(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021428
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】培養装置及び細胞分離方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250205BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20250205BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20250205BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/00 D
C12M1/04
C12N1/00 A
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108800
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2024/014077
(32)【優先日】2024-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(31)【優先権主張番号】P 2023124319
(32)【優先日】2023-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100224443
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 弘行
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】石川 周太郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA09
4B029BB01
4B029DB13
4B029DG06
4B029HA05
4B029HA10
4B065AA01X
4B065AA87X
4B065BD14
4B065BD50
(57)【要約】
【課題】培養液に分散した細胞の分離(及び上清の引き抜き)の工程において、細胞がダメージを受けることを低減することが可能な培養装置及び細胞分離方法の提供。
【解決手段】培養液中の細胞の培養を行う培養槽であって、培養液に少なくとも酸素の供給が行われる培養槽11と、前記培養液中において開口121を有する沈降室12と、沈降室12内の培養液を冷却して、沈降室12内の培養液に含まれる細胞を凝集させる冷却凝集装置13と、沈降室12内の培養液の上清を排出させる排出機構15と、を備える、培養装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液中の細胞の培養を行う培養槽であって、前記培養液に少なくとも酸素の供給が行われる培養槽と、
前記培養液中において開口を有する沈降室と、
前記沈降室内の培養液を冷却して、前記沈降室内の培養液に含まれる細胞を凝集させる冷却凝集装置と、
前記沈降室内の培養液の上清を排出させる排出機構と、
を備える、培養装置。
【請求項2】
前記沈降室が、鉛直方向に対して傾斜して配置された管状の部材であることにより、前記傾斜によって上部側となる側面における前記沈降室内への前記培養液の流入経路と、前記傾斜によって下部側となる側面における前記培養槽への前記培養液の戻り経路と、を形成する、請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記沈降室内に位置する前記排出機構の端部開口が、前記流入経路上となる位置に配されている、請求項2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記開口として、前記流入経路上に設けられる流入開口と、前記戻り経路上に設けられる戻り開口と、を備える、請求項2又は3に記載の培養装置。
【請求項5】
前記沈降室内に位置する前記排出機構の端部開口が、前記沈降室内の前記培養液の液面付近となる位置に配されている、請求項1に記載の培養装置。
【請求項6】
前記開口の設置深さが、培養中に前記培養槽内の前記培養液液面付近の泡が存在する泡存在領域よりも深い、請求項1に記載の培養装置。
【請求項7】
前記培養槽内の前記培養液の液面高さと、前記沈降室内の前記培養液の液面高さが異なるように構成されている、請求項1に記載の培養装置。
【請求項8】
細胞が分散した培養液から前記細胞を分離する細胞分離方法であって、
前記培養液中において開口を有する沈降室を設け、前記沈降室内の培養液を冷却して前記沈降室内の培養液に含まれる細胞を凝集させつつ、前記沈降室内の培養液の上清を排出させる、細胞分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液中の細胞の培養を行う培養装置及び細胞が分散した培養液から細胞を分離するための細胞分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬や食品などの分野では、目的物の生産に細胞の培養技術が利用されることがあり、培養液中の細胞の密度を高めることができれば、目的物の生産効率を高めることができる。
