(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021950
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】乗り物酔い抑制用芳香組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/15 20060101AFI20250206BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20250206BHJP
A61P 27/00 20060101ALI20250206BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61K36/15
A61L9/01 W
A61P27/00
A61K9/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126078
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 井手・小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥平 壮臨
(72)【発明者】
【氏名】高野 孟
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
4C180
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB21
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC16
4C088AB03
4C088AC05
4C088AC06
4C088BA18
4C088CA15
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA56
4C088MA59
4C088NA14
4C088ZA71
4C180AA03
4C180AA16
4C180BB11
4C180CA07
4C180CB01
4C180EC01
4C180FF07
4C180GG07
4C180MM07
(57)【要約】
【課題】芳香を利用した乗り物酔いの抑制において、新たな芳香を利用した乗り物酔い抑制用芳香組成物を提供する。
【解決手段】マツ科モミ属の樹木の1種または2種以上の木質部および/または葉の精油を含有することを特徴とする乗り物酔い抑制用芳香組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ科モミ属の樹木の1種または2種以上の木質部および/または葉の精油を含有することを特徴とする乗り物酔い抑制用芳香組成物。
【請求項2】
マツ科モミ属の樹木が、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファーおよびノーブルファーよりなる群から選ばれたものである請求項1記載の乗り物酔い抑制用芳香組成物。
【請求項3】
マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉の精油の含有量が、5質量%以上である請求項1記載の乗り物酔い抑制用芳香組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の乗り物酔い抑制用芳香組成物を車載用芳香剤容器に充填したことを特徴とする車載用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物酔い抑制用芳香組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乗り物酔いは、乗り物の揺れや加減速等により、三半規管や前庭が刺激されることによって、平衡感覚の乱れや自律神経の失調により、頭痛、めまい、吐き気等がもよおされる不快な症状である。
【0003】
また、乗り物酔いは年代を問わず多くの人が悩まされているが、特に子供に多く、学校での集団行動や、家族との旅行等、乗り物を利用する際に問題となる。
【0004】
乗り物酔いには、種々の薬剤を利用した酔い止め薬や、香料等の芳香を利用した抑制が知られている。芳香を利用した乗り物酔いの抑制としては、例えば、芳香物質であるβ-カリオレフィンを含む空気を吸入することで、乗り物酔い等の不安感を軽減できることが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、芳香を利用する方法としては、例えば、ヘキシルアセテートを0.01重量%以上、ゲラニルアセテートを0.2重量%以下含有する芳香剤組成物の香気によって乗り物酔いを抑制できることが知られている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、芳香を利用した乗り物酔いの抑制は、薬剤を利用した酔い止め薬と比べてねむけ等の副作用の問題は生じにくいものの、芳香には好みがあるため、種々の種類の芳香を利用した乗り物酔いを抑制する技術が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-342062号公報
【特許文献2】特開2017-178905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、芳香を利用した乗り物酔いの抑制において、新たな芳香を利用した乗り物酔い抑制用芳香組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の樹木の精油が乗り物酔いを抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、マツ科モミ属の樹木の1種または2種以上の木質部および/または葉の精油を含有することを特徴とする乗り物酔い抑制用芳香組成物である。
【0011】
