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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022033
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】濃度比測定方法、及び濃度比測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20250206BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20250206BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/359
G01N21/27 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126248
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC12
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF04
2G059GG01
2G059GG02
2G059HH01
2G059JJ02
2G059JJ17
2G059KK01
2G059KK02
2G059MM01
2G059MM12
2G059MM14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の濃度比を、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに信頼性の高い測定を実施することができる濃度比測定方法の提供。
【解決手段】測定開始時T0の補正波長λにおける溶液の吸光度A(λT0と、所定時間経過後T1の補正波長λにおける溶液の吸光度A(λT1と、所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度A(λT1と、を測定する工程と、下記式(I)に基づき前記吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含む。

【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定方法であって、
測定開始時T0の補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT0と、
所定時間経過後T1の前記補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1と、
所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1と、を測定する工程と、
下記式(I)に基づき前記吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、
【数1】
前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含み、
前記補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数及びトルエンのモル濃度の積と、前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数及びメチルシクロヘキサンのモル濃度の積とが略等しく、
前記特定波長λが、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域であることを特徴とする濃度比測定方法。
【請求項2】
前記補正波長λが、1160nm以上1166nm以下、1694nm以上1707nm以下、2086nm以上2090nm以下、及び2274nm以上2284nm以下の1以上の波長である請求項1に記載の濃度比測定方法。
【請求項3】
前記吸光度A(λT1に対する前記吸光度A(λT0の比A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たすか否かを判別し、満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する工程と、を更に有する請求項1又は2に記載の濃度比測定方法。
【請求項4】
所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定する工程と、
前記吸光度A(λT1が所定のバンド値を満たすか否かを判別し、満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する工程と、を更に有し、
前記非吸収波長λにおけるトルエンのモル吸光係数と前記非吸収波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数とがいずれも略ゼロである請求項1又は2に記載の濃度比測定方法。
【請求項5】
前記非吸収波長λが、1000nm以上1100nm以下、1300nm以上1340nm以下、1540nm以上1600nm以下の1以上の波長である請求項4に記載の濃度比測定方法。
【請求項6】
測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度I(λT0、及び所定時間経過後T1の前記非吸収波長λにおける透過光強度I(λT1を測定する工程と、
下記式(V)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A''(λT1を算出する工程と、を更に有する請求項1又は2に記載の濃度比測定方法。
【数2】
【請求項7】
トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定装置であって、
補正波長λ、及び特定波長λにおける前記溶液の吸光度を測定する吸光度測定部と、
測定開始時T0の補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT0、所定時間経過後T1の前記補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1、及び下記式(I)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、
【数3】
前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する濃度比算出部と、
を有し、
前記補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数及びトルエンのモル濃度の積と、前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数及びメチルシクロヘキサンのモル濃度の積とが略等しく、
前記特定波長λが、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域であることを特徴とする濃度比測定装置。
【請求項8】
前記補正波長λが、1160nm以上1166nm以下、1694nm以上1707nm以下、2086nm以上2090nm以下、及び2274nm以上2284nm以下の1以上の波長である請求項7に記載の濃度比測定装置。
【請求項9】
前記吸光度A(λT1に対する前記吸光度A(λT0の比A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する第1の判別部を更に有する請求項7又は8に記載の濃度比測定装置。
【請求項10】
前記吸光度測定部が、所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を更に測定し、
前記濃度比測定装置が、所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1が所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する第2の判別部を更に有し、
前記非吸収波長λにおけるトルエンのモル吸光係数と前記非吸収波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数とがいずれも略ゼロである請求項7又は8に記載の濃度比測定装置。
【請求項11】
前記非吸収波長λが、1000nm以上1100nm以下、1300nm以上1340nm以下、1540nm以上1600nm以下の1以上の波長である請求項10に記載の濃度比測定装置。
【請求項12】
前記吸光度測定部が、測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度I(λT0、及び所定時間経過後T1の前記非吸収波長λにおける透過光強度I(λT1を更に測定し、
前記濃度比算出部が、下記式(V)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A''(λT1を算出する請求項7又は8に記載の濃度比測定装置。
【数4】
【請求項13】
