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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022101
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ステントグラフト
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20250206BHJP
【FI】
A61F2/07
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126363
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】豊田 悠暉
(72)【発明者】
【氏名】永野 順也
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097CC05
4C097CC13
4C097DD01
4C097DD09
4C097FF11
(57)【要約】
【課題】グラフトからの端部ステントの突出に起因する不具合を抑制する。
【解決手段】筒状のグラフト12と、少なくともグラフト12の軸方向端部に接続される端部ステント14と、を備え、端部ステント14は、デリバリー装置のステント拘束機構に端部ステント14の拡張の拘束のために引っ掛けられる引掛部16を備え、引掛部16は、端部ステント14とともにグラフト12の軸方向端部が拡張することによりグラフト12の軸方向端部から軸方向外側に突出する箇所の突出長さを短くできるステントグラフト。引掛部16の突出長さの可変範囲は零を含んでもよい。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のグラフトと、
少なくとも前記グラフトの軸方向端部に接続される端部ステントと、を備え、
前記端部ステントは、デリバリー装置のステント拘束機構に前記端部ステントの拡張の拘束のために引っ掛けられる引掛部を備え、
前記引掛部は、前記端部ステントとともに前記軸方向端部が拡張することにより前記軸方向端部から軸方向外側に突出する箇所の突出長さを短くできるステントグラフト。
【請求項2】
前記グラフトが最大拡張状態にあるときの前記軸方向端部の外径Rmの50%となるまで前記軸方向端部の外径が収縮した状態を基準収縮状態というとき、前記グラフトが前記基準収縮状態にあるときの前記引掛部の最大突出長さL1は、1mm以上となる請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項3】
前記グラフトが最大拡張状態にあるときの前記引掛部の最大突出長さL0は、5mm以下となる請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項4】
前記グラフトが最大拡張状態にあるときの前記軸方向端部の外径Rmの50%となるまで前記軸方向端部の外径が収縮した状態を基準収縮状態といい、前記グラフトが前記基準収縮状態にあるときの前記引掛部の最大突出長さをL1、前記グラフトが最大拡張状態にあるときの前記引掛部の最大突出長さをL0というとき、以下の式(1)から表される短縮率が50%以上となる請求項1に記載のステントグラフト。
短縮率(%)={(L1-L0)/L1}×100 ・・・ (1)
【請求項5】
前記突出長さの可変範囲は零を含む請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項6】
前記端部ステントは、
前記グラフトの軸方向外側に凸となる可動山部と、
前記可動山部に対して周方向両側において前記可動山部に連続して設けられ、前記グラフトに固定される複数の固定部と、を備え、
前記可動山部は、少なくとも頂部における前記グラフトに対する軸方向での相対移動が許容されており、前記引掛部を構成する請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項7】
前記可動山部は、前記頂部と前記固定部との間に設けられる中間線部を備え、
前記グラフトに対して前記中間線部の長さ方向に相対移動可能に前記グラフトに前記中間線部を接続する接続部材を備える請求項6に記載のステントグラフト。
【請求項8】
前記端部ステントは、前記グラフトの軸方向外側に凸となり前記グラフトの周方向に配列される複数の山部を備え、
前記複数の山部は、前記可動山部と、前記グラフトに固定される固定山部と、を含む請求項6に記載のステントグラフト。
【請求項9】
前記可動山部は、前記頂部と前記固定部との間に設けられる中間線部を備え、
前記グラフトに対して前記中間線部の長さ方向に相対移動可能に前記グラフトに前記中間線部を接続する接続部材を備え、
前記固定山部は、前記接続部材による前記可動山部の接続箇所よりも軸方向外側において前記グラフトに接続される請求項8に記載のステントグラフト。
【請求項10】
前記端部ステントは、前記グラフトの軸方向外側に凸となり周方向に配列される複数の山部を備え、
前記複数の山部は、周方向に延びる波状をなす少なくとも一つの波状部によって形成され、
前記複数の山部は、前記可動山部と、前記グラフトに固定される固定山部とを含み、
前記波状部において周方向に隣り合う前記固定山部間にある谷部は、前記グラフトに対する相対移動が許容されている請求項6に記載のステントグラフト。
【請求項11】
前記端部ステントは、前記グラフトの軸方向外側に凸となり周方向に配列される複数の山部を備え、
前記複数の山部は、周方向に延びる波状をなす少なくとも複数の波状部によって形成され、
前記複数の波状部は、第1波長の波状をなす第1波状部と、前記第1波長よりも長い第2波長の波状をなす第2波状部とを含み、
