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特開2025-22161推進システム、および回転電機の保護装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022161
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】推進システム、および回転電機の保護装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20250206BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20250206BHJP
   H02P 9/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H02P9/04 Z
H02P29/024
H02P9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126474
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】西沢 啓
【テーマコード(参考)】
5H501
5H590
【Fターム(参考)】
5H501AA30
5H501CC04
5H501DD04
5H501EE08
5H501HA05
5H501HB07
5H501JJ27
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL39
5H501LL53
5H501MM02
5H501MM09
5H501PP10
5H590AB01
5H590AB06
5H590AB13
5H590CA07
5H590CC02
5H590CC24
5H590CD01
5H590CE03
5H590CE05
5H590EB02
5H590EB07
5H590FA03
5H590GA06
5H590HA04
5H590HA18
5H590HA27
5H590JB12
5H590KK04
5H590KK06
(57)【要約】
【課題】回転電機の異常を検知した場合に原動機の運転を継続しながら故障の兆候のある回転電機を任意のタイミングで機械的に分離することができる推進システム、および回転電機の保護装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る推進システムは、原動機と、回転電機と、機械的ヒューズと、センサと、保護装置とを具備する。前記回転電機は、前記原動機に接続される回転子を有する永久磁石界磁型の回転電機である。前記機械的ヒューズは、前記原動機と前記回転電機との間に接続される。前記センサは、前記回転電機の状態を監視する。前記保護装置は、前記センサの出力に基づいて、前記機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを前記機械的ヒューズに付与することが可能に構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
前記原動機に接続される回転子を有する永久磁石界磁型の回転電機と、
前記原動機と前記回転電機との間に接続された機械的ヒューズと、
前記回転電機の状態を監視するセンサと、
前記センサの出力に基づいて、前記機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを前記機械的ヒューズに付与することが可能に構成された保護装置と
を具備する推進システム。
【請求項2】
請求項1に記載の推進システムであって、
前記保護装置は、
前記回転電機に接続された電力変換器と、
前記電力変換器により生成された電力を消費する保護負荷と、
前記センサの出力に基づいて前記回転電機の異常の有無を判定し、前記回転電機が異常と判定したときは前記ねじり振動トルクを発生させる制御指令を前記電力変換器へ入力する制御部と、を有する
推進システム。
【請求項3】
請求項2に記載の推進システムであって、
前記制御指令は、周期的に目標トルク値が変化するトルク指令値を含む
推進システム。
【請求項4】
請求項3に記載の推進システムであって、
前記制御部は、前記機械的ヒューズのねじり共振周波数と同等の周波数をもつねじり振動トルクを発生させるトルク指令値を生成する
推進システム。
【請求項5】
請求項2に記載の推進システムであって、
前記保護装置は、前記電力変換器と、前記電力変換器により生成された電力を受けて動作する電力負荷との間の導通を遮断可能な第1遮断器をさらに有し、
前記制御部は、前記回転電機が異常と判定したときは、前記第1遮断器に前記電力変換器と前記電力負荷との間の導通を遮断させる
推進システム。
【請求項6】
請求項5に記載の推進システムであって、
