(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021932
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】滑り止め構造
(51)【国際特許分類】
B21H 7/14 20060101AFI20250206BHJP
B23P 9/02 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B21H7/14
B23P9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126048
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】520257337
【氏名又は名称】株式会社IKS
(71)【出願人】
【識別番号】510127620
【氏名又は名称】池原工業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 等
(57)【要約】
【課題】 滑り止め部が露出する場合には、水分などの付着によっても滑り止め性能が失われず、滑り止め部が滑り止め材で被覆される場合には、更に、被着物との接合面積が予定どおり確保でき、抜け止め、回り止めとして有効に機能する金属部材の滑り止め構造の提供。
【解決手段】 金属部材の表面の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、前記金属部材の表面に複数の陥没部2と前記陥没部2,2に挟まれた複数の隆起部3からなるローレット目を備え、前記陥没部2及び隆起部3は、各々の法面4として成形された転写部を備え、前記隆起部3は、各々の頂部に前記法面4の上端縁に挟まれた非転写部5を備え、前記非転写部5の夫々に不規則な凹凸を備えることを特徴とする金属部材の滑り止め構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の表面の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、
前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、
前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、
前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、
前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備えることを特徴とする金属部材の滑り止め構造。
【請求項2】
金属部材の表面の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、
前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、
前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、
前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、
前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備え、
前記隆起部に挟まれた陥没部は、各々の最深部に平坦面又は曲面として成形された転写部を備えることを特徴とする金属部材の滑り止め構造。
【請求項3】
前記非転写部の不規則な凹凸は、塑性変形により前記陥没部から非転写部へ押し出された素材で形作られることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の金属部材の滑り止め構造。
【請求項4】
金属部材の一部又は全部を合成樹脂部材で被覆した構造物において前記金属部材の表面における合成樹脂部材の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、
前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、
前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、
前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、
前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備えることを特徴とする合成樹脂部材と金属部材との滑り止め構造。
【請求項5】
金属部材の一部又は全部を合成樹脂部材で被覆した構造物において前記金属部材の表面における合成樹脂部材の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、
前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、
前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、
前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、
前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備え、
前記隆起部に挟まれた陥没部は、各々の最深部に平坦面又は曲面として成形された転写部を備えることを特徴とする合成樹脂部材と金属部材との滑り止め構造。
【請求項6】
前記非転写部の不規則な凹凸は、塑性変形により前記陥没部から非転写部へ押し出された素材で形作られることを特徴とする請求項4又は請求項5のいずれかに記載の合成樹脂部材と金属部材との滑り止め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業時や運動時における手掛かり若しくは足掛かりとなる金属部品の滑り止め構造、又は他の部品と連結され若しくは覆われる金属部品の接合部における滑り止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属に細かい凹凸状の加工を施す加工方法のひとつとしてローレット加工が知られている。
