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特開2025-22231窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受
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  • 特開-窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022231
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20250206BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250206BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C04B35/587
F16C19/06
F16C33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126623
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】八木 文耶
(72)【発明者】
【氏名】早川 康武
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA10
3J701EA44
3J701FA31
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】加工性と良好な機械特性を両立した窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む焼結助剤成分を含有する窒化ケイ素焼結体であって、表層が中心部に比べて焼結助剤成分が多く、中心部に対する表層の焼結助剤成分の比率が1.10以上1.40未満であり、表層に焼結助剤成分を多く含有するリッチ層が形成され、該リッチ層の窒化ケイ素焼結体の表面からの深さが、0.12mm以上0.19mm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素およびアルミニウム元素を含む焼結助剤成分を含有する窒化ケイ素焼結体であって、
表層が中心部に比べて前記焼結助剤成分が多く、前記中心部に対する前記表層の前記焼結助剤成分の比率が1.10以上1.40未満であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
前記表層に前記焼結助剤成分を多く含有するリッチ層が形成され、該リッチ層の前記窒化ケイ素焼結体の表面からの深さが、0.12mm以上0.19mm未満であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
前記希土類元素および前記アルミニウム元素の含有量の合計が、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で18重量%以上22重量%以下であることを特徴とする請求項3記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
前記希土類元素はCeであり、前記窒化ケイ素焼結体は遷移金属元素を含まないことを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
前記表層に前記焼結助剤成分を多く含有するリッチ層が形成され、該リッチ層の前記窒化ケイ素焼結体の表面からの深さが、0.12mm以上0.19mm未満であり、
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、前記希土類元素および前記アルミニウム元素の含有量の合計が、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で18重量%以上22重量%以下であり、
前記希土類元素はCeであり、前記窒化ケイ素焼結体は遷移金属元素を含まないことを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体の研磨加工品であることを特徴とする機械部品。
【請求項8】
前記機械部品は、転動体であることを特徴とする請求項7記載の機械部品。
【請求項9】
請求項8記載の転動体を用いたことを特徴とする軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素(Si)焼結体は、優れた機械特性、熱伝導性、および電気絶縁性を有することから、ベアリング部材、エンジン部品、工具材料、および放熱基板材料などへの適用が進められている。窒化ケイ素焼結体は窒化ケイ素粉末を出発原料として用いて製造することが知られている。窒化ケイ素粉末は難焼結性であるため、緻密化した窒化ケイ素焼結体を製造するためには、窒化ケイ素粉末とともに焼結助剤が用いられる。このような焼結助剤として、一般的には希土類元素の酸化物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化シリコンなどが挙げられる。
【0003】
