(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021938
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】溶接歪防止装置
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20250206BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B23K31/00 F
F16J12/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126059
(22)【出願日】2023-08-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粥川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 忠寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】森下 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】津田 卓哉
【テーマコード(参考)】
3J046
【Fターム(参考)】
3J046BA06
3J046BC15
3J046CA03
(57)【要約】
【課題】部材を液体により冷却することで溶接歪の発生を防止する溶接歪防止装置において、作業性を向上させ、作業時間を短縮させることができる、溶接歪防止装置を提供する。
【解決手段】溶接歪防止装置は、溶接時の部材の熱影響部に対して液体により冷却する溶接歪防止装置であって、内部空間に前記液体を貯留し、前記内部空間を開放する開口部と、前記液体の液面高さを視認可能な透明窓とを有する箱体と、前記内部空間に連通し、真空引き装置に接続される真空引きポートと、前記内部空間に連通し、前記内部空間に前記液体を供給させる給液ポートと、前記開口部の周縁部もしくは前記周縁部の外周側の位置に設けられたパッキンと、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時の部材の熱影響部に対して液体により冷却する溶接歪防止装置であって、
内部空間に前記液体を貯留し、前記内部空間を開放する開口部と、前記液体の液面高さを視認可能な透明窓とを有する箱体と、前記内部空間に連通し、真空引き装置に接続される真空引きポートと、前記内部空間に連通し、前記内部空間に前記液体を供給させる給液ポートと、前記開口部の周縁部もしくは前記周縁部の外周側の位置に設けられたパッキンと、を備えた、溶接歪防止装置。
【請求項2】
前記真空引きポートは、前記箱体の鉛直方向上側に配置されている、請求項1に記載の溶接歪防止装置。
【請求項3】
前記内部空間に連通し、前記液体を前記内部空間から排出させる排液ポートをさらに備え、前記排液ポートは、前記内部空間に連通し且つ負圧を形成する負圧形成装置に接続されている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項4】
前記箱体の前記開口部の前記周縁部は、前記箱体を前記部材にセットしたときに、前記部材の形状に沿う形状に形成されている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項5】
前記箱体の前記開口部の前記周縁部の内周部には、前記部材に向けて前記開口端面から突出する突出部が設けられている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項6】
前記部材は、鉄道車両の屋根板である、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項7】
前記箱体は、3Dプリンタにより製造される、請求項1または2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項8】
前記液体は、水である、請求項1または2に記載の溶接歪防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接時の熱影響部を冷却して部材に生じる溶接歪を防止する溶接歪防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、簡易な冷却手段により、板材の突合せ溶接部から同板材に沿って導かれる溶接熱の伝導を阻止して、上記板材における残留変形の発生を防止できるようにした板材突合せ溶接変形防止治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、突合せ溶接部1を挟んだ近傍に沿い予め下部周縁を板材4上に流体密に密着するように接着剤10あるいは仮溶接により底部開放型の殻体7,7が仮設される。