前記可動山部は、前記第2波状部の山部によって構成される請求項6に記載のステントグラフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステントグラフトに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、筒状のグラフトと、少なくともグラフトの軸方向端部に接続される端部ステントとを備えるステントグラフトを開示する。このステントグラフトを管腔器官の目標位置まで搬送するうえでは、特許文献1に記載のようなデリバリー装置が用いられる。デリバリー装置は、ステントグラフトを被覆することでグラフト全体の拡張を拘束するカバーと、端部ステントが引っ掛けられることで端部ステントの拡張を拘束するステント拘束機構と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-510579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステント拘束機構に端部ステントを引っ掛けるうえでは、グラフトの軸方向端部から端部ステントの一部となる引掛部を突出させる必要がある。ステント拘束機構による拘束を解除することでグラフトの軸方向端部とともに端部ステントを拡張させたとき、通常、端部ステントの引掛部の突出長さは一定のままとなる。このような構造のもとでは、グラフトを拡張させることでステントグラフトを管腔器官に張り付けたとき、グラフトからの端部ステントの突出に起因する不具合を招き易くなる。本願発明者は、このような問題があることを新たに認識したうえで、本開示のステントグラフトを想到するに至った。
【0005】
本開示の目的の1つは、グラフトからの端部ステントの突出に起因する不具合を抑制できるステントグラフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のステントグラフトは、筒状のグラフトと、少なくとも前記グラフトの軸方向端部に接続される端部ステントと、を備え、前記端部ステントは、デリバリー装置のステント拘束機構に前記端部ステントの拡張の拘束のために引っ掛けられる引掛部を備え、前記引掛部は、前記端部ステントとともに前記軸方向端部が拡張することにより前記軸方向端部から軸方向外側に突出する箇所の突出長さを短くできる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、グラフトからの端部ステントの突出に起因する不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(A)は、本開示のステントグラフトの効果を説明するための第1模式図であり、図1(B)は、その第2模式図である。
図2図1(A)は、本開示のステントグラフトの他の効果を説明するための第1模式図であり、図1(B)は、その第2模式図である。
図3】第1実施形態のデリバリー装置の模式的な斜視図である。
図4】第1実施形態のデリバリー装置におけるステントグラフト周りの模式的な側面断面図である。
図5】第1実施形態のデリバリー装置の動作に関する第1説明図である。
図6】第1実施形態のデリバリー装置の動作に関する第2説明図である。
図7】第1実施形態のステントグラフトを模式的に示す側面図である。
図8】第1実施形態のステントグラフトを模式的に示す他の側面図である。
図9図9(A)は、第1実施形態のステントグラフトの一部を模式的に示す展開図であり、図9(B)は、図9(A)から縫合糸を省略した図である。
図10図9(A)の一つの可動山部を周辺構造とともに模式的に示す図である。
図11図11(A)は、図10の可動山部を模式的に示す図であり、図11(B)は、その動作を示す図である。
図12】第2実施形態のステントグラフトの一部を模式的に示す展開図である。
図13図13(A)は、第3実施形態のステントグラフトの一部を模式的に示す展開図であり、図13(B)は、その動作を示す図である。
図14図14(A)は、第3実施形態のステントグラフトの一部を模式的に示す展開図であり、図14(B)は、図14(A)から縫合糸を省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)以下、本開示のステントグラフトを実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
まず、本開示のステントグラフトを想到するに至った背景から説明する。デリバリー装置では、グラフトが周方向にできるだけ均一に収縮した状態でカバーにより拘束されることが望まれる。これにより、管腔器官内の目標位置にステントグラフトを適切に配置し、かつ、ステントグラフトを円滑に拡張するうえで有利となる。これを実現するためには、デリバリー装置のステント拘束機構に端部ステントを引っ掛けることで、できるだけ周方向に均一にグラフトの軸方向端部を端部ステントとともに収縮させることが望まれる。端部ステントをステント拘束機構に引っ掛けるうえでは、端部ステントの複数の引掛部がグラフトの軸方向端部から突出している必要がある。
【0011】
前述の通り、ステント拘束機構による拘束を解除することでグラフトの軸方向端部が収縮状態から拡張したとき、端部ステントの引掛部の突出長さが一定のままであると、グラフトからの端部ステントの突出に起因する不具合を招き易くなる。
【0012】
例えば、図1(A)のように、グラフト12の内側に端部ステント14が配置される場合を考える。この場合、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付けたとき、端部ステント14の引掛部16の突出長さLが長くなるほど、グラフト12と端部ステント14の接触面積が小さくなる。これにより、グラフト12から突出する端部ステント14の突出箇所の拡張力をグラフト12により分散し難くなるという不具合を招き易くなる。
【0013】
また、図2(A)のように、グラフト12の外側に端部ステント14が配置される場合を考える。この場合、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付けたとき、端部ステント14の突出長さLが長くなるほど、グラフト12から突出する端部ステント14の突出箇所内を経由して、グラフト12の外側に広範囲に体液が入り込み易くなる。これにより、管腔器官20に対するグラフト12の密着性が低下するという不具合を招き易くなる。
【0014】
