(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022253
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】計測装置、推定装置、及び計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20250206BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20250206BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20250206BHJP
G01N 33/30 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/33
G01N21/359
G01N33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126687
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399020522
【氏名又は名称】川重テクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523295316
【氏名又は名称】カワサキロボットサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】久松 治
(72)【発明者】
【氏名】福永 雄大
(72)【発明者】
【氏名】吉田(穗積) 由実
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059CC14
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF04
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ01
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
(57)【要約】
【課題】機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを簡易な構造又は簡易な方法で推定する。
【解決手段】計測装置10は、分光器13と、処理装置14と、を備える。分光器13は、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する。処理装置14は、スペクトルデータに基づいて、機械補助剤の劣化レベルを出力する。モデルは、第1学習用データとしてスペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されている。処理装置14は、モデルが出力した添加剤消費率に基づいて推定された機械補助剤の劣化レベル、又は、モデルが出力した機械補助剤の劣化レベルを出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加剤を含み、液体又は半固体であり、機械の動作の維持のために当該機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを出力する計測装置において、
可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する分光器と、
前記スペクトルデータに基づいて、前記機械補助剤の劣化レベルを出力する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、前記分光器が取得した前記スペクトルデータを入力データとしてモデルに入力し、
モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されており、
第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定された前記機械補助剤の劣化レベルを出力し、
第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データを、推定した前記機械補助剤の劣化レベルとして出力する、計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の計測装置であって、
モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率を用いて機械学習することで構築されており、
モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定された前記機械補助剤の劣化レベルを出力する、計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の計測装置であって、
モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されており、
モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データを、推定した前記機械補助剤の劣化レベルとして出力する、計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の計測装置であって、
前記モデルは、学習用データとして、環境温度が異なる複数組の前記スペクトルデータと前記添加剤消費率とを機械学習することで構築されている、計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の計測装置であって、
前記モデルの前記入力データには、前記スペクトルデータが含まれ、前記環境温度が含まれない、計測装置。
【請求項6】
請求項1に記載の計測装置であって、
内部に前記分光器が収容され、可搬性を有する筐体を備える、計測装置。
【請求項7】
請求項1に記載の計測装置であって、
内部に前記分光器が収容される筐体を備え、
前記筐体には、前記機械から取り出された前記機械補助剤が充填されるセルをセットするセット部が設けられる、計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の計測装置であって、
