(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021860
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】骨強化剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/18 20160101AFI20250206BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20250206BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20250206BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20250206BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20250206BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20250206BHJP
A23J 1/12 20060101ALI20250206BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20250206BHJP
A23K 10/14 20160101ALI20250206BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20250206BHJP
【FI】
A23L33/18
A61K38/02
A61P19/00
A61K36/899
A61P19/10
A23L33/105
A23J1/12
A23K10/30
A23K10/14
A23K20/147
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125878
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】390019987
【氏名又は名称】亀田製菓株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】川村 博幸
(72)【発明者】
【氏名】内山 公子
(72)【発明者】
【氏名】岩嵜(本間) 以祝
(72)【発明者】
【氏名】麻見 直美
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
2B150AA10
2B150AB03
2B150BB04
2B150CE12
2B150DD57
4B018LB10
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4C084ZA97
4C088AB74
4C088BA08
4C088CA25
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA96
(57)【要約】
【課題】コメ由来の機能性素材を有効成分とし、安全に摂取可能な骨強化剤、及び当該骨強化剤を含有する経口摂取用組成物の提供。
【解決手段】米胚乳タンパク質の加水分解物を有効成分とする、骨強化剤、前記米胚乳タンパク質が、米胚乳よりアルカリ抽出された米タンパク質である、前記記載の骨強化剤、前記米胚乳タンパク質の加水分解物が、米胚乳タンパク質をタンパク質分解酵素による酵素処理して得られた消化物である、前記記載の骨強化剤、及び、前記いずれかに記載の骨強化剤を含有する、経口摂取用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米胚乳タンパク質の加水分解物を有効成分とする、骨強化剤。
【請求項2】
前記米胚乳タンパク質が、米胚乳よりアルカリ抽出された米タンパク質である、請求項1に記載の骨強化剤。
【請求項3】
前記米胚乳タンパク質の加水分解物が、米胚乳タンパク質をタンパク質分解酵素による酵素処理して得られた消化物である、請求項1に記載の骨強化剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の骨強化剤を含有する、経口摂取用組成物。
【請求項5】
骨疾患の予防又は治療のために摂取される、請求項4に記載の経口摂取用組成物。
【請求項6】
前記骨疾患が骨粗鬆症である、請求項5に記載の経口摂取用組成物。
【請求項7】
幼児期から成長期に摂取される、請求項4に記載の経口摂取用組成物。
【請求項8】
飲食品、医薬品、又は飼料である、請求項4に記載の経口摂取用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨強化作用を有し、骨粗鬆症の治療や予防、成長期の骨形成促進等のために有用な食品由来の機能性素材に関する。
【背景技術】
【0002】
米胚乳に含まれるタンパク質の主要成分は、易消化性のグルテリン、グロブリン、アルブミンと、難消化性のプロラミンである。米胚乳から抽出されるタンパク質組成物を製造する方法としては、精白米や米粉に耐熱性アミラーゼを作用させ、残存するタンパク質を沈殿として回収する方法(酵素処理米タンパク質)と、精白米や米粉にアルカリ溶液を加えて抽出されるタンパク質を酸沈殿させ、これを回収する方法(アルカリ抽出米タンパク質)が公知である。米からタンパク質をアルカリ抽出する工程は、米からデンプンを精製する際にタンパク質を除去する工程と類似であるために、アルカリ抽出米タンパク質はデンプン工場の排液から回収することが可能である。