この対策として、本開示のステントグラフトの引掛部16は、端部ステント14とともにグラフト12の軸方向端部が拡張又は収縮したとき、それに連動して突出長さLを変更可能であり、グラフト12の軸方向端部の拡張により、その突出長さLを短くできることを特徴とする。これにより、ステント拘束機構による拘束が解除されることで、グラフト12の軸方向端部12aが拡張したとき、その引掛部16の突出長さLを短くすることができる。つまり、ステント拘束機構により拘束しているときの引掛部16の突出長さLと比べて、ステントグラフト10が管腔器官20に張り付けられた状態にあるときの引掛部16の突出長さLを短くすることができる。ひいては、ステント拘束機構による拘束を解除する前後で突出長さLが変化しない場合と比べ、管腔器官20内にステントグラフト10を張り付けたとき、グラフト12から端部ステント14の引掛部16が突出することに起因する不具合を抑制できる。
【0015】
例えば、図1(B)のように、グラフト12の内側に端部ステント14が配置される場合を考える。この場合、端部ステント14の引掛部16の突出長さLを短くできるほど、グラフト12と端部ステント14の接触面積が大きくなる。これにより、端部ステント14の引掛部16の拡張力をグラフト12に分散し難くなるという不具合を抑制できる。このように、端部ステント14の拡張力をグラフト12に分散し易くなるほど、管腔器官20に対する負担を軽減できる点で有利となる。
【0016】
また、図2(B)のように、グラフト12の外側に端部ステント14が配置される場合を考える。この場合、端部ステント14の引掛部16の突出長さLを短くできるほど、グラフト12から突出する突出箇所の内側を経由して体液が入り込み難くなる。ひいては、管腔器官20に対するグラフト12の密着性が低下するという不具合を抑制できる。
【0017】
図3図4を参照する。次に、デリバリー装置100を説明する。図4のステントグラフト10は、説明の便宜のため、実施形態のステントグラフト10とは外観において異なる。
【0018】
デリバリー装置100は、術者により把持されるハンドル102と、ステントグラフト10内に通されるとともにステントグラフト10を支持するシャフト104と、を備える。この他に、デリバリー装置100は、ステントグラフト10を被覆することでグラフト12全体の拡張を拘束するカバー106と、端部ステント14の複数の引掛部16が引っ掛けられることで端部ステント14の拡張を拘束するステント拘束機構108と、を備える。この他に、本実施形態のデリバリー装置100は、ハンドル102に接続されるイントロデューサーシース110を備える。
【0019】
カバー106は、イントロデューサーシース110内を通されており、不図示の第1操作機構を用いた術者の操作により軸方向に引っ張り可能である。グラフト12全体は、ステントグラフト10の端部ステント14を含む少なくとも一つのステントにより、そのステントとともに拡張しようとする。カバー106は、そのステントによるグラフト12全体の拡張を拘束する。
【0020】
ステント拘束機構108は、カバー106とは別に設けられる。ステント拘束機構108は、端部ステント14の複数の引掛部16のそれぞれが引っ掛けられる複数のステント受け部108aを備える。複数のステント受け部108aは軸方向に延びる棒状をなし、その径方向内側を経由するように端部ステント14の引掛部16が引っ掛けられる。複数のステント受け部108aに端部ステント14の引掛部16が引っ掛けられることで、端部ステント14の拡張が拘束されると、それによるグラフト12の軸方向端部12aの拡張も拘束される。複数のステント受け部108aは、不図示の第2操作機構を用いた術者の操作により軸方向に移動可能である。ステント拘束機構108は、各ステント受け部108aの軸方向移動により端部ステント14の拘束の有無を切り替え可能である。
【0021】
デリバリー装置100を用いてステントグラフト10を留置する方法の一例を説明する。まず、デリバリー装置100によりグラフト12を収縮状態に拘束したまま、管腔器官の目標位置までデリバリー装置100とともにステントグラフト10を搬送する。次に、図5に示すように、第1操作機構によりカバー106を引っ張ることで、カバー106によるグラフト12の拘束を解除する。この後、図6に示すように、第2操作機構によりステント拘束機構108の各ステント受け部108aを軸方向に移動させることで、ステント拘束機構108による端部ステント14の引っ掛けを解除し、ステント拘束機構108による端部ステント14の拘束を解除する。これにより、グラフト12が収縮状態から拡張することで管腔器官の目標位置においてステントグラフト10が張り付けられる。
【0022】
図7図8を参照する。次に、ステントグラフト10を説明する。図7は、ステントグラフト10のグラフト12が最大拡張状態(後述する)にあり、図8は、グラフト12が基準収縮状態(後述する)にある状態を模式的に示す。本明細書では、グラフト12の中心線に沿った方向を軸方向といい、その中心線を円中心とする半径方向及び円周方向を単に径方向及び周方向という。また、本明細書では、グラフト12の軸方向外側及び内側というときがある。ここでの軸方向外側とは、グラフト12の軸方向中央位置から離れる側をいい、軸方向内側とは、その軸方向中央位置に近づく側をいう。
【0023】
ステントグラフト10は、血管の解離、瘤の他、消化管の閉塞等の治療のために体内の管腔器官内に留置される。ここでの管腔器官とは、例えば、血管、消化管等をいう。ステントグラフト10は、筒状のグラフト12と、少なくともグラフト12の軸方向端部12aに接続される端部ステント14と、を備える。ステントグラフト10は、端部ステント14よりも軸方向内側に接続される他のステントを備えていてもよい。この他にも、端部ステント14は、グラフト12の軸方向中央部まで延びていてもよい。本実施形態の端部ステント14は、グラフト12の内側に配置されるが、その外側に配置されていてもよい。
【0024】
