(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021694
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】スターリングエンジン
(51)【国際特許分類】
F02G 1/043 20060101AFI20250206BHJP
F02G 1/055 20060101ALI20250206BHJP
F02G 1/057 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
F02G1/043 D
F02G1/055 G
F02G1/057 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125598
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲田 和之
(72)【発明者】
【氏名】北崎 真人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 修
(57)【要約】
【課題】膨張ピストンおよび圧縮ピストンの動作に寄与しない無効空間を低減することができ、これによって、エンジンを効率よく駆動して出力を上げる。
【解決手段】スターリングエンジンは、作動ガスを収容する本体と、本体内に配置され、熱源からの熱を作動ガスに付与するヒータと、を備える。スターリングエンジンは、本体内に配置され、作動ガスを冷却するクーラと、本体内に、ヒータと作動ガスの膨張空間を介して配置される膨張ピストンと、本体内に、クーラと作動ガスの圧縮空間を介して配置される圧縮ピストンと、をさらに備える。膨張ピストンとヒータとは、本体内で膨張ピストンの運動方向に一直線状に配置されている。クーラと圧縮ピストンとは、本体内で圧縮ピストンの運動方向に一直線状に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動ガスを収容する本体と、
前記本体内に配置され、熱源からの熱を前記作動ガスに付与するヒータと、を備えたスターリングエンジンであって、
前記本体内に配置され、前記作動ガスを冷却するクーラと、
前記本体内に、前記ヒータと前記作動ガスの膨張空間を介して配置される膨張ピストンと、
前記本体内に、前記クーラと前記作動ガスの圧縮空間を介して配置される圧縮ピストンと、をさらに備え、
前記膨張ピストンと前記ヒータとは、前記本体内で前記膨張ピストンの運動方向に一直線状に配置されており、
前記クーラと前記圧縮ピストンとは、前記本体内で前記圧縮ピストンの運動方向に一直線状に配置されている、スターリングエンジン。
【請求項2】
前記熱源から前記熱を受領する熱媒を収容するサーモサイフォンをさらに備え、
前記サーモサイフォンが、前記熱を前記熱媒によって前記ヒータに伝達する、請求項1に記載のスターリングエンジン。
【請求項3】
前記膨張ピストン、前記ヒータ、前記クーラ、および前記圧縮ピストンは、前記本体内で一直線状に配置されている、請求項1に記載のスターリングエンジン。
【請求項4】
前記膨張空間と前記圧縮空間との間で前記作動ガスを流通させる再生器をさらに備え、
前記再生器は、前記ヒータと前記クーラとの間に配置される、請求項3に記載のスターリングエンジン。
【請求項5】
前記膨張ピストンに連結される膨張ピストン側クランク機構と、
前記圧縮ピストンに連結される圧縮ピストン側クランク機構と、をさらに備え、
前記膨張ピストン側クランク機構および前記圧縮ピストン側クランク機構は、動力伝達部を介して、動力伝達可能および/または調時可能に連結されている、請求項3に記載のスターリングエンジン。
【請求項6】
前記膨張空間と前記圧縮空間との間で前記作動ガスを流通させる再生器をさらに備え、
前記再生器は、一方向に延びて配置され、
前記膨張ピストンおよび前記ヒータは、前記一方向と交差する方向に一直線状に配置され、
前記クーラおよび前記圧縮ピストンは、前記一方向と交差する方向に一直線状に配置される、請求項1に記載のスターリングエンジン。
【請求項7】
