(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021610
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】副室式内燃機関の検知システム
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20250206BHJP
F02B 23/00 20060101ALI20250206BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20250206BHJP
F02P 17/12 20060101ALI20250206BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
F02B19/12 B
F02B23/00 L
F02P13/00 302B
F02P17/00 R
F02D45/00 368Z
F02D45/00 368A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125429
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柳川 健介
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆
(72)【発明者】
【氏名】細野 清隆
【テーマコード(参考)】
3G019
3G023
3G384
【Fターム(参考)】
3G019GA14
3G019GA15
3G019KA16
3G019KD17
3G023AA02
3G023AA06
3G023AB03
3G023AC04
3G023AD03
3G023AD25
3G023AD28
3G384AA01
3G384AA06
3G384FA33
(57)【要約】
【課題】振動を検知することによって、副燃焼室から噴射される火炎に起因する振動を検知する副室式内燃機関の検知システムを提供する。
【解決手段】副室式内燃機関の検知システムは、主燃焼室と、前記主燃焼室と壁を介して隔てて設けられる副燃焼室と、前記副燃焼室内に配置される点火装置と、前記副燃焼室から噴射される火炎に起因する第1振動と、前記主燃焼室の異常燃焼に起因する第2振動と、を検知する検知装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室と、
前記主燃焼室と壁を介して隔てて設けられる副燃焼室と、
前記副燃焼室内に配置される点火装置と、
前記副燃焼室から噴射される火炎に起因する第1振動と、前記主燃焼室の異常燃焼に起因する第2振動と、を検知する検知装置と、
を備える、
副室式内燃機関の検知システム。
【請求項2】
前記検知装置は、前記点火装置による点火時期から第1期間に前記第1振動を検知し、前記1期間よりも後の第2期間に前記第2振動を検知する、
請求項1に記載の副室式内燃機関の検知システム。
【請求項3】
前記第1振動は第1周波数帯の振動であり、前記第2振動は前記第1周波数帯よりも最大値が高い第2周波数帯である、
請求項2に記載の副室式内燃機関の検知システム。
【請求項4】
前記検知装置は、前記第1期間と前記第2期間を含む第3期間に、前記第1周波数帯と前記第2周波数帯とを含む第3振動を検知する、
請求項3に記載の副室式内燃機関の検知システム。
【請求項5】
前記副燃焼室は、前記壁に前記主燃焼室と前記副燃焼室とを連通する複数の連通路を有し、
前記検知装置は、前記第1期間に前記第1振動が検知され、前記第2期間に前記第2振動が検知されない場合、複数の前記連通路から前記主燃焼室に向けて噴射される火炎のバラツキによって発生する振動と判定する、
請求項2に記載の副室式内燃機関の検知システム。
【請求項6】
前記副燃焼室は、前記壁に前記主燃焼室と前記副燃焼室とを連通する連通路を有し、
前記検知装置は、前記点火装置による点火時期より前の期間が含まれる第4期間に前記連通路に起因する第4振動を検知する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の副室式内燃機関の検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式内燃機関の検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主燃焼室およびその主燃焼室に隣接して設けられる副燃焼室を備えた副室式内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような副室式内燃機関では、主燃焼室に噴射された燃料から混合気が形成される。形成された混合気は、連通路を介して副燃焼室内に供給され、副燃焼室内で点火プラグによって点火され火炎が形成される。副燃焼室内で形成された火炎は、連通路を介して主燃焼室に噴射され、主燃焼室の混合気に着火する。このように、副燃焼室で形成された火炎を主燃焼室に噴射することで、主燃焼室の燃焼速度を高めることができる。これによって、より希薄な空燃比での運転が可能となり、燃費の向上が可能となる。
