(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022373
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】耐火物層の破砕方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20250206BHJP
F27D 25/00 20100101ALI20250206BHJP
B22D 41/02 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
F27D1/16 T
F27D25/00
B22D41/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126879
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】小原 祐司
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直己
(72)【発明者】
【氏名】阮 方
【テーマコード(参考)】
4E014
4K051
4K056
【Fターム(参考)】
4E014BB02
4K051AA06
4K051AB03
4K051AB05
4K051LH03
4K056AA06
4K056CA02
4K056EA08
(57)【要約】
【課題】容器の内面の耐火物層の劣化層を短時間で破砕、除去することができる方法を提供する。
【解決手段】内面に耐火物層を有する容器を補修するにあたり、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する耐火物層の破砕方法であって、前記容器の内面の第一の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第一の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第1破砕工程と、前記容器の内面の、前記第一の方向と交わる第二の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第二の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第2破砕工程とを含む、耐火物層の破砕方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に耐火物層を有する容器を補修するにあたり、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する耐火物層の破砕方法であって、
前記容器の内面の第一の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第一の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第1破砕工程と、
前記容器の内面の、前記第一の方向と交わる第二の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第二の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第2破砕工程とを含む、耐火物層の破砕方法。
【請求項2】
前記第2破砕工程の後に、前記容器の内面の、前記第一の経路と前記第二の経路によって囲まれた未破砕領域において前記耐火物層の少なくとも一部が剥離したか否か判定する判定工程と、
前記未破砕領域において前記耐火物層の剥離が生じていなかった場合に、前記未破砕領域を通る第三の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記未破砕領域の前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する追加破砕工程とを、さらに含む、請求項1に記載の耐火物層の破砕方法。
【請求項3】
前記破砕工具は破砕装置の一端に設けられており、
前記破砕装置の他端には反力支持装置が設けられており、
破砕を行う際には、前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕工具を押し付けるとともに、前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付ける、請求項1または2に記載の耐火物層の破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に耐火物層を有する容器を補修するにあたり、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する耐火物層の破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の内容物を保持するための容器には、内容物の熱から容器本体を保護するため、内面にライニングとしての耐火物層が設けられることが一般的である。このような耐火物層を有する容器としては、例えば、溶融金属を保持するための容器(以下、「溶融金属容器」という)が挙げられる。
【0003】
しかし、そのような容器を使用していると、高温の内容物と接触することによる損耗や、熱衝撃などに起因する構造的スポーリング(亀裂、剥離)のため、前記耐火物層の表層が次第に劣化する。そのため、前記耐火物層の機能を維持するためには、定期的に補修を行う必要がある。
【0004】
