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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022118
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】接合構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/70 20060101AFI20250206BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20250206BHJP
   B60R 19/03 20060101ALI20250206BHJP
   B60R 19/04 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B29C65/70
B29C45/14
B60R19/03 C
B60R19/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126398
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小山 将樹
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 孝邦
【テーマコード(参考)】
4F206
4F211
【Fターム(参考)】
4F206AA29
4F206AD03
4F206AD16
4F206AD18
4F206AD24
4F206AD27
4F206AH24
4F206AM32
4F206AR12
4F206AR13
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4F211AA11
4F211AA13
4F211AA25
4F211AA28
4F211AA29
4F211AA34
4F211AD03
4F211AD16
4F211AG05
4F211AH24
4F211AR02
4F211AR06
4F211AR07
4F211TA08
4F211TC08
4F211TD20
4F211TH24
4F211TN87
4F211TW15
(57)【要約】
【課題】金属体と樹脂体との相互の線膨張差による接合界面での剥がれを防止または抑制し得る接合構造体を提供する。
【解決手段】接合構造体1は、金属体10と樹脂体20とが相互に対向する接合面11、21で接合されたものである。金属体10は、自身の長手方向Wとは交差する方向に沿って接合面11に形成されたスリット30を有し、スリット30は、樹脂体20との接合前の状態において自身溝幅方向に押圧されて縮幅されており、樹脂体20は、金属体10の接合面11の長手方向Wに沿ってスリット30を覆う位置に接合されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体と樹脂体とが相互に対向する接合面で接合された接合構造体であって、
前記金属体は、自身の長手方向とは交差する方向に沿って前記接合面に形成されたスリットを有し、
前記スリットは、前記樹脂体との接合前の状態において自身の溝幅方向の押圧により縮幅されており、
前記樹脂体は、前記金属体の接合面の長手方向に沿って前記スリットを覆う位置に接合されていることを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記スリットは、前記溝幅方向で対向する一対の内側面が、前記スリットの長手方向両端部から溝中央部に向かって溝幅が狭くなる縮幅部を有する請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記スリットの延在方向は、前記長手方向と直交している請求項1に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記スリットは、前記長手方向に離隔して複数形成されている請求項1に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記複数のスリット全体は、前記長手方向とは交差する方向において前記樹脂体と接合される範囲を横断している請求項4に記載の接合構造体。