前記膨張ピストンおよび前記ヒータと、前記クーラおよび前記圧縮ピストンとは、並列に並んで配置される、請求項6に記載のスターリングエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スターリングエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1では、排気を通すダクト内に、排気中の熱により水を水蒸気に変換する熱交換器を設け、該水蒸気を被加熱体に導き、該被加熱体を凝縮熱により加熱する装置が開示されている。熱交換を行う媒体(熱媒)として水を利用する上記熱交換器は、サーモサイフォンとも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、スターリングエンジンの内部に形成される膨張空間内をディスプレーサと呼ばれるピストンが上下動する。しかし、特許文献1の構成では、膨張空間のうち、ディスプレーサの上下動に寄与しない無効空間が存在する。例えば、膨張空間において、ディスプレーサが最上位置にあるときの内部空間は、ディスプレーサが上下動しても容積が変化しない空間であり、この空間がディスプレーサの上下動に寄与しない無効空間となる。このように無効空間が存在すると、エンジンを効率よく駆動することができず、エンジンの出力を上げることが困難となる。特に、α型のスターリングエンジンでは、ピストンが2つ(膨張ピストン、圧縮ピストン)存在するため、圧縮空間でも無効空間が存在し得る。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、膨張ピストンおよび圧縮ピストンの動作に寄与しない無効空間を低減することができ、これによって、エンジンを効率よく駆動して出力を上げることができるスターリングエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るスターリングエンジンは、作動ガスを収容する本体と、前記本体内に配置され、熱源からの熱を前記作動ガスに付与するヒータと、を備えたスターリングエンジンであって、前記本体内に配置され、前記作動ガスを冷却するクーラと、前記本体内に、前記ヒータと前記作動ガスの膨張空間を介して配置される膨張ピストンと、前記本体内に、前記クーラと前記作動ガスの圧縮空間を介して配置される圧縮ピストンと、をさらに備え、前記膨張ピストンと前記ヒータとは、前記本体内で前記膨張ピストンの運動方向に一直線状に配置されており、前記クーラと前記圧縮ピストンとは、前記本体内で前記圧縮ピストンの運動方向に一直線状に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、膨張ピストンおよび圧縮ピストンの動作に寄与しない無効空間を低減することができる。これにより、エンジンを効率よく駆動して出力を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態に係るスターリングエンジンの概略の構成を示す説明図である。
【
図2】上記スターリングエンジンの本体内の膨張空間での圧力と容積との変化を示す説明図である。
【
図3】上記本体内の圧縮空間での圧力と容積との変化を示す説明図である。
【
図4】上記スターリングエンジンの他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
<1.スターリングエンジンの基本構成>
図1は、本発明の実施形態に係るスターリングエンジン100の基本構成を示す説明図である。スターリングエンジン100は、サーモサイフォン1と、エンジン部20と、を備える。
【0011】
(1-1.サーモサイフォン)
サーモサイフォン1は、熱源HSから熱を受領する熱媒を収容する。熱源HSとしては、例えば工場排熱を想定することができる。なお、熱源HSは、太陽熱または地熱などであってもよい。熱源HSは、流路FPの中を移動する。流路FPは、例えば排熱管で構成される。
【0012】
サーモサイフォン1は、熱媒が内部を流れる配管として、第1配管1aと、第2配管1bと、第3配管1cと、を有する。第1配管1aは、流路FPの内部に位置する。第2配管1bおよび第3配管1cは、流路FPの外部に位置する。したがって、サーモサイフォン1の一部は、流路FPに配置される。
【0013】
第2配管1bは、第1配管1aに対して熱媒が流れる方向の下流側に位置する。第1配管1aと第2配管1bとは、第1接続部11を介して接続される。第1接続部11は、流路FPの壁面に設けられる。第2配管1bにおいて、第1配管1aとの接続側とは反対側の端部は、エンジン部20の本体30の上部に接続される。
【0014】
第3配管1cは、第1配管1aに対して熱媒が流れる方向の上流側に位置する。第1配管1aと第3配管1cとは、第2接続部12を介して接続される。第2接続部12は、流路FPの壁面に設けられる。第3配管1cにおいて、第1配管1aとの接続側とは反対側の端部は、本体30の下部に接続される。
