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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022205
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】光源装置および光測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/10 20060101AFI20250206BHJP
   G01J 3/18 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01J3/10
G01J3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126577
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】赤井 伸伍
(72)【発明者】
【氏名】横山 拓馬
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020BA02
2G020CB23
2G020CB36
2G020CB54
2G020CC06
2G020CC32
2G020CC65
2G020CD04
2G020CD12
2G020CD13
2G020CD24
2G020CD34
(57)【要約】
【課題】光測定装置におけるAWGの分光特性のばらつきに起因する測定精度の低下を抑制する。
【解決手段】パルス光源210は、広帯域パルス光L1aを生成する。AWG260Aは、広帯域パルス光L1aを波長に応じて空間的に分割し、複数の分割ビームを出射する。複数のファイバ230_1~230_nは、複数の分割ビームに異なる遅延を与える。カプラ250は、複数のファイバ230_1~230_nから出力される複数のビームを空間的に合波する。AWG260Aは、複数の入射導波路262_1~262_3を含み、複数の入射導波路262_1~262_3のひとつに広帯域パルス光L1aを選択的に入射可能に構成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長掃引光を発生する光源装置であって、
パルス光を生成するパルス光源と、
前記パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割ビームを出射するアレイ導波路回折格子と、
前記複数の分割ビームに異なる遅延を与える複数のファイバと、
前記複数のファイバから出力される複数のビームを空間的に合波するカプラと、
を備え、
前記アレイ導波路回折格子は、
複数の入射導波路と、
複数の出射導波路と、
を含み、前記複数の入射導波路のひとつに前記パルス光を選択的に入射可能に構成されることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記複数の出射導波路から出射される分割ビームの中心波長の波長間隔はXであり、
前記アレイ導波路回折格子は、前記パルス光が入射する入射導波路をひとつずらすと、各出射導波路から出射される分割ビームの波長はY+Xシフトするように構成されることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記複数の出射導波路の本数は、前記複数のファイバの本数より多く、
前記パルス光が入射する入射導波路に応じて、前記複数のファイバを接続すべき前記複数の出射導波路を変更可能であることを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記入射導波路の本数は3本以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光源装置。
【請求項5】
前記パルス光の波長は900~1300nmを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光源装置。
【請求項6】
前記アレイ導波路回折格子の材料は、SiOであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光源装置。
【請求項7】
前記カプラは、アレイ導波路回折格子であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光源装置。
【請求項8】
波長掃引光を発生する請求項1から3のいずれかに記載の光源装置と、
前記波長掃引光を対象物に照射して得られる物体光を測定する受光装置と、
を備えることを特徴とする光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源装置および光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の成分の分析や検査に分光解析が広く用いられる。分光解析では、照射光を対象物に照射し、照射の結果得られる物体光のスペクトルが測定される。そして、物体光のスペクトルと照射光のスペクトルの関係にもとづいて、反射特性(波長依存性)あるいは透過特性などの光学的特性を得ることができる。
【0003】
