IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立マクセル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-扁平形非水電池及びその製造方法 図1
  • 特開-扁平形非水電池及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022035
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】扁平形非水電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20250206BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20250206BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20250206BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20250206BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20250206BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20250206BHJP
【FI】
H01M6/16 C
H01M4/06 X
H01M4/40
H01M50/417
H01M50/44
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126250
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】金鹿 史
(72)【発明者】
【氏名】石原 俊彦
【テーマコード(参考)】
5H021
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021EE04
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH05
5H024AA12
5H024CC03
5H024CC20
5H024DD09
5H024DD14
5H024FF11
5H050AA01
5H050AA15
5H050BA05
5H050CA09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA08
5H050DA19
5H050FA02
5H050FA18
5H050GA17
(57)【要約】
【課題】信頼性及び負荷特性の高い扁平形非水電池を提供する。
【解決手段】本願の扁平形非水電池は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を備え、前記負極は、リチウム層と、前記リチウム層の片側の表面に形成されたLi-Al合金層とを含み、前記Li-Al合金層と前記セパレータとが、接触しており、前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成され、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分は、前記正極と前記負極とにより圧縮されており、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の厚みが、70~150μmであり、前記セパレータの目付が、30~45g/m2である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を含む扁平形非水電池であって、
前記負極は、リチウム層と、前記リチウム層の片側の表面に形成されたLi-Al合金層とを含み、
前記Li-Al合金層と前記セパレータとが、接触しており、
前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成され、
前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分は、前記正極と前記負極とにより圧縮されており、
前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の厚みが、70~150μmであり、
前記セパレータの目付が、30~45g/m2であることを特徴とする扁平形非水電池。
【請求項2】
前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の圧縮後の厚みが、圧縮前の厚みの30%以上である請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項3】
前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の圧縮後の厚みが、圧縮前の厚みの70%以下である請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項4】
前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置しない部分の厚みが、200~400μmである請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項5】