グラフト12は、可撓性を持つ筒状部材である。グラフト12は、端部ステント14とともに拡張して管腔器官20内に張り付けられた状態を維持することで、その内側に体液の通流する流路を形成する。グラフト12は、例えば、樹脂繊維、金属繊維等を用いた編物、織物等により構成される。
【0025】
端部ステント14は、自己拡張によりグラフト12とともに径方向外側に拡張可能である。ここでの自己拡張とは、自身の弾性変形に伴う復元力により拡張することをいう。端部ステント14は、形状記憶合金、ステンレス等の金属の他、樹脂等を用いた線材により構成される。以下、グラフト12及び端部ステント14に収縮させるための外力が付与されておらず、端部ステント14の自己拡張力によってグラフト12の外径が最大となるまでグラフト12の軸方向端部12a及び端部ステント14が拡張した状態を最大拡張状態という。
【0026】
端部ステント14は、デリバリー装置100のステント拘束機構108に端部ステント14の拡張の拘束のために引っ掛けられる複数の引掛部16を備える。本実施形態の引掛部16は、グラフト12の軸方向外側に凸になるとともに軸方向に折り返す形状である。複数の引掛部16は端部ステント14において周方向に配列される。ここでは二つの引掛部16のみを模式的に示すが、その数は特に限定されず、単数及び三つ以上の何れでもよい。
【0027】
複数の引掛部16は、端部ステント14とともにグラフト12の軸方向端部12aが拡張又は収縮したとき、それに連動して、グラフト12の軸方向端部12aから軸方向外側に突出する箇所の突出長さLを変更可能である。これを実現するための構成は後述する。ここでの突出長さLとは、端部ステント14の引掛部16の軸方向外側端から、その軸方向外側端と同じ周方向位置にあるグラフト12の軸方向末端までの軸方向に沿った長さをいう。図7では突出長さLが零である例を示す。引掛部16がグラフト12の軸方向端部12aから突出するとき、その引掛部16の突出箇所をステント拘束機構108のステント受け部108aに引っ掛け可能となる。このとき、引掛部16の突出箇所は、グラフト12の軸方向端部12aとの間にグラフト12の径方向に貫通する開口部を形成する。引掛部16の形成する開口部内にはステント拘束機構108のステント受け部108aが通され、それにより引掛部16がステント受け部108aに引っ掛けられる。
【0028】
複数の引掛部16は、グラフト12の軸方向端部12aの拡張により突出長さLを短くできる。引掛部16は、グラフト12の軸方向端部12aの拡張により、突出長さLの可変範囲の下限値に達するまで突出長さLを徐々に短くできる。この突出長さLの可変範囲は零を含む。突出長さLの可変範囲は零を下限値にするともいえる。引掛部16は、突出長さLを零にした以降、最大拡張状態に達するまでのグラフト12の軸方向端部12aの拡張により、端部ステント14の軸方向末端から軸方向内側に徐々に引っ込むことができる。この他にも、複数の引掛部16は、最大拡張状態に達したときに突出長さLが零になってもよい。
【0029】
以上のステントグラフト10の効果を説明する。前述の通り、ステントグラフト10の引掛部16は、端部ステント14とともにグラフト12が拡張することにより突出長さLを短くすることができる。よって、前述の通り、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付けるときは引掛部16の突出長さLを短くすることで、端部ステント14の突出に起因する不具合を抑制できる。また、ステント拘束機構108に端部ステント14を取り付けるときは、引掛部16の突出長さLを長くすることで、ステント拘束機構108に対する端部ステント14の取付性が良好となる。
【0030】
また、端部ステント14の突出長さLは可変範囲に零を含んでいる。よって、突出長さLの可変範囲が零超になる場合と比べて、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付けるときの端部ステント14の突出長さLをできるだけ短くできる。ひいては、端部ステント14の突出に起因する不具合の抑制効果を良好に得ることができる。
【0031】
次に、ステントグラフト10の他の特徴を説明する。引掛部16の最大突出長さと平均突出長さを検討する。端部ステント14が単数の引掛部16のみを備える場合、その単数の引掛部16の突出長さLが最大突出長さ、平均突出長さとなる。端部ステント14が複数の引掛部16を備える場合、複数の引掛部16それぞれの突出長さLのうち最大値を最大突出長さとし、それら突出長さの単純平均を平均突出長さとする。このとき、ステントグラフト10は、グラフト12の拡張により引掛部16の最大突出長さ及び平均突出長さのそれぞれを短くでき、それらの可変範囲は零を含むともいえる。
【0032】
グラフト12が最大拡張状態にあるときのグラフト12の軸方向端部12aの外径をRmという。本明細書での外径とは直径をいう。最大拡張状態での外径Rmの50%となるまでグラフト12の軸方向端部12aの外径が収縮した状態を基準収縮状態という。グラフト12の軸方向端部12aの外径がRm×50%となる状態が基準収縮状態となる。この基準収縮状態にあるとき、グラフト12の軸方向端部12aにおける収縮箇所は軸方向に沿って真っ直ぐ延びた状態となる。
【0033】
グラフト12が基準収縮状態にあるときの引掛部16の最大突出長さL1は、好ましくは、1mm以上である。この条件を満たすことで、ステント拘束機構108に端部ステント14を取り付けるとき、引掛部16の突出長さを適度に長くでき、ステント拘束機構108に対する端部ステント14の取付性が良好となる。引掛部16の最大突出長さL1の上限値は、特に限定されないが、例えば、10mmとしてもよい。
【0034】
グラフト12が最大拡張状態にあるときの引掛部16の最大突出長さL0は,好ましくは5mm以下である。これにより、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付ける場合に、引掛部16の突出長さを適度に短くでき、端部ステント14の突出に起因する不具合の抑制効果を良好に得ることができる。
【0035】
