部材40は、テーパー部41と、縮径部43とを有している。テーパー部41は、本実施の形態では、外径が連続的に変化する円筒状又は円錐状に形成された部分であり、後端側の外径が継手20の先筒21の外径と実質的に同じになっている。テーパー部41は、後端側から先端側に進むにつれて外径が徐々に小さくなるように形成されており、この徐々に小さくなる程度は直線状であってもよく、ゆるやかな曲線状であってもよい。縮径部43は、テーパー部41に対して後端側に設けられている。縮径部43は、軸線方向の長さが比較的短い円筒状に形成されている。縮径部43の外径は、テーパー部41の後端側の端部の外径よりも小さく、典型的には継手20の先筒21の内径に適合する大きさになっている。縮径部43は、継手20の先筒21の内側に、ねじ込み又はラッチによって嵌まるようになっている。テーパー部41と縮径部43とは、典型的には一体に形成されており、内部は一連に貫通している。この口先部材40の内部は、軸線方向の両端が開口していると共に、コレクター30の収容部31の外径と実質的に等しい大きさに形成されており、収容部31を収容することができるようになっている。口先部材40は、先端側の端面に、筆記部50が突き出る先開口45が形成されている。先開口45は、筆記部50を突出させつつコレクター30を通さないために、口先部材40の内部の空間の径よりもわずかに小さくなっており、典型的にはコレクター30の収容部31の内径と等しい大きさに形成されている。
【0028】
筆記部50は、筆記対象物としての紙に接触することで、紙面にインクを供給する部材である。筆記部50は、コレクター30に接続され、コレクター30が保持しているインク98を紙面に供給するのを仲介する。筆記部50は、典型的には非吸収性材料(多孔体でない材料)を原材料としており、本実施の形態では、ガラスを原材料として、概ね円柱状でその一端が先細りとなった形状に形成されている。筆記部50は、紙面等への筆記に耐え得るように、所定の硬さを有していることが好ましい。ここでの所定の硬さは、例えば、JIS K7215(プラスチックを対象にした規格)に準拠したデュロメーターD硬さが60以上であることとするとよい。なお、筆記部50が所定の硬さを有していると、筆記具1で筆記をしたときに、筆圧の影響を受けにくく一定の線幅で筆記がしやすくなるという利点もある。ガラスで形成された筆記部50は、透光性を有している。ここでいう透光性を有するとは、可視光線透過率が50%以上であることをいうこととする。可視光線透過率は、多光源分光測色計〔例えば、スガ試験機社製、(MSC-5N)〕にて反射率を測定することで求めることができる。筆記部50が透光性を有していると、筆記部50越しにインク98の色を視認することができ、美感を向上させることができる。このように、本実施の形態におけるガラスで形成された筆記部50は、所定の硬さ及び透光性を有する材料で形成されたものといえる。
【0029】
図5(A)及び
図5(B)に、筆記部50を抽出して示す。
図5(A)は筆記部50の側面図、
図5(B)は筆記部50の正面図である。筆記部50は、主部51と、錐体部53とを有している。主部51は、本実施の形態では、コレクター30の収容部31(
図4(C)参照)に収容される部分になる。主部51は、所定の長さを有する棒状の部分であり、本実施の形態では円柱状に形成されている。主部51の所定の長さは、典型的にはコレクター30の収容部31が安定的に保持することができる長さであり、収容部31の軸線方向の長さと同程度とするとよい。錐体部53は、主部51の一端から軸線方向に延びる錐体状に形成された部分である。錐体部53は、本実施の形態では概ね円錐状に形成されており、円錐状の底面が主部51の一端面に接続している。錐体部53は、円錐状の頂点に対応する部分が先端部55となっている。先端部55は、筆記具1(
図1(A)参照)で筆記をする際に紙面に接する部分であり、典型的には若干の丸みを帯びている。先端部55の丸みの程度は、筆記具1で筆記をする際の線幅を考慮して決定するとよい。つまり、細字を意図する場合は先端部55の曲率を大きくし(曲率半径を小さくし)、太字を意図する場合は先端部55の曲率を小さく(曲率半径を大きく)するとよい。主部51及び錐体部53は、それぞれの軸線が同一直線状にあるようにして接続され、一体に形成されている。典型的には、円柱状のガラス棒を、錐体部53に対応する部分を削り出すことで、筆記部50を形成することができる。このように形成される筆記部50は、機械加工に適しており、従来の手作業で生成するペン先に比べて、簡便な構成となっていて、製造しやすくなっている。