前記保護装置は、前記電力変換器と前記保護負荷との間の導通を遮断可能な第2遮断器をさらに有し、
前記制御部は、前記回転電機が異常でないと判定したときは、前記第2遮断器に前記電力変換器と前記保護負荷との間の導通を遮断させる
推進システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の推進システムであって、
前記回転電機は、発電機である
推進システム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1つに記載の推進システムであって、
前記回転電機は、モータである
推進システム。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1つに記載の推進システムであって、
前記機械的ヒューズは、管形状である
推進システム。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1つに記載の推進システムであって、
前記センサは、前記回転電機の温度を測定する測温センサ、または前記回転電機を流れる電流を検出する電流センサである
推進システム。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1つに記載の推進システムであって、
前記原動機は、ジェットエンジンである
推進システム。
【請求項12】
原動機と、前記原動機に接続される回転子を有する永久磁石界磁型の回転電機と、前記原動機と前記回転電機との間に接続された機械的ヒューズと、を有する回転電機の保護装置であって、
前記回転電機に接続された電力変換器と、
前記電力変換器により生成された電力を消費する保護負荷と、
前記回転電機の状態を監視するセンサの出力に基づいて前記回転電機の異常の有無を判定し、前記回転電機が異常と判定したときは前記機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを発生させる制御指令を前記電力変換器へ入力する制御部と
を具備する回転電機の保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進システムに関し、さらに詳しくは、エンジン、タービンといった原動機に直結される回転電機の保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶、航空機といったモビリティ用途において、パワーアシストと発電を担うハイブリッド推進や軸発電といったエンジン、タービン等の動力の原動機に回転電機が直結されるシステムの検討が進んでいる。このようなシステムにおいて層間短絡(レアショート)や軸受異常が発生し原動機から回転力が加わり続けた場合、特に永久磁石型回転電機は界磁電圧を落とすことができないことから、局所的な高熱による火災や異常振動による原動機損傷が回転電機に発生することがある。船舶や航空機は乗員がすぐに火災発生場所から退避できないことから、事故の兆候を認めたタイミングで回転電機を切り離し、原動機運転を継続することで退避行動をとれるシステムを構築することが望ましい。
【0003】
一般的にはエンジン軸と発電機軸を不具合発生時に機械的に切り離す機構を備える必要があり、その機構としてシアピンやクラッチ機構が例として挙げられる。例えば特許文献1には、ガスタービンを原動機とする発電機であって、過負荷から原動機を保護するために減速機と発電機との間にシアピンを設ける構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-37057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら層間短絡や軸受異常といったケースでは、異常発生時の過渡トルクは小さいことからシアピンは作動しない。一方、クラッチ機構は大容量化するほど大形かつ高価となり、前述したモビリティ用途のシステム適用の支障となる。従来より重量、コストの増加を抑えたシステム構造で、事故が波及していない任意のタイミングにおいて故障した回転電機を原動機から切り離し、かつ原動機の運転を継続する新しい手法が求められている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、回転電機の異常を検知した場合に原動機の運転を継続しながら故障の兆候のある回転電機を任意のタイミングで機械的に分離することができる推進システム、および回転電機の保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る推進システムは、原動機と、回転電機と、機械的ヒューズと、センサと、保護装置とを具備する。
前記回転電機は、前記原動機に接続される回転子を有する永久磁石界磁型の回転電機である。