また、本発明は、上記乗り物酔い抑制用芳香組成物を車載用芳香剤容器に充填したことを特徴とする車載用製品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗り物酔い抑制用芳香組成物は、副作用なく、自律神経の乱れを整え乗り物酔いを抑制することができる。また、本発明の乗り物酔い抑制用芳香組成物は乗り物の臭いも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の乗り物酔い抑制用芳香組成物(以下、「本発明組成物」という)は、マツ科モミ属の樹木の1種または2種以上の木質部および/または葉の精油を含有するものであり、好ましくは有効成分としてはこの精油のみを含有するものである。
【0015】
本発明において、乗り物酔いとは、車、電車等の乗り物に乗った際に、乗り物の揺れや加減速等による三半規管や前庭への刺激、更には、乗り物内の不快な臭いや臭いにより過去の乗り物酔いの記憶が想起されること等により、平衡感覚の乱れや自律神経の失調を生じ、頭痛、めまい、吐き気等をもよおすことであり、本発明組成物は、これらを抑制することができる。本発明において、乗り物酔いの抑制とは、乗り物酔いによる症状を未然に防ぐまたは軽減することをいう。
【0016】
マツ科モミ属の樹木は、特に限定されないが、例えば、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。これらマツ科モミ属の樹木としては1種または2種以上を用いることができる。これらマツ科モミ属の樹木の中でもトドマツ、モミが好ましく、トドマツがより好ましい。
【0017】
上記マツ科モミ属の樹木の部位は、間木質部および/または葉の部分であるが、好ましくは葉である。上記マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉の精油は、上記マツ科モミ属の樹木の1種または2種以上の木質部および/または葉を原料として得られる精油であれば特に限定されないが、例えば、前記原料を減圧水蒸気蒸留して得られる蒸留物の油性画分(精油)が好ましい。この減圧水蒸気蒸留物の油性画分は濃縮、精製等の手間をかけなくても、さわやかな香気を有し香りの嗜好性が高いものとなる。
【0018】
なお、蒸留にあたっての加熱は、一般のヒーター等による加熱でもかまわないが、マイクロ波による加熱が加熱効率の点で好ましく、特に水を加えずにマイクロ波を照射して加熱することが好ましい。マイクロ波を照射することにより、植物中に含まれる水分子が直接加熱されて水蒸気が生じ、これが移動相として作用して植物中の揮発性成分が蒸留されるため、この蒸留方法は、揮発性成分の沸点による減圧蒸留的な要素と、水蒸気蒸留的な要素とを包含するものと考えられる。
【0019】
このようなマイクロ波照射による蒸留物は、例えば、国際公開WO2010/098440号パンフレット等に記載のマイクロ波蒸留装置などを用いることにより、得ることができる。このマイクロ波蒸留装置を
図1に示す。
図1中、1はマイクロ波蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌はね、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は蒸留物をそれぞれ示す。
【0020】
この装置1では、蒸留対象物12となる原料のマツ科モミ属の樹木を蒸留槽2中に入れ、撹拌はね4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。この蒸留槽2は、気流流入口5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを蒸留槽2中に導入するものであり、この気流は、蒸留槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、蒸留槽2の上部から外に導出するものである。
【0021】
上記蒸留槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0022】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により液体に変えられ、蒸留物13として得られる。この蒸留物13には、油性画分13aと水性画分13bが含まれるが、このうち油性画分(精油)13aを分取して本発明組成物の有効成分として用いる。
【0023】
蒸留にあたっては、上記蒸留槽2内の圧力を、3~95キロパスカル、好ましくは、3~40キロパスカル、さらに好ましくは3~20キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃~100℃になる。圧力が3キロパスカル以下では植物中の揮散性成分の蒸気圧上昇が抑制され、また、水蒸気蒸留的要素より、各成分の沸点による減圧蒸留的要素が主となり、沸点の低いものから順に流出してしまうため、水よりも沸点の高い成分の抽出が効率的に行われないという点及び忌避効率が低くかつ香りの嗜好性で劣る高沸点成分が多く抽出されてしまう点で好ましくない場合がある。また、95キロパスカル以上では、原料の温度が高くなるため、エネルギーロスが大きく、原料の酸化も促進されてしまうという点で好ましくない場合がある。
【0024】
また、蒸留時間は、0.2~8時間程度、好ましくは、0.4~6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では植物中の未抽出成分が多く残存してしまい、8時間以上では原料が乾固に近い状態となってしまうため、抽出効率が低下する場合がある。
【0025】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001~0.1容量倍程度とすれば良い。
【0026】
以上のようにして得られたマツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉の減圧水蒸気蒸留物の油性画分(精油)をそのまま用いることもできるが、必要に応じて、常法により、更に濃縮したり、精製して用いてもよい。
【0027】
