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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021872
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】低分子ヒアルロン酸製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20250206BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20250206BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20250206BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20250206BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20250206BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250206BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20250206BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K8/98
A61Q1/00
A61Q19/00
A61K8/73
A61K31/728
A61Q7/00
A23L33/125
A23L33/10
C12P1/02 Z
C12P19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125902
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】521435802
【氏名又は名称】バイオサイエンステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C083
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4B018MD18
4B018MD27
4B018MD72
4B018MD80
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B064AF11
4B064CA05
4B064CC30
4B064CD25
4B064DA01
4B064DA10
4C083AA071
4C083AA072
4C083AD331
4C083AD332
4C083CC01
4C083EE03
4C083FF01
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA05
4C086ZA89
4C090AA04
4C090BA67
4C090BB12
4C090BB18
4C090BB33
4C090BC27
4C090CA42
4C090CA43
4C090DA23
4C090DA26
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】低分子ヒアルロン酸を簡単な方法で製造することを課題とする。
【解決手段】発酵により麹が生成した分解酵素により動物性組織に含まれるヒアルロン酸を分解して低分子ヒアルロン酸を製造する低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織に麹を加えることで発酵させて低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する動物性組織発酵工程を備えたことを特徴とする低分子ヒアルロン酸製造方法とした。これにより、発酵により低コストで美容効果が高い成分を含む低分子ヒアルロン酸を製造することができる。また、この動物性組織発酵工程により低分子化コンドロイチンを製造することができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵により麹が生成した分解酵素により動物性組織に含まれるヒアルロン酸を分解して低分子ヒアルロン酸を製造する低分子ヒアルロン酸製造方法であって、
前記動物性組織に麹を加えることで発酵させて低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する動物性組織発酵工程を備えたことを特徴とする低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項2】
前記動物性組織発酵工程では、卵殻膜を用いて発酵させることを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項3】
前記動物性組織発酵工程で生成した前記発酵分解液には、前記動物性組織に含まれるコンドロイチンを分解した低分子コンドロイチンが含まれることを特徴とする請求項2に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項4】
前記動物性組織発酵工程では、鶏冠を用いて発酵させることを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項5】
前記動物性組織発酵工程の前に、種麹に前記動物性組織を加えて前記麹を生成する麹生成工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項6】
前記動物性組織発酵工程の後に、前記発酵分解液における殺菌及び酵素を不活性にする不活性化工程を備えたことを特徴とする請求項1―5のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項7】
前記不活性化工程の後に、前記発酵分解液から固形分を除去する固形分除去工程を備えたことを特徴とする請求項6に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。
【請求項8】
前記固形分除去工程により固形分が除去された後の前記発酵分解液を乾燥させる乾燥工程を備えたことを特徴とする請求項7に記載の低分子ヒアルロン酸製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵により動物性組織を分解して低分子ヒアルロン酸を製造する低分子ヒアルロン酸製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、ムコ多糖類のひとつでグルコサミンと グルクロン 酸が直鎖状になった分子量数百万の高分子化合物である。動物組織中に広く存在し、高い保水性を有する為、化粧品、食べ物や医薬品等の産業分野に広く応用される。