前記吸光度測定部が、測定セルと、前記測定セルに収容された前記溶液に前記特定波長の光線を照射する光源と、前記溶液を透過した透過光の吸光度を測定する吸光度検出器と、を有する請求項7又は8に記載の濃度比測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃度比測定方法、及び濃度比測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素型エネルギーとして、水素エネルギーの利用が推進されている。
水素は、気体のままではエネルギー密度が小さく運搬しにくいため、水素の貯蔵及び輸送技術として、例えば、水素とトルエンとを反応させて水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサンを合成し、メチルシクロヘキサンを輸送し、メチルシクロヘキサンから脱水素して水素を取り出す、有機ハイドライト方式と呼ばれる技術が報告されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
メチルシクロヘキサンの合成反応、又は脱水素反応におけるトルエンとメチルシクロヘキサンとの濃度比を求める方法としては、合成後の反応溶液をガスクロマトグラフィーなどの質量分析装置で測定して、反応溶液中のトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度を求め、両者の濃度から転化率を算出する方法が知られている(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-095329号公報
【特許文献2】特開2020-159743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の前記ガスクロマトグラフィーによる測定方法では、測定試料における測定対象の成分濃度が十分に小さいことが要求されるため、測定試料をサンプリングし、溶媒で十分に希釈し、ガスクロマトグラフィー装置に呈する必要がある。したがって、従来技術の測定方法は、測定精度が高いものの、広い濃度範囲でリアルタイムに濃度を測定することができず、自動化が困難であるという問題がある。
【0006】
本開示は、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の濃度比を、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに信頼性の高い測定を実施することができる濃度比測定方法、及び濃度比測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての、本開示の一態様による濃度比測定方法は、トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定方法であって、
測定開始時T0の補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT0を測定する工程と、
所定時間経過後T1の前記補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定する工程と、
所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定する工程と、
下記式(I)に基づき前記吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、
【数1】
前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含み、
前記補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数と前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数とが略等しく、
前記特定波長λが、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の濃度比を、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに信頼性の高い測定を実施することができる濃度比測定方法、及び濃度比測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1000nm~2500nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図2】トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
図3】1100nm~1300nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図4】1600nm~1800nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図5】2000nm~2200nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図6】2200nm~2500nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図7】第1の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートである。
図8】第2の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートである。
図9】1000nm~1100nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図10】1280nm~1380nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図11】1520nm~1620nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図12】第3の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートである。
図13】第4の実施形態における濃度比測定装置の一例を示す概略図である。
図14】第5の実施形態における濃度比測定装置の一例を示す概略図である。
図15】第4の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
図16】第4の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
図17】第4の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
(濃度比測定方法、及び濃度比測定装置)
本開示の濃度比測定方法は、吸光度測定工程と、濃度比算出工程と、を含み、第1の判別工程、第2の判別工程を有することが好ましく、更に必要に応じて、波長設定工程、検量線作成工程などのその他の工程を有する。
本開示の濃度比測定装置は、吸光度測定部と、濃度比算出部と、を有し、第1の判別部、第2の判別部を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部材を有する。
以下に、前記濃度比測定方法、及び前記濃度比測定装置に共通する事項について、併せて説明する。
【0012】
-メチルシクロヘキサンの合成反応、及び脱水素反応-
まず、水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサンの合成反応、及び水素を取り出す反応である脱水素反応について説明する。
トルエン(CCH)と水素(H)とを反応させて水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサン(C11CH)を合成する反応(水素付加反応とも称する)は、下記反応式(1)により表される。
【0013】
<反応式(1)>
CH + 3H → C11CH
【0014】
前記メチルシクロヘキサンの合成反応としては、公知の方法により実施することができ、例えば、トルエンと水素とを反応させる方法;トルエンを直接電気化学反応させることにより、水素ガスを経由せずに水とトルエンからメチルシクロヘキサンを合成する方法;などが挙げられる。
水素付加反応が開始されると、水素付加反応自体は発熱反応であるため、通常、反応系を冷却する必要がある。反応温度がメチルシクロヘキサンの大気圧下での沸点100.9℃を大幅に超えると、メチルシクロヘキサンの合成効率(以下、「転化率」と称することがある)が低下する。そのため、例えば、冷却装置や冷却水ラインを使用して、反応温度が上昇し過ぎないように維持することが好ましい。前記反応温度としては、通常、80℃~100℃であり、85℃~98℃が好ましく、85℃~96℃がより好ましい。
【0015】
メチルシクロヘキサンから水素を取り出す脱水素反応は、前記反応式(1)の逆反応である、下記反応式(2)により表される。
前記脱水素反応としては、公知の方法により実施することができる。
【0016】
<反応式(2)>
