(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022356
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】臭気抑制方法及び臭気抑制システム
(51)【国際特許分類】
A61L 9/20 20060101AFI20250206BHJP
E03D 13/00 20060101ALI20250206BHJP
A47K 17/00 20060101ALI20250206BHJP
A47K 4/00 20060101ALI20250206BHJP
A47K 1/04 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61L9/20
E03D13/00
A47K17/00
A47K4/00
A47K1/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126830
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【テーマコード(参考)】
2D037
2D039
2D132
4C180
【Fターム(参考)】
2D037EA00
2D039AA04
2D132GA00
4C180AA05
4C180BB06
4C180BB07
4C180BB12
4C180DD03
4C180HH17
4C180HH19
4C180LL04
4C180MM01
(57)【要約】
【課題】ウレアーゼを効果的に失活させることができる臭気抑制方法及び臭気抑制システムを提供する。
【解決手段】臭気抑制方法は、ウレアーゼが残留する物体表面に対して、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射する。また、臭気抑制システムは、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射する光源を備え、光源は、ウレアーゼが残留する物体表面に紫外光を照射するものであり、光源は、物体表面を構成する物体、又は当該物体に隣接する場所に組み込まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレアーゼが残留する物体表面に対して、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射することを特徴とする臭気抑制方法。
【請求項2】
前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量を50mJ/cm2以上とすることを特徴とする請求項1に記載の臭気抑制方法。
【請求項3】
前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量は、紫外光の照射開始から1週間の経過時点で50mJ/cm2以上となるように、紫外光の照射動作を決定することを特徴とする請求項2に記載の臭気抑制方法。
【請求項4】
前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量を100mJ/cm2以上とすることを特徴とする請求項1に記載の臭気抑制方法。
【請求項5】
ウレアーゼが残留する物体表面は、トイレ内の空間に形成されており、
便器の内面であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の臭気抑制方法。
【請求項6】
ウレアーゼが残留する物体表面は、トイレ内の空間に形成されており、
便器周辺の表面であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の臭気抑制方法。
【請求項7】
ウレアーゼが残留する物体表面は、浴室内の空間に形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の臭気抑制方法。
【請求項8】
ウレアーゼが残留する物体表面は、洗面所内の空間に形成されており、
洗面ボウルの内面であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の臭気抑制方法。
【請求項9】
ウレアーゼが残留する物体表面は、汚物処理室内に形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の臭気抑制方法。
【請求項10】
主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射する光源を備え、
前記光源は、ウレアーゼが残留する物体表面に紫外光を照射するものであり、
前記光源は、前記物体表面を構成する物体、又は当該物体に隣接する場所に組み込まれていることを特徴とする臭気抑制システム。
【請求項11】
前記物体は、便器、ユニットバス、洗面ボウル、汚物流しの何れかである請求項10に記載の臭気抑制システム。
【請求項12】
前記物体は、壁又は床であり、前記光源は、前記壁又は床に埋設されていることを特徴とする請求項10に記載の臭気抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気抑制方法及び臭気抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
