IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧 ▶ 日本航空電子工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-慣性センサ 図1
  • 特開-慣性センサ 図2
  • 特開-慣性センサ 図3
  • 特開-慣性センサ 図4
  • 特開-慣性センサ 図5
  • 特開-慣性センサ 図6
  • 特開-慣性センサ 図7
  • 特開-慣性センサ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022116
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】慣性センサ
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/00 20130101AFI20250206BHJP
【FI】
G01C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126387
(22)【出願日】2023-08-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「低速原子ビーム型ジャイロの開発とそれを用いた慣性航法装置の試作」「物質波干渉型ジャイロスコープの小型化・制御技術開発、及び回転型重力勾配計の開発・試作」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智哉
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西村 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】上妻 幹旺
(72)【発明者】
【氏名】細谷 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦史
【テーマコード(参考)】
2F105
【Fターム(参考)】
2F105BB01
(57)【要約】
【課題】慣性センサに角速度および/または加速度が印加した場合に生じる、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さが分布を持つことに起因する原子干渉のコントラストの低下を抑制できる慣性センサを開示する。
【解決手段】慣性センサ900は、二重原子干渉計を含む。二重原子干渉計の進行光定在波生成装置300は、M個(3≦M)の進行光定在波を生成する。M個の進行光定在波のそれぞれは、対向伝播する一対のレーザー光によって生成される。進行光定在波生成装置300は、M個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線131cのポピュレーションの位相とM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線131dのポピュレーションの位相の差が一定なるように、M個の進行光定在波のうちのN個(2≦N<M)の進行光定在波のそれぞれに対応する一対のレーザー光の2光子離調を設定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣性センサであって、
第1の原子線を連続生成する第1の原子線生成装置と、
第2の原子線を連続生成する第2の原子線生成装置と、
Mを3≦Mを満たす予め定められた整数として、それぞれ対向伝播する一対のレーザー光によって生成されるM個の進行光定在波を生成する進行光定在波生成装置と、
互いに向かって進む前記第1の原子線と前記第2の原子線が進入し、前記第1の原子線と前記M個の進行光定在波とが相互作用した結果の第3の原子線と、前記第2の原子線と前記M個の進行光定在波とが相互作用した結果の第4の原子線を得る干渉装置と、
前記第3の原子線を観測する第1の観測装置と、
前記第4の原子線を観測する第2の観測装置と
を含み、
前記M個の進行光定在波は、前記第1の原子線の進行方向に沿って互いに平行に配置され、且つ、前記第1の原子線の進行方向と直交する直線を対称軸として持つ線対称で配置されており、
Nを2≦N<Mを満たす予め定められた整数とし、[ ]をガウス記号とし、iを1≦N≦[M/2]を満たす[M/2]個の整数のうちの少なくとも1個の整数を表すとして、前記進行光定在波生成装置は、前記第3の原子線のポピュレーションの位相と前記第4の原子線のポピュレーションの位相の差が一定になるように、前記M個の進行光定在波のうちのi番目の進行光定在波に対応する前記一対のレーザー光の2光子離調δiと、前記M個の進行光定在波のうちのM-i+1番目の進行光定在波に対応する前記一対のレーザー光の2光子離調δM-i+1を設定し、
δi=-δM-i+1である
ことを特徴とする慣性センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の慣性センサにおいて、
前記進行光定在波生成装置は、前記第3の原子線のポピュレーションのコントラストの極値を保ち、または、前記第4の原子線のポピュレーションのコントラストの極値を保つように、前記M個の進行光定在波のうちのi番目の進行光定在波とM-i+1番目の進行光定在波を除く少なくとも1個の進行光定在波に対応する前記一対のレーザー光の2光子離調δを設定する
ことを特徴とする慣性センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の慣性センサにおいて、
前記M個の進行光定在波のうちのM番目の進行光定在波と前記第1の観測装置の間の距離が、前記M個の進行光定在波のうちの1番目の進行光定在波と前記第2の観測装置の間の距離に等しく、且つ、前記第1の原子線の進行方向における速さの分布と、前記第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さの分布が互いに同じである
ことを特徴とする慣性センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子干渉を利用する慣性センサであって、慣性センサに角速度および/または加速度が印加した場合に生じる、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さが分布を持つことに起因する原子干渉のコントラストの低下を抑制できる慣性センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザー技術の進展に伴い、原子干渉計、原子干渉を利用する慣性センサなどの研究が進んでいる。原子干渉計として、例えば、マッハ-ツェンダー(Mach-Zehnder)型原子干渉計とラムゼー-ボーデ(Ramsey-Borde)型原子干渉計が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
マッハ-ツェンダー型原子干渉計の基本的なスキームでは、原子線が、それぞれπ/2パルスと呼ばれる2個の進行光定在波、および、πパルスと呼ばれる1個の進行光定在波で照射される。原子線と進行光定在波との相互作用によって、原子線は2個の原子線にスプリットし、さらに、2個の原子線は互いに交差する。この結果、2個の原子線の一方に対応する原子の状態とその他方に対応する原子の状態の重ね合わせ状態に応じた原子線が得られる。
【0004】
マッハ-ツェンダー型原子干渉計に、例えば、2個の原子線を含む平面内の角速度が加わると、スプリット後の2個の原子線の間に位相差が生じ、この位相差が、交差後の2個の原子線の一方に対応する原子の状態の存在確率とその他方に対応する原子の状態の存在確率に反映される。したがって、2個の原子線の一方に対応する原子の状態とその他方に対応する原子の状態の重ね合わせ状態に応じた原子線を観測することによって角速度を検出することができる。
【0005】
また、互いに向かって進む2個の原子線に対して進行光定在波を照射する構成を持つ二重原子干渉計も知られている(例えば非特許文献1,非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. L. Gustavson, P. Bouyer and M. A. Kasevich, “Precision Rotation Measurements with an Atom Interferometer Gyroscope,” Phys. Rev. Lett.78, 2046-2049, Published 17 March 1997.
