(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022213
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】鉄道車両用パネル
(51)【国際特許分類】
B61D 49/00 20060101AFI20250206BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20250206BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20250206BHJP
B61D 17/04 20060101ALI20250206BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B61D49/00 A
G10K11/168
G10K11/16 120
B61D17/04
B32B15/08 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126587
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 穰二
(72)【発明者】
【氏名】田口 真
(72)【発明者】
【氏名】鬼武 康夫
(72)【発明者】
【氏名】早川 諭
【テーマコード(参考)】
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
4F100AB09A
4F100AB09C
4F100AB31A
4F100AB31C
4F100AK03B
4F100AK12B
4F100AK25B
4F100AT00
4F100BA03
4F100BA06
4F100CA01B
4F100CA01H
4F100DJ01B
4F100GB31
4F100JL03
5D061AA07
5D061AA16
5D061AA26
5D061BB24
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】軽量且つ高い遮音性能の鉄道車両用パネルを提供する。
【解決手段】鉄道車両用パネル100は、芯材1と、前記芯材1を挟み込む第1板21及び第2板22とを備え、前記芯材1は、発泡樹脂によって形成され、前記第1板21及び前記第2板22の少なくとも一方は、マグネシウム合金によって形成され、前記発泡樹脂の剪断弾性率は、20MPa以上110MPa以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、
前記芯材を挟み込む第1板及び第2板とを備え、
前記芯材は、発泡樹脂によって形成され、
前記第1板及び前記第2板の少なくとも一方は、マグネシウム合金によって形成され、
前記発泡樹脂の剪断弾性率は、20MPa以上110MPa以下である鉄道車両用パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用パネルにおいて、
前記芯材は、PET樹脂発泡体、ポリスチレン系発泡体、硬質アクリル系発泡体又はポリオレフィン系発泡体によって形成されている鉄道車両用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、鉄道車両用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、騒音の低減が可能な鉄道車両の床板が開示されている。この床板は、芯材層と、芯材層の両面に配置された第1板材及び第2板材と、芯材層と第1板材及び第2板材とを接着する弾性材層とを含む。弾性材層は、ヤング率が1MPa以上10MPa以下であり、且つ、厚さが0.1mm以上1.0mm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両用パネルには、車両の速度向上等を図るために軽量化が求められている。また、鉄道車両用パネルにおいて、車両外で発生した騒音の遮音性能が低い場合、乗客に不快感を与える。そのため、鉄道車両用パネルには、高い遮音性能も求められている。しかし、鉄道車両用パネルを単純に軽量化すると遮音性能が低下し得る。