前記機械的ヒューズは、前記原動機と前記回転電機との間に接続される。
前記センサは、前記回転電機の状態を監視する。
前記保護装置は、前記センサの出力に基づいて、前記機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを前記機械的ヒューズに付与することが可能に構成される。
【0008】
上記推進システムによれば、回転電機の異常が検知されたとき、機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを当該機械的ヒューズに付与するようにしているため、原動機の運転を継続しながら故障の兆候のある回転電機を任意のタイミングで機械的に分離することができる。
【0009】
前記保護装置は、電力変換器と、保護負荷と、制御部とを有してもよい。
前記電力変換器は、前記回転電機に接続される。
前記保護負荷は、前記電力変換器により生成された電力を消費する。
前記制御部は、前記センサの出力に基づいて前記回転電機の異常の有無を判定し、前記回転電機が異常と判定したときは前記ねじり振動トルクを発生させる制御指令を前記電力変換器へ入力する。
【0010】
前記制御指令は、周期的に目標トルク値が変化するトルク指令値を含んでもよい。
【0011】
前記制御部は、前記機械的ヒューズのねじり共振周波数と同等の周波数をもつねじり振動トルクを発生させるトルク指令値を生成してもよい。
【0012】
前記保護装置は、前記電力変換器と、前記電力変換器により生成された電力を受けて動作する電力負荷との間の導通を遮断可能な第1遮断器をさらに有し、前記制御部は、前記回転電機が異常と判定したときは、前記第1遮断器に前記電力変換器と前記電力負荷との間の導通を遮断させてもよい。
【0013】
前記保護装置は、前記電力変換器と前記保護負荷との間の導通を遮断可能な第2遮断器をさらに有し、前記制御部は、前記回転電機が異常でないと判定したときは、前記第2遮断器に前記電力変換器と前記保護負荷との間の導通を遮断させてもよい。
【0014】
前記回転電機は、発電機であってもよいし、モータであってもよい。
【0015】
前記機械的ヒューズは、管形状であってもよい。
【0016】
前記センサは、前記回転電機の温度を測定する測温センサ、または前記回転電機を流れる電流を検出する電流センサであってもよい。
【0017】
前記原動機は、ジェットエンジンであってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る保護装置は、原動機と、前記原動機に接続される回転子を有する永久磁石界磁型の回転電機と、前記原動機と前記回転電機との間に接続された機械的ヒューズと、を有する回転電機の保護装置であって、電力変換器と、保護負荷と、制御部とを具備する。
前記電力変換器は、前記回転電機に接続される。
前記保護負荷は、前記電力変換器により生成された電力を消費する。
前記制御部は、前記回転電機の状態を監視するセンサの出力に基づいて前記回転電機の異常の有無を判定し、前記回転電機が異常と判定したときは前記機械的ヒューズを破断させるねじり振動トルクを発生させる制御指令を前記電力変換器へ入力する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転電機の異常を検知した場合に原動機の運転を継続しながら故障の兆候のある回転電機を任意のタイミングで機械的に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る推進システムの概略構成図である。
図2】発電機の構成を示す模式図である。
図3】定常運転制御時における推進システムの制御ブロック図である。
図4】同一スロット内に巻回された発電機の電磁コイルにレアショートが発生した場合の状態を示す模式図である。
図5】永久磁石発電機(PMSG)の等価回路図である。
図6】保護制御時における推進システムの制御ブロック図である。
図7】電力振動の一例を示す波形図である。
図8】原動機と発電機との位相関係を説明する図である。
図9】振動トルクの周波数と応答倍率との関係を示す図である。
図10】機械的ヒューズに作用する応答トルクと発電機トルクとの関係を示す図である。
図11】本発明の他の実施形態に係る推進システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る推進システム100の概略構成図である。本実施形態の推進システム100は、例えば航空機に搭載される推進システムに適用され、原動機10と、発電機20と、保護装置40とを備える。
【0023】
[推進システムの概要]
推進システム100を搭載した航空機としては、例えば、原動機10を推進装置として備えた航空機のほか、発電機20による電力でファンやプロペラなどの補助推進系を駆動する電動化航空機などが挙げられる。この推進システムは、原動機10で推進用プロペラを回転させて巡航する推進力を得つつ、余剰のエネルギーで発電機20を運転することで電力負荷を発生させる。
