(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021640
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】支承装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20250206BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
F16F15/04 E
E04H9/02 321Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125486
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】桐子 竜二
(72)【発明者】
【氏名】津田 知英
(72)【発明者】
【氏名】三品 聡洋
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA01
2E139CA14
2E139CB20
3J048AA03
3J048AC03
3J048AD11
3J048BA03
3J048BE12
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】汎用性が高く、効率よく構成できる支承装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上部構造物100及び下部構造物110におけるそれぞれの配設面(101、111)に配設したモジュール上沓30及び下沓20で構成され、摺動面を構成するベアリング51がモジュール上沓30に備えられ、摺動面を構成するとともに、ベアリング51より広いスライドプレート22が下沓20に備えられ、モジュール上沓30及び下沓20における摺動面同士が摺動するモジュール支承装置10において、モジュール上沓30は、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より面積が小さいベアリング51が複数設けられるとともに、上部構造物100の底面101に対して、対向方向(上下方向)にベアリング51を弾性支持するとともに、複数のベアリング51の平面方向の相対位置を規制する弾性保持部材32とが備えられた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの配設面に配設した上沓及び下沓で構成され、前記上沓及び前記下沓の一方に、摺動面を構成する滑り部材が備えられ、前記上沓及び前記下沓の他方に摺動面を構成するとともに、前記滑り部材より広い滑り板材が備えられ、前記上沓及び前記下沓における摺動面同士が摺動する支承装置であって、
前記上沓及び前記下沓の一方は、
当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材が複数設けられるとともに、
前記滑り部材が備えられる側の構造物の前記配設面に対して前記滑り部材を弾性支持する弾性部材と、
複数の前記滑り部材の平面方向の相対位置を規制する位置規制部材とが備えられた
支承装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、少なくともふたつの前記滑り部材に亘って形成された
請求項1に記載の支承装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、すべての前記滑り部材に亘って形成されるとともに、
前記位置規制部材に、前記滑り部材を装着可能な凹状の装着凹部が設けられ、
前記位置規制部材と前記弾性部材とが弾性材で一体形成された
請求項2に記載の支承装置。
【請求項4】
前記滑り部材を保持するホルダが備えられ、
前記位置規制部材に、前記ホルダが挿入可能な凹状の装着凹部が設けられた
請求項1に記載の支承装置。
【請求項5】
前記滑り部材を保持するホルダが備えられ、
前記ホルダと前記滑り部材の間に変形可能に前記弾性部材が配置された
請求項1に記載の支承装置。
【請求項6】
前記弾性部材は、平面視内側に変形可能な空間を有し、当該空間を取り囲むように周状に形成された