【請求項6】
前記複数のスリットは、前記長手方向に並ぶスリットの形成位置が、前記長手方向で一箇所おきに前記直交方向にて前後している請求項4に記載の接合構造体。
【請求項7】
前記複数のスリットの形成間隔は、前記樹脂体との接合端に近いほど接合端から離れた位置よりも狭くなっている請求項4に記載の接合構造体。
【請求項8】
前記複数のスリットの隣接するスリットの間に、更に、前記スリットの深さよりも浅い複数の溝が異種材接合用溝として形成されている請求項4に記載の接合構造体。
【請求項9】
当該接合構造体は、車体の前若しくは後のバンパ内に車幅方向に沿って取り付けられるバンパレインフォースメントであり、
前記金属体が、自身の背面両端に車体側に取り付けるための二つの取付部をそれぞれ有する金属製のバンパビームであり、
前記樹脂体が、前記バンパビームの背面に沿って接合される樹脂製の補強部である請求項1~8のいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項10】
金属体と樹脂体とが相互に対向する接合面で接合された接合構造体を製造する方法であって、
自身接合面での長手方向に沿って樹脂体と接合される金属体の接合面に、前記長手方向とは交差する方向に沿ってスリットを形成するスリット形成工程と、
前記スリット形成工程で形成されたスリットを溝幅方向に押圧して縮幅する溝縮幅工程と、
前記溝縮幅工程を経た後に、前記接合面の長手方向に沿って樹脂体の樹脂母材を接合する樹脂接合工程と、
を含むことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体と樹脂体とを相互に対向する接合面で接合した接合構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の接合構造体として、例えば、金属体(メタルシート)上に、樹脂体として炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)からなる補強部材(リブ)をプレス形成する自動車部品が検討されている。これらの接合構造体による自動車部品は、加熱した熱可塑性樹脂とメタルシートとを金型内で一体形成することで製造される。
【0003】
従来、この種の接合構造体のように、被着体として樹脂体のような異材を金属体に接合する際、相互の線膨張係数が異なることから、線膨張差を吸収できないと、相互に対向する接合界面での剥がれや割れが生じる場合がある。
そこで、例えば、特許文献1記載の技術では、刃物のロウ付けの際に熱膨張差を吸収するスリット構造を設けている。また、特許文献2記載の技術では、放熱板の熱膨張差による変形を抑制するためにスリット構造を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-152628号公報
【特許文献2】WO2013/018329 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ないし2に開示される従来のスリット構造は、スリット内に被着体が入り込まないことを前提としている。しかし、アウトサート成形のように、金属表面に被着体として溶融樹脂を直接射出成形する場合、単にスリットを形成しただけでは、スリット内に溶融樹脂が入り込むので線膨張差を吸収できなくなるという問題がある。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、金属体と樹脂体相互の線膨張差による接合界面での剥がれを防止または抑制し得る接合構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合構造体は、金属体と樹脂体とが相互に対向する接合面で接合された接合構造体であって、前記金属体は、自身の長手方向とは交差する方向に沿って前記接合面に形成されたスリットを有し、前記スリットは、前記樹脂体との接合前の状態において自身の溝幅方向の押圧により縮幅されており、前記樹脂体は、前記金属体の接合面の長手方向に沿って前記スリットを覆う位置に接合されている。