(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002186
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】滑り止め材及び滑り止め機能付き物品
(51)【国際特許分類】
A41D 27/00 20060101AFI20241226BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20241226BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20241226BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20241226BHJP
【FI】
A41D27/00 B
A41D13/00 102
A41D31/00 504D
A41D31/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102178
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】594137960
【氏名又は名称】株式会社ゴールドウイン
(71)【出願人】
【識別番号】000229863
【氏名又は名称】株式会社エフアンドエイノンウーブンズ
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】久田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】井上 知樹
【テーマコード(参考)】
3B035
3B211
【Fターム(参考)】
3B035AA01
3B035AB13
3B035AD08
3B211AA01
3B211AB01
3B211AC00
(57)【要約】
【課題】物品の表面に貼着された状態で端部が剝がれにくく、様々な滑り止め対象物に対して優れた滑り止め効果が得られる滑り止め材及び滑り止め機能付き物品を提供する。
【解決手段】滑り止め材14は、ショアA硬度が25~55の範囲のグリップ層16と、ショアA硬度がグリップ層16よりも高い保形層18と、接着層20とを備える。内側接着部20aの上面に保形層18と内側グリップ部16aとが順に重なって相互に接合され、外側接着部20b(1)の上面に外側グリップ部16b(1)が重なって相互に接合される。保形層18の上面は内側グリップ部16aの方向になだらかに膨出し、内側グリップ部16aの上面は、保形層18の上面に対してほぼ平行に膨出する。外側グリップ部16b(1)の上面は、内側グリップ部16aの上面になだらかに連続して外側グリップ部16b(1)の下面に交差する。内側接着部20aの下面及び外側接着部20b(1)の下面は面一である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面に貼着して使用される滑り止め材であって、
ショアA硬度が25~55の範囲のエラストマーで成るグリップ層と、ショアA硬度が前記グリップ層よりも高いエラストマーで成る保形層と、接着用のエラストマーで成る接着層とを備え、
前記グリップ層は、前記保形層の上面を覆う大きさの内側グリップ部と、前記内側グリップ部の両側に連続する外側グリップ部とを有し、
前記接着層は、前記保形層の下面を覆う大きさの内側接着部と、前記内側接着部の両側に連続する外側接着部とを有し、
前記内側接着部の上面に前記保形層と前記内側グリップ部とが順に重なって相互に接合され、前記外側接着部の上面に前記外側グリップ部が重なって相互に接合されており、
前記保形層の上面は、前記内側グリップ部の方向になだらかに膨出し、前記内側グリップ部の上面は、前記保形層の上面に対してほぼ平行に膨出し、前記外側グリップ部の上面は、前記内側グリップ部の上面になだらかに連続して前記外側グリップ部の下面に交差し、前記内側接着部の下面及び前記外側接着部の下面は面一であり、
前記接着層を介して前記物品の表面に貼着され、前記グリップ層の上面が滑り止め面として使用されることを特徴とする滑り止め材。
【請求項2】
前記内側グリップ部の厚みは200~400μmの範囲である請求項1記載の滑り止め材。
【請求項3】
前記グリップ層のエラストマーは、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、天然ゴム、又は合成ゴムである請求項1記載の滑り止め材。
【請求項4】
前記グリップ層及び前記保形層のエラストマーは、ポリウレタン系樹脂である請求項1記載の滑り止め材。
【請求項5】
