(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021678
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】粘着剤用ベースポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/78 20060101AFI20250206BHJP
C08G 63/88 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125569
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】孫 吟
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB04
4J029AC02
4J029AC05
4J029AE13
4J029AE17
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4J029KG02
(57)【要約】
【課題】粘着剤用ベースポリマーとして好適なポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】粘着剤用ベースポリマーの製造方法は、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーである粘着剤用ベースポリマーの製造方法であって、第1のポリエステル樹脂及び前記第1のポリエステル樹脂とは異なるポリエステル樹脂である第2のポリエステル樹脂とを含む原料を、反応装置内で、前記原料に含まれるポリエステル樹脂の最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上に加熱して攪拌して分解生成物を得る分解工程(ステップS1)と、前記分解生成物を乾燥させる乾燥工程(ステップS2)と、前記乾燥工程(ステップS2)後、前記分解生成物を減圧環境下で加熱して攪拌する高分子量化工程(ステップS3)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーである粘着剤用ベースポリマーの製造方法であって、
第1のポリエステル樹脂及び前記第1のポリエステル樹脂とは異なるポリエステル樹脂である第2のポリエステル樹脂とを含む原料を、反応装置内で、前記原料に含まれるポリエステル樹脂の最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上に加熱して攪拌して分解生成物を得る分解工程と、
前記分解生成物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後、前記分解生成物を減圧環境下で加熱して攪拌する高分子量化工程と、を備え、
前記分解工程及び前記高分子量化工程の少なくとも一方において、前記原料又は前記分解生成物に3価以上の多価アルコールを加え、
前記分解工程及び前記高分子量化工程の少なくとも一方において、触媒を加える、粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記原料は、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリブチレンアジペート照れフラレートからなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記原料は、ポリ乳酸及びポリカプロラクトンの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記原料は、ポリ乳酸を含み、
前記原料におけるポリ乳酸の割合が55質量%以下である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、Zn、Sn、Fe、Al、Ti、Zn酸化物、Sn酸化物、Fe酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、Znの有機金属塩、Snの有機金属塩、Feの有機金属塩、Alの有機金属塩及びTiの有機金属塩からなる群から選択される1種又は2種以上であり、
前記触媒の添加量は、前記原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.01~10.0質量部である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記多価アルコールの添加量は、前記原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.10~0.50質量部である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記分解工程において、下記の式で表される分解時水分含有量が0.015以上である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
分解時水分含有量=反応装置内の水分の質量/(原料に含まれるポリエステル樹脂の質量+多価アルコールの質量+触媒の質量)
【請求項8】
前記分解工程の時間が3分以上である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記分解工程における攪拌のせん断速度が50~1,000,000/秒である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程における加熱温度が80~140℃である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記乾燥工程の時間が30~160分である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記高分子量化工程における攪拌のせん断速度が50~1,000,000/秒である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥工程において、下記の式で表される乾燥後水分含有量が0.0015以下になるように乾燥させる、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
乾燥後水分含有量=分解生成物に含まれる水分の質量/(原料に含まれるポリエステル樹脂の質量+多価アルコールの質量+触媒の質量)
【請求項14】
前記高分子量化工程における加熱温度が160~250℃である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項15】