窒化ケイ素粉末は価格が高いため、窒化ケイ素粉末を用いて窒化ケイ素焼結体を製造すると、窒化ケイ素焼結体の価格も上昇する傾向にある。そこで、窒化ケイ素粉末に比較して低価格であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)を出発原料として用い、これを反応焼結させることにより窒化ケイ素焼結体を製造する製造方法が注目されている。このような製造方法として、PS-RBSN(Post-Sintering of Reaction Bonded Silicon-Nitride)法と称される方法が知られている。
【0004】
また、窒化ケイ素焼結体は機械特性に優れる反面、硬度が非常に高いため、難加工性である。そのため加工にかかる時間が長く、コストも高くなってしまう。例えば、加工液の濃度を調整することで加工性を向上できる技術が提案されているが(特許文献1)、濃度管理が難しく安定して加工することが困難である。一方で、加工性を向上するべく硬度を下げると、耐摩耗特性も下がるため、窒化ケイ素焼結体を軸受部材などに使用すると、製品寿命の低下などに繋がるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-036695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、加工性と良好な機械特性を両立した窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む焼結助剤成分を含有する窒化ケイ素焼結体であって、表層が中心部に比べて上記焼結助剤成分が多く、上記中心部に対する上記表層の上記焼結助剤成分の比率(単に、成分比率ともいう)が1.10以上1.40未満であることを特徴とする。本発明において、表層とは、窒化ケイ素焼結体において、表面から0.25mmまでの領域を指し、中心部とは、その表層以外の領域を指す。
【0008】
上記表層に上記焼結助剤成分を多く含有するリッチ層が形成され、該リッチ層の上記窒化ケイ素焼結体の表面からの深さが、0.12mm以上0.19mm未満であることを特徴とする。
【0009】
上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であることを特徴とする。
【0010】
上記希土類元素および上記アルミニウム元素の含有量の合計が、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で18重量%以上22重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
上記希土類元素はCeであり、上記窒化ケイ素焼結体は遷移金属元素を含まないことを特徴とする。
【0012】
上記表層に上記焼結助剤成分を多く含有するリッチ層が形成され、該リッチ層の上記窒化ケイ素焼結体の表面からの深さが、0.12mm以上0.19mm未満であり、上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、上記希土類元素および上記アルミニウム元素の含有量の合計が、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で18重量%以上22重量%以下であり、上記希土類元素はCeであり、上記窒化ケイ素焼結体は遷移金属元素を含まないことを特徴とする。
【0013】
本発明の機械部品は、本発明の窒化ケイ素焼結体の研磨加工品であることを特徴とする。また、上記機械部品は、転動体であることを特徴とする。
【0014】
本発明の軸受は、上記転動体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、表層が中心部に比べて焼結助剤成分が多く、中心部に対する表層の焼結助剤成分の比率が1.10以上1.40未満であるので、例えば表層に焼結助剤成分のリッチ層が形成され、加工性と良好な機械特性を両立できる。その結果、軸受部材などの製品に加工した場合に良好な製品寿命を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の軸受の一例を示す縦断面図である。
図2】本発明の軸受の他の例を示す縦断面図である。
図3】本発明の軸受の他の例を示す縦断面図である。
図4】実施例において測定対象とした表層と中心部を示す画像などである。
図5】圧砕試験の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(窒化ケイ素焼結体)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素の結晶質相を主体とし、希土類元素およびアルミニウム元素を含む焼結助剤などからなるガラス相(非結晶質相)を適量含む。なお、対象とする窒化ケイ素焼結体は、焼結後に表面の研磨加工が行われていないものを指す。
【0018】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、例えば、窒化ケイ素焼結体の表層が中心部に比べて焼結助剤成分が多くなっている。この窒化ケイ素焼結体は、焼結助剤などを含む原料粉末の加圧成形などによって得られる圧粉体を焼結することで得られる。焼結時に液相となった焼結助剤が表層側へ押し出されることで、焼結助剤成分が偏在すると考えられる。
【0019】
