(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002182
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】エアロゲルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
C01B33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102163
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】517005020
【氏名又は名称】ティエムファクトリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 昇
(72)【発明者】
【氏名】上柿 梓
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072BB09
4G072CC08
4G072GG04
4G072HH30
4G072JJ38
4G072JJ42
4G072JJ47
4G072MM08
4G072MM23
4G072MM31
4G072PP17
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT30
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】特に、可視光照射時の全光線透過率のパラメータの適正化を図ることによって、比較的大面積(具体的には、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさ)であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】エアロゲルは、網目状に連続した繊維状の骨格と、骨格によって画定される複数の細孔とで形成される細孔構造を有し、Siを含有するものであり、エアロゲルは、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさの表面を少なくとも有し、かつ、この表面領域に、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目状に連続した繊維状の骨格と、前記骨格によって画定される複数の細孔とで形成される細孔構造を有し、Siを含有するエアロゲルであって、
前記エアロゲルは、
300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさの表面を少なくとも有し、かつ
前記表面領域に550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下である、エアロゲル。
【請求項2】
前記可視光を照射したときの全光線透過率が、10mm厚換算で50%以上である、請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項3】
常圧乾燥によって生成される、請求項1または2に記載のエアロゲル。
【請求項4】
水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾルを生成させるゾル生成工程と、
前記ゾルを注型皿に注入し、前記注型皿内で前記ゾルを架橋反応させてゲルを生成するとともに養生するゲル化工程と、
前記注型皿内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、前記ゲルの表面及び内部に存在する内在溶媒を、前記第1溶媒で洗浄および置換する溶媒洗浄置換工程と、
前記第1溶媒よりも比重が大きくかつ前記第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、前記注型皿内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲルを生成する乾燥工程とを含むエアロゲルの製造方法であって、
前記ゲル化工程、前記溶媒洗浄置換工程および前記乾燥工程のうち少なくとも1つの工程は、前記注型皿内で生成した前記ゾルまたは前記ゲルを、前記注型皿で保持された状態で、前記注型皿の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させながら行う、エアロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記ゲル化工程から前記乾燥工程までの各工程は、同一の反応チャンバ内で行なう、請求項4に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項6】
前記ゲル化工程から前記乾燥工程までの各工程のうち、少なくとも前記ゲル化工程および前記乾燥工程は、別個の反応チャンバ内で行なう、請求項4に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項7】
前記ゲル化工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度を、飽和水蒸気圧に対して60%以上100%以下の範囲に調整して行なう、請求項5または6に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気に含まれる前記溶媒の蒸気濃度を、70%以上100%未満の範囲に調整して行なう、請求項5または6に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気を常圧にして行なう、請求項5または6に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項10】
水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによって生成したゾルを架橋反応させてゲルを生成するとともに養生する注型皿と、
前記注型皿に前記ゾルを注入する注型手段と、
前記注型皿内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、前記ゲルの表面及び内部に存在する内在溶媒を、前記第1溶媒で洗浄および置換する第1溶媒供給手段と、
前記第1溶媒よりも比重が大きくかつ前記第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、前記注型皿内に供給する第2溶媒供給手段と、
前記第2溶媒が前記注型皿内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲルを生成する乾燥手段と、
前記注型皿内で形成した前記ゾルまたは前記ゲルを、前記注型皿で保持された状態で、前記注型皿の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させる揺動機構と、を有する、エアロゲルの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、メソスケールの均一な多孔質構造を有するとともに、高気孔率(典型的には90%以上)で嵩密度が小さく(0.004~0.500g/cm3)、熱伝導率がきわめて低い(20mW/mK以下)性質を有する材料であり、典型的にはゾル-ゲル法によって作製される。その中でも、Siを含有するエアロゲルであるシリカエアロゲルは、低い熱伝導率によって得られる高断熱性に加えて、高い可視光透過性を兼ね備えており、住宅窓(高断熱の複層窓では、典型的には可視光透過率が60%程度である)やディスプレイなどに適用可能な透明断熱材としての応用が期待されている。
【0003】
シリカエアロゲルは、水などを溶媒とするシラン化合物の単量体溶液を加水分解することによってゾルを生成し、そのゾルを架橋反応(縮合反応)させることによってゲル(縮合化合物)を形成した後、ゲルを乾燥させることによって製造される。しかし、シリカエアロゲルは、その高い気孔率と、ナノメートルオーダーのドメイン(典型的には100nm以下)で構成された微細構造による希薄な構造のために、非常に脆く、製造時の取り扱いも難しい材料であった。また、シリカエアロゲルは、大判のものを得るために、高温および高圧の超臨界流体を用いた超臨界乾燥法によってゲルを乾燥させる必要があり、その製造に高額の装置を要するものであった。
【0004】
そのため、細孔構造を構成する骨格に柔軟性を付与することで、乾燥工程における収縮変形や回復変形による破断を回避し、それにより製造コストの低い常圧での乾燥を可能にする手法が提案されている。例えば、特許文献1には、ゾルを生成させる反応とゾルをゲル化させる反応を一段階で行わせることにより、骨格構造が均一になるよう制御して可視光散乱を抑制することで、透明なシリカエアロゲルを常圧での乾燥によって得る手法が記載されている。また、非特許文献1には、細孔構造を有機-無機ハイブリッド化することで、常圧での乾燥によってシリカエアロゲルを得る手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Kanamori, M. Aizawa, K. Nakanishi, T. Hanada, Adv. Mater., 19, 1589-1593 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および非特許文献1に記載のシリカエアロゲルの製造方法では、ゲルを乾燥させる際、ゲルの内部に存在していた内在溶媒がゲル外に排出されるのに伴って、毛細管力によってゲルの体積が20%以下にまで収縮する。しかし、ゲルの内部に存在していた内在溶媒がある程度ゲル外に排出されると、ゲルの細孔内に気体が入り込むことで、ゲルの体積が収縮前とほぼ同じ体積に復元している。
【0008】
ここで、ゲルの体積が収縮する際に、ゲルの形状が収縮前の形状の相似形でなくなると、変形による曲げ応力がゲルに生じることでゲルが破断するため、所望の形状および大きさのエアロゲルを得ることは困難であった。
【0009】
また、ゲルを乾燥させる際に、収縮したゲルの表面及び内部に残留している溶媒のゲル外への排出が不均一になると、ゲルの体積を復元させる際に、ゲルに残留していた溶媒に起因して、変形による曲げ応力がゲルに生じることでゲルが破断するため、所望の形状および大きさのエアロゲルを得ることは困難であった。
【0010】
特に、寸法が300mm四方以上の大型のシリカエアロゲルを得るために、大型のゲルを収縮させる場合、寸法の増加にともなって変形による曲げ応力が大きくなるばかりでなく、ゾルを鋳型に注入した後の各部位における温度分布、さらには温度分布により生じる物質流によって、各部位の重縮合の条件に差異が生じ易くなるため、細孔構造に不均一性が生じ易くなっていた。その結果、ゲルを乾燥させる際の体積の収縮によって、不均一な細孔サイズに起因した不均一な毛細管力が発生することでゲルが破断するため、常圧での乾燥を用いてシリカエアロゲルを高い歩留まりで製造することは、実質的に不可能であった。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、特に、可視光照射時の全光線透過率のパラメータの適正化を図ることによって、比較的大面積(具体的には、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさ)であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
【0013】
