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  • 特開-含水爆薬の分解装置及び分解処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022115
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】含水爆薬の分解装置及び分解処理方法
(51)【国際特許分類】
   C06B 47/14 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
C06B47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126383
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】早津 隆広
(72)【発明者】
【氏名】村田 健司
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】巽 義知
(72)【発明者】
【氏名】若竹 亮
(72)【発明者】
【氏名】辻川 泰人
(72)【発明者】
【氏名】三上 英明
(72)【発明者】
【氏名】生島 直輝
(57)【要約】
【課題】実際の工事現場等で実現可能で、かつ安全な含水爆薬の分解装置及び分解処理方法を提供する。
【解決手段】含水爆薬及び分解剤が投入され、前記含水爆薬が油層と水層とに分解される分解槽2と、前記分解槽2で分解された油層と水層とが投入され、前記油層を吸着する油分吸着材6が備えられるとともに、前記油分吸着材6に吸着されなかった前記水層が排出される排水口4が備えられた吸着分離槽3とで構成される。前記分解槽2は、前記含水爆薬と分解剤とを攪拌する攪拌装置7が備えられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水爆薬及び分解剤が投入され、前記含水爆薬が油層と水層とに分解される分解槽と、
前記分解槽で分解された油層と水層とが投入され、前記油層を吸着する油分吸着材が備えられるとともに、前記油分吸着材に吸着されなかった前記水層が排出される排水口を備えた吸着分離槽と、からなることを特徴とする含水爆薬の分解装置。
【請求項2】
前記分解槽は、前記含水爆薬と分解剤とを攪拌する攪拌装置が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置。
【請求項3】
前記分解装置は、前記分解槽を上段側に配置するとともに、前記吸着分離槽を下段側に配置して構成され、
前記分解槽の底部に、分解された油層と水層とが排出され、前記吸着分離槽に向けて投入されるように設けられた排出部が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置。
【請求項4】
前記油分吸着材が、前記吸着分離槽の槽内に敷き詰められるように配置されるとともに、前記吸着分離槽の一方側縁部からこれに対向する他方側縁部に向けて傾斜して配置されている請求項1記載の含水爆薬の分解装置。
【請求項5】
前記分解槽は、前記含水爆薬の分解過程で発生するガスを外部に排出する排気手段が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置。
【請求項6】
分解槽に含水爆薬及び分解剤を投入し、前記含水爆薬を油層と水層とに分解する分解工程と、
前記分解工程で分解された油層と水層とを吸着分離槽に投入し、該吸着分離槽内に備えられた油分吸着材に油層を吸着することにより、油層と水層とに分離する吸着分離工程と、からなることを特徴とする含水爆薬の分解処理方法。
【請求項7】
前記分解槽において、前記含水爆薬と分解剤とを攪拌し、静置した後、前記吸着分離槽に送る請求項6記載の含水爆薬の分解処理方法。
【請求項8】
前記含水爆薬を減圧・加圧処理して前記含水爆薬に含まれる気泡を除去した後、前記分解工程を行うか、前記含水爆薬を減圧・加圧処理して前記含水爆薬に含まれる気泡を除去する工程と前記分解工程とを同時に行う請求項6記載の含水爆薬の分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルのトンネル発破などに用いられる含水爆薬を安全に分解処理するための分解装置及び分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネルのトンネル発破のための装薬作業は、切羽に近づいて行う必要があるため、肌落ち災害の危険性が高い作業の一つとして知られている。この装薬作業を自動化することができれば、切羽に近づいて行う作業が減り、山岳トンネル工事の安全性を高めることができる。また、リニア中央新幹線に代表されるように、硬岩の長大トンネルの建設工事では、長孔発破が必要となるため、発破作業の生産性向上が求められている。
