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  • 特開-電食防止通電カバーおよび転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021505
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】電食防止通電カバーおよび転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20250206BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250206BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20250206BHJP
   H02K 5/16 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/06
F16C35/077
H02K5/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125235
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】田中 唯久
(72)【発明者】
【氏名】金本 崇広
【テーマコード(参考)】
3J117
3J217
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J117AA10
3J117CA06
3J217JC07
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701DA05
3J701EA02
3J701EA31
3J701EA41
3J701EA47
3J701EA49
3J701EA72
3J701EA73
3J701EA76
3J701EA77
3J701EA78
3J701FA11
3J701FA31
3J701FA38
3J701FA44
3J701FA60
3J701GA24
5H605AA12
5H605BB05
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB18
5H605GG09
(57)【要約】
【課題】電食を防止してその長寿命化を図ることができる電食防止通電カバーおよび転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受2の第一の軌道輪3に嵌合する円筒部を有し、導電性を有する軸受嵌合部9と、軸受嵌合部9から径方向に延設されて転がり軸受2の第二の軌道輪4に接触する、導電性を有する通電部10と、を有する電食防止通電カバー1、および、この電食防止通電カバー1を用いた転がり軸受2を構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受(2)の第一の軌道輪(3)に嵌合する円筒部を有し、導電性を有する軸受嵌合部(9)と、
前記軸受嵌合部(9)から径方向に延設されて前記転がり軸受(2)の第二の軌道輪(4)に接触する、導電性を有する通電部(10)と、
を有する電食防止通電カバー。
【請求項2】
前記通電部(10)が、前記第二の軌道輪(4)に向かうばね弾性を有している請求項1に記載の電食防止通電カバー。
【請求項3】
前記円筒部の内外面のうち少なくとも一方の面に絶縁部(12)が設けられている請求項1または2に記載の電食防止通電カバー。
【請求項4】
前記絶縁部(12)が、樹脂、ゴム、または、セラミックスからなる絶縁コーティング層からなる請求項3に記載の電食防止通電カバー。
【請求項5】
前記軸受嵌合部(9)および前記通電部(10)が鋼からなる請求項1または2に記載の電食防止通電カバー。
【請求項6】
前記通電部(10)の前記第二の軌道輪(4)との接触部(13)に、導電性および耐摩耗性を高めるための処理が施されている請求項1または2に記載の電食防止通電カバー。
【請求項7】
前記通電部(10)の導電性および耐摩耗性が、金属皮膜、炭化水素もしくは炭素を主成分とする皮膜、炭素繊維、または、導電性樹脂によって付与されている請求項6に記載の電食防止通電カバー。
【請求項8】
複数の前記通電部(10)を有する請求項1または2に記載の電食防止通電カバー。
【請求項9】
第一の軌道輪(3)と、
前記第一の軌道輪(3)と同軸に設けられた第二の軌道輪(4)と、
前記両軌道輪(3、4)の間に配置される転動体(5)と、
請求項1または2に記載の電食防止通電カバー(1)と、
を有する転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ軸体などの回転軸体を支持する転がり軸受に用いられる電食防止通電カバー、および、この電食防止通電カバーを採用した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ軸体などの回転軸体を支持する軸受として、転がり軸受、特に玉軸受が一般的に用いられている。近年、モータを効率的に運転するため、インバータ制御が一般的に採用されている。特に車載用モータの場合は、車両への搭載性の点から小型化が図られており、その小型化されたモータをより効率的に使用するため、より細かな制御が行われている。
【0003】
