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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022247
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】光学式コロナ放電検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20250206BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126674
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】519222531
【氏名又は名称】四日市電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】末長 清佳
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA27
2G015CA02
2G015CA03
(57)【要約】
【課題】 コロナ放電を光学的に検出する。
【解決手段】 コロナ放電によって生じる放電音を反射するパラボラ111と、その焦点近傍に検出ユニット113を設ける。検出ユニット113では、放射音の入射方向に直交する方向にレーザを照射し、対向する辺に設けられた受光部で受光する。放電音が存在する場合、レーザはその影響で回折するため、受光部において、回折光を検出することにより、マイクなどを用いることなく、放電音の有無を判断することができる。
こうすることで、パラボラ111により放電音を集音することで感度を向上させることができる。また、パラボラ111の前面にはマイク等が不要となるため、これらが遮蔽物となることなく放電音を検出することが可能となる。
【選択図】 図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナ放電を光学的に検出する放電検出装置であって、
前記コロナ放電に伴って生じる放電音を集音するように反射する凹曲面形状の集音部と、
前記放電音が集音される部位の近傍にレーザを照射する発光部と、
前記放電音によって前記レーザが回折された回折光を検出する検出部とを備える放電検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の放電検出装置であって、
前記凹曲面形状は、パラボラ形状であり、
前記レーザは、パラボラ形状の焦点近傍に、該パラボラ形状の対称軸に直交する方向に照射される
放電検出装置。
【請求項3】
請求項1記載の放電検出装置であって、
前記発光部は、複数本の平行なレーザを照射する放電検出装置。
【請求項4】
請求項3記載の放電検出装置であって、
前記検出部は、前記回折光を検出するために、複数の光センサを配列したラインセンサを用いる放電検出装置。
【請求項5】
請求項1記載の放電検出装置であって、
前記発光部は、複数本の交差するレーザを照射する放電検出装置。
【請求項6】
請求項1記載の放電検出装置であって、
前記検出部は、
前記回折光を検出する光センサと、
回折しない前記レーザの光束が前記光センサに入射することを遮る円形状の遮蔽物とを備える放電検出装置。
【請求項7】
請求項1記載の放電検出装置であって、
前記放電音を集音できる範囲が異なる複数の集音部と、
それぞれの集音部に対応する複数の発光部および検出部を備える放電検出装置。
【請求項8】
コロナ放電を光学的に検出する放電検出システムであって、
請求項1~7いずれか記載の放電検出装置と、
前記放電検出装置の出力に基づいて、前記コロナ放電の発生を解析する解析装置とを備える放電検出システム。
【請求項9】
請求項8記載の放電検出システムであって、
前記放電検出装置の出力は、前記解析装置に対して、無線で通信される放電検出システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルなどの電気設備で生じるコロナ放電を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルなどの高電圧の電気設備では、電力ケーブルの外装その他種々の部位が、適宜、絶縁材料によって絶縁されている。この絶縁材料に経年劣化や損傷が生じた場合や、素線が切れた場合、緩んだ場合などには、電界集中が生じ、コロナ放電が生じる。コロナ放電が生じた場合、それに伴って、ジリジリ、ザーザーといった不規則成分や、ブーンという規則成分を含むコロナ騒音と呼ばれる放電音が生じることが知られている。従って、この放電音を検出することにより、電力ケーブルの劣化、損傷などを検出することができる。
