(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002161
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】アスベスト含有波形スレート屋根改修方法およびアスベスト飛散回避孔開け方法
(51)【国際特許分類】
E04D 3/00 20060101AFI20241226BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241226BHJP
E04G 23/03 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
E04D3/00 N
E04G23/02 G
E04G23/03
E04D3/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102127
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】523238830
【氏名又は名称】桑本 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】桑本 賢一
【テーマコード(参考)】
2E108
2E176
【Fターム(参考)】
2E108AS02
2E108AZ01
2E108BN05
2E108CC15
2E108EE01
2E108GG20
2E176AA07
2E176BB27
(57)【要約】
【課題】養生等を必要とせず工場を稼働させたままアスベストを飛散させずにアスベスト含有波形スレート屋根を改修すること。
【解決手段】 母屋または垂木に当接して敷設されたアスベスト含有波形スレート屋根の改修方法であって、当接点のスレート上空から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、前記所定径のドリルビットより小径のタッピングビスを、ドリルを用いて母屋または垂木へねじ込んで固定し、タッピングビスを介してスレート屋根上空を被覆する屋根カバーを固定することを特徴とするアスベスト含有波形スレート屋根改修方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母屋または垂木に当接して敷設されたアスベスト含有波形スレート屋根の改修方法であって、
当接点のスレート上空から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、
所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、
前記所定径のドリルビットより小径のタッピングビスを、ドリルを用いて母屋または垂木へねじ込んで固定し、
タッピングビスを介してスレート屋根上空を被覆する屋根カバーを固定することを特徴とするアスベスト含有波形スレート屋根改修方法。
【請求項2】
タッピングビスに屋根カバー固定用の台座体を接合し、
屋根カバーは台座体に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法。
【請求項3】
屋根カバーとスレート屋根との間に、断熱材または遮熱材を敷設することを特徴とする請求項1または2に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法。
【請求項4】
被固定体に当接して固定されたアスベスト含有部材に対して、アスベスト含有部材側から被固定体まで穿孔する孔開け方法であって、
当接点に向けて、アスベスト含有部材側から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、
所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、
前記所定径のドリルビットより小径のドリルビットまたはビスにてドリルにより被固定体にいたるまで穿孔することを特徴とする、アスベスト飛散回避孔開け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等のアスベスト含有波形スレート屋根の改修方法に関し、特に、養生等を必要とせず工場を稼働させたままアスベストを飛散させずに施工可能な改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト含有建材は、2006年以降製造、使用等が全面禁止となり、アスベスト含有建材が使用されている既設の建物を解体する際には十全に飛散防止対策を施す必要がある。
このような建材の一つに屋根用の波形スレート板があり、工場などに多く採用されている。そしてほとんどの場合、スレート板は、風で飛ばないように山部分に孔をあけてフックボルトでC型鋼等からなる母屋に固定されている。