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合構造体の製造方法は、金属体と樹脂体とが相互に対向する接合面で接合された接合構造体を製造する方法であって、自身接合面での長手方向に沿って樹脂体と接合される金属体の接合面に、前記長手方向とは交差する方向に沿ってスリットを形成するスリット形成工程と、前記スリット形成工程で形成されたスリットを溝幅方向に押圧して縮幅する溝縮幅工程と、前記溝縮幅工程を経た後に、前記接合面の長手方向に沿って樹脂体の樹脂母材を接合する樹脂接合工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属体と樹脂体との相互の線膨張差による接合界面での剥がれを防止または抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る接合構造体を採用した一実施形態であるバンパレインフォースメントの説明図であり、同図(a)は樹脂体を接合前の状態の斜視図、(b)は樹脂体を接合後の状態の斜視図である。
図2】本発明に係る接合構造体の接合面におけるスリットの説明図であり、同図(a)は、樹脂体を接合前且つ押圧による縮幅前の状態の平面図、(b)は樹脂体を接合前且つ押圧により縮幅後の状態の平面図、(c)は樹脂体を接合後且つ線膨張差により拡幅変形後の状態の平面図、(d)は(b)のスリットの拡大図、(e)は(c)のスリットの拡大図である。
図3図1に示すバンパレインフォースメントの製造方法の説明図(a)~(d)である。
図4図3に示す製造方法において、金属体と樹脂体との接合過程を説明する模式図(a)~(d)であり、各図は、図1でのX方向(長手方向)に沿った断面視を模式的に示している。
図5図4に示す接合過程において、縮幅されたスリットが線膨張差により拡幅変形する状態のイメージを白抜き矢印にて示す模式図(a)~(c)である。
図6】対比例であって、図4に示す接合過程において、スリットを設けない場合、線膨張差に追従できないイメージを白抜き矢印にて示す模式図(a)~(c)である。
図7】対比例であって、図4に示す接合過程において、縮幅されていないスリットの場合、線膨張差に追従できないイメージを白抜き矢印にて示す模式図(a)~(c)である。
図8】複数のスリット(線膨張吸収用溝)に加え、更に、異材接合用溝を凹凸領域として隣接するスリット間に設ける場合の一実施例を示す模式図(a)~(e)である。
図9】複数のスリットを設ける場合の一実施例を示す模式図(a)、(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0011】
[バンパレインフォースメント]
まず、本発明に係る接合構造体を採用した実施形態である、バンパレインフォースメントについて説明する。
図1に示すように、本実施形態のバンパレインフォースメント1は、車幅方向Wに延びる金属体であるバンパビーム10と、バンパビーム10の周壁背面12に接合される樹脂体である補強部20と、を備える。
【0012】
バンパビーム10は、アルミニウム合金製の長尺な部材であり、長手方向(車幅方向)Wの両端近傍に車体側に取り付けるための取付部18、19をそれぞれ有する。二つの取付部18、19よりも車幅方向内側には、二つの屈曲部16、17が形成されている。本実施形態では、各取付部18、19にクラッシュボックス14、15が装着され、クラッシュボックス14、15を介して車体側にバンパビーム10が取り付けられる態様を例示している。
【0013】
補強部20は、バンパビーム10の周壁背面12に長手方向に沿って付設される樹脂製の補強部材である。補強部20は、同図(b)に示すように、バンパビーム10の周壁背面12の所定の範囲に設けられた接合面11に対して、バンパビーム10の長手方向Wに沿って射出成形によって接合面11に接合される。本実施形態の補強部20は、繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)製とされている。特に、本実施形態の繊維強化樹脂の繊維は不連続短繊維であり、また、繊維強化樹脂の繊維は炭素繊維である。
【0014】
ここで、本実施形態の金属体10には、図1(a)に示すように、バンパビーム10の周壁背面12の接合面11に、自身の長手方向Wとは交差する方向に沿って複数のスリット30が線膨張吸収用溝としてレーザ加工により形成される。