前記セパレータは、2層以上の不織布を貼り合わせて構成されている請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項6】
前記正極は、正極合剤の成形体を含む請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項7】
前記負極のLi-Al合金層に含まれるAlの含有量が、前記Li-Al合金層中のLiとAlの総量中、質量比で5~12%である請求項1に記載の扁平形非水電池。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の扁平形非水電池を製造する方法であって、
リチウム層の表面にアルミニウム層を積層して負極前駆体を作製する工程と、
ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成されたセパレータを、正極と、前記負極前駆体の前記アルミニウム層側とで挟んで圧縮する工程と、前記負極前駆体のアルミニウム層とLiとを反応させて、前記リチウム層の表面にLi-Al合金層を形成して、負極を作製する工程とを含むことを特徴とする扁平形非水電池の製造方法。
【請求項9】
前記セパレータとして、あらかじめ圧縮加工されたセパレータを用いる請求項8に記載の扁平形非水電池の製造方法。
【請求項10】
前記圧縮加工されたセパレータの厚みが、前記圧縮加工を行う前の厚みの55~75%である請求項9に記載の扁平形非水電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、正負極間の短絡を防止できると共に、負荷特性に優れた扁平形非水電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極合剤の成形体(ペレット)からなる正極と、Li金属からなる負極とを組み合わせた扁平形非水電池は、高容量、高電圧などの特性を生かして、種々の用途に利用されている。特に近年では、車載用機器の電源として扁平形非水電池の需要が伸びている。
【0003】
特許文献1では、車両のタイヤパンクセンサーなど、大きな遠心力や振動が作用する機器の電源として用いるために、圧縮前の厚みが約0.05mm~1mm程度のアラミド繊維の不織布を、50%以上95%以下の厚みとなるまで圧縮してセパレータとして用いた扁平形非水電池が提案されている。
【0004】
しかし、アラミド繊維の不織布は加工性に劣るため、所定の大きさで切断し圧縮する作業を行いにくいという難点がある。
【0005】
一方、扁平形非水電池では、負荷特性の向上などを目的として、負極のLi金属のセパレータ側表面にLi-Al合金層を形成することがある。Li金属層の表面をAlと合金化することにより、負極の表面の合金層の結晶粒が微細化すると共に、合金層の表面に微細な凹凸が形成されること(以下、単に「負極表面の微細化」ともいう。)から、負極の反応面積が増え、負荷特性を向上させることができる。
【0006】
しかし、負極の合金層の表面に形成された凹凸が微細なため、不織布などの繊維状のセパレータを用いた場合、負極の合金層の表面に形成された凹凸部がセパレータの空孔内に侵入しやすくなる。更に、合金層の微細化した結晶粒が微粉化して脱落しセパレータの空孔内に侵入する場合もある。
【0007】
また、二酸化マンガンなどの正極活物質や導電助剤などを含む正極合剤からなる正極も、強い振動を受けた場合などに、正極合剤から正極活物質、導電助剤などが脱落して繊維状のセパレータの空孔内に侵入することがある。
【0008】
このため、正極合剤の成形体からなる正極と、Li金属層の表面にLi-Al合金層が形成されて構成された負極とを組み合わせた扁平形非水電池では、セパレータ内に侵入した正極活物質や導電助剤などの正極材と、負極の合金層の表面に形成された凹凸部や微粉化に起因する負極材とが、セパレータ内で接触して短絡を生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-213126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願は、前記問題を解決したものであり、正負極間の短絡を防止できる共に、負荷特性に優れた扁平形非水電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の扁平形非水電池は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を含み、前記負極は、リチウム層と、前記リチウム層の片側の表面に形成されたLi-Al合金層とを含み、前記Li-Al合金層と前記セパレータとが、接触しており、前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成され、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分は、前記正極と前記負極とにより圧縮されており、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の厚みが、70~150μmであり、前記セパレータの目付が、30~45g/m2であることを特徴とする。
【0012】