非特許文献1は、光波マイクロホンを利用して、放電音を検出する技術を開示している。この技術では、レーザに音波が当たった時の位相変調作用による回折光を受光レンズ側で光学的フーリエ変換して検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】光木文秋他著、「光波マイクロホンによる沿面放電音の測定と解析」、レーザー研究2009年5月 p.379-383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1は、マイクで放電音を集音することを想定しており、実際の電力ケーブルで放電音を検出しようとすれば、電力ケーブルに5~10m程度まで接近する必要が生じ、実用的とは言えなかった。感度向上のために、パラボラを用いて集音する方法も考えられるが、この方法では、パラボラの前面の焦点位置にマイクを設置する必要が生じ、マイク自体が、入射する放電音の遮蔽物となってしまうという課題が生じる。
また、パラボラを用いて1つのマイクで集音する方法は、集音範囲が狭隘なため、音源に対して探査方位が少しでもズレると検出が難しく、広範囲を探査する場合、時間を要する問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされてものであり、コロナ放電を感度良く広範囲を効率よく検出可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、コロナ放電を光学的に検出する放電検出装置であって、
前記コロナ放電に伴って生じる放電音を集音するように反射する凹曲面形状の集音部と、
前記放電音が集音される部位の近傍にレーザを照射する発光部と、
前記放電音によって前記レーザが回折された回折光を検出する検出部とを備える放電検出装置として構成することができる。
【0006】
本発明によれば、集音部によって、入射してきた放電音を凹曲面形状で反射して集音することができるため、感度向上を図ることができる。また、放電音の検出は、マイクではなく、レーザを照射してその回折光を検出する方法で行うため、集音部の前に、放電音を遮る遮蔽物を置くことなく検出部を構成することができる。従って、本発明によれば、複数の検出部を任意に配置できるため、放電音を感度良く広範囲に検出することが可能となる。
【0007】
本発明において、集音部は、種々の凹面形状を取り得る。放電音を一点に集音できることが好ましいが、必ずしもそれに限るものではない。また、放電音の入射方向に応じて、集音される領域が変動しても差し支えない。
レーザは、放電音による回折が生じやすい方向に照射することが好ましい。かかる観点から、集音部に入射または反射する放電音に直交する方向に照射することが好ましい。放電音は、様々な方向から入射する可能性があるため、集音部の正面、即ち投影面積が最大となる方向を代表方向として、これに直交する方向に照射するよう定めればよい。
レーザによる回折光を検出する方法としては、いわゆるシュリーレン法、光波マイクロホンなどの方法が知られている。本発明の検出部としては、これらの方法を実現する構成を採用することができる。回折光を検出可能な他の構成を採用してもよい。
また、放電音の入射方向によって、集音される部位が移動する可能性があるため、凹曲面形状の正面の領域をレーザでスキャンする機構を設けてもよい。
【0008】
本発明においては、
前記凹曲面形状は、パラボラ形状であり、
前記レーザは、パラボラ形状の焦点近傍に、該パラボラ形状の対称軸に直交する方向に照射されるものとしてもよい。
【0009】
パラボラ形状とすることで、正面から入射した放電音は、その焦点に向けて集音することができる。また、斜め方向から入射した放電音も、いずれかの点で集音することが可能となる。
【0010】
本発明においては、
前記発光部は、複数本の平行なレーザを照射してもよい。
【0011】
こうすることにより、放電音の入射方向によって、音が集音される部位が変動しても、レーザをスキャンするまでなく、複数本のいずれかのレーザによって検出することが可能となる。上記態様において、レーザの本数および間隔は、任意に定めることができる。
【0012】
上記態様において、
前記検出部は、前記回折光を検出するために、複数の光センサを配列したラインセンサを用いてもよい。
【0013】
こうすることにより、複数のレーザの回折光を簡易な構成で検出することができる。
複数のレーザの回折光を検出するための構成は、上記態様には限られない。例えば、複数の検出部を、それぞれ複数本のレーザの回折光を検出可能な位置に設けてもよい。また、検出部を、それぞれ複数本のレーザの回折光を検出可能な位置に移動させるようにしてもよい。
【0014】
本発明において、
前記発光部は、複数本の交差するレーザを照射してもよい。
【0015】
こうすることにより、多方向から放電音の検出を行うことが可能となる。レーザが交差する点では、第1方向のレーザと第2方向のレーザのそれぞれで回折光を検出することが可能となるから、放電音の検出精度を向上させることができる。
