(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022092
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/18 20120101AFI20250206BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250206BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20250206BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20250206BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20250206BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20250206BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B60W10/18
B60W10/06
B60W40/076
F02D29/00 G
F02D29/02 341
B60W40/04
B60T7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126349
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】相津 博史
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
3G093
【Fターム(参考)】
3D241AA37
3D241AA44
3D241AA71
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3G093AA04
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3G093BA13
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3G093DB10
3G093DB11
3G093EA02
3G093EA09
3G093EB04
(57)【要約】
【課題】傾斜地で誤発進抑制制御が作動した場合における運転者のクラッチペダル操作による車両のずり下がりを防止する。
【解決手段】マニュアルトランスミッションを備えた車両の制御装置であって、所定低車速以下で進行方向の所定距離内に障害物が検知されている状態でアクセルペダルが操作された場合にエンジントルクを抑制する誤発進抑制制御を行うものにおいて、誤発進抑制制御の作動時に、所定閾値以上の路面傾斜が検出され、かつ、クラッチペダル操作によるクラッチ解除が検出された場合は、アクチュエータによる制動制御介入を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニュアルトランスミッションを備えた車両の制御装置であって、
所定低車速以下で進行方向の所定距離内に障害物が検知されている状態でアクセルペダルが操作された場合にエンジントルクを抑制する誤発進抑制制御を行うものにおいて、
前記誤発進抑制制御の作動時に、所定閾値以上の路面傾斜が検出され、かつ、クラッチペダル操作によるクラッチ解除が検出された場合は、アクチュエータによる制動制御介入を実行することを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記誤発進抑制制御の作動時に、前記所定閾値以上の路面傾斜が検出され、かつ、クラッチペダル操作によるクラッチ解除が検出された前記場合に、前記路面傾斜の下り方向への前記車両の移動が検出された時に、前記制動制御介入を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制動制御介入は、前記下り方向の所定範囲内に障害物が検知されていない限りにおいて、前記アクチュエータを少なくとも1回の減圧を介して間欠的に作動させることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制動制御介入は、前記路面傾斜の検出値が大きいほど、早いタイミングで実行することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制動制御介入は、運転者によるブレーキ操作によって終了することを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制動制御介入は、電動パーキングブレーキによって実行されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、さらに詳しくは、マニュアルトランスミッション車両の誤発進抑制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の予防安全技術として、自車両前方に障害物がある状況で運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合に、エンジン出力を制御して急加速を抑制する誤発進抑制制御が公知である。しかし、この機能は、エンジン出力を減少させる制御を行うため、上り坂で誤発進抑制制御が作動した場合、運転者が意図せず自車両が後方にずり下がって後退する可能性がある。そこで、特許文献1には、自車両の後退を検出する後退検出部を備え、後退が検出された場合、エンジン出力の制限を解除することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マニュアルトランスミッション車両(MT車両)では、傾斜地で誤発進抑制制御が作動した際に、運転者が焦ってクラッチペダルを踏んでしまうと、前記のようにエンジン出力制限を解除してもクリープトルクが消失し、車両がずり下がる虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、傾斜地で誤発進抑制制御が作動した場合に、運転者のクラッチペダル操作による車両のずり下がりを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、