11CH → CCH + 3H
【0017】
前記濃度比測定方法、及び濃度比測定装置は、このようなメチルシクロヘキサンの合成反応、乃至脱水素反応の溶液における、トルエンとメチルシクロヘキサンとの濃度比の測定に好適に適用することができる。
前記濃度比測定方法、及び濃度比測定装置によれば、従来技術の前記ガスクロマトグラフィーによる測定方法において必要とされる希釈処理を行うことなく、メチルシクロヘキサン0体積%から100体積%までの広い濃度範囲で前記濃度比を測定することができるため、リアルタイムでの測定が可能となり、自動化による測定が可能となる。
反応後の溶液において前記濃度比を測定することにより、得られた反応溶液のメチルシクロヘキサンの転化率や脱水素効率を広い濃度範囲で簡便に評価することができる。
反応過程の溶液において前記濃度比をリアルタイムで測定することができ、これにより、反応装置や反応条件の最適化を図ることができる。
加えて、特定波長における吸光度を、補正波長を用いて補正することで、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに信頼性の高い測定を実施することができる。
【0018】
<溶液>
測定対象である、前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液とは、トルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかを含有する溶液であり、トルエン及びメチルシクロヘキサンのいずれか一方を含有する溶液であってもよく、トルエン及びメチルシクロヘキサンの両方を含み、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが任意の濃度比であってもよく、いずれの場合も好適に測定することができる。
【0019】
前記溶液は、トルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかを含み、更に必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよいが、実質的にトルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかからなることが好ましい。
前記溶液におけるトルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかの含有量としては、前記溶液の全量に対する体積比で、95体積%以上が好ましく、98体積%以上がより好ましく、99体積%以上が更に好ましい。
【0020】
前記その他の成分としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベンゼン、メタン等の副産物;メチルシクロヘキサンの合成反応や脱水素反応における触媒や反応装置由来の成分;などが挙げられる。
【0021】
[第1の実施形態]
<吸光度測定工程、及び吸光度測定部>
前記吸光度測定工程は、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度を測定する工程であり、前記吸光度測定部により好適に実施することができる。
前記吸光度測定部は、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度を測定する部であり、具体的には、測定セルと、前記測定セルに収容された前記溶液に特定波長の光線を照射する光源と、前記溶液を透過した透過光の吸光度を測定する吸光度検出器と、を有することが好ましく、更に必要に応じて、レンズ、分光器、光ファイバなどを有する。
【0022】
<濃度比算出工程、及び濃度比算出部>
前記濃度比算出工程は、下記式(I)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程であり、前記濃度比算出部により好適に実施することができる。
前記濃度比算出部は、下記式(I)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し、前記補正値A'(λT1に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する部であり、例えば、式(I)、並びに以下に説明する式(1)及び(2)に基づき、濃度比を算出するプログラムが格納されたコンピュータなどが挙げられる。
【0023】
【数2】
A(λT0: 測定開始時T0の補正波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
A(λT1: 所定時間経過後T1の補正波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
A(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
【0024】
前記吸光度測定工程及び吸光度測定部は、具体的には、測定開始時T0の補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT0と、所定時間経過後T1の前記補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1と、所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1と、を少なくとも測定する。
【0025】
前記測定開始時T0としては、特に制限はなく目的に応じて適宜任意の時点を設定してよいが、使用する吸光度測定部のキャリブレーションを行った時点、又はキャリブレーション時点から一定時間経過後の間のいずれかの時点であることが好ましい。
ここで、一定時間とは、キャリブレーションの後、吸光度測定部の誤差が生じていないと見なすことができる時間を意味する。
前記測定開始時T0から所定時間経過後T1における時刻T1又は所定時間としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
-特定波長λ
前記特定波長λとしては、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0027】
図1は、1000nm~2500nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図2は、トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度と決定係数との関係を示すグラフであり、図1のグラフに決定係数の関係を重ねて示したグラフである。
図1~2中、縦軸は吸光度を示し、横軸は波長を示す。トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが、体積[L]の比で、それぞれ0:100、10:90、30:70、50:50、70:30、90:10、及び100:0となるように調整した溶液(図1~2中、T00M100、T10M90、T30M70、T50M50、T70M30、及びT100M00と表記する)を用い、それぞれの溶液について、波長1000[nm]~2500[nm]における吸光度を測定した。
図2中、太線は決定係数R(相関係数Rの二乗:R)を示し、右側の縦軸は決定係数を示す。
【0028】
図1~2、及び以下に示す実施例から明らかな通り、特定波長λは、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mと、吸光度との間に良好な相関関係が得られる、決定係数が1に近い波長乃至波長域である。
したがって、特定波長λにおける前記溶液の吸光度を測定し、これに基づき濃度比t:mを算出することにより、メチルシクロヘキサン0体積%から100体積%までの広い濃度範囲で前記濃度比を測定することができ、また、溶液の前処理なしに、リアルタイムに前記濃度比を測定することができる。
【0029】
なお、前記溶液がその他の成分を含み、その他の成分が、その他の成分に固有の波長における溶液の吸光度に影響を及ぼす場合には、その他の成分に固有の波長を含まないように前記特定波長を設定することにより、測定精度の高い濃度比測定方法を実施することができる。
【0030】
-補正波長λ
前記補正波長λは、前記補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数及びトルエンのモル濃度の積と、前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数及びメチルシクロヘキサンのモル濃度の積とが略等しい波長である。
言い換えると、前記補正波長λは、前記溶液のトルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比によらず、一定の吸光度を示す波長である。
前記補正波長λは、1160nm以上1166nm以下、1694nm以上1707nm以下、2086nm以上2090nm以下、及び2274nm以上2284nm以下の1以上の波長であることが好ましい。
【0031】
