(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021934
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20250206BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08B5/14
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126052
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】304040072
【氏名又は名称】丸住製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】西村 朱十
(72)【発明者】
【氏名】大塚 園果
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA27
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB63
4C090BB95
4C090BC09
4C090BD08
4C090CA38
4C090DA22
4C090DA27
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】本発明は、取扱性に優れる微細セルロース繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されており、前記微細セルロース繊維の1質量%水分散液100gを、容積100mLの遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置してから略水平方向に20℃、300rpmで5分間以上振盪した後、B型粘度計を用いて、20℃、1rpmで3分間回転させて測定した粘度μ1が、100,000mPa・s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、
前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されており、
前記微細セルロース繊維の1質量%水分散液100gを、容積100mLの遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置してから略水平方向に20℃、300rpmで5分間以上振盪した後、B型粘度計を用いて、20℃、1rpmで3分間回転させることで測定した粘度μ1が、100,000mPa・s以下である、微細セルロース繊維。
【請求項2】
前記微細セルロース繊維の1質量%水分散液を、前記遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置した後、振盪することなく、B型粘度計を用いて、20℃、1rpmで3分間回転させることで測定した粘度μ0が、170,000mPa・s以上である、請求項1に記載の微細セルロース繊維。
【請求項3】
前記粘度μ1及びμ0が、下記式(1):
0.1≦μ1/μ0≦0.5 (1)
を満たす、請求項2に記載の微細セルロース繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(CNF)は、植物起因のセルロースをナノ化処理(機械的解繊やTEMPO触媒酸化等)した、繊維幅が数~数十nm、繊維長が数百nmの微小繊維である。CNFは、軽量、高弾性、高強度、低線熱膨張性を有している。そのため、CNFを含有する複合材料の利用が、工業分野のみならず食品分野や医療分野等、様々な分野で期待されている。
【0003】
CNFを機械的に解繊処理する場合、セルロース繊維間が水素結合で強固に結合しているため、CNFを得るまでに大きなエネルギーが必要である。また、得られたCNFは、繊維長等にばらつきが生じるといった問題があった。
【0004】
そこで、機械的な解繊処理工程を行う前に、予めパルプを構成するセルロース繊維をある程度ほぐした状態にする化学処理工程を行う製法が開発されている(特許文献1~4)。この製法によれば、パルプを直接機械処理する製法と比べて少ないエネルギーでCNFを得ることができる。しかも、得られたCNFのサイズのばらつきを抑制できるという利点が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-43677号公報
【特許文献2】特開2017-8472号公報
【特許文献3】特開2017-25240号公報
【特許文献4】特開2017-25468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の手法で得られるCNF等の微細セルロース繊維は、その分散液の粘度が高く、取扱性に劣るという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、取扱性に優れる微細セルロース繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の微細セルロース繊維は、
セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、
前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されており、
前記微細セルロース繊維の1質量%水分散液100gを、容積100mLの遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置してから略水平方向に20℃、300rpmで5分間以上振盪した後、B型粘度計を用いて、20℃、1rpmで3分間回転させることで測定した粘度μ1が、100,000mPa・s以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の微細セルロース繊維は、その分散液をわずかに振盪することで粘度が低下するため、取扱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の微細セルロース繊維の水分散液が密閉された遠沈管、及びかかる遠沈管が天板上に固定された振盪機を示す。
図1A及びBは、かかる遠沈管及び振盪機をそれぞれ水平方向及び鉛直方向から観察したときの写真を示す。
【
図2】
図2は、本発明の微細セルロース繊維の水分散液の振盪時間と粘度との関係を示すグラフである。
【0011】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語及び科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願及び他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[微細セルロース繊維]
本発明の微細セルロース繊維は、セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されている。本発明の微細セルロース繊維は、その分散液をわずかに振盪することで粘度が低下する。このため、本発明の微細セルロース繊維は、例えば、その分散液を容器に注ぎ入れたときの衝撃等により粘度が低下するので、取扱性に優れる。具体的には、本発明の微細セルロース繊維は、その1質量%水分散液100gを、容積100mLの遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置してから略水平方向に20℃、300rpmで5分間以上振盪した後、B型粘度計を用いて、20℃、1rpmで3分間回転させることで測定した粘度μ1が、100,000mPa・s以下である。
【0013】