このモータ軸体には、軸電流や軸電圧が生じることが分かっている。この電流が軸受内部を通過すると、金属からなる軌道輪や転動体に電食が生じることがある。そこで、例えば下記特許文献1においては、従来から一般的に用いられている導電性ブラシに加え、軸受構成部材(軌道輪、転動体)を絶縁材料(セラミックスなど)で構成し、電流が軸受内部を通過しないようにしている。また、下記特許文献2においては、逆にカーボンなどの導電性材料をシールゴム部材やグリース中に分散させて軸受内部の通電性を向上することで電食を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-222841号公報
【特許文献2】特開2017-67111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す構成は、セラミックスなどの高価な絶縁材料を用いる必要があり、材料コストの点で問題がある。また、特許文献2に示す構成は、シールゴム部材やグリース中の導電性材料の分散のばらつきや劣化により、通電性能のばらつきや耐久性の不安定性などの問題が生じうる。また、従来型のモータブラシは、ユニット内部に組み込むための設置スペースが必要であるなど、改善の余地がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電食を防止してその長寿命化を図ることができる電食防止通電カバーおよび転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、
転がり軸受の第一の軌道輪に嵌合する円筒部を有し、導電性を有する軸受嵌合部と、
前記軸受嵌合部から径方向に延設されて前記転がり軸受の第二の軌道輪に接触する、導電性を有する通電部と、
を有する電食防止通電カバーを構成した。
【0008】
このようにすると、ハウジングと回転軸との間に生じた電流が通電部によってバイパスされるため、軌道輪および転動体に電食が生じるのを防止することができ、転がり軸受の長寿命化を図ることができる。
【0009】
前記構成においては、
前記通電部が、前記第二の軌道輪に向かうばね弾性を有している構成とするのが好ましい。
【0010】
このようにすると、軸受内部のアキシアル隙間に変位が生じた場合でも、ばね弾性によって第二の軌道輪に対する通電部の接触状態が確保される。このため、電食防止効果を安定的に発揮させることができる。
【0011】
前記のすべての構成においては、
前記円筒部の内外面のうち少なくとも一方の面に絶縁部が設けられている構成とするのが好ましい。
【0012】
このようにすると、第一の軌道輪に電流が通過するのを絶縁部によって阻止することができるため、転がり軸受の構成部材の電食をより確実に防止することができる。その一方で、絶縁部の絶縁破壊が生じたとしても、通電部による電流のバイパス作用によって、電流が転動体を通過するのを防止することができるため、電食防止作用を維持することができる。
【0013】
前記絶縁部が設けられた構成においては、
前記絶縁部が、樹脂、ゴム、または、セラミックスからなる絶縁コーティング層からなる構成とするのが好ましい。
【0014】
このようにすると、円筒部の表面に絶縁信頼性の高い絶縁部を形成することができる。
【0015】
前記のすべての構成においては、
前記軸受嵌合部および前記通電部が鋼からなる構成とすることができる。
【0016】
このようにすると、比較的低コストでハウジングから回転軸に至る通電回路を構成することができる。
【0017】
前記のすべての構成においては、
前記通電部の前記第二の軌道輪との接触部に、導電性および耐摩耗性を高めるための処理が施されている構成とするのが好ましい。
【0018】
このようにすると、通電部と第二の軌道輪との接触抵抗が低減することによる軸受内部の一層の電食低減効果や、通電部と第二の軌道輪との間の摺動に伴う摩耗を防止することによる長寿命化効果が期待できる。
【0019】
前記のすべての構成においては、
前記通電部の導電性および耐摩耗性が、金属皮膜、炭化水素もしくは炭素を主成分とする皮膜、炭素繊維、または、導電性樹脂によって付与されている構成とするのが好ましい。
【0020】
このようにすると、通電部の良好な通電性や耐摩耗性を確保することができる。
【0021】
前記のすべての構成においては、
複数の前記通電部を有する構成とするのが好ましい。
【0022】
このようにすると、通電部が接触する第二の軌道輪の回転バランスの均整を取ることができるとともに、アキシアル隙間に偏りが生じた場合でも、通電部と第二の軌道輪の接触状態を確実に保つことができる。また、一部の通電部に摺動による負荷が集中しにくいため長期耐久性を向上することもできる。
【0023】
また、本発明においては、
第一の軌道輪と、
前記第一の軌道輪と同軸に設けられた第二の軌道輪と、
前記両軌道輪の間に配置される転動体と、
上記の各構成に記載の電食防止通電カバーと、
を有する転がり軸受を構成した。
【0024】
このようにすると、電食防止通電カバーの作用によって、転がり軸受の電食を防止して、この転がり軸受の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電食防止通電カバーは、導電性を有する通電部を設けることによって、転がり軸受の両軌道輪の間に配置された転動体とは別の経路で、ハウジングと回転軸との間で通電可能としたので、軌道輪および転動体に電食が生じるのを防止することができ、転がり軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る電食防止通電カバーを設けた転がり軸受の一実施形態を示す断面図