【0003】
数十年屋外暴露される屋根は、フックボルトも腐食劣化し抜け落ちることがあり、また、スレート板自体ももろくなってくる。したがって、吹き替えが必要となるが、工場という性質上、稼働をとめることが困難であり、アスベストの飛散対策をしながらの屋根の撤去は事実上できないという問題点があった。また、仮に工場をとめることができても、アスベストの落下を防止すべく屋根下に広範囲な養生シートをはる必要があり、クレーンその他の障害物、既設物のために困難を伴うという問題点があった。
また、改修として、既設のフックボルトを利用して屋根にカバーを取り付ける場合であっても、前述のようにフックボルト自体が腐食して強度が期待できないという問題点があった。フックボルト自体を交換するにしても、挿抜の際に脆くなった孔が剥落しアスベストが飛散してしまうという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-188248号公報
【特許文献2】特開2021-31857号公報
【特許文献3】特開平7-145656号公報
【特許文献4】特開2009-91792号公報
【特許文献5】特開2011-122363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、養生等を必要とせず工場を稼働させたままアスベストを飛散させずにアスベスト含有波形スレート屋根を改修することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法は、母屋または垂木に当接して敷設されたアスベスト含有波形スレート屋根の改修方法であって、当接点のスレート上空から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、前記所定径のドリルビットより小径のタッピングビスを、ドリルを用いて母屋または垂木へねじ込んで固定し、タッピングビスを介してスレート屋根上空を被覆する屋根カバーを固定することを特徴とする。
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明は、スレート上への粉塵飛散は集塵機能付ドリルが抑止し、スレート下への粉塵飛散は接着剤の絡め取りにより抑止して、屋根を改修できる。なお、スレート屋根はそのまま存置するので、本発明は、アスベスト含有波形スレート屋根の保全方法、等と称することもできる。
【0008】
母屋や垂木は特に限定されず、C型鋼や丸パイプを挙げることができる。
集塵には、たとえば、HEPAフィルタを用いることができる。
ドリルビットは、タッピングビス径より大径であればよいが、例えば、ドリルビット径を10mmφ~30mmφ、タッピングビス径を5mmφ~20mmφとすることができる。なお、タッピングビスはタッピングねじ、タッピングネジと表記しても良い。
接着剤は広義であって、コーキング材も含まれ、硬化だけでなく固化(流動性がない)も含まれるものとする。なお、接着剤は耐水性を有するものとし、孔の水漏れを防止する。
屋根カバーは特に限定されないが、例えば、折板屋根やアスベストを含有しない波板スレートなどを挙げることができる。
なお、タッピングビスを揉み込む際のドリルは、一般的な電動ドリルでもよく、また、集塵機能付きのドリルであってもよい。
【0009】
請求項2に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法は、請求項1に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法において、タッピングビスに屋根カバー固定用の台座体を接合し、屋根カバーは台座体に取り付けられることを特徴とする。
【0010】
すなわち、請求項2に係る発明は、台座体を介することにより屋根カバーの形状や施工の自由度が高まる。
【0011】
台座体は特に限定されず、タッピングビスを挿通して自身を固定するとともに上部に向けてせり上がる台座金具(台座金物)であっても良く、また、波形スレートの谷に沿わせた丸パイプ上に組み上げる、屋根カバー用のC型鋼からなる母屋としてもよい。後者の場合は、C型鋼にタッピングビスが突き抜け、スレート屋根の母屋に揉み込んで固定される。
接合とは広義であって台座体をボルトに取り付けられれば特に限定されない。ボルトを挿通させてもよく、また、ボルトの頭に嵌め込むような態様も含まれる。
【0012】
請求項3に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法は、請求項1または2に記載のアスベスト含有波形スレート屋根改修方法において、屋根カバーとスレート屋根との間に、断熱材または遮熱材を敷設することを特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項3に係る発明は、アスベスト含有波形スレートの劣化を遅らせることができ、また、建物内の冷暖房効率を向上させる。