前記粘度μ1の下限値は、特に限定されないが、例えば、20,000mPa・s以上である。前記粘度μ1は、例えば、20,000mPa・s~100,000mPa・s、30,000mPa・s~100,000mPa・s、40,000mPa・s~100,000mPa・s、50,000mPa・s~100,000mPa・s、60,000mPa・s~100,000mPa・sであってもよい。
【0014】
前記遠沈管としては、いかなるものを用いてもよいが、例えば、AGCテクノス・IWAKI社製の型番:2355-100N等を用い得る。また、前記振盪は、振盪機を用いて実施することが好ましい。前記振盪機としては、例えば、アズワン(株)製のラボシェイカー(往復運動)(型番:SR-1)等を用い得る。
【0015】
前記粘度μ1の測定は、振盪停止から5秒以内に開始することが好ましい。この理由としては、前記粘度μ1が振盪停止から時間が経つにつれて徐々に振盪前の元の粘度に戻ること、サンプル間で測定条件をなるべく均一に揃えることによって測定値の信頼性を確保すること、現実に実験操作にある程度の時間が必要とされること等が挙げられる。
【0016】
本発明の微細セルロース繊維は、その1質量%水分散液を、前記遠沈管に密閉し、20℃で24時間静置した後、振盪することなく、B型粘度計を用いて20℃、1rpmで3分間回転させることで測定した粘度μ0が、170,000mPa・s以上であるものであってもよい。
【0017】
本発明の微細セルロース繊維は、前記粘度μ1及びμ0が、下記式(1):
0.1≦μ1/μ0≦0.5 (1)
を満たすものであってもよい。
【0018】
本発明の微細セルロース繊維は、その水酸基の少なくとも一部が、硫酸エステル基で置換されたものである。具体的には、前記微細セルロース繊維は、それを構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グルコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が、式(2)で示される硫酸エステル基で置換されたものである。
【0019】
(-OSO3
-)r・Zr+ (2)
式(2)において、
rは、独立した1~7の自然数であり、
Zr+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属イオン、1価の遷移金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン、及び、カチオン性高分子からなる群から選択される少なくとも1つであり、r=2以上のとき、アルカリ土類金属イオン、多価金属イオン、及び、カチオン性官能基(例えば、ジアミン等)を分子内に2つ以上含む化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0020】
本発明の微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することによって、かかる繊維の親水性を向上できる。すなわち、硫酸エステル基を微細セルロース繊維に導入することによって、微細セルロース繊維を分散液に分散させた際の分散性を向上できる。しかも、導入した硫酸エステル基の電子的反発によって、分散液における分散状態を維持しやすくなる。
【0021】
また、硫酸エステル基由来の生理活性作用を微細セルロース繊維に対して付与し得る。例えば、ヘパリン類似物質として知られている硫酸化多糖の一種であるコンドロイチン硫酸は、ヒアルノニダーゼ阻害活性能や皮膚保湿作用を有することから、乾皮症、皮脂欠乏症等やアトピー性皮膚炎への適用が検討されている。本発明の微細セルロース繊維も、硫酸エステル基に基づく生理活性作用に基づく医療分野への利用が可能となる。
【0022】
なお、分散液の分散媒は、特に限定されない。例えば、水系分散媒として、水(例えば、イオン交換水、蒸留水、純水、水道水等。以下、同様。)、アルコール、ケトン、アミン、カルボン酸、エーテル、アミド等やこれらの混合物等を用い得る。
【0023】
(微細セルロース繊維における硫酸エステル基の導入量)
本発明の微細セルロース繊維における硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル基に基づく硫黄導入量で表すことができ、特に限定されないが、透明性や分散性をある程度維持することができる範囲であることが好ましい。本発明の微細セルロース繊維1g(質量)当たりの硫黄導入量は、例えば、0.4mmol/gよりも高く、0.42mmol/g~9.9mmol/g、0.5mmol/g~9.9mmol/g、0.6mmol/g~9.9mmol/gである。
【0024】
前記硫黄導入量が0.42mmol/gよりも高ければ、繊維間の水素結合が強固になりすぎず、分散性が向上する傾向にあり、0.5mmol/g以上とすれば電子的反発性をより強くさせることができるので、分散した状態を安定して維持させやすくなる。一方、前記硫黄導入量を9.9mmol/g以下とすれば、結晶性低下及び硫黄を導入する際のコスト増加を抑制できる。
【0025】
特に、分散性及び透明性の維持に着目すれば、前記硫黄導入量は、例えば、0.42mmol/gよりも高く3mmol/g以下、0.5mmol/g~3mmol/g、0.5mmol/g~2mmol/g、0.5mmol/g~1.5mmol/gである。
【0026】
(硫酸エステル基の導入量の測定方法)
本発明の微細セルロース繊維における硫黄導入量(すなわち、硫酸エステル基の導入量)は、CHNS/O元素分析装置で測定可能である。前記硫黄導入量は、電気伝導度測定により算出することもできる。なお、硫酸エステル基を導入したパルプ(以下、「硫酸エステル基導入パルプ」という。)から微細セルロース繊維を調製する場合には、かかるパルプの硫黄導入量から求めてもよい。
【0027】
本発明の微細セルロース繊維の平均繊維長及び平均繊維幅は、特に限定されないが、繊維同士がからみ易く、しかも水系分散媒に分散させた際に透明性を得やすくなるように調製されていることが好ましい。
【0028】
(微細セルロース繊維の平均繊維長)
本発明の微細セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、重合度で間接的に表すことができる。本発明の微細セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、重合度で280以上、300~1000、300~600である。
【0029】
本発明の微細セルロース繊維の重合度が280以上であれば、繊維長の低下により繊維のからまりが弱くなるのを抑制できる。一方、本発明の微細セルロース繊維の重合度が600以下であれば、分散性が高く、スラリー化したときのスラリー粘度が高くなりすぎず分散安定性が高くなり、取扱性に優れる傾向にある。
【0030】
(重合度の測定方法)
この重合度の測定方法は、特に限定されないが、例えば、銅エチレンジアミン法を用い得る。具体的には、本発明の微細セルロース繊維を0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させて、かかる溶液の粘度を粘度法によって測定すれば、本発明の微細セルロース繊維の重合度を測定できる。
【0031】
(微細セルロース繊維の平均繊維幅)
本発明の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、特に限定されないが、水系分散媒に分散させた際に透明性を得やすい太さであることが好ましい。本発明の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、例えば、電子顕微鏡で観察した際に、1nm~1000nm、2nm~500nm、2nm~100nm、2nm~30nm、2nm~20nmである。
【0032】
平均繊維幅が1nm以上であれば、セルロース分子として水に分散しているとき、微細セルロース繊維としての物性(強度、剛性、寸法安定性等)が発現しやすい。一方、平均繊維幅が1000nm以下であれば、微細セルロース繊維としての物性(透明性、強度、剛性、寸法安定性等)が得られやすい傾向にある。
