(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022229
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】加熱井戸
(51)【国際特許分類】
B09C 1/06 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
B09C1/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126620
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】土田 充
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦将
(72)【発明者】
【氏名】中島 均
(72)【発明者】
【氏名】白石 知成
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼田 晃基
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB02
4D004AB05
4D004AB06
4D004AB07
4D004AC07
4D004CA22
4D004CB32
(57)【要約】
【課題】汚染土壌の原位置浄化方法の加熱効率をより高められる加熱井戸を目的とする。
【解決手段】汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、下方に向けて設置された外管と、前記外管内に収容された内管と、前記外管の内面に接触して又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されたヒーターと、前記ヒーターと前記内管の外面との間に挿入されたスリーブと、を有し、前記スリーブは、前記ヒーターが前記外管の内面に接触する又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されることを補助する部材である、加熱井戸。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、
下方に向けて設置された外管と、
前記外管内に収容された内管と、
前記外管の内面に接触して又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されたヒーターと、
前記ヒーターと前記内管の外面との間に挿入されたスリーブと、を有し、
前記スリーブは、前記ヒーターが前記外管の内面に接触する又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されることを補助する部材である、加熱井戸。
【請求項2】
前記スリーブの一部は、前記内管の外面に密着し、
前記スリーブと前記ヒーターとの間に付勢手段が挿入され、
前記付勢手段は、前記スリーブと前記ヒーターとが離れる力を与えることにより、前記ヒーターが前記外管の内面へ押し付けられている、請求項1に記載の加熱井戸。
【請求項3】
前記スリーブと前記内管の外面との間にスペーサーが挿入され、
前記スリーブと前記ヒーターとの間に付勢手段が挿入され、
前記付勢手段は、前記スリーブと前記ヒーターとが離れる力を与えることにより、前記ヒーターが前記外管の内面へ押し付けられている、請求項2に記載の加熱井戸。
【請求項4】
前記外管と前記内管の間に前記ヒーターが複数設置され、各ヒーター同士が均等に離間している、請求項1に記載の加熱井戸。
【請求項5】
前記付勢手段が板バネである、請求項2または3に記載の加熱井戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)等で汚染された汚染土壌を浄化する方法としては、掘削して除去する方法(掘削除去法)が知られている。掘削除去法は、汚染土壌の浄化において、確実な方法といえる。
しかし、掘削除去法では、汚染土壌を大量に搬出、運搬しなければならず、運搬費や処理費が膨大であった。
【0003】
運搬費や処理費などのコストダウンの観点からは、原位置で汚染物質を除去する原位置浄化法を用いることが考えられる。
原位置浄化法としては、微生物を活性化して汚染物質を分解するバイオレメディエーションや過酸化水素等を用いた化学分解法(フェントン法等)が知られている。
しかし、原位置浄化法を用いた場合においても、現地土質の透水性が低い粘土・シルト質であった場合は、処理薬剤が汚染されている箇所に到達するのが著しく困難であり、浄化に多大な時間を要する。
【0004】
原位置で汚染物質を除去するほかの方法として、原位置熱脱着法が知られている。原位置熱脱着法としては、電気加熱ヒーター式、電気抵抗式、スチーム式、と呼ばれる3つの方式が一般的である。