上記態様においては、第1の方向のレーザと交差する第2の方向のレーザの本数は、それぞれ任意に定めることができる。同数である必要はないし、第1の方向または第2の方向が1本だけであってもよい。第1の方向および第2の方向をそれぞれ複数用意すれば、両者の交点も複数発生するため、放電音が集音される部位が移動しても、検出精度を向上させることができる利点がある。
【0016】
本発明においては、
前記検出部は、
前記回折光を検出する光センサと、
回折しない前記レーザの光束が前記光センサに入射することを遮る円形状の遮蔽物とを備えてもよい。
【0017】
先に説明した通り、回折光を検出する方法としては、シュリーレン法、光波マイクロホンなどの方法が知られている。このうち、シュリーレン法を採用する場合、回折しない主光束を遮断するために、その光路上にナイフエッジと呼ばれる機構が設置されることが通常である。しかしながら、ナイフエッジを利用する時は、その位置に微調整が求められ、実用性が低いという課題がある。
これに対し、上記態様では、ナイフエッジに代えて、主光の光束を遮る円形状の遮蔽物を用いる。こうすることで、主光束を効果的に遮断することができ、回折光の検出精度を向上させることができる。また、円形状態の遮蔽物であれば、例えば、光センサの正面に貼付するなどの簡易な固定方法をとることができ、その場所を安定させることができる利点もある。
円形状の遮蔽物のサイズは、任意に設定することができる。必ずしも主光束の全てを遮断する必要はない。回折光は、主光束の周囲に環状に生じるため、これを検出可能な程度に主光束を遮ることができればよい。
【0018】
本発明においては、
前記放電音を集音できる範囲が異なる複数の集音部と、
それぞれの集音部に対応する複数の発光部および検出部を備えてもよい。
【0019】
こうすることにより、広範囲の放電音を検出することができる。集音部等は、例えば、同一方向を向けて線状または2次元のアレイ状に配置してもよい。こうすれば、放電音の検出範囲を広げることができる。また、種々の方向を向けて集音部を設置してもよい。こうすることで、多様な入射方向の放電音を検出することが可能となる。
【0020】
本発明においては、さらに、放電検出装置を、ドローン、航空機、車両、船舶その他の移動体に取り付けてもよい。一般に、電力ケーブルは高所に設置されているが、かかる態様によれば、比較的容易に検査を行うことが可能となる。
【0021】
本発明は、
コロナ放電を光学的に検出する放電検出システムであって、
上述した各態様の放電検出装置と、
前記放電検出装置の出力に基づいて、前記コロナ放電の発生を解析する解析装置とを備える放電検出システムとして構成してもよい。
【0022】
こうすることにより、回折光の有無に基づいて、コロナ放電の発生を検出することが可能となる。解析内容としては、例えば、回折光の検出結果に含まれる種々のノイズの影響を抑制する処理、検出結果に含まれる回折光の周波数その他に応じて放電音に依るものか否かを判断する処理などが挙げられる。
上記態様において、放電検出装置と解析装置とは一体的に構成してもよいし、別体としてもよい。例えば、放電検出装置を移動体に搭載し、解析装置は、通信または媒体を介して検出結果を取得し、解析を行うようにしてもよい。
放電検出装置と解析装置とを別体とする場合、例えば、一台の解析装置に対して複数の放電検出装置を対応させるようにしてもよい。
【0023】
放電検出装置と解析装置とを別体とする場合、
前記放電検出装置の出力は、前記解析装置に対して、無線で通信されるものとしてもよい。
【0024】
こうすることにより、両者を配線する必要がなくなるため、実用性を向上させることができる。
無線で通信を行う場合、消費電力およびトラフィックを抑制するため、通信する情報を抑制するための構成を設けるようにしてもよい。
【0025】
本発明において、以上で述べた種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしても良い。
本発明において、検出するものは放電音に限ることはなく、音響全般の音源の広範囲探査に利用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】放電検出システムの構成を示す説明図である。
図2】放電検出装置の構成を示す説明図である。
図3】シュリーレン法により放電を検出する原理を示す説明図である。
図4】光波マイクロホンにより放電を検出する原理を示す説明図である。
図5】発光部、受光部の構成例を示す説明図である。
図6】放電検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例について、電力設備としての電力ケーブルで生じたコロナ放電を検出するためのシステムを例にとって説明する。