【0033】
特に、取扱性や透明性が求められる用途等の観点においては、平均繊維幅は、例えば、以下の範囲内である。平均繊維幅が、30nmよりも小さいとアスペクト比が低下せず、繊維同士のからみあいが減少するのを回避できる傾向にある。さらに、平均繊維幅が、30nmよりも小さいと可視光の波長の1/10から遠ざかり、マトリックス材料と複合した場合に界面で可視光の屈折及び散乱が生じにくく、可視光の散乱が生じず、透明性が高まる傾向にある。したがって、本発明の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、取扱性や透明性の観点では、例えば、2nm~30nm、2nm~20nm、2nm~10nmである。特に、透明性の観点では、本発明の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、例えば、20nm以下、10nm以下である。平均繊維幅が10nm以下であれば、可視光の散乱をより少なくできるので、高い透明性を有する微細セルロース繊維を得ることができる。
【0034】
(平均繊維幅の測定方法)
本発明の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、公知の技術を用いて測定し得る。例えば、微細セルロース繊維を純水等の分散媒に分散させて、所定の質量%となるように分散液を調製する。そして、この分散液を、PEI(ポリエチレンイミン)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートし、このシリカ基盤上の微細セルロース繊維を観察する。観察方法としては、例えば、走査型プローブ顕微鏡(例えば、(株)島津製作所製;SPM9700)を用い得る。得られた観察画像中の微細セルロース繊維をランダムに20本選び、各繊維幅を測定し平均化すれば、微細セルロース繊維の平均繊維幅を求めることができる。
【0035】
(ヘイズ(Haze)値)
本発明の微細セルロース繊維の固形分濃度が所定の濃度となるように調整した分散液を視認した際の透明性を、ヘイズ値で評価し得る。前記固形分濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%~20質量%である。そして、かかる分散液のヘイズ値が20%以下であることが、透明性の観点から好ましい。前記固形分濃度が0.2質量%~0.5質量%である場合、この分散液のヘイズ値は、例えば、20%以下、15%以下、10%以下である。
【0036】
なお、分散液の分散媒は、例えば、水系分散媒である。水系分散媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン、アミン、カルボン酸、エーテル、アミド等やこれらの混合物等を用い得る。
【0037】
(ヘイズ値の測定方法)
ヘイズ値は、例えば、次のようにして測定し得る。前記分散媒に微細セルロース繊維を所定の固形分濃度となるように分散させる。そして、この分散液をJIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定すれば、ヘイズ値を求めることができる。
【0038】
(全光線透過率)
前記分散液の全光線透過率は、ヘイズ値が上記範囲内において、例えば、90%以上、95%以上である。全光線透過率は、例えば、次のようにして測定し得る。まず、前記分散媒に微細セルロース繊維を所定の固形分濃度となるように分散させる。そして、この分散液を、JIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定すれば、全光線透過率を求めることができる。
【0039】
[微細セルロース繊維の製造方法]
本発明の微細セルロース繊維の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下に示す方法により、硫酸エステル基導入パルプから製造し得る。本発明において、「硫酸エステル基導入パルプ」とは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材であり、含まれるセルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されたものである。
【0040】
なお、本発明の微細セルロース繊維は、繊維原料を直接、微細化処理に供することで微細セルロース繊維を得て、かかる微細セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換して製造することもできるし、以下に示すように、硫酸エステル基導入パルプを微細化して製造することもできる。後者の方法を採用すれば、微細化処理工程を行うだけで微細セルロース繊維を製造することができるという利点がある。
【0041】
[硫酸エステル基導入パルプの製造方法]
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、以下に示す方法により得ることができるが、この方法に限定されない。
【0042】
この方法の概略は、セルロースを含む繊維原料(例えば、木材系のパルプ(以下、単に「木材パルプ」という。)等)を化学処理に供することによって硫酸エステル基導入パルプを製造するものである。この化学処理工程は、前記繊維原料を、後述する硫酸エステル基供与化合物と、尿素又は尿素誘導体(以下、「尿素等」という。)とに接触させる接触工程と、この接触工程後の繊維原料を加熱反応に供してセルロースの水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換する反応工程とを含む。
【0043】
なお、本明細書において、繊維原料とは、セルロース分子を含む繊維状のパルプ等をいう。パルプとは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材である。このセルロース繊維は、複数の微細繊維(例えば、ミクロフィブリル等)が集合したものである。そして、この微細繊維とは、D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子であるセルロース分子(以下、単に「セルロース」ということがある。)が複数集合したものである。また、繊維原料は、事前に洗浄することが好ましい。例えば、200メッシュもしくは235メッシュのふるい上で水を使ってろ過脱水することで、細かすぎる微細繊維やゴミをふるい落とすことができ、製造時の取扱性が向上するため望ましい。言い換えれば、200メッシュや235メッシュの残渣となり得るサイズのセルロース繊維が集合した繊維がパルプである。
【0044】
(繊維原料)
この方法に用いられる繊維原料は、前述したようにセルロースを含むものであれば、特に限定されず、例えば、一般的にパルプといわれるものを用いてもよいし、ホヤや海藻等から単離されるセルロース等を含むものを用いることもでき、セルロース分子で構成されたものであれば、どのようなものであってもよい。前記パルプとしては、例えば、木材パルプ、溶解パルプ、コットンリンタ等の綿系のパルプ、麦わら、バガス、楮、三椏、麻、ケナフ、果物等の非木材系のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙等から調製された古紙系のパルプ等を挙げることができるが、これらに限定されない。なお、入手のしやすさの観点から、木材パルプが繊維原料として用いやすい。
【0045】
この木材パルプには、様々な種類が存在するが、使用に際して特に限定されず、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプ等が挙げられる。なお、繊維原料として前記パルプを用いる場合、1種類のパルプを単独で用いてもよいし、2種類以上のパルプを併用してもよい。
【0046】