ローレット加工については、被加工対象(以下、「ワーク」と記す。)の表面を削り取る切削加工と、ワークを転がしながら圧力を加えて変形させる転造加工が存在し、切削加工では、主に旋盤で回転させているワークに転造工具(以下、「ダイス」と記す。)を押し付け、等間隔の溝を形成するように削ると言う特徴がある一方、転造加工では、施したい凹凸と同じ形態又は模様をのダイスをワークに押し付けそれらの形態又は模様をワークの表面に転写すると言う特徴がある。
【0003】
ローレット加工で形成されるローレット目に求められる第一の機能は、作業時や運動時における手掛かり若しくは足掛かりとなる金属部品に施される滑り止めとしての機能である。手掛かりや足掛かりの表面にローレット目を形成することによって、当該金属部品の表面の滑性を抑制するものである(下記特許文献1又は特許文献2参照。)。第二の機能は、複数の金属部品が連結される部分における、抜け止め、回り止めとしての機能である。即ち、圧入する部品又はインサートされる部品の接合部分にローレット加工を施すことで、摩擦や食い付きによる連結作用の強化を図るものである。
一般的に、ローレット加工では、平目又は綾目と言う模様が与えられるが、斜目や四角目などと呼ばれるローレット目も存在する。
【0004】
従来のローレット目は、切削によるローレット加工にあっては、旋盤に切削ダイスを装着し、素材を強い圧力で模様を切り込むものである。この加工方法は素材の表面を削り取ることになるため、削り屑が出る他、切削部分に尖鋭なバリが発生する。
転造によるローレット加工にあっては、旋盤に転造ダイスを装着し、当該転造ダイスを素材に高圧で押し当て、転造工具の加圧面の模様を転写するものである。この加工法は、素材を削らないため削り屑は発生せず、塑性変形により、前記模様を形作る陥没部と当該陥没部に沿って盛り上げられた隆起部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭58-69700号公報
【特許文献2】特開2001-25143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のローレット目は、切削によるローレット加工にあっては、バリ取りや防食処理などを目的とするコーティングが施されることによって、ローレット目の滑り止め効果が減退し、転造によるローレット加工にあっては、隆起部が滑らかとなる様に転造されるため、汗や雨その他の水分の付着によって滑り止め効果が弱い構成となる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、滑り止め部が露出する場合には、水分などの液体の付着によっても滑り止め性能が失われず、滑り止め部が他の部材で被覆される場合には、更に、被着物との接合面積が予定どおり確保でき、抜け止め、回り止めとして有効に機能する滑り止め構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明による金属部材(例えば、棒材料又は輪材料など。)の滑り止め構造は、金属部材の表面の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備えることを特徴とする。
本発明による金属部材の滑り止め構造は、更に、前記隆起部に挟まれた陥没部について、各々の最深部に平坦面又は曲面として成形された転写部を備える構成を採ることができる。
【0009】
また、前記非転写部の不規則な凹凸が、塑性変形により前記陥没部から非転写部へ押し出された素材で形作られた構成、又は前記ローレット目が形成される前に金属部材の表面に施された粗面処理(例えば、ブラスト加工など。)により形作られた構成を採用することができる。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明による合成樹脂部材と金属部材との滑り止め構造は、金属部材の一部又は全部を合成樹脂部材で被覆した構造物において前記金属部材の表面における合成樹脂部材の保持力向上のための転造加工による滑り止め構造であって、前記金属部材の表面に複数の陥没部と前記陥没部に挟まれた複数の隆起部からなるローレット目を備え、前記陥没部及び隆起部は、各々の法面として成形された転写部を備え、前記隆起部は、各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備えることを特徴とする。
本発明によるよる合成樹脂部材と金属部材との滑り止め構造は、更に、前記隆起部に挟まれた陥没部について、各々の最深部に平坦面又は曲面として成形された転写部を備える構成を採ることができる。
【0011】
また、前記非転写部の不規則な凹凸が、塑性変形により前記陥没部から非転写部へ押し出された素材で形作られた構成、又は前記ローレット目が形成される前に金属部材の表面に施された粗面処理により形作られた構成を採用することができる。
ここで、塑性変形とは、変形後略元に戻らない材料を一定の力で変形させて目的の形状を得る加工を言う。
【発明の効果】
【0012】
本発明による金属部材の滑り止め構造によれば、滑り止め部におけるローレット目の、陥没部及び隆起部に各々の法面として成形された転写部を備え、前記隆起部における各々の頂部に前記法面の上端縁に挟まれた非転写部を備え、前記非転写部の夫々に不規則な凹凸を備える構造を採ることによって、当該滑り止め部に水分を帯びたとしても、比較的高い滑り止め効果を維持することができる。
【0013】
また、更に、前記隆起部に挟まれた陥没部の最深部に、前記隆起部の法面に対して鈍角に配置された平坦面又は曲面を確保した構成を採ることによって、金属部材を被覆材料でインサート成形する際や、成形後の被覆部材に金属部材を熱圧入する場合のいずれにあっても、陥没部の隅々に至るまで被覆材料が滑らかに侵入し、空気が滞留することなく空気の排出が円滑に行われるため、広い接触面積と大きな摩擦力を得ることができる。
【0014】
この様に、本発明によれば、滑り止め部が露出する場合には、水分などの付着によっても滑り止め性能が失われず、滑り止め部に被覆部材又は被覆材料を保持する場合には、更に、被覆部材又は被覆材料と金属部材との接合面積が予定どおり確保でき、抜け止め、回り止めとして有効に機能する金属部材の滑り止め構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による滑り止め構造の加工工程の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明による滑り止め構造の構成の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明による滑り止め構造の一例を示す実施態様図である。