殻体7,7においては内部に冷媒を流通させるので、板材溶接部1の両側に沿った冷却ラインが形成される態様が特許文献1に開示されている。あるいは、溶接すべき板材縁部の近傍に沿い予め底部開放型の殻体7が左右に対をなして配設され、各殻体7の下部周縁と板材4の表面との間に介在するパッキン11が設けられる態様が特許文献1に開示されている。これらはいずれも底部開放型の殻体を、板材4上に流体密に密着させるものであるが、前者においては、各殻体7の下部周縁は、殻体密着手段として接着剤10あるいは仮溶接により仮設しなければならない。また、後者においては板材4の表面に密着させる手段として、パッキン11を重錘などの押圧手段を殻体上に設置しなければならない。従って、前者においては、前作業として接着剤塗布または仮溶接の作業が必要であり、後作業として接着剤除去または仮溶接のビード除去などの作業が必要である。後者においても、重錘の設置、重錘の取り外しなどの作業が必要であり、作業時間のロスにつながる。
【0005】
そこで本開示は、部材を液体により冷却することで、溶接時の熱影響により部材に生じる溶接歪の発生を防止する溶接歪防止装置において、作業性を向上させ、作業時間を短縮させることができる、溶接歪防止装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る溶接歪防止装置は、溶接時の部材の熱影響部に対して液体により冷却する溶接歪防止装置であって、内部空間に前記液体を貯留し、前記内部空間を開放する開口部と、前記液体の液面高さを視認可能な透明窓とを有する箱体と、前記内部空間に連通し、真空引き装置に接続される真空引きポートと、前記内部空間に連通し、前記内部空間に前記液体を供給させる給液ポートと、前記開口部の周縁部もしくは前記周縁部の外周側の位置に設けられたパッキンと、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
上記構成の溶接歪防止装置によれば、内部空間を真空引き装置により負圧にすることにより箱体がパッキンを介して部材に固定された状態となる。そこに、給液ポートから液体を供給して内部空間に液体を貯留させれば、液体によって部材の溶接時の熱影響部に対して冷却を行えるので、作業者による簡易な作業によって冷却が可能となる。従って、溶接時に熱影響が及ぶ部材を冷却する際に、作業者の手間を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る溶接歪防止装置の斜視図である。
【
図2】
図1の溶接歪防止装置の冷却中の断面図である。
【
図3】
図1の溶接歪防止装置の冷却中の斜視図である。
【
図4】別の実施形態における溶接歪防止装置についての斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る溶接歪防止装置について、添付図面を参照して説明する。
図1に、実施形態に係る溶接歪防止装置1についての斜視図を示す。
図2に、実施形態に係る溶接歪防止装置1について、幅方向D1の略中央の位置で、上下方向及び前後方向に延びた面に沿った溶接歪防止装置1の断面図を示す。以下、溶接歪防止装置1の幅方向をD1とし、水平面内で幅方向D1に直交する方向を前後方向D2とし、上下方向をD3とする。
【0010】
溶接歪防止装置1は、ワークにおける、溶接時の熱による熱影響部に対して冷却を行うことによって溶接歪の発生を防止するための装置である。溶接歪防止装置1は、箱体2を備えている。箱体2は、溶接部Pを溶接する時の熱による熱影響部Sについての冷却を行うために、ワーク(部材)Wのうちの熱影響部Sを上から覆うように、ワークW上に配置される。本実施形態においては、ワークWは、鉄道車両の屋根板W1と、垂木W2と、アダプタW3とによって構成されている。アダプタW3は、垂木W2に対し溶接によって接続されている。垂木W2にアダプタW3を接続することにより、アダプタW3を介して屋根板W1に内装品を取り付けることができる。熱影響部Sは、アダプタW3が溶接によって垂木W2に接続されるときに、アダプタW3と垂木W2との間の溶接部Pで生じる溶接熱が屋根板W1上に伝播し、溶接熱により屋根板W1において歪が生じ得る部分のことを言うものとする。冷却の際には、ワークWのうちの屋根板W1における熱影響部Sが、箱体2によって囲まれる。ここでは、熱影響部Sは、溶接熱により屋根板W1において歪が生じ得る部分のうち、箱体2によって覆われた部分のことをいうものとする。
【0011】
本実施形態においては、箱体2は、3Dプリンタを用い、樹脂によって製造される。箱体2が3Dプリンタを用いて製造されるので、それぞれの溶接部の冷却を行う部位に合わせて、それぞれの形状の箱体2を製造することができ、また、継ぎ目なしの箱体2を実現できる。これにより、冷却を行う部位ごとに合わせた形状の箱体2を容易に製造することができる。尚、箱体2の製造方法は3Dプリンタを用いなくても実現可能である。