特定波長における吸光度によって濃度比が測定できる一方で、例えば、トルエン及びメチルシクロヘキサンの水素化及び脱水素化の反応を進行しながら、1時間以上の長い期間にわたって濃度比の測定を行う場合には、測定装置のキャリブレーションを行っても、経時により測定誤差が生じる恐れがあり、例えば、測定セルの光路長が変わってしまう場合がある。
吸光度は光路長に比例するため、例えば、測定セルの光路長が10%長くなると、吸光度も10%増え、測定誤差が生じる。
【0032】
図3は、1100nm~1300nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフであり、図1のグラフから、1100nm~1300nmの波長を限定して拡大したグラフである。
図3中、波長1163nm近辺の溶液の吸光度は、溶液の濃度比によらず一定の吸光度を示すことが分かる。
ここで、補正波長λにおける吸光度A(λ)は下記式(II)で表すことができる。
【数3】
【0033】
A(λ): 補正波長λにおける吸光度[A.U.]
α(λ): λにおけるトルエンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
α(λ): λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
D: 光路長[cm]
: トルエンのモル濃度[mol・L-1
: メチルシクロヘキサンのモル濃度[mol・L-1
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
ただし、t+m=1
【0034】
溶液の濃度比によらず一定の吸光度を示すことから、補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数及びトルエンのモル濃度の積と、前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数及びメチルシクロヘキサンのモル濃度の積とが等しい。したがって、式:α(λ)×c=α(λ)×cを代入すると、下記式(III)で表すことができる。
【数4】
【0035】
前記式(III)から、補正波長λにおける吸光度A(λ)は、溶液の濃度比によらず、光路長Dに比例することが分かる。
したがって、下記式(IV)と表すことができ、溶液の濃度比によらず、測定開始時T0から所定時間経過後T1の吸光度の変化は、測定開始時T0から所定時間経過後T1の光路長の変化と等しいことが分かる。
【数5】
A(λT0: 測定開始時T0の補正波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
A(λT1: 所定時間経過後T1の補正波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
T0: 測定開始時T0の光路長[cm]
T1: 所定時間経過後T1の光路長[cm]
【0036】
したがって、下記式(I)に基づき、前記式(IV)の係数(補正係数と称することがある)を掛けることにより、所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正することができる。
言い換えると、トルエン及びメチルシクロヘキサンの水素化及び脱水素化の反応が進行して、刻々とその濃度比が変化する状況にあっても、補正波長λにおける吸光度A(λ)については前記式(IV)の関係が成立し、下記式(I)に基づき、補正係数により所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正することができる。
算出した補正値A'(λT1に基づき濃度比を算出することにより、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに信頼性の高い測定を実施することができる。
【数6】
【0037】
上記の補正波長λの説明は、1163nm近辺(図3参照)に加えて、1706nm近辺(図4参照)、2090nm近辺(図5参照)、及び2284nm近辺(図6参照)にも同様に適用することができ、これらの補正波長λにより光路長の補正を行うことができる。
図4~6は、それぞれ1600nm~1800nm、2000nm~2200nm、及び2200nm~2500nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図4~6中、それぞれ1706nm近辺(図4参照)、2090nm近辺(図5参照)、及び2284nm近辺(図6参照)における溶液の吸光度は、1163nm近辺(図3参照)と同様に、溶液の濃度比によらず一定の吸光度を示すことが分かる。
【0038】
図7に、第1の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートを示す。
まず、測定開始時T0の補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT0を測定する(ステップS1-1)、次いで、所定時間経過後T1の前記補正波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定し(ステップS1-2)、同時に、所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定する(ステップS1-3)。
式(I)に基づき吸光度A(λT1を補正して補正値A'(λT1を算出し(ステップS2-1)、算出した補正値A'(λT1及び式(2)に基づきトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比t:mを算出する(ステップS2-2)。
【0039】
[第2の実施形態]
前記濃度比測定方法は、更に、第1の判別工程として、補正係数に基づいて測定の異常及び正常を判別する工程を更に有することが好ましい。
すなわち、前記濃度比測定方法は、前記吸光度A(λT0に対する前記吸光度A(λT1の比である補正係数A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する工程と、を更に有することが好ましい。
また、前記濃度比測定装置は、前記吸光度A(λT1に対する前記吸光度A(λT0の比A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する第1の判別部を更に有することが好ましい。
【0040】
前記所定のバンド値としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、0.9以上1.1以下が好ましく、0.95以上1.05以下がより好ましく、0.97以上1.03以下がより好ましい。
これにより、前記比A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たさない異常値を示す場合には、光路長が想定よりも変化して測定系に異常が生じたと判断することができ、測定を終了する。所定バンド値を満たす場合には、想定の範囲で測定を実施できているので、測定を継続することができる。
【0041】
図8に、第2の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートを示す。
ステップS1-3に続いて、ステップS3として、A(λT0/A(λT1が、所定のバンド値を満たすか否かを判別する工程を実施すること以外は、図7に示すフローチャートと同様である。
【0042】
[第3の実施形態]
前記濃度比測定方法は、更に、第2の判別工程として、非吸収波長の吸光度に基づいて測定の異常及び正常を判別する工程を更に有することが好ましい。
すなわち、前記濃度比測定方法は、所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を測定する工程と、前記吸光度A(λT1が所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する工程と、を更に有することが好ましい。
また、前記濃度比測定装置は、前記吸光度測定部が、所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を更に測定し、前記濃度比測定装置が、所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1が所定のバンド値を満たすか否かを判別し、前記所定のバンド値を満たす場合に測定を継続し、前記所定のバンド値を満たさない場合に測定を終了する第2の判別部を更に有することが好ましい。
【0043】
-非吸収波長λ
前記非吸収波長λは、前記非吸収波長λにおけるトルエンのモル吸光係数と前記非吸収波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数とがいずれも略ゼロである波長である。
言い換えると、前記非吸収波長λは、前記溶液のトルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比によらず、吸光度がほぼ検出されない波長であり、トルエン及びメチルシクロヘキサンのいずれによってもほぼ吸収されない波長である。