【0024】
原動機10は、例えば、圧縮機、燃焼器、タービン等を有するジェットエンジンである。原動機10は、ギア11等を介してプロペラ、ファンといった推進器12を駆動する一方、発電機20を駆動する。原動機10は、全自動デジタルエンジンコントロール(FADEC:Full Authority Digital Engine Control)などの原動機制御機15により制御される。原動機制御器15は、巡航時に推進器12を一定回転に保つようにすることで速度をキープするように原動機10への燃料供給制御等を実行する。
【0025】
発電機20は、原動機10の回転軸(シャフト)10aの回転力を電気エネルギーに変換する永久磁石界磁型の回転電機(PMSG:Permanent Magnet Synchronous Generator)である。図2は、発電機20の構成を示す模式図である。発電機20は、永久磁石21S,21Nを有する回転子21と、多相の電磁コイルが巻きつけられた固定子22とを備える。
【0026】
多相の電磁コイルとしては、位相が異なる二以上の交流が流れる電磁コイルであれば特に限定されず、ここではU相、V相およびW相の3相の電磁コイルが用いられる。発電機20から生まれる電力は、CVCF(Constant Voltage Constant Frequency)等を介して電力負荷50に供給される。なお後述するように、発電機20は、原動機10の動力をサポートするため力行運転を行うモータであってもよい(図11参照)。
【0027】
発電機20の回転軸20a(ロータ21)は、原動機10の回転軸10aと機械的ヒューズ30を介して接続される。機械的ヒューズ30は、原動機10の回転駆動力を発電機20へ伝達する。機械的ヒューズ30にはシアピン(シャーピンあるいはシェアピンともいう)が用いられる。機械的ヒューズ30は、後述するように保護装置40において電気的に生成される所定のねじり振動トルクによって破断させることが可能なように、円筒形状などの管形状に形成され、あるいは、一部に括れを設けて部分的に細くした形状に形成される。
【0028】
発電機20には、発電機20の状態を監視する監視センサ31が取り付けられている。監視センサ31としては、発電機20の温度を測定する測温センサや、発電機20による発電電流を検出する電流センサなどが用いられる。本実施形態において監視センサ31は、例えば図2に示すように、ステータ22に等角度間隔で取り付けられた3つの測温センサ31a,31b,31cを含む。
【0029】
発電機20と保護装置40(電力変換器41)との間には、電磁コイルに流れる電流の大きさを検出する電流センサ32が取り付けられている。この電流センサ32は、発電機20において生成される電流が目標とする電流値となるように発電機電流を制御部43へフィードバックするためのセンサである。なお、測温センサ31a~31cに代えて又はこれに加えて、電流センサ32が監視センサ31として用いられてもよい。
【0030】
保護装置40は、発電機20に異常がない定常運転時は、発電機20において発電される電力を制御する発電制御装置として機能し、発電機20に異常が検出されたときは発電機20を原動機10から切り離して発電機20を保護する機能を有する。より具体的に、保護装置40は、発電機20の異常の有無を監視し、発電機20が正常なときは発電機20で生成された電力を電力負荷に供給し、発電機20の異常が検出されたときは機械的ヒューズ30を破断して発電機20を原動機10から切り離すための電力振動を発生させる。以下、保護装置40の詳細について説明する。
【0031】
[保護装置]
保護装置40は、電力変換器41と、保護負荷42と、制御部43と、第1遮断器51と、第2遮断器52とを有する。
【0032】
電力変換器41は、発電機20に接続されており、発電機20によって生成された交流電力を電力負荷50で消費される所定の直流電力に変換するコンバータである。電力負荷50は、電力変換器41により生成された電力を受けて動作する電力回路あるいは電力機器である。電力負荷としては、例えば機内に設置されたファンやポンプなどの電気機器、さらには空調機器やバッテリ、補助推進系などが挙げられる。
【0033】
第1遮断器51は、電力変換器41と電力負荷50との間の導通を遮断可能な開閉器である。第1遮断器51は、制御部43により開閉制御され、後述するように発電機20に異常が検出されたときに電力変換器41と電力負荷50との間の導通を遮断する。
【0034】
