(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021791
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】風速風圧の予測システム
(51)【国際特許分類】
G01M 9/00 20060101AFI20250206BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20250206BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20250206BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01M9/00
G06T7/00 350C
G06V10/82
G01W1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125753
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畔上 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 祐士
(72)【発明者】
【氏名】田中 英之
(72)【発明者】
【氏名】今野 尚子
【テーマコード(参考)】
2G023
5L096
【Fターム(参考)】
2G023AB27
2G023AC03
2G023AD07
5L096DA01
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】任意の街区における風情報の空間分布の予測を可能とすることを目的とする。
【解決手段】予測システムは、数値流体解析モデルを用いて、空間分布における風速及び風圧の少なくとも一方に対応する風情報から、計算データを作成し、ニューラルネットワークを用いたモデルに入力するために、計算データを所定の区画ごとに分割した教師データセットを作成する前処理部と、教師データセットを用いて、分割した単位を入出力の各情報の画像ファイルの単位として、流入風条件を示す画像ファイル及び建物の高さ情報を示す画像ファイルを入力とし、風情報の計算結果の画像ファイルを出力とする学習済みモデルを生成する学習部と、計画建物を含む街区における流入風条件と、計画建物の高さを含む高さ情報とを、学習済みモデルに入力し、学習済みモデルの出力により計画建物に関する風情報を予測する予測部と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値流体解析モデルを用いて、空間分布における風速及び風圧の少なくとも一方に対応する風情報から、流入風条件、建物の高さ及び地形の起伏による高さを含む高さ情報、及び前記風情報の計算結果を含む計算データを作成し、
ニューラルネットワークを用いたモデルに入力するために、前記計算データを所定の区画ごとに分割した教師データセットを作成する前処理部と、
前記教師データセットを用いて、分割した単位を入出力の各情報の画像ファイルの単位として、前記流入風条件を示す画像ファイル及び前記建物の高さ情報を示す画像ファイルを入力とし、前記風情報の計算結果の画像ファイルを出力とする学習済みモデルを生成する学習部と、
計画建物を含む街区における前記流入風条件と、前記計画建物の高さを含む前記高さ情報とを、前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力により前記計画建物に関する前記風情報を予測する予測部と、
を含む予測システム。
【請求項2】
前記風情報について、建物に関する風情報を、屋外面の風圧値及び風荷重値の分布とし、街区に関する風情報を、街区の地表付近における風速値の分布及び風圧分布として、
前記予測部は、前記計画建物に関する前記風情報として、前記建物に関する風情報、及び前記街区に関する風情報を予測する、請求項1に記載の予測システム。
【請求項3】
前記予測部は、風速及び風圧のそれぞれに対応する所定の風向パターンについて、前記風向パターンの風向に応じて前記計画建物の高さを含む前記高さ情報を回転させて、前記学習済みモデルに入力し、前記風向パターンごとに、前記風情報を予測する、請求項2に記載の予測システム。
【請求項4】
前記流入風条件を示す画像ファイルは、色情報を用いて風速値を示し、
前記高さ情報を示す画像ファイルは、色情報を用いて建物及び地形の高さを示す、請求項1に記載の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
手法として、例えば、風速分布と風圧分布を推定可能な装置等に関する技術がある(特許文献1参照)。この技術では、風速分布に関して、互いに直交する複数の軸線(X、Y、Z)方向の各々に対応する風速情報を格納している。また、建物情報データ、風向データ、風速分布データには、3次元的な構造を有するボクセルデータを用いている。
【0003】
また、建物周辺の風速分布の推定に関する技術がある(特許文献2参照)。この技術では、ニューラルネットワークの入力に、高さ画像と、建物の断面形状情報を表わす形状画像と、風向き情報を表わす風向き画像とを用いて、建物周辺の風速分布を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-009313号公報
【特許文献2】特開2018-004568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、入力を数値データとして、XYZ方向に分解されたパラメータとして扱っている。しかし、数値データ及びボクセルデータとしてデータを扱うと、データ量が多くなり、学習及び推定にコストが掛かるという課題がある。また、特許文献2の技術では建物周辺の風情報の推定を可能としているが、建物が推定の対象であり、建物周辺を含む地形や街区全般の広い範囲の風情報の推定には適用できていなかった。