特開 2025-21960 既設ナットの緩み止め装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2025021960

(43)【公開日】2025-02-14

(54)【発明の名称】既設ナットの緩み止め装置

(51)【国際特許分類】

   F16B 39/18 20060101AFI20250206BHJP

   F16B 37/00 20060101ALI20250206BHJP

【ＦＩ】

F16B39/18

F16B37/00 E

【審査請求】未請求

【請求項の数】5

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023126098

(22)【出願日】2023-08-02

(71)【出願人】

【識別番号】391006636

【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100107593

【弁理士】

【氏名又は名称】村上 太郎

(72)【発明者】

【氏名】若林 克彦

(57)【要約】

【課題】既設の一般ナットに対して優れた緩み止め作用を生じさせることのできる緩み止めナットを提供する。
【解決手段】既設ナットＮより上方でボルトＢに螺合するねじ孔２を有する本体部３と、既設ナットＮの上端部に外嵌する円筒部４とを一体に備え、円筒部４の内周面は、下方に至るにしたがって徐々に大径となるテーパー面により構成されているとともに、周方向一部において円筒部４の内周と既設ナットＮの六角形状の角部上端とが干渉して既設ナットＮに軸方向に直交する押圧力が生じるようにねじ孔２に対して偏心している。
【選択図】図２

【特許請求の範囲】

【請求項1】

ボルトに締結された既設ナットの緩み止めを行う緩み止めナットであって、
前記既設ナットより上方で前記ボルトに螺合するねじ孔を有する本体部と、前記既設ナットの上端部に外嵌する円筒部とを一体に備え、
前記円筒部の内周面は、下方に至るにしたがって徐々に大径となるテーパー面により構成されているとともに、周方向一部において前記円筒部の内周と前記既設ナットの外周とが干渉して前記既設ナットに軸方向に直交する押圧力が生じるように前記ねじ孔に対して偏心している、
緩み止めナット。

【請求項2】

請求項１に記載の緩み止めナットにおいて、
前記ねじ孔は下方開口状に設けられ、前記本体部は、前記ねじ孔の上端を閉塞する頂部を有する、緩み止めナット。

【請求項3】

請求項１に記載の緩み止めナットにおいて、
前記円筒部の内周面を構成するテーパー面の軸心に対する傾斜角度が１５°以上である、緩み止めナット。

【請求項4】

請求項１に記載の緩み止めナットにおいて、
前記円筒部の内周面を構成するテーパー面の軸心に対する傾斜角度が２０°以上である、緩み止めナット。

【請求項5】

請求項１に記載の緩み止めナットにおいて、
前記既設ナットは六角ナットであり、前記円筒部の内周面は、前記六角ナットの六角形状の角部上端に干渉する、緩み止めナット。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、ボルトに締結された既設ナットの緩み止め装置としての緩み止めナットに関する。

【背景技術】

【0002】

本願出願人は、従来より、高い緩み止め機能を発揮する緩み止めナットであるハードロックナット（「ハードロック」は本願出願人の商標）の開発を行っており、例えば後述の特許文献１～４に開示している。

【0003】

このハードロックナットは、ねじ軸に螺合するねじ孔を有する下ナットと、ねじ軸に螺合するねじ孔を有する上ナットとから構成される。

【0004】

下ナット及び上ナットのいずれか一方のナットには、他方のナットに向かって軸方向に突出する円錐台形状の凸部が設けられる。凸部は、先端側に至るにしたがって徐々に小径となる所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有する。上記ねじ孔は凸部を軸方向に沿って貫通している。凸部を有するナットを「凸ナット」と称する。

【0005】

他方のナットは、凸部が嵌合する凹部を有する。凹部は、凸部の外周面のテーパー角に適合するテーパー角、好ましくは同じテーパー角を有するテーパー状内周面を有する。他方のナットのねじ孔は凹部の底面に開口している。凹部を有するナットを「凹ナット」と称する。

【0006】

ハードロックナットは、凸部と凹部とを偏心嵌合させることによって、恰もねじ軸外周とナットのねじ孔内周との間にクサビを打ち込んだような応力状態を生じさせ、かかるクサビ作用により強力な緩み止め効果を発揮させている。

【0007】

凸部と凹部との偏心嵌合は、凸ナットのねじ孔に対して凸部の外周面を偏心させて形成するか、或いは、凹ナットのねじ孔に対して凹部の内周面を偏心させて形成することによって実現される。凸部の外周面を偏心させる場合は、凹部の内周面と、凹ナットのねじ孔とを、同心状とする。一方、凹部の内周面を偏心させる場合は、凸部の外周面と、凸ナットのねじ孔とを同心状とする。

【0008】

ハードロックナットでは、ねじ軸に螺合された上下ナットの凸部と凹部とが偏心嵌合した状態で、上下ナットのそれぞれに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように凸部の外周面と凹部の内周面とが周方向一部において干渉する。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0009】