【0015】
サーモサイフォン1が収容する熱媒は、例えば水である。水は常温で液体であるが、高温では沸騰して気体の蒸気となる。また、蒸気は凝縮して水(凝縮水)となる。したがって、蒸気および凝縮水も熱媒に含まれる。熱媒は、液体または気体のいずれかの状態で、サーモサイフォン1の配管の中を流れ、熱源HS(流路FP)とエンジン部20との間で循環する。
【0016】
より詳しくは、熱源HS(例えば排熱)により、第1配管1a内の熱媒(ここでは水)が加熱されると、水は蒸発して蒸気となる。蒸気は、第1配管1aから第2配管1bを通って、エンジン部20の本体30内に上部から導入される。蒸気が本体30内の後述するヒータ40に凝縮熱を放出することにより、ヒータ40が加熱される。凝縮熱を放出した後の蒸気は、凝縮して水(凝縮水)となる。上記の水は、本体30の下部から排出されて第3配管1cを通り、第1配管1aに戻される。つまり、凝縮水は、熱源HSの流路FPに入る。以降は、上記の過程が繰り返し行われる。なお、サーモサイフォン1が収容する熱媒は、水以外の液体(例えばアルコール)であってもよい。
【0017】
このようにして、サーモサイフォン1は、熱源HSから熱を受領してヒータ40との間で熱交換を行う。このようなサーモサイフォン1は、1次熱交換器とも呼ばれる。
【0018】
(1-2.エンジン部の構成)
エンジン部20は、本体30を有する。本体30は、作動ガスGを収容するシリンダである。作動ガスGは、例えばヘリウムである。ヘリウムは比熱容量が大きいため、高圧にして密度を高めることにより、体積あたりのエンジン出力を高めることができる。なお、作動ガスGは、ヘリウム以外の気体(例えば空気、水素等)であってもよい。本体30内には、ヒータ40と、クーラ50と、再生器60と、が水平方向に直線状に配置される。
【0019】
ヒータ40は、例えばシェルアンドチューブ型の熱交換機で構成される。1次熱交換器であるサーモサイフォン1に対して、ヒータ40のことを2次熱交換器とも称する。ヒータ40は、内部を作動ガスGが流れるヒータ管41を有する。ヒータ管41は、例えば金属管である。ヒータ管41を構成する金属は、アルミニウム、銅合金、ステンレス鋼など、熱伝導性に優れた金属の中から適宜選択されればよい。本実施形態では、ヒータ管41は複数設けられるが、少なくとも1本設けられればよい。
【0020】
サーモサイフォン1から本体30内に導入される蒸気は、各ヒータ管41の周囲を流れる。これにより、各ヒータ管41が加熱され、各ヒータ管41の内部を流れる作動ガスGが加熱される。つまり、ヒータ40は、サーモサイフォン1の熱媒によって伝達される熱を作動ガスGに付与する。
【0021】
ヒータ40は、一端部が膨張空間ESに連通し、他端部が再生器60の一端部に連通している。すなわち、ヒータ40は、本体30内で、膨張空間ESと再生器60との間に位置する。膨張空間ESは、ヒータ40によって作動ガスGが加熱されたときに膨張する空間である。
【0022】
クーラ50も、ヒータ40と同様のシェルアンドチューブ型の熱交換機で構成される。すなわち、クーラ50は、内部を作動ガスGが流れる複数の冷却管51を有する。冷却管51は、ヒータ管41と同様の金属管である。本実施形態では、冷却管51は複数設けられるが、少なくとも1本設けられればよい。
【0023】
本体30の外部に設置される冷却設備70から、冷媒配管71を介して冷媒がクーラ50に供給されると、冷媒が各冷却管51の周囲を流れる。これにより、各冷却管51が冷却され、各冷却管51を流れる作動ガスGが冷却される。つまり、クーラ50は、作動ガスGを冷媒によって冷却する。上記の冷媒は例えば水であるが、水以外の冷媒であってもよい。冷媒は、冷媒配管71を流れてクーラ50と冷却設備70との間を循環する。
【0024】
クーラ50は、一端部が圧縮空間CSに連通し、他端部が再生器60の他端部に連通している。すなわち、クーラ50は、本体30内で、再生器60と圧縮空間CSとの間に位置する。圧縮空間CSは、作動ガスGが後述する圧縮ピストンCPによって圧縮される空間である。
【0025】
再生器60は、ヒータ40とクーラ50との間に配置される。再生器60は、例えばメッシュ状の流路で形成される。これにより、本体30内の作動ガスGが、再生器60を介して膨張空間ES側と圧縮空間CS側との間で流通することができる。つまり、再生器60は、膨張空間ESと圧縮空間CSとの間で作動ガスGを流通させる。なお、再生器60は、メッシュ状の流路には限定されない。例えば、積層金網、流れに沿った薄板、多孔質体などの蓄熱材で再生器60を構成することも可能である。