【0030】
筆記部50は、外面に、インク誘導溝58が形成されている。インク誘導溝58は、筆記部50の後端側から主部51の外側面を伝ってきたインク98を、先端部55に導くことを意図して形成されている。インク誘導溝58は、典型的には、筆記部50の軸線に対して平行に延びている。インク誘導溝58は、本実施の形態では、主部51と錐体部53との境界52から先端部55の近傍まで延びていると共に、境界52から後端側へは主部51の先端側の一部に延びている。主部51に形成された部分のインク誘導溝58は、筆記部50の軸線が延びる方向において、主部51の長さの1/5~1/3の長さ(1/4の長さを含む)であってもよい。主部51に形成された部分のインク誘導溝58は、境界52から後端側に進むにつれて、深さが浅くなるように(外面からの距離が小さくなるように)形成されているとよい。錐体部53に形成された部分のインク誘導溝58は、境界52から先端部55の方向に進むにつれて、深さが浅くなるように形成されているとよい。インク誘導溝58は、形成しようとする部分の材料を削り出すことで形成することができる。
【0031】
インク誘導溝58は、筆記部50の周方向に間隔をあけて、複数が形成されている。筆記部50に複数形成されたインク誘導溝58は、周方向に等間隔で配列されていることが好ましい。インク誘導溝58の数は、筆記部50の大きさ等を勘案して適宜決定することができるが、先端部55へのインク98の供給を円滑にする観点からは8本以上とすることが好ましく、インク誘導溝58の形成しやすさの観点からは12本以下とすることが好ましい。各インク誘導溝58は、種々の断面形状(例えばV字状やU字状)を採用することが可能であるが、本実施の形態では、筆記部50の軸線に直交する断面(
図5(B)参照)において、楔状(V字状)に形成されている。筆記部50の軸線に直交する断面における各インク誘導溝58の対向する面のなす角αは、インク誘導溝58におけるインク98の流動性等を勘案して適宜決定するとよい。インク誘導溝58のなす角αは、インク98の流動性の低下を抑制する観点からは40度以上とすることが好ましく、筆記部50に対してインク誘導溝58を形成する際の難易度の上昇を抑制する観点からは110度以下とすることが好ましい。
【0032】
上述した各部品を組み立てて筆記具1にするには、以下のようにすればよい。まず、継手20の先筒21内の先収容部26に、コレクター30の本体部33を差し入れる。次に、コレクター30の収容部31の内部に、筆記部50を主部51の側から入れる。なお、ここまでの工程について、コレクター30の収容部31に筆記部50を主部51の側から入れてから、筆記部50を入れたコレクター30を、本体部33の側から継手20の先収容部26に差し入れることとしてもよい。継手20とコレクター30と筆記部50とを接続したら、その接続体に、口先部材40を、縮径部43を当該接続体に向けて筆記部50の側から入れてコレクター30の収容部31に被せ、縮径部43を継手20の先収容部26に入れ込む。このようにして、筆記具1の先端側が組み上がる。
【0033】
図6は、筆記具1の先端側の部分側面断面図である。筆記具1は、筆記部50の主部51の外面と、コレクター30の収容部31の内面との間に、細溝32に対応する部分が隙間として現れる。本実施の形態では、この細溝32の部分が、インク細路として機能することとなる。インク細路は、典型的には、インクが毛細管現象により移動可能な幅を有するインクの流路である。インク細路として機能する細溝32は、先端側において、筆記部50の主部51の部分に形成されたインク誘導溝58に連絡している。この構成により、インク細路からインク誘導溝58にインクを導くことができるようになっている。
【0034】
筆記具1を、インクタンク99を付属せずに流通に置く場合は、上述した筆記具1の先端側の、後筒22の外面に形成されたねじ山に、軸筒10の内面に形成されたねじ山12をねじ込んで、筆記具1の先端側と軸筒10とを接続すればよい。筆記具1を用いて最初に筆記をするときは、筆記具1の先端側から軸筒10を外し、インクタンク99を継手20の後収容部27に嵌め込んで、筆記具1の先端側に軸筒10を再びねじ込めばよい。継手20にインクタンク99を嵌める際は、継手20の装着筒25が、インクタンク99のカートリッジの端面からカートリッジの内部に入り込むように装着する。