【非特許文献2】T. Muller, M. Gilowski, M. Zaiser, T. Wendrich, W. Ertmer, and E. M. Rasel, “A compact dual atom interferometer gyroscope based on laser-cooled rubidium,” Eur. Phys. J. D 53, 273-281, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子線が例えば熱的原子線である場合、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さはマクスウェル-ボルツマン分布に従う。原子線が例えば冷却原子線である場合、一般に、冷却原子線の進行方向における原子の速さの分布が最頻値の20%程度の半値全幅を持つことが知られており、例えば、この分布の最頻値が20m/sである場合、この分布は±2m/s程度の半値全幅を持つ。
【0008】
π/2パルスとπパルスとπ/2パルスでこの順番に照射された原子線に含まれる励起状態の原子のポピュレーションPeは式(1)で表される。φ1は1番目のπ/2パルスの初期位相であり、φ2はπパルスの初期位相であり、φ3は2番目のπ/2パルスの初期位相であり、keffは実効的な波数であり、Ωは角速度であり、aは加速度であり、vは原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さであり、Lは1番目のπ/2パルスとπパルスとの間の距離(=2番目のπ/2パルスとπパルスとの間の距離)である。
【数1】
【0009】
式(1)からわかるとおり、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さvが全ての原子で同じではない場合、原子の速さの分布の幅に含まれる様々な速さがポピュレーションPeに寄与する。したがって、原子干渉計に角速度および/または加速度が印加した場合、様々な位相を持つ余弦関数が互いにキャンセルし、この結果、原子干渉のコントラストが低下する。
【0010】
よって、我々は、原子干渉を利用する慣性センサであって、慣性センサに角速度および/または加速度が印加した場合に生じる、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さが分布を持つことに起因する原子干渉のコントラストの低下を抑制できる慣性センサを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに記載される技術事項は、特許請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者が特許請求の範囲に記載された発明を限定できるようにするためでもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために提供される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の特許請求の範囲から理解できる。
開示される慣性センサは、二重原子干渉計を含む。
二重原子干渉計の進行光定在波生成装置は、M個の進行光定在波を生成する。M個の進行光定在波のそれぞれは、対向伝播する一対のレーザー光によって生成される。M個の進行光定在波は、第1の原子線の進行方向(換言すれば、第2の原子線の進行方向)に沿って互いに平行に配置され、且つ、第1の原子線の進行方向と直交する直線を対称軸として持つ線対称で配置されている。
進行光定在波生成装置は、二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線のポピュレーションの位相と二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線のポピュレーションの位相の差が一定になるように、M個の進行光定在波のうちのi番目の進行光定在波に対応する一対のレーザー光の2光子離調δiと、M個の進行光定在波のうちのM-i+1番目の進行光定在波に対応する一対のレーザー光の2光子離調δM-i+1を設定する。δi=-δM-i+1である。Mは、3≦Mを満たす予め定められた整数である。Nは、2≦N<Mを満たす予め定められた整数である。iは、1≦N≦[M/2]を満たす[M/2]個の整数のうちの少なくとも1個の整数を表す。
【0012】
さらに、進行光定在波生成装置は、二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線のポピュレーションのコントラストの極値を保ち、または、二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線のポピュレーションのコントラストの極値を保つように、M個の進行光定在波のうちのi番目の進行光定在波とM-i+1番目の進行光定在波を除く少なくとも1個の進行光定在波に対応する一対のレーザー光の2光子離調δを設定してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の慣性センサによれば、慣性センサに角速度および/または加速度が印加した場合に生じる、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さが分布を持つことに起因する原子干渉のコントラスト低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Λ型3準位系。
図2】マッハ-ツェンダー型原子干渉計の基本スキーム。
図3】二重原子干渉計の基本スキーム。
図4】慣性センサの構成例。
図5】慣性センサの構成例。(a)第1の原子線に係る構成例。(b)第2の原子線に係る構成例。
図6】原子線生成装置の構成例。(a)熱的原子線を生成する原子線生成装置の構成例。(b)冷却原子線を生成する原子線生成装置の構成例。
図7】制御器の構成例。
図8】制御器の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の慣性センサの実施形態の説明に先立ち、本開示の慣性センサの理論を説明する。
【0016】
[進行光定在波]
後述する進行光定在波生成装置300が生成するM個の進行光定在波のそれぞれは、対向伝播する一対のレーザー光によって生成される。Mは、3≦Mを満たす予め定められた整数である。対向伝播する一対のレーザー光の、時刻tと位置rにおける電場ベクトルE(t,r)を平面波の重ね合わせとして式(2)で表す。以下、対向伝播する一対のレーザー光の一方のレーザー光を「ポンプレーザー光」と呼称し、対向伝播する一対のレーザー光の他方のレーザー光を「ストークスレーザー光」と呼称する。Epはポンプレーザー光の振幅ベクトルであり、Esはストークスレーザー光の振幅ベクトルであり、kpはポンプレーザー光の波数ベクトルであり、ksはストークスレーザー光の波数ベクトルであり、ωpはポンプレーザー光の角周波数であり、ωsはストークスレーザー光の角周波数であり、φpはポンプレーザー光の初期位相であり、φsはストークスレーザー光の初期位相である。説明の便宜のため、式(3)によってφeffを定義し、式(4)によってkeffを定義する。|keff|が十分に小さいとき、光の速さcに比べて十分に小さい速さでドリフトする進行光定在波が生成される。kp/|kp|=-ks/|ks|である。以下、説明を簡単にするためEp=Esとする。
【数2】
【0017】