【0026】
本体30内において、膨張空間ESに対してヒータ40とは反対側には、パワーピストンPPとしての膨張ピストンEPが配置される。また、本体30内において、圧縮空間CSに対してクーラ50とは反対側には、パワーピストンPPとしての圧縮ピストンCPが配置される。つまり、本体30内には、ヒータ40と作動ガスGの膨張空間ESを介して膨張ピストンEPが配置され、クーラ50と作動ガスGの圧縮空間CSを介して圧縮ピストンCPが配置される。このように、パワーピストンPPとして2つのピストン(膨張ピストンEP、圧縮ピストンCP)を有する2ピストン型のスターリングエンジン100は、α型のスターリングエンジンとも呼ばれる。
【0027】
膨張ピストンEPおよび圧縮ピストンCPの外周部には、ピストンリングPRが嵌められている。ピストンリングPRはガスシールの役目を果たす。つまり、ピストンリングPRにより、膨張ピストンEPと本体30との隙間、および圧縮ピストンCPと本体30との隙間からの作動ガスGの漏れ(ガスリーク)が抑えられる。
【0028】
膨張ピストンEPの膨張側ピストンロッド81は、膨張側クロスヘッドピストン82に連結されている。膨張側クロスヘッドピストン82は、膨張側コンロッド83を介して膨張側クランクシャフト84に連結されている。膨張側ピストンロッド81は、本体30の一端面30aを貫通して設けられる。したがって、膨張側クロスヘッドピストン82、膨張側コンロッド83、および膨張側クランクシャフト84は、本体30の外部に位置する。
【0029】
膨張側クロスヘッドピストン82、膨張側コンロッド83、および膨張側クランクシャフト84は、膨張ピストン側クランク機構85を構成している。膨張ピストンEPは、膨張側ピストンロッド81を介して、膨張ピストン側クランク機構85に連結されている。本体30の一端面30aにおいて、膨張側ピストンロッド81が貫通する貫通孔の周囲には、膨張側ガスシール部31aが設けられている。
【0030】
圧縮ピストンCPの圧縮側ピストンロッド86は、圧縮側クロスヘッドピストン87に連結されている。圧縮側クロスヘッドピストン87は、圧縮側コンロッド88を介して圧縮側クランクシャフト89に連結されている。圧縮側ピストンロッド86は、本体30の他端面30bを貫通して設けられる。したがって、圧縮側クロスヘッドピストン87、圧縮側コンロッド88、および圧縮側クランクシャフト89は、本体30の外部に位置する。
【0031】
圧縮側クロスヘッドピストン87、圧縮側コンロッド88、および圧縮側クランクシャフト89は、圧縮ピストン側クランク機構90を構成している。圧縮ピストンCPは、圧縮側ピストンロッド86を介して、圧縮ピストン側クランク機構90に連結されている。本体30の他端面30bにおいて、圧縮側ピストンロッド86が貫通する貫通孔の周囲には、圧縮側ガスシール部31bが設けられている。
【0032】
膨張ピストン側クランク機構85および圧縮ピストン側クランク機構90は、動力伝達部91を介して動力伝達可能に連結されている。より詳しくは、膨張ピストン側クランク機構85の膨張側クランクシャフト84は、第1ベルト92を介して出力軸SHと動力伝達可能に連結されている。また、圧縮ピストン側クランク機構90の圧縮側クランクシャフト89は、第2ベルト93を介して出力軸SHと動力伝達可能に連結されている。つまり、第1ベルト92、出力軸SH、および第2ベルト93が、上記の動力伝達部91を構成する。なお、動力伝達部91は、ベルトのほかに、またはベルトに加えて、チェーン、歯車等を有する構成であってもよい。
【0033】
出力軸SHは、例えば作業機Mの回転軸である。作業機Mは、例えば発電機およびモータで構成される。例えば、作業機Mは、起動時のみモータとして作動し、自立運転後、発電機として作動する。
【0034】
(1-3.エンジン部の動作)
上記の構成において、サーモサイフォン1の第1配管1aおよび第2配管1bを流れる蒸気が、エンジン部20の本体30内に導入されると、蒸気の凝縮熱がヒータ40に付与されてヒータ40が加熱される。ヒータ40の加熱により、ヒータ管41内の作動ガスGが加熱される。この結果、作動ガスGが膨張して膨張空間ESの圧力が増大し、膨張ピストンEPを押圧する。ここで、膨張空間ESの圧力をPE(Pa)とし、膨張空間ESの容積をVE(m3)としたとき、膨張工程における仕事量WE(J)は、WE=∫PE・dVEで表される。
【0035】