本実施形態においては、複数のスリット30が、二つの屈曲部16、17が形成される位置に、長手方向Wとは交差する方向に沿って形成される。特に、本実施形態の複数のスリット30は、長手方向Wに並ぶ溝部の形成位置が、直交方向に一箇所おきに前後している。なお、線膨張吸収用溝としてのスリット30は、金属体10の板厚方向に貫通形成してもよい。
【0015】
より詳しくは、スリット30は、図2(a)に示すように、樹脂体20との接合前の状態において、二つの屈曲部16、17が形成される位置にレーザ加工により形成される。本実施形態の接合面11では、スリット30は、同図に示すように、長手方向Wとは交差する方向(図1(a)でのZ方向)において樹脂体20と接合される範囲を横断している。
【0016】
また、図2(a)に示すように、本実施形態の接合面11では、線膨張吸収用溝としてのスリット30は、図1(a)に示した長手方向Wに離隔して複数形成されている。また、本実施形態のスリット30は、スリット30の延在方向が、長手方向Wと直交している。
さらに、本実施形態においては、複数のスリット30は、長手方向Wに並ぶスリット30の形成位置が、長手方向Wで一箇所おきに直交方向(Z方向)にて前後している。なお、複数のスリット30の形成間隔は、樹脂体20との接合端に近いほど接合端から離れた位置よりも狭くすることは好ましい。
【0017】
複数のスリット30は、レーザ加工で形成後、同図(b)に示すように、二つの屈曲部16、17を形成するための金属体10に対する屈曲工程において、自身溝幅方向に押圧されて縮幅される。
これにより、各スリット30は、同図(d)に示すように、溝幅方向で対向する一対の内側面が、スリット30の長手方向両端部32から溝中央部に向かって溝幅が狭くなる縮幅部31を有するように狭幅変形する。本実施形態のスリット30は、スリット30の長手方向の両端部から溝中央部に向かって溝幅が次第に狭くなっている。
【0018】
そして、樹脂体20は、樹脂母材の射出成形による接合工程において、図1(b)に示したように、金属体10の接合面11の長手方向Wに沿ってスリット30を覆う位置に接合される。その際、複数のスリット30は、後述するように、射出成形による接合後、常温に戻るときの線膨張差による変形を、図2(c)、(e)に示す各スリット30の拡幅変形により吸収し、接合面での応力吸収性能が発揮される。
【0019】
[バンパレインフォースメントの製造方法]
次に、上記実施形態のバンパレインフォースメント1の製造方法について説明する。
図1のバンパレインフォースメント1の製造工程は、まず、金属体10として、アルミニウム合金材の押し出し成形により、延在方向に沿った上記中空構造のビーム素材を作成し、このビーム素材の両端近傍に、上記クラッシュボックス14、15の取付部18、19をそれぞれ機械加工する。
【0020】
次いで、図3(a)に示すように、金属体10に対し、二つの補強部20の各接合面21と接続される接合面11において、上記二つの屈曲部16、17となる部分に上記複数のスリット30を形成する。
【0021】
すなわち、本実施形態では、二つの補強部20の各接合面21と金属体10の接合面11との線膨張差による接合界面での剥がれを防止または抑制するために、ビーム素材の周壁背面12の接合面11に対し、上記二つの屈曲部16、17となる部分に、上記スリット30となる微細な溝形状をレーザ加工によって、図2(a)に示した所定の構成パターンに形成する(スリット形成工程)。
この際、スリット形成工程では、所定の構成パターンとして、図8に断面図を示すように、線膨張吸収用溝としての上記複数のスリット30に加え、更に、隣接するスリット30同士の間に、異材接合用溝40を凹凸領域として、長手方向Wにおいて交互に形成されるようにレーザ加工を行うことができる。なお、スリット30と異材接合用溝40との関係については後述する。
【0022】
次いで、上記二つの屈曲部16、17を成形するために、ビーム素材の所定の位置に対して曲げ加工を施す。この際、スリット形成工程で形成された複数のスリット30を、曲げ加工によって曲げと同時に溝幅方向に押圧して縮幅する(溝縮幅工程)。
次いで、曲げ加工およびこれに伴う溝縮幅工程を経た後に、図3(b)~(c)に示すように、バンパビーム10の接合面11となる部分に、接合面11の長手方向に沿って二つの補強部20の各接合面21を接合させる(樹脂接合工程)。