前記硫酸エステル基供与化合物は、繊維原料に硫酸エステル基を供与可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、スルファミン酸、スルファミン酸塩、硫黄と共有結合する2つの酸素を持つスルホニル基を有するスルフリル化合物等が挙げられ、これらの化合物の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記硫酸エステル基供与化合物は、硫酸等と比べて酸性度が低く、硫酸エステル基の導入効率が高く、安価で、安全性が高いことから、スルファミン酸が好ましい。これ以降、前記硫酸エステル基供与化合物として、スルファミン酸を、前記尿素等として、尿素を用いた場合を例にとり、説明する。
【0047】
(接触工程)
接触工程は、セルロースを含む繊維原料を、スルファミン酸と、尿素とに接触させる工程である。この接触工程は、前記接触を起こさせることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、スルファミン酸及び尿素を溶媒に溶解させた反応液に繊維原料を浸漬等して反応液を繊維原料に含浸させてもよいし、繊維原料に対してかかる反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対してスルファミン酸及び尿素をそれぞれ別々に塗布したり、含浸させたり、スプレー噴霧してもよい。これらのうち、反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を用いれば、均質にスルファミン酸及び尿素を繊維原料に対して接触させやすい。
【0048】
なお、スルファミン酸及び尿素を溶解させる溶媒は、特に限定されず、例えば、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、2‐プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水のようなプロトン性極性溶媒、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。特に、スルファミン酸及び尿素を溶かしやすい観点から、水が好ましい。
【0049】
なお、この接触工程により繊維原料にスルファミン酸及び尿素を接触させた状態のものを「反応液含浸繊維」ということがある。
【0050】
(反応液の混合比)
反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に対して反応液を含浸させる方法を用いる場合、反応液に含まれるスルファミン酸及び尿素の混合比は、特に限定されない。
【0051】
(反応液の接触量)
繊維原料への反応液の接触においては、繊維原料に対して反応液中のスルファミン酸及び尿素が所定の割合となるようにすることが好ましい。具体的には、反応工程に供する反応液含浸繊維中の繊維原料に対する反応液中のスルファミン酸の量及び尿素の量が適切な量となるように接触させる。より具体的には、反応工程の加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料(乾燥質量である固形分質量)に対するスルファミン酸の接触量が、尿素の接触量と同程度かそれよりも多くなるように調整する。
【0052】
例えば、反応液は、スルファミン酸及び尿素の混合比が、質量比において、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の質量部を、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対する尿素の質量部で除した値(スルファミン酸/尿素)が0.8以上、0.85以上、1以上となるように調製する。
【0053】
また、例えば、スルファミン酸の接触量は、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して、70質量部以上、100質量部以上、200質量部以上となるように調整する。
【0054】
また、例えば、尿素の接触量、すなわち、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対する尿素の接触量は、スルファミン酸との前記関係を維持しつつ、繊維原料の固形分質量100質量部に対して、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上となるように調整する。また、尿素の接触量の上限値は、特に限定されないが、例えば、前記繊維原料の固形分質量100質量部に対して、350質量部以下、300質量部以下、250質量部以下である。
【0055】
このため、例えば、反応液における尿素の含有量(混合割合)が、スルファミン酸との関係において、スルファミン酸/尿素≧0.8を満たしつつ、接触量を以下の範囲内となるように調整することにより、得られる硫酸エステル基導入パルプの透明性を適切に向上できる。例えば、尿素の混合割合は、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して、スルファミン酸を70質量部~350質量部とした場合、20質量部~350質量部、20質量部~300質量部、20質量部~250質量部となるように調整する。
【0056】
また、例えば、スルファミン酸の混合割合を前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して150質量部~250質量部とする場合、尿素の混合割合を前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して20質量部~250質量部となるように反応液を調製してもよい。この場合、得られる硫酸エステル基導入パルプの透明性をより適切に向上できる。
【0057】
前記繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の接触量及び尿素の接触量は、例えば、反応工程に供する反応液含浸繊維の状態に応じて適宜算出できる。
【0058】
(反応液含浸繊維の状態)
前述した、次工程の反応工程に供する反応液含浸繊維の状態としては、例えば、反応液含浸繊維をそのままの状態、すなわち、繊維原料と反応液を接触させたままで積極的な水分除去を行わない状態のものや、繊維原料と反応液を接触させた状態のものから水分を積極的に除去した状態のもの、等を挙げることができる。
【0059】
前者(積極的な水分除去を行わない状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態(例えば、スラリー状の状態等を含む)のものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものから繊維原料を取り出して静置して調製したもの等を含む。
【0060】
一方、後者(積極的な水分除去を行った状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態から水分を意識的に除去したものをいう。例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態から繊維原料を取り出して風乾等により自然乾燥させて調製したものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものをろ過脱水して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに風乾して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに循環送風式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを循環送風式の乾燥機や加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、等を含む。
【0061】