請求項1乃至請求項5のうちいずれかに記載の支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支承構造に用いる支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、免震構造物、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の振動や相対変位が生じる構造物において、可動支持する支承装置がある。これらの支承装置は、特許文献1に開示されているように、上部構造物に設けた上沓と、下部構造物に設けた下沓とが備えられ、上沓と下沓の摺動面同士が摺動し、可動支持可能に構成している。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されたような支承装置は、ひとつの沓で負担する荷重(負荷)に応じた面積の滑り面となるように設計される。つまり、上部構造物の荷重等の諸条件に応じて各支承装置を設計し、個別に製造することとなる。そのため、支承装置の汎用性は低く、効率よく支承装置を構成することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、汎用性が高く、効率よく構成できる支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの配設面に配設した上沓及び下沓で構成され、前記上沓及び前記下沓の一方に、摺動面を構成する滑り部材が備えられ、前記上沓及び前記下沓の他方に摺動面を構成するとともに、前記滑り部材より広い滑り板材が備えられ、前記上沓及び前記下沓における摺動面同士が摺動する支承装置であって、前記上沓及び前記下沓の一方は、当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材が複数設けられるとともに、前記滑り部材が備えられる側の構造物の前記配設面に対して前記滑り部材を弾性支持する弾性部材と、複数の前記滑り部材の平面方向の相対位置を規制する位置規制部材とが備えられたことを特徴とする。
【0007】
上述の上部構造物及び下部構造物は、例えば、ビルを上部構造物とし、基礎構造を下部構造物とする建造物、橋脚を下部構造物とし、主桁を上部構造物とする橋梁、ビルを下部構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物とする連絡通路、柱を下部構造物とし、トラス屋根を上部構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物とし、別のビルを上部構造物とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを収納したラックを上部構造物とし、ラックを置く床を下部構造物とする構造物であってもよい。
【0008】
上述の当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材とは、複数の沓が備えられた支承構造物において、各沓(各支承装置)で分担する荷重が設定され、設定された荷重(負荷)に応じた摺動面の面積(平面方向の大きさ)の滑り部材より前記摺動面の面積が小さい複数の前記滑り部材で、当該沓(支承装置)で負担する負荷以上の負荷を分担して負担できればよい。
【0009】
上述の前記配設面に対して前記滑り部材を弾性支持する弾性部材とは、前記滑り部材と前記配設面の間に直接的に設けてもよいし、別部材を介して設けてもよい。また、弾性支持するとは、前記滑り部材に負荷が作用した際に変形できればよい。
【0010】
上述の複数の前記滑り部材の平面方向の相対位置を規制する位置規制部材は、複数の前記滑り部材のそれぞれが対向方向、つまり上下方向に移動可能に規制されていれば、一体的な位置規制部材であってもよいし、それぞれの前記滑り部材を上下方向に移動可能に保持する保持部材と、保持部材同士を連結して、保持部材同士の平面方向の位置を規制するように構成してもよい。なお、位置規制部材と弾性部材とは、両機能を有するひとつの部材であってもよいし、それぞれの機能を有する別部材であってもよい。
【0011】
この発明により、汎用性が向上し、支承装置を効率よく構成することができる。
詳述すると、上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの配設面に配設する支承装置における前記上沓及び前記下沓の一方に、当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材が、複数備えられている。そのため、前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材を、当該支承装置で負担する負荷に応じた適宜の個数を組み合わせて沓を構成することができる。
【0012】
したがって、上部構造物の荷重等の諸条件に応じた沓を設計したり製造したりすることなく、当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい前記滑り部材を分担する負荷に応じた数で用いることができ、汎用性を向上することができ、支承装置を効率よく構成することができる。
【0013】
しかしながら、当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい複数の前記滑り部材で沓を構成するため、製造公差や組付精度によって、複数の小さな前記滑り部材の滑り面が均一にならないと、つまり段差が生じるおそれがある。複数の小さな前記滑り部材の滑り面が均一な高さにならない、つまり段差が生じると、支承装置の滑り性能が低下する。