前記高分子量化工程の時間が30~480分である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【請求項16】
前記高分子量化工程における真空度が1500Pa以下である、請求項1に記載の粘着剤用ベースポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤用ベースポリマーの製造方法に関し、より詳しくは、ポリエステル系粘着剤用ベースポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸等の生分解性ポリマーの共重合体を粘着剤として用いることが提案されている。例えば、特開2011-88959号公報には、乳酸と二塩基酸とを使用したポリエステルを用いた粘着シートが開示されている。非特許文献1では、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体を粘着剤として使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高橋紳矢「植物由来成分を含む再生可能資源利用型粘着剤の提案」、コンバーテック、加工技術研究会、2009年2月、第103-108頁
【非特許文献2】Mengyuan Zhang et. al., “Synthesis of Poly(l-lactide-co-ε-caprolactone) Copolymer: Structure, Toughness, and Elasticity”, Polymers 2021, 13, 1270, https://doi.org/10.3390/polym13081270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、粘着剤用ベースポリマーとして好適なポリマーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法は、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーである粘着剤用ベースポリマーの製造方法であって、第1のポリエステル樹脂及び前記第1のポリエステル樹脂とは異なるポリエステル樹脂である第2のポリエステル樹脂とを含む原料を、反応装置内で、前記原料に含まれるポリエステル樹脂の最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上に加熱して攪拌して分解生成物を得る分解工程と、前記分解生成物を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後、前記分解生成物を減圧環境下で加熱して攪拌する高分子量化工程と、を備え、前記分解工程及び前記高分子量化工程の少なくとも一方において、前記原料又は前記分解生成物に3価以上の多価アルコールを加え、前記分解工程及び前記高分子量化工程の少なくとも一方において、触媒を加える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘着剤用ベースポリマーとして好適なポリマーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法のフロー図である。
【
図2A】
図2Aは、本実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法の概略を説明するための図である。
【
図2B】
図2Bは、本実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法の概略を説明するための図である。
【
図2C】
図2Cは、本実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法の概略を説明するための図である。
【
図3】
図3は、粘着剤用ベースポリマーの
1H-NMRスペクトルの一例である。
【
図4A】
図4Aは、粘着剤用ベースポリマーの化学構造の一部を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、粘着剤用ベースポリマーの化学構造の他の一部を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、粘着剤用ベースポリマーの化学構造のさらに他の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、ポリエステル系粘着剤用ベースポリマーの性能を向上させる方法について検討を行い、下記の知見を得た。
【0010】
粘着剤用ベースポリマーとしては、ガラス転移温度が低いポリマーが好ましい。例えばポリ乳酸のガラス転移温度は約60℃であり、単独では粘着剤用ベースポリマーには適さない。ガラス転移温度を調整するためには、二種以上のポリエステル樹脂の共重合体とすることが有効である。
【0011】
粘着剤用ベースポリマーとしては、結晶性が低いポリマーが好ましい。結晶性が高いと固化が促進され、粘着性が低下するためである。結晶性を低くするためには、二種以上のポリエステル樹脂が不規則に結合したランダム共重合体とすることが好ましい。
【0012】
ポリエステルの共重合体は一般的に、二種以上のモノマーを重合させることで製造される。例えばポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体は一般的に、L-ラクチドとε-カプロラクトンとから開環重合によって製造される。しかし、この方法ではカプロラクトンよりも反応性の高いラクチドが先に高分子化し、後からカプロラクトンが高分子化するため、結果的にブロック性の高分子となる。そのため、この方法では結晶性を十分に小さくすることが困難である。
【0013】
本発明者らは、上記の方法とは全く異なるポリエステル共重合体の製造方法を見出した。具体的には、二種以上のポリエステル樹脂(モノマーではなく、高分子としてのポリエステル樹脂)を加熱して攪拌することで、エステル結合の分解と生成とが同時に起こり、ポリエステル共重合体が得られることを見出した。さらにこの方法によれば、従来よりも結晶化度を小さくできることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0014】
[粘着剤用ベースポリマーの製造方法]