【0003】
従来、米タンパク質は、コレステロール低下作用や脂質代謝改善作用を有し、機能性食品の素材として注目されている。例えば、米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬することにより抽出され、抽出液を中和して凝集される沈殿として回収されたタンパク質(米胚乳タンパク質)は、肝臓コレステロール低下作用を有することが報告されている(特許文献1)。また、米胚乳タンパク質は、血清尿酸値低下作用を有することも報告されている(特許文献2)。
【0004】
一方で、近年の高齢化等により、骨粗鬆症をはじめとする各種の骨疾患の治療や予防に対する関心が高い。骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成による再構築(骨リモデリング)により維持されている。骨粗鬆症では、破骨細胞による骨吸収が、骨形成を上回る結果、骨強度が弱くなり、骨折等の問題が生じている。骨吸収を抑制するか、骨形成を促進することにより、骨を強化することが期待できるが、一般的に比較的長期間の治療が必要となる。このため、継続的に摂取できる、安全性の高い骨強化剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-273840号公報
【特許文献2】特開2016-172693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コメ由来の機能性素材を有効成分とし、安全に摂取可能な骨強化剤、及び当該骨強化剤を含有する経口摂取用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、米胚乳タンパク質の加水分解物が、骨強化作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明に係る骨強化剤及び経口摂取用組成物は、下記の通りである。
[1] 米胚乳タンパク質の加水分解物を有効成分とする、骨強化剤。
[2] 前記米胚乳タンパク質が、米胚乳よりアルカリ抽出された米タンパク質である、前記[1]の骨強化剤。
[3] 前記米胚乳タンパク質の加水分解物が、米胚乳タンパク質をタンパク質分解酵素による酵素処理して得られた消化物である、前記[1]又は[2]の骨強化剤。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかの骨強化剤を含有する、経口摂取用組成物。
[5] 骨疾患の予防又は治療のために摂取される、前記[4]の経口摂取用組成物。
[6] 前記骨疾患が骨粗鬆症である、前記[5]の経口摂取用組成物。
[7] 幼児期から成長期に摂取される、前記[4]の経口摂取用組成物。
[8] 飲食品、医薬品、又は飼料である、前記[4]~[7]のいずれかの経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る骨強化剤は、コメ由来であるため、比較的安全に長期間の摂取が可能であり、継続的な摂取が必要な骨粗鬆症の治療や予防、成長期の健全な骨形成の補助等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例1において、閉経後骨粗鬆症モデルのコントロール群、0.01%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.1%群)、0.01%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.01%群)、及び0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)について、大腿骨の骨破断力の測定結果(
図1(A))及び骨破断エネルギーの測定結果(
図1(B))を示した図である。
【
図2】試験例2において、閉経後骨減少モデルのコントロール群、0.01%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.1%群)、0.01%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.01%群)、及び0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)について、大腿骨の骨破断力の測定結果(
図2(A))及び骨破断エネルギーの測定結果(
図2(B))を示した図である。
【
図3】試験例2において、発育期ラットのコントロール群、0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)、及び0.3%の未消化の米タンパク質を添加した飼料を摂取させた群(R0.3%群)について、大腿骨の骨破断力の測定結果(
図3(A))及び骨破断エネルギーの測定結果(
図3(B))を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る骨強化剤は、米胚乳タンパク質の加水分解物を有効成分とする。米の食経験の豊富さから、米胚乳タンパク質の加水分解物も高い安全性が期待でき、長期間の継続摂取にも適している。