【0012】
箱体2は、内側の内部空間3を画定するように構成されている。また、箱体2は、内部空間3を外部に開放する開口部4を有している。箱体2は、箱体本体部2aを有し、開口部4から内側に凹んだ凹状に構成されている。開口部4は、箱体2の周縁部5によって画定されている。箱体2の周縁部5には、パッキン6が設けられている。パッキン6は、箱体2とワークWとの間を封止するように、箱体2に取り付けられている。これにより、箱体2の開口部4から内部空間3に貯留された液体が外部に漏れることを抑えることができる。パッキン6は、箱体2とワークWとの間を封止するために、柔軟な材料によって形成されている。本実施形態においては、例えば、パッキン6は、スポンジ体に接着のためのテープ面が形成されたスポンジテープによって形成されている。なお、本実施形態においては、パッキン6は、箱体2における開口部4の周縁部5に設けられるように構成されているが、パッキン6は、開口部4の周縁部5の外周側に位置していてもよい。つまり、パッキン6は、液体が内部空間3から漏れることを防ぐことができる位置に配置されていればよい。
【0013】
本実施形態においては、溶接歪防止装置1は、箱体本体部2aとは別体の、内部空間3に貯留された液体の液面の高さを確認するための第1透明窓18と、箱体本体部2aとは別体の、内部空間3の状態を確認可能な第2透明窓19とを有している。箱体本体部2aは、内部空間3を開放する第1穴2bと、第1穴2bを画定する第1周縁部2cとを有している。第1透明窓18は、第1周縁部2cの周囲に設けられた段差部に外側から嵌め込まれ、全周シールが施されている。これによって、第1透明窓18が、第1穴2bを閉鎖するように、箱体本体部2aに取り付けられている。第1透明窓18は、外部から内部空間3に貯留された液体の液面の高さを視認可能とするように、透明な材料によって構成されている。第1透明窓18は、箱体本体部2aの側面2fに形成されると共に、上下方向D3に対し、箱体本体部2aの略全体に亘って形成されている。
【0014】
また、箱体本体部2aは、内部空間3を開放する第2穴2dと、第2穴2dを画定する第2周縁部2eとを有している。第2透明窓19は、第2周縁部2eの周囲に設けられた段差部により外側から嵌め込まれ、全周シールが施されている。これによって、第2透明窓19が、第2穴2dを閉鎖するように、箱体本体部2aに取り付けられている。第2透明窓19は、外部からワークWの所望の位置及び液面を視認可能とするように、透明な材料によって構成されている。第2透明窓19は、箱体本体部2aの上面2gに形成されている。本実施形態においては、第2透明窓19は、第1透明窓18よりも面積が大きい。なお、第1透明窓18においては、液面の高さを正確に確認可能とするように、第1透明窓18に目盛が付されていてもよい。また、本実施形態では、第1透明窓18及び第2透明窓19は、板状に形成されている。本実施形態では、例えば、第1透明窓18及び第2透明窓19は、板状の透明樹脂、例えばポリカーボネートによって形成されている。
【0015】
箱体2は、第2透明窓19の設けられた部分よりも前後方向D2の一方に向かって突出した突出部8を有している。突出部8は、幅方向D1の一部でのみ、前後方向D2の一方に向かって突出している。突出部8は、内側の突出部内空間3bを画定するように構成されている。突出部内空間3bは、内部空間3の一部として構成されている。つまり、内部空間3は、主空間3aと、突出部内空間3bとを有している。
【0016】
溶接歪防止装置1は、真空引きポート10を備えている。真空引きポート10は突出部内空間3bに連通し、例えば真空ポンプといった真空引き装置に接続されている。真空引きポート10は、空気を流通させることが可能な空気供給管11を介して真空引き装置に接続されている。真空引き装置を作動させることにより、内部空間3から強制的に空気を排出させることができ、それによって、内部空間3を真空にすることができる。また、真空引き装置から排出される空気の量を調節することによって内部空間3の内部の圧力を調節することが可能に構成されている。尚、本実施形態では真空引き装置として、真空エジェクタを採用している。
【0017】
本実施形態においては、真空引きポート10は、箱体2において突出部8の頂部に設けられ、箱体2の鉛直上向き方向となる側に配置されている。本実施形態では特に、真空引きポート10は、箱体2において、内部空間3の最も高い位置に連通するように設けられている。
【0018】
