(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021447
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】乳化重合用界面活性剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 23/42 20220101AFI20250205BHJP
C08G 65/326 20060101ALI20250205BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20250205BHJP
C08F 2/26 20060101ALI20250205BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C09K23/42
C08G65/326
C08F20/00 510
C08F2/26 A
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119336
(22)【出願日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023124155
(32)【優先日】2023-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰克
(72)【発明者】
【氏名】光田 義徳
(72)【発明者】
【氏名】玉川 旺士郎
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4J005
4J011
【Fターム(参考)】
4D077AB14
4D077AC01
4D077BA13
4D077DB06X
4D077DB06Y
4D077DC14Y
4D077DC14Z
4D077DC19Y
4D077DC19Z
4D077DC57Y
4D077DD50Y
4J002AA001
4J002BG041
4J002BG051
4J002GH01
4J002HA07
4J005AA12
4J005BD06
4J011AA05
4J011KA04
4J011KB08
4J011KB14
4J011KB29
(57)【要約】
【課題】高濃度の界面活性剤を含み、流動性に優れる乳化重合用界面活性剤組成物、該乳化重合用界面活性剤組成物を含むポリマーエマルション、及び該ポリマーエマルションの製造方法を提供する。
【解決手段】[1]下記式(1)で表される化合物(A)、無機塩、及び水を含有する乳化重合用界面活性剤組成物であって、該乳化重合用界面活性剤組成物中の、前記化合物(A)100質量部に対する前記無機塩の含有量が0.05質量部以上5質量部以下である、乳化重合用界面活性剤組成物、及び[2]前記乳化重合用界面活性剤組成物と、樹脂とを含有する、ポリマーエマルション。
[式(1)中、R
1は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
1は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、mはA
1Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物(A)、無機塩、及び水を含有する乳化重合用界面活性剤組成物であって、該乳化重合用界面活性剤組成物中の、前記化合物(A)100質量部に対する前記無機塩の含有量が0.05質量部以上5質量部以下である、乳化重合用界面活性剤組成物。
【化1】
[式(1)中、R
1は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
1は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、mはA
1Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
【請求項2】
前記無機塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
【請求項3】
前記乳化重合用界面活性剤組成物中の前記化合物(A)と前記無機塩の合計の含有量が、10質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
【請求項4】
更に下記式(2)で表される化合物(B)を含有し、前記化合物(A)100質量部に対し前記化合物(B)を10質量部以下含有する、請求項1に記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
【化2】
[式(2)中、R
2は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
2は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、nはA
2Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下である。]
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(C)を乳化重合する、ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の乳化重合用界面活性剤組成物と、樹脂とを含有する、ポリマーエマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化重合用界面活性剤組成物、該乳化重合用界面活性剤組成物を含むポリマーエマルション、及び該ポリマーエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル酸エステル、スチレン等のビニルモノマーの乳化重合によって得られるポリマーエマルションは、塗料、接着剤、紙加工、繊維加工等の分野において、そのまま広く使用されている。乳化重合には、乳化剤として、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤が用いられている。
これらの界面活性剤を用いたポリマーエマルションを含有する塗料や接着剤等では、ポリマーエマルションの乾燥により塗膜が形成されるが、塗膜中に乳化剤が残るため、耐水性、接着性、耐候性、耐熱性等を低下させる原因となることが知られている。
【0003】
例えば、水性塗料には(メタ)アクリル酸エステルを乳化重合したポリマーエマルションが用いられるが、この塗膜の耐水性が悪いと、建築外壁や浴室壁等の耐水性が要求される用途に使用することができない。また、水性接着剤に関しても、ポリマーエマルションの塗膜の耐水性が悪いと、接着強度の低下を引き起こすことになり、接着剤として使用することが出来ない。