【0003】
このような要求を満足する技術として、サイトミキシング型(現場混合型)の含水爆薬(バルクエマルション爆薬)を使用した発破装薬の自動化技術が注目されている。バルクエマルション爆薬は、硝酸アンモニウム(AN)を主剤とし水を含有するゲル状の低粘性爆薬で、紙や樹脂フィルム等で包装しておらず、ゲル状の爆薬がモノポンプ等の圧送機械によってホース内を圧送されることにより、削孔内に適量の装填を可能にした爆薬である。したがって、装薬量のコントロールが容易であり、ドリルジャンボの削孔データと連動させることで、効率的な装薬及び発破を行うことができるようになる。
【0004】
サイトミキシング型のバルクエマルション爆薬によるトンネル発破を行う場合、ホース内やポンプ内などに残留するバルクエマルション爆薬を安全な方法で処分する必要がある。このような爆薬の処分方法としては、従来より、少量ずつ爆発処理又は焼却処理する方法が知られている。ところが、前記爆発処理を行うには、火薬取締法の廃棄の許可を得た上で、適正な比重に調製された含水爆薬を100g程度に分取し、同量の市販の含水爆薬に電気雷管を取り付けた起爆薬を取り付け、10立米以上の内容積を持つ鉄筋コンクリート製の爆薬ピットにて爆発廃棄する必要があり、一方、前記焼却処理を行うには、同じく火薬取締法の廃棄の許可を得た上で、数百メートルの保安距離(安全距離)を周囲に有する火薬類の焼却処分場にて、風の少ない日を選んで、20kg程度に分けた後、徐々に燃えるように線状に並べ、風下側から点火し、焼却処分する必要がある。いずれの処理方法も、トンネル工事現場などでは広大な面積を必要とする廃棄処分場を併設することは、現実的に不可能に近いことであるとともに、爆発や焼却の際の危険を伴う作業であった。
【0005】
ところで下記特許文献1には、エマルション爆薬の分解処理法として、エマルション爆薬に有機溶剤と水との混合液、又は界面活性剤と水との混合液、又は有機溶剤と界面活性剤と水との混合液の何れかの混合液を加えて裁断又は混合して分離・分解する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-199786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の分解処理方法では、エマルション爆薬を分離・分解する方法が開示されるものの、実際の工事現場等で安全に分解処理する方法が開示されるものではなく、実際の工事現場等で実現可能な分解装置及び分解処理方法が望まれていた。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、実際の工事現場等で実現可能で、かつ安全な含水爆薬の分解装置及び分解処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、含水爆薬及び分解剤が投入され、前記含水爆薬が油層と水層とに分解される分解槽と、
前記分解槽で分解された油層と水層とが投入され、前記油層を吸着する油分吸着材が備えられるとともに、前記油分吸着材に吸着されなかった前記水層が排出される排水口を備えた吸着分離槽と、からなることを特徴とする含水爆薬の分解装置が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明は、ホース内やポンプ内などに残った含水爆薬を回収し、これを安全に分解する分解装置である。この分解装置は、分解槽と吸着分離槽とで構成されている。前記分解槽では、回収された含水爆薬及び分解剤が投入され、前記分解剤の作用によってエマルションが破壊されることにより、含水爆薬が油分(油層)と、水分及び無機塩(水層)とに2相分解される。その後、この分解された油層と水層とが前記吸着分離槽に投入される。吸着分離槽には、油分を吸着する油分吸着材が備えられており、前記油層が油分吸着材に吸着され、この残水(水層)が排水口から排出されるようになっている。
【0011】