端部ステント14が基準収縮状態での最大突出長さL1から最大拡張状態での最大突出長さL0に短縮したときの、最大突出長さL1に対する最大突出長さの短縮分の割合を短縮率(%)という。短縮率は、以下の式(1)から表され、零超100以下の範囲内で変化する。最大拡張状態にあるときの端部ステント14の最大突出長さL0が零となる場合、短縮率は最大値(100%)となる。
短縮率(%)={(L1-L0)/L1}×100 ・・・ (1)
【0036】
短縮率は、好ましくは50%%以上である。これにより、ステント拘束機構108に端部ステント14を取り付けるときは、端部ステント14の突出長さを相対的に適度に長くしつつ、ステントグラフト10を管腔器官20に張り付ける場合は、端部ステント14の突出長さを相対的に適度に短くできる。ひいては、ステント拘束機構108に対する端部ステント14の取付性を良好としつつ、端部ステント14の突出に起因する不具合の抑制効果を良好に得ることができる。
【0037】
ステントグラフト10に関するパラメータ(グラフト12の外径、端部ステント14の突出長さ)の測定に関して説明する。このパラメータを測定するうえで、グラフト12を基準収縮状態にするうえでは、グラフト12の軸方向端部12aに結束バンド22を巻き付け、結束バンド22によりグラフト12を全周範囲で均等に収縮してもよい。グラフト12の軸方向端部12aの外径は、非接触式の外径測定器により全周に亘り測定したときの測定値の最大値を採用してもよい。結束バンド22によりグラフト12を基準収縮状態にする場合、結束バンド22を透光性素材とし、結束バンド22を巻き付けた箇所での外径を、レーザー光を用いた外径測定器により測定してもよい。
【0038】
ここまで説明した、グラフト12が基準収縮状態にあるときのパラメータ(最大突出長さL1、短縮率)を評価するうえで、基準となる下限値、上限値のそれぞれを基準下限値、基準上限値という。最大突出長さL1でいえば、1mmが基準下限値、10mmが基準上限値となる。短縮率でいえば、50%が基準下限値となる。この基準収縮状態にあるときのパラメータが基準上限値以上又は基準下限値以下であるという条件の成否を判定するにあたって、グラフト12の外径がRm×50%となる基準収縮状態を実際に実現してもよい。この場合、例えば、その基準収縮状態にあるときの最大突出長さL1の測定値が基準下限値(1mm)以上である場合に、その最大突出長さL1が基準下限値以上であるという条件を満たすと判定する。この他にも、これに替えて、測定の便宜を考慮して、次のように、グラフト12の外径がRm×50%に近い状態を実現したうえで、そのパラメータに関する条件の成否を判定してもよい。
【0039】
グラフト12の軸方向端部12aの外径が小さくなるほど、引掛部16の最大突出長さL1は長く、かつ、短縮率は大きくなり、その外径が大きくなるほど、引掛部16の最大突出長さL1は短く、かつ、短縮率は小さくなる。ここで、外径Rmに対して50%超60%以下の範囲内で、かつ、できるだけ外径Rmの50%に近いグラフト12の外径にある場合を考える。この場合に、最大突出長さL1の測定値が基準下限値(ここでは1mm)以上であれば、外径Rmに対して50%となる基準収縮状態にあるときの最大突出長さL1も、その基準下限値以上となる(∵グラフト12の外径が小さくなるほどL1が長くなるため)。同様に、この場合に、短縮率の測定値が基準下限値(ここでは50%)以上であれば、外径Rmに対して50%となる基準収縮状態にあるときの短縮率も、その基準下限値以上となる。これをふまえ、外径Rmに対して50%超60%以下の範囲内で、かつ、できるだけ外径Rmの50%に近いグラフト12の外径にある場合に、最大突出長さL1又は短縮率の測定値が基準下限値以上であるとき、基準収縮状態にあるときの最大突出長さL1又は短縮率も基準下限値以上であると判定してもよい。
【0040】
また、外径Rmに対して40%以下50%未満の範囲内で、かつ、できるだけ外径Rmの50%に近いグラフト12の外径にある場合を考える。この場合に、引掛部16の最大突出長さL1の測定値が基準上限値(ここでは10mm)以下であれば、外径に対して50%となる基準収縮状態にあるときの最大突出長さL1も、その基準上限値以下となる(∵グラフト12の外径が大きくなるほどL1が短くなるため)。これをふまえ、外径Rmに対して40%以上50%未満の範囲内で、かつ、できるだけ外径Rmの50%に近いグラフト12の外径にあるときの最大突出長さL1の測定値が基準上限値以下であるとき、基準収縮状態にあるときの最大突出長さL1も基準上限値以下であると判定してもよい。
【0041】
図9(A)、図9(B)を参照する。図9(A)は、ステントグラフト10の一部を軸方向に沿って切り開いたうえで平面に展開した形状の一部を示す展開図である。図9(A)の破線は縫合糸42A、42Bを示す。
【0042】
端部ステント14は、グラフト12の軸方向外側に凸となり周方向に配列される複数の山部30A、30Bを備える。本実施形態において全ての山部30A、30Bは、隣り合う山部30A、30B同士が互いに接触することで、周方向に向かって軸方向にジグザグに延びる外側ジグザグ模様32を形成している。本実施形態の外側ジグザグ模様32は環状に連続している。なお、周方向に隣り合う山部30A、30Bは、互いに分離していてもよい。
【0043】
複数の山部30A、30Bは、軸方向に蛇行しつつ周方向に延びる波状をなす少なくとも一つの波状部34によって形成される。本実施形態の複数の山部30A、30Bは、複数(詳しくは三つ)の波状部34によって形成される。本実施形態の複数の波状部34は、同じ波長で、かつ、互いに異なる位相の波状をなす。本実施形態において、複数の波状部34はグラフト12を繰り返し周回する一つの線材により形成される例を示すが、別々の線材により形成されてもよい。波状部34のなす波は、軸方向に蛇行しつつ周方向に延びる形状であれば特段限定されない。ここでは波状部34が三角波状をなす例を示すが、端部ステント14に採用される各種波の形状(例えば、矩形波状等)をなしてもよい。
【0044】