前記筐体の外表面に配置され、前記処理装置が出力した前記機械補助剤の劣化レベルを表示するディスプレイを備え、
前記処理装置は、前記筐体の内部に配置され、
前記処理装置は、単独で、前記モデルを用いて前記添加剤消費率を推定し、前記添加剤消費率に基づいて前記機械補助剤の劣化レベルを推定する、計測装置。
【請求項9】
請求項1に記載の計測装置であって、
前記分光器は、可視光線又は近赤外線を用いて前記機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する、計測装置。
【請求項10】
添加剤を含み、液体又は半固体であり、機械の動作の維持のために当該機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを推定する推定装置において、
可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測して取得されたスペクトルデータを受信する通信機と、
前記スペクトルデータに基づいて、前記機械補助剤の劣化レベルを推定する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、通信機が受信した前記スペクトルデータを入力データとしてモデルに入力し、
モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されており、
第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データである添加剤消費率に基づいて前記機械補助剤の劣化レベルを推定し、
第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データを、前記機械補助剤の劣化レベルの推定結果とする、推定装置。
【請求項11】
添加剤を含み、液体又は半固体であり、機械の動作の維持のために当該機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを推定する推定方法において、
可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得し、
モデルに対して、前記スペクトルデータを入力データとして入力し、
前記モデルの出力データに基づいて前記機械補助剤の劣化レベルを推定して出力し、
モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されており、
第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定された前記機械補助剤の劣化レベルを出力し、
第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記モデルの出力データを、推定した前記機械補助剤の劣化レベルとして出力する、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、主として、機械補助剤の劣化レベルを提供するための装置又は方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、機械の劣化診断装置を開示する。機械は、モータの動力をギアを介して伝達する動力伝達機構を備える。ギアにはグリスが供給されており、グリスには添加剤が添加されている。動力伝達機構でグリスが使用されるに連れて、グリスの添加剤が消費される。劣化診断装置は、機械の稼動に伴う、添加剤消費率の変化傾向を予め記憶している。劣化診断装置は、記憶した変化傾向に基づいて、添加剤消費率が予め設定された値に到達するまでの期間である余寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、蛍光X線分析法を用いて、本来は溶解されているべき添加剤がスラッジとして析出された量を計測し、この計測結果に基づいて添加剤消費率を算出することが記載されている。しかし、蛍光X線分析法を用いる場合、X線が外部に照射されることを防止する遮蔽構造が必要であること等に起因して、装置が大型化する傾向にある。更に、スラッジを抽出する処理が必要であるため、添加剤消費率を簡易に算出できない。そのため、特許文献1の方法では、添加剤消費率を簡易な構造又は簡易な方法で算出することは困難である。また、この種の課題はグリスの余寿命の推定に限られない。例えば、潤滑油、燃料油等の様々な機械補助剤を用いた劣化診断に対しても、同様の課題が存在する。
【0005】
本出願は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを簡易な構造又は簡易な方法で推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本出願の第1の観点によれば、以下の構成の計測装置が提供される。即ち、計測装置は、機械補助剤の劣化レベルを出力する。機械補助剤とは、添加剤を含み、液体又は半固体であり、機械の動作の維持のために当該機械に供給される物体である。計測装置は、分光器と、処理装置と、を備える。前記分光器は、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する。前記処理装置は、前記スペクトルデータに基づいて、前記機械補助剤の劣化レベルを出力する。前記処理装置は、前記分光器が取得した前記スペクトルデータを入力データとしてモデルに入力する。モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されている。第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定された前記機械補助剤の劣化レベルを出力する。第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データを、推定した前記機械補助剤の劣化レベルとして出力する。
【0008】