前記内側接着部と前記保形層との境界部は、前記保形層の方向になだらかに膨出している請求項1記載の滑り止め材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の滑り止め材が、前記接着層を介して物品本体の表面に貼着されていることを特徴とする滑り止め機能付き物品。
【請求項7】
前記物品本体は衣料品である請求項6記載の滑り止め機能付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面に貼着して使用される滑り止め材及びこの滑り止め材が貼着された滑り止め機能付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、布地の表面に断面凸状の滑り止め片が貼着された衣類(荷物の運搬に適した作業着等)があった。特許文献1の
図10に記載されている滑り止め片は、荷物の表面に触れる表面層がシリコンインクやラバー系インク等で形成され、表面層の下層に、硬質又は軟質の発泡ポリウレタン等で成る弾性芯材が配置され、弾性芯材の下層に、ホットメルト接着シートで成る感熱接着層が配置されている。
【0003】
この滑り止め片は、金型で成形された仕上がり状態で、弾性芯材が上向きに膨出したドーム形に形成され、弾性芯材の上面が薄い表面層で覆われる。また、表面層の縁取り部が弾性芯材の周縁部を超えて外側に配置され、弾性部材の平坦な下面と縁取り部の下面とが面一になり、弾性部材の下面及び縁取り部の下面に平坦な感熱接着層が重なる。そして、この滑り止め片の感熱接着層を衣類の布地に溶着させることによって、滑り止め機能付きの衣類が形成される。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、風呂場や洗面所の床などに貼着して使用される多層構造の水周り用滑り止めシートがあった。特許文献2の請求項1記載の水周り用滑り止めシートは、人の足の裏に触れる最外層に、上面が所定粗さの凹凸面になっている樹脂フィルムが配置され、樹脂フィルムの下層に、樹脂フィルムより硬い第一の補強フィルムが設けられ、さらに第一の補強フィルムの下層に、粘着剤層が設けられている。最外層の樹脂フィルムは、人の足の裏が触れた時に柔らかく滑らかで素肌刺激も少なく肌に優しいと感じるように、ショアA硬度が60~82の範囲の材料が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-234403号公報
【特許文献2】特開2015-30106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の衣類の場合、滑り止め片の端部が布地から剥離しやすいという問題がある。この衣類は、滑り止め材が感熱接着剤を介して布地に貼着された状態で、滑り止め材の端部と布地との境界部に段差が生じる。詳しく説明すると、
図9に示すように、滑り止め材1の端部は、感熱接着剤2の上に表面層3の縁取り部3aが重なり、縁取り部3aと布地4との境界部に階段状の段差が形成される。そのため、縁取り部3aの端面3bに強い外力Fが加わった時、縁取り部3aと布地4との接合部に想定以上のせん断力や引剥力が作用し、縁取り部3aが剥離してしまう可能性がある。
【0007】
特許文献2の水周り用滑り止めシートは、床などに貼着された時の端部の剥がれについて深く考慮されていない。したがって、特許文献2の技術を特許文献1の衣類に適用したとしても、上記の問題(滑り止め片の端部が剥離しやすいという問題)は解決されない。
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、物品の表面に貼着された状態で端部が剝がれにくく、様々な滑り止め対象物に対して優れた滑り止め効果が得られる滑り止め材及び滑り止め機能付き物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、物品の表面に貼着して使用される滑り止め材であって、
ショアA硬度が25~55の範囲のエラストマーで成るグリップ層と、ショアA硬度が前記グリップ層よりも高いエラストマーで成る保形層と、接着用のエラストマーで成る接着層とを備え、
前記グリップ層は、前記保形層の上面を覆う大きさの内側グリップ部と、前記内側グリップ部の両側に連続する外側グリップ部とを有し、
前記接着層は、前記保形層の下面を覆う大きさの内側接着部と、前記内側接着部の両側に連続する外側接着部とを有し、
前記内側接着部の上面に前記保形層と前記内側グリップ部とが順に重なって相互に接合され、前記外側接着部の上面に前記外側グリップ部が重なって相互に接合されており、
前記保形層の上面は、前記内側グリップ部の方向になだらかに膨出し、前記内側グリップ部の上面は、前記保形層の上面に対してほぼ平行に膨出し、前記外側グリップ部の上面は、前記内側グリップ部の上面になだらかに連続して前記外側グリップ部の下面に交差し、前記内側接着部の下面及び前記外側接着部の下面は面一であり、
