(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021699
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20250206BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61B5/0245 Q
A61B5/0245 100Z
A61B5/00 101M
A61B5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125605
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】391029048
【氏名又は名称】トーイツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠至
(72)【発明者】
【氏名】内田 史景
(72)【発明者】
【氏名】廣野 悠太
(72)【発明者】
【氏名】笠井 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁美
【テーマコード(参考)】
4C017
4C117
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AB05
4C017AC03
4C017AC20
4C017BC07
4C017BC16
4C017FF15
4C117XA02
4C117XB01
4C117XB17
4C117XD29
4C117XE13
4C117XE27
4C117XG19
4C117XG24
4C117XJ13
4C117XJ42
4C117XJ48
4C117XJ52
(57)【要約】
【課題】実際に胎児に遅発一過性徐脈が発生するに先立って、ユーザが当該胎児に遅発一過性徐脈が発生することを把握可能とする。
【解決手段】学習モデル30は、過去において胎児に遅発一過性徐脈LDが生じた徐脈発生時点t
LDから所定時間I前の期間である徐脈発生前期間BDPにおいて測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、徐脈発生前期間BDPから当該所定時間I後に、当該胎児に遅発一過性徐脈LDが発生するか否かを予測して出力するように学習される。遅発一過性徐脈予測部32は、対象期間TPにおける対象胎児の胎児心拍数の時間変化を学習済みの学習モデル30に入力し、当該入力データに対する学習モデル30の出力データに基づいて、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する。出力制御部24は、対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合にユーザに通知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、
過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、
前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する通知部と、
を備えることを特徴とする遅発一過性徐脈予測装置。
【請求項2】
前記胎児の母体の子宮収縮圧を経時的に測定する子宮収縮圧測定部と、
をさらに備え、
前記学習モデルは、前記徐脈発生前期間において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習され、
前記遅発一過性徐脈予測部は、前記学習モデルに、さらに、前記子宮収縮圧測定部により測定された、前記対象期間における前記対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の遅発一過性徐脈予測装置。
【請求項3】
前記遅発一過性徐脈予測部は、
前記徐脈発生時点から第1所定時間前の期間である第1徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記第1所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された第1学習モデルに、前記予測対象時点から前記第1所定時間前の期間である第1対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記第1学習モデルの出力データ、及び、
前記徐脈発生時点から、前記第1所定時間より短い第2所定時間前の期間である第2徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記第2所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された第2学習モデルに、前記予測対象時点から前記第2所定時間前の期間である第2対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記第2学習モデルの出力データ、
に基づいて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の遅発一過性徐脈予測装置。
【請求項4】
前記通知部は、前記第1学習モデルが、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、第1態様にて前記ユーザに通知し、その後、前記第2学習モデルが、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、前記第1態様とは異なる第2態様にて前記ユーザに通知する、
ことを特徴とする請求項3に記載の遅発一過性徐脈予測装置。
【請求項5】
胎児心拍数測定装置と、
遅発一過性徐脈予測装置と、
を備える遅発一過性徐脈予測システムであって、
前記胎児心拍数測定装置は、
胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、
前記心拍数測定部の測定結果を前記遅発一過性徐脈予測装置に送信する測定装置側通信部と、
を備え、
前記遅発一過性徐脈予測装置は、
過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、
前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する予測装置側通知部と、
を備える、
ことを特徴とする遅発一過性徐脈予測システム。
【請求項6】
前記遅発一過性徐脈予測装置は、
前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、前記測定装置に通知する予測装置側通信部と、
をさらに備え、
前記胎児心拍数測定装置は、
前記遅発一過性徐脈予測装置からの通知に応じて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測されたことをユーザに通知する測定装置側通知部と、
をさらに備える、
ことを特徴とする請求項5に記載の遅発一過性徐脈予測システム。
【請求項7】
コンピュータを、
胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、
過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、
前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する通知部と、
として動作させることを特徴とする遅発一過性徐脈予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、胎児心拍数を測定することが行われている。胎児心拍数の測定方法としては、種々の方法が提案されている。例えば、胎児心電計を用いた方法や、超音波を用いた方法が提案されている。超音波を用いた方法では、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、胎児の心臓から反射した反射波から得られるドプラ信号に基づいて胎児心拍数を測定する。ドプラ信号は、検査対象物の動きを検出するものであるから、ドプラ信号に基づく胎児心拍数の測定は、胎児の心臓の動きの周期に基づく測定方法であると言える。
【0003】
胎児心拍数は変動し得る。胎児心拍数に基づいて、胎児の状態を判断することができる。ここで、心拍数が高くなること(胎児心拍数の場合は160bpm以上)を頻脈と言い、心拍数が低くなること(胎児心拍数の場合は110bpm未満)を徐脈と言う。また、15秒以上2分未満の期間に15bpm以上心拍数が増加することを一過性頻脈と言い、15秒以上2分未満の期間に心拍数が減少することを一過性徐脈と言う。
【0004】