膨張ピストンEPの押圧、移動により、膨張側ピストンロッド81および膨張側クロスヘッドピストン82が、膨張側コンロッド83を介して膨張側クランクシャフト84を正の方向に回転させる。膨張側クランクシャフト84の回転により、第1ベルト92が回り、出力軸SHが正の方向に回転する。出力軸SHが回転すると、第2ベルト93が回り、圧縮側クランクシャフト89が正の方向に回転する。
【0036】
圧縮側クランクシャフト89の回転により、圧縮側コンロッド88が圧縮側クロスヘッドピストン87および圧縮側ピストンロッド86を押圧し、圧縮ピストンCPを本体30内に押し込む。これにより、圧縮空間CSが圧縮されるとともに、圧縮空間CS内の作動ガスGがクーラ50内に入り込み、作動ガスGがクーラ50によって冷却される。ここで、圧縮空間CSの圧力をPC(Pa)とし、圧縮空間CSの容積をVC(m3)としたとき、圧縮工程における仕事量WC(J)は、WC=-∫PC・dVCで表される。
【0037】
したがって、出力軸SHを回す仕事量(例えば発電仕事)をW(J)としたとき、仕事量Wは、膨張工程における仕事量WEと、圧縮工程における仕事量WCと、予め定められたエンジン部20の機械効率ηと、を用いて、以下の式で表される。
W=(WE+WC)・η=(∫PE・dVE-∫PC・dVC)・η
【0038】
膨張ピストンEPおよび圧縮ピストンCPの往復移動により、上記の膨張工程と圧縮工程とが繰り返し行われる。このとき、膨張空間ESでは、圧力P
Eと容積V
Eとは、
図2に示すように変化する。圧縮空間CSでは、圧力P
Cと容積V
Cとは、
図3に示すように変化する。
【0039】
(1-4.調時について)
上記のように、
図1に示した膨張ピストンEPの移動によって膨張ピストン側クランク機構85に与えられる動力は、第1ベルト92、出力軸SH、および第2ベルト93を介して圧縮ピストン側クランク機構90に伝達される。
【0040】
ここで、膨張ピストンEPと圧縮ピストンCPとは、本体30内を所定の位相差で往復移動する。上記位相差は、膨張ピストン側クランク機構85のクランク角度、および圧縮ピストン側クランク機構90のクランク角度の差に相当する。したがって、例えば、膨張側クランクシャフト84の基準位置からの回転角度(クランク角度)をθ(°)としたとき、圧縮側クランクシャフト89の基準位置からの回転角度(クランク角度)は、位相遅れをβ(°)として、(θ-β)で表される。位相遅れβは、例えば90°であるが、90°には限定されない。
【0041】
膨張ピストン側クランク機構85および圧縮ピストン側クランク機構90は、上記位相差を実現するように予め調時される。このような調時は、例えば膨張側クランクシャフト84を所定の回転位置で第1ベルト92を介して出力軸SHと連結し、圧縮側クランクシャフト89を所定の回転位置で第2ベルト93を介して出力軸SHと連結することによって行うことができる。
【0042】
具体的には、膨張側クランクシャフト84および第1ベルト92には、位置合わせ用のマークがそれぞれ付されている。また、圧縮側クランクシャフト89および第2ベルト93にも、位置合わせ用のマークがそれぞれ付されている。したがって、膨張側クランクシャフト84および第1ベルト92の各マークを合わせてこれらを連結し、圧縮側クランクシャフト89および第2ベルト93の各マークを合わせてこれらを連結することにより、膨張側クランクシャフト84を所定の回転位置で第1ベルト92を介して出力軸SHと連結し、圧縮側クランクシャフト89を所定の回転位置で第2ベルト93を介して出力軸SHと連結することができる。このときに用いられる第1ベルト92および第2ベルト93は、歯付きのベルト、すなわちタイミングベルトであることが好ましい。このようにして、調時が行われる。つまり、膨張ピストン側クランク機構85および圧縮ピストン側クランク機構90は、動力伝達部91を介して調時可能に連結される。
【0043】
本実施形態では、膨張ピストン側クランク機構85および圧縮ピストン側クランク機構90は、動力伝達部91を介して、動力伝達可能で、かつ。調時可能に連結されているが、動力伝達および調時の少なくとも一方が可能となるように連結されればよい。
【0044】
<2.本体内での配置の詳細について>