このように、本発明に係る分解装置では、含水爆薬が安全な油層と水層に分解され、それぞれが分離して回収できるようになっているため、余剰の含水爆薬を現地で安全に処理することができるようになる。
【0012】
なお、前記「含水爆薬」とは、前述の通り、ホース内やポンプ内などに残った含水爆薬を回収したものであり、後段で詳述するように、爆薬中間体に発泡剤が混合されることで鋭感化した含水爆薬のみならず、製造途中の含水爆薬や爆薬中間体、発泡不良の含水爆薬や爆薬中間体、発泡剤が混合される前の爆薬中間体も含む概念である。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記分解槽は、前記含水爆薬と分解剤とを攪拌する攪拌装置が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置が提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明では、前記分解槽に、含水爆薬と分解剤とを攪拌するプロペラ式などの攪拌装置を備えることにより、分解を促進している。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記分解装置は、前記分解槽を上段側に配置するとともに、前記吸着分離槽を下段側に配置して構成され、
前記分解槽の底部に、分解された油層と水層とが排出され、前記吸着分離槽に向けて投入されるように設けられた排出部が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置が提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明では、分解装置が上段側の分解槽と下段側の吸着分離槽によって一体化されており、上段側の分解槽の底部に、分解された油層と水層とが排出され、吸着分離槽に向けて投入されるように設けられた排出部を備えている。このように分解装置が一体化されているため、トンネル工事現場等の狭隘なスペースにも容易に設置できるようになる。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記油分吸着材が、前記吸着分離槽の槽内に敷き詰められるように配置されるとともに、前記吸着分離槽の一方側縁部からこれに対向する他方側縁部に向けて傾斜して配置されている請求項1記載の含水爆薬の分解装置が提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明では、前記吸着分離槽における油分吸着材の配置形態について規定してあり、前記油分吸着材が、吸着分離槽の槽内に敷き詰められるように配置されるとともに、吸着分離槽の一方側縁部からこれに対向する他方側縁部に向けて傾斜して配置されている。これによって、油分吸着材による油層の分離吸収が促進できる。
【0019】
請求項5に係る本発明として、前記分解槽は、前記含水爆薬の分解過程で発生するガスを外部に排出する排気手段が備えられている請求項1記載の含水爆薬の分解装置が提供される。
【0020】
上記請求項5記載の発明では、前記分解槽に、含水爆薬の分離過程で発生するガスを外部に排出する排気手段を備えているため、含水爆薬の分解過程で発生するガスによる分解槽内の内圧上昇が防止できる。
【0021】
請求項6に係る本発明として、分解槽に含水爆薬及び分解剤を投入し、前記含水爆薬を油層と水層とに分解する分解工程と、
前記分解工程で分解された油層と水層とを吸着分離槽に投入し、該吸着分離槽内に備えられた油分吸着材に油層を吸着することにより、油層と水層とに分離する吸着分離工程と、からなることを特徴とする含水爆薬の分解処理方法が提供される。
【0022】
上記請求項6記載の発明では、含水爆薬の分解処理方法について規定しており、分解槽に含水爆薬及び分解剤を投入し、含水爆薬を油層と水層とに分解する分解工程と、この分解工程で分解された油層と水層とを吸着分離槽に投入し、該吸着分離槽内に備えられた油分吸着材に油層を吸着することにより、油層と水層とに分離する吸着分離工程とで構成されているため、広大なスペースが確保できない実際の工事現場等でも実現可能で、かつ安全に含水爆薬を分解処理することができるようになる。
【0023】
請求項7に係る本発明として、前記分解槽において、前記含水爆薬と分解剤とを攪拌し、静置した後、前記吸着分離槽に送る請求項6記載の含水爆薬の分解処理方法が提供される。