【0003】
また、特許文献1には、副燃焼室から噴射される火炎の状態を検知する技術が開示されている。近年、このように副燃焼室の状態を検知することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、点火コイルが発生させる電流波形を用いて副燃焼室から噴射される火炎の状態を検知する技術を開示している。しかし、特許文献1は、点火コイルの電流波形による検出以外の方法は、開示していない。
【0006】
本開示の課題は、振動を検知することによって、副燃焼室から噴射される火炎に起因する振動を検知する副室式内燃機関の検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る副室式内燃機関の検知システムは、主燃焼室と、前記主燃焼室と壁を介して隔てて設けられる副燃焼室と、前記副燃焼室内に配置される点火装置と、前記副燃焼室から噴射される火炎に起因する第1振動と、前記主燃焼室の異常燃焼に起因する第2振動と、を検知する検知装置と、を備える。
【0008】
この副室式内燃機関の検知システムは、副室式内燃機関の振動を検知することにより、主燃焼室の燃焼の異常を検知する検知装置によって、副燃焼室から噴射される火炎による振動も検知できる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、振動を検知することによって、副燃焼室から噴射される火炎に起因する振動を検知する副室式内燃機関の検知システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態による副室式内燃機関の検知システムのシステム図。
【
図2】本開示の実施形態による副室式内燃機関の概略構成を示す図。
【
図3】本開示の実施形態による第1振動、第2振動、および第3振動を示す図。
【
図4】本開示の実施形態による副室式内燃機関の制御装置の概略構成を示す図。
【
図5】本開示の実施形態による副室式内燃機関の検知システムによる制御装置の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1および
図2に示すように、副室式内燃機関1の検知システム2は、主燃焼室4と、副燃焼室6と、複数の連通路8と、点火プラグ(点火装置の一例)10と、燃料噴射弁12と、検知装置の一例としてノックセンサ14および制御装置16と、を備える。副室式内燃機関1の検知システム2は、その他、過給機18、排気循環装置20、副室式内燃機関1の性能を向上させる種々の装置、およびエアフローセンサ22などの副室式内燃機関1の状態を検知するセンサを備えてもよい。本実施形態では、副室式内燃機関1は、複数の気筒Nが直列に配置された直列型の内燃機関である。主燃焼室4、副燃焼室6、複数の連通路8、点火プラグ10、および、燃料噴射弁12は、直列に並んだ各気筒Nに備えられる。しかし、気筒Nの配列についてはこれに限定されず、V型、または、水平対向型の副室式内燃機関1であってもよい。
【0013】
図2に示すように、主燃焼室4は、シリンダブロック101のシリンダ101a、シリンダヘッド102、およびピストン103に囲まれた空間である。本実施形態では、主燃焼室4は、シリンダヘッド102の後述する吸気ポート105側および排気ポート110側に向けて2つの斜面が形成される、ペントルーフ形状である。主燃焼室4は、吸気バルブ104を介して吸気ポート105に接続される。
図1に示すように、吸気ポート105は、例えば、吸気通路24、スロットルバルブ26、インタークーラ28、および、エアクリーナ30に接続される。しかし、副室式内燃機関1は吸気ポート105に吸気を供給できればよく、例えばインタークーラ28などを備えなくてもよい。吸気バルブ104は、吸気カム113によって駆動される。また、
図2示すように、主燃焼室4は、排気バルブ109を介して、排気ポート110に接続される。
図1に示すように、排気ポート110は、排気通路32および排気浄化触媒34に接続される。排気バルブ109は、排気カム114によって駆動される。
【0014】