従来、胎児心拍数において、一過性頻脈又は一過性徐脈が生じているか否かの識別支援のための技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、胎児心拍数の時間変化を表す胎児心拍波形に、当該胎児心拍波形が示す一過性変動の種類(例えば、一過性頻脈、早発一過性徐脈、遅発一過性徐脈、変動一過性徐脈(軽度)、変動一過性徐脈(高度)、遷延一過性徐脈)を示すラベルが付されたデータを学習データとし、当該学習データに基づいて生成された識別器を用いて、一過性変動の種類を識別する情報処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書においては一過性徐脈に注目する。特に、一過性徐脈には、早発一過性徐脈、遅発一過性徐脈、変動一過性徐脈、及び遷延一過性徐脈という複数の種類があるところ、本明細書では、遅発一過性徐脈に着目する。遅発一過性徐脈とは、子宮収縮に伴って、胎児心拍数が緩やかに減少して徐脈となった後、胎児心拍数が正常値に回復するものである。特に、遅発一過性徐脈は、子宮収縮から、少なくとも早発一過性徐脈や変動一過性徐脈よりも遅れて胎児心拍数が最下点に達する。例えば、目安として、遅発一過性徐脈は、徐脈の開始から最下点に達するまでの時間が30秒以上のものをいう。
【0008】
遅発一過性徐脈は、胎児の血中酸素濃度が低い状態、換言すれば、胎児の低酸素状態を示す場合が多い。特に、心拍数の低下量が大きい、高度な遅発一過性徐脈が発生した場合、医師などのユーザは、例えば急速遂娩などの喫緊の対応が必要となる場合がある。
【0009】
したがって、医師などのユーザは、胎児に遅発一過性徐脈が発生することをできるだけ早期に把握できるのがよい。特に、ユーザは、胎児に実際に遅発一過性徐脈が発生するに先だって、当該胎児に遅発一過性徐脈が発生することを把握できるとよい。これにより、例えば、ユーザは、胎児に対する対応をより早期に開始することが可能となる。
【0010】
本明細書で開示される、遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラムの目的は、実際に胎児に遅発一過性徐脈が発生するに先立って、ユーザが当該胎児に遅発一過性徐脈が発生することを把握可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置は、胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する通知部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記胎児の母体の子宮収縮圧を経時的に測定する子宮収縮圧測定部と、をさらに備え、前記学習モデルは、前記徐脈発生前期間において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習され、前記遅発一過性徐脈予測部は、前記学習モデルに、さらに、前記子宮収縮圧測定部により測定された、前記対象期間における前記対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測するとよい。
【0013】
前記遅発一過性徐脈予測部は、前記徐脈発生時点から第1所定時間前の期間である第1徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記第1所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された第1学習モデルに、前記予測対象時点から前記第1所定時間前の期間である第1対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記第1学習モデルの出力データ、及び、前記徐脈発生時点から、前記第1所定時間より短い第2所定時間前の期間である第2徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記第2所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された第2学習モデルに、前記予測対象時点から前記第2所定時間前の期間である第2対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記第2学習モデルの出力データ、に基づいて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測するとよい。
【0014】
前記通知部は、前記第1学習モデルが、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、第1態様にて前記ユーザに通知し、その後、前記第2学習モデルが、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、前記第1態様とは異なる第2態様にて前記ユーザに通知するとよい。
【0015】
本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測システムは、胎児心拍数測定装置と、遅発一過性徐脈予測装置と、を備える遅発一過性徐脈予測システムであって、前記胎児心拍数測定装置は、胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、前記心拍数測定部の測定結果を前記遅発一過性徐脈予測装置に送信する測定装置側通信部と、を備え、前記遅発一過性徐脈予測装置は、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する予測装置側通知部と、を備える、ことを特徴とする。
【0016】
前記遅発一過性徐脈予測装置は、前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、前記測定装置に通知する予測装置側通信部と、をさらに備え、前記胎児心拍数測定装置は、前記遅発一過性徐脈予測装置からの通知に応じて、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測されたことをユーザに通知する測定装置側通知部と、をさらに備えるとよい。
【0017】
本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測プログラムは、コンピュータを、胎児の心拍数を経時的に測定する心拍数測定部と、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、前記徐脈発生前期間から前記所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して出力するように学習された学習モデルに、前記心拍数測定部により測定された、対象期間における対象胎児の心拍数の時間変化を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象期間から前記所定時間後の時点である予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する遅発一過性徐脈予測部と、前記遅発一過性徐脈予測部により、前記予測対象時点において前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、ユーザに通知する通知部と、として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本明細書で開示される、遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラムによれば、実際に胎児に遅発一過性徐脈が発生するに先立って、ユーザが当該胎児に遅発一過性徐脈が発生することを把握可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置の構成概略図である。
【
図2】ドプラ信号における、自己相関処理に用いられる比較対象部分を示す概念図である。
【
図3】自己相関処理に用いられる参照信号を示す概念図である。
【
図4】比較対象部分と参照信号との間の相関係数の時間変化を示すグラフである。
【
図6】学習済みの学習モデルのROC曲線を示す図である。
【
図10】各学習モデルの処理の様子を示す概念図である。
【
図11】第1対象期間及び第2対象期間の例を示す図である。
【
図12】本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置10の構成概略図である。遅発一過性徐脈予測装置10は、病院などの医療機関に設置される医用装置であり、胎児心拍数を測定する機能を発揮する装置である。遅発一過性徐脈予測装置10としては、例えば、胎児心拍数のみならず母体の子宮収縮圧を測定する分娩監視装置であってよい。
【0021】