ところで、細胞の培養工程では、細胞は種々の代謝物を生成するため、これが細胞の増殖阻害や物質生産阻害の原因になり、細胞の培養効率を低下させることがあった。
これを解消して細胞の高密度培養を実現する技術として、培養槽から培養液を取り出して、培養液に分散した細胞を分離すると共に、取り出された細胞を培養槽に戻し(細胞が分離された培養液の上清を引き抜き)、新鮮な培養液を加える灌流培養手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-103953号公報
【特許文献2】特表2005-501553号公報
【特許文献3】国際公開第2020/189417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3は、灌流培養によって細胞を培養する灌流培養装置に関し、何れの装置においても、培養液に分散した細胞を分離するための分離槽(沈降槽)が設けられている。
これらの培養装置では、分離槽が培養槽とは別に設けられ、培養槽から培養液を分離槽へと流入させて、分離槽で分離した細胞を培養槽に戻す構成となっている。
このような構成においては、分離槽で分離されて培養槽に戻るまでの間(培養槽から引き抜かれてから再度培養槽に戻ってくるまでの間)、細胞に十分な酸素が供給され難くなること(培養槽で管理された培養条件ではなくなること)により、細胞がダメージを受ける場合があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、培養液に分散した細胞の分離(及び上清の引き抜き)の工程において、細胞がダメージを受けることを低減することが可能な培養装置及び細胞分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
培養液中の細胞の培養を行う培養槽であって、前記培養液に少なくとも酸素の供給が行われる培養槽と、前記培養液中において開口を有する沈降室と、前記沈降室内の培養液を冷却して、前記沈降室内の培養液に含まれる細胞を凝集させる冷却凝集装置と、前記沈降室内の培養液の上清を排出させる排出機構と、を備える、培養装置。
【0007】
(構成2)
前記沈降室が、鉛直方向に対して傾斜して配置された管状の部材であることにより、前記傾斜によって上部側となる側面における前記沈降室内への前記培養液の流入経路と、前記傾斜によって下部側となる側面における前記培養槽への前記培養液の戻り経路と、を形成する、構成1に記載の培養装置。
【0008】
(構成3)
前記沈降室内に位置する前記排出機構の端部開口が、前記流入経路上となる位置に配されている、構成2に記載の培養装置。
【0009】
(構成4)
前記開口として、前記流入経路上に設けられる流入開口と、前記戻り経路上に設けられる戻り開口と、を備える、構成2又は3に記載の培養装置。
【0010】
(構成5)
前記沈降室内に位置する前記排出機構の端部開口が、前記沈降室内の前記培養液の液面付近となる位置に配されている、構成1から4の何れかに記載の培養装置。
【0011】
(構成6)
前記開口の設置深さが、培養中に前記培養槽内の前記培養液液面付近の泡が存在する泡存在領域よりも深い、構成1から5の何れかに記載の培養装置。
【0012】
(構成7)
前記培養槽内の前記培養液の液面高さと、前記沈降室内の前記培養液の液面高さが異なるように構成されている、構成1から6の何れかに記載の培養装置。
【0013】
(構成8)
構成1から7の何れかに記載の培養装置において使用される培養槽であって、培養液中において開口を有して前記培養槽に対して取り付けられた沈降室を備える、培養槽。
【0014】
(構成9)
細胞が分散した培養液から前記細胞を分離する細胞分離方法であって、前記培養液中において開口を有する沈降室を設け、前記沈降室内の培養液を冷却して前記沈降室内の培養液に含まれる細胞を凝集させつつ、前記沈降室内の培養液の上清を排出させる、細胞分離方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の培養装置、培養槽、及び細胞分離方法によれば、培養液に分散した細胞の分離(及び上清の引き抜き)の工程において細胞がダメージを受けることの低減を、比較的簡易な構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る実施形態の灌流培養システム(灌流培養装置)の構成の概略を示すブロック図
【
図2】灌流培養システムの沈降室内の動作概念を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明に係る実施形態の灌流培養システム(灌流培養装置)の構成の概略を示す図である。