光学特性の測定手法のひとつとして、波長掃引型の分光法が知られている。波長掃引型の分光器は、波長が経時的に変化する波長掃引光を生成し、検査対象に照射する。波長掃引光は、時間と波長が1対1の関係にあるパルスあるいはパルス列である。そして波長掃引光を検査対象に照射して得られる光の時間波形を受光器によって検出する。受光器の出力波形は、時間軸が波長に対応するスペクトルを表す。
【0004】
特許文献1には、波長掃引型の分光法の分光測定装置用の光源装置が開示される。図1は、従来の光源装置200Rを説明する図である。この光源装置200Rは、パルス光源210、分割器220、複数n個(n≧2)のファイバ230_1~230_n、カプラ240を備える。分割器220は、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)222を含み、パルス光源210からのパルス光を、波長に応じて複数n個に分割する。複数n個のファイバ230_1~230_nは、分割器220により分割されたn個の光に、異なる遅延を与える。カプラ240は、複数n本のファイバ230_1~230_nから出射する光を、同一の照射領域に照射されるように空間的に重ね合わる。特許文献1において、分割器220はAWG222を含んで構成される。また、カプラ240の構成例のひとつとして、分割器220と同様に、AWG242を含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-159973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、図1の光源装置200Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0007】
AWGを用いた分光測定装置を用いて対象物の定量測定を行う場合は、予め、スペクトルから成分値を算出するために多変量解析等を用いて検量線が作成される。そして、作成した検量線モデルに沿って、対象物の定量測定を行う。
【0008】
AWGの成膜プロセスでは、同一ウェハ内において、あるいは異なるウェハ間において、屈折率や膜厚を完全に均一とすることは難しい。そのため、AWGの個体ごとに分光特性にばらつきが発生する。
【0009】
したがって、検量線モデルを作成する際に用いたAWGと、実際に試料を測定する分光測定装置に組み込まれるAWGの分光特性が異なると、同じ対象物であっても測定結果が異なるという不具合(精度低下)が生じる。
【0010】
なお、この問題を当業者の一般的な認識として捉えてはならず、本発明者らが独自に認識したものである。
【0011】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、AWGの分光特性のばらつきに起因する測定精度の低下を抑制可能な光測定装置および光源装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のある態様に係る光源装置は、波長掃引光を発生する。光源装置は、パルス光を生成するパルス光源と、パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割ビームを出射するアレイ導波路回折格子と、複数の分割ビームに異なる遅延を与える複数のファイバと、複数のファイバから出力される複数のビームを空間的に合波するカプラと、を備える。アレイ導波路回折格子は、複数の入射導波路と、複数の出射導波路と、を含み、複数の入射導波路のひとつにパルス光を選択的に入射可能に構成される。
【0013】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、AWGの分光特性のばらつきに起因する測定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の光源装置を説明する図である。
図2】実施形態に係る光測定装置の基本構成を示すブロック図である。
図3】波長掃引光L1を示す図である。
図4図2の光測定装置による分光を説明する図である。
図5】実施形態1に係る光源装置を示す図である。
図6】実施形態1に係るAWGの分光特性を説明する図である。
図7】入射スラブ導波路に対する入射位置を、10nmをずらしたときの、各チャンネルCh1~Ch64の中心波長λ~λ64のシフト量の測定結果を示す図である。
図8】入射導波路の選択を説明する図である。
図9】基準AWGを用いた測定結果を示す図である。
図10】3つの代替AWGを用いたときの測定結果を示す図である。
図11】実施形態2に係る光源装置を示す図である。
図12】実施形態2に係るAWGの分光特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
一実施形態に係る光源装置は、波長掃引光を発生する。光源装置は、パルス光を生成するパルス光源と、パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割ビームを出射するアレイ導波路回折格子(AWG)と、複数の分割ビームに異なる遅延を与える複数のファイバと、複数のファイバから出力される複数のビームを空間的に合波するカプラと、を備える。アレイ導波路回折格子は、複数の入射導波路と、複数の出射導波路と、を含み、複数の入射導波路のひとつにパルス光を選択的に入射可能に構成される。
