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  • 特開-脈波測定方法 図1
  • 特開-脈波測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022211
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】脈波測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
A61B5/02 310V
A61B5/02 310A
A61B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126583
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】723003878
【氏名又は名称】石黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA07
4C017AA09
4C017AB04
4C017AC28
4C017BC11
4C017FF15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現行の脈波伝播速度測定法(PWV)は、心臓から別方向に進んだ、脈波の伝播時間の差から伝播速度を求めるものであるため原理的に正しくない。そこで、この解決のため、心臓の駆出時刻と抹消の脈波の時間差から、大動脈を含むPWVを求める方法と、抹消で測定された脈波を、駆出波と反射波に分け、その時間差から大動脈のPWVを求め方法が提案されているが、いずれも、測定精度に問題が起きやすい。本発明は、大動脈の直線部のみのPWVを、体外から非侵襲で直接測定する方法を提供する。
【解決手段】大動脈の脈波が、大動脈と接続されている小動脈・細動脈を伝播し、この伝播した脈波が、大動脈付近の体表面で、光電脈波センサ100および110により検出できるということに着目して、上記課題を解決したものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の光電脈波センサを使用した大動脈の脈波伝播速度測定方法
【請求項2】
少なくとも1個の光電脈波センサを背部に装着することを特徴とした請求項1の脈波伝播速度測定方法。
【請求項3】
1個目の光電脈波センサを上背部、2個目の光電脈波センサを下背部に装着することを特徴とした請求項1の脈波伝播速度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波測定方法及び生体情報測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、益々の高齢化社会を迎え、動脈硬化性疾患の早期診断、早期治療への対策が急務
とされている。動脈硬化を非観血的に定量診断する手法の1つとして大動脈について2点間の脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)を測定する大動脈脈波伝播速度検査法が知られている。
【0003】
大動脈脈波伝播速度検査法は、脈波伝播速度は硬い物質中で速く、軟かい物質中では遅
いといった性質を利用する。大動脈脈波伝播速度検査法では、先ず、脈波が心臓から見て
同一方向の大動脈の2点間を伝搬するのに要する時間を測定し、次いで測定した時間と2
点間の距離(動脈長)とから脈波伝播速度を算出する。そして、健康な動脈壁は柔らかく弾力性に富み、動脈硬化の血管壁は硬くもろいといった事実から、測定した脈波伝播速度が速いほど動脈硬化が進んでいると診断する。
【0004】
PWVの種類としては、cfPWV(carotid-femoral PWV:頸動脈-股動脈間PWV)やbaPWV( brachial-ankle PWV:上腕-足首間PWV)等がある(血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン参照)。
【0005】
さらに、PWVを用いた動脈硬化度の指標として、CAVI( Cardio-Ankle Vascular Index) (血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン参照)がある。CAVIは、上腕と足首( または膝窩)とにカフを装着して血圧及び脈波を計測すると共に、胸骨に心音マイクを装着して心音を計測する。
【0006】