本出願の第2の観点によれば、以下の構成の推定装置が提供される。推定装置は、通信機と、処理装置と、を備える。前記通信機は、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測して取得されたスペクトルデータを受信する。前記処理装置は、前記スペクトルデータに基づいて、前記機械補助剤の劣化レベルを推定する。前記処理装置は、前記通信機が受信した前記スペクトルデータを入力データとしてモデルに入力する。モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されている。第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データである添加剤消費率に基づいて前記機械補助剤の劣化レベルを推定する。
第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記処理装置は、前記モデルの出力データを、前記機械補助剤の劣化レベルの推定結果とする。
【0009】
本出願の第3の観点によれば、以下の推定方法が提供される。即ち、推定方法では、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて前記機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する。モデルに対して、前記スペクトルデータを入力データとして入力する。前記モデルの出力データである前記添加剤消費率に基づいて前記機械補助剤の劣化レベルを推定して出力する。モデル作成時において、前記モデルは、第1学習用データとして前記スペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率、又は、当該添加剤消費率を換算した劣化レベルを用いて機械学習することで構築されている。第2学習用データとして前記添加剤消費率を用いた場合、モデル使用時において、前記モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定された前記機械補助剤の劣化レベルを出力する。第2学習用データとして前記劣化レベルを用いた場合、モデル使用時において、前記モデルの出力データを、推定した前記機械補助剤の劣化レベルとして出力する。
【発明の効果】
【0010】
本出願によれば、機械に供給される機械補助剤の劣化レベルを簡易な構造又は簡易な方法で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】添加剤消費率と鉄粉濃度の1日毎の変化を示すグラフ。
【
図3】モデル作成時の学習用データ、及び、モデル使用時の入出力データを示す説明図。
【
図4】計測装置がグリスを計測してグリス劣化レベルを出力するまでの処理を示すフローチャート。
【
図7】第4実施形態のモデル作成時の学習用データ、及び、モデル使用時の入出力データを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して本出願の実施形態を説明する。
【0013】
計測装置10は、機械に供給される機械補助剤を計測して、機械補助剤の劣化レベルを推定する装置である。本実施形態において、機械補助剤とは、機械の動作の維持のために当該機械に供給される物体である。機械の動作の維持のためとは、機械が継続して動作するために機械補助剤が必要という意味である。即ち、機械補助剤は、使い捨てではなく、機械内に留まる又は機械内を循環する。機械補助剤は、例えば、グリス、潤滑油、燃料油、冷却液、及び洗浄液である。また、グリスと潤滑油を合わせて潤滑剤と称することもできる。
【0014】
また、本実施形態の機械補助剤は、液体又は半固体であり、添加剤を含む。添加剤とは、機械補助剤の品質向上、機械補助剤の品質の劣化抑制、又は、その他の目的で機械補助剤に添加される物質である。機械補助剤が機械で使用されるに伴い、少なくとも1種類の添加剤は消費される。添加剤の消費とは、使用に伴って添加剤が揮発等により消失する場合と、添加剤の使用に伴って添加剤の組成や性質が変化する場合と、を含む。
【0015】
本実施形態では、機械補助剤の一例であるグリスを計測して、グリスの劣化レベルを推定する計測装置10について説明する。機械補助剤がグリスである場合、添加剤としては、摩擦調整剤、極圧材、又は、耐摩耗材等が添加される。具体的には、ZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)又はMoDTP(ジアルキルジチオリン酸モリブデン)等が添加剤として用いられる。なお、機械補助剤としてグリス以外を用いる場合であっても、グリスを用いる場合と同様の原理及び装置を用いて、同様の効果を実現できる。
【0016】
本実施形態では、ロボット30に複数種類のグリスが供給される。ロボット30は、工場又は倉庫等の作業場で作業を行うロボットである。ロボットは、ティーチングプレイバック型である。ティーチングプレイバック型とは、事前にロボットの動作を教示し、教示された内容に沿ってロボットが動作を繰り返すことである。ロボットは、例えば、垂直多関節又は水平多関節のアームロボットである。ただし、ロボットは、アームロボット以外のロボット、例えばパラレルリンクロボット等であってもよい。ロボットが行う作業は、例えば、組立て、溶接、塗装、機械加工、又は、運搬である。なお、本実施形態の技術内容は、ロボットに供給する機械補助剤に限られず、他の機械に供給する機械補助剤にも適用可能である。他の機械とは、例えば、工作機械、油圧機械、輸送機械、建設機械等である。
【0017】
ロボット30は、複数のアーム31と、作業ツール32と、複数の減速機33と、を備える。複数のアーム31は、互いに回転可能に連結されている。アーム31の先端には、作業ツール32が取り付けられている。作業ツール32は、マニピュレータ又はエンドエフェクタと称されることもある。ロボット30が行う作業が組立て又は運搬である場合、作業ツール32はワークを保持するハンドである。減速機33は、複数のアーム31にそれぞれ配置されている。減速機33は、モータが発生させた回転動力を減速する。減速した回転動力は、アーム31の駆動に用いられる。減速機33は複数のギアを有している。減速機33には、ギアの摩耗を低減するためにグリスが供給されている。
【0018】
ロボット30の動作に伴ってグリスは劣化する。グリスが劣化した状態でロボット30を動作させた場合、減速機33のギア同士の摩耗が激しくなり、減速機33の寿命が著しく短くなったり、減速機33が故障したりする。作業場では、減速機33に問題が生じる程度にグリスが劣化する前に、グリスを交換する。