本実施形態の灌流培養システム1は、培養液中で、種々の細胞(例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、微生物、細菌等)を培養する培養装置として構成される。
灌流培養システム1は、培養液を保持する培養槽11と、培養液を上清と沈殿物とに分離するための沈降室12及び冷却装置13と、沈降室内の培養液の上清を排出させる排出機構15と、排出液を計量するための計量槽142と、排出液をためる貯留槽18と、培養槽11への新たな培養液の供給を行う供給機構16と、供給する培養液を計量するための計量槽141と、培養液が入っているフィード液槽17を備える。
なお、特に図示していないが、灌流培養システム1は、各ポンプ、各開閉弁や各センサ、冷却装置のそれぞれと接続された制御部を備えており、以下で説明する動作が制御部によって制御される。
【0019】
培養槽11は、培養対象となる細胞が分散された培養液を保持する部材で、特に図示しないが、培養液に酸素を供給するための機構などの培養液を所望の状態に維持するための種々の機構を備える。培養槽11で培養液の状態を調整することにより、培養液中で細胞が適切に培養され、目的物の生成が可能になる。
また、特に図示しないが、灌流培養システム1(培養槽11)は、培養工程を適切に制御するための種々の機構(付帯設備)を備えた構成とすることが可能である。例えば、培養液の状態(溶存酸素やpH、温度など)を計測する計測装置や、培養の進捗度を計測する計測装置(グルコース濃度などの計測装置)、培養液の状態を調整するための調整機構、培養液(新鮮な液体培地)や栄養素などを供給する供給機構、培養液を抜き出すサンプリング機構などの設備(付帯設備)を備えた構成とすることができる。培養槽11と各種付帯設備によって、培養槽11に保持された培養液が適切な状態に維持され、培養液内で細胞の培養が可能になることから、これらを培養装置と呼ぶことが可能である。
【0020】
沈降室12は、灌流培養を行うために、培養槽11の培養液から細胞を分離するための部材であり、培養液を沈降法によって上清と沈殿物に分離する役割を果たす。
沈降室12は、培養槽11に対して設けられ、培養液中において開口121を有していることにより、その内部に培養液を有しつつ、当該培養液は培養槽11との間で出入り可能な構成となっている。
本実施形態における沈降室12は、鉛直方向に対して傾斜して配置された管状の部材であり、後に説明するように、冷却装置13の機能と相まって、「傾斜によって上部側となる側面における沈降室内への培養液の流入経路P
in(
図2参照)」と、「傾斜によって下部側となる側面における培養槽への培養液の戻り経路P
out」と、を形成する。
本実施形態における沈降室12は、その管状の部材の一部(ここでは上部側)が培養槽11の外部に突出した構成であり、培養槽11に対して取り付けられているものである。当該取り付け構造において、沈降室12は培養槽11に対してその高さ方向の位置を調節可能とされている。これにより、培養条件の相違等による培養液の液面の高低に対応することができ、また、以下で説明する分離機能の調整のために、培養槽内の培養液の液面に対する沈降室の下端(開口121)の位置を調整することが可能である。なお、ここでは沈降室12の取り付け高さの調節が可能なものを例としているが、所定の設計に基づき沈降室12の取り付け高さが固定されているものであっても勿論よい。
沈降室12の内部には、排出管151が設けられ、沈降室12内で分離された培養液の上清が、排出管151によって排出される。
【0021】
冷却装置(冷却凝集装置)13は、沈降室12が培養槽11の外部に突出している部分に対して設置され、沈降室12内の培養液を冷却して、培養液に含まれる細胞を凝集させる機能(細胞を凝集させることにより、その沈降速度を高める機能)を有する。加えて、培養液を冷却することで対流を生じさせ、沈降室12が傾斜していることと相まって、前述の「流入経路Pin」と「戻り経路Pout」とを形成させる機能を有する。
本実施形態の冷却装置13は、ペルチェ素子を使用して、これを沈降室12の外周に巻き付けるようにして設置することで構成されている。なお、本発明をこれに限るものではなく、沈降室12を冷却可能な任意の装置を用いることができる。例えばチラーによる冷却媒体を沈降室の近傍や内部に循環させる循環路を設けること等によって、冷却装置を構成するもの等であってもよい。
【0022】
排出機構15は、沈降室12内の培養液の上清を貯留槽18に排出させる流路を形成するものであり、
沈降室12内に設置される排出管151と、
排出液を送るために流路上に設けられるポンプP2と、
排出液を計量するための計量槽142と、
これらの部材及び沈降室12と貯留槽18との間を相互に接続するパイプやチューブ等の各流路部材と、
流路上に設けられて流路の切り替えや開閉を行う各開閉弁V2、V3と、
を備えて、沈降室12と貯留槽18との間を接続している。
排出管151は中空のパイプによって構成され、