図1は、放電検出システムの構成を示す説明図である。図の下部に示した高電圧の電力を流すための電力ケーブルにおいて、劣化、損傷が生じたときに発生するコロナ放電に伴う放電音NZを検出するためのシステムである。
放電検出システムは、放電検出装置を搭載した移動体100と、解析装置200を備えている。本実施例では、移動体100として、ドローンを用いているが、航空機、船舶、車両など種々を利用してもよい。また、放電検出装置を、電力ケーブルの鉄塔に固定するなどの方法で用いるなど、移動体に搭載せずに用いても良い。
【0028】
移動体100には、図示する機能が用意されている。
放電検出装置110は、後述する通り光学的にコロナ放電に伴う放電音を検出するための装置である。
位置情報取得部102は、移動体100の位置情報を取得する。例えば、GPSなどを利用することができる。
検出結果記憶部103は、放電検出装置110で検出した検出結果を、位置情報と関連づけて記憶する。
送受信部101は、検出結果等の情報を、解析装置200に対して送信する他、種々の情報を解析装置200と送受信する。本実施例では、送受信は、無線通信によりインターネットなどのネットワークNEに接続して行うものとした。その他の方法をとってもよい。移動体100と解析装置200との通信は、常時行ってもよいし、間欠的に行っても良い。また、検出結果等の情報を解析装置200に伝達する手段は、必ずしも通信による必要はなく、例えば、検出結果等を媒体に記録し、この媒体を解析装置200で読み込むようにしてもよい。
【0029】
解析装置200は、サーバに図示する各機能を実現するプログラムをインストールすることによってソフトウェア的に構築した。機能の一部または全部は、ハードウェア的に構成してもよい。
図示する各機能について説明する。
送受信部201は、移動体100とネットワークNEを介して信号を送受信する機能を奏する。
放電検出部202は、放電検出装置110で検出した検出結果に基づき、コロナ放電に該当するか否かを解析する。
アラート部203は、コロナ放電が検出され、電力ケーブルに異常があると判断されるときに、アラートを出力する。アラートは、例えば、所定の通知先にメールを送信する方法など種々の方法で出力することができる。
【0030】
センサデータベース204は、放電検出装置110についての情報を記憶するデータベースである。本実施例では、1台の解析装置200で複数の移動体100に対応可能とした。センサデータベース204には、各移動体100の情報が登録されているため、これを参照することで、それぞれの移動体100の稼働実績の管理、コロナ放電の検出精度の管理などを行うことができる。
検出ログ記憶部205は、放電検出装置による過去の検出結果を記憶する。過去の検出結果を記憶しておくことにより、例えば、コロナ放電がどの程度の頻度で発生しているかを確認でき、電力ケーブルの異常の有無を解析したり予測することが可能となる。
部分放電検出システムは、図1に示した構成に限らず、種々の構成をとることができる。図示した以外の機能を追加してもよい。
【0031】
図2は、放電検出装置の構成を示す説明図である。図2(a)に正面、図2(b)に側面の様子をそれぞれ模式的に示した。
図2(b)に示すように、放電検出装置110は、入射してくる音波を反射して集めるパラボラ111を有している。対称軸方向から平行に入射してきた音波は、パラボラ111で反射されると、図中に破線で示した通り、パラボラ111の焦点に集まってくる。本実施例では、音波を集めた上で検出するため、感度を向上させることができる。パラボラ111に代えて、他の凹曲面を利用してもよい。また、種々の入射方向に対して共通の焦点に集音可能な多光軸パラボラを利用してもよい。
【0032】
焦点近傍には、放電音を検出する検出ユニット113が設置されている。検出ユニット113では、図中に矢印で示すように一方から他方に向けてレーザが照射されている。このレーザは、放電音が存在すると、音波に伴って回折する。従って、この回折の有無を検出することにより、放電音を検出することができる。
【0033】
放電検出装置は、このようにレーザを利用して光学的に放電音を検出する。従って、パラボラ111の前面には、音の入射を遮蔽する物が存在しない構成とすることができる。この結果、放電音を広範囲にわたって十分に補足し、感度良く検出することが可能となる利点がある。
【0034】
図2(a)に正面の様子を示した。検出ユニット113の本体は、図示するように中空の矩形枠として構成されている。矩形枠の大きさは任意に決めることができるが、パラボラ111をほぼ覆うことができる程度に設定してある。放電音の入射方向が、パラボラ111の対称軸からずれているとき、放電音は焦点以外の部位に集まるように反射されることになる。しかし、本実施例のように、パラボラ111をほぼ覆う程度の矩形枠を用意しておけば、放電音が集まる部位が焦点からずれた場合でも、それを検出することが可能となる。