前記接着層を介して前記物品の表面に貼着され、前記グリップ層の上面が滑り止め面として使用される滑り止め材である。
【0010】
前記内側グリップ部の厚みは200~400μmの範囲である。前記グリップ層のエラストマーは、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、天然ゴム、又はシリコンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム等の合成ゴムであることが好ましい。前記グリップ層及び前記保形層のエラストマーは、ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。前記内側接着部と前記保形層との境界部は、前記保形層の方向になだらかに膨出している構成にしてもよい。
【0011】
また、本発明は、上記の滑り止め材が、前記接着層を介して物品本体の表面に貼着されている滑り止め機能付き物品である。前記物品本体は、例えば衣料品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の滑り止め材は、様々な滑り止め対象物に対して優れた滑り止め効果が得られる。例えば、滑り止め対象物の表面に所定粗さの凹凸が形成されている場合に、グリップ層の表面が滑り止め対象物の表面に良好にフィットして接触面積が大きくなり、従来よりも高いグリップ性能が得られる。
【0013】
本発明の滑り止め機能付き物品は、物品本体の表面に上記滑り止め材の接着層を溶着させることによって容易に製作することができる。また、滑り止め材は、物品本体の表面に貼着された状態で、端部が剥がれにくい独特な構造になるので、滑り止め対象物が強く接触したり強く擦れたりした時でも、或いは物品本体が少し乱暴に扱われた時でも、簡単には剥離しないという特徴がある。したがって、本発明の滑り止め機能付き物品は、スポーツウェアや作業着等の衣料品の用途に非常に適しており、さらに、衣料品以外の用途にも使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の滑り止め材及び滑り止め機能付き物品の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の中の滑り止め材の1つを拡大した平面図(a)、滑り止め材及びその周辺部の内部構造を示すA-A断面図(b)、滑り止め材の3つの層を分離させて表した図(c)である。
【
図3】この実施形態の滑り止め材の、滑り止め効果の試験用に製作した試作品の各部の寸法と材質等を示す図表である。
【
図4】滑り止め効果の試験用に用意した2つの比較例を示す図表であって、第一の比較例の材質等を示す図表(a)、第二の比較例の各部の寸法と材質等を示す図表(b)である。
【
図5】滑り止め効果の試験用に用意した3つの滑り止め対象物の表面写真であって、ラグビーボールαの表面写真(a)、ラグビーボールβの表面写真(b)、バイクシートの生地の表面写真(c)である。
【
図6】試作品、第一及び第二の比較例の滑り止め効果の試験結果を示すグラフであって、滑り止め対象物がラグビーボールαの時の摩擦抵抗の測定データを示すグラフ(a)、ラグビーボールβの時の摩擦抵抗の測定データを示すグラフ(b)である。
【
図7】試作品、第一及び第二の比較例の滑り止め効果の試験結果を示すグラフであって、滑り止め対象物がオートバイシートの生地の時の摩擦抵抗の測定データを示すグラフである。
【
図8】この実施形態の滑り止め材の変形例[外形の変形例]を示す平面図(a)~(d)である。
【
図9】特許文献1に開示された従来の衣類の、滑り止め片の端部及びその周辺部の内部構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の滑り止め材及び滑り止め機能付き物品の一実施形態について、
図1~
図7に基づいて説明する。この実施形態の滑り止め機能付き物品は、ラグビーウェアの上着10であり、
図1に示すように、物品本体である布地12の表面に、この実施形態の滑り止め材14が複数個取り付けられている。各滑り止め材14は、平面視の外形が細長い帯状に形成されている
上着10及び滑り止め材14の場合、滑り止め対象物はラグビーボールである。ラグビーウェアは、ラグビーボールを片方の脇に抱えた時、激しい動作を行っても落球しにくいように、ラグビーボールが胸周りの位置にしっかりグリップされることが求められる。そこで、この上着10では、複数の滑り止め材14を、布地12の左右の胸周りの位置の表面に取り付けている。滑り止め材14の外形及びレイアウトは、ラグビーの選手や関係者の意見を基に検討を重ね、個々の滑り止め材14を細長い帯状外形とし、各々を横向きにして上下方向に一定の間隔を空けて並べるレイアウトとしている。