図2にも示されるように、先端がJ字状に湾曲しており、その先端の開口である端部開口1511が、上を向いて開口するように構成されている。本実施形態の排出管151は、その端部開口1511が、傾斜して配置される沈降室12の上部側面12uに近い位置に配置されている。これにより、「沈降室内で開口する排出機構の端部開口が、流入経路上となる位置に配され」るものとなる。
なお、計量槽142、ポンプP2、開閉弁V2、V3(及びこれらを接続する流路部材や、フィルターF)については、特許文献1の
図2で示される供給/排出部16と同様の概念のものであるため、ここでの説明を省略する。特許文献1で示される供給/排出部16と同様のものを用いることにより、培養液(上清)の抜き出し量を正確に制御することができる。
【0023】
供給機構16は、排出機構15によって排出された培養液に応じた量の新たな培養液を培養槽11に供給する流路を構成するものであり、
培養液を送るために流路上に設けられるポンプP1と、
供給する培養液を計量するための計量槽141と、
これらの部材及び培養槽11とフィード液槽17の間を相互に接続するパイプやチューブ等の各流路部材と、
流路上に設けられて流路の切り替えや開閉を行う開閉弁V1と、
を備えて、培養槽11とフィード液槽17との間を接続している。
供給機構16については、特許文献1の
図3で示される供給部18と同様の概念のものであるため、ここでの説明を省略する。特許文献1で示される供給部18と同様のものを用いることにより、培養液の供給量を正確に制御することができる。
なお、貯留槽18とフィード液槽17には、無菌フィルターFを介して槽の内部空間と外部空間とを連通する通気ユニットが備えられている。また、特に図示しないが、培養槽11についても、通気ユニットを備えた構成とすることができる。
【0024】
上記構成を有する本実施形態の灌流培養システム1は、沈降室12及び冷却装置13によって培養液を上清と沈殿物とに効率的に分離し、上清を排出機構15によって貯留槽18に排出させつつ、排出された上清に応じた量の新たな培養液をフィード液槽17から供給機構16によって培養槽11へと供給することで、灌流培養を行う。
【0025】
上記処理動作において、培養液の分離が、培養槽11に配置された沈降室12内で行われる。
当該培養液の分離は、本実施形態においては、沈降室12及び冷却装置13によってもたらされる2つの機能に基づいている。第1には、冷却装置によって沈降室12内の培養液を冷却することで、細胞を凝集し、沈降させることで、培養液からの細胞の分離を効率化するものである。第2には、冷却装置によって沈降室12内の培養液を冷却することで、沈降室内に対流を生じさせ、且つ、沈降室12を傾斜させておくことで、「傾斜によって上部側となる側面における沈降室内への培養液の流入経路P
in」と、「傾斜によって下部側となる側面における培養槽への培養液の戻り経路P
out」と、を形成し、沈降する細胞を効率よく培養槽11に戻すものである。
図2は、沈降室12内の動作概念を示す概念図である。
沈降室12は、下端側の開口121が培養液CFの中で開口しており、上端側は密閉されている。この沈降室12内に配された排出管151(上述の排出機構15)によって吸引を行うと、沈降室12の内部が負圧となり、沈降室12内の液面が上昇し、液面が端部開口1511に達することで、培養液(上清)が排出管151(排出機構15)によって引き抜かれる。当該構成により、「排出機構の端部開口が、沈降室内の培養液の液面付近となる位置に配され」るものである。
沈降室12内の細胞Cは、冷却装置13による冷却によって凝集し、沈降速度が増加する。これによって、沈降室12内の液面付近に位置することになる端部開口1511からは上清が排出されることになる(第1の機能)。
また、この引抜き動作時に、培養槽11内の培養液CFが沈降室12内に流入することになるが、沈降室12内の培養液が冷却されていることにより、沈降室12内で対流が生じる。この対流は、
図2に示されるように、沈降室12の上部側面12uの側における沈降室12内への培養液の流入経路P
inと、下部側面12dの側における培養槽11への培養液の戻り経路P
outと、を有する(沈降室12の傾斜によってこのような傾向付けがなされる)。
この対流により、
図2からも理解されるように、沈降する細胞Cは、戻り経路P
out上の流れに乗って、効率的に培養槽11へと戻されることになる。一方、端部開口1511は、流入経路P
in上の液面付近に位置しているため(凝集した細胞が沈降していく経路である「戻り経路P
out」に位置していないことにより)、含まれている細胞が少ない上清を排出することができる。
上記のように、本実施形態の沈降室12は、培養液を培養槽11との間で循環させながら細胞の分離を行うことができ、従って、培養液に分散した細胞の分離(及び上清の引き抜き)の工程において細胞がダメージを受けることを低減すること(常時酸素等を適切に供給すること)ができる。