また、本願の扁平形非水電池の製造方法は、前記本願の扁平形非水電池を製造する方法であって、リチウム層の表面にアルミニウム層を積層して負極前駆体を作製する工程と、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成されたセパレータを、正極と、前記負極前駆体の前記アルミニウム層側とで挟んで圧縮する工程と、前記負極前駆体のアルミニウム層とLiとを反応させて、前記リチウム層の表面にLi-Al合金層を形成して、負極を作製する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、正負極間の短絡を防止できると共に、負荷特性に優れた扁平形非水電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態の扁平形非水電池の模式断面図である。
図2図2は、図1のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(扁平形非水電池)
本願の扁平形非水電池の実施形態について説明する。本実施形態の扁平形非水電池は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を備え、前記負極は、リチウム層と、前記リチウム層の片側の表面に形成されたLi-Al合金層とを含み、前記Li-Al合金層と前記セパレータとが、接触しており、前記セパレータは、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成され、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分は、前記正極と前記負極とにより圧縮されており、前記セパレータの、前記正極と前記負極との間に位置する部分の厚みが、70~150μmであり、前記セパレータの目付が、30~45g/m2である。前記リチウム層は、Li元素を含む層を意味し、金属リチウム層及びリチウム合金層が含まれる。
【0016】
本実施形態の扁平形非水電池では、前記負極が、リチウム層と、前記リチウム層の片側の表面に形成されたLi-Al合金層とを含み、前記Li-Al合金層と前記セパレータとが接触しているため、負極のセパレータ側の表面のLi-Al合金層の結晶粒が微細化すると共に、Li-Al合金層の表面に微細な凹凸が形成されることから、負極の反応面積が増え、負荷特性を向上させることができる。
【0017】
また、本実施形態の扁平形非水電池では、前記セパレータが、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成され、前記正極と前記負極との間に位置する部分が、前記正極と前記負極とにより圧縮されており、前記セパレータの前記正極と前記負極との間に位置する部分の厚みが、70~150μmであり、前記セパレータの目付が、30~45g/m2に設定されているため、セパレータの空孔が微細化され、負極からの負極材や正極からの正極材が、セパレータの空孔内に侵入しにくくなる。このため、上記負極材と上記正極材とがセパレータ内で接触して短絡することを防止できる。
【0018】
特に、二酸化マンガンなどの正極活物質や導電助剤などを含む正極合剤の成形体からなる正極は、強い振動を受けた場合などに、正極合剤から正極活物質、導電助剤などが脱落して繊維状のセパレータの空孔内に侵入しやすくなるが、このような正極を本実施形態の扁平形非水電池に用いた場合でも、本実施形態に係る圧縮セパレータの作用により効果的に正負極間の短絡を防止できる。
【0019】
以下、図面に基づき本実施形態の扁平形非水電池を説明する。図1は、本実施形態の扁平形非水電池の一例を示す模式断面図であり、図2は、図1のA部の拡大図である。図1において、扁平形非水電池1は、外装缶10と、封口缶20と、これらの間に介在するガスケット30とで構成された外装体の内部Sに、積層電極体40と、非水電解液(図示せず。)とが封入されている。積層電極体40は、正極合剤の成形体からなる略円柱状の正極41と、リチウム層42aの片側の表面にLi-Al合金層42bが形成された円盤状の負極42と、セパレータ43とから構成されている。セパレータ43の、正極41と負極42との間に位置する部分は、正極41と負極42とにより圧縮されている。
【0020】
封口缶20は、外装缶10の開口部にガスケット30を介して嵌合しており、外装缶10の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット30が封口缶20に当接することで、外装缶10の開口部が封口されて外装体の内部Sが密閉構造となっている。
【0021】
外装缶10は、円形状の底面部11と、その外周に底面部11と連続して形成される円筒状の周壁部12とを備えている。また、底面部11の内底面には、網部材51が接合されている。網部材51は、電池組立時に、正極41の正極合剤に食い込むように加圧される。網部材51により、外装缶10と正極41との電気的接触を強化できる。
【0022】
封口缶20は、円形状の平面部21と、その外周に平面部21と連続して形成される円筒状の周壁部22とを備えている。また、周壁部22は、平面部21側に位置する基端部22aと、基端部22aから径方向の外方に延伸する段部22cと、基端部22aよりも大きな径を有する拡径部22bとを有する。即ち、周壁部22は、基端部22aと拡径部22bとの間に、両者を接続する段部22cが形成されている。
【0023】