本実施例では、検出ユニット113を矩形枠で形成したが、枠は、これに限らず円形など種々の形状をとり得る。
【0035】
検出ユニット113には、矩形枠の対向する辺の間に平行に複数本のレーザを照射でき、全体としてレーザを格子状に照射できる。放射音の入射方向によって、パラボラ111で反射された音が集まる部位は変動するが、平行に複数本のレーザを照射することにより、検出ユニット113の広い範囲で放射音を検出することが可能となる。
また、一方向のレーザのみでは、その隙間の部分で、検出感度が低下するおそれがあるが、2方向の格子状にレーザを照射することにより、いずれかのレーザで検出可能な部位が増えるため、全体として検出感度を向上することができる。さらに、格子点では、2方向のレーザ照射により放電音を検出することができるため、誤検出の可能性を抑制し、検出精度を向上させることもできる。
【0036】
次に、放電音を検出する原理について説明する。
図3は、シュリーレン法により放電を検出する原理を示す説明図である。シュリーレン法とは、光が音波に伴う空気密度の変化によって回折される現象を捉えることで音波を可視化する方法である。
図には、光が検出ユニットの1本のレーザに関する構成を模式的に示した。この図では、放電音の音波およびパラボラ111を縦方向に描いている。
左側には、レーザの発光部120を示した。発光部120には、レーザを射出する光源121と、レーザ光を集束するためのレンズ122、およびスリット123が設けられている。回折光を検出可能な程度に集束された指向性の強いレーザを照射可能であれば、レンズ122、スリット123は、種々の構造を取り得るし、省略しても良い。
右側には、受光部130の構造を示した。受光部130には、回折しない場合のレーザ光、即ち主光束を遮断するためのナイフエッジ131およびレンズ132、光を検出するための光センサ133を備えている。
【0037】
上記構成によれば、放電音が生じていない場合には、発光部120から射出されたレーザは回折されずに受光部130に入射し、受光部130内に設けられたナイフエッジ131により遮断される。従って、このとき、光センサ133は何の光も検出しないことになる。
放電音が生じているときは、発光部120から射出されたレーザは回折して受光部130に入射する。この結果、ナイフエッジ131で遮断されることなく、光センサ133に入射することになる。
こうして光センサ133による検出結果に基づいて放電音の有無を検出することが可能となる。実際には、光センサ133による検出結果は、ノイズの影響や、放電音以外の音波による影響を受けるため、検出結果に基づいて、放電音の有無、周波数、強さなどを判断するためには解析が必要となる。
【0038】
シュリーレン法を適用する場合、ナイフエッジ131に代えて、円板131aを用いても良い。円板131aは、主光束を遮断する円形状の遮蔽物である。円板131aは、レンズ132に貼付する方法、光センサ133の表面に貼付する方法、レンズ132等とは別に主光束上に支持する方法などで取り付けることができる。
この場合も、放電音がなければ主光束は円板131aによって遮断されるため、光センサ133は光を検出しない。図の下部に示すように、光センサ133の検出結果は、円板131aに対応する部分が何も検出しないドットPとなる。
一方、放電音が存在する場合、回折光が生じるため、円板131aによって遮断されない光が光センサ133に到達する。この結果、図示するように、主光束に対応するドットPの周囲に、回折光が到達する領域aが生じることになる。
光センサ133を一つの素子で形成すれば、光センサ133の検出信号の強度に応じて領域aの有無を解析することになる。また、図の下部に示したドットP、領域aが判別できる程度の解像度で多数の光センサ133を用意し、領域aの有無を判断するようにしてもよい。
【0039】
放電音の検出は、シュリーレン法以外に光波マイクロホンを利用してもよい。
図4は、光波マイクロホンにより放電を検出する原理を示す説明図である。図3と同様に模式的に示した。
図の左側には、発光部120の構造を示している。この構造は、図3で説明したのと同様である。
図の右側には、受光部135の構造を示している。光波マイクロホンを利用する場合には、受光部135に入射する光を、光学的フーリエ変換するレンズ群136が備えられている。つまり、放電音が生じると、これによって光の位相変換を受けるため、光の周波数の変動が生じる。レンズ群136は、光学的フーリエ変換により、こうした周波数の変動を検出可能とするものである。この結果、光学的フーリエ変換の結果に基づいて、回折光の有無を検出することが可能となる。
【0040】