M個の進行光定在波を用いるマッハ-ツェンダー型原子干渉計では、原子線の進行方向に沿って互いに平行に配置され、且つ、原子線の進行方向と直交する直線を対称軸として持つ線対称で配置されたM個の進行光定在波でこの順番に原子線を照射する。特に、M=3の場合、πパルスの光軸が線対称の対称軸であり、3個の進行光定在波(つまり、1番目のπ/2パルスと、πパルスと、2番目のπ/2パルス)は等間隔Lで配置される(図2参照)。
【0018】
[誘導ラマン遷移]
原子干渉計は、一般に、誘導ラマン遷移を利用する。原子干渉計で利用される誘導ラマン遷移は、Λ型3準位系(図1参照)において、ポンプレーザー光で引き起こされる状態|g>と仮想状態|i>との間の第1遷移と、ストークスレーザー光で引き起こされる状態|e>と仮想状態|i>との間の第2遷移とをカップリングさせる遷移である。状態|e>のエネルギー準位は状態|g>のエネルギー準位よりも高い。仮想状態|i>は、状態|u>から離調Δだけ離れている。状態|u>のエネルギー準位は状態|e>のエネルギー準位よりも高い。
【0019】
誘導ラマン遷移において、原子の初期状態が状態|g>である場合、原子はポンプレーザー光から光子を吸収することによってh-kpの運動量を得るが、ストークスレーザー光による誘導放出として光子を放出することによって-h-ksの運動量を得る。つまり、原子は状態|g>から状態|e>に遷移することによって、h-keffの反跳運動量を得る。反対に、原子は状態|e>から状態|g>に遷移することによって、-h-keffの反跳運動量を得る。このように、遷移の向きと反跳運動量が1対1で対応するので、状態と反跳運動量を1対1で対応させることができ、したがって、状態|g>を|g,p>,状態|e>を|e,p+h-keff>と表現することができる。h-はディラック定数(プランク定数を2πで割った値)であり(h-は、テキスト中の使用のための記号であり、慣用記号と異なる)、pは状態|g>の原子の運動量である。
【0020】
[原子と進行光定在波の干渉]
誘導ラマン遷移において離調Δが大きい場合、Λ型3準位系を状態|g>と状態|e>の2準位系と見做すことができる。ここで、原子と一対のレーザー光との相互作用を考える。上述のとおり、原子の2個の状態のそれぞれを|g,p>,|e,p+h-keff>で表す。このとき、原子の波動関数は式(5)で表される。数式中において、ディラック定数は慣用記号で表されている。
【数3】
【0021】
このような系において、原子は状態|g,p>と状態|e,p+h-keff>の間を2光子ラビ周波数Ωeg(t)で振動する。そして、図1に示す2光子離調δがΩeg(t)よりも十分に小さい場合、波動関数の係数は式(6)で表される(非特許文献1参照)。式(6)において、t0は相互作用の開始時刻であり、t1は相互作用の終了時刻である。2光子離調δは式(7)で表される。式(7)において、mは1個の原子の質量であり、ωegは状態|e>のエネルギー準位と状態|g>のエネルギー準位の間の遷移に対応する周波数である。
【数4】
【0022】
θ=π/2である場合、波動関数の係数は式(8)で表される。θ=π/2である場合の進行光定在波がπ/2パルスである。
【数5】
【0023】
θ=πである場合、波動関数の係数は式(9)で表される。θ=πである場合の進行光定在波がπパルスである。
【数6】
【0024】
ところで、進行光定在波を生成する一対のレーザー光のそれぞれがガウシアンビーム(Gaussian Beam)である場合、2光子ラビ周波数Ωeg(t)は式(10)で表され、相互作用時間幅σtについて、σt=w/(2|v|)が成立する。vは、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速度ベクトルである。wは、進行光定在波の幅であり、具体的には、ガウシアンビームのビームウェスト(これは、例えば1/(e2)幅である)である。したがって、πパルスについてπ/Ω0,π=√(π/2)wπ/|v|、つまり、π|v|=√(π/2)wπΩ0,πが成立し、π/2パルスについてπ/(2Ω0,π/2)=√(π/2)wπ/2/|v|、つまり、π|v|=2√(π/2)wπ/2Ω0,π/2が成立する。例えばπパルスの幅wπがπ/2パルスの幅wπ/2に等しくなるように設計すれば、πパルスのラビ周波数Ω0,πはπ/2パルスのラビ周波数Ω0,π/2の2倍になるように設計される。ラビ周波数はレーザー光の強度に比例するので、πパルスを生成する一対のレーザー光の強度は、π/2パルスを生成する一対のレーザー光の強度の2倍である。ところで、一般に、原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さは分布を持っているので、或る速さ|v0|を持つ原子についてπ|v0|=2√(π/2)wπΩ0,πが成立する場合、他の速さ|vx|を持つ原子についてπ|vx|=2√(π/2)wπΩ0,πは成立しない。したがって、進行光定在波の設計のために原子の速さを予め特定しなければならない。設計者は進行光定在波の設計の前提としての原子の速さを自由に決めることができるが、観測される原子線のビジビリティの観点から、通例、原子線の進行方向における原子の速さ分布の最頻値あるいは平均値が進行光定在波の設計のための原子の速さとして選択される。以下、特に断りの無い限り、|v|は、原子線の進行方向における原子の速さ分布の最頻値を含む最頻値の近傍範囲に含まれる原子の速さを表し、vはその原子の速度ベクトルである。なお、当該近傍範囲に含まれない速さを持つ原子に対して、進行光定在波はπ/2パルスとしてもπパルスとしても機能しないと考えてよい。
【数7】
【0025】
原子干渉計は一般に、角速度と加速度のそれぞれに対して感度を持つ。以下、説明を簡単にするためM=3の場合を考える。3個の進行光定在波を用いるマッハ-ツェンダー型原子干渉計では、図2に示すように、原子線の進行方向に等間隔Lで配置された1番目のπ/2パルスとπパルスと2番目のπ/2パルスでこの順番に原子線を照射する。したがって、2番目のπ/2パルスの直後の原子の波動関数の係数(ce,cg)は式(11)で表される。式(11)において、δ1は1番目のπ/2パルスの2光子離調δであり、δ2はπパルスの2光子離調δであり、δ3は2番目のπ/2パルスの2光子離調δであり、φ1は1番目のπ/2パルスのφeffであり、φ2はπパルスのφeffであり、φ3は2番目のπ/2パルスのφeffであり、α(t)は角速度ベクトルΩによって生じる位相シフトを表し、β(t)は加速度ベクトルaによって生じる位相シフトを表す。式(11)において、T=L/|v|である。3個の進行光定在波の実効波数ベクトルkeff(式(4)参照)は互いに同じである。
【数8】
【0026】
原子の初期状態が|g,p>である場合、(ce(t0),cg(t0))=(0,1)なので、1番目のπ/2パルスとπパルスと2番目のπ/2パルスでこの順番に照射された原子線に含まれる原子の状態|e,p+h-keff>のポピュレーションPeは式(12)で表される。
【数9】
【0027】
なお、1番目のπ/2パルスとπパルスと2番目のπ/2パルスでこの順番に照射された原子線に含まれる原子の状態|g,p>のポピュレーションPgは、Pg=1-Peで表される。
【0028】
以下、説明の便宜のため、ポピュレーションPeに含まれる余弦関数の位相をΦで表し、上述の原子線を「第1の原子線」と呼称し、第1の原子線に関する記号に添え字Lを付す。1番目のπ/2パルスとπパルスと2番目のπ/2パルスでこの順番に照射された第1の原子線を時刻tで観測した時、ポピュレーションPe,Lの位相ΦLは式(13)で表される。式(13)において、TL=L/|vL|,Tdet,L=Ldet,L/|vL|である。Ldet,Lは2番目のπ/2パルスと後述する光検出器409aとの間の距離である。|vL|は第1の原子線に含まれる原子の、第1の原子線の進行方向における速さである。