特に、本実施形態では、中心部に対する表層の焼結助剤成分の比率が、1.10以上1.40未満であることを特徴としている。成分比率を1.10以上として焼結助剤成分を表層に多く存在させることで、研磨加工などの加工性を向上させている。また、上記成分比率を1.40未満とすることで、加工後における完成品(製品)の機械特性を確保しやすくしている。この成分比率は、後述する実施例の方法によって算出できる。なお、成分比率は、1.20以上であることが好ましく、1.25以上であってもよい。また、加工後の機械特性の観点からは、1.35以下であってもよい。
【0020】
上記窒化ケイ素焼結体の表層には、焼結助剤成分を他の部分よりも多く含有するリッチ層が形成されている。リッチ層は、ケイ素焼結体の表面全体を覆うように形成されている。リッチ層は、中心部よりも焼結助剤成分を多く含有し、表面から厚みをもった層状に形成され、走査電子顕微鏡によって観察できる。リッチ層の、窒化ケイ素焼結体の表面からの深さは、特に限定されないが、厚くなりすぎると、研磨加工で除去されにくく、完成品の表面に残りやすくなるおそれがある。そして、強度低下や軸受特性の低下に繋がるおそれがある。そのため、リッチ層の深さは、窒化ケイ素焼結体の表面から0.25mm未満が好ましく、0.19mm未満がより好ましく、0.16mm未満であってもよい。また、加工性の観点から、リッチ層の深さは、表面から0.10mm以上が好ましく、0.12mm以上がより好ましい。このリッチ層の深さは、後述する実施例の方法によって算出できる。
【0021】
なお、完成品の製造においては、基本的に、窒化ケイ素焼結体のリッチ層は研磨加工によって除去される。上記窒化ケイ素焼結体を用いることで、例えば、加工レートが速くなるため、加工時間が短縮でき、また砥石の消耗を抑えることもできる。その結果、完成品を安価に製造することができる。
【0022】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む。窒化ケイ素焼結体において、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であり、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0023】
希土類元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)などが挙げられる。このうち、Y、Ce、およびLaからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、比較的低温の焼結温度でも窒化を促進させることができることから、Ceを含むことがより好ましい。
【0024】
希土類元素の上記含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6.5重量%以上であることがより好ましく、7重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、14重量%以下であることがより好ましく、12重量%以下であってもよい。
【0025】
アルミニウム元素の上記含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6.5重量%以上であることがより好ましく、7重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、14重量%以下であることがより好ましく、12重量%以下であってもよい。
【0026】
アルミニウム元素の含有量(酸化物換算)は、希土類元素の含有量(酸化物換算)に対して1:3~3:1の比率で含まれてもよく、1:2~2:1の比率で含まれてもよい。また、アルミニウム元素の含有量(酸化物換算)は、希土類元素の含有量(酸化物換算)の±5重量%以内であってもよく、±2重量%以内であってもよく、±1重量%以内であってもよく、希土類元素の含有量と同じであってもよい。
【0027】
窒化ケイ素焼結体中の希土類元素およびアルミニウム元素の含有量が上記の範囲内であることにより、例えばPS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)の窒化反応を促進し、その後の焼結を促進することができ、窒化ケイ素焼結体における、表層と中心部の焼結助剤の成分比率や、リッチ層の深さを所望の範囲にしやすくなる。希土類元素、アルミニウム元素の含有量は、原料に添加する希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)、アルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の添加量によって調整することができる。
【0028】
また、希土類元素およびアルミニウム元素の含有量の合計が、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で、例えば15重量%以上26重量%以下であり、18重量%以上22重量%以下であることが好ましい。
【0029】