【0014】
これに対し、前記滑り部材が備えられる側の構造物の前記配設面に対して前記滑り部材を弾性支持する弾性部材が備えられているため、高さの高い(上部構造物あるいは下部構造物の配設面からの距離が長い)前記滑り部材は、弾性部材が変形することで他の小さな前記滑り部材の滑り面と均一な高さになり、つまり段差が解消され、所望の滑り性能を確保することができる。
【0015】
なお、複数の小さな前記滑り部材の滑り面が均一な高さになったとしても、複数の小さな前記滑り部材の配置、つまり平面方向における相対位置がずれると、やはり、支承装置の滑り性能が低下する。これに対し、位置規制部材が複数の前記滑り部材の平面方向の相対位置を規制するため、所望の滑り性能を確保することができる。
【0016】
このように、上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの配設面に配設する支承装置における前記上沓及び前記下沓の一方に、当該支承装置で負担する負荷に対する摺動面の面積より前記摺動面の面積が小さい複数の前記滑り部材と、前記滑り部材が備えられる側の構造物の前記配設面に対して前記滑り部材を弾性支持する弾性部材と、複数の前記滑り部材の平面方向の相対位置を規制する位置規制部材とが備えられたことにより、所望の滑り性能を確保できるとともに、汎用性が向上した支承装置を効率よく構成することができる。
【0017】
この発明の態様として、前記弾性部材は、少なくともふたつの前記滑り部材に亘って形成されてもよい。
この発明により、少なくともふたつの前記滑り部材に亘って前記弾性部材が形成されているため、前記弾性部材が亘って形成される前記滑り部材は、一方の前記滑り部材の高さが他方の前記滑り部材より高く、一方の前記滑り部材の高さが低くなるように前記弾性部材が変形すると、その変形の影響は他方の前記滑り部材の高さが高くなるように作用する。したがって、少なくともふたつの前記滑り部材に亘るように形成された前記弾性部材により、一方の前記滑り部材と他方の前記滑り部材との高さが均一となるための変形量を小さくすることができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記弾性部材は、すべての前記滑り部材に亘って形成されるとともに、前記位置規制部材に、前記滑り部材を装着可能な凹状の装着凹部が設けられ、前記位置規制部材と前記弾性部材とが弾性材で一体形成されてもよい。
【0019】
この発明により、装着凹部に前記滑り部材を配置するだけで、複数の前記滑り部材同士の平面方向における相対位置を規制できるとともに、弾性支持することができる。したがって、複数の小さな前記滑り部材で構成する沓、及び当該沓を有する支承装置の組付性を向上することができる。
【0020】
また、前記弾性部材は、すべての前記滑り部材に亘って形成されるため、他の前記滑り部材に対して高さの高い前記滑り部材の高さが低くなる前記弾性部材の変形の影響は他の前記滑り部材に作用し、高さの高い前記滑り部材の高さが他の前記滑り部材との高さと均一となるための変形量を小さくすることができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記滑り部材を保持するホルダが備えられ、前記位置規制部材に、前記ホルダが挿入可能な凹状の装着凹部が設けられてもよい。
上述の前記滑り部材を保持するホルダは、ホルダ表面に前記滑り部材を接着してもよいし、ホルダに設けた凹部に前記滑り部材を嵌合してもよい。
【0022】
この発明により、前記ホルダで強固に保持された複数の小さな前記滑り部材で沓を構成することができ、安定した滑り性能を有する支承装置を構成することができる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記滑り部材を保持するホルダが備えられ、前記ホルダと前記滑り部材の間に変形可能に前記弾性部材が配置されてもよい。
この発明により、構造物の前記配設面に対して、直接あるいは間接的に強固にホルダを固定し、構造物の前記配設面に固定された前記ホルダに対して前記滑り部材の高さを弾性部材によって調節することができる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記弾性部材は、平面視内側に変形可能な空間を有し、当該空間を取り囲むように周状に形成されてもよい。
この発明により、前記滑り部材の高さが低くなるように前記弾性部材が変形する際に、前記弾性部材の変形空間がないと前記弾性部材が変形できず、前記ホルダに対する前記滑り部材の高さを調整することができない。これに対し、周状に形成された前記弾性部材は、平面視内側に変形可能な空間を有するため、前記滑り部材の変形性能を変えることなく、前記滑り部材の高さが低くなるように変形することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、汎用性が高く、効率よく構成できる支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は支承構造1の説明図を示し、