超音波プローブ12は、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、当該超音波の反射波を受信するものである。超音波プローブ12は、複数の振動素子を備えている。
【0022】
超音波プローブ12は、後述する送信部14からの電気信号である送信信号に基づいて、複数の振動素子から超音波が送信される。そして、当該複数の振動素子において、胎児の心臓を含む、超音波の送信領域内にある各組織などから反射された反射波を受信し、反射波を電気信号である受信信号に変換して出力する。
【0023】
超音波プローブ12は、可搬型装置であり、ベルトなどによって母体の腹部表面に装着される。この状態において、超音波プローブ12は、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、当該超音波の反射波を受信する。
【0024】
図1に示すように、さらに、超音波プローブ12は、子宮収縮圧測定部としての感圧センサ12aを備えている。上述のように超音波プローブ12が母体の腹部表面に装着されると、感圧センサ12aは母体の腹部から受ける圧力を測定して電気信号に変換する。子宮収縮が起きると、感圧センサ12aが母体の腹部から受ける圧力が変化するため、感圧センサ12aは、母体の腹部から受ける圧力を母体の子宮収縮圧として測定することができる。感圧センサ12aは、母体の子宮収縮圧を経時的に測定する。すなわち、感圧センサ12aは、母体の子宮収縮圧の時間変化を測定する。
【0025】
なお、母体の子宮収縮圧は、感圧センサ12aを用いた方法以外の方法によって測定されてもよい。例えば、母体の子宮内にカテーテル又は小型のトランスデューサを直接挿入する内測法などによって、母体の子宮収縮圧が測定されてもよい。
【0026】
送信部14は、超音波プローブ12(詳しくは複数の振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から胎児の心臓に向けて超音波が送信される。本実施形態では、送信部14は、複数の振動素子から1MHz程度の中心周波数を有する超音波を送信させる。本実施形態では、送信部14は、複数の振動素子に同時に超音波を送信させ、同時に超音波の送信を停止させることを繰り返す。超音波の送信停止状態において、複数の振動素子は、胎児の心臓からの反射波を受信する。具体的には、送信部14は、超音波の送信期間及び送信停止期間(受信期間)が数KHzの周波数で繰り返すように、複数の振動素子に間欠的に送信信号を送信する。本実施形態では、1つの送信期間において100波程度の超音波が送信される。
【0027】
なお、本実施形態においては、胎児の心臓に向けて送信される超音波は、専ら、胎児心拍数の測定のために用いられる。すなわち、当該超音波は、超音波画像の形成や、被検体の組織や血流などの速度を測定するためには用いられない。
【0028】
受信部16は、上述の受信期間において複数の振動素子が受信した反射波に基づく受信信号を超音波プローブ12(詳しくは複数の振動素子)から受け取る。反射波の周波数は、胎児の心臓の運動に起因して、ドプラ効果によって、送信された超音波の周波数(送信周波数)から偏移した周波数(ドプラ偏移周波数)を有している場合がある。
【0029】
受信部16は、増幅器を備えており、複数の振動素子からの受信信号を加算した上で、増幅器にて増幅させる。受信部16は、増幅した受信信号をドプラ信号形成部18に出力する。
【0030】
ドプラ信号形成部18は、ミキサを有する。ミキサは、受信部16から受け取った受信信号と、送信周波数と同じ周波数f0を有する基準信号と、を乗算する。これにより、受信信号が有するドプラ偏移周波数fd(換言すれば、送信周波数との差分周波数)を有する信号、及び、2f0+fdの周波数を有する信号が得られる。
【0031】
また、ドプラ信号形成部18は、ローパスフィルタを有する。ローパスフィルタは、異なる周波数成分を有する、ミキサが取得した上述の2つ信号のうち、高い周波数成分2f0+fdの信号を除去する。これにより、ドプラ偏移周波数fdを有する信号が抽出される。なお、このように抽出されたドプラ偏移周波数fdは、概ね、可聴周波数帯域(20Hz~20kHz)に含まれる。
【0032】
さらに、ドプラ信号形成部18は、ADコンバータを備える。ADコンバータは、ローパスフィルタにより得られたドプラ偏移周波数fdを有する信号をデジタル信号に変換する。本実施形態では、デジタル変換のサンプリング周波数は2kHz程度となっている。
【0033】
ドプラ信号形成部18によって得られた、ドプラ偏移周波数fdを有する信号がドプラ信号である。ドプラ信号は、横軸が時間、縦軸が反射波の信号強度で規定される座標空間における波形として表現することができる。ドプラ信号には、胎児の心臓の動きに対応する胎児心拍成分が含まれる。
【0034】
心拍数測定部20は、胎児心拍数を測定する。本実施形態では、心拍数測定部20は、ドプラ信号形成部18によって形成されたドプラ信号に基づいて、胎児心拍数を測定する。具体的には、心拍数測定部20は、ドプラ信号が有する周期性に基づいて胎児心拍数を測定する。以下、胎児心拍数を測定するための測定処理として、ドプラ信号に対する自己相関処理を用いた測定処理を説明する。
【0035】
図2は、ドプラ信号DSにおける、自己相関処理に用いられる比較対象部分CPを示す概念図である。また、
図3は、自己相関処理に用いられる参照信号RDSを示す概念図である。心拍数測定部20は、参照信号RDSと、ドプラ信号DSのうちの、参照信号RDSと同じ時間長の部分である比較対象部分CPとの間の相関係数(以下、単に「相関係数」と記載する場合がある)を演算する。後述するように、参照信号RDSは更新され得るが、初期の参照信号RDSは、胎児心拍成分を示すものが予め用意される。参照信号RDSが胎児心拍成分を示すものである場合、参照信号RDSは、胎児の心臓壁又は心臓弁の動きを示す信号となる。
【0036】
心拍数測定部20は、比較対象部分CPを少しずつ(例えば、ドプラ信号形成部18のADコンバータによるサンプリング周波数における1サンプル分の時間ずつ)時間方向にずらしていきながら、相関係数の演算を繰り返していく。比較対象部分CPを時間方向にずらしながら相関係数を演算することで、相関係数の時間変化が演算されることになる。
【0037】
図4は、相関係数の時間変化を示すグラフである。参照信号RDSが胎児心拍成分を示す場合、相関係数が大きくなるタイミング(例えば極大値を取るタイミング)は、胎児の心臓壁又は心臓弁が、参照信号RDSが示すのと同じように動いているタイミングを示していると言える。このことから、相関係数の時間変化の周期が、胎児心拍数を表すものであると言える。したがって、心拍数測定部20は、相関係数の時間変化の周期に基づいて、胎児心拍数を測定することができる。例えば、相関係数の極大値間の時間tは、胎児の一心拍間の時間を表すものであると言えるため、心拍数測定部20は、時間tの逆数を演算することによって1秒当たりの胎児心拍数を得る。
【0038】
上述の自己相関処理において、参照信号RDSが更新される。具体的には、相関係数が所定の条件を満たした場合(例えば、所定の閾値を超えた場合、あるいは、相関係数が極大値を取った場合)に、当該相関係数に対応する比較対象部分CPが新たな参照信号RDSとされる。参照信号RDSを更新することで、胎児心拍成分を表すドプラ信号の信号波形が徐々に変化していく場合であっても、胎児心拍数の演算精度の低下を抑制することができる。
【0039】
心拍数測定部20は、超音波プローブ12が次々に受信した受信信号に基づいて次々に形成されるドプラ信号に基づいて、上述の測定処理によって、経時的に胎児心拍数を測定していく。
【0040】
なお、心拍数測定部20は、ドプラ信号を用いた方法以外の方法によって胎児心拍数を測定してもよい。例えば、心拍数測定部20は、バイポーラスパイラル電極を胎児の頭に装着して得られる直接誘導胎児心電信号を用いて胎児心拍数を測定する内測法などによって胎児心拍数を経時的に測定してもよい。
【0041】
波形形成部22は、心拍数測定部20によって経時的に測定された胎児心拍数の時間変化を表す胎児心拍波形を形成する。また、波形形成部22は、感圧センサ12aによって経時的に測定された子宮収縮圧の時間変化を表す子宮収縮圧波形を形成する。胎児心拍波形と子宮収縮圧波形との組み合わせは、CTG(CardioTocoGram;胎児心拍数陣痛図)と呼ばれる。
図5には、胎児心拍波形FHRと子宮収縮圧波形UCから成るCTGの例が示されている。
図5(後述する
図7~
図9及び
図11も同様)の例では、横軸は時間を表し、縦軸は胎児心拍数又は子宮収縮圧を表している。
【0042】