前記非吸収波長λが、1000nm以上1100nm以下、1300nm以上1340nm以下、1540nm以上1600nm以下の1以上の波長であることが好ましい。
【0044】
前記所定のバンド値としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、0以上0.1以下が好ましく、0以上0.05以下がより好ましく、0以上0.03以下がより好ましい。
これにより、前記吸光度A(λT1が、所定のバンド値を満たさない異常値を示す場合には、光源の出力が想定よりも変化して測定系に異常が生じたと判断することができ、測定を終了する。所定バンド値を満たす場合には、想定の範囲で測定を実施できているので、測定を継続することができる。
【0045】
図9~11は、それぞれ1000nm~1100nm、1280nm~1380nm、及び1520nm~1620nmにおけるトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
図9~11中、それぞれ1000nm~1100nm(図9参照)、1300nm~1340nm(図10参照)、及び1540nm~1600nm(図11参照)における溶液の吸光度は、溶液の濃度比によらず吸光度が略ゼロであることが分かる。
このことはこの近辺の波長は、トルエン及びメチルシクロヘキサンいずれにおいても吸収されないということを意味する。
【0046】
1560nm近辺(図11参照)を例として説明すると、もし、1560nm近辺の吸光度が変化している場合、それは光源の変化を表している。吸収しない波長で吸光度が大きくなっているということは、何らかの原因で光源が劣化し、光束が低下していることが考えられる。
一方、1560nm近辺の吸光度が小さくなっている(具体的にはマイナスになる)場合、何らかの原因で、例えば光源の駆動電流が増えるなどして、光源が明るくなっている可能性がある。
このように、非吸収波長λの吸光度が大きく変化したときには計測を中断し、再度キャリブレーションをとるようにする。
【0047】
図12に、第3の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートを示す。
ステップS3に続いて、ステップS4として、非吸収吸光度A(λNT1が所定バンド値を満たすか否かを判別する工程を実施すること以外は、図8に示すフローチャートと同様である。
なお、ステップS3又はステップS4の一方のみを実施してもよい。また、ステップS3及びステップS4を実施する順番は、入れ替え可能であり、同時に行ってもよい。
【0048】
[第4の実施形態:光源の変動を補正する態様]
前記濃度比測定方法は、非吸収波長λの吸光度に基づいて光源の変動を補正する工程(第2の補正工程)を更に有することが好ましい。
すなわち、前記濃度比測定方法は、測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度I(λT0、及び所定時間経過後T1の前記非吸収波長λにおける透過光強度I(λT1を測定する工程と、
下記式(V)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A''(λT1を算出する工程と、を更に有することが好ましい。
【数7】
A(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
I(λT0: 測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度
I(λT1: 所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける透過光強度
【0049】
ここで、式(I)に基づく光源の変動の補正と、式(V)に基づく補正とを行う場合、補正の順番としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、いずれを先に行ってもよいが、先に式(V)に基づく補正を行い、算出された補正値A''(λT1を式(I)における吸光度A(λT1に代入することが好ましい。
すなわち、式(I)における特定波長λ及び補正波長λの吸光度は、光源の変動の影響を受ける一方で、式(V)における非吸収波長λの吸光度がほぼ0なので、式(V)は、光路長の影響をほぼ受けないと考えられる。そのため、先に式(V)により光源の変動の影響を補正した後に、補正値A''(λT1を用いて式(I)により光路長の補正を行うことが好ましい。
【0050】
また、前記濃度比測定装置は、前記吸光度測定部が、測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度I(λT0、及び所定時間経過後T1の前記非吸収波長λにおける透過光強度I(λT1を更に測定し、前記濃度比算出部が、前記式(V)に基づき所定時間経過後T1の特定波長λにおける前記溶液の吸光度A(λT1を補正して補正値A''(λT1を算出する。
【0051】
以下に、式(V)を導くための、式(VI)~式(XIII)について順に説明する。
測定開始時T0の特定波長λにおける吸光度A(λT0は、吸光度と透過率の関係式より、下記(VI)と表すことができる。
【数8】
A(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける入射光強度
I(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける透過光強度
【0052】
同様にして、所定時間経過後T1の特定波長λにおける吸光度A(λT1は、下記(VII)より算出することができる。
【数9】
A(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける入射光強度
I(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける透過光強度
【0053】
ここで、右辺の分母に測定開始時T0の特定波長λにおける入射光強度I(λT0を用いているのは、光源による入射光強度は変動しないという前提のもと、測定開始時T0に入射光強度I(λT0を測定するだけで、所定時間経過後T1には、入射光強度を測定しないためである。
しかし、実際には光源及び入射光強度は、徐々に変動する。そのため、測定開始時T0から所定時間経過後T1において、光源以外の要因が変動しない環境下で光源だけがb変動したと仮定すると、所定時間経過後T1の入射光強度は、下記式(VIII)で表すことができる。
【数10】
(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける入射光強度
(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける入射光強度
b: 正数
【0054】
また、所定時間経過後T1の透過光強度は、下記式(IX)で表すことができる。
【数11】
I(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける透過光強度
I(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける透過光強度
b: 正数
【0055】
前記式(VIII)を前記式(VII)に代入すると、以下の式(X)に変換できる。
【数12】
【0056】
ここで、光源の変動を補正した補正値A'(λT1は、前記式(X)を入れ替えて、下記式(XI)で表される。
【数13】
A(λT0: 測定開始時T0の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
A(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
b: 正数
【0057】
log(b)は、非吸収波長λの透過光強度からも求めることができ、下記式(XII)から、下記式(XIII)に変換でき、これを式(XI)に代入すると、前記式(V)を得ることができる。
【数14】
【数15】
(λT1: 所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける入射光強度
(λT0: 測定開始時T0の非吸収波長λにおける入射光強度
b: 正数
【数16】
A(λT1: 所定時間経過後T1の特定波長λにおける溶液の吸光度[A.U.]
I(λT0: 測定開始時T0の非吸収波長λにおける透過光強度
I(λT1: 所定時間経過後T1の非吸収波長λにおける透過光強度
【0058】
[第4の実施形態]
図13に示すように、本開示の一実施形態に係る濃度比測定装置10を、フロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sのトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを得るために濃度比測定方法を実施する実施形態を例にして説明する。