図2はモジュール支承装置10の説明図を示し、
図3は支承構造1の断面図による説明図を示している。
【0028】
詳述すると、
図1(a)は支承構造1の正面方向からの概略図を示している。なお、
図1(a)における支承構造1は、左右方向における右側を正面図で図示するとともに左側を断面図で図示し、
図1(b)はモジュール上沓30の底面図を図示している。また、
図1において
図1(a)におけるa部の拡大図を図示している。
【0029】
図2(a)はモジュール支承装置10の平面側からの分解斜視図を示し、
図2(b)はモジュール上沓30の底面側からの斜視図を示し、
図2(c)はモジュール上沓30の底面側からの分解斜視図を示している。なお、
図2(b)、(c)においてモジュール上沓30のうちベースプレート31の図示を省略している。また、
図2(a)及び
図2(c)における弾性保持部材32の手前側の一部を切り欠いて図示し、
図2(a)において、弾性保持部材32に隠れるひとつのベアリングユニット50を破線で図示している。
【0030】
図3(a)は下部構造物110で上部構造物100を支持する前、つまりモジュール支承装置10を組み付ける前の状態の支承構造1の断面概略図を示し、
図3(b)は下部構造物110で上部構造物100を支持した状態、つまりモジュール支承装置10を組み付けた状態の支承構造1の断面概略図を示している。
図3において、
図3(a)におけるb部の拡大図を図示している。
【0031】
支承構造1は、下沓20とモジュール上沓30とで構成するモジュール支承装置10と、上面111に下沓20が設けられた下部構造物110と、底面101にモジュール上沓30が設けられた上部構造物100とを有し、モジュール支承装置10を介して下部構造物110で上部構造物100を支持する構造である。
【0032】
なお、モジュール支承装置10は、平面視方向から視て、全方向への摺動を許容する弾性滑り支承装置であり、全方向滑り支承装置ともいう。また、モジュール支承装置10は、上部構造物100と下部構造物110との間に、上部構造物100の荷重に応じた数で設置されている。また、モジュール支承装置10は、ゴム支承などと併設されることもある。
【0033】
モジュール支承装置10は、上部構造物100の底面101に固定するモジュール上沓30と、下部構造物110の上面111に固定する下沓20とを備えている。
下沓20は、下部構造物110の上面111に固定されるソールプレート21と、ソールプレート21の上面に装着されたスライドプレート22とを備えている。
【0034】
ソールプレート21は、平面視円形且つ所定の厚みを有する円盤状で形成され、適宜の方法で下部構造物110の上面111に固定されるように構成している。スライドプレート22は、ソールプレート21よりわずかに小径の円形のステンレス板で構成し、スライドプレート22の上面で、モジュール上沓30の摺動面と摺動する摺動面を構成している。
【0035】
モジュール上沓30は、
図3に示すように、ソールプレート21と略同径の平面視円形且つ所定の厚みを有する円盤状のベースプレート31と、ベースプレート31の底面側に配置された弾性保持部材32と、弾性保持部材32に装着する複数のベアリングユニット50を備えている。
ソールプレート21と略同径の平面視円形且つ所定の厚みを有する円盤状のベースプレート31は、適宜の方法で上部構造物100の底面101に固定されるように構成している。
【0036】
ベースプレート31の底面側に配置された弾性保持部材32は、ベースプレート31より小径で所定の厚みを有する円盤状に形成している。弾性保持部材32は、所定の弾性を有するゴム製であり、底面側に開口する装着凹部33を複数備えている。
【0037】
本実施形態のモジュール上沓30は、後述するベアリングユニット50を3つ備えているため、3つの装着凹部33を、その配置が底面視正三角形状となるように設けている。なお、装着凹部33は、所定の厚みで形成された弾性保持部材32の厚みの半分程度の深さで形成され、後述するベアリングユニット50の円柱部54と略同径に形成されている。
【0038】
なお、このように構成した弾性保持部材32は、装着凹部33に装着する後述のベアリングユニット50を、上部構造物100に対して、ベースプレート31を介して弾性支持する弾性支持部材として機能するとともに、複数のベアリングユニット50同士の平面方向の相対位置を規制する位置規制部材として機能する。
【0039】
ベアリングユニット50は、底面視円形のベアリング51と、ベアリング51を保持するホルダ52とで構成している。