出力制御部24は、心拍数測定部20により測定された胎児心拍数、感圧センサ12aにより測定された子宮収縮圧、並びに、波形形成部22により形成されたCTGをディスプレイ26に表示させる。出力制御部24は、例えば、胎児心拍数を毎分何拍というように数値でディスプレイ26に表示させる。出力制御部24は、胎児心拍数をディスプレイ26に表示させるに加えてあるいは代えて、スピーカ(不図示)からの音声によって出力するようにしてもよい。例えば、胎児の心拍に合わせて、予め用意された心音をスピーカから出力させるようにしてもよい。また、出力制御部24は、子宮収縮圧を数値でディスプレイ26に表示させてもよい。
【0043】
ディスプレイ26は、例えば液晶ディスプレイを含んで構成される。ディスプレイ26には、出力制御部24からの制御に応じて、種々の画面が表示される。
【0044】
メモリ28は、eMMC(embedded Multi Media Card)やROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリ、及び、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含んで構成される。不揮発性メモリには、遅発一過性徐脈予測装置10の各部を動作させるための遅発一過性徐脈予測プログラムが記憶される。なお、遅発一過性徐脈予測プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。遅発一過性徐脈予測装置10は、そのような記憶媒体から遅発一過性徐脈予測プログラムを読み取って実行することができる。
【0045】
また、
図1に示すように、メモリ28(詳しくは不揮発性メモリ)には、学習モデル30が記憶される。学習モデル30としては、これに限られるものではないが、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)などの画像認識モデル、あるいは、Transformerなどの自然言語処理モデルを利用することができる。
【0046】
学習モデル30は、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から所定時間前の期間である徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて、徐脈発生前期間から当該所定時間後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が発生するか否かを予測して出力するように学習される。本実施形態では、遅発一過性徐脈予測装置10以外の装置である学習処理装置において、学習モデル30を学習させる学習処理が実行される。そして、学習処理装置において学習済みの学習モデル30がメモリ28に記憶される。しかしながら、遅発一過性徐脈予測装置10が、以下に説明する学習処理を実行する学習処理部を備えていてもよく、すなわち、遅発一過性徐脈予測装置10が学習処理装置であってもよい。以下、学習モデル30の学習方法の詳細を説明する。
【0047】
まず、学習処理装置からアクセス可能なCTGデータベースに、過去において取得されたCTGを蓄積記憶させておく。その上で、学習処理を行う学習処理者は、CTGデータベースに記憶されたCTGのうち、遅発一過性徐脈が生じているCTGを抽出する。
【0048】
以下、
図5に示すCTGが抽出されたとして説明する。胎児心拍波形FHRにおいて、胎児心拍数が緩やかに落ち込み、その後回復している部分が遅発一過性徐脈LDが生じている部分である。時刻t
LDは、遅発一過性徐脈LDの発生開始時点、つまり徐脈発生時点である。学習処理者は、抽出したCTGのうち、時刻t
LDから所定時間I前の期間である徐脈発生前期間BDPを特定する。所定時間Iは、予め定められていてよい。例えば、所定時間Iとしては、1.5分、3分、6分、10分、あるいはそれ以上の時間が定められる。
図5では、徐脈発生前期間BDPは、時刻t
11から時刻t
12までの期間である。このように、本明細書においては、時刻t
LDから所定時間I前の期間(徐脈発生前期間BDP)とは、徐脈発生前期間BDPの終了時点(すなわち時刻t
12)が時刻t
LDから所定時間I前であることを意味する。
【0049】
徐脈発生前期間BDPの時間長は、予め定められていてよい。医師などが、胎児心拍波形FHRの10分の区間で胎児心拍波形FHRの基線を判読するのが一般的であることから、本実施形態では徐脈発生前期間BDPの時間長は10分に設定されている。なお、徐脈発生前期間BDPの時間長は、学習モデル30が好適に学習可能な限りにおいて、これには限られない。
【0050】
学習処理者は、徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRを抽出する。抽出された徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRが、学習モデル30の学習データとなる。このように、本実施形態では、胎児心拍波形FHRのうち、遅発一過性徐脈LDを含まない部分(詳しくは遅発一過性徐脈LDよりも時間的に前の部分)が学習データとなることに留意されたい。
【0051】
学習処理装置のプロセッサは、徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRを学習データとして学習モデル30に入力する。学習モデル30は、入力された徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRに基づいて、当該徐脈発生前期間BDPの所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測して予測結果を出力する。学習処理装置のプロセッサは、予測結果と、当該徐脈発生前期間BDPの所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じることを示す教師データとの差分が小さくなるように、学習モデル30のパラメータを調整する。このような処理を繰り返すことで、十分に学習された学習モデル30は、入力された、ある期間の胎児心拍数の時間変化に基づいて、当該期間(詳しくは当該期間の終了時刻)の所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じるか否かを高精度に予測して出力することができるようになる。
【0052】
学習モデル30は、徐脈発生前期間BDPにおいて測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。つまり、学習モデル30は、徐脈発生前期間BDPにおいて測定されたCTG(胎児心拍波形FHR及び子宮収縮圧波形UC)を学習データとして学習されてもよい。子宮収縮圧は周期的に変化すること、及び、遅発一過性徐脈LDは子宮収縮圧の上昇に伴って生じることなどから、学習データに子宮収縮圧波形UCを加えることで、学習モデル30の予測精度を向上させることができる。
【0053】
また、学習モデル30は、胎児に遅発一過性徐脈が生じていない時点から所定時間I前の期間である非徐脈前期間の胎児心拍数の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。この場合、学習処理を行う学習処理者によって、CTGデータベースから、遅発一過性徐脈が生じていない胎児心拍波形FHRが抽出される。そして、抽出された胎児心拍波形FHRのうちの非徐脈前期間の胎児心拍波形FHRが学習データとされる。この場合、学習データとしての、徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRには、当該徐脈発生前期間BDPの所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じることを示すラベルが付され、学習データとしての、非徐脈前期間の胎児心拍波形FHRには、当該非徐脈前期間の所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じないことを示すラベルが付される。このようなラベルは教師データとして用いられる。学習モデル30は、徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRのみならず、非徐脈前期間の胎児心拍波形FHRを含む学習データを用いて学習モデル30を学習させることで、学習済みの学習モデル30の予測精度、あるいは、学習モデル30の学習効率を向上させることができる。
【0054】
さらに、学習モデル30は、非徐脈前期間の、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。つまり、学習モデル30は、非徐脈前期間において測定されたCTGをさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。これによっても、上述の理由で、学習モデル30の予測精度を向上させることができる。