【数10】
【0029】
式(13)において、加速度ベクトルaの大きさと二光子離調δ2が十分に小さい場合を考えると、式(13)は式(14)に書き換えられる。
【数11】
【0030】
式(14)において、ポピュレーションPe,Lの位相ΦLが第1の原子線に含まれる原子の、第1の原子線の進行方向における速さ|vL|に依存しないためには、δ3=-δ1且つ式(15)が成立すればよい。1番目のπ/2パルスの2光子離調δ1を式(15)の値に設定し、πパルスの2光子離調δ2を十分に小さい値に設定し(理想的にδ2=0)、2番目のπ/2パルスの2光子離調δ3を-δ1の値に設定することによって、ポピュレーションPe,Lの位相ΦLは式(16)で表される。したがって、ポピュレーションPe,Lの位相ΦLは第1の原子線に含まれる原子の、第1の原子線の進行方向における速さ|vL|の影響を受けないことがわかる。
【数12】
【0031】
しかし、式(15)の右辺は検出対象である角速度ベクトルΩを含むので、δ1およびδ3(=-δ1)の値を直接的に設定することができない。そこで、ポピュレーションの位相を制御することを考える。
【0032】
位相制御のために、図3に示す二重原子干渉計を考える。二重原子干渉計に入る、互いに向かって進む2個の原子線の一方を第1の原子線と呼称し、その他方を第2の原子線と呼称する。第1の原子線について上述の説明がそのまま成立する。第2の原子線に関する記号に添え字Rを付すことによって、上述の説明と同様に、第2の原子線について、式(17)が成立する。式(17)においてvL/|vL|=-vR/|vR|を用いた。
【数13】
【0033】
式(17)において、ポピュレーションPe,Rの位相ΦRが第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さ|vR|に依存しないためには、ポピュレーションPe,Lの位相ΦLに関する上述の条件と同じく、δ3=-δ1且つ式(15)が成立すればよい。1番目のπ/2パルスの2光子離調δ1を式(15)の値に設定し、πパルスの2光子離調δ2を十分に小さい値に設定し(理想的にδ2=0)、2番目のπ/2パルスの2光子離調δ3を-δ1の値に設定することによって、ポピュレーションPe,Rの位相ΦRは式(18)で表される。したがって、ポピュレーションPe,Rの位相ΦRは第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さ|vR|の影響を受けないことがわかる。
【数14】
【0034】
δ3=-δ1且つ式(15)が成立する場合、式(16)と式(18)からΦL=ΦRが成立する。逆に言うと、δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRが成立する状況では式(15)が成立する。実際、式(14)と式(17)から、δ3=-δ1の条件の下でΦL-ΦR=0が時間にも原子の速さにも依存することなく成立するのは式(15)が成立する場合に限られる。δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRが成立するとき、角速度ベクトルΩのz方向成分|Ωz|は式(19)で表される。z方向は、実効波数ベクトルkeffと直交し、且つ、第1の原子線の進行方向と直交する方向である。式(19)では、実効波数ベクトルkeffと第1の原子線の進行方向が直交することを考慮した。
【数15】
【0035】
上述の説明から、δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRを実現する制御を行うことによって、第1の原子線に含まれる原子の、第1の原子線の進行方向における速さ|vL|、および、第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さ|vR|の影響を受けることなく、つまり、慣性センサに角速度が印加した場合であっても、原子線の進行方向における原子の速さ分布に起因する原子干渉のコントラストの低下を生じることなく、角速度ベクトルΩのz方向成分|Ωz|を検出できることがわかる。
【0036】
本開示の慣性センサにおいてδ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRを実現する制御は、通例、フィードバック制御である。δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRを実現するフィードバック制御として、ポピュレーションの位相差ΦL-ΦRを一定にする2光子離調δ1(=-δ3)のPID制御を例示できる。2光子離調δの設定は、例えば一対のレーザー光の他方のレーザー光が入る周波数シフターによって実現される。周波数シフターがAOM(acousto-optic modulator)である場合、AOMに入力する音響信号が制御される。周波数シフターがEOM(electro-optic modulator)である場合、EOMに入力する電圧信号が制御される。
【0037】
上述の説明はMが3≦Mを満たす予め定められた整数の場合に拡張される。二重原子干渉計においてM個の進行光定在波が一方の原子線の進行方向に昇順に配置されているとし、iが1≦N≦[M/2]を満たす[M/2]個の整数のうちの少なくとも1個の整数を表すとして、進行光定在波生成装置は、二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線のポピュレーションの位相と二重原子干渉計においてM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線のポピュレーションの位相の差が一定になるように、M個の進行光定在波のうちのi番目の進行光定在波に対応する一対のレーザー光の2光子離調δiと、M個の進行光定在波のうちのM-i+1番目の進行光定在波に対応する一対のレーザー光の2光子離調δM-i+1を設定する。δi=-δM-i+1である。記号[x]はガウス記号であり、n≦x<n+1を満たす整数nを表す。
【0038】
例えば、M=4の場合、M個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線のポピュレーションの位相とM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線のポピュレーションの位相の差が一定になるように、
(1)1番目の進行光定在波の2光子離調δ1と4番目の進行光定在波の2光子離調δ4の制御を行ってもよい(この場合、δ1=-δ4が成立する)、あるいは、
(2)2番目の進行光定在波の2光子離調δ2と3番目の進行光定在波の2光子離調δ3の制御を行ってもよい(この場合、δ2=-δ3が成立する)、あるいは、
(3)1番目の進行光定在波の2光子離調δ1と、2番目の進行光定在波の2光子離調δ2と、3番目の進行光定在波の2光子離調δ3と、4番目の進行光定在波の2光子離調δ4の制御を行ってもよい(この場合、δ1=-δ4,δ2=-δ3が成立する)。
【0039】
例えば、M=5の場合、M個の進行光定在波と干渉して得られた一方の原子線のポピュレーションの位相とM個の進行光定在波と干渉して得られた他方の原子線のポピュレーションの位相の差が一定になるように、