【0018】
AWGの製造プロセスのばらつきにより、分光特性、具体的には各分割ビームの中心波長が設計値からシフトする。この光源装置では、この中心波長のシフト量に応じて、パルス光を入射する入射導波路を変更することにより、各分割ビームの中心波長のシフトをキャンセルすることができる。かかる光源装置を用いた光測定装置では、AWGの分光特性のばらつきの影響が抑制されるため、測定精度を改善することができる。
【0019】
一実施形態において、複数の出射導波路から出射される分割ビームの中心波長の波長間隔(設計値)はXであってもよい。AWGは、パルス光が入射する入射導波路をひとつずらすと、各出射導波路から出射される分割ビームの波長はY+Xシフトするように構成されてもよい。
【0020】
一実施形態において、複数の出射導波路の本数は、複数のファイバの本数より多く、パルス光が入射する入射導波路に応じて、複数のファイバを接続すべき複数の出射導波路を変更可能であってもよい。これにより、パルス光を入射する入射導波路の選択にかかわらず、同じ波長を有する分割ビームを、同じファイバから出力することができる。
【0021】
一実施形態において、入射導波路の本数は3本以上であってもよい。
【0022】
一実施形態において、パルス光の波長は900~1300nmを含んでもよい。
【0023】
一実施形態において、アレイ導波路回折格子の材料は、SiOであってもよい。
【0024】
一実施形態において、カプラは、アレイ導波路回折格子であってもよい。
【0025】
一実施形態に係る光測定装置は、波長掃引光を発生する上述のいずれかに記載の光源装置と、波長掃引光を対象物に照射して得られる物体光を測定する受光装置と、を備えてもよい。
【0026】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0028】
図2は、実施形態に係る光測定装置100の基本構成を示すブロック図である。光測定装置100は、対象物OBJのスペクトルを測定する波長掃引型の分光器であり、主として光源装置200、受光装置300、演算処理装置400を備える。いくつかの図において、光源装置200や受光装置300などを簡略化して箱で示す場合があるが、これは、それぞれを構成する部材が、単一の筐体に収容されることを意図したものではない。
【0029】
光源装置200は、対象物OBJに対して、波長が経時的に変化する波長掃引光L1を照射する。波長掃引光L1は、時間と波長が一対一の関係で対応付けられる。これを波長掃引光L1は「波長の一意性を有する」という。
【0030】
図3は、波長掃引光L1を示す図である。図3の上段は、波長掃引光L1の強度(時間波形)IWS(t)を、下段は波長掃引光L1の波長λの時間変化を示す。この例において、波長掃引光L1は1個のパルス光であり、その前縁部において主波長がλ、後縁部において主波長がλであり、1パルス内で波長がλからλの間で経時的に変化する。この例では、波長掃引光L1は、時間とともに振動数が増加する、言い換えると時間とともに波長が短くなる正のチャープパルス(λ>λ)である。なお、波長掃引光L1は、時間とともに波長が長くなる負のチャープパルスであってもよい(λ<λ)。後述するように、波長掃引光L1は、パルス列であってもよい。
【0031】
図2に戻る。受光装置300は、波長掃引光L1を物体OBJに照射した結果得られる光(物体光)L2を受光する。物体光L2は、反射光であってもよいし、透過光であってもよい。受光装置300は、フォトダイオードなどの光センサ302,304と、A/Dコンバータ310、光学系(不図示)などを含む。物体光L2は、光センサ302によって検出される。光源装置200が生成する波長掃引光L1の一部分は、ビームスプリッタなどの光学素子を利用して別経路に参照光L3として取り出され、光センサ304によって検出される。
【0032】
A/Dコンバータ310は、光センサ302,304それぞれの出力信号S2,S3をデジタル信号D2,D3に変換する。デジタル信号D2が示す物体光L2の時間波形IOBJ(t)およびデジタル信号D3が示す参照光L3の時間波形IREF(t)は、演算処理装置400に取り込まれる。
【0033】
波長掃引型の分光法では、波長掃引光L1における時刻と波長は1対1の対応関係を有する。この対応関係は、当然ながら参照光L3も有しており、また物体光L2にも引き継がれる。この時間と波長の対応関係を利用して、演算処理装置400は、物体光L2の時間波形IOBJ(t)を、周波数ドメインのスペクトルIOBJ(λ)に変換する。また演算処理装置400は、参照光L3の時間波形IREF(t)を、スペクトルに変換し、適切にスケーリングすることで、参照スペクトルIREF(λ)を計算する。
【0034】
演算処理装置400の処理は特に限定されないが、一例として演算処理装置400は、参照スペクトルIREF(λ)と物体光L2のスペクトルIOBJ(λ)にもとづいて、対象物OBJの透過率T(λ)を計算することができる。反射率R(λ)についても同様である。
T(λ)=IOBJ(λ)/IREF(λ)
R(λ)=IOBJ(λ)/IREF(λ)