図1に示すように、膨張ピストンEPとヒータ40とは、本体30内で膨張ピストンEPの運動方向に一直線状に配置されている。また、クーラ50と圧縮ピストンCPとは、本体30内で圧縮ピストンCPの運動方向に一直線状に配置されている。ここで、「一直線状に配置される」とは、2つの部材が、一方向に沿って(並んで)配置されることを意味する。また、膨張ピストンEPの運動方向とは、本体30内での作動ガスGの膨張、および膨張側クランクシャフト84の回転により、本体30内で膨張ピストンEPが往復移動する方向を指す。一方、圧縮ピストンCPの運動方向とは、本体30内での作動ガスGの圧縮、および圧縮側クランクシャフト89の回転により、本体30内で圧縮ピストンCPが往復移動する方向を指す。
【0045】
このような一直線状の配置により、膨張ピストンEPとヒータ40との間の膨張空間ESを全て、膨張ピストンEPの押圧に寄与させることができる。また、クーラ50と圧縮ピストンCPとの間の圧縮空間CSを全て、圧縮ピストンCPの引き込みに寄与させることができる。したがって、膨張空間ESに、膨張ピストンEPの押圧に寄与しない無効空間は存在しない。また、圧縮空間CSにも、圧縮ピストンCPの引き込みに寄与しない無効空間は存在しない。その結果、ヒータ40による作動ガスGの加熱およびクーラ50による作動ガスGの冷却により、スターリングエンジン100(特にエンジン部20)を効率よく駆動して、エンジン部20の出力(具体的に出力軸SHの回転数)を上げることができる。
【0046】
ところで、例えば、本体に収容された作動ガスを本体の外部に引き出して、熱源との熱交換に利用する別の構成を考えたとき、上記構成では、本体の外部に、膨張ピストンまたは圧縮ピストンの動作に全く寄与しない作動ガスが存在することになる。つまり、本体の外部で上記作動ガスが流れる空間は全て、膨張ピストン等の動作に寄与しない無駄な空間(無効空間)となる。
【0047】
本実施形態では、サーモサイフォン1が、熱源HSから受領した熱を、熱媒によってヒータ40に伝達する。この構成では、熱源HSからヒータ40への熱伝達が、サーモサイフォン1の熱媒によって行われるため、作動ガスGを本体30内に収容して(閉じ込めて)、本体30内の作動ガスG全体を、膨張ピストンEPまたは圧縮ピストンCPの動作に寄与させることができる。したがって、本実施形態のように、サーモサイフォン1を用いて熱伝達を行う構成は、無効空間を低減するという、ヒータ40等の直線状の配置と共通する効果が得られる点で、非常に有効となる。
【0048】
図1に示すように、本実施形態では特に、膨張ピストンEP、ヒータ40、クーラ50、および圧縮ピストンCPが、本体30内で一直線状に配置されている。この構成では、本体30内に流路の曲がり部が存在しないため、上記曲がり部によって生じる圧力損失も生じない。したがって、この場合、上記圧力損失に起因するエンジン部20の出力低下を回避できることが期待される。この点では、
図1に示す直線状の配置が望ましい。
【0049】
特に、
図1に示すように、再生器60が、ヒータ40とクーラ50との間に配置される構成では、ヒータ40、再生器60およびクーラ50が相互に一直線状となり、再生器60での流路の折り曲げが生じない。このため、再生器60での圧力損失を低減する点で有効である。
【0050】
流路の折り曲げによる圧力損失の低減よりも、本体30をコンパクトに構成することを重視する場合は、本体30を曲げてもよい。以下、本体30を曲げた構成について説明する。
【0051】
図4は、スターリングエンジン100の他の構成を示す説明図である。なお、
図4では、便宜的に、
図1で示した膨張側コンロッド83から圧縮側コンロッド88までの動力伝達機構の図示を省略している。
図4に示すように、本体30は、逆U字状に折れ曲がって形成されていてもよい。この結果、本体30内で、ヒータ40等の各部材は、以下のように配置されている。
【0052】
本体30内で、再生器60は、一方向に延びて配置されている。ここでは、上記一方向を便宜的にA方向とする。一方、膨張ピストンEPおよびヒータ40は、B方向に一直線状に配置されている。ここで、B方向とは、A方向と交差する方向であり、例えばA方向と垂直な方向である。ヒータ40は、再生器60のA方向の中央C0よりも一方側で、再生器60の下部と連結されている。また、クーラ50および圧縮ピストンCPも、B方向に一直線状に配置されている。クーラ50は、再生器60のA方向の中央C0よりも他方側で、再生器60の下部と連結されている。なお、上記のB方向は、膨張ピストンEPおよび圧縮ピストンCPの運動方向に対応する。
【0053】
本体30内で、ヒータ40、再生器60、およびクーラ50が上記のように配置される構成では、膨張ピストンEPおよびヒータ40と、クーラ50および圧縮ピストンCPとが並列に並ぶレイアウトとなる。この場合、膨張空間ESと圧縮空間CSとの間での作動ガスGの流路は、再生器60で180°折り曲げられる。