(1)網目状に連続した繊維状の骨格と、前記骨格によって画定される複数の細孔とで形成される細孔構造を有し、Siを含有するエアロゲルであって、前記エアロゲルは、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさの表面を少なくとも有し、かつ前記表面領域に、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下である、エアロゲル。
【0014】
(2)前記可視光を照射したときの全光線透過率が、10mm厚換算で50%以上である、上記(1)に記載のエアロゲル。
【0015】
(3)常圧乾燥によって生成される、上記(1)または(2)に記載のエアロゲル。
【0016】
(4)水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾルを生成させるゾル生成工程と、前記ゾルを注型皿に注入し、前記注型皿内で前記ゾルを架橋反応させてゲルを生成するとともに養生するゲル化工程と、前記注型皿内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、前記ゲルの表面及び内部に存在する内在溶媒を、前記第1溶媒で洗浄および置換する溶媒洗浄置換工程と、前記第1溶媒よりも比重が大きくかつ前記第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、前記注型皿内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲルを生成する乾燥工程とを含むエアロゲルの製造方法であって、前記ゲル化工程、前記溶媒洗浄置換工程および前記乾燥工程のうち少なくとも1つの工程は、前記注型皿内で生成した前記ゾルまたは前記ゲルを、前記注型皿で保持された状態で、前記注型皿の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させながら行う、エアロゲルの製造方法。
【0017】
(5)前記ゲル化工程から前記乾燥工程までの各工程は、同一の反応チャンバ内で行なう、上記(4)に記載のエアロゲルの製造方法。
【0018】
(6)前記ゲル化工程から前記乾燥工程までの各工程のうち、少なくとも前記ゲル化工程および前記乾燥工程は、別個の反応チャンバ内で行なう、上記(4)に記載のエアロゲルの製造方法。
【0019】
(7)前記ゲル化工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度を、飽和水蒸気圧に対して60%以上100%以下の範囲に調整して行なう、上記(5)または(6)に記載のエアロゲルの製造方法。
【0020】
(8)前記乾燥工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気に含まれる前記溶媒の蒸気濃度を、70%以上100%未満の範囲に調整して行なう、上記(5)から(7)のいずれか1項に記載のエアロゲルの製造方法。
【0021】
(9)前記乾燥工程は、前記反応チャンバ内の雰囲気を常圧にして行なう、上記(5)から(8)のいずれか1項に記載のエアロゲルの製造方法。
【0022】
(10)水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによって生成したゾルを架橋反応させてゲルを生成するとともに養生する注型皿と、前記注型皿に前記ゾルを注入する注型手段と、前記注型皿内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、前記ゲルの表面及び内部に存在する内在溶媒を、前記第1溶媒で洗浄および置換する第1溶媒供給手段と、前記第1溶媒よりも比重が大きくかつ前記第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、前記注型皿内に供給する第2溶媒供給手段と、前記第2溶媒が前記注型皿内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲルを生成する乾燥手段と、前記注型皿内で形成した前記ゾルまたは前記ゲルを、前記注型皿で保持された状態で、前記注型皿の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させる揺動機構と、を有する、エアロゲルの製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特に、可視光照射時の全光線透過率のパラメータの適正化を図ることによって、比較的大面積(具体的には、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさ)であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明のエアロゲルについて、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差を横軸に、エアロゲルの破断確率を縦軸にしたときの、全光線透過率の標準偏差と破断確率の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明に従うエアロゲルの製造方法の各工程を行なう順番を示したフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明に従うエアロゲルの製造方法の各工程のうち、溶媒洗浄置換工程までの工程におけるゾルおよびゲルの状態を示す概念図であり、
図3(a)はゲル化工程においてゾルを注型皿に注入した際のゾルおよび注型皿の状態を示す概念図であり、
図3(b)はゲル化工程を行なった後のゲルおよび注型皿の状態を示す概念図であり、
図3(c)は溶媒洗浄置換工程において反応チャンバ内にある複数の注型皿を、第1溶媒によって構成される第1液相に浸漬した状態を示す概念図であり、
図3(d)は溶媒洗浄置換工程において反応チャンバ内にある注型皿に保持されていない第1溶媒を排出した後の状態を示す概念図である。
【
図4】
図4は、本発明に従うエアロゲルの製造方法の各工程のうち、乾燥工程におけるゲルの状態を示す概念図であり、
図4(a)は反応チャンバ内にあるすべての注型皿に保持されたゲルを第2液相に浸漬した状態を示す概念図であり、
図4(b)は乾燥工程において反応チャンバ内にある第1溶媒および余剰の第2溶媒を排出して複数の注型皿内に第2溶媒が供給された状態を示す概念図であり、
図4(c)は乾燥工程において乾燥終了したエアロゲルが第2液相の界面上に浮上した状態を示す概念図である。
【
図5】
図5は、本発明に従うエアロゲルの製造方法に用いられる反応装置の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明例および比較例のエアロゲルのそれぞれについて、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
[エアロゲルの構成について]
本発明のエアロゲルは、網目状に連続した繊維状の骨格と、この骨格によって画定される複数の細孔とで形成される細孔構造を有し、Siを含有するエアロゲルであって、エアロゲルは、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさの表面を少なくとも有し、かつ、この表面領域に、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下である。
【0027】
本発明者らは、Siを含有するエアロゲルの正方形の表面領域に可視光を照射したときの、正方形の表面領域の中心位置、正方形の表面領域の角の位置、および、正方形の表面領域の辺の中央位置の3点における光線透過率の標準偏差に着目し、ゾルを架橋反応させてゲルを形成するゲル化工程と、ゲルを乾燥させる乾燥工程のうち一方または両方の工程において、注型皿内で形成したゾルまたはゲルを、注型皿で保持された状態で、注型皿の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させながら行なうことで、比較的大面積であっても、可視光をエアロゲルに照射したときの全光線透過率のばらつきを小さくできることを見出した。このとき、可視光照射時の全光線透過率のパラメータの適正化を図ること、より具体的に、エアロゲルに550nmの波長をもつ可視光を照射したときの、全光線透過率の標準偏差(以下、単に「全光線透過率の標準偏差」という場合がある。)を、10mm厚換算で0.60%以下にすることで、比較的大面積(具体的には、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさ)であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを製造することが可能である。
【0028】
本明細書において、エアロゲルに「クラック等の欠陥が存在しない」とは、エアロゲルを目視したときにクラック等の欠陥が見られないことを意味し、より具体的には、長さ100μm以上のクラックや100μm以上のピンホールなどの欠陥がないことを意味する。
【0029】
図1は、本発明のエアロゲルについて、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差を横軸に、エアロゲルの破断確率を縦軸にしたときの、全光線透過率の標準偏差と破断確率の関係を示すグラフである。
図1では、全光線透過率の標準偏差を変化させたときに、エアロゲルが破断した例を「破断確率=1」でプロットし、エアロゲルが破断しなかった例を「破断確率=0」でプロットした。次いで、これらのプロットから、全光線透過率の標準偏差(%)を説明変数とし、かつ破断有無を目的変数としてロジスティック回帰曲線を求め、
図1のグラフに実線で記載した。このとき、エアロゲルの全光線透過率の標準偏差が10mm厚換算で0.65%以下であるときに、破断確率は0.5を下回り、エアロゲルの全光線透過率の標準偏差が10mm厚換算で0.60%以下であるときに、エアロゲルが破断した例が見られなくなった。さらに、エアロゲルの全光線透過率の標準偏差が10mm厚換算で0.50%以下であるときに、ロジスティック回帰曲線においても破断確率がほぼ0になった。したがって、エアロゲルの全光線透過率の標準偏差は、10mm厚換算で、0.60%以下であることが好ましく、0.50%以下であることがより好ましい。このことは、全光線透過率の標準偏差を説明変数とし、かつ破断有無を目的変数としてロジスティック回帰曲線を行なったときの、破断確率50%となる説明変数の閾値が、
図1にあるように、0.60%より大きい値であることからも明らかである。
【0030】
以下において、本発明のエアロゲルの具体的な構成について説明する。
【0031】
ここで、本発明のエアロゲルは、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさの表面を少なくとも有する。このような表面の寸法が大きいエアロゲルでは、特に表面の外側において、収縮および復元の際の曲げ応力が大きくなる傾向にある。その場合であっても、可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差を小さくすることができ、それにより、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを得ることができる。したがって、エアロゲルを、建築用の断熱材のような大面積を必要とする用途に、好ましく用いることができる。
【0032】