そこで、ポリマーエマルションの製造時に、得られるポリマーエマルションの用途に適した乳化剤を使用するものとして、種々の乳化重合用界面活性剤、及びポリマーエマルションの製造方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩の存在下、ラジカル重合可能なモノマーを乳化重合する、耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況において、移送コストの削減や、優れたハンドリング性を得る観点から、高濃度の界面活性剤を含み、流動性に優れる乳化重合用界面活性剤、及び耐水塗膜用ポリマーエマルションに好適な乳化重合用界面活性剤の開発が求められている。
本発明は、高濃度の界面活性剤を含み、流動性に優れる乳化重合用界面活性剤、該乳化重合用界面活性剤組成物を含むポリマーエマルション、及び該ポリマーエマルションの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の構造を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩と、無機塩と、水とを含有する乳化重合用界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩を高濃度で含むにもかかわらず、流動性に優れること、及び該乳化重合用界面活性剤を用いるポリマーエマルションの製造時のハンドリング性が優れることを見出し、該ポリマーエマルションの塗膜が耐水性に優れることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[6]を提供する。
[1]下記式(1)で表される化合物(A)、無機塩、及び水を含有する乳化重合用界面活性剤組成物であって、該乳化重合用界面活性剤組成物中の、前記化合物(A)100質量部に対する前記無機塩の含有量が0.05質量部以上5質量部以下である、乳化重合用界面活性剤組成物。
【化1】
[式(1)中、R
1は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
1は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、mはA
1Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
[2]前記無機塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる1種以上である、[1]に記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
[3]前記乳化重合用界面活性剤組成物中の前記化合物(A)と前記無機塩の合計の含有量が、10質量%以上40質量%以下である、[1]又は[2]に記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
[4]更に下記式(2)で表される化合物(B)を含有し、前記化合物(A)100質量部に対し前記化合物(B)を10質量部以下含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の乳化重合用界面活性剤組成物。
【化2】
[式(2)中、R
2は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
2は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、nはA
2Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下である。]
[5][1]~[4]のいずれかに記載の乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(C)を乳化重合する、ポリマーエマルションの製造方法。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の乳化重合用界面活性剤組成物と、樹脂とを含有する、ポリマーエマルション。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高濃度の界面活性剤を含み、流動性に優れる乳化重合用界面活性剤、該乳化重合用界面活性剤組成物を含むポリマーエマルション、及び該ポリマーエマルションの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[乳化重合用界面活性剤組成物]
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物(以下、単に「組成物」と称することもある。)は、式(1)で表される化合物(A)、無機塩、及び水を含有し、化合物(A)100質量部に対する無機塩の含有量が0.05質量部以上5質量部以下である。
【0011】
【化3】
[式(1)中、R
1は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A
1は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、mはA
1Oの平均付加モル数を示し、4以上20以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
【0012】
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、式(1)で表される化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」と称することもある。)を高濃度で含むにもかかわらず、流動性に優れ、本発明の乳化重合用界面活性剤組成物を用いて製造したポリマーエマルションを用いて製造した塗膜(以下、「ポリマー塗膜」と称することもある。)が耐水性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩は結晶性が高いため、界面活性剤組成物中で析出しやすいという問題があった。化合物(A)は、ポリオキシアルキレン由来の平均付加モル数を特定の範囲とすることにより、その結晶性を調整することで、界面活性剤組成物中での析出を抑制することができたと考えられる。
しかし、化合物(A)を高濃度に含む組成物は、化合物(A)の濃度が一定以上になると化合物(A)が液晶構造をとり、流動性が失われるという問題を発明者らは見出した。ここに無機塩を添加すると、化合物(A)が規則的に配列することを妨げることで、化合物(A)の流動性が維持され、また、化合物(A)に対する無機塩の量を適切な範囲とすることで、式(1)で表される化合物(A)を高濃度で含むにもかかわらず、流動性に優れる乳化重合用界面活性剤組成物となると考えられる。