希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、または高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて決定すればよい。具体的には、上記分析装置により、窒化ケイ素焼結体中の希土類元素およびアルミニウム元素の含有量を求め、希土類元素(RE)の酸化物(REまたはREO)および酸化アルミニウム(Al)に換算すればよい。窒化ケイ素焼結体を構成する他の成分の元素についても上記分析装置を用いて分析し、窒化ケイ素焼結体の総重量を算出して、希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量を決定すればよい。窒化ケイ素焼結体を製造するために用いる原料粉末にケイ素(金属シリコン粉末)が含まれ、当該ケイ素が窒化によりSiとなる場合、窒化ケイ素焼結体におけるSiの重量はケイ素の重量の1.67倍となる。したがって、ケイ素が窒化されたときの重量変化を考慮すれば、原料粉末の組成から希土類元素の酸化物および酸化アルミニウムの含有量を算出することができる。
【0030】
なお、上記窒化ケイ素焼結体は、遷移金属元素を含まないことが好ましい。遷移金属元素は、IUPAC周期表の第3属から第11属までの間に含まれる元素であり、例えばFe、Ti、Cr、Mnなどが挙げられる。
【0031】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の形状は特に限定されず、球状、円柱形状、円錐形状、円錐台形状、直方体形状など、用途によって適宜選択すればよいが、球状であることが好ましい。窒化ケイ素焼結体のサイズも特に限定されず、例えば、球状であれば直径を0.5cm~10cmとすることができ、円柱形状であれば底面の直径を0.5cm~15cmとし、高さを3cm~20cmとすることができる。
【0032】
(窒化ケイ素焼結体の製造)
上述した窒化ケイ素焼結体は、PS-RBSN法(2段階焼結法)によって製造されることが好ましい。窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを含む。
【0033】
混合工程では、例えば、原料粉末を水および有機溶媒を使用せずに乾式で混合する。この場合、バインダ成分を用いずに混合することが好ましい。混合後の粉末の粒径は、特に限定されないが、D90が10μm以上100μm以下であることが好ましい。また、D50が2μm以上10μm以下であることが好ましい。D90および/またはD50が上記の範囲内であることにより、良好な流動性および成形性を発揮させつつ、緻密な窒化ケイ素焼結体を得ることができる。なお、D50およびD90は、それぞれ体積基準の累積50%径および累積90%径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定などによって得られる。
【0034】
なお、混合工程で湿式造粒を行い、混合物として造粒粉を得るようにしてもよい。この場合、原料粉末とバインダ成分を、水および/または有機溶媒(例えばエタノール)で混合してスラリー化し、それをスプレードライなどで噴霧造粒乾燥することで造粒粉を得ることができる。バインダ成分には有機バインダなどが用いられ、原料粉末全体に対して、例えば1重量%~10重量%添加される。
【0035】
成形工程では、混合工程で得られた混合物を、CIP法(冷間等方圧加圧法)やプレス成形などの公知の成形法を適用して、所定の形状に成形して圧粉体を得る。例えば、球状の場合、球状の圧粉体とした後、その圧粉体をグリーン加工装置で加工することでグリーン球を得てもよい。
【0036】
焼結工程では、得られた圧粉体を、窒素雰囲気中にて、例えば1600℃~1800℃(好ましくは1600℃~1700℃、より好ましくは1600℃~1650℃)で、所定時間保持して熱処理することにより焼結させる。焼結時間は、例えば3時間~10時間に設定される。焼結方法は、常圧焼結、雰囲気加圧焼結、加圧焼結(ホットプレス)などの方法が適用できる。雰囲気加圧焼結では、例えば圧力が0.1MPa~10MPaに設定される。また、焼結工程では、異なる圧力下で1次焼結と2次焼結を行ってもよい。
【0037】
上記の窒化ケイ素焼結体の製造において、原料粉末に用いる焼結助剤としては、希土類元素、アルミニウム元素、遷移金属元素を含むものを用いることができる。希土類元素を含む焼結助剤としては、Y、CeO、およびLaのうちのいずれかを用いることが好ましく、CeOを用いることがより好ましい。アルミニウム元素を含む焼結助剤としては、Alを含むことが好ましい。また、遷移金属元素を含む焼結助剤としては、Cr、TiO、MnO、Feなどが挙げられる。
【0038】
原料粉末は、ケイ素粉末および焼結助剤以外に、窒化ケイ素粉末および/または有機バインダを含んでいてもよく、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素以外の元素を含む焼結助剤を含んでいてもよい。
【0039】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の含有量は、ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および焼結助剤の総重量に対して、60重量%超えであることが好ましく、65重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上あってもよい。また、85重量%未満であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。なお、原料粉末は窒化ケイ素粉末を含んでいないことが好ましい。