保護負荷42は、電力変換器41により生成された電力を消費することで、機械的ヒューズ30を破断して発電機20を原動機10から切り離すための電力振動を発生させることが可能な素子であり、本実施形態では抵抗素子で構成される。保護負荷42を構成する抵抗素子は、単一の抵抗素子であってもよいし、直列または並列に接続された抵抗素子群などであってもよい。
【0035】
第2遮断器52は、電力変換器41と保護負荷42との間の導通を遮断可能な開閉器である。第2遮断器52は、制御部43により開閉制御され、後述するように発電機20が異常でないと判定したときは、電力変換器41と保護負荷42との間の導通を遮断する。
【0036】
制御部43は、図1に示すように、信号生成回路431を有する。信号生成回路431は、電力変換器41により生成される電力を制御するための制御信号を生成する。
【0037】
(定常運転制御)
図3は、発電機20に異常が生じていない定常運転制御時における信号生成回路431の詳細を示す推進システム100の一構成例を示す制御ブロック図である。図3に示すように、信号生成回路431は、電流指令値生成器44と、電流制御器45と、電力制御器46とを有する。
【0038】
電流指令値生成器44は、発電機20のトルク目標値τ*と、電力制御器46から出力される電力制御信号に基づき、q軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を生成する。
【0039】
トルク目標値τ*は、機内に搭載されたファンやポンプなどの電力負荷50の状態に応じて時々刻々と変化していく。発電機20側は速度制御ができないので、電力負荷50により消費される電力と発電機20が発生する電力をバランスさせ、機器への電圧変動を抑制するよう負荷側で計測された電力ならびに発電機速度から算出される新たなトルク目標値を電力制御器46により再設定する。必要に応じて、d軸電流、q軸電流、直流電圧や速度情報をフィードバックして電流指令値の精度を向上することもある。
【0040】
電流制御器45は、q軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に基づき、電圧操作量Vuvw*を生成し、これを制御指令として電力変換器41へ供給する。電力変換器41は、入力された電圧操作量Vuvw*に基づいて発電機20を制御し、生成された直流電圧Vdcを電力負荷42へ供給する。
【0041】
電力制御器46は、原動機10の回転数を検出する速度検出器33の出力と電力負荷50における電力計測値とに基づいて、電流指令値生成器44へフィードバックする電力制御信号を生成する。なお原動機10の回転数は、エンジン速度指令ωc*と速度検出器33により検出される実際のエンジン速度値ωcとに基づき、原動機制御器15により制御される。
【0042】
(保護制御)
制御部43は、監視センサ31の出力に基づいて発電機20の異常を判定する判定部432をさらに有する。制御部43は、判定部432において発電機20が異常であると判定したときは、ねじり振動トルクを発生させる制御指令として、周期的に目標トルク値が変化するトルク指令値を電力変換器41へ入力することで、機械的ヒューズ30を破断させるねじり振動トルクを機械的ヒューズ30に付与する保護制御を実行する。
【0043】
一例として図4に、同一スロット内(同一のティース部)に巻回された発電機20の電磁コイルCにレアショートが発生した場合の状態を示す。固定子22は、複数のティースで区画された複数のスロット部を有しており、ここでは1つのスロット部に格納された同相(例えばU相)の電磁コイルがターンの異なる層間でショートすることで同図において太実線で示す短絡回路が形成された様子を示している。界磁コイルによる磁束とは、ティース部に生じる磁束に相当する。この状態で永久磁石界磁型のような界磁磁束が常に発生している回転子が回り続けた場合、回転子磁極が発生する磁束をキャンセルしようとして短絡したセクションで短絡電流が流れ続けることになる。このとき局所的な発熱が生じることから、この状態を放置した場合は火災等が発生する危険性が高くなる。
【0044】
一方で、船舶および航空機に適用されている場合は最低限の動力を使って港湾、空港などの安全な場所に移動する必要がある。そのためには機械的ヒューズ30を切断することで原動機10と発電機20を切り離し、発電機20を停止して火災を予防しつつ、原動機10の動力で退避行動をとる必要がある。
【0045】
レアショート発生の兆候をつかむには、発電機20の固定子22に均等な配置で埋め込まれた測温素子の温度の不均一性の傾向管理により、異常を検知する方法がある。例えば図2に示すように測温素子31aの近くで故障が発生した場合、本来、測温素子31aの検知温度T1と、測温素子31bの検知温度T2と、測温素子31cの検知温度T3の温度が均一であるところが、例えば、T1>T2>T3といったように検知温度に勾配が発生すると予想され、経験値から得られる閾値を用いて異常を検知する。
【0046】