このように、反応工程に供する反応液含浸繊維は、前述した積極的な水分除去を行わない状態のものや、積極的な水分除去を行ってある程度の水分を除去した状態のものであってよい。また、乾燥により水分を除去する場合には、乾燥後の水分率が1%程度であっても特に問題がない。特に、後者の方法を用いれば、反応工程へ供する反応液含浸繊維中の水分を低くできるので、反応工程の加熱反応における反応時間を短くできる。このため、硫酸エステル基導入パルプの生産性を向上し得るという利点がある。また、脱水処理を行う方法を用いれば、反応液を多量に処理する際より効率よく反応液含浸繊維を調製し得るという利点がある。
【0062】
なお、積極的に乾燥する方法を用いる場合、反応液含浸繊維の水分率が1%程度まで乾燥してもよく、1%よりもかなり低い絶乾状態にまで乾燥する方法で水分を除去してもよい。
【0063】
なお、本明細書では、反応液含浸繊維の水分率が1%以上の非絶乾状態のものを湿潤状態ともいう。例えば、反応液を含浸等させたままの状態のものやある程度脱水処理した状態のものはもちろん、ある程度乾燥処理した状態のものも、本明細書では湿潤状態ということがある。
【0064】
また、本明細書にいう絶乾とは、例えば、塩化カルシウムや五酸化二リン等の乾燥剤を入れたデシケータ等で減圧したり、長時間加熱乾燥処理を行って水分率を1%よりも低くした状態のものを意味する。
【0065】
したがって、接触工程において、前記後者の方法(積極的な水分除去を行った状態での反応方法)を用いる場合には、反応液含浸繊維の水分率を非絶乾状態にする方法を用いてもよいし、絶乾状態にする方法を用いてもよいが、好ましくは非絶乾状態にする方法を用いるのがよい。
【0066】
なお、本明細書における反応液含浸繊維の水分率は、下記式を用いて算出される。
反応液含浸繊維の水分率(%)=100-(反応液含浸繊維における固形分質量(g)/水分率測定時における反応液含浸繊維(g))×100={(水分率測定時における反応液含浸繊維(g)-反応液含浸繊維における固形分質量(g))/水分率測定時における反応液含浸繊維(g)}×100
【0067】
上記式中の反応液含浸繊維における固形分質量(g)とは、反応液含浸繊維の乾燥質量をいう。具体的には、乾燥機等を用いて試料を105℃で乾燥させて恒量となるように調整された乾燥質量をいう。例えば、反応液含浸繊維を乾燥機に入れ、所定の乾燥条件(例えば、温度105℃、2時間)で乾燥して質量を測定することにより、反応液含浸繊維から水分が除去された後の乾燥したもの(すなわち、前記乾燥条件で除去されないもの。例えば、繊維原料や反応液中の試薬等を含むもの)の質量を算出できる。また、恒量とは、処理施設内における雰囲気中の水分と原料中の水分が見かけ上出入りしなくなる状態のことを意味する。具体的には、一定時間(例えば、2時間)乾燥させた後、連続して測定した2回の質量の変化量が乾燥開始時の質量に対して1%以内となった状態を意味する(ただし、2回目の質量測定は、1回目に要した乾燥時間の半分以上とする)。
【0068】
なお、反応液を接触させる際の繊維原料の状態は、特に限定されず、例えば、乾燥した状態であってもよいし、ウェットの状態(すなわち、湿潤状態)であってもよい。
【0069】
(接触工程における予備乾燥工程)
前記例で、接触工程における反応液含浸繊維の調製方法において、積極的な水分除去を行った状態の反応液含浸繊維を調製する方法について説明したが、この方法で加熱しながら水分を除去する方法(予備乾燥工程)を用いる場合(例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを直接加熱乾燥したり、脱水処理したものを加熱乾燥するような場合等)には、加熱温度が所定の温度以下となるように調整するのが望ましい。この予備乾燥工程における乾燥温度は、特に限定されないが、反応液含浸繊維に含まれる水分や周囲の水分を除去でき、且つ、前記反応が進行しない程度の温度となるように調整されていることが好ましい。例えば、予備乾燥工程における乾燥温度として、反応液含浸繊維の雰囲気温度が100℃以下となるように調整できる。一方、作業性の観点では、50℃以上となるように調整するのが好ましい。したがって、接触工程における予備乾燥工程の乾燥温度は、好ましくは50℃~100℃、70℃~100℃である。
【0070】
(接触工程における水分調整工程)
接触工程は、反応液と接触させる繊維原料の水分率を所定の範囲内に入るように調整する水分調整工程を含んでもよい。この水分調整工程は、繊維原料が所定の水分率となるように乾燥したり、加湿したりして調整する工程である。この水分調整工程を含むことにより、反応液等と接触させる際の繊維原料中の水分量をある程度均質にできるので、連続操業における製品安定性を向上させる可能性がある。また、繊維原料をある程度乾燥して水分量を少なくすれば(例えば、水分率が1%~10%)、保管性を向上させ得るという利点がある。
【0071】
(反応工程)
前述のごとく、接触工程で調製された反応液含浸繊維は、次工程の反応工程へ供される。この反応工程は、接触工程から供された反応液含浸繊維中の、繊維原料に含まれるセルロース繊維と、スルファミン酸と、尿素とを反応させて、セルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部をスルファミン酸の硫酸エステル基に置換させて、繊維原料に含まれるセルロース繊維に硫酸エステル基を導入する工程である。すなわち、この反応工程は、反応液含浸繊維に含まれるセルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基に置換する反応を行う工程である。
【0072】
この反応工程は、反応液含浸繊維の繊維原料中のセルロース繊維の水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基に置換する反応が可能な方法であれば、特に限定されず、例えば、反応液含浸繊維を加熱することにより反応を促進させる方法を用い得る。以下、この加熱方法により反応を行う場合を例にとり、説明する。
【0073】
(反応工程における反応温度)
反応工程における反応温度は、特に限定されないが、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、前記繊維原料を構成するセルロース繊維に硫酸エステル基を導入できる温度であることが好ましい。得られる硫酸エステル基導入パルプの透明性の観点では、反応工程に供した反応液含浸繊維の雰囲気温度が、例えば、100℃~200℃、120℃~200℃、120℃~180℃、120℃~160℃となるように調整する。加熱時における雰囲気温度が200℃以下であれば、繊維の熱分解及び変色を抑制できる。一方、反応温度が100℃以上であれば、得られる硫酸エステル基導入パルプの透明性が向上する傾向にある。
【0074】
なお、反応工程に用いられる加熱器等は、特に限定されず、例えば、接触工程後の反応液含浸繊維を直接的又は間接的に前記要件を満たしながら加熱することができるものを用いることができ、公知の乾燥機、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置、熱プレス機(例えば、アズワン(株)製のAH-2003C)を用いたホットプレス法等を用い得る。特に、操作性の観点では、反応工程でガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を用いるのが好ましい。
【0075】
(反応工程における反応時間)
反応工程として前記加熱方法を用いる場合の加熱時間(すなわち、反応時間)は、特に限定されないが、例えば、反応温度を前記範囲となるように調整した場合、1分以上、5分以上、10分以上、15分以上であり、操作性及びコストの観点からは、5分~300分、5分~120分である。
【0076】
以上のごとき工程を行うことにより、前述したような硫酸エステル基導入パルプを製造できる。
【0077】