【0055】
徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRに基づいて、徐脈発生前期間BDPの所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じることを予測できる、ということは、徐脈発生前期間BDPの胎児心拍波形FHRが、その後に遅発一過性徐脈が生じることを示す特徴を有している、ということである。具体的には、上述のように、遅発一過性徐脈は、胎児の低酸素状態又は低栄養状態を表すものであるところ、実際に遅発一過性徐脈が発生する前に、胎児の低酸素状態又は低栄養状態が反映された胎児心拍波形FHRの波形パターンが出現していると考えられる。このような波形パターンとしては、胎児心拍波形FHRの基線の細変動の仕方や、遷延一過性徐脈の発生などが挙げられる。
【0056】
さらに、徐脈発生前期間BDPのCTGの特徴と、徐脈発生前期間BDPの後に遅発一過性徐脈が生じることとの関連性を示すデータとして、
図6に、学習済みの学習モデル30のROC(Receiver Operatorating Characteristic)曲線を示す。
図6のグラフにおいて、横軸がFPF(False Positive Fraction;偽陽性率)、つまり、真には、所定時間I後に遅発一過性徐脈が発生しなかった入力データ(CTG)群のうち、学習モデル30が遅発一過性徐脈が生じると判定してしまった確率を示し、縦軸がTPF(True Positive Fraction;真陽性率)、つまり、真には、所定時間I後に遅発一過性徐脈が発生した入力データ(CTG)群のうち、学習モデル30が正しく遅発一過性徐脈が生じると判定した確率を示す。
図6には、複数のROC曲線が示されているところ、ROC曲線の説明においては、いずれか1つのROC曲線に着目されたい。
【0057】
学習モデル30は、入力データ(この場合はCTG)に基づいて、出力データとして、その後に遅発一過性徐脈が生じる可能性を出力する。例えば、学習モデル30は、出力データとして0~1(0が遅発性一過性徐脈が生じないと予測した場合で、1が遅発性一過性徐脈が100%生じると予測した場合)の間の値を出力するとする。学習モデル30の出力データに基づいて、予測結果として遅発一過性徐脈が生じるか生じないかのいずれかを決定する場合、学習モデル30の出力データが取り得る範囲である0~1の範囲において閾値を設け、学習モデル30の出力データが当該閾値以上であれば遅発一過性徐脈が生じる、当該閾値未満であれば遅発一過性徐脈が生じない、という予測結果を決定することになる。
【0058】
ROC曲線は、当該閾値を0~1の間で変化させたときの、学習モデル30のFPFとTPFの変化を示すグラフである。例えば、閾値を1(最大値)とした場合、予測結果は、学習モデル30の出力データに関わらず一律に遅発一過性徐脈が生じない、と決定されることになる。この場合、FPFとTPFがいずれも0[%]の位置にプロットされる。逆に、閾値を0(最小値)とした場合、予測結果は、学習モデル30の出力データに関わらず一律に遅発一過性徐脈が生じる、と決定されることになる。この場合、FPFとTPFがいずれも100[%]の位置にプロットされる。閾値を0から1の間で変化させていくと、
図6に示すROC曲線のように、FPFとTPFの値も徐々に変化していく。
【0059】
言うまでもなく、FPFは小さい方が好ましく、TPFは大きい方が好ましい。したがって、
図6のように横軸をFPF、縦軸をTPFとした2次元空間においては、ROC曲線が左上(すなわちFPF=0[%]、TPF=100[%])に近い位置を通る程、閾値を適切に設定すれば、学習モデル30の予測精度が高くなる、と言える。ちなみに、ROC曲線の評価として、AUC(Area Under Curve)というパラメータが提案されている。AUCは、
図6に示す2次元空間における、ROC曲線よりも下側の領域の面積を示すパラメータであり、AUCが大きい程、学習モデル30の予測精度が高いということができる。逆に、学習モデル30の予測精度がかなり低く、例えばランダムに出力データを出力するならば、そのROC曲線は、FPFとTPFがいずれも0[%]の位置と、FPFとTPFがいずれも100[%]の位置とを結ぶ直線に近くなる。
【0060】
上述のように、
図6には複数のROC曲線が示されている。各ROC曲線は、所定時間I(すなわち学習データである徐脈発生前期間BDPと、遅発一過性徐脈の発生時点である時刻t
LDとの間の時間;
図5参照)が互いに異なる学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線である。具体的には、丸マーカ及び実線で示されたROC曲線は、所定時間Iが1.5分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線であり、三角マーカ及び破線で示されたROC曲線は、所定時間Iが3分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線であり、四角マーカ及び実線で示されたROC曲線は、所定時間Iが6分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線であり、丸マーカ及び一点鎖線で示されたROC曲線は、所定時間Iが10分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線である。
【0061】
図6に示すように、特に所定時間Iが1.5分や3分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線は、FPFとTPFがいずれも0[%]の位置と、FPFとTPFがいずれも100[%]の位置とを結ぶ直線に比して、かなりAUCが大きくなっている。すなわち、徐脈発生前期間BDPのCTGを学習データとして用いて学習された学習モデル30が、入力データであるCTGの後に遅発一過性徐脈が生じることを予測できているということになる。つまり、徐脈発生前期間BDPのCTGが、その後に遅発一過性徐脈が生じることを示す特徴を有している、ということができる。仮に、徐脈発生前期間BDPのCTGが、その後に遅発一過性徐脈が生じることを示す特徴を全く有していないならば、学習済みの学習モデル30のROC曲線は、FPFとTPFがいずれも0[%]の位置と、FPFとTPFがいずれも100[%]の位置とを結ぶ直線に近くなるはずである。
【0062】
なお、
図6に示したROC曲線において、所定時間Iが6分や10分の学習データを用いて学習された学習モデル30のROC曲線のAUCはあまり大きくなっていない。しかしながら、今後、学習モデル30の構造やハイパーパラメータ(例えば、エポック数(1つの学習データの繰り返し利用回数)、隠れ層数、各隠れ層のノード数、ドロップアウト数(学習処理において重みやバイアスを調整しないノードの数)、あるいは、バッチ数(学習データを複数のサブセットに分けたときのサブセットに含まれる学習データの数))を工夫することで、所定時間Iが大きい場合(10分以上の場合を含む)であっても、学習モデル30の精度が向上することが期待される。
【0063】
図1に戻り、遅発一過性徐脈予測部32は、学習済みの学習モデル30を用いて、遅発一過性徐脈が生じるか否かの予測対象である対象胎児に、遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する。具体的には、まず、遅発一過性徐脈予測部32は、所定の対象期間における胎児心拍数の時間変化を特定する。
図7は、対象期間TPの例を示す概念図である。
図7には、心拍数測定部20によって測定された、対象胎児の胎児心拍数の時間変化を表す対象胎児心拍波形TFHR、及び、感圧センサ12aによって測定された、対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を表す対象子宮収縮圧波形TUCが示されている。対象期間TPの時間長は適宜設定されてよい。例えば、対象期間TPの時間長は、学習モデル30を学習させるのに用いた学習データと同じ時間長、すなわち、徐脈発生前期間BDPの時間長と同一であってよい。
【0064】
遅発一過性徐脈予測部32は、対象期間TPにおける対象胎児の胎児心拍数の時間変化を学習モデル30に入力する。概念的には、遅発一過性徐脈予測部32は、
図7に示された、対象期間TPの対象胎児心拍波形TFHRを学習モデル30に入力する。学習モデル30は、当該入力データに基づいて、対象期間TPから所定時間I後の時点である予測対象時点t