【0019】
具体的には、作業者は、ロボット30の減速機33から古いグリスを除去した後に、新しいグリスを減速機33に供給する。しかし、一部の古いグリスが減速機33の各部に付着しているため、古いグリスを完全に除去することは困難である。また、当然ながら、古いグリスの残存量を精度良く見積もることも困難である。そのため、グリスの交換後において、古いグリスと新しいグリスの比率は不明である。従って、グリスの劣化レベルを知るためには、グリスを取り出して計測する必要がある。
【0020】
グリスの劣化レベルの推定には、
図1に示す、計測装置10及びセル20が用いられる。計測装置10及びセル20は作業場で使用されることが想定されている。作業者は、ロボット30から取り出したグリスをセル20に充填し、セル20を計測装置10にセットする。次に、作業者は、計測装置10を操作して、グリスの劣化レベルの推定を計測装置10に実行させる。以下、計測装置10及びセル20について詳細に説明する。
【0021】
計測装置10は、筐体11を備える。筐体11は略箱状の物体であり、計測装置10の外装を構成する。筐体11には、セット部12が設けられている。セット部12は、セル20をセットするための部分である。本実施形態のセット部12は、セル20を挿入してセットするための開口部である。ただし、セット部12は、本実施形態とは異なる構成であってもよい。例えば、セット部12は、セル20を載置可能な構成であってもよい。また、本実施形態のセット部12は1つのセル20をセット可能な構成であるが、複数のセル20(例えば3つのセル20)をセット可能であってもよい。この場合、筐体11又はセット部12は、複数のセルを保持して固定する保持構造(例えばクランプ構造)を有していてもよい。
【0022】
上述したとおり、計測装置10は作業場で使用される。そのため、筐体11は、可搬性を有する。可搬性とは、作業者が自ら持ち運びできるサイズを有するという意味である。筐体11は、例えば、高さ、幅、及び奥行きがそれぞれ1m以下であることが好ましく、0.5m以下、0.3m以下、又は、0.2m以下であることが更に好ましい。また、計測装置10の取扱性を高くするために、本実施形態の計測装置10を構成する機器は、筐体11の内部又は外表面に配置されている。
図1に示すように、筐体11の内部には、分光器13と、処理装置14と、バッテリー15と、が配置される。筐体11の外表面には、ディスプレイ16と、計測ボタン17と、が配置される。
【0023】
分光器13は、可視光線又は近赤外線を計測対象とする。分光器13は、計測対象であるセル20のグリスに対して、可視光線又は近赤外線のリファレンス光を照射する。リファレンス光は、グリスを透過した後に、筐体11内に配置された光学部品により適宜反射されて、再び分光器13に入射される。分光器13は、グリスを透過したリファレンス光を分光して、波長毎の光強度を計測して、スペクトルデータを取得する。リファレンス光がグリスを透過することにより、所定の波長域のリファレンス光は、グリスに吸収される。例えば、添加剤が消費された場合、所定の波長域のリファレンス光の吸収量が低下する。そのため、スペクトルデータのうち所定の波長域の光強度が大きく変化する。このように、スペクトルデータと添加剤消費率には相関性がある。なお、分光器13の計測対象は可視構成又は近赤外線に限られない。例えば、分光器13の計測対象は、紫外線又は中赤外線であってもよい。総括すると、分光器13は、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線、言い換えれば、波長が10nm以上2.5μm以下の電磁波を用いて計測を行う構成であればよい。
【0024】
処理装置14は、CPU等の演算装置と、HDD、SSD、又はフラッシュメモリ等の記憶装置と、入出力装置と、を備える。記憶装置には、グリスの劣化レベルを推定するためのプログラム及び各種パラメータが記憶されている。演算装置は、記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、グリスの劣化レベルを推定するための様々な処理を行う。演算装置は、例えば、分光器13に計測を開始させる処理、分光器13から取得したスペクトルデータに基づいてグリスの劣化レベルを推定する処理、及び、グリスの劣化レベルを示すテキストをディスプレイ16に表示させる処理等を行う。入出力装置は、処理装置14に入力されたデータの信号処理、及び、処理装置14が作成して出力するデータの信号処理等を行う。処理装置14が行う処理の詳細は後述する。
【0025】
バッテリー15は、電力を蓄える。バッテリー15は、分光器13及び処理装置14とそれぞれ接続されており、電力を供給する。また、筐体11には、バッテリー15を充電するためのコネクタが設けられる。なお、計測装置10は、バッテリー駆動に限られず、外部から有線で電力が供給される構成であってもよい。
【0026】
ディスプレイ16は、液晶ディスプレイ、又は、有機ELディスプレイである。ディスプレイ16は、ドットマトリクス型であってもよいし、セグメント型であってもよい。ディスプレイ16は、処理装置14が出力したデータに基づいて、情報を表示する。ディスプレイ16が表示する情報は、例えば、計測の進捗状況、及び、グリスの劣化レベル等である。なお、ディスプレイ16は必須の構成要素ではない。計測装置10は、外部の端末のディスプレイにグリスの劣化レベルを表示させてもよい。
【0027】
計測ボタン17は、グリスの劣化レベルの計測の開始を作業者が指示するためのボタンである。計測ボタン17は、処理装置14と電線等により接続されている。計測ボタン17が操作されることにより、所定の電気信号が処理装置14に供給される。これにより、処理装置14は、計測ボタン17の操作状態を検出可能である。処理装置14は、計測ボタン17が操作されたことを検出した場合、分光器13に指示して、グリスの計測を開始する。なお、ディスプレイ16と計測ボタン17の機能をまとめて、タッチパネルとして実現してもよい。
【0028】