また、化合物(A)の存在下で、ラジカル重合可能なモノマー(C)を乳化重合する際に、化合物(A)は界面活性能が高いことから、ポリマーエマルション中の樹脂粒子を小粒径化することが可能であり、このポリマーエマルションを用いて調製した塗膜は緻密な膜となり耐水性が優れると考えられる。更に、化合物(A)はクラフト点が比較的高いことから、塗膜中で移動しにくく、長期間放置されても塗膜表面へブリードしないので、水に曝される環境下に置かれても、塗膜中に水を引き込みにくいことから、塗膜の耐水性が優れると考えられる。
【0013】
<化合物(A)>
化合物(A)は、下記式(1)で表される、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩である。
なお、化合物(A)は、式(1)で表される、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルの塩から選ばれる1種を含有していればよく、2種以上を含有していてもよい。
【0014】
【0015】
式(1)中、R1は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A1は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、mはA1Oで表されるアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、4以上20以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。
【0016】
式(1)におけるR1であるアルキル基は、直鎖でも分岐鎖であってもよいが、組成物中の化合物(A)のポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、直鎖であることが好ましい。
アルキル基の炭素数は、組成物中の化合物(A)の濃度を高める観点、及びポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、好ましくは15以上であり、より好ましくは16以上であり、そして、好ましくは20以下であり、より好ましくは18以下である。すなわち、アルキル基の炭素数は、好ましくは15以上20以下、より好ましくは16以上18以下である。
R1の具体例としては、ミリスチリル基、ペンタデシル基、パルミチル基、マルガリル基、イソステアリル基、2-ヘプチルウンデシル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基、リグノセリル基等のアルキル基が挙げられ、組成物中の化合物(A)のポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、ミリスチリル基、パルミチル基、ステアリル基、及びアラキジル基から選ばれる1種以上が好ましく、ステアリル基がより好ましい。
【0017】
式(1)におけるA1であるアルキレン基は、直鎖でも分岐鎖であってもよい。
A1の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、テトラメチレン基等のアルキレン基が挙げられ、ポリマーエマルション製造時のハンドリング性を向上する観点、及び組成物中の化合物(A)のポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる1種以上が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0018】
式(1)におけるmは、A1Oの平均付加モル数を示し、組成物中の化合物(A)の濃度を高める観点、及びポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、4以上、好ましくは6以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは10以上、より更に好ましくは11以上であり、そして、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。すなわち、mは、4以上20以下であり、好ましくは6以上18以下、より好ましくは9以上16以下、更に好ましくは10以上16以下、より更に好ましくは11以上16以下である。
平均付加モル数mは、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
式(1)におけるMは、陽イオン又は水素原子を示す。
Mが陽イオンである場合、式(1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩となる。この場合、式(1)で表される化合物は、厳密には以下の式(1-1)で表される。
【0020】
【0021】
式(1-1)中のR1及びmは、式(1)中のR1、A1、及びmと同義であり、好ましい範囲も同じである。M+は陽イオンを示す。
【0022】
Mである陽イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及びトリエタノールアンモニウムイオン等のアルカノールアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中では、ポリマーエマルション中の樹脂粒子を小粒径化し、ポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、Mは、好ましくはアルカリ金属イオン及びアルカノールアンモニウムイオンから選ばれる1種以上、より好ましくはアルカリ金属イオン、更に好ましくはナトリウムイオン(Na+)及びカリウムイオン(K+)から選ばれる1種以上、より更に好ましくはナトリウムイオン(Na+)である。
【0023】
式(1)におけるMが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルとなる。
【0024】
化合物(A)のクラフト点は、ポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、そして、ポリマーエマルション製造における作業性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下、より更に好ましくは60℃以下、より更に好ましくは50℃以下、より更に好ましくは40℃以下である。
なお、2種以上の化合物(A)を用いる場合は、クラフト点の異なる複数の化合物の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で上記の範囲とすることが好ましい。
【0025】
<化合物(B)>