【0005】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽量且つ高い遮音性能の鉄道車両用パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された鉄道車両用パネルは、芯材と、前記芯材を挟み込む第1板及び第2板とを備え、前記芯材は、発泡樹脂によって形成され、前記第1板及び前記第2板の少なくとも一方は、マグネシウム合金によって形成され、前記発泡樹脂の剪断弾性率は、20MPa以上110MPa以下である。
【発明の効果】
【0007】
前記鉄道車両用パネルは、軽量且つ高い遮音性能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、鉄道車両用パネルの概略縦断面図である。
【
図2】
図2は、音響周波数と音響透過損失との関係を示した概念図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る音響透過損失の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、鉄道車両用パネル100の概略縦断面図である。
【0010】
鉄道車両用パネル100(以下、単に「パネル100」と称する。)は、いわゆるサンドイッチパネルである。パネル100は、鉄道車両の内装材料として使用される。パネル100は、鉄道車両の例えば天井、上床板及び内妻仕切り等において使用される。パネル100は、芯材1と、芯材1を挟み込む第1板21及び第2板22とを備えている。パネル100は、接着剤3をさらに備えていてもよい。
【0011】
芯材1は、パネル100の遮音性能を向上させる。芯材1は、発泡樹脂によって形成されている。発泡樹脂の材質は後述する剪断弾性率を満たすのであれば限定されないが、芯材1は、PET樹脂発泡体、ポリスチレン系発泡体、硬質アクリル系発泡体又はポリオレフィン系発泡体によって形成されていることが好ましい。
【0012】
芯材1の発泡樹脂の剪断弾性率が20MPa未満であると、パネル100の曲げ剛性及び圧縮耐力が不十分となる。一方、発泡樹脂の剪断弾性率が110MPaを超えると、パネル100の遮音性能が不十分となる。そのため、発泡樹脂の剪断弾性率は、20MPa以上110MPa以下である。これにより、パネル100の曲げ剛性及び圧縮耐力を確保できるとともに、所望の遮音性能を実現できる。発泡樹脂の剪断弾性率は、曲げ剛性及び圧縮耐力の観点から、好ましくは25MPa以上、より好ましくは30MPa以上、さらにより好ましくは35MPa以上である。発泡樹脂の剪断弾性率は、遮音性能の観点から、好ましくは100MPa以下、より好ましくは75MPa以下、さらにより好ましくは60MPa以下、さらにより好ましくは40MPa以下である。発泡樹脂の剪断弾性率は、ASTMC273に準拠して、発泡樹脂から長さ150mm及び幅20mmの試験片を切り出して測定することができる。試験片の厚みは、シート状の発泡樹脂から切り出す場合はシートの厚みそのものとすればよい。試験片の厚みは、例えば12mmから20mmの範囲内である。
【0013】
芯材1の発泡樹脂の発泡倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは10倍以上である。これにより、パネル100の軽量性をさらに向上させることができる。発泡倍率とは、発泡後の未硬化の発泡樹脂の体積を発泡前の未硬化の発泡樹脂の体積で除した値である。発泡樹脂の発泡倍率は、好ましくは30倍以下、より好ましくは20倍以下である。これにより、パネル100の強度を向上させることができる。
【0014】
芯材1の発泡樹脂の密度は、好ましくは200kg/m3以下、より好ましい100kg/m3以下、さらにより好ましくは80kg/m3以下である。これにより、パネル100の軽量性をさらに向上させることができる。発泡樹脂の密度は、好ましくは30kg/m3以上、より好ましくは50kg/m3以上、さらにより好ましくは60kg/m3以上、さらにより好ましくは70kg/m3以上である。これにより、パネル100の強度を向上させることができる。発泡樹脂の密度は、JIS K 7222に準拠して、発泡樹脂から幅50mm、長さ50mm及び厚み20mmの試験片を切り出して測定することができる。
【0015】
芯材1の厚さt1は、好ましくは3mm以上、より好ましくは8mm以上である。これにより、芯材1の加工性を向上させることができる。厚さt1は、好ましくは40mm以下、より好ましくは25mm以下である。これにより、パネル100の軽量性をさらに向上させることができる。
【0016】