セル20は分光器が取り扱う波長の光を透過可能な材料で構成されている。セル20は、下ケース21と上ケース22とで構成されている。下ケース21と上ケース22は係合可能である。下ケース21には、溝21aが形成されている。溝21aは、深さが一定である。ロボット30から取り出されたグリスは溝21aに充填される。グリスは半固体であるため、重力で厚さが一定となりにくい。この点、深さが一定の溝21aにグリスを充填させることにより、グリスの厚さを一定にすることができる。これにより、分光器13による計測の精度を高くすることができる。
【0029】
次に、
図2を参照して、グリスの添加剤消費率とグリスの劣化レベルの関係を説明する。
【0030】
図2は、特許文献1に示されている耐久試験の結果を示すグラフである。
図2のグラフの横軸は日数であり、縦軸は添加剤消費率と鉄粉濃度である。鉄粉濃度とは、グリスに含まれる鉄粉の濃度である。グリスが劣化してギア同士の摩耗が激しくなることで、鉄粉濃度が増加する。
図2のグラフに示すように、添加剤消費率は日数に対して線形で増加する。そのため、傾きと切片が特定できれば、添加剤消費率の将来的な変化傾向を推定できる。例えば、日数を空けてグリスの計測を2回行うことにより、添加剤消費率の傾きと切片が特定できるので、添加剤消費率の将来的な変化傾向を推定できる。あるいは、ロボット30の種類、及び、ロボット30が行う作業の種類、及びグリスの種類等の条件が同じ場合は、添加剤消費率は同じ変化傾向を示すと考えられる。そのため、予め日数に応じたグリスの添加剤消費率の計測を行って記録しておくことにより、1度の計測で添加剤消費率の将来的な変化傾向を推定できる。
【0031】
日数又は添加剤消費率が低い場合は鉄粉濃度は0%近傍を維持する。その後、所定の日数を超えたタイミング、言い換えれば添加剤消費率が所定の割合を超えたタイミングで、鉄粉濃度及び添加剤消費率は増加し始め、その後に、鉄粉濃度が急激に増加する。鉄粉濃度が急激に増加する原因は、グリスの寿命に達し、グリスが機能を発揮していないことに起因する。このように、添加剤消費率とグリスの寿命の相関性は高く、添加剤消費率を特定することにより、グリスの劣化レベルを精度良く推定できる。
【0032】
以上をまとめると、ロボット30から取り出したグリスの添加剤消費率を特定することにより、グリスの劣化レベルを推定できる。更に、グリスの添加剤消費率を、処理装置14が記憶する添加剤消費率の変化傾向(即ち、
図2の黒丸のグラフ)と比較することにより、グリスの寿命を推定することができる。
【0033】
次に、
図3を参照して、グリスの添加剤消費率の推定方法を説明する。
【0034】
処理装置14は、機械学習により構築されたモデルを用いて、添加剤消費率を推定する。
図3には、モデル作成時の学習用データが示されている。学習用データは、グリスを計測して得られたスペクトルデータと、グリスの添加剤消費率と、を1組にしたデータである。本実施形態では、第1学習用データがスペクトルデータであり、第2学習用データが添加剤消費率である。スペクトルデータと添加剤消費率が相関性があることは上述したとおりである。学習用データは、添加剤消費率が異なる複数組のデータを含む。また、グリスを計測する場所の温度又はグリス自体の温度を環境温度と称する。環境温度が異なる場合、所定の波長域の光の吸収量が変化するため、添加剤消費率が同じであったとしても、スペクトルデータは異なる。そのため、本実施形態では、環境温度が異なるスペクトルデータを学習用データに含めている。ただし、環境温度は学習用データに含めなくてもよい。
【0035】
作業場では複数種類のグリスが用いられる。そのため、学習用データとして用いられるスペクトルデータには、複数種類のグリスのスペクトルデータが含まれる。グリスの種類に応じてスペクトルデータに若干の相違があるが、学習用データを充実させることにより、十分な精度を有するモデルを構築できる。複数種類のグリスのスペクトルデータをまとめて学習させることにより、複数種類のグリスに対して利用可能なモデルを構築できるので、モデルを構築する作業を軽減できる。
【0036】
学習用の添加剤消費率は、以下の方法で計測できる。即ち、特許文献1に記載されているように、グリスの添加剤のスラッジを抽出して蛍光X線分析法を行うことにより、本来溶解されているべき添加剤がスラッジとして析出された量が計測できる。この計測結果に基づいて添加剤消費率を算出できる。つまり、学習用の添加剤消費率は、計測装置10とは異なる機器で計測された添加剤消費率である。なお、蛍光X線分析法で用いる装置は、X線が外部に照射されることを防止する遮蔽構造が必要であること等から、装置サイズが大きくなる傾向がある。また、蛍光X線分析法に代えて、フーリエ変換赤外分光法を用いた分光分析を行ってもよい。以下では、フーリエ変換赤外分光法をFT-IRと称する。FT-IRを行うことにより、添加剤に起因するスペクトルのピークを計測できる。そのため、添加剤に起因するスペクトルのピークの強度に基づいて、添加剤消費率を算出できる。なお、FT-IRでは、可視光線又は近赤外線よりも波長が長い中赤外線が用いられるため、光学系が複雑又は大型になり、装置サイズが大きくなる傾向がある。なお、学習用のスペクトルデータは、学習用の添加剤消費率の計測に用いたグリスを、計測装置10で計測することで得られる。
【0037】
上記の学習用データを用いて機械学習を行う。添加剤消費率は正解に相当するため、この機械学習は教師あり学習である。機械学習を行うことにより、スペクトルデータと添加剤消費率の関係性が学習される。使用可能な機械学習の種類は様々であるが、例えば、部分的最小二乗法又は主成分分析法を用いることができる。本実施形態で用いる機械学習は深層学習ではないが、深層学習を用いてもよい。
【0038】
上述したFT-IRを用いる場合は、添加剤に起因するスペクトルのピークを計測できる。これに対し、計測装置10は可視光線又は近赤外線を用いた分光分析を行うため、添加剤に起因するスペクトルのピークを精度良く計測することは困難である。しかし、上述したように、計測装置10で計測できるスペクトルデータは添加剤消費率と相関性を有する。そして、機械学習を用いることにより、計測装置10で計測できるスペクトルデータと添加剤消費率の関係が学習される。その結果、計測装置10で計測できるスペクトルデータを用いて、添加剤消費率を十分な精度で推定することができる。
【0039】
また、環境温度がスペクトルデータに及ぼす影響は、添加剤消費率がスペクトルデータに及ぼす影響とは、異なる。言い換えれば、環境温度が異なっていても、添加剤消費率が同じであれば、スペクトルデータは共通の特徴を有する。従って、環境温度を学習用データに含めることは必須ではない。