【0016】
滑り止め材14の内部は、
図2(b)、(c)に示すように、グリップ層16、保形層18及び接着層20が重なって一体化した多層構造になっている。
【0017】
まず、各層の材質等を説明すると、グリップ層16は、ショアA硬度が25~55の範囲のエラストマーで構成される。エラストマーは、例えばポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂等の合成樹脂、又は天然ゴム、若しくはシリコンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム等の合成ゴムを使用することが好ましく、安価で入手しやすいポリウレタン系樹脂を使用することがより好ましい。ポリウレタン樹脂の一例をあげると、脂肪族系又は脂環式化合物系のポリイソシアネートと、ポリエステルポリオールとを調合し、さらにヒンダートアミン光安定剤を0.01~2.0%、フェノール系酸化防止剤、又はリン系酸化防止剤若しくはこれらのブレンドを0.01~2.0%、ベンゾトリアゾール系若しくはベンゾフェノン系若しくはトリアジン系の紫外線吸収剤を0.01~2.0%添加した2液混合型ポリウレタン樹脂を使用するのがより好ましい。この2液混合型ポリウレタン樹脂を使用することによって、紫外線に強く、耐摩耗性と機械的耐力性に優れたグリップ層16を得ることができ、グリップ層16と後述する接着層20との接合強度を向上させることができる。
【0018】
保形層18は、ショアA硬度がグリップ層16よりも高いエラストマーで構成され、例えば、安価で入手しやすいポリウレタン系樹脂を使用することが好ましい。また、接着層20は、接着用のエラストマーあり、例えば、衣料品の分野で一般的な熱可塑性ポリウレタン系接着剤を使用することが好ましい。
【0019】
次に、各層の構造を説明すると、グリップ層16は、保形層18の上面を覆う大きさの内側グリップ部16aと、内側グリップ部16aの両側に連続する外側グリップ部16b(1),16b(2)とを有している。また、接着層20は、保形層18の下面を覆う大きさの内側接着部20aと、内側接着部20aの両側に連続する外側接着部20b(1),20b(2)とを有している。
【0020】
3つの層は、内側接着部20aの上面に保形層18と内側グリップ部16aとが順に重なって相互に接合され、外側接着部20a(1)の上面に外側グリップ部16b(1)が重なって相互に接合され、外側接着部20a(2)の上面に外側グリップ部16b(2)が重なって相互に接合される。
【0021】
保形層18の上面は、内側グリップ部16aの方向になだらかに膨出し、内側グリップ部16aの上面は、保形層18の上面に対してほぼ平行に膨出している。また、外側グリップ部16a(1)の上面は、内側グリップ部16aの上面になだらかに連続して外側グリップ部16a(1)の下面に交差している。同様に、外側グリップ部16a(2)の上面は、内側グリップ部16aの上面になだらかに連続して外側グリップ部16a(2)の下面に交差している。また、内側接着部20aの下面及び外側接着部20b(1),20b(2)の下面は面一であり、内側接着部20aと保形層18との境界部は、保形層18の方向になだらかに膨出している。
【0022】
上着10は、複数個の滑り止め材14を、接着層20を介して布地12の表面に貼着することによって形成され、各グリップ層16の上面が滑り止め面として使用される。
【0023】
滑り止め材14の機能を簡単に説明すると、滑り止め材14の表面に滑り止め対象物が接触した時、グリップ層16が適度に沈み込んで滑り止め対象物の表面にフィットし、保形層16は、グリップ層16の下面がほぼ元の形状に維持されるようにグリップ層16を支持し、滑り止め対象物に対して所定の抗力を作用させる。その結果、グリップ層16と滑り止め対象物との間に強い摩擦抵抗が発生し、滑り止め対象物をしっかりとグリップすることができる。
【0024】
また、滑り止め材14を布地12の表面に取り付けた状態で、滑り止め材14の外側グリップ部16b(1),16b(2)と布地12との境界部に、
図9に示すような角のある段差は発生しない。したがって、この境界部に強い外力Fが加わったとしても、外側グリップ部16b(1),16b(2)と布地12との接合部に大きなせん断力や引剥力が作用しにくいため、簡単には剥離しない。
【0025】
次に、滑り止め材14の滑り止め効果を確認するために行った試験とその結果について説明する。この試験には、滑り止め材14を布地12に取り付けた部材(以下、試作品10Sと称する。)と、比較用の2つの部材(以下、第一及び第二の比較例22,24と称する。)とを用意し、滑り止め対象物に対する摩擦抵抗を各々測定した。