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、更に下記式(2)で表される化合物(B)を含有していてもよい。化合物(B)は、下記式(2)で表される、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。組成物は、化合物(B)を1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0026】
【0027】
式(2)中、R2は炭素数14以上24以下のアルキル基を示し、A2は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、nはA2Oで表されるアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、4以上20以下である。
ここで、R2の好適例等は式(1)のR1と同様であり、A2の好適例等は式(1)のA1と同様であり、nの好適例等は式(1)のmと同様である。
【0028】
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物が化合物(B)を含む場合、その含有量は、化合物(A)100質量部に対し、好ましくは10質量部以下、より好ましくは9質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、より更に好ましくは5質量部以下であり、そして、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、より更に好ましくは1.5質量部以上である。化合物(B)の含有量がこの範囲であれば、組成物中の化合物(A)の濃度を高めることができ、ポリマーエマルション製造時のラジカル重合可能なモノマー(C)の乳化性を向上し、得られる樹脂粒子を小粒径化し、ポリマーエマルション中の樹脂粒子の安定性を向上させることができる。
【0029】
<無機塩>
無機塩は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、又はアンモニウムイオンの塩化物、硫酸塩、又はリン酸塩である。組成物は、無機塩を1種又は2種以上を含有していてもよい。
無機塩は、組成物中の化合物(A)の濃度を高める観点、及びポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、好ましくはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンの塩化物、硫酸塩、又はリン酸塩であり、より好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、及びリン酸水素二アンモニウムであり、更に好ましくは硫酸ナトリウムである。
【0030】
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物中の無機塩の含有量は、化合物(A)100質量部に対し、0.05質量部以上5質量部以下である。組成物中の化合物(A)の濃度を高めてポリマーエマルション製造時のハンドリング性を向上し、ポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは4.7質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0031】
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物中の前記化合物(A)と前記無機塩の合計の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは13質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。化合物(A)と無機塩の合計の含有量がこの範囲であれば、組成物中の化合物(A)の濃度をより高めることができ、ポリマーエマルション製造時のハンドリング性をより向上し、ポリマー塗膜の耐水性をより向上させることができる。
【0032】
<水>
水は、水道水、蒸留水、イオン交換水等を用いることができ、好ましくは蒸留水及びイオン交換水である。
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、メタノール、エタノール、1,2-プロパンジオール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;アセトニトリル等のアルキルニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル等の有機溶媒を含んでいてもよい。
組成物が有機溶媒を含む場合、その含有量は、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0033】
[乳化重合用界面活性剤組成物の製造方法]
<化合物(A)の製造方法>
式(1)で表される化合物(A)は、式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(化合物(B))を硫酸化剤により硫酸エステル化し、必要に応じて塩基性物質で中和することによって得ることができる。式(1)で表される化合物(A)の製造方法としては、例えば、特開2018-95752号公報に記載の製造方法が参照される。
【0034】
<乳化重合用界面活性剤組成物の製造方法>
上記方法で得た化合物(A)と、無機塩と、水とを混合することで、乳化重合用界面活性剤組成物を得ることができる。無機塩は化合物(A)を製造する際に生じた無機塩をそのまま化合物(A)と共に用いてもよく、また化合物(A)を脱塩した後に、所望の無機塩を混合してもよい。
乳化重合用界面活性剤組成物が化合物(B)を含む場合、化合物(B)は化合物(A)を製造する際に未反応のまま残留した化合物(B)をそのまま化合物(A)と共に用いてもよく、また化合物(A)を単離した後に、所望の化合物(B)を混合してもよい。
【0035】
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、高濃度の界面活性剤を含み、流動性に優れるため、移送コスト及び保管コストを削減することができ、また、乳化重合でポリマーエマルションを製造する際や後述の乳化用界面活性剤組成物として用いた際の樹脂の乳化物の製造の際に、仕込みの手間を簡略化できる等の優れたハンドリング性を奏する。
【0036】
[ポリマーエマルションの製造方法]
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、上記乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(C)(以下、単に「モノマー(C)」ともいう)を乳化重合する方法である。換言すると、本発明のポリマーエマルションの製造方法は、式(1)で表される化合物(A)、無機塩、及び水、任意に式(2)で表される化合物(B)を含有する界面活性剤組成物の、ラジカル重合可能なモノマー(C)の乳化重合への使用である。