【0035】
なお、波長掃引光L1の安定性が高い場合には、予め波長掃引光L1のスペクトルを測定しておき、参照スペクトルIREF(λ)として用いてもよい。
【0036】
図4は、図2の光測定装置100による分光を説明する図である。上述のように、波長掃引光L1は、時間tと波長λが1対1で対応しているから、その時間波形IREF(t)は、周波数ドメインのスペクトルIREF(λ)に変換することができる。
【0037】
物体光L2の時間波形IOBJ(t)も、時間tと波長λが1対1で対応したものとなる。したがって演算処理装置400は、受光装置300の出力が示す物体光L2の波形IOBJ(t)を、物体光L2のスペクトルIOBJ(λ)に変換することができる。
【0038】
演算処理装置400は、2つのスペクトルIOBJ(λ)とIREF(λ)の比IOBJ(λ)/IREF(λ)にもとづいて、対象物OBJの透過スペクトルT(λ)を計算することができる。
【0039】
波長掃引光L1における時間tの波長λの関係が、λ=f(t)なる関数で表されるとする。最も簡易には、波長λは、時間tに対して、一次関数にしたがってリニアに変化する。物体光L2の時間波形IOBJ(t)が、ある時刻tにおいて低下するとき、透過スペクトルT(λ)は、波長λ=f(t)に吸収スペクトルを有することを意味する。
【0040】
なお、演算処理装置400における処理はこれに限定されない。時間の2つの時間波形IOBJ(t)とIREF(t)の比T(t)=IOBJ(t)/IREF(t)を演算した後に、この時間波形T(t)の変数tをλに変換することで、透過スペクトルT(λ)を算出してもよい。
【0041】
以上が光測定装置100の基本構成および動作である。続いて、光源装置200の構成を説明する。
【0042】
(実施形態1)
図5は、実施形態1に係る光源装置200Aを示す図である。光源装置200Aは、パルス光源210、分割器220、複数n本(n≧2)のファイバ230_1~230_n(ファイバアレイ232と総称する)、カプラ250を備える。
【0043】
パルス光源210は、広帯域な連続スペクトルを有する広帯域パルス光L1aを出射する。広帯域パルス光L1aのスペクトルは、たとえば900nm~1300nmの範囲において、少なくとも10nm、好ましくは50nm、より好ましくは100nmの波長域にわたって連続している。広帯域パルス光L1aの波長域の幅は、分光に必要な波長域をカバーしていればよい。
【0044】
たとえばパルス光源210は、超短パルスレーザと、非線形素子を含みうる。超短パルスレーザとしては、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等が例示される。
【0045】
非線形素子は、非線形現象によって、超短パルスレーザが生成する超短パルスのスペクトル幅をさらに広げる。非線形素子としてはファイバが好適であり、たとえば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバを用いることができる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が好適であるが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、使用することができる。
【0046】
パルス光源210として、SLD(Superluminescent Diode)光源のような他の広帯域パルス光源を使用してもよい。
【0047】
非線形素子から出力される広帯域パルス光L1aは、フェムト秒~ナノ秒オーダーのパルス幅を有する。分割器220、ファイバアレイ232およびカプラ250は、広帯域パルス光L1aを受け、波長掃引光L1に変換する。
【0048】
分割器220は、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)260およびレンズ224を含む。レンズ224は、パルス光源210が出射する広帯域パルス光L1aを、AWG260の入射端に集光する。
【0049】
AWG260は、広帯域パルス光L1aを、波長に応じて、空間的に複数n個の光(分割ビームと称する)L1b~L1bに分割して出力する。分割数(チャンネル数)nは、ファイバ230の本数と等しい。チャンネル数nは、たとえば4,8,16,32,64,128などでありうる。i番目(1≦i≦n)の光の分割ビームの波長λと表記する。なお、分割ビームL1b~L1bはそれぞれ、単一スペクトルではなく、ある波長幅を有しているから、λは、単一波長ではなく、L1bが有する波長帯域を便宜的に表すものとして使用し、波長帯域の中心波長を表すものとして使用する。AWG260は、隣接するチャンネルの分割ビームの波長間隔X=λi+1-λ(i=1,2,3…)が実質的に等しくなるように構成される。AWG260Aの導波路の材料は、SiOを用いてもよい。
【0050】
AWG260から出力される分割ビームL1b~L1bは、ファイバアレイ232を構成する対応するファイバ230_1~230_nに導かれる。具体的には、i番目の分割ビームL1bは、対応するファイバ230_iの入射端に結合している。
【0051】