公衆トイレ等では、尿素が残留することによるアンモニア及びアミン類等の生成物による臭気の発生が問題となる。例えば、アンモニアの生成は、菌の代謝物であるウレアーゼと尿素が反応して生成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウレアーゼは、エタノールや次亜塩素酸等では失活することができない。また、ウレアーゼの活性を阻害し得る界面活性剤が知られているが(例えば、下記特許文献1)、界面活性剤は、ウレアーゼに長時間に亘って触れていないと効果が得られず、実用的ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ウレアーゼを効果的に失活させることができる臭気抑制方法及び臭気抑制システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る臭気抑制方法は、ウレアーゼが残留する物体表面に対して、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射することを特徴とする。
【0007】
主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射することで、ウレアーゼを効果的に失活させることができる。その結果、アンモニアの生成を抑制し、臭気を抑制することができる。
【0008】
本明細書において、「ウレアーゼが残留する物体表面」とは、ウレアーゼが存在し、尿素と反応することでアンモニアが発生する可能性のある物体表面を指す。
【0009】
本明細書において、「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。
【0010】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量を50mJ/cm2以上とすることが好ましい。
【0011】
紫外光の積算照射量を50mJ/cm2以上とすることで、物体表面に残留するウレアーゼを効果的に失活させることができる。
【0012】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量は、紫外光の照射開始から1週間の経過時点で50mJ/cm2以上となるように、紫外光の照射動作を決定することが好ましい。
【0013】
臭気を早期に抑制する観点からは、多くの紫外光を短時間で照射するのが好ましいが、人体への照射量を所定の基準以下に制限させたい場合を考慮すると、人が存在する際の紫外光の照射量が低くなるよう光強度や点灯時間を設定するか、または非照射とするよう制御しつつ、人が不在のときにより多くの紫外光を照射するよう光強度や点灯時間を設定する制御とすることが望ましい。この場合、人検知部からの検知信号に基づいて動作制御が行える。その際、人が不在のタイミングにおいて短期間で紫外光の積算照射量が50mJ/cm2以上を達成するように動作させても良い。
【0014】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、前記物体表面に対する前記紫外光の積算照射量を100mJ/cm2以上とすることが好ましい。
【0015】
紫外光の積算照射量を100mJ/cm2以上とすることで、物体表面に残留するウレアーゼをより効果的に失活させることができる。
【0016】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、ウレアーゼが残留する物体表面は、トイレ内の空間に形成されており、便器の内面であってもよい。トイレ内の空間に配置される便器の内面には、尿に由来する尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制方法が有用である。
【0017】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、ウレアーゼが残留する物体表面は、トイレ内の空間に形成されており、便器周辺の表面であってもよい。トイレ内の空間に配置される便器周辺の表面、具体的には、床や壁の表面には、飛散した尿に由来する尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制方法が有用である。
【0018】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、ウレアーゼが残留する物体表面は、浴室内の空間に形成されていてもよい。浴室内に配置される物体の表面、具体的には、浴槽、床、壁等の表面には、尿や汗に由来する尿素や、化粧品に含まれる尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制方法が有用である。
【0019】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、ウレアーゼが残留する物体表面は、洗面所内の空間に形成されており、洗面ボウルの内面であってもよい。洗面所内に配置される洗面ボウルの内面には、尿や汗に由来する尿素や、化粧品に含まれる尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制方法が有用である。
【0020】
また、本発明に係る臭気抑制方法において、ウレアーゼが残留する物体表面は、汚物処理室内に形成されていてもよい。汚物処理室内に配置される物体の表面には、尿に由来する尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制方法が有用である。
【0021】
本発明に係る臭気抑制システムは、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射する光源を備え、
前記光源は、ウレアーゼが残留する物体表面に紫外光を照射するものであり、
前記光源は、前記物体表面を構成する物体、又は当該物体に隣接する場所に組み込まれていることを特徴とする。
【0022】