濃度比測定装置10は、溶液Sの特定波長における吸光度を測定する吸光度測定部1と、測定及び補正された吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて溶液Sのトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する濃度比算出部2とを有する。吸光度測定部1は、溶液Sを流通するフロースルー型の測定セル1aと、測定セル1aを流通する溶液Sに対して光線L1を照射する光源1bと、溶液Sを透過した透過光L2を受光する吸光度検出器1cとを有する。更に、検量線を記憶する記憶部5を有してもよい。
【0059】
ここで、光線L1は、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λを含む。
前記補正波長λにおけるトルエンのモル吸光係数及びトルエンのモル濃度の積と、前記補正波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数及びメチルシクロヘキサンのモル濃度の積とが略等しい。
前記特定波長λが、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の近赤外領域の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
前記非吸収波長λにおけるトルエンのモル吸光係数と前記非吸収波長λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数とがいずれも略ゼロである。
吸光度検出器1cは、透過光L2を受光して、光路長Dに基づき補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λにおける吸光度を検出及び測定する。
【0060】
濃度比算出部2及び記憶部5は、操作部や表示部も備えた一つの装置でもよく、さらに吸光度測定部の動作を制御する制御部も備えていてもよい。濃度比算出部2及び記憶部5は1つのコンピュータに組み込まれてもよい。吸光度測定部1は1つの装置でもよく、吸光度測定部1及び濃度比算出部2が互いに有線、無線を介して接続されてもよい。
【0061】
吸光度は溶液の温度に大きく依存する場合がある。また、メチルシクロヘキサンの合成反応、乃至脱水素反応の反応過程における溶液を測定セル1aに流通する場合、反応過程の溶液は80℃以上の高温であり得る。そこで、正確な吸光度を測定するために、熱交換器を測定セル1aの上流に配置するなどにより、測定セル1aに流通する溶液Sの温度を一定温度に変換してもよい。
前記一定温度としては、吸光度が安定的に得られる限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、25℃程度であってよい。
【0062】
[第5の実施形態]
第4の実施形態における濃度比測定装置10は、フロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sに対して連続的に吸光度測定を行う実施形態であるが、この実施形態に限定するものではない。
図14に示す、第5の実施形態における濃度比測定装置20のように、分取型の測定セル1a'内にサンプリングされた溶液Sに光線L1を送光し、溶液Sを透過した透過光L2を受光する、バッチ方式の濃度比測定方法を実施する実施形態であってもよい。
【0063】
なお、図14に示す濃度比測定装置20は、フロースルー型の測定セル1aに代えて分取型の測定セル1a'を有すること以外は、図13に示す濃度比測定装置10と同様の構成を適宜採用することができる。
ここで、分取型の測定セル1a'内への溶液Sのサンプリング方法としては、特に制限はなく、手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。
【0064】
<<測定セル>>
前記測定セルとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フロースルー型の測定セル、分取型の測定セルなどが挙げられる。
前記測定セルの光線を透過する部分の材質としては、特定波長、溶液組成などに応じて適宜選択することができ、例えば、石英ガラスなどが挙げられる。
【0065】
<<光源>>
前記光源としては、補正波長λ、及び特定波長λを含み、必要に応じて非吸収波長λを含む限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザ光、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプなどが挙げられる。
【0066】
<<レンズ>>
前記レンズは、光源から照射される光、測定セルに照射される光、測定セルを透過した透過光、吸光度検出器に入力される光等の光を収束させたり、平行光にしたりするために光路上の各位置に配置することができる。
【0067】
<<分光器>>
前記分光器としては、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λを透過する限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光学フィルタ、プリズム、回折格子などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光学フィルタとしては、例えば、特定の単色光乃至複数の波長域を透過するバンドパスフィルタ、カットオン波長よりも長い波長を透過するロングパスフィルタ、カットオフ波長よりも短い波長を透過するショートパスフィルタ、特定の単色光乃至複数の波長域を透過しないカットオフフィルタ、色ガラスフィルタ、ダイクロイックフィルタなどが挙げられる。
また、分光器としては、透過波長域を変更可能な可変光フィルタと可変光減衰器との組み合わせも好適に用いることができる。
【0068】
<<光ファイバ>>
前記濃度比測定装置は、光源から測定セルに照射される光、測定セルを透過して吸光度検出器に入力される透過光等の光を効率的に送光するため、光源と測定セルとの間、乃至測定セルと吸光度検出器との間に、光ファイバを用いてもよい。
【0069】
<<吸光度検出器>>
前記吸光度検出器としては、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λを検出可能な限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光半導体(ホトセル)、光電子増倍管(ホトマルチプライヤー)などが挙げられる。
前記吸光度検出器は、透過光を電気信号に変換することで、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λにおける前記溶液の吸光度を測定することができる。
【0070】
第4の実施形態として、光源と分光器との好適な組み合わせを有する濃度比測定方法、及び濃度比測定装置について説明する。
第4の実施形態は、例えば、図13に示す濃度比測定装置10、及び図14に示す濃度比測定装置20のいずれにも適用することができる。
【0071】
[第6の実施形態]
第6の実施形態は、特定波長である単色光を照射する光源と、特定波長である単色光を透過するバンドパスフィルタなどの分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
補正波長λの単色光、及び特定波長λの単色光をそれぞれ切り替えて各波長の吸光度を測定することができる。
【0072】
第3の実施形態、乃至第6の実施形態のいずれにおいても、分光器は、光源と測定セルとの間の光路上に設けられた前分光方式であってもよく(図15~16参照)、測定セルと吸光度検出器との間の光路上に設けられた後分光方式であってもよい(図17参照)。
前分光方式の場合、分光器は、図15に示すように光源の後に設けられてもよく、図16に示すように測定セルの前に設けられてもよい。
第6の実施形態において、分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、図15~16に示すように光源の後、又は測定セルの前に設けることが好ましい。
【0073】
第6の実施形態によれば、補正波長λ、及び特定波長λである単色光に基づき吸光度を測定し、濃度比を算出することで、単色光の吸光度測定装置を利用でき、測定及び算出を簡便化することができる。
【0074】
[第7の実施形態:濃度比測定装置]
第7の実施形態は、連続光を照射する光源と、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λを透過するバンドパスフィルタ、カットオフフィルタなどの分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
【0075】
第7の実施形態によれば、補正波長λにおいて測定した溶液の吸光度、及び前記式(I)に基づき、特定波長λにおいて測定した溶液の吸光度を補正できるため、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の濃度比を、長い期間にわたって広い濃度範囲でリアルタイムに測定することができる。
加えて、広い波長域乃至複数の波長域の特定波長に基づき吸光度を測定し、濃度比を算出することができ、これにより、精度の高い濃度比のすることができる。