複数の山部30A、30Bは、少なくとも一つの可動山部30Aと、少なくとも一つの固定山部30Bとを含んでいる。本実施形態では周方向に向かって可動山部30Aと固定山部30Bが交互に配置されているが、その配置順は特に限定されない。可動山部30Aは、後述のように、少なくとも頂部30Aaにおけるグラフト12に対する軸方向での相対移動が許容されており、前述したステント拘束機構108に引っ掛けるための引掛部16を構成する。固定山部30Bは、後述する接続部材44により接続されることでグラフト12に対して軸方向及び周方向に相対移動不能に固定される。ここでの相対移動とは、言及する二者(例えば、グラフト12と可動山部30Aの頂部30Aa)が相対的に移動することをいう。
【0045】
本実施形態の端部ステント14は、グラフト12の軸方向内側に凸となり周方向に配列される複数の谷部36を備える。複数の谷部36は、前述した少なくとも一つ(ここでは三つ)の波状部34によって形成される。本実施形態において全ての谷部36は、隣り合う谷部36同士が互いに接触することで、周方向に向かって軸方向にジグザグに延びる内側ジグザグ模様38を形成している。本実施形態の内側ジグザグ模様38は環状に連続している。
【0046】
図9(A)、図9(B)、図10を参照する。端部ステント14は、可動山部30Aに対して周方向両側において可動山部30Aに連続して設けられ、グラフト12に固定される複数の固定部40を備える。本実施形態の固定部40は波状部34の谷部36における頂部36aを含む箇所に設けられる。個々の可動山部30A毎に一の可動山部30Aに対応する対の固定部40が存在する。本実施形態において、一の可動山部30Aに対応する固定部40は、他の可動山部30Aに対応する固定部40と共通していないが、共通していてもよい。
【0047】
固定部40は、縫合、接着等によりグラフト12に接続されることで、グラフト12に対して周方向及び軸方向に相対移動不能に固定される。本実施形態の固定部40は、第1縫合糸42Aを用いた縫合によりグラフト12に接続される。第1縫合糸42Aは、本実施形態において、前述した内側ジグザグ模様38に沿って端部ステント14の一部をグラフト12に縫合することで、その内側ジグザグ模様38上にある複数の固定部40をグラフト12に固定する。
【0048】
可動山部30Aは、可動山部30Aの軸方向外側端部を構成する頂部30Aaと、その頂部30Aaと固定部40との間に設けられる対の中間線部30Abとを備える。可動山部30Aは、少なくとも頂部30Aaにおけるグラフト12に対する軸方向での相対移動が許容されている。これを実現するうえで、本実施形態のステントグラフト10は、可動山部30Aの頂部30Aaよりも軸方向内側において、グラフト12に対して中間線部30Abの長さ方向に相対移動可能にグラフト12に中間線部30Abを接続する接続部材44を備える。ここでの長さ方向とは、中間線部30Abの延びる方向(軸方向)をいう。この他にも、これを実現するうえで、可動山部30Aは、縫合、接着等によりグラフト12に接続されていなくともよい。
【0049】
本実施形態の接続部材44は、可動山部30Aの頂部30Aaに対して周方向両側にある対の中間線部30Abのそれぞれをグラフト12に接続する。これに替えて、いずれかの中間線部30Abのみをグラフト12に接続してもよい。本実施形態の接続部材44は第2縫合糸42Bである。第2縫合糸42Bは、グラフト12に縫われることで、中間線部30Abをグラフト12に縫合する一つの糸の目46を形成する。ここでは一つの糸の目46のある箇所に丸印を付して示す。中間線部30Abは、第2縫合糸42Bにより一箇所(一つの糸の目46)で縫合されることで、グラフト12に対して長さ方向に相対移動可能に接続される。
【0050】
第2縫合糸42Bは、グラフト12に縫われることで、固定山部30Bに沿って延びる第1縫い目部42Baと、可動山部30Aの対の中間線部30Ab間を延びる第2縫い目部42Bbとを形成する。各縫い目部42Ba、42Bbには、その縫い目部42Ba、42Bbに沿った方向に繰り返し複数の糸の目が配列される。第2縫合糸42Bは、前述した外側ジグザグ模様32上にある複数の固定山部30Bを第1縫い目部42Baによりグラフト12に接続する。また、第2縫合糸42Bは、その外側ジグザグ模様32上にある中間線部30Abを、第2縫い目部42Bbの末端に設けられる前述の糸の目46によりグラフト12に接続する。
【0051】
固定山部30Bは、縫合、接着等によりグラフト12に接続されることで、グラフト12に対して軸方向及び周方向に相対移動不能に固定されている。本実施形態の固定山部30Bは、前述した第2縫合糸42Bの第1縫い目部42Baによる縫合によりグラフト12に接続される。本実施形態の固定山部30Bは、その頂部を含む軸方向範囲でグラフト12に接続される。本実施形態の固定山部30Bは、接続部材44による可動山部30Aの接続箇所(糸の目46の箇所)よりも軸方向外側においてグラフト12に接続される。
【0052】
以上のステントグラフト10の作用効果を説明する。図11(A)、図11(B)を参照する。前述の通り、端部ステント14は、可動山部30Aに対して周方向両側において可動山部30Aに連続して設けられ、グラフト12に固定される対の固定部40を備える。よって、グラフト12が収縮したとき、グラフト12とともに端部ステント14の可動山部30Aに対応する対の固定部40も、それらの間の周方向距離が短くなるように方向D1に移動する。これにより、対の固定部40間の周方向距離が短くなるほど、対の固定部40間にある可動山部30Aの頂部30Aaがグラフト12に対して軸方向外側に向かう方向D2に相対移動する。これに伴い、グラフト12の軸方向端部から軸方向外側に突出する可動山部30Aの突出長さLを長くすることができる。
【0053】
また、グラフト12が拡張したとき、グラフト12とともに端部ステント14の対の固定部40も、それらの間の周方向距離が長くなるように移動する。これにより、対の固定部40間の周方向距離が長くなるほど、グラフト12に対して可動山部30Aの頂部30Aaが軸方向内側に相対移動する。これに伴い、グラフト12の軸方向端部から軸方向外側に突出する可動山部30Aの突出長さLを短くすることができる。
【0054】