溶接歪防止装置1は、内部空間3に連通する給液ポート12を有している。給液ポート12は、内部に液体を流通させることが可能な液体供給管13に接続されている。液体供給管13は、例えば、液体が貯留されたタンクに接続されている。また、液体供給管13には、液体供給管13の内部の液体の流量を調節することが可能な流量調節バルブ14が設けられている。本実施形態においては、内部空間3に貯留する液体として水が用いられている。
【0019】
溶接歪防止装置1は、箱体2における下方の位置に配置される排液ポート15を有している。排液ポート15は、内部空間3に連通すると共に、内部空間3の内部に貯留された液体を外部へ排出可能に構成されている。排液ポート15は、液体を流通させることが可能な液体排出管16に接続されている。また、液体排出管16は、負圧を形成する負圧形成装置に接続され、内部空間3に貯留された液体を内部空間3との差圧を利用して外部へ排出、あるいは貯留タンクに還流させることができる。尚、本実施形態の負圧形成装置は真空引き装置と同様、真空エジェクタを採用している。なお、これらの操作要領等は後述する。
【0020】
箱体2の箱体本体部2aは、パッキン6がワークWに押し当てられる向きに、箱体2における開口部4の周縁部5の内周部5aから突出した突起17を有している。周縁部5における内周部5aからワークWに向けられて突起17が設けられているので、パッキン6の水平方向の内側に突起17が位置する。つまり、箱体2における周縁部5において、パッキン6の幅方向D1及び前後方向D2の内側に突起17が設けられている。パッキン6の内側に突起17が配置されているので、真空引きの際にパッキン6が内部空間3側に引き込まれたときには、突起17がパッキン6と当接することによってパッキン6が内側に移動するのを防ぐことができる。従って、箱体2の周縁部5とワークWとの間に隙間が生じることを防ぐことができ、内部空間3の内部の真空が保たれ、溶接歪防止装置1の使用上の安定性が増加する。
【0021】
上記のように構成された溶接歪防止装置1が用いられて溶接部Pを溶接する時に屋根板W1に伝播するワークWの熱影響部Sに対して冷却を行う。
図3に、溶接歪防止装置1を用いて熱影響部Sの冷却が行われている状態の斜視図が示されている。冷却が行われる際には、ワークWのうちの熱影響部Sをパッキン6が囲むように、溶接歪防止装置1をワークWの屋根板W1上に載置する。その後、真空引きポート10を通じて内部空間3の真空引きが行われる。その際、
図3の矢印D4に示される方向に真空引きポート10を通じて内部空間3から空気が排出される。そして、内部空間3の内部が真空になりパッキン6がワークWにおける屋根板W1に密着しているのが確認できたら、流量調節バルブ14を開く。そうすると、給液ポート12を通じて大気圧との差圧により内部空間3に液体が供給される。その際、
図3の矢印D6に示される方向に内部空間3に向けて液体が供給される。これにより、箱体2の内部空間3に液体を溜めることができる。
【0022】
箱体2は、第1透明窓18及び第2透明窓19を有しているので、給液ポート12を通じて内部空間3に液体を貯留する際に、作業者は、内部空間3内部の液体の液面の位置を確認しながら液体の供給を行う。これにより、作業者は、内部空間3に適切な量の液体を貯留させることができる。
【0023】
箱体2が熱影響部Sを含む屋根板W1上に載置され、内部空間3の内部に液体が貯留されることにより、熱影響部Sの有する熱が液体に伝達される。従って、熱影響部Sの有する熱が液体によって奪われ、熱影響部Sの温度が低下する。これにより、熱影響部Sを含む屋根板W1に発生する溶接歪が生じることを防止することができる。
【0024】
溶接部Pによる熱影響部Sについての冷却が行われ、内部空間3の内部に貯留された液体が高温になった場合には、排液ポート15に連通する負圧形成装置を作動させることにより内部空間3の内部の液体を排出することができる。その手順としては、内部空間3の真空状態を維持しつつ、排液ポート15に連通する負圧形成装置を作動させ、真空引きポート10の圧力よりも排液ポート15の圧力が低圧となるように両ポートの圧力を調整すればよい。内部空間3の内部の液体の相当量が排出すれば、再度給液ポート12から液体を内部空間3に供給することにより、内部空間3の内部の液体を入れ替えることができる。その際、
図3の矢印D5に示される方向に排液ポート15を通じて内部空間3から液体が排出され、
図3の矢印D6に示される方向に給液ポート12を通じて内部空間3へ液体が供給される。これによって内部空間3の内部に熱交換の行われていない低温の液体が供給され、低温の液体によって熱影響部Sの冷却が良好に行われる。
【0025】
本実施形態においては、箱体2は、第2透明窓19を有し、第2透明窓19が箱体2の上面2gにおいて、第1透明窓18よりも大きな面積を有している。従って、作業者は、熱影響部Sの冷却を行っている間も、箱体2の上方から、箱体2によって周囲を囲まれた熱影響部Sの状態を確認しながら、熱影響部Sの冷却を行うことができる。