放電音の検出は、シュリーレン法、光波マイクロホンによる方法のいずれかを選択的に採用してもよいし、双方を組み合わせて採用してもよい。例えば、第1の方向のレーザにシュリーレン法を適用し、第2の方向のレーザに光波マイクロホンによる方法を適用する構成などが考えられる。また、シュリーレン法、光波マイクロホンによる方法以外の方法を適用することも可能である。
【0041】
図5は、発光部、受光部の構成例を示す説明図である。
図5(a)には、複数の発光部120、受光部130を配置する例を示した。具体的には、図の上下方向に発光部120[1]~120[6]および受光部130[1]~130「6」を配列し、図の左右方向に発光部120[1]~120[6]および受光部130[1]~130「6」を配列している。こうすることにより、上下左右にそれぞれ6本のレーザを照射し、それぞれで放電音を検出することが可能となる。上下左右の本数は、任意に選択可能であり、上下左右で異なる本数としてもよい。
【0042】
図5(b)には、変形例としての構成を示した。上下方向にレーザを照射する光源121A[1]を設け、これを複数本のレーザに分離するレンズ122A[1]を設ける。左右も同様に、光源121A[2]の光を、レンズ122A[2]で分離する。こうすることにより、光源121A[1]を削減し、簡易な構成で複数本のレーザ照射を実現することができる。
また、上下方向の受光部130A[1]、左右方向の受光部130A[2]は、それぞれラインセンサを用いている。こうすることにより、受光部130A[1]、130A[2]を簡易な構成とすることができる。
発光部、受光部は、種々の構成が可能であり、例えば、図5(a)で示したように複数の発光部を用いた上で、図5(b)に示した受光部130Aを用いるようにしてもよい。逆に、図5(b)の発光部を用い、図5(a)の受光部を用いるようにしてもよい。
【0043】
図6は、放電検出処理のフローチャートである。解析装置200が行う処理である。
処理を開始すると、解析装置200は、検出信号を受信し(ステップS10)、放電か否かを判定する(ステップS11)。
図中に放電の判定方法を模式的に示した。放電音によって光が位相変換を受ける場合、図示するように、周波数に応じて光の強度が検出されることになる。そして、検出対象となる放電音の周波数に該当する領域fの強度が所定の閾値を超えている場合には、放電音が生じているものと判断し、そうでない場合は、放電音は生じていないものと判断することができる。
この場合、領域f以外の周波数f1、f2、f3などにおいて、閾値を超えているとしても、ノイズその他の影響によるものであって放電音ではないと判断されることになる。
領域fは、一つに限られるものではなく、放電音のとり得る複数の周波数を対象としてもよい。
シュリーレン法を適用する場合には、検出される回折の強度が所定の閾値を超えるか否かに基づいて放電音の有無を判断することができる。
放電音の判定は、上述した方法に限らず、その他種々の方法をとることができる。
【0044】
放電音が検出されないときは(ステップS12)、放電検出処理を終了する。
放電音が検出されたときは(ステップS12)、解析装置200は、過去の検出ログを読み込み(ステップS13)、アラートの要否判定に基づきアラートを出力する(ステップS14)。アラートの要否は、例えば、過去のコロナ放電の検出回数、検出頻度などに基づいて判定することができる。アラートの出力は、例えば、予め決められた通知先にメールを送信する方法などによって行うことができる。ステップS13の処理は省略しても差し支えない。
【0045】
以上で説明した実施例の放電検出装置、および部分放電検出システムによれば、電力ケーブルなどで発生するコロナ放電を、感度良く、また精度良く検出することが可能となる。
【0046】
実施例で説明した種々の特徴は、必ずしも全て備えられている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成してもよい。
本発明は、電力ケーブルに限らず、配電盤その他種々の電力設備に適用可能である。
実施例では、複数本のレーザを照射しているが、1本のレーザをスキャンするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、電気設備で生じるコロナ放電を検出するために利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
100 移動体
101 送受信部
102 位置情報取得部
103 検出結果記憶部
110 放電検出装置
111 パラボラ
113 検出ユニット
120 発光部
121、121A 光源
122、122A レンズ
123 スリット
130、130A 受光部
131 ナイフエッジ
131a 円板
132 レンズ
133 光センサ
135 受光部
136 レンズ群
200 解析装置
201 送受信部
202 放電検出部
203 アラート部
204 センサデータベース
205 検出ログ記憶部

図1
図2
図3
図4
図5
図6