ガスケット30は、封口缶20の周壁部22の開口端と外装缶10の底面部11との間に挟み込まれるように配置されている。具体的には、ガスケット30は、リング状のベース部31と、ベース部31の外周縁から突出する外筒壁32と、ベース部31の内周縁から外筒壁32と同じ方向に伸びる内筒壁33とを備えている。
【0024】
次に、本実施形態の扁平形非水電池の各構成部材について説明する。
【0025】
<負極>
本実施形態の負極42は、図1及び図2に示すように、リチウム層42aと、リチウム層42aの片側の表面に形成されたLi-Al合金層42bとを備えており、Li-Al合金層42bとセパレータ43とは接触している。これにより、Li-Al合金層の結晶粒が微細化すると共に、Li-Al合金層の表面に微細な凹凸が形成されることから、負極の反応面積が増え、負荷特性を向上させることができる。
【0026】
負極表面の微細化を十分に進行させ、負極の負荷特性を向上させるために、Li-Al合金層に含まれるAlの含有量を、Li-Al合金層中のLiとAlの総量中、質量比で5%以上とすることが好ましく、6%以上とすることがより好ましい。一方、負極表面の微細化が進行し過ぎると、微細化したLi-Al合金がセパレータ内の正極に近い位置まで入り込みやすくなり、短絡を生じやすくなるため、Li-Al合金層に含まれるAlの含有量は、Li-Al合金層中のLiとAlの総量中、質量比で12%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。
【0027】
リチウム層42aは、金属リチウム又はリチウム合金を円盤状に加工したものが使用できる。リチウム層42aに用いる金属リチウムには、不可避不純物が含まれることがある。また、上記リチウム合金に含まれる合金成分としては、例えば、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Mo、Sn、Siなどの元素が挙げられる。上記リチウム合金の合金成分となる元素の含有量は、通常10質量%以下である。
【0028】
負極42は、例えば、一定形状及び一定厚みのリチウム板に、アルミニウム箔を積層して負極前駆体を形成し、その負極前駆体をそのまま電池の組み立てに用い、組み立てた後に、リチウム板とアルミニウム箔とを電気化学的に反応させてLi-Al合金とし、リチウム層42aの片側の表面にLi-Al合金層42bを形成することにより得ることができる。
【0029】
負極42において、リチウム層42aの厚みは特に限定されないが、電池容量に応じて100~500μmとすればよい。また、Li-Al合金層42bの厚みも特に限定されないが、厚すぎると負極42の強度が低下するため、通常、リチウム層42aの厚みに対して、1~7%の厚みとすればよい。
【0030】
上記負極前駆体に用いるアルミニウム箔としては、例えば、Al(及び不可避不純物)からなる箔や、合金成分としてCu、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Moなどを含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で10質量%以下)からなる箔などが挙げられる。
【0031】
図1及び図2に示す負極42のリチウム層42aとLi-Al合金層42bとは、負極42の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、識別できる。
【0032】
<正極>
本実施形態の正極41としては、例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダなどを含有する正極合剤をペレット状に加圧成形した成形体を用いることができる。
【0033】
上記正極活物質としては、マンガン酸化物又はリチウムマンガン複合酸化物が好ましい。上記マンガン酸化物は、特に二酸化マンガンが好ましい。上記リチウムマンガン複合酸化物は、LiMn24などのスピネル構造の酸化物、Li2MnO3又はLiMnO2などの層状構造の酸化物、二酸化マンガンにLiが挿入された酸化物、比較的低温での合成が可能で且つLiMn36などの組成で表される低結晶性の酸化物などが好ましい。また、上記正極活物質にフッ化黒鉛を用いてもよい。
【0034】
上記導電助剤には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;銅、ニッケルなどの金属粉末;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることができる。
【0035】
上記バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
【0036】
上記正極合剤の組成としては、例えば、正極活物質を80~96質量%とし、導電助剤を2~10質量%とし、バインダを2~10質量%とすることが好ましい。また、正極合剤からなる成形体の厚みは、500~900μmであることが好ましい。
【0037】
<セパレータ>
本実施形態のセパレータ43としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の織布又は不織布で構成され、セパレータ43の、正極41と負極42との間に位置する部分は、正極41と負極42とにより圧縮されている。また、図2において、セパレータ43の、正極41と負極42との間に位置する部分の厚みXは、70~150μmに設定され、セパレータ43の、正極41と負極42との間に位置しない部分の厚みYは、200~400μmに設定されている。即ち、セパレータ43は、その一部が、正極41と負極42との間に挟まれることなく、積層電極体40よりも外方に延伸している。更に、セパレータ43の目付は、30~45g/m2に設定されている。