(反応工程後の洗浄工程)
化学処理工程における反応工程の後に、硫酸エステル基導入パルプを洗浄する洗浄工程を含んでもよい。硫酸エステル基導入パルプは、スルファミン酸(硫酸エステル基供与化合物)の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にする洗浄工程を設ければ、取扱性を向上できる。
【0078】
この洗浄工程は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプがほぼ中性になるようにできればよい。例えば、硫酸エステル基導入パルプが中性になるまで純水等で洗浄するという方法を用い得る。また、アルカリ溶液等を用いた中和洗浄を行ってもよい。かかる中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物等が挙げられる。そして、無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物等が挙げられる。
【0079】
なお、洗浄工程における硫酸エステル基導入パルプの分取は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプと洗浄水との濾別ができればよい。例えば、反応後の硫酸エステル基導入パルプの洗浄は、目開き243μm(70メッシュ)~20μm(635メッシュ)、目開き132μm(120メッシュ)~45μm(300メッシュ)、目開き75μm(200メッシュ)~45μm(300メッシュ)のステンレスふるいを用いて洗浄するという方法を用い得る。
【0080】
[硫酸エステル基導入パルプの物性]
このようにして製造された硫酸エステル基導入パルプの物性は、特に限定されないが、例えば、次のとおりである。
【0081】
(硫酸エステル基の導入量)
硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量は、例えば、0.8mmol/g以上、1mmol/g以上、1.2mmol/g以上となるように調整されていることが好ましい。
【0082】
なお、上限値は、特に限定されないが、結晶性が低下することに起因する繊維の崩壊及びコストの増加を抑制する観点から、例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量が、9.9mmol/g以下、5mmol/g以下である。
【0083】
特に、硫酸エステル基導入パルプは、分散媒に分散させた分散液における透明性の観点では、例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量が、0.8mmol/g~5mmol/g、1mmol/g~5mmol/g、1.2mmol/g~5mmol/gとなるように調整されていることが好ましい。
【0084】
また、硫酸エステル基導入パルプは、粘度の観点では、以下のように調整されているのが好ましい。硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量を下記範囲内にすることにより、分散液における粘度の低下を抑制し得る。例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量の上限値は、3.5mmol/g以下、2mmol/g以下である。また、下限値は、例えば、1mmol/g以上、1.5mmol/g以上である。例えば、硫酸エステル基導入パルプにおいて、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量は、0.8mmol/g~3.5mmol/g、1mmol/g~2.5mmol/g、1.5mmol/g~2mmol/gとなるように調整し得る。
【0085】
硫酸エステル基導入パルプの分散液を構成する分散媒は、特に限定されないが、前述のごとき透明性や粘度等を発揮させることができるものが好ましい。例えば、分散媒としては、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、2‐プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水のようなプロトン性極性溶媒、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒等を挙げることができ、これらの1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、取扱性の観点では、例えば、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、アンモニア水のようなプロトン性極性溶媒等を用い得る。
【0086】
(硫酸エステル基の導入量の測定方法)
硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量で評価したり、直接的に硫酸エステル基を測定することで評価し得る。例えば、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、CHNS/O元素分析装置で測定し得る。また、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、電気伝導度測定により算出することもできる。
【0087】
(結晶化度)
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、結晶構造としてセルロースI型結晶構造を有しており、その結晶化度が75%以下であってもよい。硫酸エステル基導入パルプの結晶化度が75%以下であれば、硫酸エステル基導入パルプを分散させた分散液の透明性が向上する傾向にある。したがって、分散液における透明性の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、75%以下、73%以下、71%以下、70%以下である。また、繊維形状を維持する観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、30%以上が好ましい。そして、粘度の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、70%以下、65%以下、60%以下である。さらに、硫酸エステル基導入パルプの製造方法における取扱性の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、30%以上、40%以上である。
【0088】
例えば、硫酸エステル基導入パルプは、結晶構造としてセルロースI型結晶構造でありながら透明性を発揮する。すなわち、硫酸エステル基導入パルプは、I型結晶構造の繊維形状でありながら、透明性を発揮するという機能を有している。ここで、従来、透明性を発揮するセルロースとして、水溶性のセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び硫酸セルロース)が知られている。これらのセルロースの結晶構造は、いずれもセルロースII型結晶構造であり、繊維形状の構造を有していない。すなわち、従来の前記セルロースは、繊維構造を崩壊させることにより透明性を発揮させている。
【0089】
(結晶化度の測定方法)
硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、X線回折装置を用いて測定し得る。
【0090】
硫酸エステル基導入パルプの硫酸エステル基の導入量及び結晶化度が前記のごとき範囲内であれば、硫酸エステル基導入パルプを水等の分散媒に分散させた分散液の透明性を向上できる。
【0091】