上記乳化重合用界面活性剤組成物は、化合物(A)を高濃度で含み、流動性に優れるため、ポリマーエマルション製造時に仕込みの手間を簡略化でき、ハンドリング性を向上することができ、更に、無機塩の含有量が少ないため、本発明のポリマーエマルションの製造方法で得られるポリマーエマルションから得られる塗膜は、高い耐水性を発現することができる。
【0037】
<ラジカル重合可能なモノマー(C)>
ラジカル重合可能なモノマー(C)としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の好ましくは炭素数1以上22以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル及び塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリロニトリル;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
これらのモノマー(C)は単独重合、又は2種以上を併用して共重合させてもよい。
なお、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸及びアクリル酸から選ばれる1種又は2種を意味し、(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種を意味し、(メタ)アクリロニトリルは、メタクリロニトリル及びアクリロニトリルから選ばれる1種又は2種を意味する。以下においても同様である。これらの中でも本発明のポリマーエマルションの製造方法において乳化重合されるラジカル重合可能なモノマー(C)は、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリルから選ばれる1種以上がより好ましく、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルから選ばれる1種以上が更に好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルから選ばれる1種以上がより更に好ましい。
【0038】
<他の乳化剤>
本発明のポリマーエマルションの製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲で、上記乳化重合用界面活性剤組成物に含まれる化合物(A)及び化合物(B)以外のその他の乳化剤を併用することができる。その他の乳化剤としては、例えば、アルコールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤;アルキルサルフェート、化合物(A)を除くアルキルエーテルサルフェート、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボキシレート、アルキルフェニルスルホネート、内部オレフィンスルホネート等のアニオン性界面活性剤、更に水溶性保護コロイド等が挙げられる。
本発明のポリマーエマルションの製造方法において化合物(A)及び化合物(B)以外のその他の乳化剤の含有量は、本発明の乳化重合用界面活性剤組成物に対して15質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下がより更に好ましく、実質的に0質量%であることがより更に好ましい。
【0039】
乳化重合に用いるラジカル重合開始剤は、通常の乳化重合に用いられるものであればいずれも使用できる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスジイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系化合物等が挙げられるが、重合反応性、作業性及び経済性の観点から、過硫酸塩が好ましい。更に、重合開始剤としては、過酸化化合物に亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系の開始剤も使用できる。また、重合促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄アンモニウム等を用いることもできる。
【0040】
本発明のポリマーエマルションの製造方法において、乳化重合は水中で行われる。用いられる水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられ、好ましくは蒸留水及びイオン交換水である。上記水は、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、乳化重合用界面活性剤組成物が含んでいてもよい有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0041】
(各成分の配合量)
本発明のポリマーエマルションの製造方法において、ラジカル重合可能なモノマー(C)の使用量は、ポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径を小さくし、重合安定性、ポリマー塗膜の耐水性の観点から、全系に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
ポリマーエマルションの製造方法において、乳化重合用界面活性剤組成物の使用量は、モノマー(C)100質量部に対して、化合物(A)が、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下となる量である。
【0042】
(乳化重合条件)
乳化重合において、モノマー(C)を添加する場合、モノマー滴下法、モノマー一括仕込み法、プレエマルション法等のいずれの方法も用いることができるが、重合安定性の観点から、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度より10℃以上低い温度環境においてモノマー(C)を本発明の乳化重合用界面活性剤組成物で乳化したプレエマルジョンを調製し、このプレエマルジョンをラジカル重合実施温度に保持した反応系へ添加して乳化重合する、いわゆるプレエマルション法が好ましい。
プレエマルションの滴下時間は、1時間以上8時間以下、熟成時間は1時間以上5時間以下が好ましい。重合温度は、重合開始剤の10時間半減期温度を目安に調整されるが、50℃以上90℃以下が好ましく、特に過硫酸塩の場合は70℃以上85℃以下が好ましい。
【0043】
[ポリマーエマルション]