【0012】
本発明に係る骨強化剤の有効成分の原料となる米胚乳タンパク質は、米胚乳よりアルカリにて抽出後に酸で沈殿することによって回収できる。すなわち、本発明及び本願明細書における「米胚乳タンパク質」は、胚乳中のアルカリ可溶性タンパク質である。
【0013】
本発明で用いられる米胚乳タンパク質は、米や米粉のような米胚乳を含む組織を、アルカリ溶液に浸漬させることで、抽出される。米から抽出する場合には、アルカリ溶液に浸漬させた米を湿式磨砕等により粉砕すると、米の組織中に含まれるタンパク質も抽出されるため、回収率を高めることができる。米粉を用いる場合には、アルカリ溶液中に1時間~1昼夜浸漬することで、米胚乳タンパク質が高効率で抽出される。
【0014】
原料とする米や米粉は、米胚乳を含むものであれば特に限定されるものではなく、玄米、胚芽米、精白米、発芽玄米のいずれであってもよい。精白米の場合、その搗精度は特に限定されるものではなく、50%程度であってもよく、90%以上であってもよい。また、原料となる米の品種は、特に限定されるものではなく、ジャポニカ種(Oryza sativa subsp. japonica)、インディカ種(Oryza sativa subsp. Indica)、ジャバニカ種(Oryza sativa subsp. javanica)であってもよい。また、ジャポニカ種のうち、日本晴、コシヒカリ、ササニシキなど様々な品種の米やその米粉を用いることができる。
【0015】
抽出に用いられるアルカリは、特に限定されるものではないが、最終製品へ持ち込まれた際の安全性の点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等が好ましい。抽出に用いるアルカリの濃度は0.1~2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.15~0.25質量%である。
【0016】
アルカリ抽出により得られたタンパク質溶液には、目的の米胚乳タンパク質に加えて、アルカリ可溶性の繊維質が多量に含まれていることから、これを目開きの細かい篩や濾布等を用いて除去することが好ましい。除去処理後のタンパク質溶液に、酸を加えてpH5~6に調整することにより、凝集するタンパク質を沈殿として回収することができる。当該酸としては、中和力の強さと安全性の点から、塩酸、硫酸等が好ましい。当該沈殿は、遠心分離処理や濾過処理など、公知の固液分離処理で行うことができる。回収されたタンパク質凝集体を適宜水洗し、これを気流乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥等を用いて乾燥することで、米胚乳タンパク質を得ることができる。
【0017】
タンパク質溶液をあらかじめ50℃程度に加熱した後に中和する場合には、pH7でもタンパク質の凝集体が得られ、これを80℃以上に加熱すると凝集体がさらに大きく成長することから、遠心分離処理を行わずとも、篩やフィルタープレス等の濾過処理によりタンパク質の凝集体を効率良く回収することができる。
【0018】
本発明に係る骨強化剤の有効成分としては、米胚乳タンパク質をいずれの方法で加水分解して得られた加水分解物であってもよい。有効成分とする米胚乳タンパク質の加水分解物としては、米胚乳タンパク質をタンパク質分解酵素により消化して得られた消化物であってもよく、米胚乳タンパク質を酸加水分解して得られた消化物であってもよく、米胚乳タンパク質をアルカリ加水分解して得られた消化物であってもよい。酸加水分解処理及びアルカリ分解処理は、常法により行うことができる。
【0019】
本発明に係る骨強化剤の有効成分としては、米胚乳タンパク質をタンパク質分解酵素により消化して得られた消化物であることが好ましい。当該タンパク質分解酵素としては、特に限定されるものではなく、エンドプロテアーゼ(プロテイナーゼ)であってもよく、ペプチダーゼであってもよい。当該タンパク質分解酵素としては、プロテイナーゼK;トリプシン、キモトリプシン、サブチリシン等のセリンプロテアーゼ;パパイン、カルパイン等のシステインプロテアーゼ;ペプシン、レンニン等のアスパラギン酸プロテアーゼ;サーモリシン、カルボキシペプチダーゼA等のZnプロテアーゼ等が挙げられる。本発明に係る骨強化剤の有効成分としては、米胚乳タンパク質をこれらのタンパク質分解酵素の1種又は2種以上を組み合わせて酵素処理した消化物であることが好ましい。
【0020】
米胚乳タンパク質のタンパク質分解酵素による消化反応における酵素反応温度や反応時間、反応液の組成は、使用する酵素に応じて適宜調整される。例えば、米胚乳タンパク質を水又は適切な組成のバッファーに溶解させた溶液にタンパク質分解酵素を添加し、pH6.0~10.0、20~55℃で、10分間~6時間インキュベートすることにより、米胚乳タンパク質の酵素消化物を得ることができる。酵素反応終了後には、加熱処理を行い、酵素を失活させることが好ましい。
【0021】