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して、任意の街区における風情報の空間分布の予測を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の予測システムは、数値流体解析モデルを用いて、空間分布における風速及び風圧の少なくとも一方に対応する風情報から、流入風条件、建物の高さ及び地形の起伏による高さを含む高さ情報、及び前記風情報の計算結果を含む計算データを作成し、ニューラルネットワークを用いたモデルに入力するために、前記計算データを所定の区画ごとに分割した教師データセットを作成する前処理部と、前記教師データセットを用いて、分割した単位を入出力の各情報の画像ファイルの単位として、前記流入風条件を示す画像ファイル及び前記建物の高さ情報を示す画像ファイルを入力とし、前記風情報の計算結果の画像ファイルを出力とする学習済みモデルを生成する学習部と、計画建物を含む街区における前記流入風条件と、前記計画建物の高さを含む前記高さ情報とを、前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力により前記計画建物に関する前記風情報を予測する予測部、を有する。これにより、任意の街区における風情報の空間分布の予測を可能とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、任意の街区における風情報の空間分布の予測を可能とする、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、予測システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、計算データの分割の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、流入風条件を示す画像ファイル及び高さ情報を示す画像ファイルの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、モデルの学習の流れを示す概略図である。
【
図5】
図5は、予測システムにおける学習処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、予測システムにおける予測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の予測システムについて説明する。
【0011】
図1は、予測システム100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、予測システム100は、モデル記憶部102と、前処理部110と、学習部112と、予測部114とを含んで構成されている。予測システム100は装置として構成され、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータにより実現される。なお、各処理に適合に応じてCPUに代えてGPGPU又はアクセラレータを用いてもよく、適宜処理に応じた演算ユニットを用いればよい。特に学習及び推論に係る処理では、GPGPU又はアクセラレータを用いることが好適である。また、学習部112と予測部114を分けてそれぞれ学習装置及び予測装置として、予測システムを構成してもよい。
【0012】
モデル記憶部102には、学習部112で学習される学習済みモデルが格納される。学習済みモデルは、流入風条件を示す画像ファイル及び高さ情報を示す画像ファイルを入力とし、風情報の計算結果の画像ファイルを出力とする。各種画像ファイルの詳細は後述する。
【0013】
前処理部110は、(1)第1に数値流体解析モデルを用いた計算データを作成し、(2)第2に計算データを分割して教師データセットを作成する。数値流体解析モデルには、例えば、CFD(Computational Fluid Dynamics)を用いる。
図2は、計算データの分割の一例を示す図である。
図2の(a1)は、空間分布の領域を描画した画像データであり、風速分布を各ピクセルのスカラ値で示している。領域には街区を含み、上空からの街区における風速分布が描画されている。(a1)の範囲はおおよそ数km四方である。(a2)は、計算データを数百m程度の数街区規模に分割した画像データである。分割の単位は一例である。なお、予測対象の空間向けのモデル学習のための教師データセットを作成が目的であるため、予測対象としたい空間について計算データを作成すればよい。
【0014】
計算データの作成について説明する。前処理部110は、CFDを用いて、空間分布における風速及び風圧の風情報の非定常計算を多数行うことで、計算データを作成する。CFDの計算では、空間分布の各領域に対応した流入境界面を格子間隔で設定し、流入境界データを入力する。流入境界データは、地図データをもとに地表付近の凹凸による自然風の乱れを再現した値とし、経時的に変化する値とする。そして、空間分布について所定の格子間隔で解析を行い、風情報の計算結果を取得する。計算データは、CFDの計算に用いた流入風条件及び高さ情報と、風情報の計算結果を含む。高さ情報は、空間分布における建物の高さ及び地形の起伏による高さを含む情報である。ここで、建物の高さについては学習時には、既存の地図データの情報等を参照すればよい。なお、後述の予測対象の計画建物については、学習時には未知データであり、含まれない。
【0015】
なお、計算においては、風速及び風圧のそれぞれに対応する風向パターンが含まれるように、複数回の計算を行う。地表面の風速予測を目的とした場合については、少なくとも16風向のパターンが含まれるように計算を行う。建物表面の風圧予測を目的とした場合については、少なくとも72風向のパターンが含まれるように計算を行う。風圧の72風向のうち、風速の16風向のパターンの一部と共通する風向については省略してよい。前処理部110では、これらのそれぞれの風向に対応した計算を行った計算結果を、教師データセットに組み込むようにする。
【0016】
また、計算結果にはCFDで計算できる様々な風情報を含めることができる。例えば、計算結果に、街区の領域内の建物の屋外面の風圧値及び風荷重値の分布を含める。また、計算結果には、空間分布のアウトプットとして、街区の地表付近における風速値の分布及び風圧分布を含めてもよく、風圧分布は時刻歴又は平均値を含むようにしてもよい。
【0017】
計算データの分割による教師データセットの作成について説明する。前処理部110は、ニューラルネットワークモデル(NNモデル)に入力するために、計算データを所定の区画ごとに分割した教師データセットを作成する。分割単位の区画は、上述した数百m四方の数街区規模が一例である。ここで、流入風条件を示す画像ファイル及び高さ情報を示す画像ファイルも同様の分割単位で分割される。