また、本発明のエアロゲルは、表面のうち300mm四方の正方形の表面領域に、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下である。ここで、300mm四方の正方形の表面領域は、例えばエアロゲルの中心(重心)と重なる位置にある300mm四方の正方形によって抽出することができる。また、表面領域における全光線透過率の測定箇所は、特に限定されないが、例えば乾燥時におけるエアロゲルの破断し易さを評価する観点から、300mm四方の正方形の表面領域の中から、中心および外周を含む複数箇所(特に、正方形の中心位置、正方形の角の位置、および、正方形の辺の中央位置(正方形の隣り合う角を結ぶ辺の中心位置の3点))を設定してもよい。
【0033】
これに関し、工業製品として最も一般的な形状である正方形のエアロゲルでは、細孔構造が他の位置(典型的には正方形の中心位置)に対して不均一になる位置は、エアロゲルの正方形の角の位置と、正方形の辺の中央位置にあることが多い。また、正方形の角の位置と、正方形の辺の中央位置とでは、製造条件(チャンバの形状、ゲルの並べ方、ゲルへの温度の伝え方、攪拌方法など)によって、正方形の中心位置を基準とした全光線透過率のばらつきが、異なる形で現れることが多い。そのため、正方形の中心位置と、正方形の角の位置と、正方形の辺の中央位置の3点における全光線透過率の標準偏差を取るとともに、これら3点の標準偏差を小さくすることで、ゲルを乾燥させる際のエアロゲルの破断を起こり難くすることができる。したがって、全光線透過率のこれら3点の標準偏差が小さいエアロゲルによることで、比較的大面積であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを提供することができる。
【0034】
なお、全光線透過率の標準偏差は、すべての測定箇所について得られる全光線透過率を、それぞれ10mm厚の数値に換算したときの値を母集団としたときの標準偏差である。
【0035】
このように、可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差を、10mm厚換算で0.60%以下にすることで、エアロゲルの細孔構造に含まれる網目状に連続した繊維状の骨格が、表面の面方向に沿って略均一に配されることで、エアロゲルが高い均質性を有するとともに、その前駆体であるゲルも高い均質性を有する。例えば、常圧乾燥を用いてエアロゲルを製造する場合、ゲルの常圧乾燥においてゲルの体積を収縮させる際や、その後にゲルの体積を復元してエアロゲルを得る際に、相似形を維持したままゲルの形状を収縮および復元することができ、それにより変形による曲げ応力がゲルに生じにくい。そのため、本発明のエアロゲルは、比較的大面積であっても、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有することができる。
【0036】
さらに、本発明のエアロゲルは、表面のうち300mm四方の正方形の表面領域に、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率が、10mm厚換算で50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。これにより、エアロゲルにおいて可視光を吸収または反射させる要素が減少することで、曲げ応力を生じる原因となる不均質な部分が表れやすくなるため、変形による曲げ応力をより一層生じ難くすることができる。
【0037】
本発明のエアロゲルの大きさは、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさである。そのため、本発明のエアロゲルは、表面を平面視したときに、縦方向および横方向の大きさが、いずれも300mm以上である。他方で、本発明のエアロゲルの大きさの上限は、特に限定されないが、表面を平面視したときに、縦方向および横方向の大きさのうち一方または両方が、5000mmまたは3000mmであってもよい。
【0038】
本発明のエアロゲルの厚さは、特に限定されるものではないが、平均厚みを例えば1mm以上30mm以下の範囲にすることができる。ここで、エアロゲルは、注型皿でのゲルの収縮および復元を行ないやすくする観点から、板状であり、特に両面が平面によって構成されていることが好ましく、その際のエアロゲルの厚さは均一であることが好ましい。
【0039】
本発明のエアロゲルは、網目状に連続した繊維状の骨格と、骨格によって画定される複数の細孔とで形成される、Si含有の微細構造を有する。
【0040】
ここで、エアロゲルの微細構造は、ケイ素原子を分子内に含んだ微細構造であり、その一例として、ポリシルセスキオキサン系などの微細構造を挙げることができる。このうち、ポリシルセスキオキサン系の微細構造は、ケイ素アルコキシドの加水分解および重縮合反応によって形成することができる。特に、ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ、MeSiO1.5)エアロゲルは、透明なエアロゲルを形成することが可能であり、メチルトリアルコキシシラン(MeSi(OR)3)の加水分解および重縮合反応と、相分離抑制剤としての界面活性剤の組み合わせによって形成することができる。PMSQエアロゲルを形成する際の加水分解および重縮合反応としては、例えば、以下の式(I)に示される酸触媒による加水分解反応と、式(II)に示される塩基性触媒による重縮合反応を挙げることができる。
MeSi(OR)3+3H2O → MeSi(OH)3+3ROH :式(I)
MeSi(OH)3 → MeSiO1.5+1.5H2O :式(II)
【0041】
また、エアロゲルの微細構造は、網目状に連続した繊維状の骨格を有する。これにより、繊維状の骨格によって複数の微細な細孔が形成されることで、エアロゲルの密度が小さくなるため、エアロゲルの熱伝導率を小さくして断熱性を向上させることができる。
【0042】
ここで、エアロゲルの微細構造が有する複数の細孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば5nm以上100nm以下の範囲にすることができる。ここで、細孔の平均孔径は、細孔をチューブで近似し、チューブの内径を円で近似したときの平均内径とすることができる。なお、細孔の平均内径の下限に関しては、5nm以上、7nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上または50nm以上としてもよい。また、細孔の平均内径の上限に関しては、100nm以下、90nm以下、80nm以下または70nm以下としてもよい。上記細孔の平均孔径は、空気を構成する元素分子の大気圧における平均自由行程(MFP)以下の寸法となっているため、大気圧の空気中においたエアロゲルは、細孔の内部に空気が入り込んだ状態になる。
【0043】
また、エアロゲルの気孔率、すなわちエアロゲル全体の体積に占める貫通孔(細孔)の孔体積の割合は、特に限定されないが、70%以上であることが好ましい。特に、エアロゲル全体の体積に占める、貫通孔(細孔)の孔体積の割合気孔率は、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上であってもよい。本発明のエアロゲルは、このように気孔率が高い場合であっても、常圧での乾燥を用いて得ることができる。
【0044】
また、エアロゲルの密度は、例えば0.15g/cm3以下と低くすることができる。ここで、エアロゲルの密度は、例えば水銀圧入法により求められる数値を用いることができる。エアロゲルは、密度が低いほど熱伝導率が小さくなり、それに伴って、断熱性が向上する。本発明のエアロゲルは、密度を0.15g/cm3以下にしても破断し難く、このときの熱伝導率は0.01W/m・K~0.02W/m・K程度と小さくなる。
【0045】
また、本発明のエアロゲルは、上述した構成以外に、機能性付与、外観向上、装飾性付与などを意図して他の成分を含むことができる。例えば、帯電防止剤、潤滑剤、無機顔料、有機顔料、無機染料、有機染料などを含んでもよい。また、本発明のエアロゲルは、製造上不可避成分として、水、有機溶剤、界面活性剤、触媒およびこれらの分解物を含んでもよい。また、本発明のエアロゲルは、製造上不可避成分として、製造空間や製造装置から混入する塵埃を含んでもよい。
【0046】
[エアロゲルの製造方法の構成について]
上述したエアロゲルを得ることが可能な、製造方法の一例として、以下の方法を挙げることができる。
【0047】
図2は、本発明に従うエアロゲル1の製造方法の各工程を行なう順番を示したフローチャートである。
図3は、本発明に従うエアロゲル1の製造方法の各工程のうち、溶媒洗浄置換工程S3までの工程におけるゾル11およびゲル12の状態を示す概念図であり、
図3(a)はゲル化工程S2においてゾル11を注型皿3に注入した際のゾル11および注型皿3の状態を示す概念図であり、
図3(b)はゲル化工程S2を行なった後のゲル12および注型皿3の状態を示す概念図であり、
図3(c)は溶媒洗浄置換工程S3において反応チャンバ2内にある複数の注型皿3を、第1溶媒によって構成される第1液相L1に浸漬した状態を示す概念図であり、
図3(d)は溶媒洗浄置換工程S3において反応チャンバ2内にある注型皿3に保持されていない第1溶媒を排出した後の状態を示す概念図である。また、
図4は、本発明に従うエアロゲル1の製造方法の各工程のうち、溶媒洗浄置換工程S3以降の工程におけるゾル11およびゲル12の状態を示す概念図であり、
図4(a)は溶媒洗浄置換工程S3において反応チャンバ2内にある複数の注型皿3を、第2溶媒によって構成される第2液相L2に浸漬した状態を示す概念図であり、
図4(b)は溶媒洗浄置換工程S3において反応チャンバ2内にある第1溶媒および余剰の第2溶媒を排出して複数の注型皿3内に第2溶媒が供給された状態を示す概念図であり、
図4(c)は乾燥工程S4において乾燥終了したエアロゲル1が第2液相L2の界面上に浮上した状態を示す概念図である。
【0048】
図2~
図4に示すように、本発明のエアロゲル1の製造方法は、水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾル11を生成させるゾル生成工程S1と、ゾル11を注型皿3に注入し、注型皿3内でゾル11を架橋反応させてゲル(湿潤ゲル)12を形成するとともに養生するゲル化工程S2と、ゲル12が形成された注型皿3内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、ゲル12の表面及び内部に存在する内在溶媒を、第1溶媒で洗浄および置換する溶媒洗浄置換工程S3と、第1溶媒よりも比重が大きくかつ第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、注型皿3内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲル1を形成する乾燥工程S4とを含み、ゲル化工程S2、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4のうち少なくとも1つの工程は、注型皿3内で形成したゾル11またはゲル12を、注型皿3で保持された状態で、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させながら行う。
【0049】