(1)1番目の進行光定在波の2光子離調δ1と5番目の進行光定在波の2光子離調δ5の制御を行ってもよい(この場合、δ1=-δ5が成立する)、あるいは、
(2)2番目の進行光定在波の2光子離調δ2と4番目の進行光定在波の2光子離調δ4の制御を行ってもよい(この場合、δ2=-δ4が成立する)、あるいは、
(3)1番目の進行光定在波の2光子離調δ1と、2番目の進行光定在波の2光子離調δ2と、4番目の進行光定在波の2光子離調δ4と、5番目の進行光定在波の2光子離調δ5の制御を行ってもよい(この場合、δ1=-δ5,δ2=-δ4が成立する)。
【0040】
これまでの説明では、加速度ベクトルaの大きさと二光子離調δ2が十分に小さいことを仮定して、式(13)の第2式の第2項と第3項を無視していたが、以下の説明では、このような仮定が成立しない場合を考える。
【0041】
det,L=Ldet,R=Ldet、且つ、第1の原子線の進行方向における速さ|vL|の分布と、第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さ|vR|の分布が互いに同じである(つまり、統計的観点からvL=v,vR=-vと考えてよい)場合、式(13)の第2式と式(17)の第2式はそれぞれ式(20)と式(21)で表される。
【数16】
【0042】
式(20)と式(21)から、δ3=-δ1且つ式(15)が成立すれば、ΦL-ΦR=0が成立する。結局、Ldet,L=Ldet,R且つ統計的観点からvL=v,vR=-vと考えてよい場合にも、δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRを実現する制御を行うことによって、加速度ベクトルaと2光子離調δ2に付随する速さの影響がコモンモードキャンセルされるので、第1の原子線に含まれる原子の、第1の原子線の進行方向における速さ|vL|(=|v|)、および、第2の原子線に含まれる原子の、第2の原子線の進行方向における速さ|vR|(=|v|)の影響を受けることなく、角速度ベクトルΩのz方向成分|Ωz|を検出できることがわかる。しかし、式(20)と式(21)のそれぞれの第2項と第3項は、それぞれの原子干渉のコントラストの低下に寄与する。すなわち、慣性センサに加速度が印加した場合、原子線の進行方向における原子の速さ分布に起因する原子干渉のコントラストの低下が、それぞれの原子干渉で起こる。以下、慣性センサに加速度が印加した場合に生じる、原子線の進行方向における原子の速さ分布に起因する原子干渉のコントラストの低下を抑制する手法について説明する。
【0043】
原子干渉計に加速度が印加する場合、式(20)と式(21)から明らかなとおり、ポピュレーションの位相に原子の速さの逆2乗と原子の速さの逆数が含まれているので、ポピュレーションの位相に対する原子の速さの影響を完全に排除することはできないことがわかる。それ故、ポピュレーションの位相に対する原子の速さの影響を低減することを考える。
【0044】
式(20)と式(21)において現実的に制御可能な物理量は2光子離調δ1,δ2,δ3であるが、既述のとおりδ1とδ3は、角速度が伴う原子の速さの逆数の位相への影響をキャンセルするために制御される。したがって、2光子離調δ2を制御することを考える。具体的には、上述の速さ分布の最頻値あるいは平均値をv0として、式(22)が成立するようにδ2を制御する。v0は速さ分布の計算または計測によって事前に知ることができる。
【数17】
【0045】
式(22)が成立するδ2の制御の下で、原子線の進行方向における原子の速さv0+Δvの位相ΦLとΦRのそれぞれへの影響は式(23)で表される。ただし、-v0≦Δvである。
【数18】
【0046】
したがって、式(22)が成立するδ2の制御による、原子の速さv0+Δvの位相ΦLとΦRのそれぞれへの影響の低減は式(24)で表される。
【数19】
【0047】
熱的原子線であっても冷却原子線であっても、v0を含む上述の近傍範囲において|Δv|<v0であるので、式(24)において|Δv|/v0<1である。つまり、式(22)が成立するように2光子離調δ2を制御することによって、加速度が伴う原子の速さの位相Φへの影響を低減することができる。式(22)を実現する2光子離調δ2のフィードバック制御として、2光子離調δ2の摂動法に基づく極値制御、具体的には、コントラストを2光子離調δ2の関数としてη(δ2)で表し、δ2の微小変化(つまり、δ2±Δ)に対してη(δ2)>η(δ2±Δ)が成立するような制御を例示できる。
【0048】
要するに、原子干渉計に角速度と加速度が印加する場合、δ3=-δ1の条件の下でΦL=ΦRを実現する制御を行うことによって、角速度が伴う原子の速さの位相ΦLとΦRのそれぞれへの影響を(理想的には、完全に)排除でき、且つ、式(22)が成立するように二光子離調δ2を制御することによって、加速度が伴う原子の速さの位相ΦLとΦRのそれぞれへの影響を低減することができる。
【0049】
<実施形態>
図面を参照して、本開示の慣性センサの実施形態を説明する。なお、図は実施形態の理解のためのものであり、図示される各構成要素の寸法は正確ではない。
【0050】
本開示の慣性センサの実施形態を説明する。マッハ-ツェンダー型原子干渉を利用する慣性センサ900(図4図5を参照)は、第1の原子線131aを連続生成する第1の原子線生成装置100aと、第2の原子線131bを連続生成する第2の原子線生成装置100bと、3個の進行光定在波を生成する進行光定在波生成装置300と、互いに向かって進む第1の原子線131aと第2の原子線131bが進入し、第1の原子線131aと3個の進行光定在波とが相互作用した結果の第3の原子線131cと、第2の原子線131bと3個の進行光定在波とが相互作用した結果の第4の原子線131dを得る干渉装置200と、第3の原子線131cを観測する第1の観測装置400aと、第4の原子線131dを観測する第2の観測装置400bを含む。この実施形態では、第1の原子線生成装置100aと、第2の原子線生成装置100bと、干渉装置200と、第1の観測装置400aと、第2の観測装置400bは図示しない真空容器内に収容されている。
【0051】
[原子線生成装置]
第1の原子線生成装置100aと第2の原子線生成装置100bの構成について説明する。第1の原子線生成装置100aの構成が第2の原子線生成装置100bの構成と同じである必要は無い。さらに、第1の原子線生成装置100aあるいは第2の原子線生成装置100bとして採用できる構成に限定も無い。したがって、ここでは、第1の原子線生成装置100aと第2の原子線生成装置100bを区別せずに、原子線生成装置100x(x∈{a,b})の構成例を説明する。
【0052】
熱的原子線を連続生成する原子線生成装置100x(x∈{a,b})は、例えば、加熱器100aと、加熱器1001に連通するノズル1002を含む構成を持つ(図6(a)参照)。加熱器1001は、純度の高い単一元素からなる固体を加熱することによって気体原子を発生させる。加熱器1001によって得られた気体原子は、熱的原子線として、加熱されたノズル1002から原子線生成装置100x(x∈{a,b})の外部に出て行く。このような原子線生成装置100x(x∈{a,b})の構成の一例として参考文献1の図1を参照のこと。
(参考文献1)Cvejanovic D and Murray A J, “Design and characterization of an atomic beam oven for combined laser and electron impact experiments,” Meas. Sci. Tech. 13 1482-1487 (2002).