主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を照射することで、ウレアーゼを効果的に失活させることができる。その結果、アンモニアの生成を抑制し、臭気を抑制することができる。
【0023】
また、本発明に係る臭気抑制システムにおいて、前記物体は、便器、ユニットバス、洗面ボウル、汚物流しの何れかであってもよい。便器、ユニットバス、洗面ボウル、汚物流しの表面には、尿素が存在するため、本発明に係る臭気抑制システムが有用である。
【0024】
また、本発明に係る臭気抑制システムにおいて、前記物体は、壁又は床であり、前記光源は、前記壁又は床に埋設されていてもよい。この構成によれば、光源を例えば天井に設置する場合に比べ、ウレアーゼが残留する物体表面に紫外光を効果的に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る臭気抑制方法及び臭気抑制システムの実施が想定される公衆トイレの一例を模式的に示す図
【
図4】別実施形態に係る公衆トイレを模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る臭気抑制方法及び臭気抑制システムの実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0027】
図1は、本発明に係る臭気抑制方法及び臭気抑制システムの実施が想定される公衆トイレの一例を模式的に示す図面である。臭気抑制方法及び臭気抑制システムは、物体表面に対して、光源1から紫外光Lを照射する。
【0028】
トイレ10の壁面には、例えば小便器11が備えられている。また、小便器11の下方には、側溝12が備えられている。側溝12の上部は、グレーチング13で覆われている。また、小便器11の下部の床には、汚垂れ石14が貼られている。また、トイレ10の床には、床タイル15が貼られている。トイレ10の天井には、光源1が設置されている。
【0029】
トイレで発生する臭気は、大便又は尿に由来する。特に利用人数が多い駅舎のトイレ等では、尿から生成されるアンモニアが問題となることが多い。アンモニアの生成原理としては、次のようになっている。
【0030】
まず、尿中の尿素が菌の代謝物であるウレアーゼによって分解されてアンモニウムイオンになる。次いで、アンモニウムイオンの濃度上昇によってpHが上昇する。次いで、pが上昇して、例えばpHが7を超えると、アンモニウムイオンがアンモニアとなって臭気が発生する。
【0031】
ウレアーゼは、ウレアーゼ産生菌によって産生される。ウレアーゼ産生菌としては、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス属菌(Proteus mirabilis、Proteus vulgaris)、モルガネラ菌(Morganella morganii)、クレブシエラ属菌(Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca)等が挙げられる。すなわち、アンモニアの生成に関わるウレアーゼ及びウレアーゼ産生菌の量を減少させることで、アンモニアの生成量を抑制することができる。これにより、公衆トイレ等で清掃が行き届いていない場所において、アンモニア臭の問題を抑制することができる。
【0032】
緑膿菌は、身近な生活環境に存在する細菌であるが、上記のように、緑膿菌から産生されたウレアーゼが、尿素と反応してアンモニアが生成されて問題となる。残留するウレアーゼによってアンモニアが生成され得る場所としては、トイレの他、浴室、洗面所、病院等の汚物処理室が挙げられる。トイレでは主に尿に由来する尿素、浴室及び洗面所では尿や汗に由来する尿素や化粧品に含まれる尿素、汚物処理室では主に尿に由来する尿素がアンモニアの発生源になり得る。よって、トイレ内、浴室内、洗面所内、汚物処理室内の空間に配置されている物体の表面に残留するウレアーゼを失活することにより、結果的にアンモニアの生成を抑制できる。
【0033】
ウレアーゼが25℃、pH7の条件下にて1minで尿素からアンモニウムイオンを1μmol生じさせる量を1unitと定義したとき、換気条件等によっても異なるが、例えばトイレ10において、ウレアーゼが1000unit以上存在するとき、アンモニア臭が知覚されやすい。物体表面にウレアーゼがどの程度残留しているかは、例えば、市販のウレアーゼ活性測定キットにより測定することができる。
【0034】
本発明者は、臭気抑制方法に関する研究を進める中で、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光は、人体への有害性が低い波長帯域であるのに加えて、さらにウレアーゼを失活させる効果が高いことを見出した。また、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光は、ウレアーゼ産生菌を殺菌する効果も有する。よって、本発明に係る臭気抑制方法は、ウレアーゼが残留する物体表面に対して、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光Lを照射する。臭気抑制方法は、好ましくは、ウレアーゼが残留する物体表面に対して、主たる発光波長が200~230nmの波長帯域に属する紫外光Lを照射する。
【0035】
図2は、ウレアーゼの光吸収特性を示す実測グラフであり、殺菌線として知られている254nmの吸光度を「1」としたときの吸光度比を示している。また、
図3は、ウレアーゼの失活特性を示すグラフである。
図2に示すように、ウレアーゼは、短波長ほど光をよく吸収する特性を有する。特に、波長240nmよりも短波長帯域の紫外光は、たんぱく質の吸光度が顕著に高くなることが知られており、酵素であるウレアーゼの吸光度も顕著に高くなることが