PTにおいて、対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性(例えば0~1の値)を予測して出力する。そして、遅発一過性徐脈予測部32は、当該入力データに対する学習モデル30の出力データに基づいて、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する。例えば、遅発一過性徐脈予測部32は、所定の閾値を設け、学習モデル30の出力データが閾値以上であれば、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測し、学習モデル30の出力データが閾値未満であれば、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じないと予測する。
【0065】
徐脈発生前期間BDP、又は、徐脈発生前期間BDP及び非徐脈前期間において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習モデル30が学習されている場合、遅発一過性徐脈予測部32は、対象期間TPにおける対象胎児の胎児心拍数の時間変化、及び、感圧センサ12aにより測定された、対象期間TPにおける対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を学習モデル30に入力する。概念的には、遅発一過性徐脈予測部32は、
図7に示された、対象期間TPの対象胎児心拍波形TFHR及び対象子宮収縮圧波形TUCを学習モデル30に入力する。そして、遅発一過性徐脈予測部32は、当該入力データに対する学習モデル30の出力データに基づいて、予測対象時点t
PTにおいて前記対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する。
【0066】
心拍数測定部20により経時的に対象胎児の胎児心拍数が測定されていくに応じて、あるいは、感圧センサ12aにより経時的に対象胎児の母体の子宮収縮圧が測定されていくに応じて、遅発一過性徐脈予測部32は、
図7に示すように、対象期間TPを変更させなながら(時間方向にずらしながら)、対象期間TPにおける対象胎児の胎児心拍数の時間変化、又は、それに加えて対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を学習モデル30に入力することを繰り返していく。なお、予測対象時点t
PTは、対象期間TPから所定時間I後であるため、対象期間TPが変更されると予測対象時点t
PTも変更される。これにより、遅発一過性徐脈予測部32は、時間方向に徐々に移動していく予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測していく。つまり、遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを経時的に予測する。
【0067】
遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点において対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かをリアルタイムに予測する。すなわち、対象期間TPの終了時点が常に現時点となるように設定することで、遅発一過性徐脈予測部32は、現時点から所定時間I後である予測対象時点tPTにおいて、対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを経時的に予測していく。
【0068】
通知部としての出力制御部24は、遅発一過性徐脈予測部32により、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを医師などのユーザに通知する。
【0069】
現時点から所定時間I後である予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを出力制御部24がユーザに通知する方法は、種々の方法であってよい。例えば、出力制御部24は、所定時間I後において対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを示す情報をディスプレイ26に表示させることでユーザに通知する。例えば、
図8に示すように、出力制御部24は、波形形成部22が形成した胎児心拍波形40及び子宮収縮圧波形42と共に、現時点から所定時間I後である予測対象時点t
PT(
図8の例では現時点から3分後)に、対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを示すメッセージ44をディスプレイ26に表示させるとよい。
【0070】
また、出力制御部24は、ユーザへの通知として、メッセージ44を表示させるに代えてあるいは加えて、遅発一過性徐脈予測装置10に設けられた発光部(例えばLED(Light-Emitting Diode)など)を発光させる、あるいは、遅発一過性徐脈予測装置10に設けられたスピーカから音声を出力させるなどしてもよい。
【0071】
上記の実施形態では、遅発一過性徐脈予測部32は、1つの所定時間Iに対応する学習モデル30を用いて、現時点から所定時間I後に対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを予測していたが、遅発一過性徐脈予測部32は、複数の所定時間Iに対応する複数の学習モデル30を用いて、現時点から各所定時間I後に対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを予測するようにしてもよい。以下、遅発一過性徐脈予測部32が、所定時間Iが互いに異なる2つの学習モデル30(第1学習モデル及び第2学習モデル)を用いて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを予測する場合について説明するが、遅発一過性徐脈予測部32は、3つ以上の所定時間Iに対応する3つ以上の学習モデル30を用いて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを予測するようにしてもよい。
【0072】
まず、第1学習モデルの学習方法について説明する。第1学習モデルは、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から第1所定時間前の期間である第1徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて学習される。具体的には、CTGデータベースから
図5に示すCTGが抽出された場合、学習処理者は、遅発一過性徐脈LDの発生開始時点である時刻t
LDから第1所定時間I
1前の期間である第1徐脈発生前期間BDP
1を特定する。ここでは、第1所定時間I
1は3分であるとする。その上で、学習処理者は、第1徐脈発生前期間BDP
1の胎児心拍波形FHRを抽出する。学習処理装置のプロセッサは、抽出された第1徐脈発生前期間BDP
1の胎児心拍波形FHRを学習データとして用いて、第1徐脈発生前期間BDP
1から第1所定時間I
1後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が発生するか否かを予測して出力するように第1学習モデルを学習させる。十分に学習された第1学習モデルは、入力された、ある期間の胎児心拍数の時間変化に基づいて、当該期間(詳しくは当該期間の終了時刻)の第1所定時間I
1後に遅発一過性徐脈が生じるか否かを高精度に予測して出力することができるようになる。
【0073】
なお、ここでも、第1学習モデルは、第1徐脈発生前期間BDP1において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。また、第1学習モデルは、非徐脈前期間の胎児心拍数の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。さらに、第1学習モデルは、非徐脈前期間の、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。
【0074】
次に、第2学習モデルの学習方法を説明する。第2学習モデルは、過去において胎児に遅発一過性徐脈が生じた徐脈発生時点から、第1所定時間より短い第2所定時間前の期間である第2徐脈発生前期間において測定された、当該胎児の心拍数の時間変化を学習データとして用いて学習される。具体的には、CTGデータベースから
図9に示すCTGが抽出された場合、学習処理者は、遅発一過性徐脈LDの発生開始時点である時刻t
LDから第2所定時間I
2前の期間である第2徐脈発生前期間BDP
2を特定する。ここでは、第2所定時間I
2は1.5分であるとする。その上で、学習処理者は、第2徐脈発生前期間BDP
2の胎児心拍波形FHRを抽出する。学習処理装置のプロセッサは、抽出された第2徐脈発生前期間BDP
2の胎児心拍波形FHRを学習データとして用いて、第2徐脈発生前期間BDP