【0053】
熱的原子線の進行方向は、熱的原子線に含まれる原子の密度分布のピークを繋いで得られる線の伸びる方向であり、通常、ノズル1002の射出方向(つまり、ノズル1002の中心軸が伸びる方向)に一致する。熱的原子線に含まれる原子の、熱的原子線の進行方向における平均速さは、概ね数百m/sである(Rb:~300m/s,Yb:~300m/s,Ca:~600m/s)。熱的原子線に含まれる原子の、原子線の進行方向における速さはマクスウェル-ボルツマン分布に従う。
【0054】
冷却原子線を連続生成する原子線生成装置100x(x∈{a,b})は、例えば、気体原子生成器1003とレーザー冷却器1004を含む構成を持つ(図6(b)参照)。
【0055】
気体原子生成器1003は、固体が昇華する構成、もしくは、液体が蒸発または揮発する構成を持っており、気体原子を生成する。固体または液体は、好ましくは、高純度の単一元素からなる。ストロンチウムやカルシウムなどを使用する場合、加熱器1001が必要であるが、ルビジウムやセシウムなどを使用する場合、室温(人間の活動に適した温度)での飽和蒸気圧が高い(つまり、気化し易い)ので、加熱器1001を用いずに十分な気体原子を得ることができる。真空容器の一区画内に充満した気体原子(以下、単に原子と呼称する)はレーザー冷却器1004に自然供給される。
【0056】
レーザー冷却器1004は、例えば、ヘアピンワイヤ(hairpin wires)と呼ばれる磁場生成コイルと二つの冷却用レーザー光対とを含む2次元磁気光学トラップ(two-dimensional magneto-optical trap; 2D-MOT)機構、2次元四重極磁場のゼロ磁場線に沿う一つのレーザー光対を2D-MOT機構に追加した構成を持つ2D+-MOT、2次元四重極磁場を形成するためのコイル(例えばヨッフェコイル(Ioffe coils))と2次元四重極磁場の三つの対称軸に沿って配置される三つのレーザー光対とで構成される3次元磁気光学トラップ(three-dimensional magneto-optical trap; 3D-MOT)機構、あるいは、これらの組み合わせを含む構成を持つ。レーザー冷却器1004は、必要に応じてゼーマン減速器を含んでもよい。あるいは、参考文献2に開示される機構が、レーザー冷却器1004として採用される。レーザー冷却器1004は、空間中でトラップされている冷却原子集団から冷却原子線を生成する。
(参考文献2)日本国特開2020-020636号公報
【0057】
冷却原子線の進行方向は、冷却原子線に含まれる原子の密度分布のピークを繋いで得られる線の伸びる方向である。冷却原子線に含まれる原子の、冷却原子線の進行方向における平均速さは、概ね数十m/sである。冷却原子線の場合、一般に、冷却原子線の進行方向における原子の速さの分布は最頻値の20%程度の幅を持つ。
【0058】
第1の原子線131aに含まれる個々の原子は光ポンピングによって同じエネルギー準位(この例では状態|g>のエネルギー準位)に設定され、第2の原子線131bに含まれる個々の原子も光ポンピングによって同じエネルギー準位(この例では状態|g>のエネルギー準位)に設定される。第1の原子線131aと第2の原子線131bは互いに向かって進み、干渉装置200に進入する。干渉装置200において、第1の原子線131aは、1番目の進行光定在波(π/2パルス)200a,2番目の進行光定在波(πパルス)200b,3番目の進行光定在波(π/2パルス)200cをこの順番に通過し、第2の原子線131bは、3番目の進行光定在波200c,2番目の進行光定在波200b,1番目の進行光定在波200aをこの順番に通過する。干渉装置200において、第1の原子線131aと3個の進行光定在波200a,200b,200cが相互作用し第3の原子線131cが得られ、第2の原子線131bと3個の進行光定在波200a,200b,200cが相互作用し第4の原子線131dが得られる。
【0059】
[進行光定在波生成装置]
3個の進行光定在波200a,200b,200cを生成する進行光定在波生成装置300の光学的構成の一例(図4参照)を説明する。
【0060】
進行光定在波生成装置300は、3個の進行光定在波200a,200b,200cに対応して3個の光学変調装置320a,320b,320cを持つ。光学変調装置320x(x∈{a,b,c})は、レーザー光が伝播する光ファイバー321x,324xと、光ファイバー321x,324xに接続されており且つ当該レーザー光の周波数をシフトする周波数シフター323xを含む。周波数シフター323xに限定は無いが、例えば、AOMまたはEOMである。以下、周波数シフター323xはAOMである。
【0061】
レーザー光源311からのレーザー光Lは、EOM312を通過することによって所定の周波数だけ周波数シフトされる。周波数シフトされたレーザー光Lは、光ファイバーカプラ313aによって分配される。光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、光ファイバーカプラ313cによって等分配され、光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、光ファイバーカプラ313bによって分配される。光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、光ファイバーカプラ313dによって等分配され、光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、光ファイバーカプラ313eによって等分配される。
【0062】
光ファイバーカプラ313cから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA(Variable Optical Attenuator;可変光減衰器)314aによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315aによって所望のビームLa,1(例えば、円偏光のガウシアンビームσa +である)に整形される。得られたビームLa,1は干渉装置200に入る。光ファイバーカプラ313cから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313cに一端が接続されている光ファイバー321aによって、原子線を横切ることなく、AOM323aに案内される。図4では、見易さを考慮して、光ファイバー321aの中間部分の図示を省略している。
【0063】
光ファイバーカプラ313dから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314bによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315bによって所望のビームLb,1(例えば、円偏光のガウシアンビームσb +である)に整形される。得られたビームLb,1は干渉装置200に入る。光ファイバーカプラ313dから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313dに一端が接続されている光ファイバー321bによって、原子線を横切ることなく、AOM323bに案内される。図4では、見易さを考慮して、光ファイバー321bの中間部分の図示を省略している。
【0064】
光ファイバーカプラ313eから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314cによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315cによって所望のビームLc,1(例えば、円偏光のガウシアンビームσc +である)に整形される。得られたビームLc,1は干渉装置200に入る。光ファイバーカプラ313eから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313eに一端が接続されている光ファイバー321cによって、原子線を横切ることなく、AOM323cに案内される。図4では、見易さを考慮して、光ファイバー321cの中間部分の図示を省略している。
【0065】