【0024】
上記請求項7記載の発明では、分解槽において含水爆薬と分解剤とを攪拌して分解を促進し、しばらく静置して、含水爆薬を十分に油層と水層とに分解した後、この油層と水層とを吸着分離槽に投入している。
【0025】
請求項8に係る本発明として、前記含水爆薬を減圧・加圧処理して前記含水爆薬に含まれる気泡を除去した後、前記分解工程を行うか、前記含水爆薬を減圧・加圧処理して前記含水爆薬に含まれる気泡を除去する工程と前記分解工程とを同時に行う請求項6記載の含水爆薬の分解処理方法が提供される。
【0026】
上記請求項8記載の発明では、前記含水爆薬を分解剤で分解する前処理として、含水爆薬の減圧・加圧処理により含水爆薬に含まれる気泡を除去して安全化した後に、前記分解工程を行っている。含水爆薬から気泡が除去できれば、爆発は生じないため、安全に処理を行うことができる。なお、前記分解剤として、所定の蒸気圧が低いものを使用する場合は、前記含水爆薬を減圧・加圧処理して含水爆薬に含まれる気泡を除去する工程と前記分解工程とを同時に前記分解槽内において行うことも可能である。
【発明の効果】
【0027】
以上詳説のとおり本発明によれば、実際の工事現場等で実現可能で、かつ安全な含水爆薬の分解装置及び分解処理方法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】サイトミキシング型の含水爆薬の製造工程を示す模式図である。
図2】本発明に係る分解装置1を示す正面図である。
図3】その側面図である。
図4】分解装置1の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0030】
例えばトンネル工事現場で用いられる、サイトミキシング型(現場混合型)の含水爆薬(バルクエマルション爆薬)を製造する爆薬製造システム20は、図1に示されるように、エマルション状態の爆薬中間体(ANE:硝酸アンモニウムエマルション)を貯蔵する爆薬中間体貯蔵タンク21と、発泡剤を貯蔵する発泡剤貯蔵タンク22と、前記爆薬中間体及び発泡剤を圧送する圧送ポンプ23と、前記爆薬中間体及び発泡剤が圧送され、トンネルの切羽に穿設された削孔24内に挿入した状態で、先端から爆薬中間体及び発泡剤を吐出して削孔24内に含水爆薬を装薬する装薬ホース25とから構成される。
【0031】
装薬ホース25の先端から吐出された爆薬中間体及び発泡剤は、削孔24内で混合されることで、削孔24内でのみ鋭感化し、含水爆薬となる。すなわち、発泡剤が混合される前の爆薬中間体は爆薬ではなく、火薬類取締法の適用外で、消防法上の危険物として取り扱われるため、爆薬のような管理体制は必要なく、各々の材料を別個に貯蔵・運搬・取り扱いが可能である。
【0032】
上述の爆薬製造システム20において、(1)初期の混合が安定するまでの含水爆薬や爆薬中間体、(2)装薬完了後に圧送ポンプ23や装薬ホース25の内部に残ってしまった含水爆薬や爆薬中間体、(3)装薬作業の不意の中断時に圧送ポンプ23や装薬ホース25内で発泡が進んでしまった含水爆薬や爆薬中間体、(4)試運転などで余製造となった含水爆薬や爆薬中間体、などは、安全にエマルション状態を破壊し、ワックス類や分子量の大きい界面活性剤などの油分(油層)と、硝酸塩類を含む無機塩水溶液分(水層)とに分離し処理する必要がある。このような余剰の爆薬は、火薬類取締法の各種制限により、現地に取り置こうとしても法的に適合する容器が無く、取り置く場所も無く、輸送手段もないため、現地で処理する必要がある。
【0033】
本発明は、上述のようなサイトミキシング型の含水爆薬を安全に分解処理するための分解装置及び分解処理方法である。
【0034】
本発明に係る分解装置1は、図2及び図3に示されるように、含水爆薬及び分解剤が投入され、前記含水爆薬が油層と水層とに分解される分解槽2と、前記分解槽2で分解された油層と水層とが投入され、前記油層を吸着する油分吸着材6が備えられるとともに、この油分吸着材6に吸着されなかった前記水層が排出される排水口4を備えた吸着分離槽3とで構成される。
【0035】
前記分解槽2は、図2及び図3に示されるように、周囲の全面が、ステンレス、アルミなどの金属や樹脂などからなる天板、側板及び底板で囲われた中空函体であって、内部に貯留物が貯留可能な槽状に形成されるとともに、底部にテーパーが設けられてホッパー状に形成されている。このホッパー底部には、分解された油層と水層とを排出する排出部5が設けられている。前記分解槽2には含水爆薬及び分解剤の投入口が設けられており、この投入口には開閉可能な蓋が設けられ、前記蓋で投入口を閉塞することにより槽内が密閉できるように構成されている。