【0035】
インクタンク99を継手20に嵌めると、インクタンク99内のインク98は、装着筒25の内部のインク道28に流入する。インク道28を通過したインク98は、先収容部26に収容されているコレクター30に到達し、インク道28と連絡しているインク主路35に流入する。なお、インク道28からコレクター30に到達したインク98の一部が、外圧の変化に伴い、本体部33に形成されている連通溝37の後端から櫛溝部36に流入し、保持される場合がある。インク主路35に流入したインク98は、筆記部50に向かって流れる。インク主路35から筆記部50の後端側に到達したインク98は、細溝32に対応するインク細路を通り、先端側に移動する。インク細路を先端側に移動したインク98は、インク誘導溝58に入り、先端部55に至る。インク98が先端部55に到達すると、先端部55を紙面に接触させたときにインク98が筆記具1から紙面に移り、先端部55を紙面に接触させたまま筆記具1を紙面に沿って移動させることにより、筆記が行われる。ここまで説明したような、筆記に伴ってインク98が流動する際、コレクター30には櫛溝部36の先端側の円板状の部材に形成された空気導入溝から空気が流入する。流入した空気は、コレクター30に形成されている連通溝37を経由してインクタンク99内部へ到達し、インクタンク99内部のインク98と置換することで、インク98の円滑な流れを実現することができる。本実施の形態では、筆記部50がガラスで形成されているので、インク誘導溝58内のインク98を、インク誘導溝58の外側の筆記部50の外面からガラスを通して視認することができ、ガラスを通した反射でインク98の色が映え、美感に優れたものとなる。換言すれば、筆記具1は意匠性に優れている。
【0036】
筆記具1は、インク98の乾きを防ぐため、筆記具1の先端側を覆うキャップ60を備えている。キャップ60は、典型的には、
図1(B)及び
図2に示すように、外筒61と、ばね63と、内蓋65とを有している。外筒61は、キャップ60の主要構成部分であり、鍔部23よりも先端側の継手20、口先部材40、及び口先部材40から突き出た筆記部50を覆うことができる長さの円筒状に形成されている。外筒61の外径は、典型的には、鍔部23に接する部分の軸筒10の外径と同じ大きさに形成されている。外筒61は、その内側に、
図1(B)に示すように、軸線方向の中間の位置に、内側にやや突き出た突起62が形成されている。ばね63は、典型的には圧縮コイルばねであり、外径が、外筒61の内径(突起62の部分を除く)と実質的に同じになっている。ばね63は、突起62よりも先端側の外筒61の中に設けられている。
【0037】
内蓋65は、ばね63を外筒61内に保持する役割を果たす。内蓋65は、概ね円筒状に形成されており、内蓋65の大部分を占める蓋筒66の一端面は閉塞しており、蓋筒66の他端には拡径部67が設けられている。拡径部67は、蓋筒66に接続する端面もその反対側の端面も、共に開口している。蓋筒66は、ばね63を構成する圧縮コイルばねの内径と実質的に同じ大きさの外径を有している。蓋筒66の内径は、口先部材40の最小外径よりも大きく、最大外径よりも小さくなっている。拡径部67は、ばね63を構成する圧縮コイルばねの内径及び突起62部分の内径よりも大きく、外筒61の内径よりも小さな(あるいは外筒61の内径と実質的に同じ)外径を有している。拡径部67の内径は、口先部材40の最大外径よりも小さくなっている。拡径部67は、典型的には、蓋筒66から離れるにつれて外径が大きくなるように、蓋筒66と滑らかに接続している。
【0038】
キャップ60は、外筒61の中にばね63を入れ、そこに内蓋65を蓋筒66の方から入れ、拡径部67の後端が突起62を越えるまで押し込むことにより、構成される。このように構成されたキャップ60は、蓋筒66と拡径部67との境界部分が、ばね63の後端に位置することとなる。そして、内蓋65は、先端側に向けて押されるとばね63の付勢力に打ち勝って突起62から離れるように先端側へ移動し、先端側に押される外力が除去されるとばね63の不勢力で突起62に向かうように、軸線方向に往復移動することができるようになっている。ばね63によって付勢された内蓋65は、突起62に引っ掛かり、突起62よりも後端側には移動しないようになっている。