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、所定の結晶化度を有することで優れた粘度を有する。具体的には、一般的なI型結晶構造を有するパルプの粘度は、B型粘度計を用いて、20℃、6rpmで3分間回転させることで測定した場合に数十~数百mPa・s程度であるのに対して、硫酸エステル基導入パルプは、従来の一般的なパルプでは想定されることがなかった優れた粘度(例えば、数千mPa・s以上)を発揮し得る。
【0092】
(透明性)
本明細書における透明性は、例えば、液体の透明性を評価する全光線透過率(%)で評価できる。具体的には、硫酸エステル基導入パルプが有する透明性の機能は、硫酸エステル基導入パルプを水に分散させた分散液の全光線透過率(%)で評価できる。例えば、硫酸エステル基導入パルプは、水分散液の全光線透過率(%)が80%以上、85%以上、90%以上である。
【0093】
(全光線透過率の測定方法)
全光線透過率は、例えば、分光ヘーズメーターを用いて測定し得る。
【0094】
なお、本明細書における固形分濃度は、例えば、下記式を用いて算出できる。
固形分濃度(%)=(試料の固形分質量(g))/(供する試料量(g))×100
【0095】
上記式中の「試料の固形分質量(g)」とは、試料の乾燥質量をいう。具体的には、乾燥機等を用いて試料を105℃で乾燥させて恒量となるように調整された乾燥質量をいう。例えば、分散液を乾燥機に入れ、所定の乾燥条件(例えば、温度105℃、2時間)で乾燥して質量を測定することにより、分散液中の試料としての硫酸エステル基導入パルプの乾燥質量を算出することができる。また、恒量とは、処理施設内における雰囲気中の水分と原料中の水分が見かけ上出入りしなくなる状態のことを意味する。具体的には、一定時間(例えば、2時間)乾燥させた後、連続して測定した2回の質量の変化量が乾燥開始時の質量に対して1%以内となった状態を意味する(ただし、2回目の質量の測定は、1回目に要した乾燥時間の半分以上とする)。
【0096】
(平均繊維長)
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長は、特に限定されず、例えば、前述した透明性を向上させる上では、0.2mm~2mm、0.2mm~1.8mm、0.2mm~1.5mm、0.2mm~1mmである。
【0097】
(短繊維率(%))
また、硫酸エステル基導入パルプは、透明性を向上させる上で、以下のような繊維長が短いパルプを含んでもよい。この繊維長が短いパルプ(以下、「短繊維」という。)は、例えば、繊維長分布において、0.04mm以上、0.2mm以下の繊維長を有するパルプが挙げられる。硫酸エステル基導入パルプにおける短繊維の含有率(%)(すなわち、短繊維率(%))は、例えば、10%以上、15%以上である。
【0098】
硫酸エステル基導入パルプは、透明性及び取扱性の観点では、前記短繊維の含有率(すなわち、短繊維率(%))が、繊維長分布において、例えば、10%~70%、10%~60%、10%~50%、10%~45%、15%~45%である。
【0099】
(平均繊維幅)
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維幅は、特に限定されず、例えば、5μm~100μm、10μm~50μm、20μm~40μm、20μm~30μmである。
【0100】
(繊維幅分布)
また、透明性を向上させる上では、硫酸エステル基導入パルプにおける繊維幅分布において、1μm~40μm、1μm~30μm、1μm~20μmの繊維幅のパルプの割合が多いものが好ましい。
【0101】
(平均繊維長、平均繊維幅及び繊維分布の測定方法)
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長及び平均繊維幅は、例えば、ISO 16065-2:2007に準拠したローレンツェン&ベットレー社製のファイバーテスターや繊維長分布測定器を用いて測定し得る。また、硫酸エステル基導入パルプにおける繊維長分布及び繊維幅分布は、例えば、ISO 16065-2:2007に準拠した繊維長分布測定器を用いて測定し得る。
【0102】
(キンク)
硫酸エステル基導入パルプは、透明性を向上させる上では、折れ曲がりが少ないものが好ましい。具体的には、硫酸エステル基導入パルプは、キンク(1/m)の値が低いものが好ましい。例えば、硫酸エステル基導入パルプは、キンク(1/m)が、1~300、1~100、1~50である。
【0103】
(キンクの測定方法)
硫酸エステル基導入パルプのキンクは、例えば、ISO 16065-2:2007に準拠した繊維長分布測定器を用いて測定し得る。
【0104】
なお、前述した硫酸エステル基導入パルプの測定値は、測定値の信頼性の観点では、ISO 16065-2:2007を準拠して、最低でも5000本の繊維を測定することが望ましい。また、硫酸エステル基導入パルプに含まれる繊維本数は、固形分質量0.1gに5000本以上70000本以下であるものが望ましい。
【0105】
(粘度)
硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が前述の値以下の場合、例えば、分散液が所定の粘度を有する。例えば、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が70%以下の場合において、硫酸エステル基導入パルプを水に分散させた分散液における粘度が1000mPa・s以上、5000mPa・s以上、10000mPa・s以上である。特に、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が60%以下であれば、分散液の粘度が増加する傾向にある。また、平均繊維長が1mm以下であれば、その傾向がより強くなる。
【0106】
(粘度の測定方法)
硫酸エステル基導入パルプの粘度(mPa・s)は、例えば、測定温度20℃で、B型粘度計を用いて測定でき、回転数6rpmと回転数60rpmで測定を行い、各々の粘度値からチキソトロピー性指数TI値を算出することもできる。
TI値=(回転数6rpmの粘度)/(回転数60rpmの粘度)
【0107】
TI値は、適宜調整することができ、高いTI値が必要とされる場合には、TI値の下限値は、例えば、3以上、4以上、5以上である。また、TI値の上限値は、例えば、10以下、8以下、6以下、5以下である。一方で、低いTI値が好適な場合には、下限値は、例えば、1以上であり、上限値は、例えば、3以下、2.5以下である。
【0108】
(微細セルロース繊維の製造方法)
本発明の微細セルロース繊維は、前述のように製造した硫酸エステル基導入パルプを微細化する微細化処理工程に供することによって得られる。
【0109】
(微細化処理工程)
本方法の微細化処理工程は、硫酸エステル基導入パルプを微細化して所定の大きさ(例えば、ナノレベル)の微細繊維にする工程である。本工程に用いられる処理装置は、前記機能を有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記処理装置は、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波撹拌機、家庭用のミキサー等を用い得るが、これらに限定されない。これらのうち、材料に均等に力を加えることができ、均質化に優れているという点で、高圧ホモジナイザーを用いるのが望ましい。
【0110】
本工程において、高圧ホモジナイザーを用いる場合、硫酸エステル基導入パルプを水等の水系分散媒に分散させた状態で供給する。なお、以下では、硫酸エステル基導入パルプを分散させた状態の分散液をスラリーということがある。このスラリーにおける硫酸エステル基導入パルプの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、0.1質量%~20質量%である。
【0111】
例えば、硫酸エステル基導入パルプの固形分濃度を0.5質量%に調整したスラリーを高圧ホモジナイザー等の処理装置に供給すれば、同じ固形分濃度の微細セルロース繊維が水系分散媒に分散した状態の分散液を得ることができる。すなわち、この場合であれば、固形分濃度が0.5質量%の分散液を得ることができる。