滑り部材であるベアリング51は、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、またはポリ四フッ化エチレン樹脂で平面視円形に形成されている。ベアリング51の底面は、下沓20のスライドプレート22の上面である摺動面と摺動する摺動面を構成する。
【0040】
なお、ベアリング51の平面サイズ(面積)は、モジュール支承装置10で負担する負荷(荷重)に対して小さな面積となる径で形成している。
具体的には、複数のモジュール支承装置10を介して下部構造物110で上部構造物100を支持する支承構造1において、上部構造物100の荷重に対して各モジュール支承装置10が負担する荷重が設定される。そして、各モジュール支承装置10に対して設定された荷重に対してベアリングの平面サイズ(面積)が設定される。ベアリング51の平面サイズ(面積)は、上述したように各モジュール支承装置10に対して設定された荷重に対して設定されたベアリングの平面サイズ(面積)より小さく(小径)で形成している。
【0041】
より詳しくは、ベアリング51の平面サイズ(面積)は、各モジュール支承装置10に対して設定された荷重に対して複数のベアリング51で対応するように、形成されている。
本実施形態では、各モジュール支承装置10に対して15kNの荷重が設定されているため、3つのベアリングユニット50で各モジュール支承装置10に対して設定された15kNの荷重を負担するように設定している。そのため各ベアリングユニット50のベアリング51は5kNの荷重を分担できる平面サイズ(面積)で形成し、15kNの荷重をひとつのベアリングで負担する際の平面サイズ(面積)が小さくなる。なお、設定する荷重は、上述の15kNだけでなく、設置する構造物に応じて、例えば10kNなど適宜の荷重であればよい。
【0042】
ベアリング51を保持するホルダ52は、底面に設けた装着凹部531を有するホルダ本体53と、ホルダ本体53より小径の円柱部54とを有し、金属製である。
ホルダ本体53は、ベアリング51より大径で形成された略円盤状であり、底面にベアリング51を装着する装着凹部531を設けている。なお、装着凹部531は、ベアリング51の厚みより浅い深さで形成した底面視円形の凹部である。
【0043】
円柱部54は、ホルダ本体53より上方に突出する、ホルダ本体53より小径の円柱状であり、弾性保持部材32の装着凹部33の深さと略同じ高さで形成している。
このように構成したベアリングユニット50は、ホルダ52のホルダ本体53に設けた装着凹部531にベアリング51を装着して組付けられるが、装着凹部531を設けず、ホルダ本体53の底面にベアリング51を接着固定してもよい。
【0044】
このように構成されたベアリングユニット50を、弾性保持部材32の装着凹部33のそれぞれに装着することでモジュール上沓30を構成することができる。
具体的には、ベアリングユニット50のホルダ52に設けたホルダ本体53を、弾性保持部材32の装着凹部33に挿入して固定することで構成することができる。
【0045】
図3(a)に示すように、上述のように構成した下沓20のソールプレート21を下部構造物110の上面111に固定して、下部構造物110の上面111に下沓20を装着し、モジュール上沓30のベースプレート31を上部構造物100の底面101に固定して、上部構造物100の底面101にモジュール上沓30を装着する。
【0046】
そして、
図3(b)に示すように、下部構造物110の上面111に装着した下沓20の滑り面を構成するスライドプレート22の上面と、上部構造物100の底面101に装着したモジュール上沓30の滑り面を構成するベアリング51の底面とが摺動可能に対面させることでモジュール支承装置10の組付けは完了し、モジュール支承装置10を介して下部構造物110で上部構造物100を支持する支承構造1は完成する。
【0047】
なお、モジュール上沓30において弾性保持部材32に装着した3つのベアリングユニット50のうちいずれかが他のベアリングユニット50より高く、つまり、
図3(a)のb部拡大図に示すように、いずかのベアリングユニット50のベアリング51の底面が、他のベアリングユニット50のベアリング51の底面により下方に突出している場合がある。このような場合であっても、
図3(b)において上向きの矢印で示すように、上部構造物100の荷重が作用すると、ベアリング51の底面が他のベアリングユニット50のベアリング51の底面により下方に突出しているベアリングユニット50は、弾性保持部材32が圧縮変形して他のベアリングユニット50のベアリング51と同じ高さになる。
【0048】
なお、ベアリング51の底面が他のベアリングユニット50のベアリング51の底面により下方に突出しているベアリングユニット50による弾性保持部材32の圧縮変形の影響が、他のベアリングユニット50を装着する部分、つまり他のベアリングユニット50を装着した装着凹部33の周辺に作用し、