しかし、高分子のヒアルロン酸は保水性が高いものの身体への吸収性や浸透性が低いため低分子化が望まれている。
特に、卵殻膜や鶏冠等の動物性組織を分解して得られる低分子ヒアルロン酸は、浸透吸水性が育毛や健康増進などに有効であるとされている。
【0003】
特許文献1には、卵殻膜粉末をアルカリ水溶液中で加水分解して、加水分解性卵殻膜を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特許第6410229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような加水分解では、卵殻膜に6%程度含まれているムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン等)が分解され過ぎてしまってヒアルロン酸やコンドロイチンの特性がなくなるともに、薬剤を使用する為後処理が必要となる等の問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決して、低分子ヒアルロン酸や低分子コンドロイチンを簡単な方法で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、発酵により麹が生成した分解酵素により動物性組織に含まれるヒアルロン酸を分解して低分子ヒアルロン酸を製造する低分子ヒアルロン酸製造方法であって、
前記動物性組織に麹を加えることで発酵させて低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する動物性組織発酵工程を備えたことを特徴とする低分子ヒアルロン酸製造方法を提供するものである。
【0008】
この構成により、麹が産出するアミラーゼや他の多種類の酵素分解により低コストで美容に効果が高い成分を多く含む低分子ヒアルロン酸を製造することができる。特に、低分子ヒアルロン酸は、人の肌に吸水されやすく、肌の保湿性を高め、乾燥によるしわの改善効果が期待される成分である。
ここで、生成された低分子ヒアルロン酸は分子量が10,000以下と推定される。
【0009】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程では、卵殻膜を用いて発酵させる構成としてもよい。
【0010】
この構成により、比較的入手が容易な卵殻膜を用いて発酵させて低分子ヒアルロン酸を製造することができる。
【0011】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程で生成した前記発酵分解液には、前記動物性組織に含まれるコンドロイチンを分解した低分子コンドロイチンが含まれる構成としてもよい。
【0012】
この構成により、低分子ヒアルロン酸に加えて、人の肌に吸水されやすい低分子化されたコンドロイチンを製造することができる。
【0013】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程では、鶏冠を用いて発酵させる構成としてもよい。
【0014】
この構成により、今まであまり活用されてこなかった鶏冠を用いて低分子ヒアルロン酸を製造することができる。
【0015】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程の前に、種麹に前記動物性組織を加えて前記麹を生成する麹生成工程を備えた構成としてもよい。
【0016】
この構成により、種麹から麹菌を培養することにより、麹菌がプロテアーゼ等のタンパク分解酵素や、アミラーゼ等糖分解酵素を産出することができる。
【0017】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程の後に、前記発酵分解液における殺菌及び酵素を不活性にする不活性化工程を備えた構成としてもよい。
【0018】
この構成により、濾過された分解液に含まれるプロテアーゼやアミラーゼによるタンパク質やムコ多糖類の過分解を止め、麹菌の増殖を停止させることができる。
【0019】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記不活性化工程の後に、前記発酵分解液から固形分を除去する固形分除去工程を備えた構成としてもよい。
【0020】
この構成により、化粧品原料として不要な固形分である未分解の卵殻膜と麹菌の菌体を除去することができる。
【0021】
低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記固形分除去工程により固形分が除去された後の前記発酵分解液を乾燥させる乾燥工程を備えた構成としてもよい。
【0022】
この構成により、使い勝手のよい粉状の低分子ヒアルロン酸を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の低分子ヒアルロン酸製造方法により、低コストで美容効果が高い低分子ヒアルロン酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0024】
本発明の実施例1における低分子ヒアルロン酸製造方法について説明する。実施例1における低分子ヒアルロン酸製造方法は、麹から産出されるプロテアーゼなどのタンパク分解酵素により動物性組織に含まれるヒアルロン酸を分解する動物性組織発酵工程を備えている。
【0025】
出願人は以前、卵殻膜を発酵させて発酵分解卵殻膜液を生成することに成功した(特許第7237291号、特許第7237292号)が、今回、さらに発酵分解液の中に発酵分解により低分子化されたヒアルロン酸が含まれていることを発見した。低分子ヒアルロン酸は、人に吸収されやすく、肌の保湿性を高め、乾燥によるしわの改善効果が期待される成分である。
【0026】
実施例1においては、動物性組織発酵工程を実施して低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する。動物性組織発酵工程は、粗粉砕された卵殻膜をタンクに投入し麹を加える。実施例1における麹は醤油麹、米麹や豆麹等の任意の麹を用いることができる。そして、卵殻膜10~100gに対して麹を投入すると、およそ25℃~45℃で酵素分解がおきる。この状態で0.5~7日間熟成させると、麹が分泌するプロテアーゼ酵素、ペプチダーゼ酵素、及びアミラーゼによりタンパク質やムコ多糖類を分解する。そして、発酵が終わると低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる混濁液(以下「発酵分解液」ともいう。)となる。