その際、金型組70のうち、一方の第一の金型71の収容部に、バンパビーム10の周壁背面12を第二の金型72側に向けた姿勢で挿入して固定する。その後、第一の金型71に対向する第二の金型72をバンパビーム10の周壁背面12側から相対的に型締めする。これにより、金型組70は成形品となる接合構造体であるバンパレインフォースメント1を囲むように組み合わされる。
【0023】
そして、図3(c)に示すように、不図示の射出成形機によって加熱した溶融樹脂(例えば不連続繊維のCFRTP)を樹脂体20の樹脂母材とし、金型組70の樹脂射出空間内に、不図示の溶融樹脂供給通路から射出圧力を加えて押し込み、射出成形により補強部20を接合する。なお、溶融樹脂供給通路(スプール、ランナー、ゲート等)およびガスベント部は適所に配置できる。
【0024】
樹脂射出空間内に樹脂を充填して一定時間の冷却後、図3(d)に示すように、脱型してバンパビーム(金属体)10と補強部(樹脂体)20とが一体化されたバンパレインフォースメント(接合構造体)1を金型組70から取り出す。
これにより、バンパビーム10に対して補強部20による所期の補強がなされる。その後、バンパビーム10の周壁背面12両端の取付部18、19にクラッシュボックス14、15をそれぞれ組み付けてバンパレインフォースメント1が完成する。
【0025】
上記接合工程で補強部(樹脂体)20として接合(被覆)する樹脂材としては、例えばPA6+カーボン長繊維40wt%を例示できる。その他、各種ポリアミド(PA66やMXD6等)、PPS、ABS,PP,PC,PBT等の熱可塑性樹脂、カーボン短繊維やガラス繊維、セルロース系天然繊維入りとしてもよい。また、上記接合工程で補強部(樹脂体)20の射出成形による接合(被覆)条件としては、射出圧:117MPa、金型温度:140℃、射出スクリュー温度(樹脂温度):280℃を例示できる。
【0026】
ここで、上記実施形態では、線膨張吸収用溝としてスリット30を設ける例を説明したが、これに加え、更に、図8に示したように、複数の異種材接合用溝40による凹凸領域を設けることができる。以下、異種材接合用溝40および線膨張吸収用溝30の二種類の溝を設ける場合における相互の関係について説明する。ここでは、線膨張吸収用溝を第一の溝30、異種材接合用溝を第二の溝40と呼称する。
【0027】
図8において、線膨張吸収用溝として形成するスリット30、つまり、第一の溝30の形成数は、各屈曲部16、17に対応する曲げ範囲Eにおいて、例えば4列程度形成することが好ましい。また、隣接する第一の溝30同士の配置間隔P1は、20mm以上が望ましい。第一の溝30の配置間隔P1が20mm未満の場合、線膨張の吸収に必要十分な第二の溝40自体の幅が40μm以下になってしまい加工が困難となる(第一の溝30の間隔がこれよりも広くなっても線膨張吸収効果は生じるものの、線膨張の吸収に必要以上の間隔となっており、それであれば溝の間隔をあけた方が加工の手間を考えると合理的である。)。
また、第一の溝30の溝幅Wは、0.27mm程度をねらい目とするのが好ましい。第一の溝30の深さは、0.2mm以上2mm以下が望ましい。第一の溝30の深さが、金属体10の板厚(例えば4mm)に対し、板厚の半分以上をレーザ加工で掘ったとしても溝を潰しやすくなる効果は少ないといえる。また、第一の溝30の深さを0.2mmよりも浅く掘った場合、金属体10の曲げ加工(本実施形態の例では7.5°)によって第一の溝30を潰すことが困難となるからである。
【0028】
これに対し、第二の溝40の配置間隔P2は、100μm以上400μm以下が望ましい。第二の溝40をこの範囲で形成することにより、異種材接合用溝としての機能から、金属体10がレーザ加工によって削れたことによって、第二の溝40の両側に生じるバリ状突起によって接合強度を向上させることができる。また、第二の溝40の間隔が狭すぎると隣接する第二の溝40同士のバリ状突起が重複して接合効果が少なくなる。
さらに、第二の溝40の深さは、50μm以上250μm以下が望ましい。第二の溝40の深さが50μm未満の場合、接合効果を生じさせる上で十分なバリ状突起を形成できないからである。また、250μmを超えて加工するのは、レーザ加工プロセスに時間がかかりすぎるからである。