第1板21及び第2板22の少なくとも一方は、マグネシウム合金によって形成されている。第1板21及び第2板22の何れか一方がマグネシウム合金の場合、第1板21及び第2板22の他方はマグネシウム合金以外の他の軽量金属によって形成されていてもよい。例えば、第1板21及び第2板22の他方は、アルミニウムによって形成されていてもよい。
【0017】
第1板及び第2板のそれぞれの厚さt2は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。これにより、パネル100の強度を向上させることができる。厚さt2は、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。これにより、パネル100の軽量性をさらに向上させることができる。
【0018】
マグネシウム合金の密度は、好ましくは1.9g/cm3以下である。これにより、パネル100の軽量性をさらに向上させることができる。マグネシウム合金の密度は、好ましくは1.7g/cm3以上である。これにより、パネル100の強度を向上させることができる。
【0019】
接着剤3は、第1板21及び第2板22のそれぞれと芯材1とを接着する。接着剤3は、第1板21及び第2板22のそれぞれと芯材1とを接着できるのであれば限定されない。接着剤3は、例えば弾性接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などである。
【0020】
パネル100の製造方法の一例について説明する。例えば、まず芯材1の両面のそれぞれに接着剤3を塗布した後に、第1板21と芯材1と第2板22とを積層する。その後、例えば、ホットプレス装置やオートクレーブ装置などを用いて、積層体を加熱及び加圧同時成形することにより、パネル100が製造される。
【0021】
このようなパネル100では、第1板21及び第2板22の少なくとも一方がマグネシウム合金によって形成されているため、パネル100の軽量化を実現できる。さらに、芯材1の発泡樹脂の剪断弾性率が20MPa以上110MPa以下であるため、パネル100の高い遮音性能を実現できる。このように、パネル100では、軽量且つ高い遮音性能を実現できる。
【0022】
詳しくは、発明者は、パネル100の軽量化のためには、パネル100の中で重量の割合の大きい第1板21及び第2板22の使用量を削減すればよいと考えた。しかし、第1板21及び第2板22のそれぞれの厚みを単純に低減するだけでは、パネル100の強度が低下し得る。そこで発明者が鋭意検討したところ、第1板21及び第2板22として比較的密度の小さいマグネシウム合金を従来(例えば、アルミニウム)と同じ厚みで使用すれば、パネル100の強度を維持しつつ、軽量化が可能となることを発明者は見出した。しかし、パネル100の重量が削減されたため、遮音性能が低下し得る。そこでさらに発明者が鋭意検討したところ、芯材1の発泡樹脂の剪断弾性率を20MPa以上110MPa以下とすることにより、遮音性能の低下を補償できることを発明者は見出した。具体的には、発明者は、芯材1の発泡樹脂の材質に関わらず、発泡樹脂の剪断弾性率を低減させるほど遮音性能を高めることができることを見出した。
【0023】
芯材1の発泡樹脂の剪断弾性率を低減させるほど遮音性能を高めることができるメカニズムは、必ずしも明確ではない。しかし、発明者は、このメカニズムを現時点では以下のように考えている。
図2は、このメカニズムを説明するための説明図である。詳しくは、
図2は、発泡樹脂の剪断弾性率の違いが音響透過損失(TL:Transmission Loss)に与える影響を示した概念図である。音響透過損失は、遮音性能を表すパラメータである。音響透過損失は、入射音に対する透過音のエネルギーの低減量を表す。音響透過損失が大きいほど、遮音性能の優れた材料と言える。
【0024】
図2において、符号C1で示したグラフ(以下、単に「C1」と称する。)及び符号C2で示したグラフ(以下、単に「C2」と称する。)は、発泡樹脂における音響周波数と音響透過損失との関係を示している。C2の発泡樹脂の剪断弾性率は、C1の発泡樹脂の剪断弾性率よりも低い。C1及びC2のそれぞれの発泡樹脂において、剪断弾性率以外の条件(例えば、質量等)は同じである。C1及びC2のそれぞれは、変曲点となる2つの周波数ω
1及びω
2を有する。ここで、ω
2は、下記式(1)によって表される。
ω
2=G
c×t
c/(m×B
3)
1/2 ・・・(1)
ただし、G