【0026】
上記実施形態によれば、箱体2の内部空間3を真空引きすることにより、内部空間3が負圧になる。そうすると、パッキン6がワークWに押し付けられるように箱体2とワークWとが密着する。内部空間3の内部の負圧によって箱体2がワークWに対し固定された状態が確認できたら、内部空間3の内部に液体を導き、内部空間3に液体が貯留される。内部空間3内部の液体が熱影響部Sに接することになるので、熱影響部Sが冷却される。このとき、作業者は、箱体2がワークWに固定された状態で給液ポート12の流量調節バルブ14の開動作を行うだけで内部空間3に液体を貯留させられる。従って、作業者は、簡易な作業によって熱影響部Sの冷却を行うことができる。
【0027】
箱体2をワークWの屋根板W1上に載置し、内部空間3の内部に負圧を形成することにより、箱体2がワークWの屋根板W1に吸着されて固定される。その後、箱体2の内部空間3に液体の供給を行うだけで熱影響部Sの冷却を行うことができるので、作業者は、箱体2をワークWに取り付けるための余分な作業を行う必要がない。具体的には、作業者は、冷却水の容器を、接着剤による接着や仮付け溶接等によってワークに取り付ける作業を行う必要がない。また、作業者は、冷却を終えた後に、箱体2を屋根板W1から取り外すための余分な作業を行う必要がない。具体的には、作業者は、例えば接着剤を■がしたり、仮付け溶接部を削り落としたりするなどの、容器をワークから取り外すための余分な作業を行う必要がない。従って、作業者は、作業工程を減少させ、作業時間を短縮させることができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、真空引きポート10が箱体2の鉛直方向上側に配置されているので、真空引きポート10に液体が入り込むのを防ぐことができる。従って、真空引きの際に、液体によって真空引きポート10からの空気の排出が阻害されるのを防ぐことができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、溶接歪防止装置1が、負圧形成装置によって形成された負圧により液体を内部空間3から排出する排液ポート15を有しているので、排液ポート15から内部空間3の内部の液体を排出することができる。そして、給液ポート12から再度内部空間3に液体の供給を行うことで、内部空間3の液体の入れ替えを行うことができる。従って、ワークWの熱影響部Sの冷却を継続的に行うことができる。また、液体が加熱されて高温になることを抑えることができ、液体の冷却機能が低下することを抑えることができる。さらに、排液ポート15から排出された液体を貯留タンクに還流すれば、タンク一杯の液体さえあれば冷却作業を行うことができるので、経済的である。
【0030】
また、本実施形態によれば、ワークWが鉄道車両の屋根板W1を含み、箱体2がワークWの屋根板W1に密着した状態で熱影響部Sの冷却が行われている。溶接歪防止装置1は、箱体2における開口部4の周縁部5の全周に亘ってパッキン6が設けられているので、液体が箱体2から屋根板W1上に漏れ出し難い構造を有している。従って、作業者が鉄道車両の屋根上での作業のような高所作業を行う場合に、箱体2とワークWとの間から漏れ出た液体によって作業者の足元が濡れることを防ぐことができる。これにより、作業者は、より安全に熱影響部Sの冷却の作業を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、箱体2が3Dプリンタによって製造されるので、箱体2を継ぎ目なしの構造として製造することができる。従って、箱体2をワークWにセットして液体を内部空間3に貯留させたときに、液体が箱体2から漏れ出すことを防ぐことができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、内部空間3に貯留する液体として水が用いられているので、安価に溶接時のワークWにおける熱影響部Sの冷却を行うことができる。さらに、排液ポート15から排出された液体を貯留タンクに還流すれば、タンク一杯の液体さえあれば冷却作業を繰り返し行うことができるので、作業場近辺に水道設備がない場合であっても支障なく熱影響部Sの冷却を行える。このように本実施形態によれば熱影響部Sの冷却にかかるコストを少なく抑えることができる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、ワークWは、屋根板W1と、屋根板W1を支持する垂木W2と、垂木W2に取り付けられるアダプタW3とを有し、屋根板W1は、幅方向D1及び前後方向D2に沿ってほぼまっすぐに延び、それに合わせて、箱体2の開口部4の周縁部5及びパッキン6が幅方向D1及び前後方向D2に沿ってまっすぐに延びている。しかし、上記実施形態に限定されない。屋根板W1は凹凸を有する形状であってもよく、屋根板W1が凹凸を有する形状である場合には、箱体2の周縁部5は、屋根板W1の凹凸形状に合致させる凹凸形状を有していてもよい。つまり、箱体2の開口部4の周縁部5は、箱体2を屋根板W1にセットしたときに、屋根板W1の形状に沿う形状に形成されればよい。