【0029】
[作用効果]
次に、本実施形態の接合構造体1およびその製造方法の作用効果について説明する。
ここで、本実施形態の接合構造体1において、CFRTP製の樹脂体20の繊維が長手方向Wに沿って配向すると、アルミ合金製の金属体10よりも線膨張率が小さくなる。
つまり、成形時の高温から常温に温度低下する際は、図6に対比例を示すように、相互の接合面101において、アルミ合金製の金属体100の熱収縮量がCFRTP製の樹脂体200の熱収縮量よりも相対的に大きくなる。よって、アルミ合金製の金属体100にとって、相対的にCFRTP製の樹脂体200が膨張するように見える。これにより、金属体100と樹脂体200との相互の線膨張差により接合界面102での剥がれが生じる。
【0030】
しかし、仮に、図7に示す対比例のように、アルミ合金製の金属体110の接合面111に対し、単純にスリット130を設けても、CFRTPの樹脂母材の直接射出成形では、成形時に溶融樹脂が単純なスリット130内に入り込んでしまい、金属体110が押し広げられるだけであって、接合界面112での剥がれを防止または抑制するという効果が単純なスリット130では得られず、CFRTPの樹脂体200と金属体110との相互の線膨張差によって、樹脂母材の直接射出成形により接合すると冷却時の熱収縮によって接合界面112で応力が発生して接合界面112での剥がれが生じる。
【0031】
これに対し、本実施形態の接合構造体1によれば、図5に示すように、対向する接合面11、21の界面での剥がれという課題に対し、金属体10側の接合面11にスリット30を形成するとともに、そのスリット30を溝幅方向に押圧して縮幅させ(同図(a)の白抜き矢印)、その後に、金属体10側の接合面11に対して樹脂体20を接合している。
これにより、同図(b)に示すように、射出成形による接合後の常温に戻るとき、縮幅されたスリット30が、金属体10と樹脂体20との相互の線膨張差により拡幅変形できる。また、部品形状にかかわらず、先にスリット30を溝幅方向に押圧して縮幅させておくことで、射出成形時の溶融樹脂のスリット30内への侵入を抑えて、溶融樹脂がスリット30内に入り込んで所期の線膨張吸収効果を発揮しないことを防止または抑制できる。そのため、金属体10と樹脂体20との相互の線膨張差による、相互に対向する接合面11、21における接合界面での剥がれを防止または抑制できる[発明1]。
【0032】
さらに、本実施形態の接合構造体1においては、図2(c)、(e)に示したように、接合後の完成状態にあっても狭幅凹構造が残存するようにスリット30を溝幅方向に押圧して縮幅させている。これにより、接合構造体1としての完成状態での使用環境下においても温度変化による線膨張変形に追従できる。
【0033】
さらに、本実施形態の接合構造体1では、スリット30は、図2に示したように、溝幅方向で対向する一対の内側面が、スリット30の長手方向両端部32から溝中央部31に向かって溝幅が狭くなっている。本実施形態によれば、スリット内側が溝端32から溝中央31に向かって狭幅する凹形状に溝幅が狭くなることによって、スリット30が溝幅方向に拡幅して、狭幅前の溝幅に戻るまで拡幅変形する領域を効果的に生じさせることができる。そのため、線膨張差による応力が緩和されて接合部の破壊を防止する上で好適である。[発明2]。
【0034】
また、本実施形態の接合構造体1では、スリット30の延在方向は、図2に示したように、長手方向Wと直交しているので、線膨張差による変形を吸収する方向が溝幅方向と一致する。そのため、線膨張差による応力が緩和されて接合部の破壊を防止する上で好適である。また、スリット30の溝延在方向が接合面での長手方向と直交することにより、曲げ工程での押圧時の応力集中でスリット30が溝幅方向で潰れ易く、製造する上でも狭幅凹構造を形成し易くなる[発明3]。
【0035】
また、本実施形態の接合構造体1では、スリット30は、図2に示したように、接合面11での長手方向Wに離隔して複数形成されている。つまり、本実施形態によれば、スリット30が一箇所ではなく、部品の線膨張方向との交差方向で並ぶ複数のスリット30を有するので、これら複数のスリット30の協働によって、熱膨張変形時により大きな変形量を効果的に吸収できる。複数列のスリット30を交差方向で並ぶように形成することで変形吸収量を増加させて、より大きい変形量を吸収できる[発明4]。