【0038】
セパレータ43の正極41と負極42との間に位置する部分の厚みXは、正極と負極の距離が近くなりすぎて短絡しやすくなるのを防ぐため、正極と負極とにより圧縮され厚みを減じた後の厚みを、70μm以上とし、80μm以上とすることが好ましい。また、セパレータを一定以下の厚みになるまで圧縮し、繊維同士を押し付けて粗大な空孔をなくし、短絡を生じにくくするため、厚みを減じた後のセパレータの厚みを150μm以下とし、120μm以下とすることが好ましい。
【0039】
セパレータ43の厚みは、直径6.5mmの平坦な面を有する測定ピンを備えたデジタルシックネスゲージにより測定することができる。
【0040】
セパレータ43の目付は、セパレータの繊維の量を一定以上とし短絡を防ぐため、30g/m2以上とし、32g/m2以上が好ましい。一方、セパレータの繊維の量が多くなりすぎると、セパレータを圧縮しにくくなったり、電池の負荷特性が低下するおそれを生じるため、セパレータの目付は、45g/m2以下とし、40g/m2以下が好ましい。
【0041】
セパレータ43の正極と負極との間に位置する部分の圧縮後の厚みは、圧縮前の厚みの30%以上とすることが好ましく、40%以上とすることがより好ましく、また、70%以下とすることが好ましく、60%以下とすることがより好ましい。これは、圧縮による厚みの変化が大きくなりすぎると、圧縮後の厚みにばらつきが生じやすくなったり、封止性にばらつきが生じやすくなるなどの問題を生じるからである。また、圧縮による厚みの変化が小さすぎる場合、正極及び負極からセパレータが受ける押圧力が小さくなり、振動などによりセパレータが位置ずれする可能性があるからである。
【0042】
また、セパレータ43は、2層以上の不織布を貼り合わせて構成されていることが好ましい。これにより、不織布内に微細な貫通孔が存在しても、複数層の不織布の界面で、その貫通孔の連続性が途切れる確率が高まるため、正極41から脱落した正極材や微粉化した負極材が、セパレータ43内を突き抜けて相互に接触して短絡することをより確実に防止できる。この場合、セパレータ43は、同じ材質の不織布を複数枚積層して構成してもよく、また、異なる材質の不織布を1枚ずつ積層して構成してもよい。
【0043】
<非水電解液>
非水電解液には、有機溶媒中に、リチウム塩を溶解させた溶液を使用する。
【0044】
非水電解液に係る有機溶媒には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;ラクトン環を有する化合物などの環状エステル;1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。より良好な特性の電池とするためには、環状カーボネートと鎖状エーテルとの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
【0045】
非水電解液に係るリチウム塩としては、例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li224(SO32、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiCn2n+1SO3(2≦n≦7)、LiN(RfOSO22〔ここで、Rfはフルオロアルキル基〕などが挙げられる。
【0046】
非水電解液中のリチウム塩の濃度は、0.3mol/L以上、1.2mol/L以下であることが好ましい。
【0047】
<外装体>
前記外装体を構成する外装缶10及び封口缶20の材質としては、例えば、炭素鋼やステンレス鋼などが使用できる。また、外装缶10の底面部11の内底面に接合された網部材51は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属から形成でき、スポット溶接などにより外装缶10の底面部11の内底面に接合することができる。更に、ガスケット30の材質には、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、パーフルオロアルコキシエチレンなどを使用できる。
【0048】
本実施形態の扁平形非水電池1は、コイン状であるが、コイン状に限らず、薄型矩形状であってもよい。
【0049】
(扁平形非水電池の製造方法)
次に、本願の扁平形非水電池の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の扁平形非水電池の製造方法は、前述の本願の扁平形非水電池を製造する方法であって、リチウム層の表面にアルミニウム層を積層して負極前駆体を作製する工程と、ポリオレフィン樹脂の織布又は不織布で構成されたセパレータを、正極と、前記負極前駆体の前記アルミニウム層側とで挟んで圧縮する工程と、前記負極前駆体のアルミニウム層とLiとを反応させて、前記リチウム層の表面にLi-Al合金層を形成して、負極を作製する工程とを備えている。
【0050】