図2図1の要部を示す断面図
図3図1中のIII-III線に沿う断面図
図4図1に示す電食防止通電カバーの一部を切り欠いた斜視図
図5図1に示す転がり軸受の変形例の要部の断面図
図6図5に示す電食防止通電カバーの一部を切り欠いた斜視図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る電食防止通電カバー1を設けた転がり軸受2の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1から図3に示すように、この転がり軸受2は、第一の軌道輪3(以下、外輪と称し第一の軌道輪3と同じ符号を付する。)、外輪3と同軸に設けられた転がり軸受2の第二の軌道輪4(以下、内輪と称し第二の軌道輪4と同じ符号を付する。)、内外輪3、4の間に配置される転動体5(以下、玉と称し転動体5と同じ符号を付する。)、および、電食防止通電カバー1を主要な構成要素とする玉軸受である。
【0028】
この転がり軸受2は、例えば、eアクスルなどの回転軸体6(以下、モータ軸体と称し回転軸体6と同じ符号を付する。)を支持する支持軸受として用いられる。以下においては、転がり軸受2の回転軸に沿う方向を軸方向、前記回転軸に対して垂直な方向を径方向、前記回転軸周りに一周する円周に沿う方向を周方向と称する。
【0029】
外輪3の内周面および内輪4の外周面には軌道溝がそれぞれ形成されており、両軌道溝の間に、保持器7によって周方向所定間隔に保持された玉5が配置されている。内外輪3、4および玉5は、いずれも鋼で構成されている。内外輪3、4の間に形成される軸受空間は、この内外輪3、4の軸方向両端に設けられたシール部材8によって密封されている。この軸受空間内には潤滑剤が保持されており、内外輪3、4の軌道溝と玉5の間には潤滑剤の皮膜が形成されている。
【0030】
電食防止通電カバー1は、図4に示すように、軸受嵌合部9および通電部10を主要な構成要素とする。軸受嵌合部9および通電部10は、鋼で一体的に構成された導電性を有する部材である。
【0031】
軸受嵌合部9は、転がり軸受2の外輪3の外周面に嵌合する円筒部を有する、回転軸を含む面で切断した断面が略L字形の部材である。この軸受嵌合部9は、鋼で構成されたハウジング11の内側に嵌め込まれる。軸受嵌合部9の内面には絶縁部12が設けられており、ハウジング11(軸受嵌合部9)と外輪3との間の絶縁が図られている。この絶縁部12は、樹脂をコーティングすることによって形成した絶縁コーティング層である。この絶縁部12の厚みやその素材は、モータ軸体6に作用する軸電流や軸電圧の大きさなどを考慮して適宜決定することができ、例えばその素材として、樹脂材の他に、ゴムやセラミックスなどを採用することもできる。
【0032】
通電部10は、軸受嵌合部9の軸方向一端側から径方向内向きに延設された舌片状の部材であって、内輪4の軸方向端部に接触している。通電部10の先端は、内輪4から軸方向に離れる方向に屈曲しており、これにより摺動抵抗の減少と発熱の抑制を図っている。通電部10を内輪4の軸方向端部に接触させることにより、内外輪3、4の間に配置された玉5とは別の経路で、転がり軸受2が設けられるハウジング11と転がり軸受2によって支持されるモータ軸体6との間で通電可能とするバイパス回路が形成される。
【0033】
通電部10は、軸受嵌合部9の周方向に等角度間隔で8か所形成されている。この通電部10は少なくとも1か所に形成されていればよく、内輪4との摺動摩耗に伴う長期耐久性などを考慮して適宜増減することができる。また、通電部10の周方向位置は、等角度間隔に限定されず適宜変更できる可能性がある。
【0034】
通電部10は、軸受嵌合部9から径方向内向きに延設されて内輪4の軸方向端部に向かうばね弾性を有する板ばねを構成している。通電部10の内輪4の軸方向端部に臨む面には接触部13が形成されている。このばね弾性によって、通電部10から接触部13を介して内輪4の軸方向端部に向かう一定の押圧力が作用している。
【0035】
接触部13には、導電性または耐摩耗性を高めるための処理が施されている。この実施形態ではダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと略称する。)の皮膜を通電部10の表面に形成することによって、導電性と耐摩耗性を兼ね備えた接触部13が形成されている。DLCの成膜条件の調整によって炭素原子間の結合状態を変えることにより、接触部13の導電性と耐摩耗性のバランスを適宜調整することができる。
【0036】
この構成においては、ハウジング11から外輪3、玉5、および、内輪4を通ってモータ軸体6に至る電気抵抗値よりも、ハウジング11から電食防止通電カバー1および内輪4を通ってモータ軸体6に至る電気抵抗値の方が小さくなるよう、電食防止通電カバー1や接触部13の形状が決定されるとともに素材が選択されている。
【0037】
なお、この実施形態では接触部13にDLCの層を形成したが、その代わりに、金属皮膜(金・銀などのめっき層)、炭化水素もしくは炭素を主成分とする皮膜、炭素繊維、導電性樹脂などによって、接触部13に導電性と耐摩耗性を付与することもできる。
【0038】