同様に、軸受異常が発生して回転電機側を止めたい場合も、直結側、反直結側の温度を傾向管理により異常を検知することができる。本実施形態では、このような異常を検知したタイミングにおいて判定部432が発電機20の異常を検知し、原動機10と発電機20の切り離しを指示する。
【0047】
既存の方法では機械的ヒューズ30を切断するために過渡的に大きなトルクを発生させる必要があった。意図的に過渡的な過大トルクを発生させるには、電力変換器41を構成するインバータの容量を大きくとる必要があるが、装置が大型化してしまうという難点があった。
【0048】
一方、本実施形態においては、異常検知された任意のタイミングにおいて、まず第1遮断器51を開放して電力負荷50から発電機20を切り離す。この後、第2遮断器52を投入し、負荷を電力負荷50から保護負荷42へと切り替える。制御部43は、保護負荷42において消費する電力を制御することにより、振動トルクを発生させる。レアショート発生の状態においては発電機の機能は完全に喪失してはいないことから、負荷の制御は可能である。
【0049】
一般に、永久磁石発電機(PMSG)においては、定格時の電力P、トルクτはそれぞれ次式(1)、(2)で表される。
【数1】
【数2】
ただし、Va:各相電圧、E0:誘起電圧、xs:同期リアクタンス、δ:負荷角、ω:電源周波数、p:極対数である。
【0050】
電力変換器41が印加する電圧振幅をVa=Va{1-k+ksin(ωst)}とすると、電力Ps、トルクτsは次式で表される。
【数3】
ただし、k:定数、ωs:振動周波数、δs:任意の負荷角である。
【0051】
式(3)のsinωsの項に着目すると、定格トルクに対し、周波数ωsで(ksinδs/sinδ)倍の振幅で加振することができることがわかる。それぞれのパラメータを電力変換装置にて任意に調整することで、期待する振幅でトルク振動をさせることが可能となる。
【0052】
(トルク振動の発生原理)
定常運転時(図3参照)において、(2)式の回転数に依存するωは、プロペラ(推進器12)の回転数に依存する原動機速度に変化がないため一定であり、この条件においては誘起電圧E0も一定である。このため、(1)式で表現される電力負荷は、各相電圧と負荷角の積(Va sinδ)が変化することで調整されている。制御上は後述のように、(2)式で表される発電機トルクτを、d軸電流idおよびq軸電流iqを制御することで発生させる。このことは各相電圧と負荷角を調整することと等価となっている。
【0053】
図5は、永久磁石発電機(PMSG)の等価回路図であり、Aはd軸電流回路を、Bはq軸電流回路をそれぞれ示している。発電機トルクは、永久磁石の磁束をψa、トルクに寄与するd軸およびq軸電流をそれぞれiod、ioq(一般には鉄損分の電流が小さいことから、iod≒d軸電流id、ioq≒q軸電流iq)、d軸およびq軸インダクタンスをそれぞれLd、Lqを用いると、トルクτは以下のように表される。
【数4】
【0054】
このとき、トルク指令値τpre*に対し、電流指令値iod*、ioq*は、Kを定数として以下のように設定する。
【数5】
【数6】
【0055】
図6は、発電機20に異常が検出された保護制御時における信号生成回路431の詳細を示す推進システム100の制御ブロック図である。図5に示すように保護装置40が保護制御を実行するときは、第1遮断器51および第2遮断器52の切り替えにより電力負荷50に代わって保護負荷42が電力変換器41へ接続される。
【0056】
保護制御開始前は、電力負荷50の状況に応じてトルク指令値を制御していたが、保護制御が実行されると、トルクを振動させて弱点部(機械的ヒューズ30)のねじり周波数ωtsと共振させることになるので、制御側で任意のトルクを指定することになる。つまり、発電機20が発生した電力は保護負荷42により消費されるが、電力品質の保証が必要な機器につながっている必要がないため、トルク目標値への速度フィードバックをなくして任意の負荷を発生させてもよい。
【0057】
トルクは時間tにより変化させることで振動トルクを発生させればよいので、例えば以下のような式となる。
【数7】
ただし、kは定数(0<k<1)、tは時間、τaveは振動トルクの平均値であり、振動振幅に相当する。
【0058】
このとき、電流指令値iod*、ioq*は、Kを定数として以下のように設定される。
【数8】
【数9】
【0059】
なお、原動機10は現状の運転を維持するように燃料がコントロールされているため、回転速度は変化しない(ωe=一定)。もし速度が変わったとしても、トルク変動の周波数が重要であるため、大きな影響はない。上述のとおり、電力負荷50の場合(定常運転時)と異なり、保護負荷42においては指定された任意の電力を消費すればよいだけなので、保護負荷42の消費電力のフィードバックは不要である。