【0040】
本実施形態では、構築されたモデルは処理装置14が記憶する。
図3に示すように、モデル使用時には、モデルにスペクトルデータが入力される。入力されるスペクトルデータは、分光器13が計測して取得したスペクトルデータである。ここで、モデルは、スペクトルデータと添加剤消費率の関係を学習したものである。従って、モデルにスペクトルデータを入力することにより、モデルは、推定した添加剤消費率を出力できる。つまり、モデル使用時において出力される添加剤消費率は、計測装置10の処理装置14を用いて推定された添加剤消費率である。上述したように、グリスの劣化レベルと添加剤消費率の相関性は高い。そのため、予め、劣化レベルと添加剤消費率を対応させたデータを取得しておくことにより、添加剤消費率から劣化レベルに換算できる。この処理を行う構成を換算器と称する。本実施形態では、モデルが推定した添加剤消費率を換算器に入力することにより、グリスの劣化レベルが得られる。計測装置10は、このようにして求めた劣化レベルを出力する。
【0041】
次に、
図4を参照して、計測装置10がグリスを計測して、グリス劣化レベルを推定して出力する処理を説明する。
図4のフローチャートは、処理装置14によって実行される。
【0042】
作業者は、グリスを交換した後に、減速機33のギアを少し動かす等して、古いグリスと新しいグリスとを混合する。次に、作業者は、減速機33のグリスの一部を取り出し、セル20に充填する。作業者は、グリスを充填したセル20をセット部12にセットし、計測ボタン17を操作する。なお、グリスを計測するタイミングは、グリスの交換時に限られず、例えばグリスの交換から所定期間が経過した後であってもよい。
【0043】
処理装置14は、計測指示があったか否かを判定する(S101)。この判定は、計測ボタン17が操作されたか否かに基づいて判定できる。処理装置14は、計測指示があったと判定した場合、分光器13に指示してグリスを計測させてスペクトルデータを取得する(S102)。
【0044】
次に、処理装置14は、取得したスペクトルデータをモデルに入力して(S103)、モデルが出力した添加剤消費率を取得する(S104)。
【0045】
次に、処理装置14は、添加剤消費率に基づいてグリスの劣化レベルを推定する(S105)。この処理には、上述した換算器が用いられる。グリスの劣化レベルとは、グリスが劣化した程度を間接的又は直接的に示す指標である。劣化レベルとしては、例えば、パーセント表記、段階表記、又は、余寿命が用いられる。
【0046】
劣化レベルをパーセント表記する場合、推定した添加剤消費率に基づいてグリスの劣化レベルを特定できる。なぜなら、添加剤消費率の増加に応じて鉄粉濃度(即ち、故障が生じるリスク)が増加するからである。なお、添加剤消費率は線形に変化するため、データが得られていない箇所を容易に補間できる。
【0047】
劣化レベルを段階表記する場合、処理装置14は、添加剤消費率を複数段階に区分し、区分毎に劣化レベルを設定する。例えば、添加剤消費率を10%刻みで10段階に区分し、0%から10%を段階1、10%から20%を段階2というように各段階を設定してもよい。そして、処理装置14は、推定した添加剤消費率が含まれる区分の段階を、劣化レベルとして用いる。
【0048】
劣化レベルを余寿命として表記する場合、処理装置14は、以下の処理を行う。即ち、処理装置14は、添加剤消費率の変化傾向を予め記憶している。処理装置14は、推定した添加剤消費率と、添加剤消費率の変化傾向と、に基づいて、添加剤消費率が所定値となるまでの日数である余寿命を計算する。処理装置14は、計算して得られた余寿命を劣化レベルとして用いる。なお、劣化レベルの表記は上述した例に限られず、例えば鉄粉濃度であってもよい。具体的には、処理装置14は、
図2のグラフ等で示される添加剤消費率と鉄粉濃度の関係に基づいて鉄粉濃度の推定値を算出し、算出した鉄粉濃度の推定値を劣化レベルとして表記してもよい。
【0049】
次に、処理装置14は、ステップS105で推定したグリスの劣化レベルをディスプレイ16に出力する(S106)。ディスプレイ16は、処理装置14が出力したデータを表示する。
【0050】
このように、本実施形態では、処理装置14が単独で、添加剤消費率を推定してグリスの劣化レベルを推定する。そのため、計測装置10を外部機器に接続する必要がないので、作業者の手間を軽減できる。
【0051】
本実施形態では、グリスを実際に計測してグリスの劣化レベルを推定する。そのため、残存した古いグリスの影響を加味した劣化レベルを作業者に知らせることができる。また、グリスの交換後に所定期間が経過した後にグリスを計測する場合は、ロボット30が実際に行った動作や環境温度等を加味した劣化レベルを作業者に知らせることができる。従って、ロボット30の動作履歴のみに基づいてグリスの劣化を判断する方法と比較して、精度が高いグリスの劣化レベルを作業者に知らせることができる。
【0052】
上述したように、蛍光X線分析法又はFT-IRを用いた計測を行うためには、大型の計測装置が必要となる。そのため、蛍光X線分析法又はFT-IRは、作業場ではなく分析試験場で行われることが一般的である。仮に、ロボット30からグリスを取り出して、作業場から離れた位置にある分析試験場等に持ち込む場合、グリスの劣化レベルが判明するまでにタイムラグが生じる。また、グリスを運搬する手間も掛かる。
【0053】