分割前の広帯域パルス光L1aが、時間とともに周波数が上昇する(波長が短くなる)正のチャープパルス(アップチャープパルス)であるとする。つまりパルスの前縁部に最長波長λの成分が含まれ、パルスの後縁部に最短波長λの成分が含まれている。
【0052】
複数のファイバ230_1~230_nは、異なる長さl~lを有している。λが最長波長、λが最短波長であるとすると、波長掃引光L1を、広帯域パルス光L1aと同じ正のチャープパルスとするためには、1<l<…<lの関係を満たしていればよい。一例として、n=20の場合、ファイバ230の長さl~lは、1m~20mまで、1m刻みで増加してもよい。
【0053】
ファイバ230_1~230_nは、波長毎に異なる群遅延特性を有する必要はなく、同一のファイバ(同一のコア/クラッド材料のファイバ)を使用することができる。この意味で、ファイバ230は、マルチモードファイバを使用することが可能であり、この場合、意図しない非線形光学効果を防止することができる点において有利である。
【0054】
カプラ250は、ファイバアレイ232によって異なる遅延が付与された複数の分割ビームL1c~L1cを空間的に重ね合わせて出射する。本開示においてカプラ250の構成は特に限定されず、公知の、あるいは将来利用可能なものを利用することができる。
【0055】
本実施形態において、AWG260Aは、複数m本(m≧2)の入射導波路262_1~262_m、入射スラブ導波路264、アレイ導波路266、出射スラブ導波路268、複数n本の出射導波路270_1~270_nを備える。本実施形態においてm=3である。アレイ導波路266は、n本の導波路を含んでいる。
【0056】
複数の入射導波路262_1~262_mの出射端は、入射スラブ導波路264の異なる位置と結合している。AWG260Aは、複数の入射導波路262_1~262_mのうち、いずれか1つに広帯域パルス光L1aを選択的に入射可能に構成されている。それ以外の点については、図1のAWG222と同様である。入射導波路262の選択は、たとえばレンズ224の焦点の位置をずらすことによって実現してもよい。あるいは、レンズ224とAWG260Aの間に経路切替用のファイバを設け、このファイバの一端に広帯域パルス光L1aを入射し、このファイバの他端を、入射導波路262_1~262_mのいずれかに選択的に結合できるように構成してもよい。
【0057】
図6は、実施形態1に係るAWG260Aの分光特性を説明する図である。ここではチャンネル数nを64としている。φ1は、入射導波路262_1に広帯域パルス光L1aを入射したとき、φ2は、入射導波路262_2に広帯域パルス光L1aを入射したとき、φ3は、入射導波路262_3に広帯域パルス光L1aを入射したときの、分光特性を示す。各状態φ1~φ3において、隣接するチャンネルの中心波長λの間隔Xは実質的に一定である。入射導波路262を切り替えると、各チャンネルChiの中心波長λは、実質的に等しくYだけシフトする。このYが、本実施形態における調節幅となる。
【0058】
図7は、入射スラブ導波路264に対する入射位置を、10nmをずらしたときの、各チャンネルCh1~Ch64の中心波長λ~λ64のシフト量の測定結果を示す図である。この場合、中心波長λ~λ64は一律にY=6.9nmシフトすることが分かる。
【0059】
図8は、入射導波路262の選択を説明する図である。図8には、あるひとつのチャンネルChiについて、状態φ1~φ3における分割ビームの波長が示される。上段は、AWG260Aの分光特性の設計値を、下段は実際のAWG260Aの分光特性を示す。たとえばAWG260Aは、入射導波路262_2に広帯域パルス光L1aを入射したときの中心波長が設計値λi(REF)となるように設計される。
【0060】
AWG260Aの製造ばらつきによって、実際のAWG260Aの波長λはその設計値λi(REF)からシフトする。この例では短波長側にΔλ、シフトしている。Δλ≒Yであるときには、状態φ3、すなわち入射導波路262_3を選択することにより、このチャンネルChiの出射導波路270_iの中心波長λを設計値λi(REF)に近づけることができ、製造ばらつきの影響を小さくできる。
【0061】
続いて光測定装置100に関して行った実験を説明する。
【0062】
ある分光特性(基準特性という)を有するAWG(基準AWG)を備える光測定装置を用いて、ある測定対象成分を含む試料について、多変量解析を用いて検量線を作成し、定量測定を行った。ここでは、測定対象成分量が3濃度(89%,97%,106%)の試料を、各5個ずつ測定した。チャンネル数は64、分光波長範囲900nm~1300nm、チャンネルの波数間隔は54cm-1である。
【0063】
図9は、基準AWGを用いた測定結果を示す図である。測定対象成分量について、高い精度で濃度を推定できている。
【0064】
続いて、分光特性が基準特性に対して、中心波長が0.19nm、0.69nm、1.01nmずれている3つのAWG(それぞれ、代替AWGとする)に置き換えて、基準AWGについて得られた検量線を用いて、定量測定を行った。中心波長のずれ(中心波長差)は、64チャンネルそれぞれの分割ビームの中心波長の平均値として計算している。
【0065】