【0014】
断熱材または遮熱材は適宜選択すれば良いが、たとえば、アルミ熱反射シートやアルミ熱反射フィルムなどを挙げることができる。仕様の態様によりグラスウール等も併用することができる。
【0015】
請求項4に記載のアスベスト飛散回避孔開け方法は、被固定体に当接して固定されたアスベスト含有部材に対して、アスベスト含有部材側から被固定体まで穿孔する孔開け方法であって、当接点に向けて、アスベスト含有部材側から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、前記所定径のドリルビットより小径のドリルビットまたはビスにてドリルにより被固定体にいたるまで穿孔するまたは揉み込むことを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項4に係る発明は、波形スレートに限らず、アスベスト含有部材に対して孔をあけざるを得ない場合に、手前にも、下地である被固定体側へもアスベストの飛散を回避する穿孔技術を提供する。
【0017】
なお、被固定体とは特に限定されず、アスベスト含有部材の固定先をいう。
また、二回目に用いるドリルは、一般的な電動ドリルでもよく、また、集塵機能付きのドリルであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、養生等を必要とせず工場を稼働させたままアスベストを飛散させずにアスベスト含有波形スレート屋根を改修することができる。
また、アスベスト含有部材に対してドリルで孔をあけざるを得ない場合に、ドリル側へのアスベストの飛散も下地である被固定体側への飛散も回避して孔をあけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】スレート屋根に孔をあけ、タッピングビスを介して下地金物を取り付ける様子を示した断面図である。
【
図2】下地金物を用いて改修された屋根の断面を示した説明図である。
【
図3】丸パイプとC型鋼からなる母屋を用いて改修された屋根の断面を示した説明図である。 なお、説明の便宜上、各図、各構成の縮尺は必ずしも実際の比と一致させていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。以降では、アスベスト含有波形スレート屋根を単にスレート屋根と適宜称することとする。
<実施の形態1>
実施の形態1では、下地金物を介してスレート屋根上空に折板屋根を施工する改修方法について説明する。
図1は、スレート屋根にタッピングビスを揉み込んで下地金物を取り付ける様子を示した断面図である。
【0021】
既設のスレート屋根は、C型鋼を母屋としてスレート板の端部を重ねて敷設し、所定間隔にて波板の山からフックボルトを挿通して固定されている。本実施の形態では、スレート板の厚みは7mmとする。
改修に当たっては、まず、母屋とスレート屋根の谷との当接点に対して、スレート屋根の上から集塵機能付ドリルにてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔する。ここでは超硬チップの刃を有する20mm径のドリルビットを用いるがスレート屋根の穿孔に適した素材、太さ、形状のビットであれば特に限定されない。
集塵機能付きドリルは、ビットの先端を取り囲む吸引カップが付加されたハンマドリルであって、所定の吸引力にて粉塵を吸引し外部への飛散をなくしている。なお、アスベスト対策として、フィルタは高品質なHEPAフィルタもしくはULPAフィルタを用いるものとする。
当接点までの削孔は、深さゲージを利用することができる。7.0mmとしてもよいが安全率を考え6.5mm深さとして事実上7.0mm深さの削孔を実現する例を挙げることができる。このほか、ビット自体に目印をつけておいても良い。
【0022】
次に、コーキング材を各削孔部に塗布していく。適宜盛り上がるように多めに塗布しても良い。本実施の形態では、コーキング材は、塗布後90分程度は所定範囲の粘着性を維持し、その後固化していく素材を用いている(この粘着性を維持している間に、次のタッピングビスの揉み込み作業をおこなう)。このようなコーキング材としてシリコーン系を採用することができる。シリコーン系であれば、耐候性、耐水性、耐熱性にも優れ、好適である。
所定の粘着性を有するコーキング材を用いることにより、穿孔の際に本来は落下するスレート微粉を絡め取り、粉塵の下方への落下・飛散をなくすことができる。また、固化後は雨漏り防止の充填剤としての機能を発揮する。
【0023】