【0112】
また、本工程に供する硫酸エステル基導入パルプの保水度は、特に限定されないが、前記装置等で微細化しやすいように調整されていることが好ましい。例えば、微細化の処理効率や使用エネルギーの削減といった観点では、保水度を高くなるように調製した硫酸エステル基導入パルプを使用するのが望ましい。このような観点からは、硫酸エステル基導入パルプとしては、保水度が150%以上、200%以上、250%以上、300%以上、500%以上となるように調製されたものを用いるのがよい。また、微細セルロース繊維の回収率の観点では、前記保水度は、例えば、10000%以下である。このように、微細化効率及び回収率の観点から、本工程に供する際の硫酸エステル基導入パルプの保水度は、150%~10000%、200%~10000%、220%~10000%、250%~5000%、250%~2000%である。
【実施例0113】
[実施例1]
硫酸エステル基導入パルプの調製
(パルプの前処理)
丸住製紙(株)製の平均繊維長が2.54mmの針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)(以下、単に「パルプ」ということがある。)を、大量のイオン交換水で洗浄後、目開き75μm(200メッシュ)のふるいで水を切ることで、固形分濃度が25.0質量%の乾燥履歴が1度もない湿潤状態のパルプ(以下、「湿潤パルプ」という。)を得た。前記イオン交換水としては、オルガノ(株)製のイオン交換水生成装置(型番:G-5DSTSET)で測定される電気伝導度が0.1~0.2μS/cmのものを用い、これ以降、それを純水という。
【0114】
(化学処理工程)
純水600mLを入れた1Lビーカーに、スルファミン酸及び尿素を、スルファミン酸(g)/尿素(g)=180/90の比率で添加した後、室温で完全に溶解するまで撹拌し、反応液を調製した。前記スルファミン酸としては、扶桑化学工業(株)製、純度99.8%を、前記尿素としては、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.0%、型番:特級試薬を用いた。得られた反応液に前記湿潤パルプ400gを添加し、約10分含浸させた(接触工程)。
【0115】
(反応工程に供する反応液含浸パルプ)
次工程の反応工程に供する反応液を含浸させたパルプ(反応液含浸パルプ(反応液含浸繊維に相当))は、以下のように調製した。まず、反応液を含浸させたパルプを、アルミバットに広げた。次いで、このアルミバットを85℃雰囲気下の乾燥機に入れて乾燥し、反応液含浸パルプを調製した。この反応液含浸パルプの水分率は、5%以下であった。
【0116】
(反応工程)
前記反応液含浸パルプを、乾燥機を用いて加熱反応に供した。前記乾燥機の恒温槽の温度は、140℃、加熱時間は、30分とした。加熱後の反応液含浸パルプを中性になるまで洗浄して、硫酸エステル基導入パルプを調製した。前記洗浄は、反応させたパルプに多量の純水を加えスラリーとした後、炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク(株)製、純度99.5%)を泡が生じなくなるまで加えて中和することで実施した(反応工程後の洗浄工程)。前記洗浄は、300メッシュふるい(目開き45μm、サンポー(株)製)上で行った。
【0117】
微細セルロース繊維の調製
高圧ホモジナイザー(吉田機械興業(株)製「ナノヴェイタ」、圧力:60MPa)を用いて硫酸エステル基導入パルプを5回解繊処理に供し、微細セルロース繊維の1質量%水分散液を得た。
【0118】
[実施例2]
反応工程において、乾燥機の恒温槽の温度を160℃とした点以外は、実施例1と同様にして、微細セルロース繊維を得た。
【0119】
[比較例1]
反応液の調製において、スルファミン酸及び尿素を、スルファミン酸(g)/尿素(g)=60/60の比率で添加した点、及び、反応工程において、乾燥機の恒温槽の温度を120℃とした点以外は、実施例1と同様にして、微細セルロース繊維を得た。
【0120】
[評価]
実施例1、実施例2及び比較例1の微細セルロース繊維の1質量%水分散液を、JIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定することによって、微細セルロース繊維の1質量%水分散液の透明性(全光線透過率及びヘイズ値)を求めた。得られた結果を、表1に示す。全光線透過率及びヘイズ値は、実施例1、実施例2及び比較例1の微細セルロース繊維で大差なかった。
【0121】
【0122】
微細セルロース繊維の粘度測定
実施例1、実施例2及び比較例1の微細セルロース繊維の1質量%水分散液100gを、遠沈管(AGCテクノグラス・IWAKI社製、型番:2355-100N、容量:100mL、本体材質:PP(ポリプロピレン)、キャップ材質:HDPE(高密度ポリエチレン)、サイズ:45mm×104mm)に密閉した。
【0123】
前記水分散液の粘度測定条件は、以下のとおりである。
B型粘度計(英弘精機(株)製、型番:DV2T)
測定条件:20℃、1rpmで3分間回転させ、スピンドルをRV-06、データの記録方法をシングルポイントとした。
【0124】
シングルポイントとは、B型粘度計における測定終了時の値のみを取得する記録方法の設定項目である。すなわち、測定開始時から3分経過時の瞬間値を記録している。
【0125】
前記水分散液が密閉された遠沈管の振盪条件は、次のとおりである。まず、前記遠沈管を振盪せずに20℃で24時間静置させた時点での粘度(μ
0)を測定した。また、前記遠沈管を振盪せずに20℃で24時間静置させた後、前記遠沈管を、本体の向き(前記遠沈管のキャップを閉じた際のキャップ上面に対して垂直の向き)が水平振盪の向きと一致するように振盪機(ラボシェイカー(往復運動)、アズワン(株)製、型番:SR-1)の天板に固定し(
図1)、1分、3分、5分、10分、15分又は20分の水平振盪(20℃、300rpm(装置目盛10))に供し、かかる振盪後の粘度(μ
1)を測定した。粘度μ
1の測定は、振盪停止から5秒以内に開始した。
【0126】
得られた結果を、表2及び
図2に示す。振盪時間が増えるにつれ、静置条件の粘度(μ
0)と比べて実施例1、実施例2及び比較例1の振盪後の粘度(μ
1)が減少することがわかった。特に、実施例1においては振盪時間が3分以上の場合に、実施例2においては振盪時間が5分以上の場合に、100,000mPa・s以下の粘度μ
1を示した。他方、比較例1においては振盪時間が20分の場合であっても、100,000mPa・sをはるかに上回る粘度μ
1を示した。なお、実施例1においては振盪時間が3分以上の場合に30,000mPa・s以上100,000mPa・s以下の粘度μ
1を示し、実施例2においては振盪時間が5分以上の場合に40,000mPa・s以上100,000mPa・s以下の粘度μ
1を示した。よって、実施例1及び2の微細セルロース繊維は、その1質量%水分散液をわずかに振盪することで粘度が低下するため、取扱性に優れることがわかった。
【0127】
【0128】
また、表2に示す振盪時間と粘度との関係から、振盪時間とμ1/μ0との関係を求めた。得られた結果を、表3に示す。振盪時間が増えるにつれ、実施例1、実施例2及び比較例1のμ1/μ0が減少することがわかった。特に、実施例1においては振盪時間が3分以上の場合に、実施例2においては振盪時間が5分以上の場合に、0.5以下のμ1/μ0を示した。他方、比較例1においては振盪時間が20分の場合であっても、0.5をはるかに上回るμ1/μ0を示した。なお、実施例1においては振盪時間が3分以上の場合に0.1以上0.5以下のμ1/μ0を示し、実施例2においては振盪時間が5分以上の場合に、0.2以上0.5以下のμ1/μ0を示した。
【0129】
【0130】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。