本発明に係る骨強化剤の有効成分としては、米胚乳タンパク質の少なくとも一部が、アミノ酸残基長が30個以下のペプチドになるまで消化させたものであることが好ましい。本発明に係る骨強化剤の有効成分としては、特に、加水分解物中のペプチド全体に占めるアミノ酸残基長が30個以下のペプチドの割合が、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。加水分解物中のペプチド全体に占めるアミノ酸残基長が30個以下のペプチドの割合の上限値は特に限定されるものではなく、100質量%であってもよく、90質量%以下とすることもでき、75質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0022】
加水分解処理後の消化物は、そのまま本発明に係る骨強化剤の有効成分として用いることができるが、加水分解物と未分解物を分離して精製した精製物を有効成分とすることが好ましい。例えば、消化物を、目的の加水分解物は上清画分に存在し、未分化物は沈殿するような遠心力で遠心分離処理する。これにより、上清画分を回収することで、未分化物から分離させた加水分解物を得ることができる。その他、当該精製の方法としては、分子サイズクロマトグラフィー、限外濾過膜処理、精密濾過膜処理等のような、タンパク質やペプチドを分子の大きさで分画する各種の方法を用いることができる。
【0023】
加水分解処理後の消化物又はその精製物は、溶液状のまま、本発明に係る骨強化剤の有効成分としてもよく、乾燥させて粉末化させてもよい。粉末化のための乾燥方法は、特に限定されるものではなく、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、熱風乾燥法など、各種の乾燥方法を使用することができる。
【0024】
本発明に係る骨強化剤は、有効成分である米胚乳タンパク質の加水分解物のみからなるものであってもよく、他の成分と共に製剤化されたものであってもよい。当該他の成分としては、米胚乳タンパク質の加水分解物による骨強化作用を損なわないものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料、着色料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。これらの添加剤としては、医薬品や飲食品の添加剤として使用されているものから適宜選択して用いることができる。
【0025】
本発明に係る骨強化剤の剤型は、特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。当該剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、スプレー剤等の経口投与に適したものが好ましい。
【0026】
本発明に係る骨強化剤は、飲食品、医薬品、飼料等の経口摂取用組成物の有効成分としても好適である。本発明に係る骨強化剤を有効成分として含有させることにより、骨強化のために経口摂取される経口摂取用組成物を製造できる。本発明に係る骨強化剤を含有させた飲食品、医薬品、飼料等は、いずれも原料として本発明に係る骨強化剤を使用する以外は、常法により製造できる。
【0027】
本発明に係る骨強化剤は、特に、骨強化により病態の改善が期待できる骨疾患の治療や予防のために摂取される医薬品、機能性食品、飼料等の有効成分として有用である。当該骨疾患としては、骨粗鬆症、骨折、関節炎、リウマチ、骨の発育障害等が挙げられる。本発明に係る骨強化剤は、健常者の骨強化にも有効であり、かつ長期間比較的安全に摂取が可能であるため、本発明に係る骨強化剤は、幼児期から成長期にかけての骨の正常な発育の維持や、成人における骨強度の向上等を目的として摂取される機能性食品や飼料の有効成分としても好適である。
【0028】
本発明に係る骨強化剤又はそれを含有する経口摂取用組成物の投与量は、米胚乳タンパク質の加水分解物による骨強化作用を奏するために充分な量であればよく、投与対象の生物種、性別、年齢、体重、食餌、投与の形態、骨代謝の状態等によって異なる。例えば、成人(体重60kgとして)に対する有効成分の1日当たりの投与量は、米胚乳タンパク質の加水分解物として0.1~20gが好ましく、0.1~10gがより好ましく、0.1~1gがさらに好ましい。このような投与量を1回又は数回に分けて投与することができる。
【0029】
本発明に係る骨強化剤は、哺乳動物に経口摂取されるものであることが好ましく、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物に摂取されるものであることがより好ましく、ヒトに摂取されるものであることがさらに好ましい。
【実施例0030】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0031】
以降において、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0032】
<ラット>
以降の実験において、5週齢のSD系雌ラット(日本クレア社より入手)を用いた。飼育は、室温25±1℃、湿度50±5%、12時間ごとの明暗サイクルの環境にて行い、飼料及び脱イオン蒸留水は自由摂取とした。
【0033】
[実施例1]
米胚乳タンパク質を酵素処理した消化物を調製した。原料として用いた精製した米胚乳タンパク質は、特許文献2に記載の方法で米粉より調製した。
【0034】