【0054】
A方向とB方向との交差角度を任意に設定することにより、作動ガスGの流路として、180°以外の任意の角度で折り曲げた流路を実現することもできる。したがって、膨張ピストンEPおよびヒータ40と、クーラ50および圧縮ピストンCPの配置の自由度を増大させる観点では、膨張ピストンEPおよびヒータ40と、クーラ50および圧縮ピストンCPは、再生器60が延びる方向と交差して配置されてもよい。
【0055】
特に、流路を折り曲げてコンパクトなレイアウトを実現する観点では、膨張ピストンEPおよびヒータ40と、クーラ50および圧縮ピストンCPとは、並列に並んで配置されることが望ましい。
【0056】
<3.付記>
本実施形態で説明したスターリングエンジンは、以下のように表現することもできる。
【0057】
付記(1)のスターリングエンジンは、
作動ガスを収容する本体と、
前記本体内に配置され、熱源からの熱を前記作動ガスに付与するヒータと、を備えたスターリングエンジンであって、
前記本体内に配置され、前記作動ガスを冷却するクーラと、
前記本体内に、前記ヒータと前記作動ガスの膨張空間を介して配置される膨張ピストンと、
前記本体内に、前記クーラと前記作動ガスの圧縮空間を介して配置される圧縮ピストンと、をさらに備え、
前記膨張ピストンと前記ヒータとは、前記本体内で前記膨張ピストンの運動方向に一直線状に配置されており、
前記クーラと前記圧縮ピストンとは、前記本体内で前記圧縮ピストンの運動方向に一直線状に配置されている。
【0058】
付記(2)のスターリングエンジンは、付記(1)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記熱源から前記熱を受領する熱媒を収容するサーモサイフォンをさらに備え、
前記サーモサイフォンが、前記熱を前記熱媒によって前記ヒータに伝達する。
【0059】
付記(3)のスターリングエンジンは、付記(1)または(2)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記膨張ピストン、前記ヒータ、前記クーラ、および前記圧縮ピストンは、前記本体内で一直線状に配置されている。
【0060】
付記(4)のスターリングエンジンは、付記(3)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記膨張空間と前記圧縮空間との間で前記作動ガスを流通させる再生器をさらに備え、
前記再生器は、前記ヒータと前記クーラとの間に配置される。
【0061】
付記(5)のスターリングエンジンは、付記(3)または(4)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記膨張ピストンに連結される膨張ピストン側クランク機構と、
前記圧縮ピストンに連結される圧縮ピストン側クランク機構と、をさらに備え、
前記膨張ピストン側クランク機構および前記圧縮ピストン側クランク機構は、動力伝達部を介して、動力伝達可能および/または調時可能に連結されている。
【0062】
付記(6)のスターリングエンジンは、付記(1)または(2)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記膨張空間と前記圧縮空間との間で前記作動ガスを流通させる再生器をさらに備え、
前記再生器は、一方向に延びて配置され、
前記膨張ピストンおよび前記ヒータは、前記一方向と交差する方向に一直線状に配置され、
前記クーラおよび前記圧縮ピストンは、前記一方向と交差する方向に一直線状に配置される。
【0063】
付記(7)のスターリングエンジンは、付記(6)に記載のスターリングエンジンにおいて、
前記膨張ピストンおよび前記ヒータと、前記クーラおよび前記圧縮ピストンとは、並列に並んで配置される。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えば例排熱などの熱源の熱を利用し、熱交換を行ってエンジン部を駆動するスターリングエンジンに利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 サーモサイフォン
30 本体
40 ヒータ
50 クーラ
60 再生器
85 膨張ピストン側クランク機構
90 圧縮ピストン側クランク機構
91 動力伝達部
100 スターリングエンジン
CP 圧縮ピストン
CS 圧縮空間
EP 膨張ピストン
ES 膨張空間
G 作動ガス
HS 熱源