【特許文献1】特許第６７６２５９１号公報

【特許文献2】特開２０１６－１２５６２２号公報

【特許文献3】特開２０１６－１３３１３６号公報

【特許文献4】特開２００２－１９５２３６号公報

【特許文献5】特開２０１１－１７４６００号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0010】

既設の一般ナットをハードロックナットに交換すれば優れた緩み止め効果を生じさせることができるが、既設ナットの数が膨大な場合などにおいて、既設ナットの取り外し作業が手間であり、総作業時間も長くなることから、特開２０１１－１７４６００号公報（特許文献５）に示されるような簡易的な緩み止めクリップで代替されることがあった。
しかし、既設の一般ナットに対して、ハードロックナットの原理を応用した緩み止め作用を生じさせることのできる緩み止め装置がユーザーから望まれている。

【課題を解決するための手段】

【0011】

本発明は、ボルトに締結された既設ナットの緩み止めを行う緩み止めナットであって、前記既設ナットより上方で前記ボルトに螺合するねじ孔を有する本体部と、前記既設ナットの上端部に外嵌する円筒部とを一体に備え、前記円筒部の内周面は、下方に至るにしたがって徐々に大径となるテーパー面により構成されているとともに、周方向一部において前記円筒部の内周と前記既設ナットの外周とが干渉して前記既設ナットに軸方向に直交する押圧力が生じるように前記ねじ孔に対して偏心している。

【0012】

かかる本発明によれば、ボルトに締結された既設ナット（一般ナット）に対して本発明に係る緩み止めナットを既設ナットの上方でボルトに締結すると、周方向一部において既設ナットの外周と本体部の内周とが干渉して、既設ナットの軸方向に直交する押圧力が生じるとともに、その反力として緩み止めナットには反対方向の押圧力が生じ、これら既設ナット及び緩み止めナットにクサビ作用によって生じる押圧力によって、既設ナット及び緩み止めナットに優れた緩み止め効果が発揮される。

【0013】

前記ねじ孔は下方開口状に設けられ、前記本体部は、前記ねじ孔の上端を閉塞する頂部を有していてよい。これによれば、ねじ孔内に雨水等が侵入することを防止でき、ナット及びボルトの腐食等を防止できる。

【0014】

好ましくは、前記円筒部の内周面を構成するテーパー面の軸心に対する傾斜角度θは１５°以上であり、より好ましくは２０°以上である。これによれば、テーパー面の大きな傾斜角度によって、既設ナットの外周形状の比較的大きな製作誤差や、経年劣化や腐食等による寸法変化等を吸収して、確実に上記軸方向押圧力を生じさせることができる。

【0015】

本発明において、前記既設ナットは六角ナットであり、前記円筒部の内周面は、前記六角ナットの六角形状の角部上端に干渉する。

【0016】

なお、緩み止めナットの本体部の外周面は円筒状乃至裁頭円錐形状であってよい。これによれば、一般的なスパナやボックスレンチによって緩み止めナットがいたずら目的で取り外されることを防止できる。なお、緩み止めナットの外周面形状に適合する特殊工具によって止めナット部材の締結作業を行うことができる。

【発明の効果】

【0017】

本発明によれば、既設ナットに対して容易且つ迅速に優れた緩み止め作用を生じさせることの緩み止めナットを提供できる。

【図面の簡単な説明】

【0018】

【図1】本発明の一実施形態に係る緩み止めナットの取り付け前の状態を示す縦断面図である。

【図2】同緩み止めナットの取付状態の縦断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0019】

図１及び図２は、本発明の一実施形態に係る緩み止めナット１を示しており、この緩み止めナット１は、ボルトＢに締結された既設ナットＮ並びにボルトＢからなる既設締結体に取り付けることによって既設ナットＮの緩み止めを行なうものである。既設ナットＮは公的規格に準拠する一般ナットであり、典型的には六角ナットである。

【0020】

緩み止めナット１は、既設ナットＮより上方でボルトＢに螺合するねじ孔２を有する本体部３と、既設ナットＮの上端部に外嵌する円筒部４とを一体に備えている。本体部３の外周面形状は適宜のものであってよいが、例えば、既設ナットＮと同様の六角ナット形状とすることができる。円筒部４の内周面は、下方に至るにしたがって徐々に大径となるテーパー面により構成されているとともに、周方向一部（図において左側）において円筒部４の内周と既設ナットＮの六角形状の角部上端とが干渉して既設ナットＮに軸方向に直交する押圧力が生じるようにねじ孔２に対して偏心している。既設ナットＮに生じる押圧力の反力として、緩み止めナット１には反対方向に押圧力が生じる。本体部３の頂部３ａは閉塞されていて、ねじ孔２は下方開口状に設けられている。

【0021】

本実施形態に係る緩み止めナット１によれば、既設ナットＮが締結されたボルトＢの上端に追加的に締結することによって、円筒部４の内周面と既設ナットＮの上端外周との偏心嵌合によってクサビ作用を生じさせ、既設ナットＮ及び緩み止めナット１に互いに対向する水平方向の大きな押圧力をそれぞれ生じさせ、優れた緩み止め機能を発揮させることができる。また、ねじ孔２の上端を頂部３ａによって閉塞することにより、雨水等がねじ孔２内に侵入することを防止でき、腐食等を防止できる。

【0022】

本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。

【符号の説明】

【0023】

１ 緩み止めナット
２ ねじ孔
３ 本体部
３ａ 頂部
４ 円筒部

【図1】

【図2】