【0040】
原料粉末に含まれる希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であってもよく、20重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれるアルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の含有量は、上記総重量に対して、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であってもよく、20重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれる焼結助剤の含有量が少ないと緻密な窒化ケイ素焼結体が得られにくく、焼結助剤の含有量が多いと窒化ケイ素焼結体の機械特性が低下しやすい。
【0041】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の平均粒径は、例えば5μm以下とすることができる。窒化ケイ素を含む場合、その平均粒径は、例えば0.5μm以下とすることができる。焼結助剤の平均粒径は、焼結助剤の種類にもよるが、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であってよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよく、2μm以下であってよく、1μm以下であってもよく、0.4μm以下であってもよい。なお、平均粒径は、体積基準の累積50%径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定などによって得られる。
【0042】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、ケイ素粉末と、希土類酸化物および酸化アルミニウムを含む焼結助剤を含む原料粉末を混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを有し、上記焼結工程は、窒素雰囲気中にて、1600℃~1700℃の焼結温度で、所定時間保持して熱処理する工程であることが好ましい。例えば、焼結助剤を所定量用い、また、比較的低温での焼結温度(例えば1600℃~1700℃)で焼結させることで、後述する焼結助剤成分の比率を所望の範囲にしやすくなる。
【0043】
また、上記希土類酸化物がCeOであることが好ましい。また、上記原料粉末は、上記希土類酸化物と上記酸化アルミニウムを合計で、上記原料粉末全体に対して20重量%以上35重量%以下(より好ましくは25重量%以上35重量%以下)含むことが好ましい。また、上記原料粉末は遷移金属酸化物を含まないことが好ましい。また、上記方法に対して、上述した数値範囲などを適宜組み合わせることができる。
【0044】
(窒化ケイ素焼結体の用途)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、所定の製品規格を満たすように研磨加工されて、窒化ケイ素焼結体製品が得られる。当該製品の用途は特に限定されないが、機械特性などに優れることから、機械部品として用いられることが好ましい。機械部品は、例えば、転がり部位や滑り部位に使用される。本発明の機械部品は、本発明の窒化ケイ素焼結体の研磨加工品を構成の一部または全部に用いた部品である。機械部品としては、例えば、摺動部材、軸受部材、圧延用ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼などのエンジン部品、切削工具(チップ)などが挙げられる。軸受部材としては、例えば、内外輪などの軌道輪、軸受用転動体、保持器などが挙げられる。本発明の軸受は、この機械部品を軸受部材の一部または全部として備える軸受であり、例えば、転がり軸受、滑り軸受(球面ブッシュなど)、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどが挙げられる。特に、本発明の軸受としては、上記窒化ケイ素焼結体の研磨加工品を軸受用転動体に用いた転がり軸受であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の軸受の一例について図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面2aを有する内輪2と内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に複数個の玉(転動体)4が配置される。これら玉4が、上述した窒化ケイ素焼結体の研磨加工品である。玉4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも玉4の周囲にグリース組成物7が封入される。グリース組成物7が玉4との軌道面に介在して潤滑される。なお、転がり軸受の軸受形式は、深溝玉軸受に限定されず、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受などでもよい。
【0046】