図2に示すように、副燃焼室6は、ペントルーフ形状の頂上部に主燃焼室4と隣接して設けられており、副燃焼室壁61に囲まれた空間を有する。副燃焼室6は、シリンダヘッド102から主燃焼室4に向かって突出し、主燃焼室4と、副燃焼室壁61を介して隔てて設けられる。本実施形態では、副燃焼室6は、主燃焼室4のペントルーフ形状の斜面の交線(稜線)の略中央に設けられる。しかし、副燃焼室6は、主燃焼室4の略中央からシリンダ101aの内壁面に向けてオフセットして設けられてもよい。本実施形態では、副燃焼室壁61は、例えば、断面が円形に形成され、底部61aが半球状に形成される。しかし、副燃焼室壁61は、これに限定されるものではなく種々の形状に変更可能である。
【0015】
点火プラグ10は、副燃焼室6の略中央に設けられ、副燃焼室6の混合気に着火する。点火プラグ10の中心電極10aは、副燃焼室6に突出している。本実施形態では中心電極10aは、副燃焼室6の略中央に設けられる。しかし、中心電極10aは、副燃焼室6の略中心からオフセットして配置してもよい。
【0016】
連通路8は、副燃焼室壁61の底部61aに複数個設けられる。連通路8は、主燃焼室4と副燃焼室6とを連通し、主燃焼室4の混合気を副燃焼室6に導く。本実施形態では、連通路8は、例えば、6つ設けられる。
【0017】
副燃焼室6の容積は、主燃焼室4よりも小さく、点火プラグ10で点火した混合気の火炎が、副燃焼室6内に素早く伝播する。副燃焼室6は、副燃焼室6で発生した火炎を、連通路8を介して主燃焼室4に噴射する。主燃焼室4に噴射された火炎は、主燃焼室4の混合気に着火し、燃焼させる。すなわち、副室式内燃機関1では、主燃焼室4および副燃焼室6を含んで燃焼空間3を形成する。
【0018】
燃料噴射弁12は、主燃焼室4に向けて設けられ、主燃焼室4に燃料を噴射する。燃料噴射弁12は、シリンダヘッド102の吸気バルブ104側に配置される。燃料噴射弁12は、燃料を噴霧状にして供給することで、主燃焼室4に混合気を形成する。また、燃料噴射弁12は、主燃焼室4に燃料を噴射することで、連通路8を介して副燃焼室6に燃料を供給する。燃料噴射弁12は、副燃焼室6に燃料を供給することで、副燃焼室6の混合気を形成する。本実施形態では、燃料噴射弁12は、先端が主燃焼室4に向けて設けられ、主燃焼室4に直接燃料を噴射する。すなわち、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関である。
図1に示すように、燃料噴射弁12は、制御装置16に電気的に接続され、制御装置16によって、噴射量と噴射時期が制御される。
【0019】
ノックセンサ14は、主燃焼室4の振動を検知するセンサである。本実施形態では、ノックセンサ14は、シリンダブロック101に取り付けられる。ノックセンサ14は、シリンダブロック101に伝達される主燃焼室4の振動を検知し、制御装置16に送信する。
【0020】
制御装置16は、ノックセンサ14によって取得した振動を用いて、副燃焼室6から噴射される火炎に起因する第1振動と、主燃焼室4の異常燃焼に起因する第2振動と、第1振動と第2振動を含む周波数帯の第3振動と、を検知する。本実施形態では制御装置16は、さらに、連通路8に起因する第4振動を検知する。
【0021】
副燃焼室6から噴射される火炎に起因する第1振動とは、副燃焼室6で着火した火炎が複数の連通路8から主燃焼室4に向けて噴射される過程で生じるジェット点火による振動である。ジェット点火による振動と言えばいろんな要因が考えられるが、例えば、複数の連通路8から噴射される火炎のバラツキなどが考えられる。火炎のバラツキの場合、火炎の大きさの違い、または火炎の速度の違いにより主燃焼室4の火炎伝播速度に影響する。複数の連通路8から噴射される火炎の一部が小さいと、その部分の火炎伝播速度が遅くなる。これによって、主燃焼室4に気柱振動が発生する。第1振動は、この振動である。第1振動は、主として5キロヘルツ以上8キロヘルツ以下の第1周波数帯である。
【0022】
主燃焼室4で発生する異常燃焼に起因する第2振動とは、ノッキングによって発生する振動である。ノッキングは、主燃焼室4の混合気が部分的に自着火する異常燃焼状態を示す。第2振動は、主として5キロヘルツ以上14キロヘルツ以下の、第1周波数帯よりも最大値が高い第2周波数帯である。
【0023】