本発明のエアロゲル1の製造方法では、ゲル化工程S2、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4のうち少なくとも1つの工程において、注型皿3内で形成したゾル11またはゲル12を、注型皿3で保持された状態で、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることで、ゾル11またはゲル12に接している雰囲気が、揺動によって全体的にゾル11またはゲル12に対して相対的に流れるため、ゾル11またはゲル12の周囲の環境(雰囲気の温度や構成成分濃度、流速)の均一性を高めることができる。その結果、ゲル化工程S2や乾燥工程S4を行なった後のゾル11やゲル12の均質性を高めることができ、ひいてはエアロゲル1の均質性も高めることができる。したがって、可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差の小さいエアロゲル1を得ることができる。
【0050】
これに関し、ゾル11またはゲル12の周囲の環境を均一にする手段としては、環境を構成する流体(気体・液体)に駆動力を与えて攪拌する方法が一般的である。しかし、環境を構成する流体に駆動力を与える場合、駆動力を印加する印加点からの距離や、空間の形状によって駆動力は著しく減衰するため、駆動力をゾル11またはゲル12の周囲の環境の全体に均一に伝搬させることはできない。この点、本発明のエアロゲル1の製造方法では、環境を構成する流体ではなく、ゾル11またはゲル12を注型皿3に保持された状態で揺動させることで、ゾル11またはゲル12の全体をそのままの状態で揺動させることができるため、ゾル11またはゲル12の周囲の環境を均一にすることができる。
【0051】
このとき、特にゲル12は高い脆性を有するため、ゲル12の厚さ方向を含めたランダムな方向に激しく揺動させることは望ましくない。その場合であっても、ゲル12が注型皿3で保持された二次元形状(板状)であることを利用して、注型皿3の底面31と平行になる面に沿って、ゲル12が保持された注型皿3を揺動させることで、比較的激しく揺動してもゲル12を破断し難くすることができる。
【0052】
ここで、ゾル11またはゲル12が保持された注型皿3の揺動は、反応チャンバ2などの限られた空間内で完結することが望ましく、かつ継続して行なうことが望ましいため、回転運動であることが好ましい。その一例として、後述する
図5に示すように、注型皿3(または、注型皿3が保持された注型皿ホルダ30)を、ゾル11またはゲル12の表面(注型皿3の底面31)が水平になるように反応チャンバ2に配置するとともに、反応チャンバ2の高さ方向Yを軸(中心軸M)にして、反応チャンバ2を右回りと左回りを交互に繰り返して回転させることで、ゾル11またはゲル12が保持された注型皿3を、注型皿3の底面31と平行な横揺れ方向に揺動させることができる。
【0053】
また、一定方向に沿った回転運動で横揺れ方向に揺動させた場合、ゾル11またはゲル12の周囲の環境を構成する流体が、ゾル11またはゲル12との摩擦抵抗によって回転運動に同調して流れるため、ゾル11やゲル12に対する揺動の相対速度が減衰するおそれがある。そこで、これを抑制する観点では、注型皿3の揺動速度を、少なくともいずれかの方向について変化させることが好ましい。これにより、ゾル11またはゲル12の表面に接する環境の均一性を高めることができるとともに、特に同一の装置で複数の注型皿3を揺動させる場合には、異なる注型皿3に保持されたゾル11またはゲル12に接する環境の均一性も高めることができる。このとき、注型皿3の揺動速度を変化させる際に、揺動方向を逆方向に反転させてもよいが、特に注型皿3の揺動が回転運動による場合は、注型皿3の揺動方向を変えずに速度のみを変化させてもよい。また、注型皿3の揺動速度は一時的にゼロに変化させてもよく、それにより注型皿3の揺動を断続的なものにしてもよい。また、揺動速度の変化は、一定周期で行なってもよく、不定期に行なってもよい。
【0054】
ゾル11またはゲル12が保持されている注型皿3の中心を回転中心にした回転運動で、注型皿3を横揺れ方向に揺動させた場合、ゾル11またはゲル12とその周囲の環境を構成する流体との相対速度は、回転中心からの距離に依存するため、回転中心の近傍では揺動が不十分になるおそれがある。そこで、ゾル11またはゲル12の周囲の環境の均一性をさらに高める観点では、注型皿3を揺動させる際の運動を複雑化することが好ましい。その一例として、注型皿3が保持された注型皿ホルダ30を、ゾル11またはゲル12の表面の面方向に沿って遊星運動させることで、注型皿3を揺動させてもよい。このように、注型皿3の揺動方向および揺動速度を常に変化させることで、注型皿3に保持されたゾル11またはゲル12に接する環境の均一性を、より一層高めることができる。その中でも、注型皿3に保持されたゾル11またはゲル12に接する環境の均一性をさらに高める観点では、注型皿ホルダ30を遊星運動させる際に、運動方向を逆方向に変える操作を繰り返し行なうことが好ましい。
【0055】
ここで、注型皿ホルダ30は、
図3に示すように、複数の注型皿3を、得られるエアロゲル1の厚さ方向に沿って複数枚を並べるように配置してもよい。これにより、注型皿ホルダ30のエアロゲル1の面方向に沿った面積を小さくすることができるため、ゾル11またはゲル12が保持された注型皿3の揺動を行ないやすくすることができる。
【0056】
本発明のエアロゲル1の製造方法で用いられる製造装置は、ゲル化工程S2から乾燥工程S4までの各工程を、同一の反応チャンバ2内で行なうものであることが好ましい。これにより、ゾル生成工程S1、ゲル化工程S2、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4の各工程間において、反応チャンバ2を開放する必要がなくなるため、同じゾル11またはゲル12の中で、反応チャンバ2を開放する際の急激な環境変化に追随するまでの時間差による、ゾル11やゲル12の不均質化を抑制することができる。また、ゾル生成工程S1、ゲル化工程S2、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4の各工程の装置間で、ゾル11やゲル12を移動させる必要がなくなるため、特にゲル12を移動させる際のゲル12の破断を防ぐことができる。
【0057】
他方で、本発明のエアロゲル1の製造方法で用いられる製造装置は、ゲル化工程S2から乾燥工程S4までの各工程のうち、少なくともゲル化工程S2および乾燥工程S4は、別個の反応チャンバ内で行なうものであってもよい。これにより、エアロゲル1の製造工程の中で時間のかかるゲル化工程S2および乾燥工程S4を分けて行なうことができるため、より効率よくエアロゲル1を製造することができる。この場合であっても、ゲルの急激な乾燥による破損を防ぐ観点では、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4は、同一の反応チャンバ内で行なうことが好ましい。
【0058】
以下において、本発明のエアロゲル1の製造方法の各工程について説明する。
【0059】
[ゾル生成工程S1]
このうち、ゾル生成工程S1は、水溶液に少なくともシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾル11を生成させる工程である。本発明のエアロゲル1を製造するためのゾル11は、シロキサン結合を含み、所定の水溶液中に、シリコン化合物(主原料)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合することで、シリコン化合物の加水分解によって生成することができる。
【0060】
原料であるシリコン化合物としては、シラン化合物を挙げることができ、より具体的には、2官能シラン化合物、3官能シラン化合物および4官能シラン化合物のうち、少なくともいずれかを挙げることができる。
【0061】
ここで、2官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が2個であるシラン化合物のことであり、3官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が3個であるシラン化合物のことであり、そして、4官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が4個であるシラン化合物のことである。
【0062】
2官能シラン化合物としては、例えばジアルコキシシラン、ジアセトキシシランがある。ジアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、2官能シラン化合物として、特にジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を用いることが好ましい。
【0063】
3官能シラン化合物としては、例えばトリアルコキシシラン、トリアセトキシシランが挙げられる。トリアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、3官能シラン化合物として、特にメチルトリメトキシシラン(MTMS)を用いることが好ましい。
【0064】
4官能シラン化合物としては、例えばテトラアルコキシシラン、テトラアセトキシシランが挙げられる。テトラアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランなどが挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、4官能シラン化合物として、特にテトラメトキシシラン(TMOS)を用いることが好ましい。
【0065】
ゾル生成工程S1では、シリコン化合物(主原料)のほかに、界面活性剤や酸、有機溶剤を、副原料として用いることができる。
【0066】
このうち、界面活性剤は、後述するゲル生成過程において、後述するエアロゲル1の細孔構造の形成に寄与する。エアロゲル1の製造に用いることのできる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤などを用いることができる。イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などを例示することができる。これらのうち、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0067】
界面活性剤の添加量は、シリコン化合物の種類や混合比、界面活性剤の種類にもよるが、主原料であるシリコン化合物の総量100質量部に対し、例えば0.001質量部~100質量部の範囲にすることができ、特に、0.01質量部~90質量部の範囲が好ましく、0.1質量部~80質量部の範囲がさらに好ましい。
【0068】
また、酸は、加水分解時に触媒として作用し、加水分解の反応速度を加速することができる。具体的な酸の例としては、無機酸、有機酸、有機酸塩が挙げられる。これらの酸は、単独、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
このうち、無機酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸などのカルボン酸類が挙げられる。また、有機酸塩としては、酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛などを用いることができる。本発明では、酸として、有機酸である酢酸を用いることが好ましい。
【0070】