本発明のポリマーエマルションは、上記ポリマーエマルションの製造方法により得られる。すなわち、本発明のポリマーエマルションは、上記乳化重合用界面活性剤組成物と、ラジカル重合可能なモノマー(C)の重合物である樹脂を含む。
本発明のポリマーエマルションは、好ましくは塗膜の製造に用いられ、より好ましくは耐水塗膜の製造に用いられる。
【0044】
本明細書において、「塗膜」とは、ポリマーエマルションを基板に塗布した後、必要に応じて硬化し、乾燥させた状態にある膜を意味し、「耐水塗膜」とは、耐水性を有する塗膜を意味する。
また、「耐水性を有する」とは、単に塗膜を水中に浸漬した状態での膨れや剥離の有無で評価するものではなく、実施例に記載のように、塗膜を40℃の温水中に7日間静置浸漬した後に、室温乾燥した塗膜のヘーズ値を測定し、ヘーズ値が好ましくは55%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下、より更に好ましくは20%以下、より更に好ましくは15%以下、より更に好ましくは10%以下、より更に好ましくは5%以下であることを意味する。
【0045】
本発明のポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径は、ポリマー塗膜の耐水性の観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは180nm以下であり、そして、重合安定性の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは80nm以上である。
ポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
また、ポリマーエマルションの粘度は、作業性の観点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは25mPa・s以上、更に好ましくは50mPa・s以上であり、そして、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは10,000mPa・s以下、更に好ましくは5,000mPa・s以下である。ポリマーエマルションの粘度の測定は、ブルックフィールド型粘度計を用いる回転粘度計法等の一般に用いられる測定方法により行うことができる。
【0046】
[ポリマー塗膜の製造方法]
本発明のポリマーエマルションを用いる塗膜の製造方法は、ポリマーエマルションを基板に塗布する工程、及び乾燥する工程を含む。
【0047】
用いる基板に特に制限はなく、ガラス、金属(アルミニウム、ステンレス等)、セラミックス(碍子、タイル等)、耐熱性高分子材料等からなる基板が挙げられる。
ポリマーエマルションを基板に塗布する方法に特に制限はなく、コンマコーター、ブレードコーター、グラビアコーター等のロールコーター、スロットダイコーター、リップコーター、カーテンコーター等の従来公知のコーティング装置を用いることができる。
【0048】
ポリマーエマルションを基板に塗布し乾燥するが、乾燥は自然乾燥であっても、加熱乾燥であってもよい。加熱乾燥により、乾燥工程で加熱することにより、乾燥時間を短縮し、形成される塗膜の硬度を向上させることができる。
乾燥を加熱乾燥で行う場合、加熱温度は、生産性及び塗膜の均一性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
乾燥を加熱乾燥で行う場合、加熱時間は、生産性及び塗膜の均一性の観点から、好ましくは10秒間以上、より好ましくは30秒間以上、より好ましくは1分間以上であり、そして、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。
塗膜の厚さは、用途等により異なるが、生産性、及び塗膜の耐水性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下であり、そして、硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
【0049】
[塗料組成物]
本発明のポリマーエマルションを用いて製造した塗膜は耐水性に優れるため、ポリマーエマルションを塗料組成物として用いることができる。塗料組成物には、顔料や、必要に応じて、増粘剤、粘着付与剤、粘性制御剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤等を更に含有することができる。
顔料としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料;ベンガラ、カーボンブラック、群青、黄酸化鉄等の着色顔料;二酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料、雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等のパール系顔料等の無機系顔料;有機合成色素としての染料、有機顔料等が挙げられる。これらの顔料は単独で又は2種以上を組み合せて使用することができる。
【0050】
塗料組成物中のポリマーエマルションの含有量は、適宜調整することができる。塗膜の耐水性の観点から、塗料組成物中の全固形分に対し固形分換算で、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。
【0051】
塗料組成物に顔料が含まれる場合、塗料組成物中の顔料の含有量は、塗膜の耐水性の観点から、塗料組成物中の全固形分に対し固形物換算(PWC)で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。PWCは下記式により算出される。
PWC=(塗料組成物中の顔料固形分÷塗料組成物中の全固形分)×100
【0052】
本発明のポリマーエマルションを塗料組成物として用いる場合、乾燥膜厚が1~500μm程度、好ましくは10~300μm程度になるように塗工してもよい。これを自然乾燥、又は加熱乾燥することにより、耐水性に優れた塗膜を得ることができる。
【0053】
また、本発明のポリマーエマルションは粘着剤用途に用いることもできる。この場合、ポリマーエマルションの製造の際にアクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ブチル等を用いガラス転移温度(Tg)の低い重合物(樹脂)を製造した後に、得られたポリマーエマルションに、必要に応じて、増粘剤、粘着付与剤等を配合したものを紙やフィルム等の基材に塗工し、熱風乾燥して厚さ10~40μm程度のポリマー塗膜を形成することで、耐水性、及び粘着性能に優れた粘着製品を得ることができる。