2から第2所定時間I
2後に、当該胎児に遅発一過性徐脈が発生するか否かを予測して出力するように第2学習モデルを学習させる。十分に学習された第2学習モデルは、入力された、ある期間の胎児心拍数の時間変化に基づいて、当該期間(詳しくは当該期間の終了時刻)の第2所定時間I
2後に遅発一過性徐脈が生じるか否かを高精度に予測して出力することができるようになる。
【0075】
なお、ここでも、第2学習モデルは、第2徐脈発生前期間BDP2において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。また、第2学習モデルは、非徐脈前期間の胎児心拍数の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。さらに、第2学習モデルは、非徐脈前期間の、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて学習されてもよい。
【0076】
上述のように、遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かをリアルタイムに予測する。したがって、遅発一過性徐脈予測部32は、対象期間TP(
図7参照)を時間方向にずらしながら、終了時点が現時点である対象期間TPを第1学習モデル30a及び第2学習モデル30bに順次入力していく。ここで、
図10に示すように、同一の対象期間TPにおける胎児心拍数の時間変化を第1学習モデル30a及び第2学習モデル30bに入力した場合、第1学習モデル30aの予測対象時点t
PTは、第2学習モデル30bの予測対象時点t
PTよりも、時間的に後ろになる。本例では、第2学習モデル30bは、対象期間TPの第2所定時間I
2後である、現時点から1.5分後に対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する一方、第1学習モデル30aは、対象期間TPの第1所定時間I
1後である、現時点から3分後に対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する。
【0077】
そこで、
図11に示すように、所定の予測対象時点t
PTを基準に考える。まず、遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点t
PTから第1所定時間I
1前の期間である第1対象期間TP
1の対象胎児心拍波形TFHRを第1学習モデル30aに入力することで、第1学習モデル30aは、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性を示す出力データを出力する。ここで、遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点t
PTと関連付けて、第1学習モデル30aの出力データを一時的にメモリ28に記憶させておく。なお、このとき、遅発一過性徐脈予測部32は、第1対象期間TP
1の対象胎児心拍波形TFHRを第2学習モデル30bにも入力する。これにより、第2学習モデル30bは、予測対象時点t
PTよりも(第1所定時間I
1-第2所定時間I
2)前の時点おいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性を示す出力データを出力することになる。
【0078】
第1対象期間TP1の対象胎児心拍波形TFHRを第1学習モデル30a(及び第2学習モデル30b)に入力した時点から、(第1所定時間I1-第2所定時間I2)後の時点において、遅発一過性徐脈予測部32は、予測対象時点tPTから第2所定時間I2前の期間である第2対象期間TP2の対象胎児心拍波形TFHRを第2学習モデル30b(及び第1学習モデル30a)に入力する。第2学習モデル30bは、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性を示す出力データを出力する。
【0079】
そして、遅発一過性徐脈予測部32は、メモリ28に記憶させておいた、第1学習モデル30aが出力した、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性を示す出力データと、第2学習モデル30bが出力した、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性を示す出力データとに基づいて、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測する。例えば、遅発一過性徐脈予測部32は、第1学習モデル30aの出力データ及び第2学習モデル30bの出力データの両方が、上述の閾値以上である場合に、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測し、第1学習モデル30aの出力データ及び第2学習モデル30bの出力データの少なくとも一方が閾値未満であれば、予測対象時点tPT点において対象胎児に遅発一過性徐脈が生じないと予測する。
【0080】
また、
図6に示すように、所定時間Iがより短い学習モデル30(上述の例では第2学習モデル30b)の方が、予測精度が高いと考えられることから、遅発一過性徐脈予測部32は、第1学習モデル30a用の第1重みと、第1重みよりもより重みが大きい第2学習モデル30b用の第2重みを用意し、第1重み及び第2重みを考慮した上で、第1学習モデル30aの出力データ及び第2学習モデル30bの出力データとに基づいて、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否か予測してもよい。
【0081】
なお、この場合でも、徐脈発生前期間BDP、又は、徐脈発生前期間BDP及び非徐脈前期間において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて第1学習モデル30aが学習されている場合、遅発一過性徐脈予測部32は、第1対象期間TP1における、対象胎児心拍波形TFHR及び対象子宮収縮圧波形TUCを第1学習モデル30aに入力してもよい。また、徐脈発生前期間BDP、又は、徐脈発生前期間BDP及び非徐脈前期間において測定された、胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化をさらに含む学習データを用いて第2学習モデル30bが学習されている場合、遅発一過性徐脈予測部32は、第2対象期間TP2における、対象胎児心拍波形TFHR及び対象子宮収縮圧波形TUCを第2学習モデル30bに入力してもよい。
【0082】
また、出力制御部24は、第1学習モデル30aが、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合に、第1態様にてユーザに通知し、その後、第2学習モデル30bが、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、第1態様とは異なる第2態様にてユーザに通知するとよい。
【0083】
例えば、出力制御部24は、第1学習モデル30aが、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、メッセージ44、又は、胎児心拍波形40及び子宮収縮圧波形42の背景をオレンジ色で表示させ、その後、第2学習モデル30bが、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力した場合、メッセージ44、又は、胎児心拍波形40及び子宮収縮圧波形42の背景を赤色で表示させるとよい。
【0084】
これにより、ユーザは、複数の学習モデル30が予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じることを示す出力データを出力したことを、段階的に把握することが可能となる。
【0085】
本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置10の概要は以上の通りである。遅発一過性徐脈予測装置10が有する上述の各部のうち、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及び、遅発一過性徐脈予測部32は、プロセッサによって構成される。プロセッサとは、汎用的な処理装置(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用の処理装置(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。プロセッサとしては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。また、上記の各部は、プロセッサなどのハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0086】