図3(b)において下向きの矢印で示すように他のベアリングユニット50を下方に押し出すように変形する。そのため、単に、ベアリング51の底面が突出するベアリングユニット50による圧縮変形よりも変形量を小さくすることができる。
【0049】
このように構成したモジュール支承装置10は、上部構造物100の底面101に配設したモジュール上沓30及び下部構造物110の上面111に配設した下沓20で構成され、摺動面を構成するベアリング51がモジュール上沓30に備えられ、摺動面を構成するとともに、ベアリング51より広いスライドプレート22が下沓20に備えられ、モジュール上沓30及び下沓20における摺動面同士が摺動する。そして、モジュール上沓30は、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より摺動面の面積が小さいベアリング51が複数設けられている、また、モジュール上沓30は、上部構造物100の底面101に対して、対向方向(上下方向)にベアリング51を弾性支持するとともに、複数のベアリング51の平面方向の相対位置を規制する弾性保持部材32が備えられている。
【0050】
そのため、汎用性が向上し、モジュール支承装置10を効率よく構成することができる。
詳述すると、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より摺動面の面積が小さいベアリング51が複数、モジュール上沓30に備えられている。そのため、摺動面の面積が小さいベアリング51を、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に応じた適宜の個数を組み合わせてモジュール上沓30を構成することができる。したがって、上部構造物100の荷重等の諸条件に応じた上沓のベアリングを設計したり製造したりすることなく、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より摺動面の面積が小さいベアリング51を分担する負荷に応じた数で用いることができ、汎用性を向上することができ、モジュール支承装置10を効率よく構成することができる。
【0051】
しかしながら、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より摺動面の面積が小さい複数のベアリング51でモジュール上沓30を構成するため、製造公差や組付精度によって、複数の小さなベアリング51の滑り面が均一にならない、つまり段差が生じるおそれがある。複数の小さなベアリング51の滑り面が均一な高さにならないと、つまり段差が生じると、モジュール支承装置10の滑り性能が低下する。
【0052】
これに対し、ベアリング51を有するモジュール上沓30が備えられる上部構造物100の底面101に対して、対向方向(上下方向)にベアリング51を弾性支持する弾性保持部材32が備えられている。そのため、他のベアリング51に比べて高さの高い(上部構造物100の底面101からの距離が長く、底面が下方に突出する)ベアリング51は、弾性保持部材32が変形することで他のベアリング51の滑り面と均一な高さになり、つまり段差が解消され、所望の滑り性能を確保することができる。
【0053】
なお、複数のベアリング51の滑り面が均一な高さになったとしても、複数のベアリング51の配置、つまり平面方向における相対位置がずれると、やはり、モジュール支承装置10の滑り性能が低下する。これに対し、弾性保持部材32が複数のベアリング51の平面方向の相対位置を規制するため、所望の滑り性能を確保することができる。
【0054】
このように、モジュール上沓30に、当該モジュール支承装置10で負担する負荷に対する摺動面の面積より摺動面の面積が小さい複数のベアリング51と、ベアリング51が備えられる側の上部構造物100の底面101に対して、対向方向(上下方向)にベアリング51を弾性支持する弾性保持部材32と、複数のベアリング51の平面方向の相対位置を規制する弾性保持部材32とが備えられたことにより、所望の滑り性能を確保できるとともに、汎用性が向上したモジュール支承装置10を効率よく構成することができる。
【0055】
また、弾性保持部材32は、すべてのベアリング51に亘って形成されているため、他のベアリング51より高さが高いひとつのベアリング51の高さが低くなるように弾性保持部材32が変形すると、その変形の影響は他のベアリング51の高さが高くなるように作用する。したがって、少なくともふたつのベアリング51に亘るように形成された弾性保持部材32により、ひとつのベアリング51と他のベアリング51との高さが均一となるための変形量を小さくすることができる。
【0056】