その中でも、電気加熱ヒーター式による原位置熱脱着法では、現地の土壌を100℃以上に加熱することができるため、土壌間隙水等が蒸発する過程で土壌骨格間隙を拡張し、汚染物質を水蒸気で脱着・連行することができる、このため、汚染物質を土壌から効率よく除去することが可能な方法である。
【0005】
電気加熱ヒーター式による原位置熱脱着法として、例えば、特許文献1が提案されている。特許文献1は、汚染物質を含む処理対象領域に熱を加え、汚染物質の一部を気化させてこれを吸引し、処理対象領域から除去する方法である。特許文献1の発明によれば、原位置の加熱及び蒸気抽出により汚染物質の除去効率を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の加熱用井戸(加熱井戸)は、スリーブ管(外管)の内部にヒーターとして電熱線を配し、外管と電熱線とは、空気によって絶縁されている。
この構成では、高温(例えば、100℃以上)に加熱した電熱線の熱は、放射(輻射)により処理対象領域に伝達される。輻射による熱伝達は、伝導による熱伝達に比べて熱伝達の効率(加熱効率)が劣る。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、汚染土壌の原位置浄化方法の加熱効率をより高められる加熱井戸を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、下方に向けて設置された外管と、前記外管内に収容された内管と、前記外管の内面に接触して又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されたヒーターと、前記ヒーターと前記内管の外面との間に挿入されたスリーブと、を有し、前記スリーブは、前記ヒーターが前記外管の内面に接触する又は前記外管の内面の極めて近傍に配置されることを補助する部材である、加熱井戸。
[2]前記スリーブの一部は、前記内管の外面に密着し、前記スリーブと前記ヒーターとの間に付勢手段が挿入され、前記付勢手段は、前記スリーブと前記ヒーターとが離れる力を与えることにより、前記ヒーターが前記外管の内面へ押し付けられている、[1]に記載の加熱井戸。
[3]前記スリーブと前記内管の外面との間にスペーサーが挿入され、前記スリーブと前記ヒーターとの間に付勢手段が挿入され、前記付勢手段は、前記スリーブと前記ヒーターとが離れる力を与えることにより、前記ヒーターが前記外管の内面へ押し付けられている、[2]に記載の加熱井戸。
[4]前記外管と前記内管の間に前記ヒーターが複数設置され、各ヒーター同士が均等に離間している、[1]に記載の加熱井戸。
[5]前記付勢手段が板バネである、[2]または[3]に記載の加熱井戸。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加熱井戸によれば、汚染土壌の原位置浄化方法の加熱効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の加熱井戸の第一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】第一実施形態の加熱井戸の一例を示す平面図である。
【
図3】第一実施形態の加熱井戸の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の加熱井戸は、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域を加熱して汚染物質を揮発あるいは昇温により汚染物質の粘性を低減させることで流動性を大きくし、吸引処理を容易にさせ(以下、「揮発等」ともいう。)、土壌を浄化する原位置浄化に用いられる。
本発明の加熱井戸は、外管と、内管と、ヒーターと、スリーブと、を有する。外管は浄化対象となる土壌と外管の内部に配置された加熱装置であるヒーターとを離隔するように設けられる。内管は外管内に収容されている。内管は上部及び下部に開口を有する。
以下、本発明の加熱井戸の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
[加熱井戸]
本実施形態の加熱井戸は、
図1に示すように、外管10と、内管12と、ヒーター20と、スリーブ30と、を有する。
外管10及び内管12は、図示例では筒状であり、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。内管12は外管10内に収容されている。ヒーター20は、内管12と外管10の間に位置し、外管10に接触するように配置されている。スリーブ30は、ヒーター20と外管10と、が接触しやすくするために、ヒーター20の周辺に配置され、内管12の外面(径方向外側の面)とヒーター20の間に挿入されている。
【0014】