【0076】
[第8の実施形態]
第8の実施形態は、連続光を照射する光源と、透過波長域を変更可能な可変光フィルタを用いて特定波長である単色光を透過する分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
前記分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、図17に示すように吸光度検出器の前に設けることが好ましい。
可変光フィルタを外部制御で切り替えることにより、補正波長λ、及び特定波長λをそれぞれ選択し、各波長の吸光度を測定することができる。
【0077】
[第9の実施形態]
第9の実施形態は、連続光を照射する光源と、分光器として、特定波長である単色光を取り出すモノクロメータと、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
前記モノクロメータとは、プリズム、回折格子等の分散素子で分散した光から特定の波長の光を出口スリットから取り出す機構を有する分光器である。
前記分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、図15に示すように光源の後に設けることが好ましい。
モノクロメータにより、補正波長λ、及び特定波長λをそれぞれ選択し、各波長の吸光度を測定することができる。
【0078】
[第10の実施形態:1つの特定波長λに基づく濃度比測定方法]
以下に、測定する特定波長の種類に応じた濃度比測定方法の実施形態について説明する。
第10の実施形態における濃度比測定方法は、図13~17に示す濃度比測定装置10、20、30、40、及び50のいずれによっても好適に実施できるが、代表して図13に基づき説明する。
濃度比測定装置10は、光源1bからの光線L1を溶液Sに照射して溶液Sを透過した透過光L2の吸光度、及び光路長Dに基づいて、溶液S中のトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比を算出する。
濃度比測定方法は、吸光度測定工程と、濃度比算出工程とを含み、更に必要に応じて、波長設定工程、検量線を作成する検量線作成工程を含んでもよい。
【0079】
<波長設定工程>
波長設定工程は、補正波長λ、特定波長λ、及び必要に応じて非吸収波長λを設定する工程である。
特定波長λを設定する場合、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の7つの波長域における1以上の波長乃至波長域である特定波長を設定する。
前記特定波長λとしては、前記7つの波長域における、1以上の波長乃至波長域であり、1つの波長であってもよく、2以上の波長乃至波長域であってもよく、2つの波長であってもよく、目的に応じていずれの実施態様も好適に適用できる。
【0080】
特定波長を設定する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、第6の実施形態の濃度比測定装置において特定波長である単色光を照射可能な光源を設定する方法;第7の実施形態の濃度比測定装置において広い波長域乃至複数の波長域の特定波長を透過するバンドパスフィルタ、カットオフフィルタなどの分光器を設定する方法;第8の実施形態の濃度比測定装置において可変光フィルタの透過波長を特定波長である単色光に設定する方法;第9の実施形態の濃度比測定装置においてモノクロメータの波長を特定波長である単色光に設定する方法;濃度比算出部において算出に用いる特定波長を特定する方法などが挙げられる。
【0081】
<検量線作成工程>
検量線作成工程では、予めトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが明らかな、段階的な濃度比を有する各標準溶液を準備し、所望の乃至設定した特定波長λにおける吸光度を測定して、濃度比と吸光度との関係がリニアリティを示す検量線を作成する。
【0082】
検量線を作成する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、後述する実施例及び図1に示す方法により検量線を作成することができる。更に、作成した検量線を記憶部に記憶させることができる。
標準溶液における段階的な濃度比としては、例えば、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:m(体積比)で、それぞれ0:100、10:90、30:70、50:50、70:30、90:10、及び100:0などが挙げられる。
【0083】
<吸光度測定工程>
吸光度測定工程では、測定対象である(すなわち、濃度比が未知の)溶液の特定波長における吸光度を測定する。
第7の実施形態においては、特定波長が、1つの波長である。
吸光度を測定する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、具体的には、以下のステップA~ステップCにより測定することができる。
ステップA:溶液を有しないブランクの測定セルの特定波長における透過光Tの光量を測定する。
ステップB:溶液を有する測定セルの特定波長における透過光Tの光量を測定する。
ステップC:透過率T/T、及び下記式(1)に基づき、特定波長における吸光度Aを求める。
【0084】
【数17】
: 特定波長におけるブランクの透過光
T: 特定波長における溶液の透過光
A: 特定波長における吸光度
【0085】
<濃度比算出工程>
濃度比算出工程では、吸光度測定工程で求めた吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する。
濃度比t:mを算出する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、具体的には、前記検量線、及び下記式(2)に基づき濃度比t:mを算出することができる。
【0086】
【数18】
A(λ): 特定波長λにおける吸光度[A.U.]
α(λ): λにおけるトルエンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
α(λ): λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
D: 光路長[cm]
: トルエンの体積モル濃度[mol・L-1
: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L-1
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
ただし、t+m=1
【0087】
[第11の実施形態:2つ以上の波長乃至波長域に基づく濃度比測定方法]
第11の実施形態の濃度比測定方法は、特定波長が、2つ以上の波長乃至波長域である実施形態である。2つ以上の波長乃至波長域に基づくこと以外は、第10の実施形態と同様にして実施することができる。
濃度比を求めるためには、第10の実施形態に示すように濃度比と吸光度とのリニアリティが優れる特定波長におけるいずれの波長の吸光度を測定してもよいが、第11の実施形態に示すように、2つ以上の波長乃至波長域での吸光度を測定し、その平均吸光度を用いることで、更に安定した精度の高い測定が実現できる。
【0088】
特定波長が、2つ以上の波長λ、・・・λ(nは、2以上の整数を示す)である場合、得られる吸光度A(λ)、・・・A(λ)を測定し、これらの吸光度を加算平均した平均吸光度Ameanを求める。次いで、第7の実施形態において、式(2)におけるA(λ)にAmeanを代入することにより、濃度比を求めることができる。
【0089】
特定波長が、λからλの波長域である場合、その波長域内のデジタル的、又はアナログ的な平均吸光度Ameanを求め、第7の実施形態において、式(2)におけるA(λ)にAmeanを代入することにより、濃度比を求めることができる。
平均吸光度Ameanを求める方法としては、用いる濃度比測定装置の仕様に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の波長分解能により測定した波長ごとの吸光度から、設定した波長域である特定波長について積算して平均することにより平均吸光度を求めるデジタル的な方法;バンドパスフィルタなどの光学フィルタを用いて、特定波長の波長域の光を照射してその透過光をまとめて受光し、アナログ式に当該波長域における吸光度を求める方法;などが挙げられる。
【0090】
第11の実施形態において、前記特定波長は、2以上の波長乃至波長域、すなわち、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の7つの波長域における2つ以上の波長乃至波長域である。
前記波長域としては、前記7つの波長域(すなわち、後述する表2に示す決定係数が1に近い波長域)のいずれかの範囲内であれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
前記波長域の波長幅Δλとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5[nm]、10[nm]、20[nm]などが挙げられる。