図3は、流入風条件を示す画像ファイル及び高さ情報を示す画像ファイルの一例を示す図である。(b1)が流入風条件を示す画像ファイル、(b2)が高さ情報を示す画像ファイルである。ここで、流入風条件を示す画像ファイルでは、風向は表現されておらず、分割単位の各ピクセルにおける風速値がスカラで表現されている点が、本実施形態の手法の特徴の一つである。(b1)の例では、左側のY方向の風速値により、X方向及びY方向を含む分割単位の領域全体の風速値を表している。なお、左側は任意の風向の方位に対応してればよい。また、左側の配置は一例であり、右側、上側、下側を任意に設定してもよい。つまり、学習又は予測をさせたい対象街区について風向ごとの入力条件を用意するのではなく、風向は固定(ひとつの風向の入力条件のみ)として対象街区を適宜回転させることで複数の風向条件による学習及び予測を行う。なお、対象街区の回転は、学習及び予測において、区画ごとに分割された高さ情報を回転させればよい。回転させるパターンは上述の風向パターンである。このように、前処理部110は、風速及び風圧のそれぞれに対応する所定の風向パターンについて、風向パターンの風向に応じて計画建物の高さを含む前記高さ情報を回転させて、建物に関する風情報及び街区に関する風情報の計算を行い、計算結果を求める。風速値及び高さ情報を示すスカラの表現が本開示の色情報の一例である。
【0018】
学習部112は、教師データセットを用いて、ニューラルネットワークを用いたモデルの機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。モデル学習は、分割した単位を入出力の各情報の画像ファイルの単位とする。教師データセットのうち、ニューラルネットワークの入力に流入風条件を示す画像ファイル及び建物の高さ情報を示す画像ファイルを用いて、ニューラルネットワークの出力に風情報の計算結果の画像ファイルを用いる。生成した学習済みモデルはモデル記憶部102に格納し、適宜、予測部114が読み出して予測処理を実行する。
【0019】
図4は、モデルの学習の流れを示す概略図である。(b3)の正解値は風情報の計算結果である。(b1)及び(b2)の入力に対して、(b3)の正解値にモデル出力が近づくようにニューラルネットワークの誤差計算を行ってモデルパラメータを更新することによりモデルを学習し、条件(回数又は閾値等)を満たすまで更新を繰り返して、学習済みモデルを生成する。
【0020】
予測部114は、計画建物を含む街区における流入風条件と、計画建物の高さを含む高さ情報とを、学習済みモデルに入力し、学習済みモデルの出力により計画建物に関する風情報を予測する。ここで、予測部114は、計画建物に関する風情報として、建物に関する風情報、及び街区に関する風情報を予測する。建物に関する風情報の一例は、街区の領域内の建物の屋外面の風圧値及び風荷重値の分布である。街区に関する風情報の一例は、街区の地表付近における風速値の分布及び風圧分布である。また、予測においては、風速及び風圧のそれぞれに対応する所定の風向パターンについて、風向パターンの風向に応じて計画建物の高さを含む高さ情報を回転させて、学習済みモデルに入力し、風向パターンごとに、風情報を予測する。
【0021】
次に、本発明の実施形態の作用について説明する。
図5は、予測システム100における学習処理を示すフローチャートである。
図6は、予測システム100における予測処理を示すフローチャートである。予測システム100のCPU、GPGPU又はアクセラレータの演算ユニットがROMからプログラム及び各種データを読み出して実行することにより、演算ユニットが、予測システム100の各部としての処理を実行する。なお、学習処理及び予測処理を一体として実行してもよい。
【0022】
学習処理を説明する。ステップS100では、前処理部110が、CFDを用いて、空間分布における風速及び風圧の風情報の非定常計算を多数行うことで、計算データを作成する。
【0023】
ステップS102では、前処理部110が、ニューラルネットワークモデル(NNモデル)に入力するために、計算データを所定の区画ごとに分割した教師データセットを作成する。
【0024】
ステップS104では、学習部112が、教師データセットを用いて、ニューラルネットワークを用いたモデルの機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。学習済みモデルをモデル記憶部102に格納する。
【0025】
予測処理を説明する。ステップS110では、予測部114が、計画建物を含む街区における流入風条件と、計画建物の高さを含む高さ情報とを取得する。
【0026】
ステップS112では、予測部114が、取得した計画建物を含む街区における流入風条件と、計画建物の高さを含む高さ情報とを、学習済みモデルに入力し、学習済みモデルの出力により計画建物に関する風情報を予測する。
【0027】
ステップS114では、予測部114が、計画建物に関する風情報の予測結果を予め定めた表示インターフェース等に出力する。
【0028】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る予測システム100によれば、任意の街区における風情報の空間分布の予測を可能とする。
【0029】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0030】
本実施形態の手法には次のような様々なメリットがある。例えば、本実施形態の手法は、予測において物理モデルを用いないことから、計算コスト、計算時間が格段に小さい点が挙げられる。また、CFDを用いて計算した風情報の計算結果を用いてモデルを学習することで、様々な周辺街区形状、建物形状での風速、風圧を予測できる点が挙げられる。また、非定常の計算結果を学習データに用いることで、風速、風圧のピーク値を予測することができ、活用範囲が広い点が挙げられる。その他、計画建物(建築現場の各作業所)のピンポイント予報が可能になり、強風が予測された場合には事前の対策を行うことで災害の低減につながる。また、予測された風圧を耐風設計に活用することで、合理的な設計が可能となり、コスト低減につながる。また、短時間で風速、風圧を予測することができるため、建物の形状変更などにも迅速に対応できる。また、時間的及び予算的制約を取り払い、基本設計段階で多数のデザインを検討でき、建築設計の表現力を最大化できる。
【符号の説明】
【0031】
100 予測システム
102 モデル記憶部
110 前処理部
112 学習部
114 予測部