光ファイバー321x(x∈{a,b,c})の他端は光コネクタによってAOM323xに接続されており、レーザー光LはAOM323xに入る。レーザー光Lの周波数は、AOM323xによってシフトされる。シフト量は、AOM323xへの入力信号周波数fxによって決まる。入力信号周波数fxを持つ音響信号Sxは後述する制御器500によって生成される。この結果、レーザー光Lは位相変調される。光ファイバー324xの一端が光コネクタによってAOM323xに接続されており、AOM323xから出たレーザー光Lは光ファイバー324xに入る。レーザー光Lは、光ファイバー324xの他端に取り付けられている光コネクタから出て、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器316xによって所望のビームLx,2(例えば、円偏光のガウシアンビームσx +である)に整形される。得られたビームLx,2は干渉装置200に入る。
【0066】
この結果、光学変調装置320xを経ていないレーザー光Lx,1および光学変調装置320xを経たレーザー光Lx,2が自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0067】
[干渉装置]
干渉装置200における原子干渉系では、上述のとおり、光照射による原子の2準位間遷移が利用される。したがって、自然放出によるデコヒーレンスを避ける観点から、一般的に、寿命の長い2準位間遷移が利用される。例えば、原子線がアルカリ金属原子線である場合、基底状態の超微細構造に含まれる2準位の間の誘導ラマン遷移が利用される。超微細構造において、最も低いエネルギー準位の状態を|g>とし、|g>よりも高いエネルギー準位の状態を|e>とする。2準位間の誘導ラマン遷移は、上述のとおり、差周波数が状態|g>と状態|e>との共鳴周波数に概ね等しい一対のレーザー光の対向照射で形成される進行光定在波によって実現される。
【0068】
以下、進行光定在波による2光子ラマン過程を利用した原子干渉について説明する。第1の原子線131aと3個の進行光定在波との相互作用について説明するが、第2の原子線131bに言及する場合を除き、下記の説明における「第1の原子線131a」を「第2の原子線131b」に読み替え、「1番目の進行光定在波200a」を「3番目の進行光定在波200c」に読み替え、「3番目の進行光定在波200c」を「1番目の進行光定在波200a」に読み替え、「第3の原子線131c」を「第4の原子線131d」に読み替えるだけで、第2の原子線131bと3個の進行光定在波との相互作用についての説明が得られる。
【0069】
第1の原子線131aが1番目の進行光定在波200aを通過すると、初期状態が|g, p>にある個々の原子の状態は|g,p>と|e,p+h-keff>との重ね合わせ状態に変化する(図5では、p0=p,p1=p+h-keffである)。1番目の進行光定在波200aを通過した直後の|g,p>の存在確率と|e,p+h-keff>の存在確率の比は1対1になる。原子は、対向して進む2光子の吸収・放出を通じて、|g,p>から|e,p+h-keff>に遷移する際に光子2個分の運動量を得る。したがって、状態|e,p+h-keff>の原子の運動方向は、状態|g,p>の原子の運動方向からずれる。つまり、第1の原子線131aが1番目の進行光定在波200aを通過すると、第1の原子線131aは、1対1の割合で、状態|g,p>の原子からなる原子線と状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線に分裂する。1番目の進行光定在波200aは、第1の原子線131aに対してスプリッターとしての機能を持ち、第2の原子線131bに対して後述するコンバイナーとしての機能を持つ。
【0070】
分裂後、状態|g,p>の原子からなる原子線と状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線は、2番目の進行光定在波200bを通過する。第2の進行光定在波200bを通過することによって、状態|g,p>の原子からなる原子線は状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線に反転し、状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線は状態|g,p>の原子からなる原子線に反転する。このとき、前者については、|g,p>から|e,p+h-keff>に遷移した原子の進行方向は、上述のとおり、状態|g,p>の原子の運動方向からずれる。この結果、2番目の進行光定在波200bを通過後の状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線の進行方向は、1番目の進行光定在波200aを通過後の状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線の進行方向と平行になる。また、後者については、原子は、対向して進む2光子の吸収・放出を通じて、|e,p+h-keff>から|g,p>に遷移する際に、2光子から得た運動量と同じ運動量を失う。つまり、|e,p+h-keff>から|g,p>に遷移した原子の運動方向は、遷移前の状態|e,p+h-keff>の原子の運動方向からずれる。この結果、2番目の進行光定在波200bを通過後の状態|g,p>の原子からなる原子線の進行方向は、1番目の進行光定在波200aを通過後の状態|g,p>の原子からなる原子線の進行方向と平行になる。2番目の進行光定在波200bは、原子線のミラーとしての機能を持つ。
【0071】
反転後、状態|g,p>の原子からなる原子線と状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線は、3番目の進行光定在波200cを通過する。交差する状態|g,p>の原子からなる原子線と状態|e,p+h-keff>の原子からなる原子線との交差領域に含まれる個々の原子の|g,p>と|e,p+h-keff>との重ね合わせ状態に応じた原子線が干渉装置200で得られる。この原子線の一方が第3の原子線131cである。3番目の進行光定在波200cは、第1の原子線131aに対してコンバイナーとしての機能を持ち、第2の原子線131bに対して前述したスプリッターとしての機能を持つ。
【0072】
次に、第1の観測装置400aと第2の観測装置400bについて説明する。第1の観測装置400aの構成が第2の観測装置400bの構成と同じである必要は無い。さらに、第1の観測装置400aあるいは第2の観測装置400bとして採用できる構成に限定も無い。したがって、ここでは第1の観測装置400aについてのみ説明する。第1の観測装置400aに関する下記の説明における「第3の原子線131c」を「第4の原子線131d」に読み替え、「プローブ光408a」を「プローブ光408b」に読み替え、「光検出器409a」を「光検出器409b」に読み替え、「3番目の進行光定在波200c」を「1番目の進行光定在波200a」に読み替えるだけで第2の観測装置400bについての説明が得られる。第1の観測装置400aは、干渉装置200からの第3の原子線131cにプローブ光408aを照射して、例えば状態|e,p+h-keff>の原子からの蛍光を光検出器409aによって検出する。光検出器409aからの検出信号は、状態|e,p+h-keff>の原子のポピュレーションを表している。光検出器409aとして、光電子増倍管、蛍光フォトディテクタなどを例示できる。あるいは、光検出器409aとしてチャンネルトロンを用いる場合は、3番目の進行光定在波200cを通過した後の2個の経路の一方の原子線を、プローブ光の替わりにレーザー等によってイオン化し、チャンネルトロンでイオンを検出してもよい。
【0073】
図7を参照して制御器500について説明する。実施形態の慣性センサ900に含まれる制御器500は、第1の位相検出器501aと、第2の位相検出器501bと、参照信号生成器502と、位相差検出器503と、AOM制御器504を含む。
【0074】
第1の位相検出器501aは、ハイパスフィルタ(図示せず)と乗算器(図示せず)とローパスフィルタ(図示せず)を含む。第1の位相検出器501aのハイパスフィルタは、光検出器409aが観測した状態|e,p+h-keff>の原子のポピュレーションを表す検出信号から直流成分を除去する。第1の位相検出器501aの乗算器は、第1の位相検出器501aのハイパスフィルタの出力信号と参照信号生成器502が生成する参照信号sin(2δ2t)を乗算する。第1の位相検出器501aのローパスフィルタは、第1の位相検出器501aの乗算器の出力信号の直流成分を取り出す。
【0075】