第3振動は、第1周波数帯と、第2周波数帯と、を含み、最小周波数が第1周波数帯および第2周波数帯よりも低く、最大周波数が第2周波数帯よりも高い第3周波数帯である。すなわち第3振動は、第2周波数帯よりも広い第3周波数帯の振動である。第3振動は、主として4キロヘルツ以上20キロヘルツ以下の周波数帯の振動である。第3周波数帯では、ジェット点火による振動およびノッキングの振動に加え、ピストン103のスラッジ音に起因する振動、および燃料噴射弁12に高圧燃料を供給する高圧燃料ポンプ(図示せず)の音に起因する振動を検知可能である。このように、制御装置16は、第1振動および第2振動よりも広い周波数帯の第3振動を検知することによって、ジェット点火による振動およびノッキングの検出漏れを防止している。
【0024】
連通路8に起因する第4振動とは、連通路8の閉塞状態などの異常によって発生する振動である。より具体的には、例えば、連通路8が閉塞している状態の場合、点火時期より前に、連通路8が主燃焼室4の混合気を副燃焼室6に導く際に振動が発生する。第4振動は、この振動である。第4振動は、主として4キロヘルツ以上7キロヘルツ未満の第4周波数帯である。
【0025】
ところで、ジェット点火に起因する第1周波数帯と、ノッキングに起因する第2周波数帯は、一部の周波数帯が重なる。このため、ジェット点火による第1振動を、ノッキングによる第2振動と誤検出するおそれがある。
【0026】
しかし、
図3に示すように、第1振動は、点火プラグ10による点火時期から第1期間に発生しやすい。一方、第2振動は、第1期間よりも後、すなわち第1期間の開始時期よりも遅角したクランク角から開始する第2期間に発生しやすい。そこで、制御装置16は、第1期間に第1振動を検知し、第2期間に第2振動を検知する。
【0027】
本実施形態では、第1期間は、点火時期から主燃焼室4の筒内圧が最大となるまでの期間である。点火時期(点火するクランク角)は、副室式内燃機関1の回転数および負荷に応じて変化する。したがって、第1期間の開始時期(開始クランク角)は、回転数および負荷によって変化する。第1期間の終了時期(終了クランク角)は、副燃焼室6の容積、シリンダ101aの容積(副室式内燃機関1の排気量)、吸気量、燃焼噴射量などを考慮し筒内圧の最大となる位置(クランク角)から遅角または進角させてもよい。
【0028】
本実施形態では、第2期間は、第1期間よりも後ろの筒内圧が最大となった以降、筒内圧が低下し終わるまでの期間である。しかし、第2期間の開始時期は、副燃焼室6の容積、シリンダ101aの容積(副室式内燃機関1の排気量)、吸気量、燃焼噴射量などを考慮し、第1期間の終了時期と同様に、筒内圧の最大となる位置(クランク角)から遅角または進角させてもよい。さらに、第2期間の終了時期も同様に、副燃焼室6の容積、シリンダ101aの容積(副室式内燃機関1の排気量)、吸気量、燃焼噴射量などを考慮し、筒内圧が低下し終わる位置から遅角または進角させてもよい。
【0029】
さらに、制御装置16は、副室式内燃機関1の回転数、または副室式内燃機関1の負荷などに応じて、第1周波数帯の範囲(第1周波数帯の最小周波数から最大周波数までの範囲)、および第2周波数帯の範囲(第2周波数帯の最小周波数から最大周波数までの範囲)のうち少なくともいずれか一方を変更してもよい。この場合、制御装置16は、第1周波数帯と、第2周波数帯とが重ならない周波数帯としてもよい。
【0030】
ジェット点火による第1振動は、副室式内燃機関1の回転数または副室式内燃機関1の負荷が高くなるほど振幅(強度)が大きくなる。このため、制御装置16は、第1周波数帯をより狭い周波数帯に変更しても、第1振動を検出しやすくなる。例えば、制御装置16は、副室式内燃機関1の回転数または負荷に応じて、第1周波数帯を5キロヘルツ以上6キロヘルツ未満に変更してもよい。この場合、制御装置16は、第2周波数帯を6キロヘルツ以上14キロヘルツ以下に変更してもよい。これによって、ノッキングとジェット点火による振動との誤検出を防止できる。なお、制御装置16は、負荷に代えて主燃焼室4の温度に応じて、第1周波数帯を変更してもよい。また、制御装置16は、副室式内燃機関1の回転数、副室式内燃機関1の負荷、または主燃焼室4の温度に応じた第1周波数帯のマップを記憶してもよい。制御装置16は、このマップに基づいて、第1周波数帯の範囲を変更してもよい。
【0031】
第3期間は、第1期間と第2期間とを含む期間である。本実施形態では、第3期間は、第1期間の開始時期から第2期間の終了時期までの期間である。しかし、第3期間は、これよりも長い期間としてもよい。制御装置16は、第3期間に第3振動を検知する。これによって、ジェット点火による振動またはノッキングの検出漏れを防止できる。
【0032】
第4期間は、点火時期よりも前の期間である。第4期間の開始時期は、例えば圧縮行程の開始時期と同じであってもよいし、これよりも進角、または遅角させてもよい。第4期間の終了時期は、点火時期以前であればよい。連通路8に起因する第4振動は、点火時期以前に発生する。このため、制御装置16は、第4期間に第4振動を検出する。