図1は、本発明の一実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法のフロー図である。この製造方法は、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーである粘着剤用ベースポリマーの製造方法である。この製造方法は、第1のポリエステル樹脂及び第1のポリエステル樹脂とは異なるポリエステル樹脂である第2のポリエステル樹脂とを含む原料を、反応装置内で、原料に含まれるポリエステル樹脂の最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上に加熱して攪拌して分解生成物を得る分解工程(ステップS1)と、分解生成物を乾燥させる乾燥工程(ステップS2)と、乾燥工程後、分解生成物を減圧環境下で加熱して攪拌する高分子量化工程(ステップS3)とを備える。この製造方法ではまた、分解工程及び前記高分子量化工程の少なくとも一方において、原料又は分解生成物に3価以上の多価アルコールを加え、分解工程及び高分子量化工程の少なくとも一方において、触媒を加える。
【0015】
まず、
図2A~
図2Cを参照して、本実施形態による製造方法の概要を説明する。この製造方法では、第1のポリエステル樹脂11と第2のポリエステル樹脂12とを含む原料10を、反応装置内で、加熱して攪拌する(ステップS2、
図2Aを参照。)。これによって、エステル結合の分解と生成とが同時に起こり、低分子量のポリエステル共重合体である分解生成物20が得られる(
図2Bを参照。)。分解生成物20を乾燥させた後(ステップS2)、多価アルコール及び触媒を加え、減圧環境下で加熱して攪拌することで高分子量化させる(ステップS3)。これによって、ヒドロキシカルボン酸単位と多価アルコール単位とを含む分岐構造を有するポリマー30が得られる(
図2Cを参照。)。
【0016】
なお、多価アルコール及び触媒は、分解工程(ステップS1)の段階で添加しておいてもよい。すなわち、本実施形態による製造方法では、分解工程(ステップS1)及び高分子量化工程(ステップS3)の少なくとも一方において、原料又は分解生成物に3価以上の多価アルコールを加えればよく、分解工程(ステップS1)及び高分子量化工程(ステップS3)の少なくとも一方において、原料又は分解生成物に触媒を加えればよい。
【0017】
[分解工程]
以下、各工程を詳述する。まず、第1のポリエステル樹脂及び第1のポリエステル樹脂とは異なるポリエステル樹脂である第2のポリエステル樹脂とを含む原料を、反応装置内で、原料に含まれるポリエステル樹脂の最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上に加熱して攪拌して分解生成物を得る(分解工程(ステップS1))。
【0018】
原料は、第1のポリエステル樹脂及び第2のポリエステル樹脂以外のものを含んでいてもよい。原料は例えば、第1のポリエステル樹脂及び第2のポリエステル樹脂のいずれとも異なるポリエステル樹脂をさらに含んでいてもよい。以下、「原料に含まれるポリエステル樹脂の質量」は、原料に含まれるすべてのポリエステル樹脂の質量の総和を意味する。
【0019】
原料に含まれるポリエステル樹脂(第1のポリエステル樹脂及び第2のポリエステル樹脂を含む。)は、これらに限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等である。すなわち原料は、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群から選択される1種又は2種以上を含んでいてもよい。原料は、ポリ乳酸及びポリカプロラクトンの少なくとも一方を含んでいることが好ましく、ポリ乳酸を含んでいることがより好ましい。
【0020】
原料に含まれるポリエステル樹脂の各々は、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。
【0021】
原料がポリ乳酸を含む場合、原料におけるポリ乳酸の割合は、55質量%以下であることが好ましい。ポリ乳酸の割合の下限は、特に限定されないが、例えば40質量%であり、好ましくは45質量%である。
【0022】
原料となるポリエステル樹脂は、粉末状又はペレット状に前処理されたものであることが好ましい。あるいは、反応装置の原料投入口に粉砕装置を設けて、投入と同時に粉砕されるようにしてもよい。二種以上のポリエステル樹脂は、一種ずつ順番に投入してもよいし、予め混合しておいて一度に投入してもよい。
【0023】
既述のとおり、分解工程(ステップS1)の段階において、多価アルコール(3価以上のアルコール)及び触媒(重合触媒)の一方又は両方を加えておいてもよい。
【0024】
多価アルコールは、3価以上のアルコールである。3価以上のアルコールは例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、グルコース、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ふっ素含有ポリオール、ポリビニルアルコールからなる群から選択される1種又は2種以上であり、中でもトリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが好ましい。多価アルコールは、4価以上のアルコールがより好ましい。
【0025】
多価アルコール(3価以上の多価アルコール。以下この段落において同じ。)の添加量は、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.10~0.50質量部(phr)である。多価アルコールの添加量の下限は、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.20質量部である。多価アルコールの添加量の上限は、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.40質量部である。
【0026】
触媒は例えば、Zn、Sn、Fe、Al、Ti、Zn酸化物、Sn酸化物、Fe酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、Znの有機金属塩、Snの有機金属塩、Feの有機金属塩、Alの有機金属塩及びTiの有機金属塩からなる群から選択される1種又は2種以上であり、なかでもZnの酸化物及びSnの有機金属塩(例えばオクチル酸Sn)が特に好ましい。
【0027】
触媒の添加量は、触媒の種類にも依存するが、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.01~10.0質量部である。触媒の添加量の下限は、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して0.1質量部であり、さらに好ましくは0.4質量部であり、さらに好ましくは0.8質量部である。触媒の添加量の上限は、好ましくは、原料に含まれるポリエステル樹脂100質量部に対して5.0質量部であり、さらに好ましくは3.0質量部である。
【0028】