図10は、3つの代替AWGを用いたときの測定結果を示す図である。図10から、中心波長差が大きくなるにつれて、基準AWGを用いた推定値との差が大きくなることがわかる。具体的には、中心波長差が0.19nmの代替AWG(No.1)では、誤差は0.5%以下であるが、中心波長差が0.69nmの代替AWG(No.2)では、誤差は最大で2.8%、中心波長差が1.01nmの代替AWG(No.3)では、誤差は最大で3.5%まで大きくなる。したがって従来では、誤差を小さくするためには、AWGごとに、多変量解析を用いて検量線を作成し直す必要があった。
【0066】
これに対して実施形態に係るAWG260Aを備える光源装置200Aを用いると、AWG260Aの中心波長のばらつきを小さくすることができる。これにより、光測定装置100の測定精度を改善できる。
【0067】
(実施形態2)
図10の測定結果から、光測定装置100の測定誤差を0.5%以下に抑えたい場合、AWGの中心波長の誤差を0.19nm以下に抑える必要がある。図7をみると、入射スラブ導波路264に対する光の入射位置を10nmずらすと、波長シフト量Yは6.9nmとなる。入射位置のずらし幅と波長シフト量Yはおおよそ比例するから、中心波長の誤差を0.19nm以下とするためには、入射スラブ導波路264の入射位置を、0.28nmの精度で制御する必要がある。一方で、入射導波路262の導波効率をある程度高くしようとすると、入射導波路262の幅は、6nm必要である。つまり、複数の入射導波路262を、中心距離0.28nmで形成することができない。
【0068】
図11は、実施形態2に係る光源装置200Bを示す図である。AWG260Bにおいて、入射導波路262_1~262_3の間隔は、実施形態1における間隔よりも広くなっており、入射導波路262を切り替えることによる中心波長のシフト量Zは、隣接チャンネルの中心波長の間隔Xよりも広い。具体的には、入射導波路262を切り替えることによる中心波長の調整量をYとするとき、Z=Y+Xの関係が成り立っている。
【0069】
実施形態2では、出射導波路270の本数は、チャンネル数nよりも多くなっている。具体的には、n本の出射導波路270_1~270_nに加えて、さらに2本の出射導波路270_0,270_n+1が設けられる。
【0070】
AWG260Bは、広帯域パルス光L1aが入射する入射導波路262に応じて、複数のファイバ230_1~230_nを接続すべき複数の出射導波路270を変更可能に構成されている。
【0071】
光源装置200Bは、3つの状態で動作可能である。
・第1状態φ1
広帯域パルス光L1aが入射導波路262_1に入射される。ファイバ230_1~230_nは、出射導波路270_0~270_n-1に接続される。
【0072】
・第2状態φ2
広帯域パルス光L1aが入射導波路262_2に入射される。ファイバ230_1~230_nは、出射導波路270_1~270_nに接続される。
【0073】
・第3状態φ3
広帯域パルス光L1aが入射導波路262_3に入射される。ファイバ230_1~230_nは、出射導波路270_2~270_n+1に接続される。
【0074】
図12は、実施形態2に係るAWG260の分光特性を説明する図である。ここではチャンネル数nを64としている。φ1は、入射導波路262_1に広帯域パルス光L1aを入射したとき、φ2は、入射導波路262_2に広帯域パルス光L1aを入射したとき、φ3は、入射導波路262_3に広帯域パルス光L1aを入射したときの、分光特性を示す。各状態φ1~φ3において、隣接するチャンネルの中心波長λの間隔Xは実質的に一定である。入射導波路262を切り替えると、各チャンネルChiの中心波長λは、実質的に等しくZ=Y+Xシフトする。Yが、実施形態1における調節幅に相当する。
【0075】
つまり、入射導波路262をひとつずらすと、中心波長がYシフトしたビームが、ひとつ隣のチャンネルから出力される。このチャンネルのずれに応じて、複数のファイバ230_1~230_nの接続相手の出射導波路270が選択される。
【0076】
実施形態2によれば、Z=Y+Xの関係を満たすように、複数の入射導波路262_1~262_3を設計することにより、入射導波路262のズレ幅を大きくしつつ、Yを小さく設計することができる。
【0077】
実施形態ではm=3の場合を説明したが本開示はそれに限定されず、m=2であってもよいし、m=4あるいはm=5であってもよいし、m≧6であってもよい。
【0078】
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものであり、したがって、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
100 光測定装置
300 受光装置
400 演算処理装置
200 光源装置
210 パルス光源
220 分割器
224 レンズ
230 ファイバ
232 ファイバアレイ
240 カプラ
242 AWG
250 カプラ
260 AWG
262 入射導波路
264 入射スラブ導波路
266 アレイ導波路
268 出射スラブ導波路
270 出射導波路
L1 波長掃引光
L2 物体光
L3 参照光
L1a 広帯域パルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12