【0036】
また、本実施形態の接合構造体1では、複数のスリット30の全体は、図2に示したように、接合面11での長手方向Wとは直交するZ方向において金属体10の接合面11を横断している。本実施形態によれば、部品の変形方向に直交する方向に沿ってスリット30の全体として、金属体10を横断することで、線膨張差による応力集中が緩和されて接合部の破壊を防止または抑制するとともに、部品に対して熱膨張変形とは異なる方向に向けた力が加わらず、部品の局所的変形を防止する上で好適である。これに対し、接合面11の一部にしかスリット30がないと、膨張方向と直交する方向においてもモーメントが生じて剥離等が発生する可能性が高くなる[発明5]。
【0037】
また、本実施形態の接合構造体1では、複数のスリット30は、図2に示したように、長手方向Wに並ぶ溝部の形成位置が直交方向において一箇所おきに前後している。本実施形態によれば、複数のスリット30が分散して存在することで、変形吸収量を均一化できる。換言すれば、隣接するスリット30間の金属体10が変形方向に連続することで、その部分だけ変形吸収量が低下することを防止または抑制できる。そのため部品の局所的変形を防止しつつ、線膨張差による応力集中が緩和されて接合部の破壊を防止または抑制できる[発明6]。
これに対し、図9に例示するように、複数のスリット30が単に平行に並ぶと(同図(a))、直交方向において離隔した部分(同図での符号Bで示す部分)において、一部だけスリット30がない領域が存在するため、その部分での熱膨張変形の吸収能が低下するので、複数のスリット30を分散配置して変形吸収量を均一化すべく、交差方向で前後するように位置をずらすことが好ましい(同図(b))。
【0038】
なお、本実施形態の接合構造体1では、複数のスリット30の配置間隔は、樹脂体20との接合端部に近いほど接合端部から離れた位置よりも狭くなっていることは好ましい。特に、バンパレインフォースメント1において、図1に示したように、二つの屈曲部16、17が形成される位置に配置することは好ましい。
つまり、このような構成であれば、変形の影響が大きく出るところに複数のスリット30を効率良く配置できる。また、二つの屈曲部16、17の位置に限定されず、例えば、図1に示すように、二つの屈曲部16、17が形成される位置よりも長手方向Wでの外側寄りであって、樹脂体20との接合端部となる位置など、変形時に大きな応力が加わるような他の場所に複数のスリット30をより多く設けることは好ましい。これにより、膨張時の変形量が大きい箇所に対応して線膨張吸収用溝を多く形成することで、膨張時の変形量を効果的に吸収できる。そのため、部品の局所的な大変形を防止する上でより好適である[発明7]。
【0039】
また、本実施形態の接合構造体1において、複数のスリット30のうち、隣接するスリット30の間に、更に、図8に示したように、スリット30の深さよりも浅い複数の第二の溝が、異種材接合用溝40として形成されていることは好ましい。
このような構成であれば、線膨張吸収用溝として形成するスリット30によって、金属体10と樹脂体20との相互の線膨張差による、相互に対向する接合面11、21の接合界面での剥がれを防止または抑制しつつ、隣接するスリット30の間に設けた複数の異種材接合用溝40によって、金属体10と樹脂体20との接合方向への引き抜きに対してより高い強度を得ることができるため、この種の接合構造体において、垂直方向への密着力を満たすのに十分な構造となる[発明8]。
【0040】
ここで、従来、金属体-樹脂体の直接接合は、小型製品では採用されていたものの、自動車のバンパ部品のような大型製品への採用は少なく、線膨張差による影響が少ないもしくは調整範囲内であった。これに対し、本実施形態によれば、大型部品への金属体-樹脂体の直接接合において、金属体10の線膨張率が樹脂体20よりも高い場合において、樹脂材料そのものの線膨張率を調整することなく、線膨張による影響を最小限にとどめることができる。