第2の位相検出器501bは、ハイパスフィルタ(図示せず)と乗算器(図示せず)とローパスフィルタ(図示せず)を含む。第2の位相検出器501bのハイパスフィルタは、光検出器409bが観測した状態|e,p+h-keff>の原子のポピュレーションを表す検出信号から直流成分を除去する。第2の位相検出器501bの乗算器は、第2の位相検出器501bのハイパスフィルタの出力信号と参照信号生成器502が生成する参照信号sin(2δ2t)を乗算する。第2の位相検出器501bのローパスフィルタは、第2の位相検出器501bの乗算器の出力信号の直流成分を取り出す。
【0076】
位相差検出器503は、第1の位相検出器501aの出力信号と第2の位相検出器501bの出力信号の差信号(位相差)を得る。
【0077】
AOM制御器504は、位相差検出器503の出力信号がゼロとなるときのδ1を用いて周波数ωeg+δ1を持つ音響信号Saを生成し、参照信号の角周波数を用いて周波数ωeg+δ2を持つ音響信号Sbを生成し、位相差検出器503の出力信号がゼロとなるときのδ1を用いて周波数ωeg-δ1を持つ音響信号Scを生成する(式(7)参照)。AOM制御器504が生成した音響信号SaはAOM323aに与えられ、AOM制御器504が生成した音響信号SbはAOM323bに与えられ、AOM制御器504が生成した音響信号ScはAOM323cに与えられる。
【0078】
角速度ベクトルΩのz方向成分|Ωz|は、位相差検出器503の出力信号がゼロとなるときのδ1を用いて式(19)によって得られる。
【0079】
上述したとおり、式(22)が成立するようにδ2を制御する場合、図8に示すように制御器500はさらに振幅検出器505を含む。振幅検出器505は、図示しないハイパスフィルタによって、光検出器409aが観測した状態|e,p+h-keff>の原子のポピュレーションを表す検出信号から直流成分を除去し、さらに、直流成分が除去された当該検出信号の振幅を検出する。なお、振幅検出器505は、図示しないハイパスフィルタによって、光検出器409bが観測した状態|e,p+h-keff>の原子のポピュレーションを表す検出信号から直流成分を除去し、さらに、直流成分が除去された当該検出信号の振幅を検出してもよい。
【0080】
AOM制御器504は、上述の音響信号SaとScに加えて、振幅検出器505の出力信号(つまり、ポピュレーションの振幅)の極値を保つδ2を用いて周波数ωeg+δ2を持つ音響信号Sbを生成し、さらに、参照信号sin(2δ2t)を出力するように参照信号生成器502を制御する。
【0081】
<変形例>
例えば、上述の実施形態の慣性センサは、3個の進行光定在波を用いるマッハ-ツェンダー型原子干渉を利用しているが、4個以上の進行光定在波を用いるマッハ-ツェンダー型原子干渉を利用することができる。4個以上の進行光定在波を用いるマッハ-ツェンダー型原子干渉については、参考文献2を参照のこと。
(参考文献2)Takatoshi Aoki et al.,“High-finesse atomic multiple-beam interferometer comprised of copropagating stimulated Raman-pulse fields,”Phys. Rev. A 63, 063611 (2001) - Published 16 May 2001.
【0082】
また、慣性センサが利用する原子干渉は、マッハ-ツェンダー型原子干渉に限らず、例えばラムゼー-ボーデ型原子干渉であってもよい。
【0083】
<補遺>
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、当業者は本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い、その要素を均等物で置き換えることができることを理解するであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定のシステム、デバイス、またはそのコンポーネントを本発明の教示に適合させるために、多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むものとする。
【0084】
さらに、M個の進行光定在波の順序を除いて、「第1」、「第2」などの用語の使用は順序や重要性を示すものではなく、「第1」、「第2」などの用語は要素を区別するために使用される。本明細書で使用される用語は、実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものでは決してない。用語「含む」とその語形変化は、本明細書および/または添付の特許請求の範囲で使用される場合、言及された特徴、ステップ、操作、要素、および/またはコンポーネントの存在を明らかにするが、1つまたは複数の他の特徴、ステップ、操作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。「および/または」という用語は、それがもしあれば、関連するリストされた要素の1つまたは複数のありとあらゆる組み合わせを含む。特許請求の範囲および明細書において、特に明記しない限り、「接続」、「結合」、「接合」、「連結」、またはそれらの同義語、およびそのすべての語形は、例えば互いに「接続」または「結合」されているか互いに「連結」している二つの間の一つ以上の中間要素の存在を必ずしも否定しない。
【0085】
特に断りが無い限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されている用語などの用語は、関連技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、明示的に定義されていない限り、理想的にまたは過度に形式的に解釈されるものではない。
【0086】
本発明の説明において、多くの技法およびステップが開示されていることが理解されるであろう。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれ他の開示された技法の一つ以上、または場合によってはすべてと組み合わせて使用することもできる。したがって、煩雑になることを避けるため、本明細書では、個々の技法またはステップのあらゆる可能な組み合わせを説明することを控える。それでも、明細書および請求項は、そのような組み合わせが完全に本発明および請求項の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0087】
以下の請求項において手段またはステップと結合したすべての機能的要素の対応する構造、材料、行為、および同等物は、それらがあるとすれば、他のクレームされた要素と組み合わせて機能を実行するための構造、材料、または行為を含むことを意図する。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
【符号の説明】
【0089】
100a 第1の原子線生成装置
100b 第2の原子線生成装置
1001 加熱器
1002 ノズル
1003 気体原子生成器
1004 レーザー冷却器
131a 第1の原子線
131b 第2の原子線
131c 第3の原子線
131d 第4の原子線
200 干渉装置
200a 第1の進行光定在波
200b 第2の進行光定在波
200c 第3の進行光定在波
300 進行光定在波生成装置
311 レーザー光源
312 EOM
313a 光ファイバーカプラ
313b 光ファイバーカプラ
313c 光ファイバーカプラ
313d 光ファイバーカプラ
313e 光ファイバーカプラ
314a VOA
314b VOA
314c VOA
315a ビーム整形器
315b ビーム整形器
315c ビーム整形器
316a ビーム整形器
316b ビーム整形器
316c ビーム整形器
320a 光学変調装置
320b 光学変調装置
320c 光学変調装置
321a 光ファイバー
321b 光ファイバー
321c 光ファイバー
323a 周波数シフター
323b 周波数シフター
323c 周波数シフター
324a 光ファイバー
324b 光ファイバー
324c 光ファイバー
400a 第1の観測装置
400b 第2の観測装置
408a プローブ光
408b プローブ光
409a 光検出器
409b 光検出器
500 制御器
501a 第1の位相検出器
501b 第2の位相検出器
502 参照信号生成器
503 位相差検出器
504 AOM制御器
505 振幅検出器
900 慣性センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8