しかし、これらのPWV測定法やこれを応用した指標は、すべて、大動脈脈波伝播速度検査法といいながら、大動脈のみの脈波伝播速度ではなく、大動脈を含む脈波伝播速度の測定になっており、しかも、2点間の脈波伝播速度ではなく、心臓から別方向に進んだ、脈波の伝播時間の差から伝播速度を求めるものである。
【0007】
そこで、この問題を解決するために、大動脈そのものの脈波伝播速度を求める手段が、大きく分けて、2通り提案されている。第1の手法は、さまざまなセンサを使って心臓の駆出時刻を求め、これと抹消の脈波の時間差から大動脈あるいは、大動脈を含むPWVを求めるもので、第2の手法は、抹消で測定された脈波を、駆出波と反射波に分け、その時間差から大動脈のPWVを求めるというものである。これらを、先行技術文献としてあげる。最初の4件が、第1の手法に係るもので、残りの3件が第2の手法に係るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
<第1の手法に係る先行技術>
特開2005-278965
心電図と心音信号を心機械効率と組合せ、心臓の駆出時刻を求め、これと上腕の脈波との時間差から、大動脈弁―上腕間のPWVを求めるというものである。心臓の動作モデルに心電図と心音情報を入力して、駆出時刻を推定しているところが、本技術の問題点である。また、大動脈弁開放時点からの時間差計測であるため、上行大動脈のアーチの曲線部分を含むので、体外から血管長を高精度に推定することは簡単ではない。
【0009】
特許第6399852号
駆出に伴う大動脈脈波を磁気センサで検出するというものである。前件同様、大動脈弁開放時点からの時間差計測になり、上行大動脈のアーチの曲線部分を含むので、体外から血管長を高精度に推定することは簡単ではない。
【0010】
特許第6541214号
駆出に伴う大動脈脈波を、磁束発生部と血流とによって生じる誘起電圧を脈波検出部で検出するというものである。前件同様、大動脈弁開放時点からの時間差計測になり、上行大動脈のアーチの曲線部分を含むので、体外から血管長を高精度に推定することは簡単ではない。
【0011】
再表2020/071480
駆出に伴う振動である心弾図を圧電振動センサによって検出。前件同様、大動脈弁開放時点からの時間差計測になり、上行大動脈のアーチの曲線部分を含むので、体外から血管長を高精度に推定することは簡単ではない。
【0012】
<第2の手法に係る先行技術>
特許3495348号
圧脈波検出プローブによって検出される頸動脈波の、進行波成分のピークと反射波成分のピークを決定し、その時間差から脈波伝播速度を求めるもの。1つの波形をデコンボリュートして、2つのピークに分け、その時間差を求めるという手法は、波形に個人差が多く、測定精度に問題が生じやすい。
【0013】
特許5681434号
脈波伝播速度検出部は、基準時間検出部で検出した脈波の駆出波成分の基準時間T1と反射波成分の基準時間T2との時間差ΔTに基づいて求めた伝播速度PWV(=2h/ΔT:hは心臓から腹部大動脈分岐部までの距離)を、脈波振幅検出部で検出した駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波の振幅W1と反射波成分の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2とから求めた補正係数(オーギュメンテーション インデックス)AI(=W1/W2)で補正することで脈波の伝播速度PWVを求めるもの。AIで補正はしているため、前例よりも精度は高いとは考えられるが、1つの波形をデコンボリュートして、2つのピークに分け、その時間差を求めるという手法は変わってない。これは、波形に個人差が多く、測定精度に問題が生じやすい。
【0014】
特許5741087号
駆血状態にある測定部位と末梢側との血管径の差を表わす値と、被験者の血管の硬さを表わす値とを用いて、測定部位における血液の反射係数を算出する。そして、それらを用いて伝達関数を算出し、測定部位から得られた圧脈波に作用させることで大動脈内の血圧波形を算出する。これを使って、心臓と腹部大動脈分岐部間のPWVを推定するもの。これも、1つの波形をデコンボリュートして、2つのピークに分け、その時間差を求めるという手法は変わってない。これは、波形に個人差が多く、測定精度に問題が生じやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまで述べてきた通り、第1の手法に係る先行技術は、すべて、体中心部側が、大動脈弁開放からの測定であるため、曲線部の大動脈弓(アーチ)を含むことになり、体表面からの血管長推定が困難になり、PWVの測定精度が落ちてしまうという問題点がある。