また、酸の添加濃度は、ゾル生成工程S1で得られるゾル11に対して、例えば0.0001mol/L~0.1mol/Lの範囲にすることができ、特に、0.0005mol/L~0.05mol/Lの範囲が好ましく、0.001mol/L~0.01mol/Lの範囲がさらに好ましい。
【0071】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノールなどのアルコール類を好ましく用いることができる。これらは、単独あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。また、調製する溶液に対する有機溶剤の添加量としては、相溶性の観点から、主原料であるシリコン化合物の総量1molに対し、例えば4mol~10molの範囲にすることができ、特に、4.5mol~9molの範囲が好ましく、5mol~8molの範囲がさらに好ましい。
【0072】
ゾル生成工程S1における溶液の温度および攪拌時間は、混合する溶液に含まれる、シリコン化合物、界面活性剤、水、酸、有機溶剤などの種類および量に左右されるが、例えば0℃~70℃の温度環境下で、0.05時間~48時間の範囲であればよく、20~50℃の温度環境下で0.1時間~24時間の処理とすることが好ましい。これにより、シリコン化合物が加水分解され、コロイドを形成するため、ゾル11を生成することができる。
【0073】
なお、ゾル生成工程S1で使用する副材料および/または副材料の分解物は、製造したエアロゲル1において、不可避成分として混入しうる。
【0074】
[ゲル化工程S2]
ゲル化工程S2は、ゾル生成工程S1において生成したゾル11を注型皿3に注入し、注型皿3内でゾルを架橋反応させてゲル12を形成するとともに養生する工程である。この工程により、
図3(a)に示すように、ゾル11が注型皿3に注入された後、
図3(b)に示すように、注型皿3内にゲル12が形成される。ここで、ゲル化工程S2は、ゾル11に塩基性触媒を添加する触媒添加工程S21と、注型皿3内に塩基性触媒を添加したゾル11を注入する注型工程S22と、注型皿3内で溶液を養生することでゲル12を生成する養生工程S23に大別することができる。
【0075】
このうち、触媒添加工程S21でゾル11に添加する塩基性触媒としては、水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウムなどのアンモニウム化合物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウムなどの塩基性燐酸ナトリウム塩、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの脂肪族アミン類、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-メチルモルホリン、ピペラジンおよびその誘導体、ピペリジンおよびその誘導体、イミダゾールおよびその誘導体などの含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。ここで、塩基性触媒は、単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
塩基性触媒は、加熱することで塩基性触媒を発生する窒素化合物であってもよい。窒素化合物は、注型工程S22や養生工程S23における加熱の際に、塩基性触媒を発生する化合物として添加するものである。具体的には、尿素、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物、ヘキサメチレンテトラミンなどの複素環化合物などを挙げることができる。このうち、尿素は、養生工程S23においてゲルの生成速度を速められる点で、好適に用いることができる。加熱により塩基性触媒を発生するこれらの窒素化合物は、養生工程S23における加熱で塩基性触媒を発生することが可能なため、触媒添加工程S21を行なわずに、ゾル生成工程S1でこれらの窒素化合物を添加してもよい。
【0077】
これらの中でも、水酸化アンモニウム水溶液は、触媒として反応促進効果が高く、ゾル11からゲル12への架橋反応を短時間で進めることができ、かつ欠陥を少なく形成できる点で好ましい。また、水酸化アンモニウム水溶液は、揮発性が高いため、後述する溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4において揮発し、得られるエアロゲル1に残りにくい点でも優れる。
【0078】
ゾル11への塩基性触媒の添加量は、ゾル11の総量100質量部に対し、0.5質量部~5質量部の範囲とすることが好ましく、1質量部~4質量部の範囲とすることがさらに好ましい。ここで、塩基性触媒の添加量が0.5質量部未満であると、ゾル11からゲル12を形成する際に架橋反応を進めることができず、また、塩基性触媒の添加量が5質量部を超えると架橋反応が速すぎ、生成するゲル12が不均質になるおそれがある。
【0079】
注型工程S22は、塩基性触媒を添加したゾル11を注型皿3に注入する工程であり、所望のエアロゲル製品の形状を得るための工程である。ここで、注型皿3は、金属、合成樹脂のいずれも用いることができるが、プラント運用を考慮した不燃性、および、形状の平面性と離形性を兼ね備える観点から、金属からなる基材に離形コーティング層が被覆された皿を好適に用いることができる。ここで、金属としては、例えばステンレスやスチールなどの鉄合金を例示することができる。また、離形コーティング層としては、例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂からなるコーティング層を例示することができる。
【0080】
また、注型皿3は、所望のエアロゲル製品に応じた形状を有する。例えば、板状のエアロゲル1を得る場合には、一端開口の凹型トレイを型として用いることができる。ここで、注型皿3の表面は、注型皿3でのゲルの収縮および復元を行ないやすくする観点から、平面によって構成されていることが好ましい。
【0081】
養生工程S23は、注型皿3に充填されたゾル11を注型皿内で養生してゲル12を生成するとともに、注型皿3の内壁形状に沿って成形する工程である。
【0082】
養生工程S23は、所定の時間にわたり、所定のエネルギーをかけることで、ゾル11からゲル12への架橋反応を進めるものである。ここで、エネルギーの一例としては、熱エネルギーが挙げられ、より具体的に、30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃の温度範囲に加熱することが挙げられる。ここで、加熱は、ヒータによる加熱であってもよく、水蒸気または有機溶剤の蒸気による蒸気加熱であってもよい。これらのエネルギーは、単独で用いられても、複数の手段を併用して用いてもよい。
【0083】
養生工程S23において養生に要する時間は、シリコン化合物の構成や、界面活性剤、水、酸、有機溶剤、塩基性触媒などの種類および量、さらには養生工程S23で用いられるエネルギーの種類や密度に左右されるが、例えば0.01時間~7日間の範囲にすることができる。ここで、塩基性触媒の種類とエネルギーの種類とを最適化した場合、0.01時間~24時間の範囲でゲル化が完了することもあり得る。また、養生は、熱(温度)と時間とを、多段階に変化させる養生であってもよい。
【0084】
養生工程S23では、反応チャンバ2内に温水を供給してすぐに排出することで、ゲル12の表面に、乾燥によるクラックの発生を防ぐための水の層を形成してもよい。養生工程S23で反応チャンバ2内に供給する温水のほか、本発明のエアロゲル1の製造方法で反応チャンバ2内に供給する液体は、ゲル12の破損を防ぐ観点から、反応チャンバ2の雰囲気温度に対して10℃以下の温度差である液体を反応チャンバ2内に供給するすることが好ましい。すなわち、養生工程S23で用いられる温水と、後述する洗浄処理S24で用いられる洗浄剤と、溶媒洗浄置換工程S3で用いられる第1溶媒と、乾燥工程S4で用いられる第2溶媒のうち少なくともいずれかは、反応チャンバ2の雰囲気温度に対して10℃以下の温度差にして反応チャンバ2内に供給するすることが好ましい。
【0085】
ここで、養生工程S23は、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度を、飽和水蒸気圧に対して60%以上100%以下の範囲に調整して行なうことが好ましく、80%以上100%以下の範囲に調整して行なうことがさらに好ましい。これにより、ゲル化工程S2におけるゲル12からの水分の蒸発が適切に制御されるため、ゲル12に含まれていた水分の蒸発による、ゲル12の不均質化を抑制することができる。
【0086】
また、養生工程S23は、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。これにより、ゲル12の温度の均一性が高められるため、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高めることができる。その結果、後述する乾燥工程S4において内在溶媒をゲル外に排出する際に、細孔構造(細孔サイズ)の均一性が高められることで、毛細管力が均一に近い状態で発生するため、相似形に近い形状に乾燥収縮させることができる。特に、ゲル12の近傍の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度の均一性も高めて、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高める観点では、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度を上記範囲に調整しながら、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。
【0087】
なお、ゲル化工程S2で使用する材料や、材料の分解物は、製造したエアロゲル1において、不可避成分として混入しうる。
【0088】
ゲル化工程S2を行なった後、ゾル11を生成するために用いた酸や、ゲル12を生成するために用いた触媒、反応副生成物などを洗浄する洗浄処理S24を、さらに行なってもよい。
【0089】
洗浄処理S24で用いられる洗浄剤としては、有機溶剤を広く用いることができ、特に後述する第1溶媒とは異なる溶剤を用いることが好ましい。ここで、洗浄剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸などの各種の有機溶剤を使用することができる。上記の有機溶剤は、単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0090】
これらのうち、後述する第1溶媒を構成する有機溶剤と、水との双方に溶解性を有する、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどを、単独または2種類以上混合して、洗浄剤として用いることが好ましい。
【0091】
洗浄処理S24における洗浄は、反応チャンバ2内を洗浄剤で満たすことで、ゲル12が形成された複数の注型皿3を洗浄剤に浸漬した後、少なくとも注型皿3に保持されていないメタノールを排出することで、行なうことができる。これにより、ゲル12に含まれていた酸や反応副生成物などを洗浄し、ゲル12の外部に排出させることができる。このとき、洗浄剤は、後述する第1溶媒に溶解性を有するため、注型皿3内に残っていてもよい。
【0092】