前記負極前駆体のアルミニウム層とLiとの反応では、電池を組み立てた後に、前記負極前駆体のリチウム層とアルミニウム層とを電気化学的に反応させてLi-Al合金とし、リチウム層の片側の表面にLi-Al合金層を形成することができる。これにより、負極のセパレータ側の表面のLi-Al合金層の結晶粒が微細化すると共に、Li-Al合金層の表面に微細な凹凸が形成されることから、負極の反応面積が増え、負荷特性に優れた扁平形非水電池を製造できる。
【0051】
また、本実施形態の扁平形非水電池の製造方法により、前記セパレータの前記正極と前記負極との間に位置する部分が、前記正極と前記負極とにより圧縮されるため、セパレータの空孔が微細化され、負極からの負極材や正極からの正極材が、セパレータの空孔内に侵入しにくくなり、上記負極材と上記正極材とがセパレータ内で接触して短絡することを防止できる扁平形非水電池を製造できる。
【0052】
本実施形態の扁平形非水電池の製造方法に用いる圧縮前のセパレータとしては、厚みが、例えば、200μm以上、好ましくは250μm以上、400μm以下、好ましくは350μm以下のポリオレフィン樹脂の織布又は不織布が用いられる。
【0053】
上記セパレータは、電池の組み立てにおける封止の工程で、正極と、負極前駆体のAl層側とで挟んで圧縮されることにより、70~150μm以下、好ましくは80~120μmの厚みとされる。その際、上記厚みが200~400μmのセパレータをそのまま圧縮してもよいが、その場合、大幅に厚みを減じる必要があり、圧縮後の厚みなどにばらつきが生じるおそれもあるため、電池の組み立てに先立ち、あらかじめある程度セパレータを圧縮加工しておき、圧縮加工後のセパレータを電池の組み立てに用いることが好ましい。
【0054】
上記圧縮加工されたセパレータの厚みは、上記圧縮加工を行う前の厚みの55~75%であることが好ましく、元の厚みの60%以上とすることがより好ましく、また、元の厚みの70%以下とすることがより好ましい。
【0055】
正極と、負極前駆体の前記Al層側とで挟んでセパレータを圧縮する工程において、圧縮によるセパレータの厚みの変化が大きくなりすぎると、圧縮後のセパレータの厚みにばらつきが生じやすくなったり、封止性にばらつきが生じやすくなるなどの問題を生じる。また、セパレータを圧縮する工程で、圧縮によるセパレータの厚みの変化が小さすぎる場合、正極及び負極からセパレータが受ける押圧力が小さくなり、振動などによりセパレータが位置ずれする可能性がある。
【0056】
このため、上記セパレータは、電池の組み立てにおいて、正極と負極との間に位置する部分の圧縮後の厚みは、圧縮前の厚み(あらかじめ圧縮加工されたセパレータの場合は、その加工後の厚み)の30%以上とすることが好ましく、40%以上とすることがより好ましく、70%以下とすることが好ましく、60%以下とすることがより好ましい。
【実施例0057】
以下、実施例に基づいて本願を詳細に述べる。但し、下記実施例は、本願を制限するものではない。
【0058】
(実施例1)
<セパレータの圧縮加工>
ポリプロピレン製の不織布が2層貼り合わされて形成された厚み:300μm、目付:35g/m2のセパレータをカレンダ処理し、厚みが200μmとなるよう圧縮した。
【0059】
次に、正極から粉落ちした状況を再現するため、一定量の二酸化マンガン粉末を前記圧縮されたセパレータの片面上に均等に振り落とした。
【0060】
<正極の作製>
正極活物質である二酸化マンガンと、導電助剤であるカーボンブラックと、バインダであるPTFEとを、90:5:5の質量比で混合して調製した正極合剤を加圧成形し、正極合剤の成形体で構成された直径が16mmで厚みが1.8mmの円盤状の正極を作製した。
【0061】
<負極形成用部材の作製>
金属リチウム片を円形のステンレス鋼製の封口缶の内底面に置き、平面視で円形となるように成形して、直径が16mmで厚みが1.2mmのリチウム層を形成した。更に、その上に厚みが9μmのアルミニウム箔を積層し、負極を構成するためのリチウム層とアルミニウム層の積層体(負極形成用部材)を作製した。
【0062】
<非水電解液の作製>
プロピレンカーボネートと、1,2-ジメトキシエタンと、LiClO4とを、質量比で55:40:5の割合で混合し、LiClO4を0.5mol/Lの濃度で含有する非水電解液を作製した。
【0063】
<電池の組み立て>
内底面にリチウム層とアルミニウム層の積層体が形成された封口缶にガスケットを装着し、前記積層体のアルミニウム層の上に、前記セパレータ及び前記正極を、前記セパレータの二酸化マンガン粉末を振り落とした側が正極と対するようにして順に載置した。
【0064】
次に、封口缶内に前記非水電解液を滴下し、更に円形に打ち抜かれたニッケル網が内底面にスポット溶接されたステンレス鋼製の外装缶をかぶせ、前記セパレータが圧縮されるよう外装缶を押し付けながら、外装缶の開口端部を内方に締め付けて、ガスケットを封口缶に当接することで、外装缶の開口部の封口を行い、扁平形非水電池を組み立てた。
【0065】
電池組み立て後に、リチウム層とアルミニウム層との積層体のアルミニウム層はリチウムと反応して合金化し、リチウム層の表面にLi-Al合金層が形成されたリチウム負極を得た。
【0066】
また、正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて100μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(200μm)の50%の厚みとなった。
【0067】
(比較例1)