本実施形態の軸受の他の例について図2に基づいて説明する。図2は、ボールねじを示す断面図である。図2に示すように、ボールねじは、案内部材であるねじ軸11の外周面に形成したねじ溝12と、ボールナット13の内周面に形成したねじ溝14の間に複数のボール15を介在させたものであり、ねじ軸11(またはボールナット13)の回転動力をボール15を介してボールナット13(またはねじ軸11)に伝達し、ボールナット13を軸方向に移動させるものである。図2において、ボール15が、上述した窒化ケイ素焼結体の研磨加工品であり、ねじ軸11およびボールナット13が鋼(例えば、軸受鋼や低炭素鋼など)で形成されている。また、ねじ軸11とボールナット13との間でボール15の周囲にグリース組成物が封入され、ボールねじ用シール部材16によってシールされている。
【0047】
図2に示すボールねじにおいて、ボールの循環方式は特に限定されず、チューブ式、リターンチューブ(パイプ)式、デフレクタ式、エンドデフレクタ式、エンドキャップ式、こま式などのいずれの循環方式を採用することができる。なお、いずれの循環方式でも循環路は、ボールの円滑な循環に大きく影響する。
【0048】
ボールねじは、具体的には、モーターの回転運動を直動運動に変換するものとして用いられる。例えば、電動アクチュエーター、位置決め装置用、電動ジャッキ用、サーボシリンダ用、電動サーボプレス機用、メカニカルプレス装置用、電動ブレーキ装置用、トランスミッション用、電動パワーステアリング装置用、電動射出成形機用などにおいて好適に用いることができる。
【0049】
ここで、ボールねじでは、耐摩耗性や靭性、高負荷容量などが要求される。近年では、小型化などを背景に、高荷重に耐え得る性能がより求められており、また、滑りや高荷重負荷により潤滑剤から発生する水素に起因する水素脆化の抑制なども求められている。図2の例では、ボールとして上述した窒化ケイ素焼結体の研磨加工品を用いているので、これらの要求を満たしやすく、ボールの製品寿命にも優れる。
【0050】
また、ボールねじにおいては、ボールねじを取り付ける際に取り付け誤差などによるミスアライメントが大きいと、こじり(すなわち、ねじ軸とナットとの間の相対的な傾き)が発生するおそれがある。そして、こじりによるモーメントがボールねじに作用すると、ナット内での負荷バランスが崩れ、部分的に接触面圧の上昇する箇所が生じて、寿命が低下するおそれがある。これに対して、ボールとして上述した窒化ケイ素焼結体の研磨加工品を用いることで、ボールの循環性能を良好にでき、寿命の低下を抑制しやすくなる。
【0051】
さらに、本実施形態の軸受の他の例について図3に基づいて説明する。図3は、球面滑り軸受の一例を示す断面図である。図3に示すように、球面滑り軸受21は、球状の外周面22bを有し、内周面22aに支持軸を貫挿できる軸受孔24が形成されている内輪22と、該外周面22bに対応する凹面23aを有する外輪23との組合せからなる。球面滑り軸受21では、内輪22および外輪23の少なくともいずれかが、上述した窒化ケイ素焼結体の研磨加工品で形成されている。他方の部材の材質は、特に限定されず、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、鉄鋼などの金属製や、合成樹脂製、上述した窒化ケイ素焼結体以外のセラミックス製とすることができる。
【0052】
球面滑り軸受は、滑り部が球面でラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重が負荷できる自動調心形の滑り軸受である。球面滑り軸受は、揺動運動や調心運動などに適しており、産業機械や建設機械などの関節部などに使用されている。球面滑り軸受としては、無給油式(図3参照)と給油式のいずれも採用でき、例えば給油式の場合には、内輪および外輪に油穴および油溝が設けられる。なお、球面滑り軸受の取り付けにおいて、滑り面にはグリースが塗布されてもよい。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0054】
[実施例1~5、比較例1~6]
表1に示す配合比で原料粉末を準備し、ボールミルにより乾式混合した。その後、30MPaの成形圧力でプレス成形した後、冷間等方圧加圧法(200MPa)にて圧粉体に成形した。得られた圧粉体を、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)で、1650℃で10時間保持し、加圧焼結して窒化ケイ素焼結体を得た。
【0055】
[実施例6]
表1に示す配合比で原料粉末を準備し、有機バインダを所定量添加してボールミルで湿式混合した。その後、30MPaの成形圧力でプレス成形した後、冷間等方圧加圧法(200MPa)にて圧粉体に成形した。得られた圧粉体を、脱脂炉にて脱脂した後、窒素雰囲気中で、1750℃で4時間保持し、常圧焼結した。さらに、常圧焼結体に、100MPaの窒素圧力下で、1700℃で1時間のHIP処理を施した。
【0056】
【表1】
【0057】
得られた窒化ケイ素焼結体中の各酸化物の組成比について、原料粉末に含まれるケイ素(金属シリコン)が全て窒化され、窒化ケイ素の重量はケイ素の重量の1.67倍になるものとして、原料粉末の組成比から算出した値を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
各条件で作製した窒化ケイ素焼結体を用いて、加工特性、各種物性を評価し、窒化ケイ素焼結体の研磨加工品(加工取り代0.2~0.25mm)を用いて、強度および転動疲労特性について評価した。各評価結果を表3にまとめて示す。