【0034】
図4に、ワークWの屋根板W1aが凹凸形状を有している場合の、溶接歪防止装置1A及びワークWの斜視図を示す。
図4に示されるように、ワークWのうちの屋根板W1aは、凹凸形状を有する板材である。本実施形態においては、屋根板W1aの凹凸形状に合わせて、溶接歪防止装置1Aにおける開口部4の周縁部5が凹凸形状を有するように、溶接歪防止装置1Aが構成されており、それに伴い箱体2における前後方向D2の端面20及び端面21が、複数の凹部22を有している。凹部22は、上下方向の上方に向かって凹むように構成されている。また、本実施形態においては、それぞれの凹部22は、幅方向D1の両端部において、内側に向かうにつれて上方に向かうようにテーパ状に形成されている。また、箱体2の前後方向D2の端面20及び21が凹部22を有しているのに合わせ、パッキン6Aが凹部22に沿って上方に凹むように配置されている。
【0035】
箱体2の周縁部5がワークWの凹凸形状に合致する凹凸形状を有しているので、ワークWに凹凸がある場合でも、箱体2の開口部4の周縁部5がワークWの形状に沿う形状に形成される。本実施形態においては、箱体2の開口部4の周縁部5が、ワークWにおける屋根板W1aの凹凸形状に沿う形状に形成されている。従って、ワークWに対してパッキン6Aを隙間なく密着させることができる。そのため、液体が開口部4から漏れ出るのを防ぐことができる。これにより、箱体2をワークWに固定した状態で箱体2の内部空間3に対して液体の貯留が維持され、熱影響部Sの冷却を継続して行うことができる。
【0036】
本実施形態においては、垂木W2とアダプタW3との間の溶接部Pからの溶接熱が垂木W2から屋根板W1に伝播すると、屋根板W1に歪が生じる懸念がある。そのため、この熱影響部Sを冷却する必要がある。本実施形態においては、鉄道車両の屋根板に対する熱影響部Sについて冷却を行う場合に、溶接歪防止装置1Aを用いることが例示的に示されている。鉄道車両の屋根板には、凹凸形状を有しているものがある。そのような凹凸形状を有する屋根板W1aにおいて熱影響部Sの冷却が行われる場合には、屋根板W1aの凹凸形状に合わせた形状の箱体2とすることで液体の漏れを抑えながら熱影響部Sの冷却を行うことが可能である。そのため、本実施形態の溶接歪防止装置1Aは、凹凸のある鉄道車両の屋根板W1aについての冷却を行う場合に好適である。
【0037】
なお、上記実施形態においては、箱体本体部2aの上面2gに第2透明窓19が設けられた構成について説明したが、上記実施形態に限定されない。熱影響部Sの状態を目視で確認する必要がなければ、第2透明窓19は設けられなくてもよい。箱体本体部2aの上面2gの全体が、箱体本体部2aの他の部分と同様の樹脂によって形成されていてもよい。これとは逆に、箱体本体部2aの上面の第2透明窓19から液面高さが確認できれば、箱体2の側部に設けられる第1透明窓18を設けなくてもよい。
【0038】
また、上記実施形態においては、真空引きポート10が箱体2において内部空間3の最も高い位置に連通するように設けられ、真空引きポート10が箱体2の最も高い位置に接続されている形態について説明した。しかしながら、上記実施形態に限定されない。真空引きポート10は、内部空間3の最も高い位置以外の位置で内部空間3に連通するように箱体2に設けられてもよい。また、真空引きポート10は、箱体2の最も高い位置に接続されていなくてもよい。真空引きポート10を介して内部空間3の空気が外部に排出され、内部空間3についての真空引きが行われる際に、真空引きポート10に液体が流入しなければよい。そのため、真空引きポート10は、内部空間3において、液体が貯留されることが想定される空間よりも上方の位置に設けられることが望ましい。また、真空引きポート10への液体の流入を防ぐのであれば、真空引きポート10は、給液ポート12よりも高い位置に設けられることが望ましい。
【0039】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0040】
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0041】
[項目1]
溶接時の部材の熱影響部に対して液体により冷却する溶接歪防止装置であって、