すなわち、本実施形態の接合構造体1においては、図1に示したように、バンパレインフォースメントのような大型部品において、長手方向Wとは直交する方向に狭幅凹構造が残存しているスリット構造を採用しているので、線膨張の影響が顕著な長手方向Wでの相互に対向する接合面11、21の接合界面での剥がれを防止または抑制する上で好適である[発明9]。
【0041】
なお、接合界面での剥がれを防止または抑制し得る接合構造体として、金属体をそれぞれ線膨張の影響が大きい箇所で分割し、それらを樹脂体でまとめるように成形して、分割面が広がることで変形量を吸収する構造とすることも考えられる。しかし、このような分割構造の場合、線膨張差による変形量は吸収できるものの、部品自体の分割により、部品全体の物性低下が発生し、また、それを抑制する構造をとるとしても、より複雑な構造になると考えられる。
【0042】
また、本実施形態の接合構造体1の製造方法は、図3および図4に示したように、金属体10と樹脂体20との接合構造体を製造する方法であって、自身接合面11での長手方向Wに沿って樹脂母材と接合される金属体10の接合面11に、長手方向Wとは交差するZ方向に沿ってスリット30を形成する溝形成工程と、溝形成工程で形成されたスリット30を溝幅方向に押圧して溝の幅を狭幅する溝狭幅工程と、溝狭幅工程を経た後に、金属体10の接合面11の長手方向Wに沿って樹脂母材を接合する樹脂接合工程と、を含む。
【0043】
本実施形態の接合構造体(バンパレインフォースメント)1の製造方法では、スリット30は、樹脂体20との接合前の状態において、予め、自身溝幅方向に押圧して溝幅を狭幅しておくことができる。よって、金属体と樹脂体との相互の線膨張差による接合界面での剥がれを防止または抑制し得る接合構造体を製造する上で優れた製造方法といえる[発明10]。
【0044】
特に、金属体10と樹脂体20との間の線膨張率差により、金属体10がその長手方向Wにおいて顕著に膨張変形するところ、本実施形態の接合構造体1の製造方法によれば、スリット30が、樹脂母材との接合前に自身溝幅方向に押圧されて狭幅されているので、樹脂母材との接合後の冷却時に、狭幅されているスリット30が樹脂体20の膨張に追従して溝幅方向に拡幅変形できる。これにより、線膨張差による接合面11、21での応力が緩和され、接合界面での破壊が防止または抑制される。
【0045】
特に、金属体10側の接合面11のスリット30は、線膨張率が、金属<CFRTPの場合は、スリット30の隙間が狭まるようにして変形を吸収するが、本実施形態の接合構造体1は反対の方向(アルミニウムの線膨張率 > CFRTPの線膨張率)であって、スリット30の幅方向に広がる。
【0046】
これに対し、本実施形態の接合構造体1の製造方法によれば、金属体10側の接合面11にスリット30を切るとともに、そのスリット30を、樹脂体20を接合前に予め、金属体10に外部から接合構造体1の長手方向に沿って力を加え、スリット30を溝幅方向に押圧して溝の隙間が狭まるように溝形状を変形させる。
【0047】
これにより、金属体10の接合面11に樹脂母材を接合後に、繊維強化樹脂の膨張変形に伴い、金属体10側のスリット30が、樹脂体20の相対的な膨張変形に応じて溝幅方向にて元に戻るように拡幅変形して追従できる。よって、膨張変形による接合面11、21での界面での破壊を防止または抑制しつつ接合構造体1を製造できるのである。
【0048】
なお、本実施形態の接合構造体1の製造方法によれば、樹脂母材との接合時に、溶融樹脂がスリット30内に入ったとしても、接合後の冷却時には、狭幅されたスリット30は溝幅方向に拡幅する変形となるので、この拡幅変形による接合面11、21での応力吸収性能に影響が及びにくい。
【符号の説明】
【0049】
1 バンパレインフォースメント(接合構造体)
10 バンパビーム(金属体)
11 接合面
12 周壁背面
14、15 クラッシュボックス
16、17 屈曲部
18、19 取付部
20 補強部(樹脂体)
21 接合面
30 スリット(線膨張吸収用溝:第一の溝)
31 縮幅部(溝中央部)
32 端部
40 凹凸領域(異材接合用溝:第二の溝)
70 金型組
71 第一の金型
72 第二の金型
W 長手方向(車幅方向)
X 車幅方向
Z 長手方向での直交方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9