市販されている光学フィルタは、半値幅10[nm]、20[nm]のものが多く、これらのフィルタを好適に用いることができる。また、任意の半値幅を有する光学フィルタや、透過波長域を変更可能な可変光フィルタを用いてアナログ的に平均吸光度を求めてもよく、前記デジタル的な方法を用いてもよい。
【0091】
1の波長で測定した吸光度と比べて、平均吸光度では、決定係数が向上し、したがって、よりリニアリティの高い測定を行うことができる。また、透過光の総量が増え、波長や透過光の測定誤差などの影響を低減でき、S/N比が向上する。
したがって、第8の実施形態の濃度比測定方法によれば、より安定した精度の高い濃度比の測定が可能となる。
【0092】
[第12の実施形態:波長依存性が小さい波長域に基づく濃度比測定方法]
第12の実施形態の濃度比測定方法は、波長依存性が小さい波長域に基づく実施形態である。なお、波長依存性が小さい波長域に基づくこと以外は、第10~11の実施形態と同様にして実施することができる。
第12の実施形態における前記特定波長は、波長依存性が小さい波長域における1以上の波長乃至波長域、すなわち、1730nm以上1850nm以下の、及び1800nm以上2050nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0093】
吸光度には波長依存性がある。この波長依存性が小さいほど計測が安定する。もし、波長依存性が大きい場合、少しの測定波長変化に対して吸光度の変化が大きくなり、測定波長に揺らぎがあると、再現性が劣化してしまう。このことは誤差感度が高いということになり、計測が安定しない要因の1つとなる。
したがって、測定波長の揺らぎに由来する誤差を低減し、精度のよい測定を行う観点から、波長依存性が小さい(平坦性のよい)波長域を選択するとよく、後述する実施例の表4から明らかな通り、1730nm以上1850nm以下の波長域、及び1800nm以上2050nm以下の波長域を選択することが好ましい。
第12の実施形態の濃度比測定方法によれば、測定波長の揺らぎに由来する誤差を低減し、精度のよい測定を行うことができる。
【0094】
[第13の実施形態:吸光度感度が大きい波長域に基づく濃度比測定方法]
第13の実施形態の濃度比測定方法は、吸光度感度が大きい波長域に基づく実施形態である。なお、吸光度感度が大きい波長域に基づくこと以外は、第7~9の実施形態と同様にして実施することができる。
第13の実施形態における前記特定波長は、吸光度感度が大きい波長域における1以上の波長乃至波長域、すなわち、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0095】
波長依存性が小さいほど計測が安定する一方で、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比は、トルエン及びメチルシクロヘキサンの水素化/脱水素化の反応の進み具合によって変化する。そのため、その変化の向き(水素化又は脱水素化)や、変化のダイナミックを知るためには、できるだけ感度の大きな波長域で吸光度を求めるとよい。
具体的には、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下の波長域、2150nm以上2180nm以下の波長域、及び2360nm以上2420nm以下の波長域を選択することが好ましい。
第13の実施形態の濃度比測定方法によれば、濃度比の変化に対して感度の高い測定を行うことができる。
【0096】
第12~13の実施形態のように、測定波長は、目的によって変えることができる。
つまり、濃度比をモニタする用途には決定係数が1に近く、かつ吸光度の波長依存性の小さな(平坦性の良い)波長域で測定する。一方、反応の方向やダイナミックを確認したり、反応の最終段階における転化率の微小な変化を確認したりする場合には、濃度比に対する吸光度の感度の高い(傾きaの絶対値|a|が大きい)波長域で測定する。
【実施例0097】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0098】
図1は、トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。具体的には、波長1000[nm]~2500[nm]における、トルエンとメチルシクロヘキサンとを所定の濃度比で混合した溶液の吸光度を表す。
図1中、縦軸は吸光度を示し、横軸は波長を示す。トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが、体積[L]の比で、それぞれ0:100、10:90、30:70、50:50、70:30、90:10、及び100:0となるように調整した溶液(図8中、T00M100、T10M90、T30M70、T50M50、T70M30、及びT100M00と表記する)を用い、それぞれの溶液について、波長1000[nm]~2500[nm]における吸光度を測定した。
【0099】
図1より、吸光度が、トルエンとメチルシクロヘキサンの所定の濃度比(体積%)によって波長ごとに特定の値を示すことが分かる。
【0100】
次いで、図1に示す吸光度と濃度比t:mとの相関を評価するために、吸光度と濃度比t:mとの決定係数を求め、図2として、図1のグラフに重ねて示した。
図2は、トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
図2中、太線は決定係数R(相関係数Rの二乗:R)を示し、右側の縦軸は決定係数を示す。その他の凡例は図1と同様である。
【0101】
図2において、決定係数は、吸光度と濃度比t:mとのリニアリティの良し悪しを表している。決定係数Rは、0≦R≦1の値を取るが、1に近いほどリニアの関係のあることを示す。
【0102】
トルエンの濃度cと吸光度の関係は、下記の式(2)で表される。
【0103】
【数19】
【0104】
A(λ): 特定波長λにおける吸光度[A.U.]
α(λ): λにおけるトルエンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
α(λ): λにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1
D: 光路長[cm]
: トルエンの体積モル濃度[mol・L-1
: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L-1
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
ただし、t+m=1
【0105】
ここで、前記反応式(1)~(2)よりトルエンとメチルシクロヘキサンの水素化/脱水素化の反応は、等モル反応であることから、濃度比t:m=t:1-tと表すことができる。
式(2)に代入することで、溶液の吸光度A(λ)をトルエンの濃度tの一次式で表すことができる。
図2に、トルエンの濃度tと吸光度A(λ)の関係の強さを決定係数で示したグラフを示す。
図2からわかるように、1100[nm]~2500[nm]の波長域において、吸光度の値は0[A.U.]~2.6[A.U.]の間で変化する。表1に示す吸光度と透過率の対応を参照して、吸光度0[A.U.]~2.6[A.U.]を透過率T/Tで表すと、100[%]~0.25[%]で変化することと等しい。
【0106】
【表1】
【0107】
吸光度と透過率の関係は下記式(1)による。
【数20】
: 特定波長におけるブランクの透過光
T: 特定波長における溶液の透過光
A: 特定波長における吸光度[A.U.]
【0108】
図2、及び表1より、センサやフィルタのダイナミック特性のため吸光度Aが0.05[A.U.]以下、又は1.3[A.U.]以上の波長では、リニアリティの特性が低下する。これは透過率T/Tで表すと89.1[%]以上5.0[%]以下と等しい。
【0109】
これらの結果から、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを求める波長には、表2に示す通り、最適な波長域があり、表2に示す波長域における1以上の波長乃至波長域である特定波長を用いて、溶液の吸光度を測定することにより、濃度比を正確に求めることができることが分かった。
すべての波長域で吸光度を測定する必要はなく、最も適した表2に示す波長域の1つの波長で吸光度を測定し、濃度比を算出することができることが確認できた。
【0110】
【表2】
【0111】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせ等、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0112】
10、20 :濃度比測定装置
1 :吸光度測定部
1a、1a':測定セル
1b :光源
1c :吸光度検出器
2 :濃度比算出部
3 :分光器
5 :記憶部
L1 :光線
L2 :透過光
S :溶液
D :光路長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17