内部空間に前記液体を貯留し、前記内部空間を開放する開口部と、前記液体の液面高さを視認可能な透明窓とを有する箱体と、前記内部空間に連通し、真空引き装置に接続される真空引きポートと、前記内部空間に連通し、前記内部空間に前記液体を供給させる給液ポートと、前記開口部の周縁部もしくは前記周縁部の外周側の位置に設けられたパッキンと、を備えた、溶接歪防止装置。
【0042】
[項目2]
前記真空引きポートは、前記箱体の鉛直方向上側に配置されている、項目1に記載の溶接歪防止装置。
【0043】
[項目3]
前記内部空間に連通し、前記液体を前記内部空間から排出させる排液ポートをさらに備え、前記排液ポートは、前記内部空間に連通し且つ負圧を形成する負圧形成装置に接続されている、項目1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【0044】
[項目4]
前記箱体の前記開口部の前記周縁部は、前記箱体を前記部材にセットしたときに、前記部材の形状に沿う形状に形成されている、項目1乃至3のいずれかに記載の溶接歪防止装置。
【0045】
[項目5]
前記箱体の前記開口部の前記周縁部の内周部には、前記部材に向けて前記開口端面から突出する突出部が設けられている、項目1乃至4のいずれかに記載の溶接歪防止装置。
【0046】
[項目6]
前記部材は、鉄道車両の屋根板である、項目1乃至5のいずれかに記載の溶接歪防止装置。
【0047】
[項目7]
前記箱体は、3Dプリンタにより製造される、項目1乃至6のいずれかに記載の溶接歪防止装置。
【0048】
[項目8]
前記液体は、水である、項目1乃至7のいずれかに記載の溶接歪防止装置。
【符号の説明】
【0049】
1、1A 溶接歪防止装置
2 箱体
18 第1透明窓
3 内部空間
4 開口部
5 周縁部
5a 内周部
6、6A パッキン
10 真空引きポート
12 給液ポート
15 排液ポート
22 凹部
S 熱影響部
P 溶接部
W ワーク(部材)
W1 屋根板
【手続補正書】
【提出日】2024-11-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時の部材の熱影響部に対して液体により冷却する溶接歪防止装置であって、
内部空間に前記液体を貯留し、前記内部空間を開放する開口部と、前記液体の液面高さを視認可能な透明窓とを有する箱体と、前記内部空間に連通し、真空引き装置に接続される真空引きポートと、前記内部空間に連通し、前記内部空間に前記液体を供給させる給液ポートと、前記開口部の周縁部もしくは前記周縁部の外周側の位置に設けられたパッキンと、を備えた、溶接歪防止装置。
【請求項2】
前記真空引きポートは、前記箱体の鉛直方向上側に配置されている、請求項1に記載の溶接歪防止装置。
【請求項3】
前記内部空間に連通し、前記液体を前記内部空間から排出させる排液ポートをさらに備え、前記排液ポートは、前記内部空間に連通し且つ負圧を形成する負圧形成装置に接続されている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項4】
前記箱体の前記開口部の前記周縁部は、前記箱体を前記部材にセットしたときに、前記部材の形状に沿う形状に形成されている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項5】
前記箱体の前記開口部の前記周縁部の内周部には、前記部材に向けて開口端面から突出する突出部が設けられている、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項6】
前記部材は、鉄道車両の屋根板である、請求項1又は2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項7】
前記箱体は、3Dプリンタにより製造される、請求項1または2に記載の溶接歪防止装置。
【請求項8】
前記液体は、水である、請求項1または2に記載の溶接歪防止装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
箱体2をワークWの屋根板W1上に載置し、内部空間3の内部に負圧を形成することにより、箱体2がワークWの屋根板W1に吸着されて固定される。その後、箱体2の内部空間3に液体の供給を行うだけで熱影響部Sの冷却を行うことができるので、作業者は、箱体2をワークWに取り付けるための余分な作業を行う必要がない。具体的には、作業者は、冷却水の容器を、接着剤による接着や仮付け溶接等によってワークに取り付ける作業を行う必要がない。また、作業者は、冷却を終えた後に、箱体2を屋根板W1から取り外すための余分な作業を行う必要がない。具体的には、作業者は、例えば接着剤を剥がしたり、仮付け溶接部を削り落としたりするなどの、容器をワークから取り外すための余分な作業を行う必要がない。従って、作業者は、作業工程を減少させ、作業時間を短縮させることができる。