ここで、洗浄処理S24は、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる洗浄剤の濃度を、飽和蒸気圧に対して80%以上100%以下の範囲に調整して行なうことが好ましく、90%以上100%以下の範囲に調整して行なうことがさらに好ましい。これにより、洗浄処理S24におけるゲル12からの洗浄剤の蒸発が抑えられるため、ゲル12に含まれていた洗浄剤の蒸発による、ゲル12の不均質化を抑制することができる。
【0093】
また、洗浄処理S24では、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。これにより、ゲル12の温度の均一性が高められるとともに、ゲル12に接する洗浄剤の流速の均一性を高めることができるため、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高めることができる。特に、ゲル12の近傍の雰囲気に含まれる洗浄剤の濃度の均一性も高めて、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高める観点では、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる洗浄剤の濃度を上記範囲に調整しながら、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。
【0094】
洗浄処理S24で用いる洗浄剤の量は、溶媒置換する温度や装置(反応チャンバ2や注型皿3)にもよるが、すべてのゲル12の全体が、注型皿3内に供給した洗浄剤に浸漬できる量を用いることが好ましい。そのため、洗浄剤の量は、ゲル12の体積の合計に対して2倍~100倍の範囲の量を用いることが好ましい。また、洗浄処理S24は、1回に限らず、複数回行なってもよい。
【0095】
[溶媒洗浄置換工程S3]
溶媒洗浄置換工程S3は、ゲル12が形成された注型皿3内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒を供給し、ゲル12の表面及び内部に存在する内在溶媒や界面活性剤を、第1溶媒で洗浄および置換する工程である。これにより、ゲル12の表面および内部に存在する内在溶媒である水および/または有機溶剤を、短時間乾燥にふさわしい有機溶剤に交換することができる。
【0096】
溶媒洗浄置換工程S3では、20℃における表面張力が45mN/m以下である第1溶媒でゲル12を洗浄するとともに、後述する乾燥工程S4におけるゲル12の収縮ダメージを抑えるため、ゲル12の表面および内部の水(または有機溶剤)を第1溶媒に置き換える。第1溶媒としては、20℃における表面張力が45mN/m以下である液体を用いることができ、その一例として、ジメチルスルホキシド(43.5mN/m)、シクロヘキサン(25.2mN/m)、イソプロパノール(21mN/m)、ヘプタン(20.2mN/m)、ペンタン(15.5mN/m)などを用いることができる。
【0097】
溶媒洗浄置換工程S3に用いる第1溶媒は、20℃における表面張力が、45mN/m以下、40mN/m以下、35mN/m以下、30mN/m以下、25mN/m以下、20mN/m以下または15mN/m以下であってよく、かつ、5mN/m以上、10mN/m以上、15mN/m以上または20mN/m以上であってよい。これらの中で、特に20℃における表面張力が20mN/m~40mN/mの範囲である脂肪族炭化水素を含む有機溶剤を第1溶媒に用いることが好適である。このような有機溶剤を、第1溶媒として、単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0098】
また、溶媒洗浄置換工程S3に用いる第1溶媒は、溶媒洗浄置換工程S3を行なった後、第1溶媒によって構成される第1液相L1内に、ゲル12が沈降して浸漬する特性を有することが好ましい。このため、第1溶媒は、ゲル12と親和性を有するとともに、ゲル12よりも比重が小さいことが好ましい。ここで、第1溶媒がゲル12と親和性を有するとは、ゲル12の細孔中に溶媒が浸入することができ、その結果、ゲル12に溶媒を含浸させることができることを意味する。このような溶媒の一例として、溶解パラメータが7.0~9.5の範囲にある溶媒を挙げることができる。
【0099】
さらに、溶媒洗浄置換工程S3に用いる第1溶媒としては、後述する第2溶媒よりも比重が小さく、第2溶媒よりも沸点が低い溶媒を用いることが好ましい。この観点からは、第1溶媒としては、沸点50℃~100℃の有機溶媒を用いることが好ましく、その一例として、ヘキサン(比重0.65、沸点69℃)、ヘプタン(比重0.68、沸点98℃)などの炭化水素系溶媒や、酢酸メチル(比重0.93、沸点57℃)、酢酸エチル(比重0.90、沸点77℃)などのエステル系溶媒を挙げることができる。
【0100】
溶媒洗浄置換工程S3は、
図3(c)に示すように、反応チャンバ2内を第1溶媒で満たすことで、ゲル12が形成された複数の注型皿3を、第1溶媒によって構成される第1液相L1内に浸漬した後、
図3(d)に示すように、注型皿3に保持されていない第1溶媒を排出することで行なうことができる。これにより、ゲル12や洗浄剤に含まれていた酸や反応副生成物などの不純物を洗浄し、反応チャンバ2の外部に排出させることができる。また、溶媒洗浄置換工程S3を行なった後のゲル12は、注型皿3内の第1液相L1からなる液相系内に配置される。
【0101】
ここで、溶媒洗浄置換工程S3は、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる第1溶媒の濃度を、飽和蒸気圧に対して80%以上100%以下の範囲に調整して行なうことが好ましく、90%以上100%以下の範囲に調整して行なうことがさらに好ましい。これにより、溶媒洗浄置換工程S3におけるゲル12からの第1溶媒の蒸発が抑えられるため、ゲル12に含まれていた第1溶媒の蒸発による、ゲル12の不均質化を抑制することができる。
【0102】
また、溶媒洗浄置換工程S3では、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。これにより、ゲル12の温度の均一性が高められるとともに、ゲル12に接する第1液相L1における溶媒の流速の均一性を高めることができる。そのため、ゲル12の細孔構造の洗浄(界面活性剤等の除去)をより均一に近い状態で行なうことができるとともに、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高めることができる。その結果、後述する乾燥工程S4において内在溶媒をゲル外に排出する際に、細孔構造(細孔サイズ)の均一性が高められることで、毛細管力が均一に近い状態で発生するため、相似形に近い形状に乾燥収縮させることができる。特に、ゲル12の近傍の雰囲気に含まれる第1溶媒の濃度の均一性も高めて、ゲル12の細孔構造の均質性をより一層高める観点では、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる第1溶媒の濃度を上記範囲に調整しながら、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。
【0103】
溶媒洗浄置換工程S3で用いる第1溶媒の量は、溶媒置換する温度や装置(反応チャンバ2や注型皿3)にもよるが、すべてのゲル12の全体が、注型皿3内の第1液相L1に浸漬できる量を用いることが好ましい。そのため、第1溶媒の量は、ゲル12の体積の合計に対して2倍~100倍の範囲の量を用いることが好ましい。また、溶媒洗浄置換工程S3における溶媒置換は、1回に限らず、複数回行なってもよい。また、溶媒洗浄置換工程S3における溶媒置換の具体的な方法は、全置換、部分置換および循環置換のうち、いずれの方法であってもよい。
【0104】
特に、溶媒交換を複数回行う場合において、各回について、有機溶剤の種類や、温度、処理時間を独立に設定してよい。ここで、溶媒洗浄置換工程S3のうち、最後の溶媒置換で使用される溶媒が、後述する第1液相L1を構成する第1溶媒となる。
【0105】
なお、溶媒洗浄置換工程S3で使用する材料、および/または材料の分解物は、製造したエアロゲル1において、不可避成分として混入しうる。
【0106】
[乾燥工程S4]
乾燥工程S4は、第1溶媒よりも比重が大きくかつ第1溶媒とは二相分離する第2溶媒を、注型皿3内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲル1を形成する工程である。ここで、乾燥工程S4としては、第1溶媒によって構成される第1液相L1を有する注型皿3に配置されている、溶媒洗浄置換工程S3を行なった後のゲルに対して、少なくとも以下の第1工程S41、第2工程S42および第3工程S43を有する工程を行なうことができる。
1)注型皿3が配置された反応チャンバ2内に、第1溶媒よりも比重が大きく、かつ第1溶媒と二相分離する第2溶媒を供給する第1工程S41
2)反応チャンバ2から、第1液相L1を構成する第1溶媒を取り除く第2工程S42
3)ゲル12が第2液相L2の界面上に浮上するまで、ゲル12を低温乾燥させる第3工程S43
【0107】
ここで、乾燥工程S4は、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる溶媒の蒸気濃度を、飽和蒸気圧に対して70%以上100%未満の範囲に調整して行なうことが好ましく、90%以上100%未満の範囲に調整して行なうことがさらに好ましい。より具体的に、乾燥工程S4の第3工程S43および第4工程S44のうち、少なくとも第3工程S43は、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる第1溶媒および第2溶媒の蒸気濃度の合計を、上記範囲に調整して行なうことが好ましい。これにより、第1液相L1や第2液相L2、ゲル12からの第1溶媒および第2溶媒の蒸発速度が適切に制御されるため、ゲル12に含まれていた溶媒の急激な蒸発による、ゲル12の破断を抑制することができる。
【0108】
また、乾燥工程S4では、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。より具体的に、乾燥工程S4の第3工程S43および第4工程S44のうち、少なくとも第3工程S43は、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。これにより、ゲル12の温度の均一性が高められるとともに、反応チャンバ2内の雰囲気における温度分布、蒸気濃度分布、流速分布の均一性が高められる。そのため、第1液相L1や第2液相L2、ゲル12からの第1溶媒および第2溶媒の蒸発速度の均一性を高めることができる。その結果、ゲル12に内在していた溶媒をゲル外に排出する際に、細孔構造(細孔サイズ)の均一性が高められることで、毛細管力が均一に近い状態で発生するため、相似形に近い形状に乾燥収縮させることができる。また、スプリングバックによって細孔構造を膨潤させる際にも、溶媒蒸気の細孔中の移動速度の均一性が高まることで、細孔構造(細孔サイズ)の均一性が高められるため、得られるエアロゲル1の均質性を高めることができる。ここで、ゲル12の近傍の雰囲気に含まれる溶媒の蒸気濃度の均一性も高めて、得られるエアロゲル1の均質性をより一層高める観点では、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる溶媒の蒸気濃度を上記範囲に調整しながら、注型皿3内に保持されているゲル12を、注型皿3の底面31と平行になる横揺れ方向に揺動させることが好ましい。
【0109】