【0039】
キャップ60を、筆記具1の継手20の先筒21を覆うように嵌めていくと、まず、突起62に引っ掛かって静止している内蓋65に、口先部材40が当接する。そこからさらにキャップ60を鍔部23に向けて押し込んでいくと、内蓋65が口先部材40によって押されて先端側へ移動していく。外筒61が鍔部23に到達すると、キャップ60が継手20の先筒21に完全に嵌め込まれたこととなる。このとき、内蓋65は、ばね63によって口先部材40の方に付勢され、口先部材40に密着する。これにより、内蓋65の内部は密閉されることとなり、筆記部50のまわりのインク98が乾いてしまうことを抑制することができる。
【0040】
筆記具1は、使用するインク98の色を変えることができる。インク98の色の変更を行う場合、筆記具1の先端側を洗浄するとよい。このとき、前述した筆記具1の先端側を組み立てたのと逆の手順で、継手20、コレクター30、口先部材40、及び筆記部50を分解して、洗浄するとよい。筆記具1は、構成が比較的簡便なので、分解及び洗浄を簡便に行うことができる。
【0041】
以上の説明では、筆記対象物が紙であることとして説明したが、用途やインク98の特性等に応じて、合成樹脂や金属等で形成されたフィルムやボードであってもよい。
【0042】
以上の説明では、インク保持部が、インク98が充填された状態で流通に置かれているインクタンク99であるとしたが、コンバーター(容器に収容されたインク98を吸入する吸入器)等であってもよい。また、インク保持部を、軸筒10の内部に常設された(軸筒10に対して取り外し不可の)インク保持容器として、筆記具1の外部から吸入したインクを保持する構成のものであってもよい。
【0043】
以上の説明では、継手20を介して軸筒10とコレクター30とが接続されていることとしたが、コレクター30が軸筒10に直に取り付けられるように構成されていてもよい。この場合、例えば軸筒10及び継手20と同様の構成を一体に成形して継手20に相当する部分が軸筒10の一部を占めるように構成されていてもよい。あるいは、装着筒25のようなインクタンク99に接続する部分をコレクター30に設けて、コレクター30がインクタンク99から直接インク98を受け入れるように構成されていてもよい。
【0044】
以上の説明では、筆記部50がガラスで形成されているとしたが、ガラス以外の原材料、例えば合成樹脂や金属で形成されていてもよい。例えば、アクリル樹脂やポリメチルペンテン等の合成樹脂で形成されていると、所定の硬さを有しつつ透光性を有する筆記部50とすることができる。また、例えばステンレス鋼等の金属で形成されていると、所定の硬さを有しつつ耐久性に優れた筆記部50とすることができる。筆記具1は、インク98を、筆記部50の外面を通して紙面に供給するので、筆記部50に種々の材料を採用することができて、筆記部50として採用した材料特有の筆記感を享受することができる。
【0045】
以上の説明では、筆記部50の主部51が円柱状に形成されているとしたが、軸線に直交する断面の形状が六角形や八角形等の多角形に形成された細長い柱状に形成されていてもよい。また、筆記部50の錐体部53が円錐状に形成されているとしたが、主部51の端面の形状に合わせて、六角錐や八角錐等の角錐状に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 筆記具 40 口先部材
10 軸筒 41 テーパー部
12 ねじ山 43 縮径部
18 窓 45 先開口
19 インク保持空間 50 筆記部
20 継手 51 主部
21 先筒 52 境界
22 後筒 53 錐体部
23 鍔部 55 先端部
24 仕切 58 インク誘導溝
25 装着筒 60 キャップ
26 先収容部 61 外筒
27 後収容部 62 突起
28 インク道 63 ばね
30 コレクター 65 内蓋
31 収容部 66 蓋筒
32 細溝(インク細路) 67 拡径部
33 本体部 98 インク
34 中筒 99 インクタンク
35 インク主路 α なす角
36 櫛溝部
37 連通溝