なお、本実施形態では、冷却による細胞の凝集という第1の機能と、対流及び傾斜による流入経路と戻り経路の形成という第2の機能と、の双方の機能を有し、好適なものであるが、本発明をこれらの双方を有するものに限るというものではなく、いずれか一方の機能のみを利用するものであっても構わない。
【0026】
以上のごとく、本実施形態の灌流培養システム(培養装置)、培養槽、及び細胞分離方法によれば、培養液に分散した細胞の分離(及び上清の引き抜き)の工程において、細胞がダメージを受けてしまうことを低減することができ、なお且つこれを比較的簡易な構成で実現することができる。
簡易な構成であることにより、シングルユースとして用いる場合にも好適である。例えば、交換部品(シングルユース品)として、培養槽部分(培養液中において開口を有する位置に取り付けられた沈降室を備える培養槽)を、比較的安価に提供すること等が可能となる。
【0027】
なお、分離効率を高めるためには、流入経路Pinにおける流入する培養液の線速度の上昇成分が、凝集した細胞Cの沈降速度よりも遅くなるように、ポンプP2を制御することが好ましい。
一方で、培養槽11内の細胞密度が高くなり過ぎた場合に、細胞の抜き取り(培養槽11内の細胞量の調整)をしたい場合には、吸引を増大する(上記とは逆に、流入経路Pinにおける流入する培養液の線速度を、凝集した細胞Cの沈降速度よりもより速くする)ことだけで簡単にこれを行うことができる。細胞の抜き取りをする際には、冷却装置13による冷却を停止するようにしてもよい。
これらの制御(ポンプ等の制御)は、設定値に従って動作(制御部が設定値に基づいて各部の動作を制御)するものであってもよいし、培養槽11内の細胞密度をセンサ等(例えば、特許文献1に記載の計測部22等を用いること)によって測定し、当該測定値に基づいて、細胞密度が所定範囲となるようにPID等のフィードバック制御によって動作(センサ値に基づいて制御部が各部の動作を制御)させるものであってもよい。
【0028】
本実施形態では、沈降室12の開口121が、管状の部材である沈降室12の一端(下端)において形成されているものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、培養液が培養槽との間で出入り可能である(少なくとも培養槽からの培養液の流入が可能な)開口であれば、任意の開口とすることができる。
ここで、開口の液面に対する位置(深さ)は、「培養中に培養槽内の培養液液面付近の泡が存在する泡存在領域よりも深い」ことが好ましい。
図3はこの点を説明するための概略図である。
培養中においては、培養槽内の培養液で生じた泡が、液面WS1付近に浮んでいる状態となることがある。この泡に対して細胞が付着しやすく、この泡が存在する泡存在領域BZ(
図3の斜線部分)に開口121が位置していると、泡に付着した細胞を吸い込みやすく、細胞の分離効率が上がり難くなるおそれがある。これに対し、
図3に示されるように、開口121の深さD1を、泡存在領域BZよりも深く設定しておくことにより、細胞の分離効率を高くすることができる。
【0029】
また、本実施形態では、開口が1つであるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、開口が複数あるものであってもよい。例えば、開口として、「流入経路」上に設けられる流入開口と、「戻り経路」上に設けられる戻り開口と、をそれぞれ形成するようにしてもよい。
図5にはこのようなものの例を示した。
図5の沈降室12-2では、流入経路P
in用の流入開口1211と、戻り経路P
out用の戻り開口1212が、別個の開口として形成されている。それぞれの経路上にそれ専用の開口とすることで、流入経路と戻り経路がより形成されやすくなることが期待できるものである。なお、上清が排出されるため、流量としては流入経路P
inの方が多い。従って、流入開口1211を戻り開口1212よりも大きく形成するようにしてもよい。
【0030】
本実施形態では沈降室が管状の部材であるものを例としたが、本発明をこれに限るものではなく、沈降室は、培養槽内の培養液中において開口を有する(即ち、その内部に培養液を保持し(所定の区画内に培養液を囲い)つつ、培養液が培養槽との間で出入り可能である)任意の形状の部材であってよい。
また、本実施形態では、沈降室12の上部側が培養槽の外部に突出した構成を例としたが、培養槽の側面において沈降室12の一部が突出しているような構成であってもよい。また、本実施形態では、沈降室12の一部を培養槽の外部に突出させて、当該外部に突出している部分を冷却装置で冷却するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、例えば、沈降室の全体が培養槽の内部に配置されているもの等であってもよい。例えば、本実施形態では冷却装置が沈降室の外部から沈降室を冷却するものを例としているが、沈降室の内部に冷却装置を設けつつ、沈降室の全体が培養槽の内部に配置されるもの等であってもよい。この場合、沈降室を熱伝導率の低い部材で構成することにより、培養槽における培養液の温度管理への影響を低減させつつ、沈降室内に設けた冷却装置によって沈降室内の培養液を冷却して細胞を凝集させることができる。