精製した米胚乳タンパク質とタンパク質分解酵素(Znプロテアーゼ又はセリンプロテアーゼ)とを水に溶解し、米胚乳タンパク質の終濃度が50g/Lである反応液(pH7.0)を調製した。当該反応液を、37℃で4時間インキュベートすることにより、酵素反応を行った。酵素反応終了後の反応液(消化液)は、ボイル(100℃、10分間)して酵素反応を停止させた後、遠心分離処理(5000×g、10分間)を行い、上清を回収した。回収した上清を、凍結乾燥機により乾燥させ、米胚乳タンパク質消化物(米タンパク質消化物A又はB)を得た。
【0035】
[試験例1]
実施例1で調製した米タンパク質消化物A又はBを、閉経後骨粗鬆症モデルに投与し、in vivoにおける効果を検証した。具体的には米胚乳タンパク質消化物Bの投与が、ラットの骨強度に及ぼす影響を検証した。
【0036】
5週齢のラットに対して、卵巣摘出(OVX)後、4週間の低カルシウム(Ca)食(0.01%)飼育を行い、閉経後骨粗鬆症モデルを作成した。
【0037】
閉経後骨粗鬆症モデルを、飼料をそのまま摂取させた群(コントロール群)、0.01%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.1%群)、0.01%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)の5群に分け、4週間飼育した。試験食飼育期間中の飼料中のカルシウム含有量は0.3%とした。4週間後に解剖を行い、大腿骨を回収した。
【0038】
回収した大腿骨の骨破断特性を調べるために、骨破断力(×10
6dyn)及び骨破断エネルギー(×10
5erg)を、応力-ひずみ測定装置を用いて測定した。骨破断力の測定結果を
図1(A)に、骨破断エネルギーの測定結果を
図1(B)に、それぞれ示す。
図1(A)に示すように、A0.1%群及びB0.1%群の大腿骨の骨破断力は、コントロール群と比較して有意な(A0.1%群:p=0.001、B0.1%群:p=0.007)高値を示した。また、
図1(B)に示すように、A0.1%群及びB0.1%群の大腿骨の骨破断エネルギーは、コントロール群と比較して有意な(A0.1%群:p=0.001、B0.1%群:p=0.061)高値を示した。これらの結果から、米胚乳タンパク質消化物は、骨強化作用を有していることが明らかであり、骨粗鬆症の治療に有効であることが示唆された。
【0039】
[試験例2]
実施例1で調製した米タンパク質消化物A又はBを、閉経後骨減少モデルに投与し、骨強度に及ぼす影響を検証した。
【0040】
5週齢のラットに対して、卵巣摘出(OVX)を施し、閉経後骨減少モデルとした。
【0041】
閉経後骨減少モデルを、飼料をそのまま摂取させた群(コントロール群)、0.01%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Aを添加した飼料を摂取させた群(A0.1%群)、0.01%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.01%群)、0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)の5群に分け、8週間飼育した。試験食飼育期間中の飼料中のカルシウム含有量は0.3%とした。8週間後に解剖を行い、大腿骨を回収し、試験例1と同様にして、骨破断力(×106dyn)及び骨破断エネルギー(×105erg)を測定した。
【0042】
各群のラットの骨破断力の測定結果を
図2(A)に、骨破断エネルギーの測定結果を
図2(B)に、それぞれ示す。
図2(A)に示すように、大腿骨の骨破断力は、A0.01%群、B0.1%群、及びB0.1%群は、コントロール群と比較して有意な高値を示した。また、
図2(B)に示すように、A0.01%群の大腿骨の骨破断エネルギーは、コントロール群と比較して有意な高値を示した。B0.1%群とB0.1%群は、有意差は認められなかったものの、コントロール群と比較して高値であった。これらの結果から、米胚乳タンパク質消化物は、骨強化作用を有していることが明らかであり、骨粗鬆症の予防にも有効であることが示唆された。
【0043】
[試験例3]
実施例1で調製した米タンパク質消化物Bを、5週齢の健常ラットに投与し、発育期の骨形成に及ぼす影響を検証した。
【0044】
1週間の順化期間を経て、5週齢のSD系雌ラットを、飼料をそのまま摂取させた群(コントロール群)、0.1%の米タンパク質消化物Bを添加した飼料を摂取させた群(B0.1%群)、0.3%の米タンパク質(未消化物)を添加した飼料を摂取させた群(R0.3%群)の3群に分け、60日間飼育した。試験食飼育期間中の飼料中のカルシウム含有量は0.3%とした。60日後に解剖を行い、大腿骨を回収し、試験例1と同様にして、骨破断力(×105dyn)及び骨破断エネルギー(×106erg)を測定した。
【0045】
各群のラットの骨破断力の測定結果を
図3(A)に、骨破断エネルギーの測定結果を
図3(B)に、それぞれ示す。
図3(A)及び(B)に示すように、大腿骨の骨破断力と骨破断エネルギーの両方とも、B0.1%群はコントロール群と比較して有意な高値を示した。これらの結果から、米胚乳タンパク質消化物が有する骨強化作用は、発育期の骨形成においても有効であることが明らかである。一方で、R0.3%群はコントロール群と同程度であったことから(
図3(A)及び(B))、未消化の米胚乳タンパク質は骨強化作用を有しないと考えられた。