加熱井戸は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに設置される。加熱井戸は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置される。加熱井戸の上面はコンクリート層40で覆われている。コンクリート層40は、好ましくはエネルギー効率の観点から断熱性の高いエアモルタルで形成される。図示していないが、加熱井戸とは別に、地中の汚染物を吸引する吸引井戸が設けられていてもよい。
【0015】
外管10は、加熱井戸のケーシングである。
外管10は、浄化対象となる土壌と外管10の内部に配置された加熱装置であるヒーター20と離隔する目的で、設けられている。外管10の底部は閉形式であり、底面10aで閉じられている(閉塞されている)。
【0016】
図示していないが、外管10の上部は蓋部材などにより閉じられていてもよい。前記蓋部材が、さらにコンクリート層40で覆われていてもよい。また、前記蓋部材の材質は、外管10と同じであってもよい。
【0017】
外管10の長さは、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに応じて任意に設定することができる。例えば、3~10mであってもよいし、浄化対象深度が20m~30m程度になる場合は、22m~32m程度であってもよく、21m~31m程度であってもよい。外管10の長さが、長すぎると施工が難しくなる、あるいは施工費用が大きくなるため、これらの不都合が生じ難い範囲に設定することが好ましい。
【0018】
外管10の形状は、例えば円筒状でもよいし、多角筒状でもよい。特に、円筒状が好ましい。この形状であると、一つの加熱井戸内に複数のヒーター20を設置する際に、ヒーター20を互いに均等に離間する位置に配置しやすい。この配置であると、均一に加熱することができるため、加熱効率をより一層高めることができる。
外管10としては、例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。
【0019】
内管12は外管10の内部に収容されている。外管10と内管12とは同軸であることが好ましい。内管12の外径は外管10の内径より小さく、外管10と内管12の間に、ヒーター20やスリーブ30を設置できるようになっている。外管10の内径としては、例えば、0.05m~0.2mが挙げられる。
内管12の内部には、温度を計測するための熱電対50や温度センサ等を設置することができる。内径12の内径としては、熱電対50や温度センサ等を設置可能であればよく、例えば、0.05m~0.1mが挙げられる。
【0020】
内管12の材質は、ヒーター20の加熱温度において耐熱性を有するものであればよい。例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。
内管12の長さは外管10の長さより短くてもよいし、略同じであってもよい。略同じであることが好ましい。この構成であると、内管12の外面に密着して設けられるスリーブ30を、
ヒーター20の全体に一定の間隔で複数配置することができる。これにより、スリーブ30がヒーター20を外管10に接触させる役割に加えて、ヒーター20の直線性を確保しやすくする役割をより一層発揮しやすくなる。
内管12の上端及び下端は開口していてもよいし、閉口していてもよい。
【0021】
内管12は、例えば円筒状でもよいし、多角筒状でもよい。円筒状が好ましい。
内管12と、外管10と、がともに円筒状である構成が特に好ましい。この構成であると、一つの加熱井戸内に複数のヒーター20を設置する際に、スリーブ30や、後述する金属棒と半円状の金属で構成された別の形態のスリーブ(固定治具)を、互いに干渉することなく設けることが容易になる。このため、ヒーター20を、スリーブ30あるいは固定治具の配置を気にすることなく、互いに均等に離間する位置に配置しやすくなる。ヒーター20がこの配置であると、均一に加熱することができるため、加熱効率をより一層高めることができる。
【0022】
図示していないが、内管12の下部は、固定部材などにより外管10に固定されていてもよい。このとき、固定部材14の材質は、内管12と同じであってもよい。固定部材14と内管12とが一体であってもよい。
【0023】
ヒーター20は、外管10の長手方向に沿う円筒形であり、ヒーターシース(外側カバー)と、発熱線を備える。また、ヒーター20は絶縁性を有する絶縁性ヒーターである。加えて、電熱式であることが好ましい。すなわち、ヒーター20は電熱式絶縁性ヒーターであることが好ましい。発熱線とヒーターシースの隙間は、絶縁性かつ熱伝導性を有する物質が充填されている。
絶縁性かつ熱伝導性を有する物質としては、酸化マグネシウムが好ましい。安価で、絶縁性能かつ熱伝導性が高いことが理由である。
【0024】
ヒーター20は、内管12と外管10の間に位置し、外管10に接触するように配置されている。