この電食防止通電カバー1の機能について説明する。モータ軸体6に軸電流や軸電圧が生じると、転がり軸受2が設けられるハウジング11とモータ軸体6の間で電流が生じる。この電流は、ハウジング11から電食防止通電カバー1の軸受嵌合部9および通電部10を通り、内輪4を経由してモータ軸体6に至る。電食防止通電カバー1の軸受嵌合部9の内面には絶縁部12が形成されているため、ハウジング11と外輪3は絶縁された状態となっており、外輪3と玉5の間、および、玉5と内輪4の間で電流が生じることはない。このため、内外輪3、4と玉5に電食が発生するのを確実に防止することができる。
【0039】
上記の転がり軸受2の変形例の要部を図5に示す。この変形例に係る転がり軸受2は、軸受自体の構成は上記のものと共通するが、電食防止通電カバー1の構成が相違している。この変形例に係る電食防止通電カバー1は、図6に示すように、軸受嵌合部9の外面に絶縁部12が設けられており、ハウジング11と軸受嵌合部9との間の絶縁が図られている。
【0040】
この変形例に係る転がり軸受2においては、モータ軸体6に軸電流や軸電圧が生じた場合でも、軸受嵌合部9(絶縁部12)の絶縁作用によって、ハウジング11とモータ軸体6との間の電流は生じないため、外輪3と玉5の間、および、玉5と内輪4の間で電流が生じることもない。このため、内外輪3、4と玉5に電食が発生するのを確実に防止することができる。
【0041】
また、絶縁部12に万が一絶縁破壊が生じた場合でも、ハウジング11と軸受嵌合部9との間で生じた電流が、この軸受嵌合部9から通電部10を通って内輪4側に至るようになっているため、上記と同様に、外輪3と玉5の間、および、玉5と内輪4の間で電流が生じることはなく、内外輪3、4と玉5に電食が発生するのを確実に防止することができる。
【0042】
なお、上記の実施形態においては、軸受嵌合部9の内外面のいずれか一方のみに絶縁部12を形成した構成としたが、この内外面の両方に絶縁部12を形成した構成とすることもできる可能性がある。また、上記の実施形態においては、鋼で構成された電食防止通電カバー1に絶縁部12を形成する構成としたが、樹脂材やゴム材などの非導電性素材ベースとし、その表面に導電性コーティングを形成したり、非導電性素材に導電性部材をインサート成形したりすることによって、電食防止通電カバー1を構成することもできる。
【0043】
また、上記の実施形態においては、軸受嵌合部9を外輪3の外周面に嵌合させ、通電部10を内輪4の軸方向端部に接触させる構成としたが、これとは逆に、軸受嵌合部9を内輪4の内周面に嵌合させ、通電部10を外輪3の軸方向端部に接触させる構成とできる可能性がある。
【0044】
上記の電食防止通電カバー1は、軸受嵌合部9から径方向内向きに延設された通電部10を内輪4の軸方向端部に接触させる構成としたので、ハウジング11と回転軸体6との間に生じた電流が通電部10によってバイパスされる。このため、内外輪3、4および玉5に電食が生じるのを防止することができ、転がり軸受2の長寿命化を図ることができる。
【0045】
また、上記の電食防止通電カバー1は、通電部10が内輪4の軸方向端面に向かうばね弾性を有する構成としたので、軸受内部のアキシアル隙間に変位が生じた場合でも、ばね弾性によって内輪4に対する通電部10の接触状態が確保される。このため、電食防止効果を安定的に発揮させることができる。
【0046】
また、上記の電食防止通電カバー1は、軸受嵌合部9の円筒部の内外面の少なくとも一方に絶縁部12を形成したので、外輪3に電流が通過するのを絶縁部12によって阻止することができる。このため、転がり軸受2の構成部材の電食をより確実に防止することができる。その一方で、絶縁部12の絶縁破壊が生じたとしても、通電部10による電流のバイパス作用によって、電流が玉5を通過するのを防止することができ、電食防止作用を維持することができる。
【0047】
また、上記の電食防止通電カバー1は、通電部10の内輪4との接触部13に、導電性および耐摩耗性を高めるための処理を施したので、通電部10と内輪4との接触抵抗が低減することによる軸受内部の一層の電食低減効果や、通電部10と内輪4との間の摺動に伴う摩耗を防止することによる長寿命化効果が期待できる。
【0048】
また、上記の電食防止通電カバー1は、複数の通電部10を有するので、通電部10が接触する内輪4の回転バランスの均整を取ることができるとともに、アキシアル隙間に偏りが生じた場合でも、通電部10と内輪4の接触状態を確実に保つことができる。また、一部の通電部10に摺動による負荷が集中しにくいため長期耐久性を向上することもできる。
【0049】
また、上記の転がり軸受2は、上記において説明した電食防止通電カバー1を採用したので、その作用によって転がり軸受2の電食を防止して、この転がり軸受2の長寿命化を図ることができる。
【0050】
また、上記の転がり軸受2は、従来の転がり軸受にその軸方向から電食防止通電カバー1を取り付けるだけなので、余分な設置スペースをほとんど必要とせず、モータユニット全体の軽量化およびコンパクト化を実現することができる。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 電食防止通電カバー
2 転がり軸受
3 第一の軌道輪(外輪)
4 第二の軌道輪(内輪)
5 転動体(玉)
9 軸受嵌合部
10 通電部
12 絶縁部
13 接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6