また、第2の手法に係る先行技術は、1つの波形をデコンボリュートして、2つのピークに分け、その時間差を求めるという手法を取っているため、測定精度に問題が起きやすい。特に、脈波形には、個人差が多く、解析精度に問題が生じやすい。
【0016】
本発明は、波形を2つのピークにデコンボリューションするといった間接的手法を取らずに、大動脈の直線部のみのPWVを、体外から非侵襲で直接測定する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、大動脈の脈波が、大動脈と接続されている小動脈・細動脈を伝播し、この伝播した脈波が、大動脈付近の体表面で、光電脈波センサにより検出できるということに着目して、上記課題を解決したものである。
【0018】
従来、光電脈波センサは、指尖や橈骨など、抹消部位での脈波や血中酸素濃度の評価に用いられてきたが、本発明では、この光電脈波センサを大動脈の脈波伝播速度測定に活用するものである。なお、光電脈波センサには、近赤外光を使う透過型のものと、緑色光を使う反射型のものがあるが、どのような波長域の光電センサでも脈波を検出できるものであれば、本発明に使用可能である。
【0019】
脈波の伝播は、血流速度とは無関係で、大動脈弁開放で心臓から駆出された血流が大動脈壁に衝突することで、発生した振動が、血管壁や血液を媒質として伝わる波動であり、抹消へ行くほど、伝播速度は速くなると言われている。
【0020】
本発明は、この光電脈波センサを、上背部と、下背部あるいは腰部の体表面2箇所に設置し、両センサで検出された脈波の時間差を求めることで、大動脈本体の脈波伝播速度を正確に推定するものである。以下、図1と表1を使って、詳細に説明する。
【0021】
【表1】
【0022】
上背部細動脈用光電脈波センサ100と下背部細動脈用光電脈波センサ110の2つの光電脈波センサを、大動脈アーチ部10と腹部大動脈分岐部(非記載)の間の、上背部と下背部(あるいは腰部)の体表面に設置する。この2箇所の体表面は、大動脈と、それぞれ、上背部細動脈30と下背部細動脈40により接続されているため。それぞれの体表面で、脈波を検出することができる。
【0023】
両センサを光電脈波制御装置120に、接続ケーブル140を介して接続する。光電脈波制御装置120は、脈波表示解析装置130に接続され、上背部細動脈波60と下背部細動脈波70を表示、脈波表示解析装置130は、この時間差を解析して、大動脈の脈波伝播速度を計算する。
【0024】
上背部細動脈用光電脈波センサ100と下背部細動脈用光電脈波センサ110の2つの光電脈波センサの時間差Tmは、測定したい大動脈直線部20の伝播時間Taと、上背部細動脈30の体表面までの伝播速度T1と下背部細動脈40の体表面までの伝播速度T2から以下の式で求まる。
Tm = (Ta + T2) - T1…(1)
【0025】
式を変形して、測定したい大動脈直線部20の脈波伝播時間Taは
Ta = Tm ‐(T2 ‐T1)…(2)
となる。
【0026】
従って、測定したい大動脈直線部20の脈波伝播速度Vaは、
Va = Da / Ta = Da / (Tm ‐(T2 ‐T1)) = Da / (Tm ‐(D2/V2 ‐D1/V1))…(3)
となる。
【0027】
MRIによる断層画像解析によると、大動脈の直線部分では、上背部細動脈長D1と下背部細動脈長D2は、体型に依存せず、D2≒D1とみなすことができることが判明している。従って、
Va = Da / (Tm ‐(D1(1/V2 ‐1/V1)))…(4)
また、大動脈から体表面までの背部細動脈の伝播速度は、上背部も下背部もほぼ同じであると推定され、V2≒V1となり、
Va = Da / Tm…(5)
【0028】
さらに、MRIによる体側部画像解析によると、大動脈の直線部分では、大動脈は背骨に沿って配置されているため、大動脈直線部距離Daは、対応する、センサ間体表面距離Dmと。ほぼ同じ値になっている。従って、Da≒Dmとなり、
Va = Dm / Tm…(6)
とみなすことができる。
【0029】
以上のことから、大動脈直線部の脈波伝播速度Vaは、センサ間体表面距離Dmとセンサ間時間差Tmから
Va = Dm / Tm…(7)
により求めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、これまで、正確な測定を非侵襲に行うことが困難であった、大動脈の脈波伝播速度を簡易に行うことができ、ヒトでは、血管壁の石灰化が最初に起こるとされる、腹部大動脈を中心とした、大動脈の動脈硬化の早期診断を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態を示す図である。