【0036】
前記分解槽2には、前記爆薬製造システム20で出た余剰の含水爆薬(上記(1)~(4)に例示されるように、爆薬中間体に発泡剤が混合されることで鋭感化した含水爆薬のみならず、製造途中の含水爆薬や爆薬中間体、発泡不良の含水爆薬や爆薬中間体、発泡剤が混合される前の爆薬中間体も含む。)が投入されるとともに、含水爆薬のエマルション状態を破壊し、油分(油層)と水分及び無機塩(水層)との2相に分解する分解剤が投入される。前記分解剤の投入は、含水爆薬投入の前でも後でも、あるいはその両方でもよいし、同時でもよい。
【0037】
前記分解剤は、アルコール類及び界面活性剤のいずれか又は両方からなる分解主剤に、分解助剤としての水を適宜投入したものである。
【0038】
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールの一又は複数の組み合わせからなるものなどを挙げることができる。
【0039】
前記界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウムなどの脂肪酸系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸系の界面活性剤などを挙げることができる。
【0040】
また、前記分解助剤として、含油廃水などを油分と水分に分解処理可能な市販の廃水処理剤(例えば、株式会社マツケン製、エマルジョンブレーカー)などを用いてもよい。
【0041】
前記分解剤は、分解槽2の近傍に配置された分解剤貯留タンク内に収容され、この分解剤貯留タンクから分解剤が分解槽2に適宜投入される。
【0042】
前記分解槽2にて分解処理する際の温度条件は、常温であれば特に制限はないが、-10℃~35℃などとするのがよい。
【0043】
前記分解槽2には、投入された含水爆薬と分解剤とを攪拌する攪拌装置7が備えられている。含水爆薬と分解剤を攪拌することにより、含水爆薬の分解が促進される。前記攪拌装置7としては、公知の攪拌装置を制限なく用いることができるが、分解槽2内に投入された含水爆薬と分解剤とが攪拌可能なように、手動式の撹拌棒や電動式のプロペラ式攪拌機が好適である。前記プロペラ式攪拌機は、天板、側板及び/又は底板から突出する回転軸に攪拌用羽根が1又は複数固定されたもので、電動モータによる回転軸の回転により攪拌用羽根が回転して分解槽2内の貯留物を攪拌する。前記プロペラ式攪拌機は、備え付けのタイマーによって、所定時間、連続的又は断続的に稼働されるようになっている。
【0044】
前記分解槽2内で含水爆薬と分解剤とを攪拌した後、所定時間(少なくとも数時間)静置し、前記分解剤の作用により含水爆薬を油層と水層とに分解する。分解された油層と水層は、分解槽2の底部に設けられた排出部5を通って吸着分離槽3に投入される。
【0045】
前記分解剤による分解を促進するため、含水爆薬及び分解剤を投入した分解槽2に蓋をして密閉した状態で、真空ポンプを稼働して分解槽2内を大気圧よりも10%以上減圧してもよい。また、分解が遅い場合は、減圧→常圧を複数回繰り返すことも、分解促進に効果的である。
【0046】
また、前記分解槽2には、分解剤による含水爆薬の分解反応の際に発生するガスを外部に排出するための排気手段が備えられている。前記排気手段としては、密閉された分解槽2内の内圧が所定の圧力以上になったとき、排気口に通じるバルブを開けて内圧の上昇を防止する手段などとすることができる。
【0047】
前記吸着分離槽3は、図2及び図3に示されるように、少なくとも側面及び底面が、ステンレス、アルミなどの金属や樹脂などからなる側板及び底板で囲われた内部に貯留物が貯留可能な槽状に形成されるとともに、底部にテーパーが設けられてホッパー状に形成されている。前記吸着分離槽3の内部は、前記分解槽2の排出部5が設けられた側の縁部から、これに対向する縁部に向けて下り勾配が設けられており、この下り勾配の下端側の底部に、分離した水分を排水するための排水口4が備えられている。前記吸着分離槽3の上面は、開放していてもよいし、前記排出部5から排出された油層と水層が通過可能な通孔が形成された天板によって覆われるようにしてもよい。