この配置であると、熱伝達の効率(加熱効率)が優れた熱伝導によって、ヒーター20により発生した熱を外管10に伝達することができる。このため、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに、加熱効率良く、熱伝達することができる。
【0025】
ヒーター20は、厳密には外管10と接触していない構成であっても、外管10に極めて近い位置にヒーター20が配置された構成であり、熱伝導によって熱伝達することができる構成であってもよい。
【0026】
ヒーター20の熱源である電熱線の材質は特に限定されない。例えば、ニクロム、タングステン、黒鉛、白金等の金属、セラミック、炭素繊維等が挙げられる。ほかには、例えば、炭化ケイ素等の非金属化合物であってもよい。
【0027】
ヒーター20の長さは、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに応じて任意に設定することができる。また、例えば、浄化対象深度が20m~30m程度になる場合等、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに応じて一つの加熱井戸内に複数のヒーター20を設置することができる。
【0028】
ヒーター20は、加熱時においても、外管10の長手方向に沿った状態(直線性)が保たれるように、設置することが好ましい。特に、一つの加熱井戸内に複数のヒーター20を設置する場合において、その各ヒーター20の長手方向が互いに略平行な状態で設置することが好ましい。この配置であると、ヒーター20同士が接触するような位置関係になる恐れが小さく、局所的な高温などの温度管理に不具合が生じにくい。すなわち、ヒーター20による加熱効果をより均一にすることができ、加熱効率を高めることができる。
【0029】
複数のヒーター20を一つの加熱井戸内に設置する場合、ヒーター20は互いに均等に離間した配置で設けられ、前記ヒーターによる加熱時においても、前記複数のヒーターは互いに均等に離間した位置関係が保たれる配置が好ましい。つまり、外管10の長手方向に直交する断面方向において、各ヒーター20の中心同士の距離が均等な配置が好ましい。この配置であると、局所的な高温などの温度管理の不具合を生じることなく、均一に加熱することができるため、加熱効率をより一層高めることができる。
【0030】
図示しないが、ヒーター20は、地表に設置された電源と電気的に接続することができる。
電源としては、特に限定されず、例えば、加熱用電源装置等が挙げられる。
この場合、電源が、例えば電熱式の絶縁性ヒーター20と電気的に接続されていることで、電熱式の絶縁性ヒーター20の電熱線に電圧を印加でき、電熱線を加温できる。
電源は、自身で電力を供給できるものであってもよく、配線等を介して外部の電源設備等から電力を供給されるものであってもよい。
【0031】
スリーブ30は、ヒーター20の周辺に配置され、ヒーター20と内管12の外面との間に挿入されている。
図2に例示する実施形態において、外管10の長手方向を輪切りにした断面視で、スリーブ30は紙面奥行方向へ向けて肉厚で短尺な円筒(厚肉円環)である。スリーブ30の内側面は内管12の外面(外側面)に密着している。スリーブ30の外側面には、前記断面視で半円状の凹部30aがヒーター20の輪郭に沿って設けられている。凹部30aに円筒状のヒーター20の一部が入り込み、ヒーター20の側面の一部が、凹部30aによって囲まれている。スリーブ30は厚肉円環であるので、外管10と内管12の隙間の大半を埋めている。外管10の前記断面視で、中心から外側へ、内管12、スリーブ30(凹部30a)、付勢手段の一例である板バネ32、ヒーター20、外管10の順に配置されている。板バネ32は内管12の中心とヒーター20の中心を結ぶ直線上に、凹部30aとヒーター20の隙間に挿入され、配置されている。
スリーブ30は、板バネ32を介して、ヒーター20を外管10へ向けて付勢する(スリーブ30とヒーター20とが離れる力を与える)ことができる。これにより、ヒーター20が外管10の内面(内側面)に接触しやすい構成とすることができ、ヒーター20が外管10の内面に接触する又は外管10の内面の極めて近傍に配置されることを補助できる。
ヒーター20と外管10が接触する又は極めて近傍に配置された構成であると、放射(輻射)よりも、熱伝達の効率(加熱効率)が優れた熱伝導によって、ヒーター20により発生した熱を外管10に伝達することができる。このため、より加熱効率良く、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに、熱伝達することができる。
【0032】
スリーブ30が、板バネ32を介して、ヒーター20を外管10へ向けて付勢する(スリーブ30とヒーター20とが離れる力を与える)力は、板バネ32の反発力等を変えることで調整することができる。ヒーター20は、加熱過程で延長方向に伸長するため、この伸長を妨げない程度に、かつ外管10と接触するように、反発力等を調整した板バネ32を用いることが特に好ましい。