c:剪断弾性率[Pa]、t
c:芯材の厚み[m]、m:パネル全体の面密度[kg/m
2]、B
3:パネル全体の曲げ剛性(ω
2以上の範囲)[Nm]
【0025】
上記式(1)から分かるように、剪断弾性率G
cが低くなるとω
2が低くなる。すなわち、
図2に示すように、剪断弾性率が低いC2のω
2は剪断弾性率が高いC1のω
2よりも低くなり、C2はC1よりも全体的に低周波数側へシフトする。これにより、
図2において両矢印で示したように、C2においてC1よりも音響透過損失が向上する周波数領域が発生する。音響透過損失の向上量は、C1が全体的に低周波数側へシフトするほど、即ち剪断弾性率が低くなるほど大きくなると考えられる。すなわち、芯材1の発泡樹脂の剪断弾性率を低減させるほど遮音性能を高めることができる。
【実施例0026】
芯材の剪断弾性率と音響透過損失との関係について調査した。比較例1及び実施例1から実施例5に用いた芯材を表1に示した。表1には、商品名、又は開発品の仮称が記載されている。芯材の剪断弾性率は、前述した通り、ASTMC273に準拠して測定した。芯材の密度は、前述した通り、JIS K 7222に準拠して測定した。測定結果は、表1にし示した。比較例1の芯材は、いわゆるバルサ材である。実施例1、実施例2、実施例4及び実施例5の芯材は、それぞれ硬質アクリル系発泡体の一例、ポリオレフィン系発泡体の一例、PET樹脂発泡体の一例及びポリスチレン系発泡体の一例である。実施例3の芯材は開発品であり、詳しくは不織布付きポリプロピレン発泡体である。
【0027】
【0028】
続いて、実施例1から実施例4のそれぞれについて音響透過損失を測定した。実施例1から実施例4のそれぞれについて、第1板及び第2板にはマグネシウム合金を使用した。第1板の厚さは、1.0mmとした。第2板の厚さは、0.5mmとした。実施例1から実施例4のそれぞれについて、芯材の厚さは、20mmとした。音響透過損失の測定は、JIS A 1416(「実験室における音響透過損失の測定方法」)に準拠した遮音性能試験を行った。測定において、音源は第2板側に設置し、測定器は第1板側に設置した。測定結果を
図3に示した。尚、鉄道車両内において対象となり得る周波数帯は、400Hzから1600Hz程度である。そのため、この周波数帯における音響透過損失を向上させることが好ましい。鉄道車両において、音響透過損失の合格基準は、例えば、400Hzで20dB以上、800Hzで20dB以上である。
【0029】
調査結果について考察する。表1に示すように、実施例1から実施例4の密度は、同程度(面密度で約7kg/m
2)である。実施例1から実施例4は、この順に剪断弾性率が低くなる。実施例1から実施例4の密度は同程度であるにも関わらず、
図3に示すように、実施例1から実施例4の順に、即ち剪断弾性率が低くなるに従って音響透過損失が大きくなる傾向があり、遮音性能が向上していることが分かる。実施例1から実施例4の音響透過損失は、何れも「800Hzで20dB以上」の合格基準を満たしていた。特に、実施例2から実施例4は、何れも「400Hzで20dB以上」の合格基準を満たしていた。一方、比較例1は実施例1よりも剪断弾性率が大きいため、音響透過損失は「800Hzで20dB以上」の合格基準を満たさないと推察される。
【0030】
ここに開示された技術をまとめると以下のようになる。
【0031】
[1] 鉄道車両用パネル100は、芯材1と、前記芯材1を挟み込む第1板21及び第2板22とを備え、前記芯材1は、発泡樹脂によって形成され、前記第1板21及び前記第2板22の少なくとも一方は、マグネシウム合金によって形成され、前記発泡樹脂の剪断弾性率は、20MPa以上110MPa以下である。
【0032】
この構成によれば、第1板21及び第2板22の少なくとも一方がマグネシウム合金によって形成されているため、鉄道車両用パネル100を軽量化できる。さらに、発泡樹脂の剪断弾性率を20MPa以上110MPa以下とすることにより、鉄道車両用パネル100の軽量化に伴う遮音性能の低下を補償できる。すなわち、軽量且つ高い遮音性能を有した鉄道車両用パネル100を実現できる。
【0033】
[2] [1]に記載の鉄道車両用パネル100において、前記芯材は、PET樹脂発泡体、ポリスチレン系発泡体、硬質アクリル系発泡体又はポリオレフィン系発泡体によって形成されている。
【0034】
この構成によれば、20MPa以上110MPa以下の剪断弾性率を有する発泡樹脂を実現できる。