図2から読み取れる。また、波長240nmの紫外光は波長254nmと比較して吸光度が1.2倍高いことが分かる。さらに波長235nmでは吸光度が1.3倍高く、波長230nmでは吸光度が1.4倍高くなることが示されている。
【0036】
また、
図3に示すように、主たる発光波長が222nmの紫外光は、主たる発光波長が254nmの紫外光に比べて、極めて高い失活効果を有することが分かる。これは、ウレアーゼが短波長ほど光をよく吸収し、ピーク波長である222nmの吸光度比は1.6倍高く、さらに、短波長のほうがフォトンエネルギーが高いため、222nmの紫外光は、254nmの紫外光に比べて、ウレアーゼの失活特性が大きく上昇したものと考えられる。
【0037】
波長が240nm未満の紫外光は、人体に対する影響が低いことが知られている。なお、人体に対する影響を更に低下させる観点からは、光源1から発せられる紫外光Lの主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属するのがより好ましく、主たる発光波長が200~230nmの波長帯域に属するのがより好ましい。これは、残留するウレアーゼをより効果的に失活させる観点からも好ましい。
【0038】
図3に示すように、主たる発光波長が222nmの紫外光は、積算照射量が30mJ/cm
2で約87%のウレアーゼが失活し、積算照射量が50mJ/cm
2で約93%のウレアーゼが失活し、積算照射量が100mJ/cm
2で略100%のウレアーゼが失活する。よって、紫外光の積算照射量は、30mJ/cm
2以上とすることが好ましく、50mJ/cm
2以上とすることがより好ましく、100mJ/cm
2以上とすることが特に好ましい。なお、主たる発光波長が222nmの紫外光は、積算照射量が5mJ/cm
2程度でウレアーゼ産生菌を不活化することが可能である。これにより、新たにウレアーゼが産生されることを抑制できる。
【0039】
本実施形態の臭気抑制システムは、紫外光Lを照射する光源1を備えている。ウレアーゼが残留する物体表面に対して、光源1から紫外光Lが照射される。
図1の例では、物体表面は、トイレ10内の空間に形成されており、小便器11の内面、又は小便器11周辺の表面(側溝12、グレーチング13、汚垂れ石14、床タイル15、壁等の表面)である。
【0040】
なお、
図1に示す例では、光源1が天井に取り付けられているが、光源1は天井や壁に埋設されてもよい。埋設されている場合には、少なくとも紫外光Lが取り出される面が、紫外光Lに対して透過性を示す材料で覆われているものとしてよい。
【0041】
光源1は、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光Lを発する構成である。一例として、光源1はエキシマランプで構成される。エキシマランプは、発光ガスが封入された放電容器を備えている。発光ガスは、エキシマ発光時に主発光波長が190~240nmである紫外光Lを出射する材料からなる。一例として、発光ガスとしては、KrClが含まれる。発光ガスにKrClが含まれる場合には、エキシマランプから主ピーク波長が222nm又はその近傍の紫外光Lが出射される。
【0042】
なお、本明細書において、「主ピーク波長」とは、発光スペクトル上において光強度が最大値を示す波長を指す。また、本明細書において、「主たる発光波長」とは、発光スペクトル上において光強度が主ピーク波長における光強度の50%以上を示す波長を指す。
【0043】
ただし、光源1としては、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光を発する構成であれば、その態様は限定されない。すなわち、光源1は、エキシマランプに代えて、LEDやレーザダイオード等の固体光源で構成されていても構わない。
【0044】
臭気抑制システムは、光源1の動作を制御する点灯制御部(図示していない)を備えている。また、臭気抑制システムは、トイレ10の空間に存在する人体を検知する人検知部(図示していない)を備えていてもよい。人検知部は、例えば、光学式のセンサや、カメラ等である。
【0045】
上述のとおり、主たる発光波長が200~235nmの波長帯域に属する紫外光は、殺菌線である254nmの紫外光と比較して、ウレアーゼの吸光度が相対的に高く、当該波長帯域に属する紫外光を物体表面に照射することで、ウレアーゼの失活を促進することが期待できる。このとき、物体表面に対する紫外光Lの積算照射量は、紫外光Lの照射開始から1週間の経過時点で50mJ/cm2以上となるように、紫外光Lの照射動作を決定することが好ましい。ここで、紫外光Lの照射動作とは、紫外光の照度や照射時間等である。
例えば、人が存在するときの点灯動作サイクルを基本とし、日中の活動時間を8時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、活動時間Z[28800秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]が、7.2mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、1週間の経過時点で50mJ/cm2以上を達成することができる。
また、例えば、人が不在時の点灯動作サイクルを基本とし、夜間等の不在時間を5時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、不在時の点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、休止時間Z[18000秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]が、7.2mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、1週間の経過時点で50mJ/cm2以上を達成することができる。