【0033】
図1に示すように、複数のスリーブ30が外管10の長手方向に沿って一定の間隔で設置されている。
スリーブ30の数は特に限定されない。例えば、ヒーター20の長さに応じて、スリーブ30の数を任意に設定できる。
【0034】
スリーブ30は、ヒーター20を外管10に接触させる役割に加えて、ヒーター20の直線性を確保しやすくする役割もある。例えば、
図1に示すように、一定の間隔で複数のスリーブ30を配置することで、ヒーター20の直線性を保ちやすくなる。この構成であると、前記ヒーターが複数設けられた際、前記ヒーターによる加熱時においても、前記複数のヒーターは互いに均等に離間した位置関係が保つことができる。これにより、ヒーター20同士が接触するような位置関係になる恐れが小さく、局所的な高温などの温度管理に不具合が生じにくい。すなわち、ヒーター20による加熱効果をより均一にすることができ、加熱効率を高めることができる。特に、
図1に示した例のように、ヒーター20の全体に対して、一定の間隔で複数のスリーブ30を配置する構成であると、加熱効率を高める効果がより一層得られる。
【0035】
スリーブ30の形状は、特に限定されないが、例えば、環状の板のような形状が好ましい。環状であると、ヒーター20が外管10と接触しやすくなるような位置に、スリーブ30を配置しやすい。板状であると、スリーブ30にくぼみ(孔)を形成するのが容易になる。
また、
図2に示したように、ヒーター20を通すためのくぼみ(孔)を備える態様がより好ましい。この態様であると、ヒーター20を部分的に囲むようにスリーブ30を配置することができ、ヒーター20を外管10に接触させる役割または、ヒーター20の直線性を確保しやすくするといったスリーブ30の機能をより発揮しやすくなる。
この場合、板バネ32は、スリーブ30のくぼみ(孔)に設けられている構成が好ましい。くぼみ(孔)にヒーター20を通す際に、板バネ32を縮ませたうえで設置することで、板バネ32の反発力等によって、ヒーター20を外管10に接触しやすくできる。
【0036】
別の実施形態を
図3に例示する。外管10、内管12、ヒーター20、板バネ32は
図2の実施形態と同様である。外管10の長手方向を輪切りにした断面視で、中心から外側へ、内管12、スペーサーの一例である金属棒34、スリーブ30(凹部30a)、板バネ32、ヒーター20、外管10の順に配置されている。本実施形態のスリーブ30は、金属板を湾曲させた部材であり、前記断面視で半円状の部材である。スリーブ30の湾曲面に囲まれた凹部30aには円筒状のヒーター20の一部が入り込み、ヒーター20の側面の一部が、凹部30aによって囲まれている。付勢手段の一例である板バネ32は内管12の中心とヒーター20の中心を結ぶ直線上に、スリーブ30とヒーター20の隙間に挿入され、配置されている。金属棒34は内管12の中心とヒーター20の中心を結ぶ直線上に、スリーブ30と内管12の隙間に配置されている。金属棒34はスペーサーの役割を果たす。金属棒34の断面形状は特に制限されず、円形、楕円、多角形、その他の任意形状のいずれであってもよい。
スペーサーである金属棒34は、溶接されていることが好ましく、溶接によって内管12及びスリーブ30と接合していることが好ましい。
スリーブ30は、板バネ32を介して、ヒーター20を外管10へ向けて付勢することができる。これにより、ヒーター20が外管10の内側面に接触しやすい構成となっており、ヒーター20が外管10の内面に接触する又は外管10の内面の極めて近傍に配置されることを補助できる。
【0037】
スリーブ30の材質は、ヒーター20の加熱温度において耐熱性を有するものであればよい。例えば、金属、セラミック、ステンレス等が挙げられる。望ましくは、内管12の材質と同一である。スリーブ30と内管12の材質が同一であると、スリーブ30と内管12を溶接による接合が容易となる。
【0038】
板バネ32は、圧縮するバネであって、ヒーター20が外管10の内面に接触する又は外管10の内面の極めて近傍に配置されることを補助できるように、ヒーター20を外管10へ向けて付勢することができるものであれば、特に限定されない。例えば、付勢手段として、板バネの代わりに、コイルばねや耐熱ばね等を使用することができる。必要とする目的に応じて選択することができ、例えば、高温によるばねのへたりを回避することを目的として、耐熱ばねを選択することができる。
【0039】
板バネ32は、以下のような構成の場合は、配置されていてもよく、配置されていなくてもよい。例えば、「ヒーター20は、厳密には外管10と接触していない構成であっても、外管10に極めて近い位置にヒーター20が配置された構成であり、熱伝導によって熱伝達することができる構成」の場合である。このように、板バネ32を介さずとも、ヒーター20が外管10に極めて近い位置に配置された構成である場合、板バネ32を不要とすることができる。