【
図4】本発明による滑り止め構造の一例を示す正面図及び拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による滑り止め構造の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
ここで示す例は、金属部材の表面の保持力向上のための滑り止め構造であって、滑り止め部9に凹凸模様のローレット目を形成させるものである。
【0017】
この例におけるローレット目は、円断面の中実材又は中空材である線材1の表面にダイスDを押し付けて圧力を加え塑性変形を与える転造加工をもって形作られる。
この加工法は、ワークたる線材1の表面にダイスDを押し付けてダイスDに加圧された部位を陥没させると共に、当該陥没させられた部位(以下、「陥没部2」と記す。)から押し出された素材が前記陥没部2の外縁に沿って盛り上げられることをもって、凹凸模様の凸となる隆起部3を形成するものである。
【0018】
前記隆起部3は、ダイスDの加圧面が転写された定型の法面(転写部)4,4が成形され、隆起部3全体として略台形状の断面となる様に成形されるが、ダイスDに規制及び加圧されない頂部の非転写部(ダイスDの形状が転写されない部分)5には、成形されることなく押し出された素材の波紋6が当該非転写部5の外縁に沿って迫り出し、非転写部5全体として不規則で非尖鋭な凹凸が敢えて残された不整面が形成されることとなる。
ここで示す滑り止め構造は、前記転造加工をもって隆起部3の非転写部5に形成された不整面を滑り止め効果の向上に向けて活用できることに着目したものである。
【0019】
上記ローレット目を形成するために、ダイスDによる転造加工時において、隆起部3の頂部に非転写部5が形成される様なピッチ及び深さでワークに対してダイスを当てることとなる。即ち、ワークに施された転造加工により陥没部2からから押し出された素材及び当該陥没部2に面する素材のすべてがダイスDの加圧面によって転写を目的とした加圧にさらされてしまう事がないピッチや深さである。例えば、ダイスDで盛り上げられること(塑性変形)で生じた隆起部3が、当該隆起部3を挟む陥没部2,2よりも十分に幅広となる様な転造加工が挙げられる。
【0020】
かかる転造加工により、前記隆起部3は、各々の頂部にダイスDに接しない方形状の非転写部5が、素材の表面形状に副って平面的に又は曲面的に形成されると共に、前記非転写部5の周縁部に、ダイスDによって押し出された非尖鋭な盛り上がり(波紋6)が夫々形成される。
仮に、隆起部3の頂部に非転写部5が残らない場合には、概ね隆起部3を構成する素材の全ての表面がダイスDの加圧面による加圧にさらされ(隆起部3の略全てが転写部となり)迫り出した素材が過度に重なり合い、余剰の素材のバリ化やダイスDの劣化を促進する虞が生じる場合がある。
【0021】
この例において、ローレット目を形作る陥没部2又は隆起部3は、各々が平行となる様に略同じ方向へ並べた縞状の配置、又は縞状に配置された配置が90度又はそこから30度程度増減された角度で交差する格子状の配置で形成されるが、機能性又は意匠性に留意して非平行な配置を選択することもできる。
前記縞状の配置を採用した場合には、隆起部3の非転写部5に隣接する陥没部2,2の外縁に沿った波紋6が縞状に表れ、非転写部5に形成される凹凸は一次元的なものとなるが(
図1参照。)、前記格子状の配置を採用した場合には、隆起部3の非転写部5に隣接する陥没部2,2,2,2の外縁に沿った波紋6が格子状に表れ、非転写部5に形成される凹凸は二次元的なものとなる(
図2参照。)。
また、ダイスDの加圧面に、線材1へ食い込んだ際に、陥没部2の底に平坦面又は曲面を残す形状を採用することによって、前記隆起部3,3に挟まれた陥没部2を、各々の最深部に尖鋭さを排した平坦面又は曲面からなる底面7を具備する陥没部2とすることができる。
【0022】
以下、上記滑り止め構造の実施例を説明する。
図4は、金属部材の表面の保持力向上のための滑り止め構造が施された車いす(
図3参照。)のハンドリム8の一例を示したものである。
前記ハンドリム8は、アルミニウム製のコイル線材1を素材とし、製造の際、伸線加工に続いて線材1の表面に滑り止め加工が施され、所定長の円周状に成形する成形工程を経て、無端リング状としたものである。
このハンドリム8は、その少なくとも外周面を滑り止め部9とし(表面全面にわたって滑り止め部9としてもよい。)、当該滑り止め部9に複数の陥没部2と前記陥没部2,2に挟まれた複数の隆起部3からなるローレット目を備える。
ハンドリム8の滑り止め部9は、使用者の肌が直接接する部位であるため、肌への刺激を緩和する程度のバリ取り作業や薄手保護膜を形成することもできる。
【0023】
上記滑り止め構造は、当該滑り止め構造を露出させて用いられる用途として、ハンドリム8以外にも、例えば、足場ボルト(前記特許文献参照。)が挙げられる他、当該滑り止め構造を被覆して用いられる用途として、例えば、各種道具のグリップ部10、保護部材11、化粧部材12、又は複数部材の連結部13に適用することができる(
図3参照。)。
【0024】
この例は、工具や車両のグリップ部10など、金属部材の一部又は全部を合成樹脂部材やゴム部材などで被覆した構造物において、前記金属部材の表面における合成樹脂部材の保持力向上のための滑り止め構造であって、前記金属部材の表面に複数の陥没部2と前記陥没部2,2に挟まれた複数の隆起部3からなるローレット目を備える。
この例の前記ローレット目は、概ね先に示したローレット目と同じ構成である。特に、この例においては、合成樹脂部材と金属部材との接触面積を確保すべく、陥没部2の最深部に気泡が滞留し難い平坦面又は曲面からなる底面7が形成され、被覆部材又は被覆材料と金属部材との間の保持力及び摩擦力の確保は、陥没部2と隆起部3による凹凸と、隆起部3の非転写部5に不規則に形成された凹凸の波紋6で賄われる。
かかるローレット目の構成によれば、金属部材を被覆材料でインサート成形する際や、成形後の被覆部材に金属部材を熱圧入する場合のいずれにあっても、広い接触面積と大きな摩擦力を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
D ダイス,
1 線材,2 陥没部,3 隆起部,
4 法面,5 非転写部,6 波紋,7 底面,
8 ハンドリム,9 滑り止め部,
10 グリップ部,11 保護部材,12 化粧部材、13 連結部,