【0048】
前記吸着分離槽3内に備えられる油分吸着材6は、吸着分離槽3内に投入された油層と水層のうち、油層のみを吸着することにより、油層と水層とを分離するものである。
【0049】
前記油分吸着材6としては、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエチレンプロピレン系などの合成繊維、羊毛、ヤシ、カポックなどの木の実、草などの天然繊維、これら合成繊維と天然繊維の混合又は複数の繊維の混合からなる混合繊維のいずれかからなる繊維集合体である。前記繊維集合体とは、シート状、板状又は布状に形成された織物又は不織物などである。
【0050】
前記油分吸着材6だけでは油層と水層の分離が不十分の場合には、路面や海面に流出した油分を吸着する際に用いられる市販の油吸着剤(例えば、谷口商会株式会社製「ACライト」、商品名「オイルゲーター」、鈴木油脂工業株式会社製「シェルビオ」など)を散布して、分離を促進させてもよい。
【0051】
前記油分吸着材6は、吸着分離槽3の底部又は高さ方向中間部に敷き詰められており、その上面に、分解槽2で分解された油層及び水層が流し込まれる。流し込まれた油層及び水層は、油分吸着材6を浸透する過程で、油層が油分吸着材6に吸着されて分離されるとともに、残った水層が排水口4から槽外に排出される。
【0052】
油層を吸着した油分吸着材6は、可燃物として処理する、ボイラーの燃料として使用する、吸着された油分を抽出し、分解反応により軽質化して分解油に分解しディーゼル燃料に添加する、などに利用することができる。
【0053】
また、排水口4から排出された水層は、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸アンモニウム(NHNO)及び酢酸(CHCOOH)などを含む水溶液なので、若干の弱酸性を示すため、必要に応じてpH調整や希釈をする、排水処理施設で処理する、などの処理を施した上で、放流することができる。
【0054】
図2に示されるように、前記吸着分離槽3の槽内に敷き詰められるように配置された油分吸着材6は、吸着分離槽3の一方側縁部からこれに対向する他方側縁部に向けて傾斜して配置するのがよい。この傾斜する油分吸着材6の上方側に、前記分解槽2で分解された油層及び水層が排出される排出部5が配置され、下方側に、前記吸着分離槽3で分離された水層が排水される排水口4が配置されている。このように油分吸着材6を傾斜して配置することにより、上方側に流し込まれた油層及び水層が、傾斜する油分吸着材6を流れ落ちる過程で、油層と水層とが分離しやすくなり、油分吸着材6に対する油層の分離吸収を促進することができるようになる。
【0055】
前記分解装置1は、前記分解槽2及び吸着分離槽3をそれぞれ個別的に配置してもよいが、図2及び図3に示されるように、前記分解槽2を上段側に配置するとともに、前記吸着分離槽3をその下段側に配置し、これら分解槽2及び吸着分離槽3を、柱や梁、架台などを含む架構部材8で支持した一体型のシステム構造とするのが好ましい。これにより、トンネル工事現場等の狭隘なスペースにも容易に設置でき、現場での爆薬の処理が簡単に行えるようになる。
【0056】
上段側の分解槽2の底部の一方側端部には、分解槽2で分解された油層と水層とが排出され、吸着分離槽3に向けて投入されるように設けられた排出部5が位置するとともに、下段側の吸着分離槽3の底部の、前記一方側端部と反対側の他方側端部には、吸着分離槽3で分離された水層が排出される排水口4が位置している。
【0057】
油層と水層の分離は、油分吸着材6を敷き詰めた1段式のタンクだけでなく、内部を複数の区画に区切り、油と水の比重差で分離する、多段式の油分分離槽を使用してもよい。
【0058】
あるいは、市販の油水分離装置を広く使用することもでき、例えば、遠心式油水分離機や金属ロール式油水分離機を使用することもできる。
【0059】
これらの中でも、移動時の動揺に強く、動力を必要とせず、構造もシンプルな油吸着材式(上述の油分吸着材6を用いた分離装置)が好適である。
【0060】
次に、本発明に係る含水爆薬の分解処理方法について説明する。含水爆薬の分解処理方法は、分解槽2に含水爆薬及び分解剤を投入し、含水爆薬を油層と水層とに分解する分解工程と、前記分解工程で分解された油層と水層とを吸着分離槽3に投入し、該吸着分離槽3内に備えられた油分吸着材6に油層を吸着することにより、油層と水層とに分離する吸着分離工程とからなる。