【0060】
(電力振動)
保護装置40は、上述のようにしてトルクを振動させることで、機械的ヒューズ30に電力振動(ねじり振動トルク)を付与する。図7にその電力振動の波形例を示す。
【0061】
振動トルクの共振において、発電機20のGD2(はずみ車効果)は負荷に対して通常は小さいため、図8に示すように発電機20の位相だけがプロペラ12、原動機10、シャフト(機械的ヒューズ30)とは異なるモードのねじり共振が発生した場合、共振トルクが最大となる。
【0062】
図9に振動トルクの周波数と応答倍率を示す。振動トルクの周波数を徐々に上げていくと、周波数が小さいときは応答倍率はほぼ1であるものが、振動周波数を共振周波数f0に限りなく合わせることで共振によってトルクを増大させることができることがわかる。なお、周波数の調整によっては数十倍に増幅する。
【0063】
この現象を利用することで、保護制御の実行時の振動トルクの周波数は共振周波数f0に合わせることが好ましい。これによって図10に示すように機械的ヒューズ30に作用する応答トルクは発電機20のトルクに対して大幅に増幅される。振動トルクの大きさは定格の10倍程度まで増幅できるので、これを利用し機械的ヒューズ30を切るために電源容量を増やすことなく大きなトルクを繰り返し発生させて切断をする。保護負荷42を構成する抵抗についても、振動トルクを発生させる短時間の容量をもてばよいことから、装置の大型化が防げ、特にモビリティ用途に効果を発揮することが見込める。
【0064】
以上のように本実施形態によれば、発電機20の異常を検知した場合に、機械的ヒューズ30にねじり振動トルクを付与することで、原動機10の運転を継続しながら故障の兆候のある発電機20を任意のタイミングで機械的に分離することができる。
【0065】
また本実施形態によれば、周期的に目標トルク値が変化するトルク指令値をねじり振動トルクを発生させる制御指令を電力変換器41へ入力するため、過渡的に大きなトルクを発生させることなく機械的ヒューズ30を切断するのに十分な振動トルクを発生させることができる。
【0066】
さらに、定常運転制御の際に使用される電力変換器41によって上記振動トルクを発生させることができるため、電力変換器41を構成するインバータの容量を大きくとる必要がなくなり、したがって装置の大型化を防ぐことができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0068】
例えば以上の実施形態では、事故の発生要因としてはレアショートを例に挙げたが、巻線の地絡、独立した2巻線間が発生した場合にも、事故の度合いによって同様の制御で上述の作用効果を得ることができる。
【0069】
また、以上の実施形態では、機械的ヒューズ30の破断に必要な振動トルクの生成に保護負荷42が用いられたが、これに限られず、電力負荷50を利用して振動トルクを発生させてもよい。この場合、保護負荷42、第1遮断器51および第2遮断器52の設置が省略可能である。
【0070】
また以上の実施形態では、発電機20で発電された交流電力を電力変換器41で直流電力に変換して電力負荷50へ供給するようにしたが、これに限られず、電力変換器41と電力負荷50との間にAC(Alternating Current)コンバータを設けることで、電力負荷としてAC負荷を接続するようにしてもよい。
【0071】
さらに以上の実施形態では、回転電機が永久磁石同期型の発電機20である場合を例に挙げて説明したが、これに限られず、回転電機としてACモータが採用されてもよい。その一例として図11に、パラレルハイブリッド型の推進システム200を示す。この推進システム200は、原動機10に接続される回転子を有するモータ60と、モータ60を駆動する電力源であるバッテリ61とを備え、バッテリ61に接続されたモータ60が原動機10の軸動力の一部をアシストすることが可能に構成される。
【0072】
図11において電力変換器41は、制御部43の指示に基づき、バッテリ61の直流電力を交流電力に変換してモータ60へ出力する。制御部43は、モータ60の異常を検知したとき、第2遮断器52を閉じて電力変換器51と保護負荷42とを接続し、機械的ヒューズ30を破断させるねじり振動トルクを発生させることにより、原動機10からモータ60を切り離す。これにより、上述の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
10…原動機
20…発電機(回転電機)
30…機械的ヒューズ
31…監視センサ
40…保護装置
41…電力変換器
42…保護負荷
43…制御部
50…電力負荷
51…第1遮断器
52…第2遮断器
60…モータ(回転電機)
100,200…推進システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11