本発明のポリマーエマルションを用いて製造した塗膜は耐水性に優れ、塗料、特に水性塗料分野や、粘着剤分野に好ましく用いることができ、その用途が一層広がることが期待される。
【0054】
[乳化用界面活性剤組成物]
本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、樹脂の乳化に用いることもできる。すなわち、本発明の乳化重合用界面活性剤組成物は、乳化用界面活性剤組成物でもある。乳化用界面活性剤組成物が乳化できる樹脂としては、特に限定されないが、上記ラジカル重合可能なモノマー(C)より得られる樹脂;脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂等の合成樹脂;ロジン、テルペン樹脂等の天然樹脂が挙げられる。
乳化用界面活性剤組成物による樹脂の乳化物は、式(1)で表される化合物(A)、無機塩、水、及び樹脂、任意に式(2)で表される化合物(B)を含有する。乳化物が樹脂としてロジン及びテルペン樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含む場合、乳化物はタッキファイヤーとして用いることができる。このタッキファイヤーは、本発明のポリマーエマルションを用いて製造した塗膜と同様に耐水性に優れるため、粘着力の低下を抑制することができる。
【実施例0055】
合成例1(化合物A1の合成)
ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(エチレンオキシドの平均付加モル数11.0)、外部にジャケットを有する薄膜式スルホン化反応器に入れ、反応器外部ジャケットに50℃の温水を通液する条件下で三酸化硫黄ガスを用いて硫酸エステル化反応を行った。硫酸エステル化反応の際のSO3/ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物のモル比は1.05に設定した。反応物を、水酸化ナトリウムで調製したアルカリ水溶液へ添加し、撹拌しながら50℃で1時間中和した。水溶液から凍結乾燥にて水を完全に留去した後、50℃に加温したエタノールにて溶解した。溶解時に析出する硫酸ナトリウムをろ過にて除去し、ろ液を乾燥することでポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウム(C18H37O-(CH2CH2O)11-SO3Na:化合物A1)と未反応のステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(化合物B1)の混合物1(化合物A1/化合物B1=97質量部/3質量部)を得た。
【0056】
なお、混合物1中の化合物B1の量は以下の方法で定量した。
高速液体クロマトグラフィー(東ソー社製、商品名:HPLC8220、検出器:RI-8022)を使用し、溶離液(MeOH:超純水=95:5)を用いて40℃にて、ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物の検量線を作成した。その後、混合物1を同条件で測定し、検量線から混合物1中の化合物B1の量を定量した。
【0057】
合成例2(化合物A2の合成)
ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(エチレンオキシドの平均付加モル数13.0)を250℃、133.3Paで減圧蒸留して未反応アルコールを除去し、反応温度110℃でスルファミン酸(スルファミン酸/ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物のモル比:1.02)で硫酸エステル化反応を行った。
反応物を48質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和後、窒素流入下80℃で加熱し、脱アンモニアを行った。水溶液から凍結乾燥にて水を完全に留去した後、50℃に加温したエタノールにて溶解した。溶解時に析出する硫酸ナトリウムをろ過にて除去し、ろ液を乾燥することでポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウム(C18H37O-(CH2CH2O)13-SO3Na:化合物A2)と未反応のステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(化合物B2)の混合物2(化合物A2/化合物B2=98質量部/2質量部)を得た。
【0058】
合成例3(化合物A3の合成)
エチレンオキシドの平均付加モル数が9であるステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物を用いた他は合成例1と同様にして、混合物3を合成した。混合物3は、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウム(C18H37O-(CH2CH2O)9-SO3Na:化合物A3)と対応する未反応のステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(化合物B3)の混合物(化合物A3/化合物B3=96質量部/4質量部)であった。
【0059】
<エチレンオキシド平均付加モル数mの算出>
「JIS K 0070-1992 7.1 中和滴定法」に記載の方法により、出発物質であるステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物の水酸基価を求め、下記式により、出発物質であるステアリルアルコールのエチレンオキシド平均付加モル数を算出した。結果を表1に示す。なお、化合物A1~A3のエチレンオキシド平均付加モル数mは、出発物質であるステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物のエチレンオキシド平均付加モル数と同じと考えられる。
平均付加モル数m=((1÷((OHV÷Ma)÷1000))-Mb))÷Mc
OHV:ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物の水酸基価(mgKOH/g)
Ma:水酸化カリウムの分子量(56.1)
Mb:ステアリルアルコールの分子量
Mc:エチレンオキシドの分子量
なお、OHV(水酸基価)の算出に用いる酸価は、「JIS K 0070-1992 3.1 中和滴定法」に記載の方法により求めた。
【0060】
<混合物のクラフト点>
以下の方法により、混合物1~3のクラフト点を測定した。結果を表1に示す。
高感度型示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:DSC7000X)を使用し、70μLパンに10%水溶液とした混合物1~3を入れ、-20℃から1℃まで1℃/minで昇温し、その後60℃まで0.1℃/minで昇温した。昇温時間に対する示差熱電極で検出する水の融解を除いた温度差の最大ピーク時の温度をクラフト点した。なお、表中に示す混合物1~3のクラフト点は、化合物A1~A3のクラフト点とみなすことができる。