図2】本発明の測定結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0033】
ここで、本発明の実施例1について説明する。実施例1では、ローム社製光電脈波センサ評価ボードBH1792GLC-EVK-001を2個用意し、これらを、同じく、ローム社製のSensor Shield-EVK-003に接続した。Sensor Shield-EVK-003にマイコンArduino Unoを搭載し、これをUSBケーブルでPCに接続して、1kHzのサンプリング周波数で、2個の光電脈波センサの波形データを、同期で、PCに取り込み、自作のPWV解析ソフトAYA-PMultiを使用して、脈波伝播速度等の解析を行った。
【0034】
ローム社製光電脈波センサ評価ボード2個を、被験者(51才男性)の上背部と下背部に、それぞれ、サージカルテープで取り付けた。取り付けた場所は、両センサ共、背骨から2cm右側とした。被験者を、大動脈が背骨に沿うように、仰向けに寝かせた。この時の、センサ間の体表面距離は、20cmであった。
【0035】
図2に、AYA-PMultiで解析した、大動脈直線部分の脈波伝播速度PWVの測定結果を示す。時間差の測定のためのピークの位置決定には、波形の微分等は行わず、波形の立ち上り5%の点を使用した。また、時間差の平均値が22.8msec、(7)式によって、PWV値、8.77m/secを得た。
【実施例0036】
実施例1と同様に、年齢21歳女性の被験者に対し、ローム社製光電脈波センサ評価ボード(センサ)2個を、上背部と下背部に、それぞれ、サージカルテープで取り付けた。センサ間体表面距離は19cmであった。実施例1同様に、AYA-PMultiでPWV解析を行った結果、時間差の平均値が45msecとなり、4.22m/secのPWV値を得た。
【実施例0037】
実施例1、2で使用した、ローム社製光電脈波センサ評価ボード(センサ)2個をと同様に、年齢22歳男性の被験者に対し、上背部と足背に、それぞれ、サージカルテープで取り付けた。センサ間体表面距離は135cmであった。実施例1、2同様に、AYA-PMultiでPWV解析を行った結果、時間差の平均値が156msecとなり、8.65m/secのPWV値を得た。このように、本特許技術は、大動脈部だけでなく、抹消部の動脈を含むPWV測定に使用することもできる。
【実施例0038】
実施例1、2、3で使用した、ローム社製光電脈波センサ評価ボード(センサ)2個をと同様に、年齢55歳女性の被験者に対し、膝裏と足背に、それぞれ、サージカルテープで取り付けた。センサ間体表面距離は38cmであった。実施例1、2同様に、AYA-PMultiでPWV解析を行った結果、時間差の平均値が30msecとなり、12.7m/secのPWV値を得た。このように、本特許技術は、大動脈部を含まない抹消部の動脈硬化の指標である、PWV測定に活用することもできる。
【0039】
<他の実施例> なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
(1)前記実施例では、光電脈波センサとして、ローム社製光電脈波センサ評価ボードBH1792GLC-EVK-001は、緑色LEDを搭載したセンサであるが、血中酸素濃度測定に使われる、赤色や近赤外のLEDを搭載した光電脈波センサを使用してもよい。
(2)また、前記実施例では、脈波の測定部位として、上背、下背、膝裏、及び足背を使用したが、他の部位でも、細動脈経由で、光電脈波センサにより、脈波が検出されることが判明しており、全身の体表面を、脈波伝播速度PWVの計測部位とすることができる。例えば、上腕と橈骨の体表面に脈波センサを装着することにより、上腕部局所のPWVを計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、波形を2つのピークにデコンボリューションするといった間接的手法を取らずに、大動脈の直線部のみの脈波伝播速度PWVを、体外から非侵襲で直接しかも簡易に測定することができ、ヒトでは、血管壁の石灰化が最初に起こるとされる、腹部大動脈を中心とした、大動脈の動脈硬化の早期診断を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
10:大動脈アーチ部
20:大動脈直線部
30:上背部細動脈
40:下背部細動脈
60:上背部細動脈波
70:下背部細動脈波
100:上背部細動脈用光電脈波センサ
110:下背部細動脈用光電脈波センサ
120:光電脈波制御装置
130:脈波表示解析装置
140:接続ケーブル

図1
図2