また、乾燥工程S4は、反応チャンバ2内の雰囲気を常圧にして行なうことが好ましい。これにより、ゲル12の乾燥を加圧せずに行なうことができることで、従来の超臨界流体を用いた乾燥工程と比べて、簡素な装置でエアロゲル1を製造できるため、エアロゲル1の製造コストを抑えることができる。
【0110】
(第1工程S41)
第1工程S41は、注型皿3内に、第1溶媒よりも比重が大きく、かつ第1溶媒と二相分離する第2溶媒を供給する工程である。これにより、第1液相L1および第2液相L2を有する液相系内にゲル12が位置するようになる。
【0111】
ここで、第1液相L1を構成する上述の第1溶媒と、第2液相L2を構成する第2溶媒は、互いに完全には混合せず二相分離する溶媒が選択される。また、第2溶媒としては、第1溶媒よりも比重が大きい溶媒が選択され、それにより第1液相L1が上に位置し、かつ第2液相L2が下に位置する液相系が形成される。
【0112】
さらに、第2溶媒としては、第1溶媒の沸点よりも沸点が高い溶媒を用いることが好ましいが、後述する第1温度において第1液相L1が先に蒸発して、第2液相L2にゲル12が浸漬された状態を作ることができれば、これに限定されない。
【0113】
第1工程S41で用いられる第2溶媒としては、第1溶媒と完全には混合せずに第1液相L1および第2液相L2に分相した状態を形成することができ、かつ、沸点が第1溶媒よりも高いものを用いるのが好ましく、その一例として、水(比重1.0、沸点100℃)、シリコーンオイル(比重0.94~0.98、沸点150℃以上)、フッ素系溶媒(比重1.3~1.5、沸点98~150℃)、水銀(比重13、沸点356℃)などを挙げることができる。
【0114】
第1工程S41で用いる第2溶媒の量は、すべての注型皿3に保持されたゲル12が、第2液相L2に浸漬できる量を用いることが好ましい。これにより、
図4(a)に示すように、第1液相L1と第2液相L2の界面が、注型皿3に保持されたゲル12の上側に位置するようになるため、第1液相L1を構成していた第1溶媒を、容易に除去することができる。
【0115】
(第2工程S42)
第2工程S42は、反応チャンバ2から、第1液相L1を構成する第1溶媒を取り除く工程である。これにより、第1液相L1は消失して、複数の注型皿3内に第2溶媒が供給された状態になる。
【0116】
ここで、第1溶媒は、液体の状態で反応チャンバ2の外部に排出することが好ましい。これにより、第1溶媒を速やかに反応チャンバ2の外部に排出させることができる。
【0117】
他方で、第1溶媒は、室温より高い温度で蒸発させることで、気体の状態で反応チャンバ2の外部に排出させてもよい。このときの温度は、30℃~50℃の温度範囲であることが好ましい。なお、このときの温度を第1溶媒の沸点以上の温度にすることは、第1溶媒の沸騰によってゲル12が破断するため、好ましくない。
【0118】
第2工程S42では、反応チャンバ2から、第1液相L1を構成する第1溶媒を取り除くとともに、余剰の第2溶媒も取り除くことが好ましい。特に、第1溶媒および第2溶媒を速やかに反応チャンバ2の外部に排出させる観点では、第1溶媒を、余剰の第2溶媒とともに、液体の状態で反応チャンバ2の外部に排出することが好ましい。このとき、ゲル12の細孔内部には比重の小さい第1溶媒が残留するため、
図4(b)に示すように、複数の注型皿3内に第2溶媒が供給された状態になるとともに、注型皿3内のゲル12が部分的に第2液相L2に浸漬されて、第2液相L2の上部に浮いた状態になる。また、このときのゲル12は、第2液相L2の中で収縮した状態になっていることが観察される。このようにゲル12を第2液相L2の上部に浮いた状態にすることで、第2工程S42におけるゲルの収縮や、後述する第3工程S43や第4工程S44における体積の復元の際に、ゲルと基材との摩擦をほぼゼロにすることができる。
【0119】
(第3工程S43)
第3工程S43は、ゲル12が第2液相L2の界面上に浮上するまで、ゲル12を低温乾燥させる工程である。第3工程S43を行なう前のゲル12は、第2液相L2内に位置しているが、第2工程S42において収縮していたゲル1は、スプリングバックによって細孔構造が膨潤することで、体積が復元する。したがって、所望の高い均質性を有するエアロゲル1を得ることができる。
【0120】
第3工程S43における雰囲気温度は、30℃~60℃の温度範囲であることが好ましい。この温度範囲で保持することにより、ゲル12の内部に残留していた第2溶媒が蒸発してゲル12の乾燥が進むことで、ゲル12の比重が低下するため、ゲル12が第2液相L2の液面から上方に移動するようになり、最終的には、
図4(c)に示すように、第2液相L2から浮いた状態の乾燥したエアロゲル1を得ることができる。なお、このときの温度を、第2溶媒の沸点以上の温度にすることは、第2溶媒の沸騰によってゲル12が破断するため、好ましくない。
【0121】
第3工程S43は、スプリングバックによるゲル12の体積の回復が定常状態になるまで継続することが好ましい。
【0122】
(第4工程S44)
第3工程S43を行なった後のエアロゲル1は、エアロゲル1を液相系から取り出し、さらに乾燥させる第4工程S44を行なうことが好ましい。第4工程S44をさらに行うことによって、エアロゲル1の透明性をさらに高めることができる。
【0123】
ここで、エアロゲル1の乾燥条件は、特に限定されず、例えば大気中で自然乾燥させてもよい。その中でも、エアロゲル1の透明性をさらに高める観点では、第1温度よりも高い第2温度で高温乾燥させることが好ましい。
【0124】
エアロゲル1を第2温度で高温乾燥させる場合、第2温度は、50℃~250℃の範囲であることが好ましい。高温乾燥の条件としては、第2温度を50℃~100℃の範囲に設定するとともに、乾燥時間を5時間~10時間の範囲に設定してもよい。また、第2温度を150℃~250℃の範囲に設定するとともに、乾燥時間を10分~90分の範囲に設定してもよい。
【0125】
[その他の工程]
上記した製造方法は、板(または直方体)状をなすエアロゲルの製造方法について説明してきたが、本発明はこれに限られるものではなく、板状のエアロゲルから、所望の形状に加工することも、任意の工程として含み得るものである。例えば、板状のエアロゲルから、異なる形状の板状のほか、フィルム、立方体、球体、円柱、角錐、円錐などの種々の形状に加工することができる。エアロゲルの加工手段としては、ワイヤーカットやレーザーカットなどの公知の機械加工の手段を用いることができる。
【0126】
また、本発明のエアロゲル1は、板状などのバルク状のエアロゲルから、粒状のエアロゲルに加工することを、任意の工程として含み得るものである。粒状のエアロゲルに加工する手段としては、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ、ボールミルなどの公知の粉砕機(クラッシャ)を用いることができる。
【0127】
[エアロゲルの製造装置の構成について]
本発明のエアロゲル1の製造装置10は、好適には上述の製造方法で用いられるものであり、
図5で模式的に示されるように、水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによって生成したゾル11を架橋反応させてゲル12を形成するとともに養生する注型皿3と、注型皿3にゾル11を注入する注型手段4と、ゲル12が形成された注型皿3内に、20℃における表面張力が45mN/m以下と低い第1溶媒L10を供給し、ゲル12の表面及び内部に存在する内在溶媒を、第1溶媒L10で洗浄および置換する第1溶媒供給手段5と、第1溶媒L10よりも比重が大きくかつ第1溶媒L10とは二相分離する第2溶媒L20を、注型皿3内に供給する第2溶媒供給手段6と、第2溶媒L20が注型皿3内に供給した状態で乾燥させ、Siを含有するエアロゲルを形成する乾燥手段7と、注型皿3内で形成したゾル11またはゲル12を、注型皿3で保持された状態で、注型皿3の底面と平行になる横揺れ方向に揺動させる揺動機構8と、を有する。これにより、エアロゲル1として、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの、全光線透過率の標準偏差が、10mm厚換算で0.60%以下となるエアロゲルが得られるため、比較的大面積(具体的には、300mm四方の正方形の表面領域を含む大きさ)であっても、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを、高い歩留まりで製造することが可能である。
【0128】
ここで、注型手段4、第1溶媒供給手段5および第2溶媒供給手段6としては、図示しないバルブを備えた配管を用いることができる。
【0129】
また、乾燥手段7としては、上述の乾燥工程S4のうち第2工程S42を行なうのに用いられる、反応チャンバ2から第1液相L1を構成する第1溶媒を排液L3として取り除く排液手段71と、乾燥工程S4の第3工程S43を行なうのに用いられる、ゲル12が第2液相L2の界面上に浮上するまで反応チャンバ2内の雰囲気温度を調整する温度調整手段72と、を少なくとも挙げることができる。
【0130】
また、揺動機構8としては、反応チャンバ2を注型皿3の底面と平行な横揺れ方向に揺動する機構を用いることができ、特に
図5に示すように回転軸Mに沿って反応チャンバ2を回転させる態様では、モータ等の公知の駆動手段を用いることができる。
【0131】
[エアロゲルの用途について]
本実施形態のエアロゲル1は、このような利点から、極低温容器、宇宙分野、建築分野、自動車分野、家電分野、半導体分野、産業用設備などにおける断熱材としての用途に好ましく用いることができる。また、本実施形態のエアロゲル1は、断熱材としての用途の他に、撥水用、吸音用、静振用、触媒担持用などの用途に用いることもできる。
【実施例0132】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0133】
<本発明例>
[ゾル生成工程S1]
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤(BASF製:プルロニックPE10500)3.28gを、0.005mol/L酢酸水溶液28.96gに溶解させた後、さらに塩基性触媒を発生する化合物として尿素(ナカライテスク製)4.00gを加えて溶解させた。この水溶液に、主原料であるシリコン化合物を10.00g添加した後、室温で60分攪拌混合し、シリコン化合物の加水分解反応を行なわせ、ゾル11を生成させた。
【0134】
ここで、シリコン化合物としては、4官能シラン化合物であるテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製の正珪酸メチル、以下「TMOS」と略記する場合がある。)、3官能シラン化合物であるメチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製のDOWSIL Z-6366 Silane、以下「MTMS」と略記する場合がある。)および2官能シラン化合物であるジメチルジメトキシシラン(東京化成工業株式会社製,製品コード:D1052、以下「DMDMS」と略記する場合がある。)を用いるとともに、4官能シラン化合物25質量%、3官能シラン化合物65質量%、および2官能シラン化合物10質量%の割合で添加した。なお、TMOSおよびMTMSは、いずれも使用する前に、減圧蒸留で精製した。
【0135】
[ゲル化工程S2]