【0061】
【0062】
実施例1(乳化重合用界面活性剤組成物1)
混合物1を16.00部(化合物A1を15.52部、化合物B1を0.48部含む)、硫酸ナトリウム(無水 富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)0.09部、及びイオン交換水83.91部をスクリューバイアルに投入し、50℃に加温しながら、マグネチックスターラーで6時間撹拌し、乳化重合用界面活性剤組成物1を得た。
組成物1を20℃で3日間保存し、保存後の流動性及び外観を目視で評価した。なお、スクリューバイアルを90°傾けた際に組成物が流動するものを流動性「有」とし、組成物が流動しないものを流動性「無」とした。また、目視にて組成物が透明であるものを「透明」とし、組成物が濁っているものを「濁り」とした。結果を表2に示す。
【0063】
実施例2~6及び比較例1~3(乳化重合用界面活性剤組成物2~6及び界面活性剤組成物11~13)
混合物1を表2に示す混合物に変更し、混合物、硫酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム(無水 富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)、及びイオン交換水の量を表2に示す量とした他は実施例1と同様にして、乳化重合用界面活性剤組成物2~6及び界面活性剤組成物11~13を得た。これらを実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表2から、本発明の乳化重合用界面活性剤組成物1~6は流動性に優れ、式(1)で表される化合物(A)を高濃度で含むにもかかわらず、流動性に優れ、化合物(A)の析出はなく透明であった。一方、無機塩を含まない比較例1及び3の界面活性剤組成物11及び13は流動性がなかった。また、無機塩を、化合物(A)100質量部に対して5質量部以上含む比較例2の界面活性剤組成物12は、濁りがみられた。
【0066】
実施例7(ポリマーエマルション1)
実施例1で得られた乳化重合用界面活性剤組成物1を用い、下記の方法で乳化重合を行った。
撹拌機、原料投入口を備えた1L4つ口フラスコに、イオン交換水87.2g、重合開始剤として過硫酸カリウム(10時間半減期温度69℃)を0.36g、乳化重合用界面活性剤組成物1を27.97g混合し、500r/minで撹拌しながら、アクリル酸ブチル110.8g、メタクリル酸メチル110.8g、アクリル酸3.4gのモノマー混合物を約5分間かけて室温で滴下し、30分間撹拌して乳化物滴下液を得た。
次に撹拌機、還流冷却器、原料投入口を備えた1Lセパラブルフラスコ内に、イオン交換水を157.8g、重合開始剤として過硫酸カリウムを0.09g、乳化重合用界面活性剤組成物1を5.59g、上記乳化物滴下液の17.1g(5質量%に相当)を仕込み、80℃に昇温し、30分間1段目重合を行なった。その後、残りの乳化物滴下液を3時間かけて滴下し、滴下終了後、更に1時間80℃で熟成した。これを30℃に冷却しポリマーエマルション1を得た。
【0067】
<性能評価>
ポリマーエマルション1を用いて、ポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径及びポリマー塗膜の耐水性を評価した。結果を表3に示す。
(1)ポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径
粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELSZ-1000ZS)を使用して、25質量%アンモニア水で中和したポリマーエマルションを3万倍に希釈して樹脂粒子の平均粒径を測定した。測定解析法は、70回積算測定したキュムラント平均粒径を採用した。
(2)ポリマー塗膜の耐水性
25質量%アンモニア水で中和したポリマーエマルションに造膜助剤として2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)をポリマーエマルション中の固形分100質量部に対し5質量部添加し、混合後、一晩静置した。得られたポリマーエマルションを、透明アクリル板上にベーカー式フィルムアプリケーターNo.510(0~50mil)(株式会社安田精機製作所製)を使用して、乾燥膜厚が50μmとなるよう塗工し、室温で1日乾燥した。
このアクリル板を40℃で7日間水に浸漬した後、ヘーズ・透過率計(株式会社村上色彩技術研究所製、商品名:HM-150)を使用して、ポリマー塗膜のヘーズ値を測定した。耐水性はヘーズ値が小さいほど良く、ヘーズ値が20%以下の場合には特に良好と判断される。
【0068】
実施例8、並びに比較例4及び5(ポリマーエマルション2、11、及び12)
乳化重合用界面活性剤組成物1を表3に示す乳化重合用界面活性剤組成物又は界面活性剤組成物へと変更した他は実施例7と同様にして、ポリマーエマルション2、11、及び12を得た。なお、比較例4では、界面活性剤組成物11中において化合物A1が液晶を形成しており、反応の仕込み時に60℃まで加温しなければ用いることができなかった。
これらを実施例7と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
表3から、ポリマーエマルション1及び2中の樹脂粒子の平均粒径は、従来技術の界面活性剤組成物11を用いて製造したポリマーエマルション11と同等であり、これらから製造した塗膜の耐水性も同等であった。
一方、上記に示すように、ポリマーエマルション1及び2の製造では、乳化重合用界面活性剤組成物の添加が容易であったのに対し、ポリマーエマルション11の製造では、界面活性剤組成物の添加が容易ではなかった。また、無機塩の含有量が、化合物(A)100質量部に対して5質量部よりも多い界面活性剤組成物12を用いて製造したポリマーエマルション12は、耐水性が劣っていた。
【0071】
混合物1を混合物3に変更し、混合物3、硫酸ナトリウム、及びイオン交換水の量を表4に示す量とした他は実施例1と同様にして製造する表4の乳化重合用界面活性剤組成物αは、流動性と外観が乳化重合用界面活性剤組成物1と同等であると考えられ、乳化重合用界面活性剤として好適であると考えられる。また、乳化重合用界面活性剤組成物1を乳化重合用界面活性剤組成物αへと変更した他は実施例7と同様にしてポリマーエマルションを製造する際のハンドリング性、及び得られるポリマーエマルション中の樹脂粒子の平均粒径は実施例7と同等であると考えられる。
【0072】