一方で、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測は、蛍光X線分析法で必要な遮蔽部材が不要であり、かつ、FT-IRと比較してSN比が高いため光学系が単純又は小型である。また、近年では、可視光線又は近赤外線を用いた分光器のMEMS化が進んでいるため、装置サイズが小さい。そのため、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測で添加剤消費率が計測できれば、グリスを分析試験場に持ち込むことなく、作業場でグリスの劣化レベルを推定できる。しかし、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測では、添加剤に起因するスペクトルのピークを精度良く計測できない点が課題となる。この点、本実施形態では、蛍光X線分析法又はFT-IRを用いて得られた添加剤消費率を学習用データとして機械学習を行う。これにより、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測で得られるスペクトルデータに基づいて添加剤消費率を精度良く計測することが可能である。言い換えれば、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測よりも精度が高い計測方法を用いて得られたデータを学習用データとして学習することにより、可視光線又は近赤外線を用いた分光計測の簡易性のメリットを実現しつつ、精度が高い計測方法と遜色ない精度で計測を行うことができる。従って、本実施形態の計測装置10を用いることにより、作業場でグリスの劣化レベルを推定できる。その結果、グリスの劣化レベルが推定されるまでのタイムラグが大幅に短くなり、かつ、グリスを運搬する手間を省略できる。
【0054】
次に、
図5を参照して、第2実施形態について説明する。
【0055】
第1実施形態の計測装置10は、必要な全ての機器が1つの筐体11に配置されている。これに対し、第2実施形態の計測装置10では、筐体11にPC40を接続した構成である。
【0056】
筐体11には、セル20をセットするためのセット部12が形成されている。第2実施形態のセット部12は、セル20を載置するための面である。セット部12には、光を透過可能な窓部が形成されている。また、本実施形態では、下ケース21に上ケース22を係合した後に、更にホルダ23が係合される。ホルダ23の上面と下面には開口があり、当該開口には、標準反射板24が取り付けられる。標準反射板24は、反射特性が既知であり、リファレンスとして用いられる。
【0057】
筐体11の内部には、分光器13が配置されている。分光器13は、ホルダ23の下面の開口を介してセット部12にセットされたセル20にリファレンス光を照射し、その反射光を分光して波長毎の光強度を計測することで、スペクトルデータを取得する。なお、ホルダ23の下面に開口を形成する構成に代えて、ホルダ23の下面を省略してもよい。この場合、例えば、ホルダ23には、セル20を挿入可能かつ挿入されたセル20を保持可能なガイドが設けられる。
【0058】
筐体11には、PC40が接続されている。PC40は、スペクトルデータに基づいてグリスの劣化レベルを推定する推定装置として機能する。通信機41と、処理装置42と、ディスプレイ43と、を備える。通信機41は、有線通信モジュール又は無線通信モジュールであり、外部機器と通信する。具体的には、通信機41は、分光器13からスペクトルデータを受信する処理を行う。処理装置42は、第1実施形態の処理装置14と同様の構成であり、同様の処理を行う。即ち、処理装置42は、上述したモデルを記憶しており、スペクトルデータに基づいて添加剤消費率を推定する。更に、処理装置42は、推定した添加剤消費率に基づいてグリスの劣化レベルを推定して、ディスプレイ43に出力する。ディスプレイ43は、第1実施形態のディスプレイ16と同じ用途及び機能を有する。
【0059】
第2実施形態では、作業者はPC40を操作してグリスの計測指示を行う。分光器13がグリスを計測して取得したスペクトルデータは、PC40の処理装置42に出力される。処理装置42は、第1実施形態と同じ方法で、グリスの劣化レベルを推定し、ディスプレイ43に表示する。
【0060】
第2実施形態では、汎用的に用いられるPC40が計測装置10の一部を構成する。従って、計測装置10のコストを低減できる。
【0061】
次に、
図6を参照して、第3実施形態について説明する。
【0062】
第3実施形態は、第1実施形態の処理装置14が行う処理の一部を、インターネット等のワイドエリアネットワークを介して接続されたサーバ52が行う。第3実施形態の計測装置10は、ネットワーク通信を行うための通信機18を備える。通信機18は、有線通信モジュール又は無線通信モジュールである。通信機18は、同じLAN内に配置されたルータ51を介して、サーバ52と通信可能である。
【0063】
第3実施形態では、計測装置10は、分光器13がグリスを計測して取得したスペクトルデータをサーバ52に送信する。
【0064】
サーバ52は、スペクトルデータに基づいてグリスの劣化レベルを推定する推定装置として機能する。サーバ52は、通信機52aと、処理装置52bと、を備える。通信機52aは、有線通信モジュール又は無線通信モジュールであり、計測装置10と通信する。処理装置52bは、上述したモデルを記憶しており、スペクトルデータに基づいて添加剤消費率を推定する。更に、処理装置52bは、推定した添加剤消費率に基づいてグリスの劣化レベルを推定する。サーバ52は、推定したグリスの劣化レベルを計測装置10に送信する。
【0065】
処理装置14は、サーバ52から受信したグリスの劣化レベルをディスプレイ16に出力する。
【0066】
第3実施形態では、モデルがサーバ52に設けられる。そのため、処理装置14に要求されるスペックを抑えることができる。また、モデルがサーバ52に設けられることにより、複数の計測装置10でモデルを共用できる。更に、モデルを追加学習等により更新した場合、サーバ52のモデルを更新するだけでよい。
【0067】
次に、
図7を参照して、第4実施形態について説明する。
【0068】
第4実施形態では、第1学習用データがスペクトルデータであり、第2学習用データが劣化レベルである。
図7に示すように、モデル作成時において、学習用の劣化レベルは、計測装置10とは異なる機器で計測された添加剤消費率を上述した換算器で換算した値である。第1実施形態と第2実施形態のモデル作成時の処理の違いは第2学習用データのみであり、他の処理は第1実施形態と同じである。
【0069】
図7に示すように、モデル使用時には、モデルにスペクトルデータが入力される。入力されるスペクトルデータは、分光器13が計測して取得したスペクトルデータである。ここで、モデルは、スペクトルデータと劣化レベルの関係を学習したものである。従って、モデルにスペクトルデータを入力することにより、モデルは、推定した劣化レベルを出力する。従って、第4実施形態では、モデル使用時に換算器を用いる必要がない。
【0070】