反応装置は、原料を加熱した状態で攪拌できるものであればよい。反応装置は、反応装置内の雰囲気を制御できるものであることが好ましい。反応装置は、具体的には、原料の投入口や取出口、ガスの導入口や排出口(ベント口)、水分の注入口等を除いて、内部を密閉できる構造であることが好ましい。反応装置は、金属製、ガラス製、又はセラミック製であることが好ましく、金属製であることが特に好ましい。反応装置はバッチ式の反応装置であってもよいし、連続式の反応装置であってもよい。
【0029】
分解工程(ステップS1)において、下記の式で表される分解時水分含有量が0.015以上(1.5%以上)であることが好ましい。
分解時水分含有量=反応装置内の水分の質量/(原料に含まれるポリエステル樹脂の質量+多価アルコールの質量+触媒の質量)
上記の式において、多価アルコールが添加されていない場合、「多価アルコールの質量」には0を代入するものとする。同様に、触媒が添加されていない場合、「触媒の質量」には0を代入するものとする。
【0030】
分解時水分含有量が低すぎると、ポリエステル樹脂が十分に分解されず、結晶性を十分に低くすることが困難になる場合がある。分解時水分含有量の下限は、より好ましくは0.100(10.0%)であり、さらに好ましくは1.000(100.0%)であり、さらに好ましくは3.000(300.0%)である。一方、分解時水分含有量が高すぎると、加熱や乾燥のためのエネルギー消費量が大きくなる。分解時水分含有量の上限は、好ましくは10.000(1000.0%)であり、より好ましくは5.00(500.0%)である。
【0031】
分解工程(ステップS1)時の加熱温度(以下「分解温度」という。)は、原料に含まれるポリエステル樹脂のうち最も融点が低いポリエステル樹脂の融点以上の温度である。分解温度が高い程、反応が進みやすくなる。分解温度の下限は、好ましくは150℃であり、さらに好ましくは200℃であり、さらに好ましくは230℃である。分解温度は、原料に含まれるポリエステル樹脂のうち最も融点が高いポリエステル樹脂の融点以上であってもよい。一方、分解温度が高すぎると、エステル結合以外の結合が切れる場合がある。分解温度の上限は、好ましくは300℃であり、さらに好ましくは280℃であり、さらに好ましくは270℃である。
【0032】
分解工程(ステップS1)の時間(以下「分解時間」という。)は特に限定されないが、3分以上であることが好ましい。分解時間が短すぎると、反応が進まず、結晶性を十分に低くできない場合がある。分解時間の下限は、より好ましくは30分であり、さらに好ましくは60分であり、さらに好ましくは90分である。分解時間の上限は、好ましくは8時間であり、さらに好ましくは6時間であり、さらに好ましくは3時間である。
【0033】
分解工程(ステップS1)における攪拌のせん断速度は、好ましくは50~1,000,000/秒である。せん断速度が小さすぎると、反応が進まず、結晶性を十分に低くできない場合がある。一方、せん断速度が大きすぎると、エステル結合以外の結合が切れる場合がある。せん断速度の下限は、より好ましくは100/秒であり、さらに好ましくは1,000/秒であり、さらに好ましくは10,000/秒である。せん断速度の上限は、より好ましくは500,000/秒であり、さらに好ましくは300,000/秒である。
【0034】
[乾燥工程]
分解工程(ステップS1)によって得られた分解生成物を乾燥させる(乾燥工程(ステップS2))。
【0035】
乾燥工程(ステップS2)は、分解工程(ステップS1)で使用した反応容器で行ってもよいし、異なる容器等に移し替えてから行ってもよい。分解工程(ステップS1)で使用した反応容器を使用して乾燥工程(ステップS1)を行う場合、例えば、分解工程(ステップS1)終了後の高温の状態から反応装置のベント口等を操作して反応装置内の水分を蒸気として排出し、そのまま所定時間保持して分解生成物を乾燥させてもよい。
【0036】
乾燥工程(ステップS2)において、下記の式で表される乾燥後水分含有量が、0.0015以下(0.15%以下)になるように乾燥させることが好ましい。
乾燥後水分含有量=分解生成物に含まれる水分の質量/(原料に含まれるポリエステル樹脂の質量+多価アルコールの質量+触媒の質量)
上記の式において、多価アルコールが添加されていない場合、「多価アルコールの質量」には0を代入するものとする。同様に、触媒が添加されていない場合、「触媒の質量」には0を代入するものとする。
【0037】
乾燥後水分含有量が高すぎると、高分子量化工程で分子量を大きくすることができない場合がある。乾燥後水分含有量の上限は、より好ましくは0.0013(0.13%)であり、さらに好ましくは0.0012(0.12%)である。乾燥後水分含有量の上限は、特に限定されないが、効率の観点から好ましくは0.0001(0.01%)であり、より好ましくは0.0005(0.05%)であり、さらに好ましくは0.0008(0.08%)である。
【0038】
乾燥工程(ステップS2)における加熱温度は、好ましくは80~140℃である。加熱温度が低すぎると、水分含有量を低下させるために長時間乾燥させる必要がある。一方、乾燥温度が高すぎると、分解生成物が揮発してしまい、収率が低くなる。
【0039】
乾燥工程(ステップS2)の時間は特に限定されないが、好ましくは30~160分である。
【0040】
[高分子量化工程]
乾燥工程(ステップS2)後、分解生成物を減圧環境下で加熱して攪拌する(高分子量化工程(ステップS3))。
【0041】
高分子量化工程(ステップS3)は、分解工程(ステップS1)で使用した反応容器で行ってもよいし、異なる容器等に移し替えてから行ってもよい。
【0042】
分解工程(ステップS1)において原料に多価アルコール及び触媒を加えていなかった場合には、高分子量化工程(ステップS3)において、分解生成物に多価アルコール及び触媒を加える。既述のとおり、
図3の製造方法では、分解工程(ステップS1)及び高分子量化工程(ステップS3)の少なくとも一方において、原料又は分解生成物に3価以上の多価アルコールを加えればよく、分解工程(ステップS1)及び高分子量化工程(ステップS3)の少なくとも一方において、原料又は分解生成物に触媒を加えればよい。好ましい添加量等は、分解工程(ステップS1)で加える場合と同じである。
【0043】
高分子量化工程(ステップS3)における加熱温度(以下「重合温度」という。)は、好ましくは160~250℃である。重合温度が高すぎると、分解生成物が揮発して収率が低くなる場合がある。また、さらに高い温度ではポリマーが熱分解する場合がある。一方、重合温度が低すぎると、ポリマーの分子量を十分に大きくできない場合がある。重合温度の下限は、より好ましくは180℃であり、さらに好ましくは200℃であり、さらに好ましくは210℃であり、さらに好ましくは220℃である。重合温度の上限は、より好ましくは240℃である。