【0060】
<加工レートの算出>
JIS B 1563に準拠し、G5になるまで球研磨し、3/8インチ(直径9.525mm)の球状の試験片を作製した。上記研磨において、球の直径が9.625mmまでは#200のダイヤモンド定盤を用いて研磨した。その際、一時間毎に球寸法をJIS B 1501に準拠して測定し、加工レートμm/hを算出した。この試験において、加工レートが10μm/h以上を合格とした。
【0061】
<助剤比率と助剤リッチ層の深さの算出>
上記で作製した窒化ケイ素焼結体(研磨前)を、その中心を通る断面で切断して、切断面を鏡面研磨した。鏡面研磨した切断面を、HITACHI製走査電子顕微鏡を用いて、表層と中心部の成分分析を実施した。切断面の画像およびその測定箇所を図4(a)に示す。測定対象とした表層は、表面から0.25mm以内の領域とし、中心部は、断面の円中心を含む所定の領域とした。成分分析の測定は、表層、中心部ともに走査型電子顕微鏡を用いて1000倍視野でEDX分析を行った。具体的には、複数箇所において、表層(表面から深さ0.25mmまでの領域)を中心方向にEDX分析を行い、測定値を平均化した値を表層の値とした。なお、表層における成分分析の測定箇所は、窒化ケイ素焼結体における8か所以下を対象とした。中心部も同様の視野数で測定し、平均化した値を中心部の値とした。具体的には、中心部は、その表層の走査範囲に相当する、断面の円中心を含む所定の領域を走査した。そして、検出された中心部の助剤成分の検出量(CeO(またはLa)およびAlの合計の検出量)を1とした場合の、表層の助剤成分の検出量(CeO(またはLa)およびAlの合計の検出量)を分析結果より算出した。
【0062】
リッチ層の深さの測定は、500倍視野でEDX分析による元素マッピングを行い、表面から深さ方向に走査し、得られたマッピング像から助剤成分の検出量(CeO(またはLa)およびAlの合計の検出量)が多い範囲をリッチ層として算出した。具体的には、表面から0.5mmまで(例えば500倍視野の2つ分)の領域にライン分析を行い、検出強度が弱くなる(例えば閾値(表面の検出強度から20%)以下となる)箇所をリッチ層の終点としてリッチ層の深さを決定した。
【0063】
図4(b)には、電子線マイクロアナライザー(EPMA)のカラーチャートを示し、図4(c)にはSEM像を示す。これらの図からも、表層に助剤成分が多く存在していることが分かる。
【0064】
<圧砕試験>
強度試験として、圧砕試験を行った。上記試験片を用いて2球圧砕試験を行った。圧砕試験はJIS B 1501に準拠した。図5に示すように、試験機は、固定治具31と可動治具32とを有しており、可動治具32はクロスヘッド33によって上下動する。固定治具31と可動治具32には円錐状の窪みがそれぞれ形成されており、これら窪みの間に試験球34を2個セットした。クロスヘッド33のストローク速度は1.0×10mm/minで行った。試験球34が破砕したときの荷重を測定した。圧砕強度が20kN以上を合格とした。
【0065】
<転動疲労試験>
軸受特性として、転動疲労試験を行った。上記試験片を用い、軸受外輪、軸受内輪、および保持器としてNTN株式会社製「6206」を用いて、回転数を3000rpm、負荷荷重1.5GPa、試験時間を168時間として転動疲労試験を行い、製品寿命を評価した。潤滑油は、JXTGエネルギー株式会社製の無添加タービンオイル「VG56」を用いた。試験時間内に試験片が剥離しなかったものを合格とした。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、中心部に対する表層の助剤比率が1.10以上で加工レートが大きく向上した。特に、PS-RBSN法で作製した窒化ケイ素焼結体(実施例1~5)は加工レートが20μm/h以上であり、実施例6に比べて、加工性により優れる結果となった。また、助剤比率が1.40未満で圧砕強度および転動疲労試験が良好な結果を与えた。
【0068】
一方、助剤比率が1.40以上の比較例4~比較例6は、圧砕強度が低下した。原料に用いた焼結助剤の含有量が合計で40重量%以上と比較的多く、焼結後にできたガラス相が多くなったことが要因の一つと考えられる。また、助剤リッチ層の深さが大きくなるほど、研磨加工により除去されにくく、完成球の表面に残りやすくなることから、それが強度低下や軸受特性の低下に繋がった可能性もある。
【0069】
転動疲労試験において、実施例1~6は、試験時間内に試験片が剥離しなかった。一方、比較例1~3は、空孔に起因した剥離が発生した。また、比較例5~6は、微小な剥離が発生したため、振動異常で停止した。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、転がり軸受、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどの軸受の転動体に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 開口部
11 ねじ軸
12 ねじ溝
13 ボールナット
14 ねじ溝
15 ボール
16 ボールねじ用シール部材
21 球面滑り軸受
22 内輪
23 外輪
24 軸受孔
31 固定治具
32 可動治具
33 クロスヘッド
34 試験球
図1
図2
図3
図4
図5