【0026】
試作品10Sは、
図3に示す滑り止め材14を、布地12の表面に複数個並べて貼着したものである。滑り止め材14の断面のサイズは、幅が約3mm、高さが約0.67mmである。グリップ層16は、ショアA硬度が50のポリウレタン系樹脂で、厚みが約270μmである。保形層18は、ショアA硬度が50よりも高いポリウレタン系樹脂で、厚みが約200μmである。接着層20は、熱可塑性ポリウレタン系接着剤で、内側接着部20aの厚みが約200μmである。また、布地12は、ポリエステル繊維を用いた編物である。
【0027】
第一の比較例22は、
図4(a)に示すように、滑り止め材を取り付けていない布地12である。布地12は、試作品10Sの布地12と同様のものである。
【0028】
第二の比較例24は、
図4(b)に示す既存の滑り止め材26を、試作品10Sと同様の布地12の表面に複数個並べて設けたものである。滑り止め材26は、グリップ層28だけの一層構造で(保形層及び接着層を有しない)、断面のサイズは、幅が約3mm、高さが約400μmである。グリップ層28は、液状のシリコンゴム材を布地12に塗布し乾燥させることによって形成され、布地12の表面にしっかりと定着している。シリコンゴムの仕上がり状態のショアA硬度は70である。
【0029】
滑り止め対象物として用意したものは、合成皮革製のラグビーボールαとβである。ラグビーボールαは、
図5(a)に示すように、ボールの表面に、なだらかな曲面に囲まれた多数のドーム形凸部(高さ100μm程度)が高密度に形成されている。ラグビーボールβは、新規のもので
図5(b)に示すように、ボールの表面に、やや急峻な斜面に囲まれた多数のX字形凸部(高さ200μm程度)が比較的低密度に形成されている。
【0030】
図6(a)、(b)は、第一及び第二の比較例22,24及び試作品10Sの、ラグビーボールα,βに対する摩擦抵抗の測定データを示すグラフである。摩擦抵抗は、ラグビーボールα,βを一定の力で生地表面に垂直方向に押し付けた状態で測定した値である。
【0031】
滑り止め対象物がラグビーボールαの場合、
図6(a)に示すように、第一の比較例22[滑り止め材なし]の摩擦抵抗の値を初期値(基準値)とすれば、ドライ環境では、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗は一定程度大きくなり、試作品10S[滑り止め材14]の摩擦抵抗は格段に大きくなった。また、ウェット環境では、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗はほとんど変化せず、試作品10S[滑り止め材14]の摩擦抵抗は一定程度大きくなった。つまり、滑り止め対象物がラグビーボールαの場合、滑り止め材14は、ドライ環境とウェット環境の両方で、既存の滑り止め材28よりも優れた滑り止め効果が得られることが確認できた。
【0032】
滑り止め対象物がラグビーボールβの場合、
図6(b)のグラフに示すように、第一の比較例22[滑り止め材なし]の摩擦抵抗の値を初期値(基準値)とすれば、ドライ環境では、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗は一定程度小さくなり、試作品10S[滑り止め材14]の摩擦抵抗は一定程度大きくなった。また、ウェット環境でも同様に、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗が一定程度小さくなり、試作品10Sの摩擦抵抗は一定程度大きくなった。つまり、滑り止め対象物がラグビーボールβの場合、既存の滑り止め材28を取り付けることは逆効果であり(もっと滑りやすくなる)、滑り止め材14は、ドライ環境とウェット環境の両方で、優れた滑り止め効果が得られることが確認できた。
【0033】
滑り止め材14の方が既存の滑り止め材28よりも優れている大きな要因は、滑り止め材14のグリップ層16が適度に柔らかいこと(ショアA硬度が約50であること)と、柔らかいグリップ層16の厚みが適度に厚いこと(約300μmであること)であり、これによって、ラグビーボールα,βの表面の凹凸にグリップ層16の表面が良好にフィットしたと考えられる。
【0034】
その他、滑り止め材14について、グリップ層16のショアA硬度を25~55の範囲で変えた試作品と、グリップ層16の厚みを200~400μmの範囲で変えた試作品について、上記と同様の試験を行ったところ、同等の滑り止め効果が得られることが確認された。
【0035】