【0040】
[加熱井戸の設置方法]
次に、上述した本実施形態の加熱井戸を設置する方法の一例について説明する。
本実施形態の加熱井戸は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aを加熱して汚染物質を揮発等させ、土壌を浄化する原位置浄化に用いられる。
本実施形態の原位置浄化方法は、いわゆる原位置熱脱着法である。原位置熱脱着法の加熱方式としては、例えば、電気加熱ヒーター式、電気抵抗式、スチーム式等の方式が挙げられる。原位置熱脱着法の加熱方式としては、加熱温度が高く、土壌を均一に加熱しやすいことから電気加熱ヒーター式が好ましい。本実施形態の加熱井戸は、ヒーター20を用いているため、電気加熱ヒーター式の加熱方式に分類される。
【0041】
本実施形態の加熱井戸の設置方法は、特に限定されず、例えば、下記の工程(a)~(c)を含む方法を例示できる。
工程(a):ボーリング工事により外管10を地中に設置する。
工程(b):スリーブ30に、ヒーター20を通すためのくぼみ(孔)を設ける。くぼみ(孔)には、板バネ32を溶接する。くぼみ(孔)及び板バネ32が溶接により接合したスリーブ30と、内管12と、を溶接により接合する。
工程(c):外管10の内部に内管12及びスリーブ30を設置する。内管12の内部には、温度を計測するための熱電対50を設置する。ヒーター20をスリーブ30のくぼみ(孔)に通し、設置する。
【0042】
上記の工程(a)は、処理対象領域Aと外管10で囲まれた内部を離隔することを目的としている。
【0043】
上記の工程(b)は、主にスリーブ30を設置する工程である。スリーブ30へのくぼみ(孔)の設け方は特に限定されない。例えば、環状の板のスリーブ30に対して、くぼみ(孔)を複数設けてもよいし、スリーブ30を2分割や4分割した後にくぼみ(孔)を設け、その後溶接により接合する形であってもよい。特に、設置の都合により分割が望まれる場合は、分割後の溶接による接合は、現地で行われることが好ましい。
【0044】
スリーブ30は、内管12と接合されているが、この溶接は現場で行うことが望ましい。また、スリーブ30と内管12の材質が同一であると、スリーブ30と内管12を溶接による接合が容易となる。
【0045】
スリーブ30のくぼみ(孔)には、板バネ32等の圧縮ばねを溶接し、接合させる。これにより、ヒーターを通す際にばねを縮ませたうえで設置することで、ヒーターを外管10に接触させることが容易に可能となる。
【0046】
スリーブ30として、
図3に示すように、ヒーター20の一部を囲むような半円状金属等であってよい。前記半円状金属は、金属板を湾曲させた部材であり、前記断面視で半円状の部材である。スリーブ30は、スペーサーの一例である金属棒34等が接合されたものであってもよい。この場合、金属棒34とスリーブ30を溶接し、これにより構成された固定治具に板バネ32を溶接する。さらに、金属棒34の端部を内管12に溶接する。これにより、図示例のようにスリーブ30は、金属棒34を介して内管12に設けられている構成とすることができる。
スペーサーである金属棒34は、溶接されていることが好ましく、溶接によって内管12及びスリーブ30と接合していることが好ましい。
【0047】
上記の工程(c)は、工程(b)で接合した内管12とスリーブ30を設置する。また、板バネ32を縮ませたうえでヒーター20をスリーブ30のくぼみ(孔)に通して設置することで、ヒーター20を外管10に接触させることが容易となる。
【0048】
汚染物質の除去は、例えば、吸引井戸(不図示)を用いて、加熱によって土壌から脱着した汚染物質を含む流体を吸引することにより行うことができる。
【0049】
汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素(例えば、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~44の炭化水素等が挙げられる。炭素数5~18の炭化水素は、主に気体として回収できる。炭素数19以上の炭化水素であっても、粘度を低下させることで液体として回収可能である。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
水銀としては、例えば、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(Hg2Cl2、HgCl2)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。
【0050】
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【符号の説明】
【0051】
10、10a…外管、12…内管、20…ヒーター、30、30a…スリーブ、32…板バネ、34…金属棒、40…コンクリート層、50…熱電対