【0033】
制御装置16は、実際にはECU(Electrоnic Control Unit)であり、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等とを含むマイクロコンピュータによって構成される。制御装置16は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、副室式内燃機関1が、所望の運転状態となるように各種装置を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0034】
図4に示すように、本実施形態では制御装置16は、ノックセンサ14から振動を取得し、取得した振動を周波数スペクトル解析によって、周波数毎の振幅(強度)を取得する。
【0035】
より具体的には、例えば、副室式内燃機関1の気筒Nが4つである場合、制御装置16は、4つの気筒Nから圧縮行程から膨張行程にある気筒Nを識別する。制御装置16は、取得した振動を圧縮行程から膨張行程にある気筒Nの振動として振り分ける。制御装置16は、取得した振動を第1期間から第4期間に振り分ける。制御装置16は、第1期間に発生している第1周波数帯の第1振動を抽出し、周波数スペクトル解析を実行する。制御装置16は、このようにして第1期間における第1振動の周波数毎の振幅(強度)を取得する。同様に、制御装置16は、第2期間における第2振動の周波数毎の振幅(強度)、第3期間における第3振動の周波数毎の振幅(強度)、および、第4期間における第4振動の周波数毎の振幅(強度)を取得する。制御装置16は、これら周波数毎の振幅(強度)を用いて、ジェット点火による振動、ノッキング、連通路8の異常などの判定を実行する。
【0036】
なお、このような演算は負荷が大きいため、本実施形態の制御装置16は、これら演算を実行する電子回路を有する。これによって、制御装置16は、迅速な演算が可能である。
【0037】
次に、
図5のフローチャートを用いて、制御装置16が実行する制御手順を説明する。制御装置16は、図示しないイグニッションスイッチがオンされることで、制御動作を開始する。
【0038】
ステップS1では、制御装置16は、ノックセンサ14から振動を取得する。ステップS2では、制御装置16が振動を取得すると、制御装置16は、上記の演算を実行する。制御装置16は、演算を実行するとステップS2に処理を進める。
【0039】
ステップS2では、制御装置16は、第3期間に第3振動を検知したか否か判断する。制御装置16は、第3期間に第3周波数帯の所定振幅以上の振動が検知された場合、第3振動を検知したと判断してもよい。制御装置16は、第3期間に第3振動を検知した場合(ステップS2 YES)、ステップS3に処理を進める。
【0040】
ステップS3では、制御装置16は、第1期間に第1振動を検知したか否か判断する。制御装置16は、第1期間に第1周波数帯の所定振幅以上の振動が検知された場合、第1振動を検知したと判断してもよい。制御装置16は、第1期間に第1振動を検知した場合(ステップS3 YES)、ステップS4に処理を進める。
【0041】
ステップS4では、制御装置16は、第2期間に第2振動を検知したか否か判断する。制御装置16は、第2期間に第2周波数帯の所定振幅以上の振動が検知された場合、第2振動を検知したと判断してもよい。制御装置16は、第2期間に第2振動を検知していない場合(ステップS4 NO)、ステップS5に処理を進める。
【0042】
ステップS5では、制御装置16は、ジェット点火による振動が発生したと判定する。すなわち、第1期間のみに第1振動を検知した場合、制御装置16は、ジェット点火による振動のみが発生していると判定できる。制御装置16は、ジェット点火による振動を判定するとステップS1に処理を進める。
【0043】
ステップS2において、制御装置16が第3期間に第3振動を検知していないと判断した場合(ステップS2 NO)、制御装置16は、ステップS6に処理を進める。
【0044】
ステップS6では、制御装置16は、第4期間に第4振動を検知したか否か判断する。制御装置16は、第4期間に第4周波数帯の所定振幅以上の振動が検知された場合、第4振動を検知したと判断してもよい。制御装置16は、第4期間に第4振動を検知した場合(ステップS6 YES)、ステップS7に処理を進める。
【0045】
ステップS7では、制御装置16は、連通路8の異常が発生したと判定する。すなわち、第4期間のみに第4振動を検知した場合、制御装置16は、連通路8の異常のみが発生していると判定できる。制御装置16は、連通路8の異常を判定するとステップS1に処理を進める。