【0044】
高分子量化工程(ステップS3)の時間(以下「重合時間」という。)は、好ましくは30~480分である。重合時間が短すぎると、ポリマーの分子量を十分に大きくできない場合がある。一方、重合時間が長すぎると、ポリマーがゲル化(発泡)する場合がある。また、重合時間が長すぎると、分子量が高くなり過ぎる場合がる。分子量が高くなり過ぎると、ガラス転移温度や貯蔵弾性率が過剰に高くなる場合がある。重合時間の下限は、より好ましくは60分であり、さらに好ましくは90分である。重合時間の上限は、より好ましくは360分であり、さらに好ましくは300分である。
【0045】
高分子量化工程(ステップS3)における攪拌のせん断速度は、好ましくは50~1,000,000/秒である。せん断速度が小さすぎると、エステル交換反応が進まず、結晶性を十分に低くできない場合がある。一方、せん断速度が大きすぎると、エステル結合以外の結合が切れる場合がある。せん断速度の下限は、より好ましくは100/秒であり、さらに好ましくは1,000/秒であり、さらに好ましくは10,000/秒である。せん断速度の上限は、より好ましくは500,000/秒であり、さらに好ましくは300,000/秒である。
【0046】
高分子量化工程(ステップS3)における真空度は、好ましくは1500Pa以下である。真空度はより好ましくは1200Pa以下であり、さらに好ましくは1000Pa以下である。
【0047】
以上の工程によって、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマー(粘着剤用ベースポリマー)が製造される。
【0048】
[粘着剤用ベースポリマー]
以下、本実施形態による製造方法によって製造される粘着剤用ベースポリマーについて説明する。以下に説明する粘着剤用ベースポリマーの構成は、飽くまでも例示であって、本実施形態による製造方法を限定するものではない。
【0049】
[構造]
粘着剤用ベースポリマーは、上述のとおり、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーである。
【0050】
ヒドロキシカルボン酸単位は、これらに限定されないが、例えば、乳酸単位やカプロラクトン単位(ポリカプロラクトンの繰返単位)である。
【0051】
粘着剤用ベースポリマーは、ヒドロキシカルボン酸単位及び3価以上の多価アルコール単位以外の構造単位を含んでいてもよい。粘着剤用ベースポリマーは例えば、1,4-ブタンジオール単位とコハク酸単位(ポリブチレンサクシネートに含まれる繰返単位)、アジピン酸単位(ポリブチレンサクシネートアジペートに含まれる繰返単位)、テレフタル酸単位(ポリブチレンアジペートテレフタレートに含まれる繰返単位)等を含んでいてもよい。
【0052】
粘着剤用ベースポリマーは、バイオマス度を高めるという観点から、ヒドロキシカルボン酸単位として、乳酸単位を含むものが好ましい。粘着剤用ベースポリマーが乳酸単位を含む場合、好ましくは、ポリマー中における乳酸単位の割合が20~50モル%である。乳酸単位の割合が高すぎても低すぎても、粘着剤用ベースポリマーとしての好ましい特性が得られない場合がある。乳酸単位の割合の下限は、より好ましくは30モル%であり、さらに好ましくは40モル%である。乳酸単位の割合の上限は、より好ましくは48モル%であり、さらに好ましくは46モル%である。
【0053】
多価アルコール単位は、上述した3価以上のアルコールに由来する構造単位である。多価アルコール単位を3価以上のアルコールに由来する構造単位とすることによって、粘着剤用ベースポリマーに分岐構造を持たせることができ、凝集力が向上する。
【0054】
ポリマー中における多価アルコール単位の割合は、好ましくは0.55モル%以下である。多価アルコール単位の割合が高すぎると、ポリマーがゲル化(発泡)して粘着剤用ベースポリマーとして使用できなくなる場合がある。多価アルコール単位の割合の上限は、より好ましくは0.50モル%であり、さらに好ましくは0.45モル%である。一方、多価アルコール単位の割合が低すぎると、分岐構造が十分に得られず、ガラス転移温度が低下しない場合がある。多価アルコール単位の割合の下限は、好ましくは0.20モル%であり、さらに好ましくは0.30モル%である。
【0055】
粘着剤用ベースポリマーは、乳酸単位と、カプロラクトン単位と、3価以上の多価アルコール単位と、を含む分岐構造を有するポリマーであってもよい。このようなポリマーは例えば、第1のポリエステル樹脂としてポリ乳酸を使用し、第2のポリエステル樹脂としてポリカプロラクトンを使用することで製造することができる。
【0056】
粘着剤用ベースポリマーが上記のような乳酸単位とカプロラクトン単位とを含むポリマーである場合、ポリマー中におけるカプロラクトン単位の割合は、特に限定されないが、例えば40~80モル%である。カプロラクトン単位の割合の下限は、好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは53モル%である。カプロラクトン単位の割合の上限は、好ましくは70モル%であり、さらに好ましくは60モル%である。
【0057】
粘着剤用ベースポリマーが上記のような乳酸単位とカプロラクトン単位とを含むポリマーである場合であっても、粘着剤用ベースポリマーは、乳酸単位、カプロラクトン単位、及び多価アルコール単位以外の構造単位をさらに含んでいてもよい。粘着剤用ベースポリマーは例えば、乳酸単位及びカプロラクトン単位以外のヒドロキシカルボン酸単位を含んでいてもよい。ポリマー中における、乳酸単位、カプロラクトン単位、及び多価アルコール単位以外の構造単位の割合は、好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、さらに好ましくは1モル%以下である。なお、ポリマー中の各単位の割合は例えば、1H-NMRによって測定することができる。
【0058】
[Fα及びFε]
粘着剤用ベースポリマーが上記のような乳酸単位とカプロラクトン単位とを含むポリマーである場合、粘着剤用ベースポリマーは、下記の式で表されるFα及びFεの少なくとも一方が0.35以上であることが好ましい。
Fα=Iα*/(Iα+Iα*)
Fε=Iε*/(Iε+Iε*)
ここで、Iα、Iα*、Iε及びIε*は、粘着剤用ベースポリマーの1H-NMRスペクトルから得られる値であって、