【0027】
このように、動物性組織発酵工程による発酵分解の結果、ヒアルロン酸は発酵前の分子が分解されて低分子化ヒアルロン酸が含まれた発酵分解液が得られる。また、発酵分解液中には、低分子化されたコンドロイチンが含まれていることがわかった。低分子コンドロイチンは低分子ヒアルロン酸と同様、人の肌に吸水されやすく、肌の保湿性を高め、乾燥によるしわの改善効果が期待される。
【0028】
なお、実施例1においては、動物性組織として卵殻膜を用いたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、鶏冠を用いて動物性組織発酵工程を実施しても低分子ヒアルロン酸、低分子コンドロイチンを製造することができる。
【0029】
このように、実施例1においては、発酵により麹が生成した分解酵素により動物性組織に含まれるヒアルロン酸を分解して低分子ヒアルロン酸を製造する低分子ヒアルロン酸製造方法であって、
前記動物性組織に麹を加えることで発酵させて低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する動物性組織発酵工程を備えたことを特徴とする低分子ヒアルロン酸製造方法により、低コストで美容効果が高い低分子ヒアルロン酸や低分子コンドロイチンを簡単な方法で製造することができる。
【実施例0030】
本発明の実施例2においては、動物性組織発酵工程の前に、種麹から麹を生成する麹生成工程を備えた点で実施例1と異なっている。
【0031】
実施例2における麹生成工程では、種麹から麹を生成する。滅菌水5lに同じく滅菌処理した卵殻膜10~100g(乾燥重量)、ブドウ糖10~100gを入れ、麹菌液10mlを加えて25℃~45℃で1日~1週間曝気しながら攪拌する。この間、麹菌はプロテアーゼやペプチダーゼといったタンパク分解酵素や糖分解酵素のアミラーゼを産出する。そして、それら酵素を液中に溶出させる。
【0032】
次に、麹生成工程で生成した麹を使って、動物性組織発酵工程を実施して低分子ヒアルロン酸が少なくとも含まれる発酵分解液を生成する。動物性組織発酵工程は、粗粉砕された卵殻膜又は鶏冠をタンクに投入し、麹生成工程で生成された麹を加える。実施例2における麹は醤油麹、米麹や豆麹等の任意の麹を用いることができる。そして、卵殻膜10~100gに対して麹を投入すると、およそ45℃で酵素分解がおきる。この状態で0.5~7日間熟成させると、麹が分泌するプロテアーゼ酵素、ペプチダーゼ酵素、及びアミラーゼによりタンパク質や糖を分解する。そして、発酵が終わると低分子ヒアルロン酸を含む混濁液(以下「発酵分解液」ともいう。)となる。
【0033】
このように、実施例2においては、動物性組織発酵工程の前に、種麹から麹を生成する麹生成工程を備えたことで、種麹から麹を培養することにより、麹菌がプロテアーゼ等のタンパク分解酵素や、アミラーゼ等糖分解酵素を産出することができる。
【実施例0034】
本発明の実施例3は、低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程の後に、前記発酵分解液における殺菌及び酵素を不活性にする不活性化工程を備えた点で実施例1、実施例2と異なっている。
【0035】
実施例3においては、動物性組織発酵工程の後に、殺菌及び酵素を不活性にする不活性化工程を実施する。これにより、発酵分解液には濾過しても低分子ヒアルロン酸や低分子コンドロイチンが含まれているが、不活性化工程を実施することによってペプチドのさらなる分解を阻止し、麹菌の繁殖を止め、雑菌による腐敗を防止できる。
【0036】
不活性化工程では、動物性組織発酵工程で分解された発酵分解卵殻膜液を10分~3時間60~90℃で加熱するとよいが、多くの場合は、30分間70℃に加熱することで、殺菌及び酵素を不活性にすることができる。
【0037】
このように実施例3においては、低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記動物性組織発酵工程の後に、前記発酵分解液における殺菌及び酵素を不活性にする不活性化工程を備えた構成により、濾過された分解液に含まれるプロテアーゼによって麹菌や雑菌の分解が進むことや雑菌が繁殖し腐敗が起こることを防止できる。
【実施例0038】
本発明の実施例4は、不活性化工程の後に、不活性化された発酵分解液から固形分を除去した発酵分解液とする固形分除去工程を備えた点で実施例3と異なっている。
【0039】
実施例4においては、不活性化工程の後に、不活性化された発酵分解液から固形分を除去した発酵分解液とする固形分除去工程を実施する。これにより、化粧品原料として不要な固形分である未分解の卵殻膜や鶏冠と麹菌の菌体を除去することができる。
【0040】
具体的には、固形分除去工程では、布袋等に発酵分解卵殻膜液を入れて絞ることで実施できる。又は、ろ紙などで濾過してもよく、遠心分離機で固形分を除去してもよい。
【0041】
このように、実施例4においては、低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記不活性化工程の後に、前記発酵分解液から固形分を除去する固形分除去工程を備えた構成により、化粧品原料として不要な固形分である未分解の卵殻膜と麹菌の菌体を除去することができる。
【実施例0042】
本発明の実施例5においては、固形分除去工程により固形分が除去された後の前記発酵分解液を乾燥させる乾燥工程を備えた点で実施例4と異なっている。
【0043】
実施例5においては、固形分除去工程により固形分が除去された後の前記発酵分解液を乾燥させる乾燥工程を実施する。乾燥工程では、スプレードライ製法等の公知の方法で行うことができる。乾燥工程により、使い勝手のよい粉末状の発酵分解卵殻膜とすることができる。
【0044】
このように、実施例5においては、低分子ヒアルロン酸製造方法であって、前記固形分除去工程により固形分が除去された後の前記発酵分解液を乾燥させる乾燥工程を備えた構成により、使い勝手のよい粉状の発酵分解卵殻膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明における低分子ヒアルロン酸製造方法は、卵殻膜や鶏冠に限定されず、乳製品、卵黄等の動物性組織の発酵分解を利用する分野に広く用いることができる。