【0046】
ステップS6において、制御装置16が第4期間に第4振動を検知していないと判断した場合(ステップS6 NO)、制御装置16は、ステップS1に処理を進める。
【0047】
ステップS3において、制御装置16が第1期間に第1振動を検知していないと判断した場合(ステップS3 NO)、制御装置16は、ステップS8に処理を進める。
【0048】
ステップS8では、制御装置16は、第2期間に第2振動を検知したか否か判断する。制御装置16は、第2期間に第2周波数帯の所定振幅以上の振動が検知された場合、第2振動を検知したと判断してもよい。制御装置16は、第2期間に第2振動を検知した場合(ステップS8 YES)、ステップS9に処理を進める。
【0049】
ステップS9では、制御装置16は、ノッキングが発生したと判定(ノック判定)する。すなわち、第2期間のみに第2振動を検知した場合、制御装置16は、ノッキングのみが発生していると判定できる。制御装置16は、ノッキングを判定するとステップS10に処理を進める。
【0050】
ステップS10では、制御装置16は、副室式内燃機関1の出力を抑制する。制御装置16は、ノック判定が実施された場合において、点火時期をリタードさせてもよい。また、制御装置16は、その他、点火リタードと同時に、スロットルバルブ26の開度を低下させる制御、過給機18の過給圧を低下させる制御、などの副室式内燃機関1の出力を低下させる制御を実行してもよい。制御装置16は、副室式内燃機関1の出力を抑制するとステップS1に処理を進める。
【0051】
ステップS4において、制御装置16が第2期間に第2振動を検知したと判断した場合(ステップS4 YES)、制御装置16は、ステップS9に処理を進めてノッキングが発生したと判定(ノック判定)してもよい。第1期間に第1振動を検知し、かつ第2期間
に第2振動を検知した場合、ジェット点火による振動とノッキングの両方が発生している可能性がある。このため、制御装置16は、ノック判定を実行し、副室式内燃機関1の出力を抑制する(ステップS10参照)を実行することが好ましい。
【0052】
ステップS8において、制御装置16が第2期間に第2振動を検知していないと判断した場合(ステップS8 NO)、制御装置16は、ステップS11に処理を進める。
【0053】
ステップS11では、制御装置16は、異常可能性があると判定する。この場合、制御装置16は、ステップS1に処理を進め、異常可能性があると複数回判定した場合、ノック判定をしてもよい。あるいは、ステップS11において異常可能性があると判定した時点で副室式内燃機関1の出力を抑制してもよい。
【0054】
以上説明した通り、本開示の副室式内燃機関1の検知システム2によれば、副室式内燃機関1の振動を検知することにより主燃焼室4の燃焼の異常を検知するノックセンサ14によって、副燃焼室6から噴射される火炎に起因する振動と、主燃焼室4のノッキングによる振動とを切り分けて検知できる。ノックセンサ14は、既知のノックセンサであってもよく、本開示の副室式内燃機関1の検知システム2によれば、新たなセンサを設けることなく、副燃焼室6から噴射される火炎に起因する振動を検知できる。
【0055】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。また、本実施形態に記載の内燃機関は、外部充電または外部給電が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)にも適用可能である。
【0056】
(a)上記実施形態では、第1期間、第2期間、第3期間、および第4期間の4つの期間に分けて、振動を検知する例を用いて説明したが、例えば各期間をさらに細かい期間に分けて振動を検知してもよい。期間を分ける数は、副室式内燃機関1の特性に合わせて適宜変更可能である。
【0057】
(b)また、上記実施形態では、副室式内燃機関1は、燃料噴射弁12を、主燃焼室4に向けて設け、主燃焼室4に燃料を噴射する例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。副室式内燃機関1は、副燃焼室6の副燃焼室壁61に囲まれた空間に燃料噴射弁12を設けてもよい。また、直噴型の第1燃料噴射弁と、副燃焼室6の副燃焼室壁61に囲まれた空間に設ける第2燃料噴射弁と、を気筒N毎にそれぞれ設けてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1:副室式内燃機関,2:検知システム,4:主燃焼室
6:副燃焼室,8:連通路,14:ノックセンサ,16:制御装置