Iαは、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iα*は、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介して乳酸単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iεは、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合の酸素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iε*は、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合の酸素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介して乳酸単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度である。
【0059】
図3は、乳酸単位とカプロラクトン単位とを含む粘着剤用ベースポリマーの
1H-NMRスペクトルの一例である。この
1H-NMRスペクトルは、Bruker社製の核磁気共鳴装置(NMR)AVANCE NEO 700MHzを用い、粘着剤用ベースポリマーを重水素化クロロホルムに10mg/mlのように溶かして測定したものである。化学シフトの基準はTMS(テトラメチルシラン)を用いた。
【0060】
図3において、α、α
*、β、γ、δ、ε及びε
*は、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のプロトンに由来するシグナルである。また、A及びA
*は乳酸単位に含まれるメチル基のプロトンに由来するシグナルであり、B及びB
*は乳酸単位に含まれるメチン基のプロトンに由来するシグナルである。
【0061】
図4A~
図4Cに、乳酸単位とカプロラクトン単位とを含む粘着剤用ベースポリマーの化学構造の一部を示す。この粘着剤用ベースポリマーは、乳酸単位LA(
図4B及び
図4C)と、カプロラクトン単位CL(
図4A~
図4C)と、多価アルコール単位(不図示)とを含んでいる。
図4Aに示すように、カプロラクトン単位CLには、5つのメチレン基が存在する。これらのメチレン基を、エステル結合のカルボニル炭素から直接結合しているものから順にα位、β位、γ位、δ位及びε位のメチレン基と表記する。
【0062】
α位のメチレン基は、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基である。ε位のメチレン基は、エステル結合の酸素に結合したメチレン基である。
図3のα~εのシグナルはそれぞれ、α位~ε位のメチレン基のプロトンに起因するシグナルである。
【0063】
α位のメチレン基のプロトンに由来するシグナルは、当該メチレン基がエステル結合を介してカプロラクトン単位CLと結合している場合(
図4Aを参照。)と、乳酸単位LAと結合している場合(
図4Bを参照。)とで、異なる化学シフトに表れる。ここで、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介して乳酸単位LAと結合しているメチレン基をα
*位のメチレン基と表記する(
図4Bを参照。)。なお、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位CLと結合しているメチレン基は上述の通りα位のメチレン基と表記する(
図4Aを参照。)。
図3のα
*のシグナルは、α
*位のメチレン基のプロトンに由来するシグナルである。具体的には、αのシグナルは、約2.30~2.35ppmに表れるのに対し、α
*のシグナルは、約2.35~2.50ppmに表れる。
【0064】
同様に、ε位のメチレン基のプロトンに由来するシグナルは、当該メチレン基がエステル結合を介してカプロラクトン単位CLと結合している場合(
図4Aを参照。)と、乳酸単位LAと結合している場合(
図4Cを参照。)とで、異なる化学シフトに表れる。ここで、エステル結合の酸素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介して乳酸単位LAと結合しているメチレン基をε
*位のメチレン基と表記する(
図4Cを参照。)。なお、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位CLと結合しているメチレン基は上述の通りε位のメチレン基と表記する(
図4Aを参照)。
図3のε
*のシグナルは、ε
*位のメチレン基のプロトンに起因するシグナルである。具体的には、εのシグナルは、約4.00~4.10ppmに表れるのに対し、ε
*のシグナルは、約4.10~4.20ppmに表れる。
【0065】
なお、乳酸単位LAのメチル基のプロトンに由来するシグナルも、エステル結合の相手方が乳酸単位LAであるかカプロラクトン単位CLであるかによって、A又はA*として観測される。A*はもともとAにあるプロトンが、カプロラクトン単位CLと結合することで、Aから低磁場にシフトしたものである。同様に、乳酸単位LAのメチン基のプロトンに由来するシグナルも、B又はB*として観測される。
【0066】
Iα、Iα*、Iε及びIε*はそれぞれ、α、α*、ε及びε*のシグナルの積分強度である。1H-NMRのシグナルの積分強度は、プロトンの個数に比例する。そのため、Iα、Iα*、Iε及びIε*はそれぞれ、α位、α*位、ε位及びε*位のメチレン基のプロトンの個数に比例する量である。
【0067】
したがって、Iαは、カプロラクトン単位CLとカプロラクトン単位CLとの結合(以下「CL―CL結合」という。)の数に比例する量であり、Iα*は、カプロラクトン単位CLと乳酸単位LAとの結合(以下「CL―LA結合」という。)の数に比例する量である。Fα=Iα*/(Iα+Iα*)は、CL―CL結合の数とCL-LA結合の数との和に対するCL-LA結合の数の比である。
【0068】
同様に、Iεは、CL―CL結合の数に比例する量であり、Iε*は、CL―LA結合の数に比例する量である。Fε=Iε*/(Iε+Iε*)は、CL―CL結合の数とCL-LA結合の数との和に対するCL-LA結合の数の比である。
【0069】
FαやFεが大きいほど、ポリマー中のCL-LA結合の割合が高いことを意味する。換言すれば、FαやFεが大きいほど、カプロラクトン単位CLと乳酸単位LAとの切り替わりが頻繁に起こっており、カプロラクトン単位CLや乳酸単位LAが連続しているブロックの大きさが小さいことを意味する。
【0070】
粘着剤用ベースポリマーは、好ましくはFα及びFεの少なくとも一方が0.35以上(35%以上)である。Fα及びFεの少なくとも一方が0.35以上であれば、優れた粘着性が得られる。Fα及びFεの下限は、より好ましくは0.38以上であり、さらに好ましくは0.40以上である。Fα及びFεの少なくとも一方が0.35、0.38又は0.40以上であればよいが、より好ましくは、Fα及びFεの両方が0.35、0.38又は0.40以上である。Fα及びFεの上限は、特に限定されないが、例えば0.80であり、好ましくは0.60である。