【0031】
本実施形態では、排出管151の端部がJ字状に湾曲して、その端部開口1511が上を向くように構成されているものを例としたが、本発明をこれに限るものではなく、排出管151の端部開口が側面を向いているものや、例えば
図3の排出管151-1の端部開口1511-1のように、下を向いて開口しているもの等であってもよい。「排出機構の端部開口が、沈降室内の培養液の液面付近となる位置に配され」るように構成することで、細胞があまり含まれていない上清を引き抜く(排出する)ことができる(分離効率を向上することができる)。
【0032】
本実施形態では、端部開口が、培養槽内の培養液の液面より高い位置であることにより、
図3に示されるように、沈降室12-1内の培養液の液面WS2が、培養槽内の培養液の液面WS1よりも高くなるものとしている。これによれば、より高い位置までの細胞の上昇はし難いと考えられるため、細胞の分離効率を高くし得るという作用効果を得ることができるため好適であるが、本発明をこれに限るものではない。
図4は、培養槽内の培養液の液面高さと沈降室内の培養液の液面高さが違うもののうち、沈降室12-1内の培養液の液面WS2を、培養槽内の培養液の液面WS1よりも低くした例の概略図である。前述のごとく、沈降室の上部側は密閉されている(沈降室の上部で排出管が挿通されているが、排出管の端部開口が液面WS2と同じ高さとなった後は、沈降室内の空気は抜けない構成である)ため、排出管151-1の端部開口1511-1の位置を、培養槽内の培養液の液面WS1よりも低くすることで、液面WS2は液面WS1より低くなる。このような構成とすると、水圧がかかるため、引き抜き(排出)用のポンプ(
図1のポンプP2)の負荷を低減することができる。
ここでは培養槽内の培養液の液面高さと、沈降室内の培養液の液面高さが異なるように構成されているものを例としているが、培養槽内の培養液の液面高さと、沈降室内の培養液の液面高さが同じになるものであってもよい。
なお、引き抜き(排出)用のポンプの能力に問題が無い場合には、沈降室の冷却効果や、その冷却の培養槽内の培養液への影響の低減、加えて対流の効率的な形成等の観点においては、本実施形態のように、培養槽内の培養液の液面より端部開口が高く設定され、これにより、引き抜き時には沈降室内の液面が、培養槽内の培養液の液面より高くなる構成の方がより好適である。
本実施形態では、沈降室12の培養槽11に対する取り付け高さを調整できるものを例としているが、これに替えて(或いはこれに加えて)、沈降室12に対する排出管151(端部開口1511)の高さを調節可能としてもよい。
【0033】
本実施形態では、その構成上、上清の排出時には必ず排出管の端部開口が沈降室内の液面付近に位置することになるが、本発明をこれに限るものではない。例えば、排出管とは別途の負圧手段により沈降室12内を負圧にすることで、排出管の端部開口の高さが、沈降室内の培養液の液面より低い位置となるように配置するものであってもよい。端部開口を沈降室内の培養液の液面より低い位置に設ける場合においても、端部開口1511は流入経路Pin上に設けることが好ましい。
【0034】
上記に加え、さらに、沈降室内の培養液の液面を規制するための液面規制部材を設けるようにしてもよい。
図6には、液面規制部材としての内蓋(この例ではゴム栓)19を備える沈降室12-3を示した。
ゴム栓19は、沈降室12-3の内部に嵌まる外形形状を有しており、また、排出管151-1を挿通させる挿通穴が形成されている。排出管151-1の端部開口1511-1は、ゴム栓19の底面と略面一か、ゴム栓19の底面よりも上部側となるような配置とされる。また、ゴム栓19の底面は、沈降室12-3の内部形状と同様の形状を有して、排出管151-1の挿通部分を除き、沈降室12-3の内部でこれを閉塞するように構成されている。これにより、排出管151-1によって吸引を行うと、沈降室12-3のゴム栓19より下の内部が負圧となり、沈降室12-3内の培養液CFの液面が上昇し、液面の少なくとも一部がゴム栓19の底面に接触するようになる。
図6に示されるように、ゴム栓19の底面は、沈降室12の上部側面12-3uの側が高く、下部側面12-3dの側が低くなるような傾斜面となっている。従って、沈降室12-3内の液面は、ゴム栓19の底面(液面規制部材)によって規制されて、傾斜した面となる。
これにより、上部側面12-3uに沿った流入経路P
inから、ゴム栓19の底面(液面規制部材)に沿った経路を介して、下部側面12-3dに沿った戻り経路P
outによって構成される対流が、より効率的に生じやすくなること(培養液に分散した細胞の分離の効率化)が期待できる。
【符号の説明】
【0035】
1...灌流培養システム(培養装置)
11...培養槽
12...沈降室
121...開口
13...冷却装置(冷却凝集装置)
15...排出機構
1511...端部開口
16...供給機構