また、すべてのベアリング51に亘って形成されるとともに、ベアリング51を装着可能な凹状の装着凹部33が設けられた弾性保持部材32がゴム製であるため、装着凹部33にベアリング51を配置するだけで、複数のベアリング51同士の平面方向における相対位置を規制できるとともに、弾性支持することができる。したがって、複数のベアリング51で構成するモジュール上沓30、及び当該モジュール上沓30を有するモジュール支承装置10の組付性を向上することができる。
【0057】
また、弾性保持部材32は、すべてのベアリング51に亘って形成されるため、他のベアリング51に対して高さの高いベアリング51の高さが低くなる弾性保持部材32の変形の影響は他のベアリング51に作用し、高さの高いベアリング51の高さが他のベアリング51との高さと均一となるための変形量を小さくすることができる。
【0058】
また、ベアリング51を保持するホルダ52が備えられ、弾性保持部材32に、ホルダ52が挿入可能な凹状の装着凹部33が設けられているため、ホルダ52で強固に保持された複数のベアリング51でモジュール上沓30を構成することができ、安定した滑り性能を有するモジュール支承装置10を構成することができる。
【0059】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明の上部構造物は上部構造物100に対応し、
以下同様に、
下部構造物は下部構造物110に対応し、
配設面は底面101に対応し、
上沓はモジュール上沓30に対応し、
下沓は下沓20に対応し、
滑り部材はベアリング51に対応し、
滑り板材はスライドプレート22に対応し、
支承装置はモジュール支承装置10に対応し、
弾性部材及び位置規制部材は弾性保持部材32に対応し、
装着凹部は装着凹部33に対応し、
ホルダはホルダ52に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0060】
例えば、上述の上部構造物100及び下部構造物110は、例えば、ビルを上部構造物100とし、基礎構造を下部構造物110とする建造物、橋脚を下部構造物110とし、主桁を上部構造物100とする橋梁、ビルを下部構造物110とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物100とする連絡通路、柱を下部構造物110とし、トラス屋根を上部構造物100とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物110とし、別のビルを上部構造物100とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを収納したラックを上部構造物100とし、ラックを置く床を下部構造物110とする構造物であってもよい。
【0061】
例えば、上述したモジュール支承装置10のモジュール上沓30は、弾性保持部材32に対してベアリング51を有する3つのベアリングユニット50を正三角形配置したが、ベアリングユニット50の個数やその配置は限定されない。例えば、
図4に示すように、適宜の数のベアリングユニット50を適宜の形状に沿って配置してモジュール上沓30を構成してもよい。
【0062】
なお、
図4は、他の実施形態のモジュール上沓30の底面図による説明図を示している。詳しくは、
図4(a)は6つのベアリングユニット50を備えたモジュール上沓30の底面図を示し、
図4(b)は9つのベアリングユニット50を備えたモジュール上沓30の底面図を示している。
【0063】
具体的には、例えば、6つのベアリングユニット50を備えたモジュール上沓30であってもよい。6つのベアリングユニット50を備えるモジュール上沓30は、3つのベアリングユニット50を正三角形の頂点に配置するとともに、正三角形の各辺の中間地点のそれぞれにベアリングユニット50を配置している。
【0064】
また、例えば、9つのベアリングユニット50を備えたモジュール上沓30であってもよい。9つのベアリングユニット50を備えるモジュール上沓30は、4つのベアリングユニット50を正方形の頂点に配置するとともに、正方形の各辺の中間地点のそれぞれと、底面視中央とにベアリングユニット50を配置している。
【0065】
このように、複数のベアリングユニット50を備えたモジュール上沓30は、モジュール支承装置10で負担する荷重を適当な数で分割し、その分割数のベアリングユニット50を正多角形の頂点と、正多角形の中心や辺の中央などに配置することで構成することができる。あるいは、モジュール上沓30は、複数のベアリングユニット50を同心円状に配置してもよい。このとき、ベアリングユニット50同士の間隔が等しくなるように配設することが好ましい。
【0066】