【0071】
上記では、粘着剤用ベースポリマーが乳酸単位とカプロラクトン単位とを含むポリマーである場合のFα及びFεについて説明したが、これらの説明は本実施形態によって製造される粘着剤用ベースポリマーを上記のものに限定する趣旨ではない。本実施形態によって製造される粘着剤用ベースポリマーは、ヒドロキシカルボン酸単位と、3価以上の多価アルコール単位とを含む、分岐構造を有するポリマーであればよい。
【0072】
[ガラス転移温度等]
粘着剤用ベースポリマーは、好ましくはガラス転移温度が-15℃以下である。ガラス転移温度が高すぎると、粘着剤用ベースポリマーに適さなくなる。ガラス転移温度は、ポリマーの分子量、ポリマー中における乳酸単位とカプロラクトン単位の割合等によって調整することができる。ガラス転移温度は、より好ましくは-20℃以下であり、さらに好ましくは-25℃以下であり、さらに好ましくは-30℃以下である。ガラス転移温度の下限は、特に限定されないが、例えば-60℃である。
【0073】
粘着剤用ベースポリマーは、好ましくは、数平均分子量Mnが10,000~30,000であり、重量平均分子量Mwが40,000~100,000である。数平均分子量Mnの下限は、より好ましくは12,000であり、さらに好ましくは13,000である。数平均分子量Mnの上限は、より好ましくは25,000であり、さらに好ましくは20,000である。重量平均分子量Mwの下限は、より好ましくは45,000であり、さらに好ましくは50,000である。重量平均分子量Mwの上限は、より好ましくは90,000であり、さらに好ましくは80,000である。
【0074】
粘着剤用ベースポリマーの分散度(Mw/Mn)は、例えば1.0~10.0である。分散度の下限は、好ましくは1.5であり、さらに好ましくは2.0である。分散度の上限は、好ましくは8.0であり、さらに好ましくは6.0である。
【0075】
粘着剤用ベースポリマーは、好ましくは、20℃における貯蔵弾性率が0.10×105~1.5×105Paである。貯蔵弾性率の下限は、より好ましくは0.20×105Paであり、さらに好ましくは0.50×105Paである。貯蔵弾性率の上限は、より好ましくは1.40×105Paであり、さらに好ましくは1.30×105Paである。
[本実施形態の効果等]
以上、本発明の一実施形態による粘着剤用ベースポリマーの製造方法を説明した。本実施形態によれば、粘着剤用ベースポリマーとして好適なポリマーが得られる。
【0076】
本実施形態によって製造される粘着剤用ベースポリマーは例えば、粘着テープの粘着層を構成する粘着剤の材料として用いることができる。粘着剤は例えば、本実施形態による製造方法で製造した粘着剤用ベースポリマーに、希釈用溶媒、架橋剤(HDI等)、その他の添加剤(タッキファイヤ等)を必要に応じて加えることで調製される。粘着テープは例えば、シート状の基材に粘着剤を塗布し、乾燥することで製造される。
【0077】
本発明により作製された製品等は、資源及びエネルギーの効率的利用、再生可能資源の活用、環境負荷の低減を実現することができる。本発明を社会へ提供することにより、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(つくる責任、つかう責任)の達成に貢献することができる。
【実施例0078】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0079】
表1~表3に示す条件でポリエステル樹脂の分解、乾燥、及び高分子量化を行ってポリマーを製造した。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表1~表3において、「PLA」は数平均分子量78,000、重量平均分子量120,000のポリ乳酸を表し、「PCL」は数平均分子量15,000、重量平均分子量25,000のポリカプロラクトンを表し、「PBSA」は数平均分子量40,000、重量平均分子量123,000のポリブチレンサクシネートアジペートを表し、「PBAT」は数平均分子量44,000、重量平均分子量53,000のポリブチレンアジペートテレフタレートを表す。ポリ乳酸の融点は約170℃、ポリカプロラクトンの融点は約60℃、ポリブチレンサクシネートアジペートの融点は約90℃、ポリブチレンアジペートテレフタレートの融点は約130℃であった。
【0084】
表1~表3において、「A1」はペンタエリスリトールを表し、「A2」はトリメチロールプロパンを表す。表1~表3において、「C1」はオクチル酸スズを表し、「C2」はZnOを表す。
【0085】
製造したポリマーの各種物性を測定した。
【0086】
ポリマーの構成単位の割合(モル%)はプロトン核磁気共鳴(1H-NMR)によって分析した。1H-NMRスペクトルは、JEOL社製の核磁気共鳴装置(NMR)ECA 500MHz、Bruker社製の核磁気共鳴装置AVANCE III HD400MHz、及びBruker社製の核磁気共鳴装置AVANCE NEO 700MHzを用い、粘着剤用ベースポリマーを重水素化クロロホルムに10mg/mlのように溶かして測定した。化学シフトの基準はTMS(テトラメチルシラン)を用いた。
【0087】
数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwは、製造したポリマーをテトラヒドロフランに0.5wt%に溶解し、ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定した。
【0088】
ガラス転移温度Tg及び融解熱は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。DSCを用い、一旦10℃/分の昇温速度で-80℃から200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で-80℃まで温度を降下させ、再び10℃/分の昇温速度で測定した。融解熱は2回目に昇温する際にDTAに現れる吸熱ピークの面積から求めた。ガラス転移温度Tgは2回目に昇温する際にDTAに現れる転位領域の変曲点を示す温度とした。
【0089】
1H-NMRスペクトルから、共重合体の有無を確認し、Fα及びFεを求めた。
【0090】
20℃における貯蔵弾性率は、次のように測定した。アントンパール社製MCR301粘弾性試験機を用い、直径が8mmのパラレルプレートで厚み0.5mmの試験用サンプルを測定し、周波数1Hz、ひずみ1%で、20℃のときの貯蔵弾性率を測定した。
【0091】