なお、達成したい照射量が100mJ/cm2以上であれば、1日の想定照射量が14.3mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、実効的な照射動作が行える。
【0046】
また、物体表面に対する紫外光Lの積算照射量は、紫外光Lの照射開始から48時間の経過時点で50mJ/cm2以上となるように、紫外光Lの照射動作を決定することがより好ましい。ウレアーゼの失活のみならず、ウレアーゼ産生菌の増殖を抑制する観点からは、48時間以内に十分な量の紫外光Lを照射することが望まれる。
例えば、人が存在するときの点灯動作サイクルを基本とし、日中の活動時間を8時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、活動時間Z[28800秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]が、25mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、48時間の経過時点で50mJ/cm2以上を達成することができる。
また、例えば、人が不在時の点灯動作サイクルを基本とし、夜間等の不在時間を5時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、不在時の点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、休止時間Z[18000秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]が、25mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、48時間の経過時点で50mJ/cm2以上を達成することができる。
なお、達成したい照射量が100mJ/cm2以上であれば、1日の想定照射量が50mJ/cm2以上となる照射動作とすることで、実効的な照射動作が行える。
【0047】
また、より短時間でウレアーゼを失活させることは望ましく、物体表面に対する紫外光Lの積算照射量は、紫外光Lの照射開始から24時間の経過時点で50mJ/cm2以上となるように、紫外光Lの照射動作を決定してもよい。これにより産生されたウレアーゼの多くを一日のうちに失活させることができ、異臭が知覚されることをより効果的に防ぐことができる。
例えば、人が存在するときの点灯動作サイクルを基本とし、日中の活動時間を8時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、活動時間Z[28800秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]を50mJ/cm2以上となる照射動作とする。
また、人が不在時の点灯動作サイクルを基本とし、夜間等の不在時間を5時間と想定した場合の実効的な照射動作を採用しても良い。具体的には、物体表面に照射される紫外光の照度X[mW/cm2]と、不在時の点灯動作サイクルのONデューティ比Y[点灯時間/点灯周期]と、休止時間Z[18000秒]をそれぞれ乗算した1日の想定照射量[mJ/cm2]を50mJ/cm2以上となる照射動作とする。
なお、達成したい照射量が100mJ/cm2以上であれば、上記同様に、1日の想定照射量を100mJ/cm2以上となる照射動作に設定する。
【0048】
また、紫外光Lは、連続して照射される必要はなく、間欠的に照射されてもよい。また、人が不在のときには紫外光Lを所定の照射動作で実行し、人が存在するときには紫外光Lの照度を下げるようにしてもよい。
さらに、人が不在のときは、紫外光Lの積算照射量が目標値に達するまで所定の照射動作を持続し、目標値に達した後は、光源1を消灯するようにしてもよい。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよい。
【0051】
上記の実施形態においては、トイレ10内の小便器11が配置されているが、大便器が配置されていてもよい。
【0052】
上記の実施形態においては、光源1が天井に取り付けられているが、これに限定されない。光源1は、天井に埋設されてもよい。
【0053】
また、光源1は、小便器11又は小便器11に隣接する場所に組み込まれていてもよい。例えば、光源1は、
図4に示すように、小便器11の底面に配置されていてもよい。これにより、側溝12やグレーチング13の表面に紫外光Lを効果的に照射することができる。
【0054】
また、例えば、光源1は、
図4に示すように、床に埋設されていてもよい。ここでは、光源1は、汚垂れ石14に埋設されているが、床タイル15に埋設されていてもよい。また、図示しないが、例えば、光源1は、壁に埋設されていてもよい。さらに、図示しないが、例えば、光源1は、小便器11に埋設されていてもよい。埋設されている場合には、少なくとも紫外光Lが取り出される面が、紫外光Lに対して透過性を示す材料で覆われているものとしてよい。光源1は、トイレ10内に少なくとも1つ設けられる。
【0055】
上記の実施形態においては、臭気抑制方法及び臭気抑制システムの実施が想定される場所として、トイレ10を示しているが、これに限定されない。臭気抑制方法及び臭気抑制システムは、例えば、浴室、洗面所、汚物処理室等で実施されてもよい。ウレアーゼが残留する物体としては、ユニットバス(浴槽を含む)、洗面ボウル、汚物流しが例示される。
【符号の説明】
【0056】
1 :光源
10 :トイレ
11 :小便器
12 :側溝
13 :グレーチング
14 :汚垂れ石
15 :床タイル
L :紫外光