また、上述のモジュール支承装置10のモジュール上沓30では、弾性保持部材32の装着凹部33のそれぞれにベアリングユニット50を装着して、複数のベアリングユニット50を、相対位置を規制しながら弾性支持した。つまり、複数の装着凹部33のそれぞれにベアリングユニット50を装着したモジュール上沓30の弾性保持部材32は、弾性支持部材として機能するとともに、相対位置規制部材としても機能した。
【0067】
これに対して、
図5に示すように、相対位置規制部材としてのみ保持部材32aを機能させ、弾性支持部材として機能するリングゴム34を設けてモジュール上沓30aを構成してもよい。なお、以下におけるモジュール上沓30aの説明において、上述のモジュール上沓30における構成と同じ構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0068】
相対位置規制部材としてのみ保持部材32aを機能させるモジュール上沓30aの場合、保持部材32aは、上述の弾性保持部材32と同じ形状であるものの、樹脂製や金属製で構成する。
装着凹部33に装着するベアリングユニット50aにおけるホルダ52aの円柱部54aは、上述のベアリングユニット50の円柱部54より低く形成している。
【0069】
そして、装着凹部33にベアリングユニット50aを装着した際に、円柱部54aと装着凹部33の底面との間にリングゴム34を介在させる。
リングゴム34は、装着凹部33の外径と略同径の外径と、中央に平面視円形の変形許容空間341を有するリング状であり、つまり、変形許容空間341を取り囲むように周状であり、適宜の弾性を有するゴム製である。なお、リングゴム34は、円柱部54aと合わせて装着凹部33の深さと略一致する高さで形成している。
【0070】
このように構成したリングゴム34を、装着凹部33の底面と間に介在させて装着凹部33に装着するベアリングユニット50aは、装着凹部33に対して、上下方向(装着方向)にスライド可能に装着される。
【0071】
このように構成した、リングゴム34を有するモジュール上沓30aを有するモジュール支承装置10及びモジュール支承装置10を介して下部構造物110で上部構造物100を支持する支承構造1は、上述のモジュール上沓30を有するモジュール支承装置10及びモジュール支承装置10を介して下部構造物110で上部構造物100を支持する支承構造1と同様の効果を奏することができる。
【0072】
また、リングゴム34は、平面視内側に変形可能な変形許容空間341を有し、変形許容空間341を取り囲むように周状に形成されている。
装着凹部33に対してベアリング51の高さが低くなるようにリングゴム34が変形する際に、ホルダ52と装着凹部33との間でリングゴム34の変形可能な空間がないと、リングゴム34が変形できず、ホルダ52に対するベアリング51の高さを調整することができない。これに対し、変形許容空間341を有し、変形許容空間341を取り囲むように周状に形成されたリングゴム34は、弾性保持部材32に対するベアリング51の変形性能を変えることなく、弾性保持部材32に対してベアリング51の高さが低くなるように変形することができる。
【0073】
なお、上述の説明では、装着凹部33の底面とホルダ52との間にリングゴム34を備えたが、ベアリング51を保持するホルダ52において、装着凹部531の底面とベアリング51との間にリングゴム34を備えてもよい。
この場合は、上部構造物100の底面101に対してベースプレート31及び弾性保持部材32を介して強固にホルダ52を固定し、上部構造物100の底面101に固定されたホルダ52に対してベアリング51の高さをリングゴム34によって調節することができる。
【0074】
また、前述の実施形態では、装着凹部33、ベアリングユニット50、50a、ベアリング51等の外周形状が円形状である場合を示したが、円形状に限られず、例えば多角形状であってもよい。この場合、リングゴム34の形状も、装着凹部33、ベアリングユニット50、50a、ベアリング51等の外周形状に合わせた形状とすればよい。
【0075】
なお、上述の説明では、下部構造物110の上面111に、ソールプレート21とスライドプレート22とを有する下沓20を装着し、上部構造物100の底面101に、複数のベアリングユニット50、50aを有するモジュール上沓30、30aを装着してモジュール支承装置10を構成した。これに対し、上部構造物100の底面101に、ソールプレートとスライドプレートとを有する上沓を装着し、下部構造物110の上面111に、複数のベアリングユニット50、50aを有するモジュール下沓を装着してモジュール支承装置10を構成してもよく、この場合も上述のモジュール支承装置10と同様の効果を奏することができる。
【0076】
1…支承構造
10…モジュール支承装置
20…下沓
22…スライドプレート
30、30a…モジュール上沓
32…弾性保持部材
32a…保持部材
33…装着凹部
34…リングゴム
51…ベアリング
52…ホルダ
100…上部構造物
101…底面
110…下部構造物
111…上面