結果を表4~表6に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表4~表6において、LAは乳酸単位を表し、CLはカプロラクトン単位を表し、BDは1,4-ブタンジオール単位を表し、SAはコハク酸単位を表し、AAアジピン酸単位を表し、TPはテレフタル酸単位を表し、A1はペンタエリスリトールに由来する多価アルコール単位を表し、A2はトリメチロールプロパンに由来する多価アルコール単位を表す。
【0096】
なお、製造例7及び8のFα及びFεは、次のように求めた。
Fα=Iα*/(Iα+Iα*)
Fε=Iε*/(Iε+Iε*)
ここで、Iα、Iα*、Iε及びIε*は、粘着剤用ベースポリマーの1H-NMRスペクトルから得られる値であって、
Iαは、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iα*は、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合のカルボニル炭素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介して1,4-ブタンジオール単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iεは、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合の酸素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介してカプロラクトン単位と結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの積分強度であり、
Iε*は、カプロラクトン単位に含まれるメチレン基のうち、エステル結合の酸素に結合したメチレン基であって、当該エステル結合を介してコハク酸単位、アジピン酸単位及びテレフタル酸単位のいずれかと結合しているメチレン基のプロトンに由来するシグナルの合計の積分強度である。
【0097】
表4に示すように、製造例1~6によって製造されたポリマーは、ガラス転移温度Tgが-15℃以下であり、Fα及びFεが35%以上であった。これらのポリマーは、20℃における貯蔵弾性率が0.10×105~1.5×105Paの範囲内であり、粘着剤用ベースポリマーに適した特性を有していた。製造例7及び8によって製造されたポリマーも、ガラス転移温度Tgが-15℃以下であり、20℃における貯蔵弾性率が0.10×105~1.5×105Paの範囲内であった。
【0098】
製造例11のポリマーは、貯蔵弾性率が大きかった。また、ガラス転移温度が高かった。これは、原料中のポリ乳酸の割合が高すぎたためと考えられる。
【0099】
製造例12のポリマーは、貯蔵弾性率が小さかった。また、ガラス転移温度が高かった。さらに、Fα及びFεも小さかった。これらは、多価アルコールを添加しなかったためと考えられる。
【0100】
製造例13のポリマーは、高分子量化の際にゲル化(発泡)が生じた。これは、多価アルコールの添加量が多すぎたためと考えられる。
【0101】
製造例14のポリマーは、貯蔵弾性率が小さかった。これは、触媒を添加しなかったため、分子量が十分に大きくならなかったためと考えられる。
【0102】
製造例15のポリマーは、貯蔵弾性率が大きかった。また、ガラス転移温度も高く、Fα及びFεも小さかった。これは、分解時水分含有量が低すぎたためと考えられる。
【0103】
製造例16のポリマーは、貯蔵弾性率が大きかった。また、ガラス転移温度も高く、Fα及びFεも小さかった。これは、分解温度が低すぎたためと考えられる。
【0104】
製造例17のポリマーは、貯蔵弾性率が大きかった。また、ガラス転移温度も高く、Fα及びFεも小さかった。これは、分解時間が短すぎたためと考えられる。
【0105】
製造例18のポリマーは、貯蔵弾性率が大きかった。また、ガラス転移温度も高かった。これは、分解工程時の攪拌のせん断速度が小さすぎたためと考えられる。
【0106】
製造例19のポリマーは、貯蔵弾性率が小さかった。これは、乾燥後水分含有量が高かったため、分子量が十分に大きくならなかったためと考えられる。
【0107】
製造例20のポリマーは、貯蔵弾性率が小さかった。これは、重合温度が低すぎたため、分子量が十分に大きくならなかったためと考えられる。
【0108】
製造例21のポリマーは、重合時間が低すぎたため、分子量が十分に大きくならなかった。
【0109】
製造例22のポリマーは、高分子量化の際にゲル化(発泡)が生じた。これは、重合時間が長すぎたためと考えられる。
【0110】
製造例23のポリマーは、ガラス転移温度が高かった。また、Fα及びFεも小さかった。これは、高分子量化工程時の攪拌のせん断速度が小さかったためと考えられる。
【0111】
製造例24のポリマーは、高分子量化工程時の真空度が不十分であったため、分子量が十分に大きくならなかった。
【0112】
表6の参考例は、非特許文献2(Mengyuan Zhang et. al., “Synthesis of Poly(l-lactide-co-ε-caprolactone) Copolymer: Structure, Toughness, and Elasticity”, Polymers 2021, 13, 1270, https://doi.org/10.3390/polym13081270)の
図2Bの
1H-NMRスペクトルのうち、「PLCL(1:1-18h)」のデータから、Fα及びFεを求めたものである。
【0113】
非特許文献2では、L-ラクチドとε-カプロラクトンとからの開環重合によってこれらの共重合体を作製している。「PLCL(1:1-18h)」は、L-ラクチドとε-カプロラクトンとを配合比(モル比)1:1で投入し、18時間重合したデータである。なお、非特許文献2には、重合時間を24時間、30時間にしたデータも記載されているが、Fα及びFεの値は重合時間18時間のデータが最も大きかった(24時間のデータのFαは25.2%、36時間のデータのFαは23.9%であった。)。また、非特許文献2には、L-ラクチドとε-カプロラクトンとの配合比(モル比)を2:1や3:1にして共重合体を製造したデータもあるが、これらの共重合体における乳酸単位の割合は参考例のものよりもさらに高くなっていた。
【0114】
参考例では、乳酸単位の割合が製造例1~6と比べて高いのにも関わらず、Fα及びFεは35%未満であった。このことから、L-ラクチドとε-カプロラクトンとからの開環重合によって共重合体を製造する従来の方法では、Fα及びFεを大きくすることが困難であることが分かる。
【0115】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。