本発明組成物には、上記マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉の精油を、5質量%(以下、単に「%」という)以上、好ましくは5~30%含有させる。
【0028】
本発明組成物には、上記マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉の精油の効果を損なわない限り、従来公知の成分、例えば、香料、界面活性剤、溶剤等を後記する形態にあわせて含有させてもよい。また、本発明組成物は、公知の担体、例えば、木、紙、布、樹脂、ゲル等に担持させてもよい。
【0029】
本発明組成物はそのまま乗り物酔い抑制用に用いることができるが、これを利用した製品の形態とすることが好ましい。製品の形態は特に限定されるものではないが、乗り物酔い抑制用であることから、例えば、本発明組成物をエアコンルーバー用芳香剤容器(エアコンの風で芳香剤が揮散するタイプの容器)、置き型用芳香剤容器等の車載用芳香剤容器に充填した車載用製品、本発明組成物を貼付用のシール、テープ等に含浸させた貼付用製品、本発明組成物を噴霧用のスプレー容器等に充填した噴霧用製品、本発明組成物を塗布用容器に充填した人体塗布用製品等が挙げられる。本発明組成物はこれらの製品の中でも車載用製品が好ましい。
【0030】
車載用製品にする場合には、例えば、精油単独、あるいは、精油と香料、界面活性剤、溶剤等を組み合わせて本発明組成物とし、これをエアコンルーバー用芳香剤容器、置き型用芳香剤容器等の車載用芳香剤容器に充填すればよい。なお、車載用芳香剤容器に充填する際には、本発明組成物を、必要により、上記した公知の担体に担持させてもよい。
【0031】
貼付用製品にする場合には、例えば、精油単独、あるいは、精油と香料、溶剤等を組み合わせたものを本発明組成物とし、これを貼付用のテープ、シール等に含浸させればよい。
【0032】
噴霧用製品にする場合には、例えば、精油単独、あるいは、精油と香料、界面活性剤、溶剤、水等を組み合わせたものを本発明組成物とし、これを噴霧用のスプレー容器等に充填すればよい。
【0033】
人体塗布用製品にする場合には、例えば、精油単独、あるいは精油と香料、界面活性剤、溶剤、保湿剤等を組み合わせたものを本発明組成物とし、これを塗布用の容器等に充填すればよい。
【0034】
以上説明した本発明組成物は、空間中に揮散、衣服に貼付、空間中に噴霧等してヒトの鼻腔等から吸入等されることにより、乗り物酔いを抑制することができる。特に子供は、乗り物の臭いが乗り物酔いのきっかけになることがあるが、本発明組成物は乗り物の臭いも抑制することができるため、本発明組成物は、子供の乗り物酔いを抑制するのに好ましい。更に、薬剤を利用した酔い止めではないため、ねむけ等の副作用も生じない。
【0035】
本発明組成物の乗り物酔い抑制の効果を発揮させるためには、乗り物内でヒトが本発明組成物の芳香を絶えず感じられる程度の量であればよく、その量は特に限定されないが、例えば、4人乗りの車であれば、1時間あたり0.005g以上本発明組成物が車内に揮散するようにすればよい。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
製 造 例 1
トドマツ精油の調製:
トドマツの葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕し、その約50kgを、マイクロ波水蒸気蒸留装置(
図1)の蒸留槽に投入した。攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間マイクロ波照射して蒸留物を得、その油性画分(以下、「トドマツ精油」という)を分取した。得られたトドマツ精油の量は180mLであり、投入試料に対する割合は、0.34%であった。以降の試験でこのトドマツ精油を乗り物酔い抑制用芳香組成物として用いた。
【0038】
実 施 例 1
車載用製品の調製:
製造例1で調製したトドマツ精油(乗り物酔い抑制用芳香組成物)を、エアコンルーバー用芳香剤容器(シャルダン SHALDAN My Aroma アロマ for CAR(エステー製)と同様の容器)に入れて車載用製品を得た。
【0039】
試 験 例 1
乗り物酔い抑制試験:
実施例1で調製した車載用製品を車酔いしやすい子供を持つ親が所有する車のエアコンルーバーに設置した。その後、2週間、普段通りに車を使用してもらい、その間の子供の乗り物酔いおよび乗り物の臭い(車中の臭い)について大人に以下の基準で評価してもらった。評価項目および評価基準を以下に記載した。これらの結果を表1に示した。また、この車載用製品を使用した感想を大人に自由評価してもらった。その結果を表2に示した。
【0040】
【0041】
【0042】
<子供の乗り物酔いの症状>
評価 内容
○:普段と比べて改善した。
-:普段と変わらない。
×:普段よりも悪化した。
【0043】
<乗り物の臭いの評価>
評価 内容
○:乗り物の臭いが改善し、気にならなくなった。
-:普段と変わらない。
×:乗り物の臭いが悪化した。
【0044】
以上の結果から、本発明の乗り物酔い抑制用芳香組成物は、子供の乗り物酔いの症状を改善することが分かった。また、本発明の乗り物酔い抑制用芳香組成物は乗り物の臭いも抑制することが分かった。
【0045】
実 施 例 2
車載用製品の調製:
製造例1で調製したトドマツ精油(乗り物酔い抑制用芳香組成物)を、1辺が12mmのサイコロ型の木片30個に含浸させ、それを上面の一部が開口した置き型用芳香剤容器に入れて車載用製品を得た。
【0046】
実 施 例 3
貼付用製品の調製:
製造例1で調製したトドマツ精油(乗り物酔い抑制用芳香組成物)を、不織布製シールの不織布側に含浸させ、貼付用製品を得た。
【0047】
実 施 例 4
噴霧用製品の調整:
製造例1で調製したトドマツ精油を含む以下の処方のスプレー剤を、市販の150mlトリガー式スプレー容器に収納してスプレー式の噴霧用製品を得た。
有効成分:トドマツ精油 10g
溶剤 :エタノール 10g
界面活性剤:3g
イオン交換水:77g