次に、6mm径のタッピングビスを、電動ドリルを用いて母屋に揉み込んで固定する。このとき、ビス先端を孔の最深部(接点)に突き当て、低速回転にてC型鋼に揉み込む。低速とは、コーキング材が飛び散らない回転数であって、スレート微粉がコーキング材に絡め取られる速度をいう。目安としては、毎分60回から120回である。
なお、タッピングビスに孔空きの台座金物を挿通しておき、この台座金物も固定する。タッピングビスの揉み込み深さは、この台座金物が過度にスレート屋根に圧力をかけない程度とする。
【0024】
一連の作業は、面積が広い場合は、たとえば5人一組として、2人が大径ドリル、1人がコーキング材塗布、2人がタッピングビスという分担で施行することができる。小面積の場合は1人作業とすることも可能である。
【0025】
なお、タッピングビスの固定後再度コーキング材を頭回りにうつようにして雨漏り対策を十全にするようにしても良い。
【0026】
最後に、台座金物を利用して、折板屋根を葺く。
図2は、改修後の屋根の断面を示した説明図である。なお図では削孔間隔が端部を除き一つおきとなっているが、適宜設計すれば良い。
【0027】
工場建屋の耐久年数はその建築方法、使用資材によるが、本方法を用いることにより、スレート屋根を屋外暴露から保護し、寿命を工場建屋の耐久年数まで延長することが可能となる。
なお、
図2に示した様に、スレート屋根と折板屋根との間にアルミ熱反射シートまたはアルミ熱反射フィルムを挟むようにしている。これにより、夏は屋根からの輻射熱を緩和し、冬は外へ逃げる熱を抑制する。すなわち、屋内の冷暖房効率を向上させることができる。また、スレートの劣化を抑制可能となる。
【0028】
以上の例は、台座金物を用いる例としたが、丸パイプを用いて上空に折板屋根用の母屋を組むようにしてもよい。
図3は、丸パイプと、C型鋼からなる母屋を用いる例の説明図である。
図示したように、C型鋼を予め所定間隔でスレートの谷に敷設して高さを稼ぎ、これにC型鋼を直交させ、折板屋根用の母屋とする。
大径ドリルビットによる接点までの孔開け、および、コーキング材の塗布が終わった後、タッピングビスを用いてこのC型鋼に孔開けをしてそのまま押し込み、接点からは所定の回転速度で当該タッピングビスを揉み込んで固定する。
最後に、折板屋根を葺く(
図3)。なお、この例ではアルミ熱反射フィルムに加えてグラスウールも敷設している。グラスウールはここでは、折板屋根用母屋の間隔の巾をもった厚みのある長手の部材に切り分けて敷設している。
【0029】
以上説明したように、本方法によれば、養生等を必要とせず工場を稼働させたままアスベストを飛散させずにアスベスト含有波形スレート屋根を改修することができる。
【0030】
<実施の形態2>
実施の形態1は波形スレート屋根の改修方法について説明したものであるが、本発明は、アスベスト含有部材(例えば厚板)に対して、部材の取付先・固定先へ貫入する孔を部材側からあける場合にも適用できる。以下説明する。
【0031】
まず、取付先に当接して固定されたアスベスト含有部材に対して、部材側から当接点に向けて、集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔する。
【0032】
次に、所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布する。なお、単に孔をあける場合は、固化ないし硬化する接着剤でなくともよい。ただし、実施の形態1で説明したようなシリコーン系シーリング材は固化した後でも容易に穿孔等の作業をおこなえ、また、アスベストを絡め取ったまま固化するので、接着剤を用いる方が好ましい。
【0033】
最後に、先のドリルビットより小径のドリルビットを用いて電動ドリルにて取付先にいたるまで穿孔する。仕様の態様によってはドリルビットでなくビスを揉み込むようにしても良い。
【0034】
以上の方法により、アスベストの飛散回避しながら孔開けをおこなうことができる。
【0035】
具体的な例としては、屋根でなく壁にスレート板が取り付けられている場合のスレート壁改修工法として適用できる。
図2を90度回転させたものとして、母屋を胴縁に置き換え、同様に施行できる。
請求項1と同様に記載すれば以下となる。
胴縁に当接して敷設されたアスベスト含有スレート壁の改修方法であって、
当接点のスレート上空から集塵機能付ドリルにて所定径のドリルビットを用いてドリルビット先端が当接点にいたるまで削孔し、
所定時間所定の粘性ないし粘着性を有する接着剤を削孔部に塗布し、
前記所定径のドリルビットより小径のタッピングビスを、ドリルを用いて胴縁へねじ込んで固定し、
タッピングビスを介してスレート板に外からかぶせる壁カバーを固定することを特徴とするアスベスト含有スレート壁改修方法。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、工場等を稼働させたまま、アスベスト含有スレート屋根を簡便に改修でき、生産性を高めることができる。