マニュアルトランスミッションを備えた車両の制御装置であって、
所定低車速以下で進行方向の所定距離内に障害物が検知されている状態でアクセルペダルが操作された場合にエンジントルクを抑制する誤発進抑制制御を行うものにおいて、
前記誤発進抑制制御の作動時に、所定閾値以上の路面傾斜が検出され、かつ、クラッチペダル操作によるクラッチ解除が検出された場合は、アクチュエータによる制動制御介入を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両の制御装置は、上記のように構成されているので、傾斜地で誤発進抑制制御が作動した際に、運転者が焦ってクラッチペダルを踏んでしまった場合における車両のずり下がりを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明第1実施形態に係る車両の制御システムを示すブロック図である。
【
図2】本発明第2実施形態に係る車両の制御システムを示すブロック図である。
【
図3】本発明実施形態に係る誤発進抑制制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両の制御システムを示しており、制御システムは、エンジンの出力を制御するエンジンコントローラ10、ブレーキシステムの制動力を制御するブレーキコントローラ20、誤発進抑制制御を実行するための誤発進抑制コントローラ30、および、制御に使用する状態値を取得するためのセンサ群で構成される。
【0010】
エンジンコントローラ10は、アクセルペダルセンサ11に検出される運転者のアクセルペダル踏込量(トルク要求)に応じて、スロットルアクチュエータによりエンジンのスロットル開度を制御する電子制御スロットルシステムを構成する。エンジンコントローラ10には、アクセルペダルの踏込量以外にも、エンジンの運転状態や車両の走行状態を示す種々の検出値が車載ネットワークを介して取得され、エンジンの運転状態を最適に維持するように構成されている。さらに、エンジンコントローラ10には、誤発進抑制コントローラ30や後述のESCコントローラなど他のコントローラからの制御指令が入力され、アクセルペダル操作とは独立してエンジンの出力を制御可能になっている。
【0011】
ブレーキコントローラ20は、電動油圧ユニット(ブレーキアクチュエータ)を制御し、ブレーキペダルに入力される運転者の踏力に応じて発生される液圧(基礎ブレーキ圧)を制御するとともに、誤発進抑制コントローラ30など他のコントローラからの制動要求に応じて、電動油圧ユニットにより液圧(制御ブレーキ圧)を発生させて各車輪のブレーキ装置の制動力を制御する。電動油圧ユニットは、電動ポンプおよびその液圧系統とマスターシリンダ側の液圧系統を切り替える制御バルブなどを備える。ブレーキコントローラ20は、好適には、ESCコントローラ(ECU)として電動油圧ユニットに内蔵され、車輪速センサ41や不図示の操舵角センサ、ヨーレートセンサなどとともにESCシステムを構成する。
【0012】
また、ブレーキコントローラ20は、EPBコントローラ21を介して電動パーキングブレーキを制御する。電動パーキングブレーキは、車輪のブレーキ装置に電動アクチュエータを組み込んだ電動式ディスクブレーキや電動式ドラムブレーキ、あるいはパーキングブレーキケーブルを電動アクチュエータで引張するケーブルプラー式電動パーキングブレーキなどを用いることができる。何れの形式でも、電動アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ)は、ねじ機構などを介して保持動作/解除動作を実行することにより、非通電状態で制動保持できるように構成されている。なお、EPBコントローラ21には、運転者が手動操作可能なパーキングブレーキスイッチが接続され、パーキングブレーキスイッチの操作により電動パーキングブレーキの制動保持/解除を行えるようになっている。
【0013】
誤発進抑制コントローラ30は、障害物検出手段31に検出される障害物までの距離、車輪速センサ41に検出される車速、および、アクセルペダルセンサ11に検知されるアクセルペダルの踏込量を取得し、それらに基づいて誤発進抑制制御(エンジントルク抑制制御)の介入条件が成立するか否かを判定し、エンジントルク抑制制御を実行する。
【0014】
すなわち、車輪速センサ41に検出される車速が所定以下(例えば10km/h以下)の低速域にあるかまたは停車している状態であり、かつ、障害物検出手段31に進行方向の所定距離内に障害物が検知されている状態で、アクセルペダルセンサ11に所定以上のアクセル踏込量が検出された場合に、誤発進抑制制御の介入条件成立と判断する。
【0015】