遅発一過性徐脈予測装置10によれば、対象胎児に実際に遅発一過性徐脈が生じるに先立って、ユーザは、対象胎児に将来(所定時間I後に)遅発一過性徐脈が生じることを把握することができる。これにより、例えば、ユーザは、急速遂娩の準備、あるいは、他の病院への搬送する場合、病院の確保などの処置をより早期に開始することができる。
【0087】
図12は、本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測システム50の構成概略図である。
図1に示す遅発一過性徐脈予測装置10においては、胎児心拍数の測定処理と、遅発一過性徐脈が生じるか否かの予測処理とが1つの装置内で行われていたが、胎児心拍数の測定処理と、遅発一過性徐脈が生じるか否かの予測処理と、が互いに異なる装置で行われてもよい。
【0088】
図12に示される遅発一過性徐脈予測システム50は、胎児心拍数測定装置52、及び、遅発一過性徐脈予測装置54とを含んで構成される。胎児心拍数測定装置52と遅発一過性徐脈予測装置54は、LAN(Local Area Network)又はWAN(Wide Area Network)などの通信回線56によって、互いに通信可能に接続される。遅発一過性徐脈予測システム50は、複数の胎児心拍数測定装置52を有していてよい。すなわち、遅発一過性徐脈予測装置54は、複数の胎児心拍数測定装置52と通信可能に接続されてよい。
【0089】
胎児心拍数測定装置52は、病院内の検査室や分娩室などに設置される。遅発一過性徐脈予測装置54は、胎児心拍数測定装置52とは異なる空間、例えば、病院内のナースセンタや中央管制室などに設置される。あるいは、胎児心拍数測定装置52は、例えば妊婦の自宅などに設置され、遅発一過性徐脈予測装置54は、妊婦の自宅から遠隔して設けられるサーバであってもよい。この場合、遅発一過性徐脈予測装置54が発揮する機能は、クラウドサービスにより提供されてもよい。
【0090】
胎児心拍数測定装置52は、感圧センサ12aを含む超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、ディスプレイ26、及び、通信部60を有する。胎児心拍数測定装置52が有する感圧センサ12a、超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及びディスプレイ26の構成及び機能は、
図1における感圧センサ12a、超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及びディスプレイ26と同様であるため、説明は省略する。
【0091】
通信部60は、例えばネットワークアダプタなどから構成され、通信回線56を介して遅発一過性徐脈予測装置54と通信する機能を発揮する。測定装置側通信部としての通信部60は、心拍数測定部20の測定結果、換言すれば、対象胎児の胎児心拍数の時間変化を示す情報(例えば対象胎児心拍波形TFHR(
図7参照))を遅発一過性徐脈予測装置54に送信する。また、通信部60は、感圧センサ12aの測定結果、換言すれば、対象胎児の母体の子宮収縮圧の時間変化を示す情報(例えば対象子宮収縮圧波形TUC(
図7参照))を遅発一過性徐脈予測装置54に送信してもよい。
【0092】
遅発一過性徐脈予測装置54は、遅発一過性徐脈予測部32、学習モデル30が記憶されたメモリ62、出力制御部64、ディスプレイ66、及び、通信部68を有する。遅発一過性徐脈予測装置54が有する学習モデル30及び遅発一過性徐脈予測部32の構成及び機能は、
図1における学習モデル30及び遅発一過性徐脈予測部32と同様であるため、説明は省略する。
【0093】
メモリ62は、HDD(Hard Disk Drive)、eMMC、ROMなどの不揮発性メモリ、及び、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含んで構成される。ディスプレイ66は、例えば液晶ディスプレイを含んで構成される。ディスプレイ66には、出力制御部64からの制御に応じて、種々の画面が表示される。
【0094】
遅発一過性徐脈予測装置54の遅発一過性徐脈予測部32は、遅発一過性徐脈予測システム50に含まれる各胎児心拍数測定装置52から送信されてきた、対象期間TP(
図7参照)における対象胎児の胎児心拍数の時間変化を学習モデル30に入力する。そして、遅発一過性徐脈予測部32は、当該入力データに対する学習モデル30の出力データに基づいて、予測対象時点t
PT(
図7参照)において対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測する。
【0095】
予測装置側通知部としての出力制御部64は、遅発一過性徐脈予測部32により、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、予測対象時点t
PTにおいて対象胎児に所定時間I後に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを医師などのユーザに通知する。例えば、出力制御部64は、ディスプレイ66に
図8に示すようなメッセージ44を表示させる。
【0096】
遅発一過性徐脈予測部32による、学習モデル30を用いた、遅発一過性徐脈が生じるか否かの予測処理は、その演算量が多くなる。したがって、学習モデル30及び遅発一過性徐脈予測部32を有する装置のプロセッサは、高い演算能力が要求される。遅発一過性徐脈予測システム50においては、学習モデル30及び遅発一過性徐脈予測部32は、遅発一過性徐脈予測装置54に設けられており、各胎児心拍数測定装置52には設けられていない。したがって、遅発一過性徐脈予測システム50によれば、遅発一過性徐脈予測装置54にのみ高い演算能力を有するプロセッサを設ければよく、各胎児心拍数測定装置52のプロセッサには、高い演算能力を有するプロセッサを設ける必要がない。これにより、各胎児心拍数測定装置52のコストを上げることなく、各胎児心拍数測定装置52の測定対象である各対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かを予測することができる。
【0097】
また、各胎児心拍数測定装置52の測定対象である各対象胎児についての、遅発一過性徐脈予測部32の判定結果をディスプレイ66に表示すれば、ユーザは、各対象胎児についての複数の判定結果をディスプレイ66にて集約して確認することができる。
【0098】
通信部68は、例えばネットワークアダプタなどから構成され、通信回線56を介して各胎児心拍数測定装置52と通信する機能を発揮する。予測装置側通信部としての通信部68は、遅発一過性徐脈予測部32により、予測対象時点tPTにおいて対象胎児に遅発一過性徐脈が生じると予測された場合に、当該対象胎児に係る胎児心拍数測定装置52に通知してもよい。この場合、胎児心拍数測定装置52の測定装置側通知部としての出力制御部24は、遅発一過性徐脈予測装置54からの通知に応じて、予測対象時点tPTにおいて当該対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることをユーザに通知する。
【0099】
このように、対象胎児の胎児心拍数の測定処理を胎児心拍数測定装置52で行い、当該対象胎児に遅発一過性徐脈が生じるか否かの予測処理を遅発一過性徐脈予測装置54で行い、予測対象時点tPTにおいて当該対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることのユーザへの通知を胎児心拍数測定装置52で行うようにしてもよい。これにより、胎児心拍数測定装置52のコストを上げることなく、ユーザは、胎児心拍数測定装置52によって、予測対象時点tPTにおいて当該対象胎児に遅発一過性徐脈が生じる可能性があることを確認することができる。
【0100】
以上、本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラムを説明したが、本実施形態に係る遅発一過性徐脈予測装置、遅発一過性徐脈予測システム、及び、遅発一過性徐脈予測プログラムは、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10,54 遅発一過性徐脈予測装置、12 超音波プローブ、12a 感圧センサ、14 送信部、16 受信部、18 ドプラ信号形成部、20 心拍数測定部、22 波形形成部、24,64 出力制御部、26,66 ディスプレイ、28,62 メモリ、30 学習モデル、30a 第1学習モデル、30b 第2学習モデル、32 遅発一過性徐脈予測部、50 遅発一過性徐脈予測システム、52 胎児心拍数測定装置、56 通信回線、60,68 通信部。