ポリプロピレン製の不織布が2層貼り合わされて形成された厚み:300μm、目付:35g/m2のセパレータをカレンダ処理せず、圧縮加工されていないセパレータの片面上に、実施例1と同様に二酸化マンガン粉末を均等に振り落とした。このセパレータを電池の組み立てに用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電池を組み立てた。
【0068】
正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて200μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(300μm)の67%の厚みとなった。
【0069】
(比較例2)
ポリプロピレン製の不織布が2層貼り合わされて形成された厚み:300μm、目付:35g/m2のセパレータをカレンダ処理し、厚みが100μmとなるよう圧縮し、更に実施例1と同様に二酸化マンガン粉末を均等に振り落としたセパレータを電池の組み立てに用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電池を組み立てた。
【0070】
正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて50μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(100μm)の50%の厚みとなった。
【0071】
(比較例3)
目付:25g/m2のセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電池を組み立てた。
【0072】
正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて100μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(200μm)の50%の厚みとなった。
【0073】
(比較例4)
目付:50g/m2のセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電池を組み立てた。
【0074】
正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて100μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(200μm)の50%の厚みとなった。
【0075】
(比較例5)
ステンレス鋼製の封口缶の内底面に厚みが0.35mmのリチウム層を形成し、その上にアルミニウム箔を積層せず、以下実施例1と同様にして扁平形非水電池を組み立てた。
【0076】
正極と負極との間に位置する部分のセパレータの厚みは、電池組み立て時に圧縮されて100μmとなった。従って、電池組み立て前のセパレータの厚み(200μm)の50%の厚みとなった。
【0077】
作製した実施例1及び比較例1~5の電池について、信頼性及び負荷特性を評価した。
【0078】
<信頼性の評価>
実施例及び比較例の各電池10個ずつに対し、開路電圧(OCV)を測定し、電圧が3.1V以下となった電池を短絡した電池と判断し、その個数により電池の信頼性を評価した。
【0079】
<負荷特性の評価>
信頼性の評価で電池の短絡を生じなかった実施例1、比較例2及び比較例4~5の電池について、室温で120mAhの電気量に相当する放電を行った後、-40℃の恒温槽中に保持した。電池の温度が低下した後、10mAの電流値で放電を行い、放電開始から10ms後の電池の放電電圧(CCV)を測定し、低温での負荷特性を評価した。
【0080】
以上の評価結果を、各電池のセパレータの構成と共に表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
負極のリチウム層の表面にLi-Al合金層を形成した実施例1及び比較例1~4の電池のうち、実施例1の電池では、正極と負極との間に位置する部分のセパレータを圧縮して厚みを70~150μmとし、セパレータの目付を30~45g/m2としたことにより、短絡発生を抑制することができ、負荷特性に優れた電池となった。
【0083】
一方、比較例1の電池は、セパレータの圧縮が不十分であったため短絡を生じ、比較例2の電池は、セパレータを圧縮しすぎたため負荷特性が低下し、比較例3の電池は、セパレータの目付が小さすぎたため短絡を生じ、比較例4の電池は、セパレータの目付が大きすぎたため負荷特性が低下する結果となった。また、比較例5の電池は、負極のリチウム層の表面にLi-Al合金層を形成しなかったため、負荷特性が低下する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願の扁平形非水電池は、信頼性及び負荷特性が高いことから、こうした特性を生かして、車載用機器の電源用途や、屋外設備用機器の電源用途のように、長期にわたって容量を良好に維持できることが求められる用途に好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 扁平形非水電池
10 外装缶
11 底面部
12 周壁部
20 封口缶
21 平面部
22 周壁部
30 ガスケット
31 ベース部
32 外筒壁
33 内筒壁
40 積層電極体
41 正極
42 負極
43 セパレータ
51 網部材
図1
図2