誤発進抑制制御の介入条件が成立した場合、アクセルペダルの踏込量(トルク要求)に拘わらず、エンジンコントローラ10は、誤発進抑制コントローラ30のトルク抑制指令に基づいてスロットル開度を制限し、エンジントルクを抑制する。同時に、ブザーを鳴動させ、かつ、メータークラスター内の表示灯を点滅させて、誤発進抑制制御が作動中であることを運転者に報知する。誤発進抑制制御は所定時間(例えば最長5秒間)に亘りエンジン出力を抑制し、所定時間の経過または運転者がアクセルペダルを戻すなど、誤発進抑制制御の終了条件が成立した場合は、誤発進抑制制御を終了する。
【0016】
誤発進抑制コントローラ30には、上記以外に、加速度センサ42に検出される車両の加速度、傾斜センサ32に検出される車体傾斜(路面傾斜)、クラッチペダルセンサ43に検出されるクラッチペダルON(またはクラッチペダル開度)などの情報が車載ネットワークを介して取得される。
【0017】
例えば、傾斜センサ32に傾斜が検出されている場合は、その傾斜方向と傾斜度に応じて抑制すべきトルクダウン量を調整する。また、誤発進抑制制御の作動中に、選択ギヤ段が後退でないにも拘わらず加速度センサ42に後退方向の加速度が検出された場合は、ずり下がりと判定され、トルクダウン量が小さくなるように調整され、ずり下がりを防止するクリープトルクが維持されるようにする。なお、傾斜センサ32は、重力加速度に基づいて車両1の前後方向の傾斜を検知する傾斜センサ、加速度センサ、それらを統合した多軸慣性センサ(IMU)などを利用可能であり、加速度センサ42を利用してもよい。
【0018】
障害物検出手段31は、車両の進行方向の障害物の有無および障害物までの距離情報を取得可能な各種センサ、例えば、ステレオカメラ、レーザーレーダ(LiDAR)、超音波センサ、ミリ波レーダなどを利用または併用できる。また、障害物検出手段31は、車両前方の障害物を検出する前方障害物センサと、車両後方の障害物を検出する後方障害物センサとを備え、トランスミッションの選択ギヤ段情報に応じて、前進方向の誤発進抑制制御と、後退方向の誤発進抑制制御が選択的に実行されるように構成されても良い。
【0019】
誤発進抑制コントローラ30は、以上のような制御を実行するための制御プログラムや設定データなどを格納するROM、演算処理結果を一時記憶するRAM、演算処理を行うCPU、通信I/Fなどからなるコンピュータ(ECU)で構成される。
【0020】
ところで、マニュアルトランスミッション車両(MT車両)では、傾斜地で誤発進抑制制御が作動した際に、運転者が焦ってクラッチペダルを踏んでしまうと、クリープトルクが消失し、車両がずり下がる虞があることは既に述べた通りである。
【0021】
そこで、本発明に係る誤発進抑制コントローラ30は、誤発進抑制制御の介入条件成立時に、傾斜センサ32に所定閾値以上の傾斜が検出され、かつ、クラッチペダルセンサ43にクラッチペダルON(クラッチ解除)が検出された場合は、アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ)による制動制御介入を実行するように構成されている。
【0022】
上記制動制御介入は、ブレーキコントローラ20からの制動保持指令によりEPBコントローラ21を介して電動パーキングブレーキ(ブレーキアクチュエータ)を作動させる第1作動形態、および、ブレーキコントローラ20からの液圧保持指令により電動油圧ユニット(ブレーキアクチュエータ)を作動させてブレーキ装置の液圧保持を実行する第2作動形態がある。
【0023】
図3は、本発明に係る誤発進抑制制御の基本的な流れを示すフローチャートである。誤発進抑制コントローラ30は、車両のエンジンが作動している状態で起動し、車輪速センサ41(または車速センサ)に検出される車速、障害物検出手段31に検出される障害物までの距離、および、アクセルペダルセンサ11に検知されるアクセルペダルの踏込量を監視している。そして、車速が所定以下の低速域にあるかまたは停車している状態、かつ、進行方向の所定距離内に障害物が検知されている状態で、所定以上のアクセル踏込量が検出された場合に、誤発進抑制制御の介入条件成立と判定する(ステップ100)。
【0024】
誤発進抑制制御の介入条件が成立すると、誤発進抑制制御が作動し、誤発進抑制コントローラ30は、エンジンコントローラ10にトルク抑制指令を行う。エンジンコントローラ10は、トルク抑制指令に基づいてスロットル開度を制限し、エンジントルクを抑制する(ステップ101)。これと同時に、ブザーの鳴動や表示灯の点滅により、誤発進抑制制御が作動中であることを運転者に報知し、所定時間(例えば5秒)の計時を開始する。
【0025】
誤発進抑制制御の作動時に、傾斜センサ32検出される車体傾斜(路面傾斜)が所定閾値未満であれば(ステップ102;YES)、誤発進抑制制御の終了条件が成立するまで誤発進抑制制御(エンジントルク抑制)を継続し、所定時間の経過または運転者がアクセルペダルを戻すなど、誤発進抑制制御の終了条件が成立した場合は、誤発進抑制制御を終了する(ステップ104)。
【0026】
一方、誤発進抑制制御の作動時に、傾斜センサ32に検出される車体傾斜(路面傾斜)が所定閾値以上であれば(ステップ102;NO)、誤発進抑制コントローラ30は、クラッチペダルセンサ43のクラッチ解除情報を参照する(ステップ105)。
【0027】
この時、クラッチペダルON(クラッチ解除)であれば(ステップ105;YES)、アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ)による制動制御介入を実行し、クリープトルク消失による車両の移動(ずり下がり)を防止する(ステップ106)。
【0028】
上記制動制御介入は、先述したように、電動パーキングブレーキを作動させる第1作動形態、ブレーキ装置の液圧保持を実行する第2作動形態があり、さらに、ブレーキの作動形態やタイミングなどにより、いくつかのバリエーションが存在する。