上述した第1実施形態から第4実施形態の特徴を適宜組み合わせることができる。例えば、モデルがサーバ52に設けられるという第3実施形態の特徴を第2実施形態に組み合わせることができる。また、モデルが劣化レベルを出力するという第4実施形態の特徴を、第2又は第3実施形態に組み合わせることができる。
【0071】
以上に説明したように、上記実施形態の計測装置10は、機械補助剤の劣化レベルを出力する。機械補助剤とは、添加剤を含み、液体又は半固体であり、機械の動作の維持のために機械に供給される物体である。計測装置10は、分光器13と、処理装置14,42と、を備える。分光器13は、可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いて機械補助剤を分光計測してスペクトルデータを取得する。処理装置14,42は、スペクトルデータに基づいて、機械補助剤の劣化レベルを出力する。処理装置14,42は、分光器13が取得したスペクトルデータを入力データとしてモデルに入力する。第1実施形態では、モデル作成時において、モデルは、第1学習用データとしてスペクトルデータを用いて、第2学習用データとして添加剤消費率を用いて機械学習することで構築されている。そして、モデル使用時において、第1実施形態の処理装置14は、モデルの出力データである推定した添加剤消費率に基づいて推定されたグリスの劣化レベルを出力する。第4実施形態では、モデル作成時において、モデルは、第1学習用データとしてスペクトルデータを用いて、第2学習用データとして劣化レベルを用いて機械学習することで構築されている。モデル使用時において、第4実施形態の処理装置14は、モデルの出力データを、推定したグリスの劣化レベルとして出力する。以上が特徴1である。また、第2学習用データとして添加剤消費率を用いる場合が特徴2であり、第2学習用データとして劣化レベルを用いる場合が特徴3である。
【0072】
可視光線、近赤外線、中赤外線又は紫外線を用いた分光計測を行うことにより、蛍光X線分析法を行う場合と比較して、簡易な構造又は簡易な方法で計測を行うことができる。
【0073】
また、可視光又は近赤外光を用いた分光計測を行う場合、FT-IRと比較して、簡易な構造又は簡易な方法で計測を行うことができる。特に、可視光又は近赤外光を用いた分光計測では、添加剤の消費に伴うスペクトルの変化を直接的に検出できない可能性がある。しかし、機械学習で構築されたモデルを用いることにより、添加剤消費率を十分な精度で推定できる。
【0074】
上記実施形態の計測装置10において、モデルは、学習用データとして、環境温度が異なる複数組のスペクトルデータと添加剤消費率とを機械学習することで構築されている。以上が特徴4である。
【0075】
これにより、モデル使用時の環境温度の影響を軽減して、添加剤消費率を推定できる。
【0076】
上記実施形態の計測装置10において、モデルの入力データには、スペクトルデータが含まれ、環境温度が含まれない。以上が特徴5である。
【0077】
これにより、学習用データをシンプルにすることができる。モデル使用時にも環境温度を入力する必要がないため、モデル使用時の処理をシンプルにすることができる。
【0078】
本実施形態の計測装置10において、内部に分光器13が収容され、可搬性を有する筐体11を備える。以上が特徴6である。
【0079】
これにより、作業場での計測に適した計測装置10を実現できる。
【0080】
本実施形態の計測装置10は、内部に分光器13が収容される筐体11を備える。筐体11には、機械から取り出された機械補助剤が充填されるセル20をセットするセット部12が設けられる。以上が特徴7である。
【0081】
これにより、作業者がセル20をセットする作業の作業性を高くすることができる。
【0082】
本実施形態の計測装置10は、筐体11の外表面に配置され、処理装置14が出力した機械補助剤の劣化レベルを表示するディスプレイ16,43を備える。処理装置14は、筐体11の内部に配置される。処理装置14は、単独で、モデルを用いて添加剤消費率を推定し、添加剤消費率に基づいて機械補助剤の劣化レベルを推定する。以上が特徴8である。
【0083】
これにより、外部と通信することなく機械補助剤の劣化レベルを推定できる。
【0084】
本実施形態の計測装置10において、分光器13は、可視光線又は近赤外線を用いて機械補助剤を分光計測して分光器13を取得する。
【0085】
可視光線又は近赤外線を用いることにより、中赤外線を用いるFT-IR等と比較して、光学系を簡易又は小型化したり、装置サイズを小さくできる。なお、学習用データの作成時にFT-IR等を用いる場合は、計測精度の高さと装置構成の簡易性を両立できる。
【0086】
上述した特徴1から特徴8は矛盾が生じない限り、適宜組み合わせることができる。例えば、特徴N(N=1,2,・・・,9)には、特徴1から特徴N-1までの少なくとも1つを適宜組み合わせることができる。
【0087】
以上に本出願の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0088】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、グリスの劣化レベルをディスプレイに出力する処理に代えて、作業者が証有する端末にグリスの劣化レベルを出力してもよい。
【0089】
上記実施形態で示したモデルの作成方法は一例であり、異なる学習用データを用いてモデルを作成してもよい。例えば、環境温度を複数レベルに区分して、同じレベルの環境温度毎に学習用データを学習させてモデルを作成してもよい。また、1種類のグリスのスペクトルデータを学習させて、グリスの種類毎にモデルを構築してもよい。
【0090】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するように構成又はプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、又はユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【符号の説明】
【0091】
10 計測装置
11 筐体
12 セット部
13 分光器
14 処理装置
15 バッテリー
16 ディスプレイ
17 計測ボタン
40 PC(推定装置)
52 サーバ(推定装置)