つまり、グラフト12の拡張及び収縮に連動して可動山部30Aの頂部30Aaを軸方向に相対移動させることで、グラフト12の軸方向端部に対する可動山部30Aの突出長さLを変更可能となる。言い換えると、このような構成を採用することで、グラフト12の軸方向端部12aに対する突出長さを変更可能な引掛部16として可動山部30Aが構成される。
【0055】
ステントグラフト10は、グラフト12に対して可動山部30Aの中間線部30Abの長さ方向に相対移動可能にグラフト12に中間線部30Abを接続する接続部材44を備える。よって、グラフト12に対して可動山部30Aの頂部30Aaが軸方向に相対移動しようとしたとき、その中間線部30Abの長さ方向でのグラフト12に対する相対移動を許容しつつ、接続部材44による接続箇所(図中の丸印の箇所)において、グラフト12に対する可動山部30Aの相対位置を保持できる。例えば、可動山部30Aに対応する対の固定部40が方向D1に移動する場合を考える。この場合、接続部材44による接続箇所において、グラフト12に対して、中間線部30Abを長さ方向に沿った方向D3に移動させることができ、可動山部30A全体が軸方向に対して大きく傾斜してしまう事態を回避できる。このため、グラフト12に対して可動山部30Aの頂部30Aaをできるだけ軸方向に沿って相対移動させることができ、グラフト12の拡張及び収縮に連動して可動山部30Aの突出長さLを安定して変更できるようになる。
【0056】
複数の山部30A、30Bは、グラフト12に対する突出長さを変更可能な可動山部30Aの他に、グラフト12に固定される固定山部30Bを含む。よって、複数の山部を可動山部30Aのみとする場合と比べ、グラフト12の軸方向端部12aが端部ステント14に接続される範囲を広くできる。特に、可動山部30Aの接続箇所よりも軸方向外側において固定山部30Bが接続されることで、固定山部30Bがない場合と比べて、グラフト12の軸方向端部12aが端部ステント14に接続される軸方向範囲を軸方向外側に広くできる。ひいては、グラフト12の軸方向端部12aにおける末端のめくれを抑制できる。
【0057】
なお、可動山部30Aの突出長さLの可変範囲を調整するうえでは、(1)可動山部30Aに連続する対の固定部40の周方向距離、(2)可動山部30Aの頂部30Aaと固定部40を結ぶ線分の軸方向に対する角度を調整してもよい。例えば、(1)の周方向距離を大きくするほど、又は、(2)の角度を大きくするほど、可動山部30Aの突出長さの可変範囲を大きくできる。
【0058】
(第2実施形態)図12を参照する。以降の実施形態において、第1実施形態で説明した構成要素のうち、以下において説明していない構成要素は、第1実施形態と同じ内容が適用される。
【0059】
前述の実施形態では、端部ステント14の複数の山部は可動山部30Aと固定山部30Bが交互に配置される例を説明した。本実施形態の複数の山部の全ては可動山部30Aである。このように、複数の山部は、固定山部30Bを含んでいなくともよい。本実施形態の複数の可動山部30Aも、第1実施形態と同様、第2縫合糸42Bからなる接続部材44により対の中間線部30Abのそれぞれがグラフト12に接続される。第2縫合糸42Bは、第1実施形態とは異なり、前述の第2縫い目部42Bbのみを形成するようにグラフト12に縫われている。本実施形態においては、固定山部30Bに関する特徴の他は、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0060】
(第3実施形態)図13(A)、図13(B)、図14(A)、図14(B)を参照する。図13(A)は、図14(A)から縫合糸42A、42Bを省略した図である。
【0061】
本実施形態の複数の山部30A、30Bも、第1実施形態と同様、可動山部30Aと固定山部30Bを含んでおり、周方向に向かって可動山部30Aと固定山部30Bが交互に配置されている。本実施形態において、山部30A、30Bを形成する複数の波状部34A、34Bは、第1波状部34Aと、第1波状部34Aのなす波の第1波長λ1よりも長い第2波長λ2の波状をなす第2波状部34Bとを含む。本実施形態では、同じ波長で、かつ、その波長の1/2分だけ位相の異なる二つの第2波状部34Bが存在する。二つの第2波状部34Bは、グラフト12を繰り返し周回する一つの線材により形成される例を示すが、別々の線材により形成されてもよい。
【0062】
また、端部ステント14は、山部30A、30Bを形成する複数の波状部34A、34Bの他に、第1波状部34Aと同じ波長の波状をなす内側波状部50を備える。内側波状部50は、第1波状部34Aの波長の1/2分だけ位相が異なっている。第1波状部34Aの谷部と内側波状部50の山部とは互いに引っ掛かるフック部52を形成している。図14(A)、図14(B)ではフック部52のある箇所を四角の記号で示す。
【0063】
第1波状部34Aの山部34Aaは、周方向に隣り合う第2波状部34Bの山部34Ba間に配置され、その山部34Baと互いに接触している。これにより、第1波状部34Aの山部34Aaと第2波状部34Bの山部34Baは、周方向に向かってジグザグに延びる外側ジグザグ模様32を形成している。
【0064】
内側波状部50の谷部50bは、周方向に隣り合う第2波状部34Bの谷部34Bb間に配置され、その谷部34Bbと互いに接触している。これにより、端部ステント14の第2波状部34Bの谷部34Bbと内側波状部50の谷部50bは、周方向に向かってジグザグに延びる内側ジグザグ模様38を形成している。
【0065】
前述した第1波状部34Aの第1波長λ1<第2波状部34Bの第2波長λ2の条件を満たすうえで、第1波状部34Aに含まれる各波の波長の最大値よりも、第2波状部34Bに含まれる各波の波長の最小値が長くなっていればよい。本実施形態の第2波長λ2は第1波長λ1の整数倍(ここでは一例として二倍)の大きさであるが、これ以外の大きさであってもよい。この条件を満たすうえで、第1波状部34Aに含まれる各波の波長の単純平均を第1平均波長とし、第2波状部34Bに含まれる各波の波長の単純平均を第2平均波長としたとき、第1平均波長の整数倍の数値に対して±10%の範囲に第2平均波長があればよい。なお、第1波長λ1<第2波長λ2の条件を満たすうえで、それらの具体的な長短関係は実施形態の内容に特に限定されない。