【0029】
電動パーキングブレーキを作動させる第1作動形態では、誤発進抑制制御の終了条件の成立(ステップ107;YES)をもって、誤発進抑制コントローラ30による誤発進抑制制御(エンジントルク抑制)と制動制御介入は終了する(ステップ108)。但し、電動パーキングブレーキは直ちに解除せず、運転者によるパーキングブレーキスイッチ操作や、誤発進ではないアクセルブレーキペダル操作など、EPBコントローラ21が判断する通常の解除条件が成立した時に解除動作が実行される。
【0030】
ブレーキ装置の液圧保持を実行する第2作動形態では、電動油圧ユニット(ブレーキアクチュエータ)を少なくとも1回の減圧を介して間欠的に作動させ、車体に揺れ(ピッチング)を生じさせながら制動することで、運転者にずり下がり傾向を認識させ、ブレーキ操作を促す効果が期待できる。このような間欠的なブレーキ動作は、傾斜の下り方向の所定範囲内に障害物が検知されていない限りにおいて、反復することもできる。また、傾斜センサ32に検出される車体傾斜(路面傾斜)の検出値が大きいほど、早いタイミングで実行することが好ましい。
【0031】
また、電動油圧ユニット(ブレーキアクチュエータ)による液圧保持は、短時間に留めることが好ましいので、上記のような液圧制御を実行した後、運転者によるブレーキペダル操作が確認できない場合は、電動パーキングブレーキを作動させる第1作動形態に移行しても良い。
【0032】
一方、ブレーキ装置の液圧保持を実行する第2作動形態は、電動パーキングブレーキを備えない車両においても実施可能であり、その場合に、直ちに制動介入を実行する代わりに、加速度センサ42により車両の移動(ずり下がり、微動)が検知された時点で制動制御介入を実行するようにすれば、電動油圧ユニットによる液圧保持をより短時間に留めることができ、さらに上述したような間欠的な作動で運転者のブレーキ操作が促されることも、液圧保持をより短時間に留めるうえで有利である。
【0033】
図2は、本発明の第2実施形態に係る車両の制御システムを示している。基本的な構成および機能は第1実施形態と同様であるが、誤発進抑制コントローラ30とエンジンコントローラ10、ブレーキコントローラ20の間に、制駆動力調停コントローラ40が追加されている。
【0034】
本発明が対象とする誤発進抑制制御以外にも、AEB(自動ブレーキ、衝突被害軽減ブレーキ)、ACC(アダプティブクルーズコントロール)など、MT車両においても、制動力と駆動力を統合的に制御する局面が増えており、制駆動力調停コントローラ40は、それぞれの制御システムによるエンジンコントローラ10へのトルク増減要求とブレーキコントローラ20への制動要求を調停して最適化する機能を有している。
【0035】
特に、車両の駆動力と制動力は、路面傾斜の影響を受けるので、制駆動力調停コントローラ40は、傾斜センサ32(加速度センサ42)の検出情報に基づいて登坂路判定、推定勾配判定を行い、推定勾配に応じてエンジンコントローラ10へのトルク増減要求とブレーキコントローラ20への制動要求を調停する。
【0036】
そこで、第2実施形態に係る制御システムでは、誤発進抑制コントローラ30により誤発進抑制制御介入条件の監視とクラッチペダルセンサ43の監視を行い、誤発進抑制制御の介入条件が成立した場合は、制駆動力調停コントローラ40にトルク抑制指令を行う。さらに、クラッチペダルON(クラッチ解除)が検出された場合は、制駆動力調停コントローラ40に取得されている推定勾配を参照し、推定勾配が所定閾値以上の場合は、制駆動力調停コントローラ40を介してブレーキコントローラ20に制動保持指令を行い、先述したように、電動パーキングブレーキを保持作動させる第1作動形態、または、電動油圧ユニットによるブレーキ装置の液圧保持を実行する第2作動形態で制動制御介入を実行する。
【0037】
以上述べたように、本発明に係る車両の制御システムは、何れの実施形態においても、誤発進抑制制御の作動時に、所定閾値以上の路面傾斜が検出され、かつ、クラッチペダル操作によるクラッチ解除が検出された場合は、アクチュエータによる制動制御介入を実行するように構成されているので、傾斜地で誤発進抑制制御が作動した際に、運転者が焦ってクラッチペダルを踏んでしまっても、電動パーキングブレーキの保持作動または電動油圧ユニットによるブレーキ装置の液圧保持によって車両のずり下がりを防止できる。
【0038】
また、上記制動制御介入を、路面傾斜の下り方向への車両の移動が検出された時点で実行する構成では、その間に運転者がブレーキペダル操作などを実行した場合には、制動制御介入を回避できることに加えて、制動制御介入した場合でもその時間を短縮でき、電力消費を抑える上で有利であるととともに、車体の移動により、運転者によるブレーキ操作が促される利点もある。
【0039】
さらに、下り方向の所定範囲内に障害物が検知されていない限りにおいては、電動油圧ユニットによるブレーキ装置の液圧保持を、少なくとも1回の減圧を介して間欠的に実行し、車体に揺らぎを与えることで、運転者による状況把握やブレーキ操作がより確実に促される。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて本発明の範囲内でさらに変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジンコントローラ
11 アクセルペダルセンサ
20 ブレーキコントローラ
21 EPBコントローラ
30 誤発進抑制コントローラ
31 障害物検出センサ
32 傾斜センサ
40 制駆動調停コントローラ
41 車輪速センサ
42 加速度センサ
43 クラッチペダルセンサ