その後、注型工程S22として、生成させたゾル11を、平面形状が320mm四方の正方形であり、高さが17.5mmの注型皿3に、10mmの深さになるように1225ml注入し、ゾル11を注入した注型皿3を注型皿ホルダ30に配置した。
【0136】
これ以降のゲル化工程S2から乾燥工程S4までの各工程を、同一の反応チャンバ2内で行なった。ここで、
図5に示すように、注型皿3(または、注型皿3が保持された注型皿ホルダ30)を、ゾル11またはゲル12の表面(注型皿3の底面)が水平になるように反応チャンバ2に配置するとともに、反応チャンバ2の高さ方向Yを軸(中心軸M)にして反応チャンバ2を回転させることで、ゾル11またはゲル12が保持された注型皿3を、注型皿3の底面31に沿って横揺れ方向に揺動するように構成した。また、反応チャンバ2の注型皿3の下方に水を注液し、反応チャンバ2内の雰囲気に含まれる水蒸気の濃度が飽和水蒸気圧と等しくなるようにした。
【0137】
注型皿3に注入したゾル11は、養生工程S23として、60℃で10時間にわたり静置して、加熱により塩基性触媒を発生させてゲル化させた後、反応チャンバ2内に60℃の温水を供給してすぐに排出することで、ゲル12の上面に厚さ7.5mmの水の層を形成し、次いで、反応チャンバ2内を80℃に昇温して72時間にわたり静置することにより、ゲルを熟成させた。その際、揺動機構8を作動させて、中心軸Mを中心に、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で右回りに回転させる動作と、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で左回りに回転させる動作を交互に繰り返すことで、ゲル化前のゾル11またはゲル化後のゲル12が保持された注型皿3を横揺れ方向に揺動させた。
【0138】
養生工程S23を行なった後、反応チャンバ2の回転を止めて注型皿3の揺動を止め、反応チャンバ2内を60℃に降温した。次いで、反応チャンバ2内をゲル体積の5倍量に相当する量(約6.2L)の60℃のメタノール(MeOH)で満たすことで、ゲルが形成された注型皿3内をメタノールに浸漬した状態にし、その状態で8時間にわたり保持した後、注型皿3に保持されていないメタノールを排出することで、ゲルに含まれていた界面活性剤や酸、反応副生成物などを洗浄する洗浄処理S24を、5回繰り返し行なった。その際、揺動機構8を作動させて、中心軸Mを中心に、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で右回りに回転させる動作と、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で左回りに回転させる動作を交互に繰り返すことで、ゲル12が保持された注型皿3を横揺れ方向に揺動させた。なお、洗浄処理S24に使用したメタノールは、ナカライテスク株式会社製のものを用いた。
【0139】
[溶媒洗浄置換工程S3]
次いで、溶媒洗浄置換工程S3として、第1溶媒としてイソプロパノールおよびヘプタンの順で用いた。より具体的に、ゲル12が形成された注型皿3内に第1溶媒としてイソプロパノールを供給し、ゲル12の表面及び内部に存在する内在溶媒をイソプロパノールで洗浄および置換した後、注型皿3内に第1溶媒としてヘプタンを供給し、ゲル12の表面及び内部に存在するイソプロパノールなどの溶媒をヘプタンで洗浄および置換する処理を2回繰り返し行なった。ここで、注型皿3内への第1溶媒の供給は、60℃の条件下で、ゲル12および注型皿3が配置された反応チャンバ2内にゲル体積の5倍量に相当する量(約6.2L)の60℃の第1溶媒を供給することで、
図3(c)に示すように、反応チャンバ2内にある複数の注型皿3が、第1溶媒によって構成される第1液相L1に浸漬する状態にして、その状態を8時間にわたり保持した。その際、揺動機構8を作動させて、中心軸Mを中心に、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で右回りに回転させる動作と、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で左回りに回転させる動作を交互に繰り返すことで、ゲル12が保持された注型皿3を横揺れ方向に揺動させた。その後、
図3(d)に示すように、反応チャンバ2内にある注型皿3に保持されていない第1液相L1を排出した。溶媒洗浄置換工程S3を行なった後の注型皿3内のゲル12は、ヘプタンによって構成される第1液相L1に浸漬され、第1液相L1中に沈んだ状態になった。
【0140】
[乾燥工程S4]
溶媒洗浄置換工程S3の後、反応チャンバ2内を40℃に降温した。次いで、乾燥工程S4の第1工程S41として、第2溶媒として水を用い、注型皿3内に水を供給した。ここで、注型皿3内への水の供給は、ゲル12および注型皿3が配置された反応チャンバ2内にゲル体積の5倍量に相当する量の40℃の水を供給することで、
図4(a)に示すように、反応チャンバ2内にある複数の注型皿3を、水によって構成される第2液相L2に浸漬するとともに、ヘプタン(上側に位置する第1液相L1を形成)と水(下側に位置する第2液相L2を形成)がゲル12の上方にある界面で2液相に分離した液相系を形成するようにした。
【0141】
第1工程S41の後、すぐに第2工程S42として、反応チャンバ2内にあるヘプタンと余剰の水を排出した。このとき、
図4(b)に示すように、注型皿3内のゲル12は、細孔内部にヘプタンを含むとともに、水によって構成される第2液相L2に部分的に浸漬され、第2液相L2の上部に浮いた状態になった。
【0142】
第2工程S42の後、第3工程S43として、反応チャンバ2内の雰囲気温度を40℃のままで保持して、ゲル12を低温乾燥させた。より具体的に、排気装置により反応チャンバ2内の気体を500ml/分の排気速度で連続排気し、排気ガスに含まれるヘプタン蒸気を冷却器によって回収した後、40℃に加熱した乾燥気体を反応チャンバ2内に戻すことで、ゲル12を乾燥させた。この際、開放されている容器の上面は、セルロース性濾紙(ワットマン社製濾紙 グレード1 粒子保持能11μm)を通気膜として覆い、ヘプタンの液面と通気膜とで区画される空間における、第1溶媒および第2溶媒の蒸気濃度の合計を50%程度となるように調整した。この乾燥工程S4の第3工程S43では、揺動機構8を作動させて、中心軸Mを中心に、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で右回りに回転させる動作と、反応チャンバ2を90°の回転角まで20秒で左回りに回転させる動作を交互に繰り返すことで、ゲル12が保持された注型皿3を横揺れ方向に揺動させた。
【0143】
第3工程S43におけるゲル12の低温乾燥は、乾燥したゲル12が第2液相L2の液面に浮上するまで行ない、乾燥時間は約45時間であった。これにより、半透明のエアロゲルが得られた。
【0144】
第3工程S43を行なった後のエアロゲルは、さらに第4工程S44として、追加恒温器(ヤマト科学(株)社製 IS601)で、80℃の乾燥温度で、エアロゲルの大きさが注型皿3の大きさの95%(304mm四方の大きさ)に回復するまで追加乾燥して、本発明例のエアロゲル1を得た。
【0145】
さらに、これらの操作を26回繰り返すことで、合計27枚のエアロゲル1を得た。これら27枚のエアロゲル1の中には、ゾル生成工程S1における界面活性剤の種類および添加量、シリコン化合物におけるTMOS、MTMS、DMDMSの割合、ゲル化工程S2における熟成時間、溶媒洗浄置換工程S3における温度、時間、サイクル数および揺動速度、ならびに、乾燥工程S4における温度、排気速度および揺動速度を変更したものも含めた。
【0146】
<比較例>
注型皿3にゾル11を注入し、注型皿ホルダ30に配置した。この例では、ゲル化工程S2、溶媒洗浄置換工程S3および乾燥工程S4における、反応チャンバ2の回転による、ゾル11およびゲル12が保持された注型皿3の揺動をいずれも行なわず、他の条件は本発明例と同じ条件にして、比較用のエアロゲル(比較例)を得た。さらに、この操作を7回繰り返すことで、合計8枚のエアロゲル1を得た。
【0147】
<評価>
(エアロゲルへのクラック発生の観察)
得られた本発明例および比較例のエアロゲルを、目視で観察した。その結果、本発明例で得られたエアロゲルは、27枚のエアロゲルのすべてで、全面をクラックのない領域として得ることができた。他方で、比較例で得られたエアロゲルは、8枚のエアロゲルのすべてで破断が生じており、300mm四方の正方形の表面領域を取ることが可能なエアロゲルを得ることができなかった。そのため、本発明例で得られたエアロゲルは、比較例のエアロゲルよりも高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを得ることができた。
【0148】
(エアロゲルの透過率の測定)
また、得られたエアロゲルの透過率は、積分球を備えたV-670紫外可視近赤外分光光度計(日本ジャスコ株式会社製)を用いて得られるスペクトルデータから求めた。ここで、波長550nmである可視光を、エアロゲルの中心(重心)と重なる位置にある300mm四方の正方形の表面領域の中から、正方形の中心位置、正方形の角の位置、および正方形の辺の中央位置(正方形の隣り合う角を結ぶ辺の中心位置)の3点に照射したときの全透過率の値を、それぞれLambert-Beerの式を用いて、10mm厚の試料における全透過率(T550)に換算して求めた。ここで、正方形の中心位置は、表面領域の正方形と同じ中心を有する50mm四方の領域内の位置とした。また、正方形の角の位置は、表面領域の正方形の角と同じ角を有し、かつ表面領域の正方形と重なる、50mm四方の領域内の位置とした。また、正方形の辺の中央位置は、正方形の隣り合う角を結ぶ辺の中心位置が表面領域の正方形と同じ位置にあり、かつ表面領域の正方形と重なる、50mm四方の領域内の位置とした。また、試料の厚さは、全透過率を測定した後の各測定位置における試料の厚さを、ノギスを用いて実測した。エアロゲル内の各箇所について求めた全透過率の値から、各エアロゲルについての全光線透過率のこれら3点の標準偏差を求め、得られた標準偏差の平均を、標準偏差の結果とした。
【0149】
その結果、
図6に示すように、本発明例のエアロゲルは、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差(上述の3点の標準偏差)が0.30%前後であったのに対し、比較例のエアロゲルは、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が1.00%前後であった。
【0150】
したがって、本発明例のエアロゲルは、クラックの発生のない大判化したエアロゲルが得られていることを示した。このことから、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差の小さいエアロゲルによることで、クラックの発生が抑制できることも明らかとなった。
【0151】
<総合評価>
本発明例のエアロゲルは、550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が小さいものであり、このとき、高い歩留まりで、クラック等の欠陥が存在しない健全な状態を有するエアロゲルを得られることが明らかとなった。また、本発明例の550nmの波長をもつ可視光を照射したときの全光線透過率の標準偏差が小さいエアロゲルは、ゲル化工程S2および乾燥工程S4のうち一方または両方において、ゾル11またはゲル12が保持された注型皿3を揺動させる本発明の製造方法を適用することで得られることがわかる。