【0066】
本実施形態の第2波状部34Bは、第1波状部34Aのなす波の第1振幅W1よりも大きい第2振幅W2の波状をなす。この条件を満たすうえで、第1波状部34Aに含まれる各波の振幅の最大値よりも、第2波状部34Bに含まれる各波の振幅の最小値が大きくなっていればよい。本実施形態の第2振幅W2は第1振幅W1の整数倍(ここでは一例として二倍)の大きさであるが、これ以外の大きさであってもよい。この条件を満たすうえで、第1波状部34Aに含まれる各波の振幅の平均値を第1平均振幅とし、第2波状部34Bに含まれる各波の振幅の平均値を第2平均振幅としたとき、第1平均振幅の整数倍に対して±10%の範囲に第2平均振幅があればよい。第1波長λ1<第2波長λ2とするうえで、第1振幅W1、第2振幅W2の具体的な大小関係は問わない。
【0067】
本実施形態の可動山部30Aは、第2波状部34Bの山部34Baによって構成され、固定山部30Bは、第1波状部34Aの山部34Aaによって構成される。端部ステント14の可動山部30Aに連続する複数の固定部40は、第2波状部34Bの谷部34Bbに設けられる。これを実現するうえで、前述と同様、第1縫合糸42Aによって内側ジグザグ模様38に沿って端部ステント14の一部をグラフト12に縫合することで、その内側ジグザグ模様38上にある複数の固定部40がグラフト12に固定される。このとき、内側ジグザグ模様38上にある内側波状部50の谷部50bもグラフト12に固定される。
【0068】
可動山部30Aの頂部30Aaをグラフト12に対して軸方向に相対移動させることで突出長さを変更する場合、前述の通り、可動山部30Aに連続する対の固定部40の周方向距離を大きくするほど、その突出長さの可変範囲を大きくするうえで有利となる。対の固定部40の周方向距離を大きくするうえでは、例えば、波状部のなす波の波長を長くすることが有効となる。本実施形態では、第1波長λ1よりも長い第2波長λ2の波状をなす第2波状部34Bに可動山部30Aが設けられている。よって、第2波長λ2が第1波長λ1と同じになる場合と比べ、可動山部30A(引掛部16)の突出長さの可変範囲を大きくするうえで有利となる。
【0069】
第1実施形態において、一つの波状部において周方向に隣り合う固定山部30B間にある谷部36は、グラフト12に対して固定されている例を説明した。これに対して、本実施形態において、第1波状部34Aにおいて周方向に隣り合う固定山部30B間にある谷部36(実施形態ではフック部52の形成された箇所)は、グラフト12に対して縫合、接着等により接続されておらず、そのグラフト12に対する軸方向及び周方向での相対移動が許容されている。この利点を説明する。
【0070】
グラフト12が収縮しようとしたとき、周方向に隣り合う固定山部30B間の周方向距離が短くなるように移動する。これにより、固定山部30B間にある谷部36がグラフト12に対して軸方向内側に相対移動しようとする。このとき、その谷部36がグラフト12に固定されている場合、その固定箇所から軸方向外向きの抵抗力Fが波状部34Aに作用し、その抵抗力Fの影響によりグラフト12を収縮させ難くなる。この点、本実施形態のように、固定山部30B間にある谷部36がグラフト12に対する相対移動が許容されている場合、グラフト12が収縮しようとしたときに、その谷部36に対して抵抗力Fを作用させずに済む。ひいては、複数の山部30A、30Bに固定山部30Bが含まれている場合でも、軽い力でグラフト12を収縮させることが可能となる。この他に、本実施形態においては、第1実施形態のステントグラフト10と同じ効果を得ることができる。
【0071】
以上の構成要素の変形形態を説明する。
【0072】
実施形態のデリバリー装置100は一例に過ぎない。ステント拘束機構108により端部ステント14とともにグラフト12の遠位側端部の拡張を拘束する例を説明したが、他の端部ステント又は同じステントの一部とともにグラフト12の近位側端部の拡張を拘束してもよい。また、各操作機構、ステント拘束機構108の具体例も特に限定されない。実施形態のようにステント拘束機構108の複数のステント受け部108aは同じ部材により構成されてもよいし、別部材により構成されてもよい。
【0073】
実施形態では、最大突出長さL1の下限値、最大突出長さL0の上限値のそれぞれに関する条件を同時に満たす例を説明した。これに限定されず、L1、L0の何れかに関する条件のみを満たしていてもよいし、これらを満たしていなくともよい。また、短縮率に関する条件は満たしていなくともよい。また、短縮率、最大突出長さL1、L0の何れかに関する条件を満たすうえで、グラフト12の突出長さLの可変範囲は零超であってもよい。
【0074】
端部ステント14の引掛部16の突出長さLを変更するための具体的構成は特に限定されない。
【0075】
端部ステント14の複数の山部30A、30Bは波状部34によって構成されていなくともよい。例えば、複数の山部30A、30Bは、軸方向に向かって螺旋状に延びる複数の螺旋状部分の端部に設けられていてもよい。
【0076】
ステントグラフト10は、接続部材44を備えていなくともよい。グラフト12に可動山部30Aの中間線部30Abを接続する接続部材44として、グラフト12に固定され中間線部30Abを移動可能に通す筒状部材を用いてもよい。
【0077】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造、数値には、製造誤差を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
10…ステントグラフト、12…グラフト、14…端部ステント、16…引掛部、30A…可動山部、30Aa…頂部、30Ab…中間線部、30B…固定山部、34,34A,34B…波状部、34A…第1波状部、34B…第2波状部、40…固定部、44…接続部材、100…デリバリー装置、108…ステント拘束機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14