以上説明したように、この実施形態の滑り止め材14は、滑り止め対象物に対して優れた滑り止め効果が得られる。特に、ラグビーボールは表面に所定粗さの凹凸が形成されているので、グリップ層16の表面がラグビーボールの表面に良好にフィットして接触面積が大きくなり、従来よりも高いグリップ性能が得られる。
【0036】
また、この実施形態の上着10は、布地12の表面に滑り止め材14の接着層20を溶着させることによって容易に製作することができる。また、滑り止め材14は、布地12の表面に貼着された状態で、端部が剥がれにくい独特な構造になるので、ラグビーボールが強く接触したり強く擦れたりした時でも、或いは布地12が雑に扱われた時でも、簡単には剥離しないという特徴があり、ラグビーウェアの用途に非常に適している。
【0037】
なお、本発明の滑り止め材及び滑り止め機能付き物品は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の滑り止め材14は、ラグビーウェアの用途に好適であるが、ラグビーウェア以外の用途にも使用することができる。
【0038】
発明者は、上記の試作品10及び比較例22,24の、ラグビーボールα,β以外の対象物に対する滑り止め効果を確認する試験を行った。用意した滑り止め対象物は、合成皮革製のバイクシートの生地であり、
図5(c)に示すように、生地表面に、やや急峻な斜面に囲まれた多数のL字形凸部(高さ400μm程度)が高密度に形成されている。
【0039】
バイクシートの生地の場合、
図7に示すように、ラグビーボールα,βに対する摩擦抵抗と同様に摩擦抵抗を測定し、第一の比較例22[滑り止め材なし]の摩擦抵抗の値を初期値(基準値)とすれば、ドライ環境では、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗は各段に大きくなり、試作品10S[滑り止め材14]の摩擦抵抗はさらに大きくなった。また、ウェット環境でも同様に、第二の比較例24[既存の滑り止め材28]の摩擦抵抗は各段に大きくなり、試作品10S[滑り止め材14]の摩擦抵抗はさらに大きくなった。つまり、滑り止め対象物がバイクシートの生地の場合も、滑り止め材14は、ドライ環境とウェット環境の両方で、既存の滑り止め材28よりも優れた滑り止め効果があることが確認できた。したがって、滑り止め材14は、バイクジャケットの用途にも適していると言える。
【0040】
また、本発明の滑り止め材は、物品の表面に貼着された状態で端部が剥がれにくいという特徴や、ドライ環境とウェット環境の両方で滑り止め効果が得られるという特徴があるので、衣服や手袋等の衣料品以外にも様々な用途が考えられる。例えば、リュックサックの袋本体の背中面やベルトに滑り止め材を取り付けて使用者の身体(又は衣服)からズレにくくする用途や、洗面所の棚やキッチンのワークトップに滑り止め材を取り付けてコップや食器等を置いた時に滑りにくくする用途に好適である。
【0041】
本発明の滑り止め材の平面視の外形は、用途に合わせて自由に変更することができる。上記の滑り止め材14の場合、ラグビーウェア用の滑り止め材として最適化するため、平面視の外形を真っすぐな細長い帯状の外形にしたが、別の用途に使用する場合は、例えば
図8(a)の滑り止め材30(1)のように、湾曲(又は屈曲)した帯状の外形にしてもよいし、
図8(b)の滑り止め材30(2)のように、終端の無い環状の外形にしてもよい。また、
図8(c)の滑り止め材30(3)のように、文字を表した外形にしてもよいし、
図8(d)の滑り止め材30(4)のように、縦横比が1に近い略四角形(又は多角形)の外形にしてもよい。
【0042】
本発明の滑り止め材の製造方法は特に限定されない。ちなみに、上記の滑り止め材14の試作では、互いに独立した複数のエラストマーを積み重ね、高周波ウェルダー加工によって一体に接合するという方法を使用した。この時、滑り止め材14の仕上がり状態が、内側接着部20aと保形層18との境界部が保形層18の方向になだらかに膨出した状態になるように製造すると、保形材18と接着層20との接合強度を向上させることができた。そのため、
図2(b)等では、滑り止め材14の内側接着部20aが、外側接着部20b(1),20(b)よりも厚くなっている。しかし、内側接着部20aと保形層18との境界部を膨出させなくても所定の接合強度が得られる場合、或いは別の製造方法で製作する場合は、接着層20全体を一様な厚みにすることができると考えられる。
【符号の説明】
【0043】
10,10S ラグビーウェアの上着(滑り止め機能付き物品)
12 布地(物品本体)
14,30(1)~30(4) 滑り止め材
16 グリップ層
16a 内側グリップ部
16b(1),16(2) 外側グリップ部
18 保形層
20 接着層
20a 内側接着部
20b(1),20b(2) 外側接着部