【0061】
前記分解槽2における分解速度を速めたい場合は、分解槽2内で含水爆薬と分解剤とを前記攪拌装置7によって攪拌する。攪拌後、数時間静置し、含水爆薬が油層と水層とに分解されたら、前記油層及び水層を下部の排出部5から排出する。
【0062】
前記含水爆薬を分解剤で分解する前処理として、前記含水爆薬を減圧・加圧処理して前記含水爆薬に含まれる気泡を除去する処理を行い、安全化してから、前記分解工程に進むようにするのがよい。
【0063】
この前処理は、以下の手順で行われる。
先ずはじめに、分解槽2内に、余剰の含水爆薬(爆薬中間体を含む。)を投入する。
【0064】
次に、分解槽2内に投入された含水爆薬を覆う水を投入する。投入する水の量は、槽内に投入した含水爆薬の少なくとも50重量%とする。含水爆薬の密度が1.2~1.4g/cmであり、水の方が軽いため、水が含水爆薬の上部を覆うように配置される。
【0065】
その後、分解槽2を密閉した上で、図4に示されるように、真空ポンプ9で槽内を減圧した後、常圧に戻すか、あるいは加圧ポンプで槽内を加圧した後、常圧に戻す処理を行う。このような圧力的な変動を加えることによって、含水爆薬中に分散された微細な気泡のサイズを変えて、迅速に除去することができるようになる。含水爆薬から気泡が抜ければ、気泡を混入する前の爆薬中間体と同じ性質に戻り、爆発はしなくなる。
【0066】
しかる後、分解槽2内に分解剤を投入して、上記分解工程に進み、含水爆薬を油層と水層とに分解する。
【0067】
なお、前記分解剤として、低級アルコールなどの蒸気圧の高いものを使用せず、界面活性剤などの蒸気圧が小さいものを使用する場合は、上述の減圧・加圧処理を始める前に予め分解槽2に前記分解剤を投入してもよい。この場合には、分解槽2において、含水爆薬を減圧・加圧処理して含水爆薬に含まれる気泡を除去する工程と前記分解工程とが同時に行われるようになる。
【実施例0068】
内容積150リットルのステンレス製の分解槽2と、内容積50リットルのステンレス製の吸着分離槽3とからなる分解装置1を用いて、含水爆薬の分解実験を行った。
【0069】
比重測定に使用した製造途中の含水爆薬、及びホース内で余剰の含水爆薬、合計20kgを分解槽2に投入した。
【0070】
含水爆薬の投入重量の10~20重量%のイソプロパノール(分解剤)を投入した後、数時間放置し分解する。なお、分解後の油分吸着材6による分離効果を向上させるため、前記分解剤による分解状況に応じて、含水爆薬の投入重量の10~50重量%の水を投入する。
【0071】
吸着分離槽3に、分解槽2に投入した含水爆薬に含まれる油分重量の5~10倍程度吸着可能な性能を有する油分吸着材6を敷き詰めておく。前記油分吸着材6として、本実施例では、カポックの実から製造したものを使用した。このカポックの実からなる油分吸着材6は、吸着繊維1g当たり40倍の油分を吸着できる性能を有している。
【0072】
前記分解槽2で分解された油層と水層は、分解槽2下部の排出部5から徐々に排出され、吸着分離槽3に投入される。吸着分離槽3に投入された油層及び水層は、油分吸着材6を透過した水層のみが、吸着分離槽3下部の排水口4から排水され、その後排水処理プラントで処理した。
【0073】
油層を吸着した油分吸着材6は、可燃性廃棄物として処理可能であり、ボイラーの燃料として利用した。
【実施例0074】
上記実施例1と同様の分解装置1を用いて、比重測定に使用した製造途中の含水爆薬、及びホース内で余剰の含水爆薬、合計50kgを分解槽2に投入した。
【0075】
含水爆薬の投入重量の10~20%のドデシル-ベンゼンスルホン酸ナトリウム(分解剤)と同量の水を投入し、分解槽2に蓋をして密閉した後、真空ポンプを用いて分解槽2内を大気圧よりも10%以上減圧し、分解を促進した。分解が遅い場合は、減圧→常圧を繰り返すことも可能で、適宜攪拌を併用することも可能である。
【0076】
これ以降の吸着分離槽3での処理工程などは、上記実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0077】
1…分解装置、2…分解槽、3…吸着分離槽、4…排水口、5…排出部、6…油分吸着材、7…攪拌装置、8…架構部材、9…真空ポンプ、20…爆薬製造システム、21…爆薬中間体貯蔵タンク、22…発泡剤貯蔵タンク、23…圧送ポンプ、24…削孔、25…装薬ホース
図1
図2
図3
図4