耐火物層を補修する方法としては、不定形耐火物を吹き付ける方法が一般的に用いられている。しかし、劣化した耐火物層の上に不定形耐火物を吹き付けた場合、補修後の耐火物層の内部に、劣化した耐火物層(以下、劣化層という)と新しい耐火物層の界面が残存することになる。また、劣化した耐火物層の表面には、容器を使用していた際に付着した溶融金属やスラグなどの滓(ビルドアップ)が付着していることもある。そのため、補修した後に容器を使用する中で、表面側の新しい耐火物層に亀裂が生じると、該亀裂を通じて溶融金属などが劣化層と新しい耐火物層の界面まで侵入し、新しい耐火物層が剥離してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、上記剥離を防ぐために、耐火物層の補修にあたっては、補修する箇所の表面をはつって、劣化層や、耐火物層の表面に付着した滓を除去した後に、不定形耐火物を吹き付けることが行われている。
【0006】
劣化層を除去する方法としては、例えば、油圧ブレーカーなどの大型重機を用いる方法が挙げられる。しかし、そのような大型の重機を用いた場合、不定形耐火物の下地として設けられている定形耐火物(耐火レンガ)を損傷させてしまう場合がある。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1では、溶融金属容器内面のライニングを吹き付け補修する際に、上述したような重機ではなく、破砕工具を備える補修装置により予め耐火物層表面の劣化層を全面にわたり除去・解体することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、一般的な破砕工具のサイズは直径200~300mm程度であるため、特許文献1で提案されている方法のように、破砕工具によって溶融金属容器内面の耐火物層表面の劣化層を全面にわたり破砕、除去しようとすると、長時間を要するという問題があった。
【0010】
例として、高さ1900mm、幅1200mmの長方形の領域の耐火物層を、破砕工具によって破砕、除去する場合について説明する。
図1は、前記領域の全体を破砕工具によって破砕する場合の、破砕工具の移動経路の一例を示す模式図である。前記破砕工具は、直径200mmの円形の領域Sの耐火物層を破砕できるものとする。
【0011】
まず、破砕を開始する地点である前記領域の左上に破砕工具を移動させ、当該位置の耐火物層を破砕する。その後、破砕工具を右方向へ100mm移動させ、移動後の位置において耐火物層を破砕する。以上の工程を、破砕工具が領域の右端に到達するまで繰り返す。これにより、横方向(水平方向)に1段分の耐火物層が破砕される。この例の場合、1段分の耐火物を破砕するために必要な破砕の回数は11回である。
【0012】
なお、破砕を行う際には、破砕工具を耐火物層に押し当てて、円形の領域Sの耐火物層を所望の深さまで破砕する。その後、残存する耐火物層と接触しない位置まで破砕工具を後退させてから、当該破砕工具を移動させる。
【0013】
次に、破砕工具を下方向へ移動させる。具体的には、まず破砕工具を85mm下方へ移動させ、その位置で破砕を行った後、再度、破砕工具を85mm下方へ移動させる。
【0014】
次いで、当該位置の耐火物層を破砕する。その後、破砕工具を左方向へ100mm移動させ、移動後の位置において耐火物層を破砕する。前記工程を、破砕工具が領域の左端に到達するまで繰り返す。
【0015】
以上の全工程を繰り返すことにより、破砕工具を左右に往復させつつ領域のほぼ全体を破砕することができる。この例の場合、縦方向に13段分の破砕が行われる。したがって、11回×13段分の破砕に加え、下方向へ移動する途中に行う11回の破砕の、合計154回の破砕を行う必要がある。ここでは、1900mm×1200mmという比較的狭い領域を破砕する場合を例に挙げたが、実際の容器、とくに工業用に用いられる溶融金属容器などを補修する際には、容器内面全体を補修することもあるため、耐火物層の破砕にかなりの時間を要することになる。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、容器の内面の耐火物層の劣化層を短時間で破砕、除去することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を行った結果、耐火物層の劣化にともなって形成される背面クラックを利用することにより、容器の内面全体の耐火物層を破砕せずとも、劣化層を効率的に除去できることを見出した。
【0018】
ここで、一般的な溶融金属容器において耐火物層にクラックが形成される過程を、図面を参照して説明する。
図2は、容器1の内面に設けられた耐火物層10が、溶融金属と接触することにより経時的に劣化し、最終的に部分的な剥離が生じる様子を示した断面模式図である。なお、符号20は、金属製の容器本体部を表す。なお、容器1が取鍋などの溶融金属容器である場合、容器本体部20は鉄皮と称される。
【0019】
図2(a)に示したように、溶融金属との接触により、耐火物層10の表面に表層クラック11が発生する。そして、
図2(b)に示すように、表層クラック11に溶融金属が浸潤した浸潤層12が耐火物層10の表層部に形成され、耐火物層10の内部方向(矢印A)へ成長する。一方、耐火物層10の表面上には、スラグ等の滓が付着してビルドアップ層13が形成され、耐火物層10の外部方向(矢印B)へ成長する。なお、本明細書では、溶融金属が浸潤した層を「浸潤層」、前記浸潤層とビルドアップ層とを併せたものを「劣化層」という。すなわち、「浸潤層」は「劣化層」に含まれる。
【0020】
やがて、劣化していない耐火物層10と浸潤層12との熱膨張係数の違いにより、
図2(c)に示したように耐火物層10と浸潤層12との間の界面付近に背面クラック14が発生する。発生した背面クラック14は、耐火物層10と浸潤層12との間の界面に沿って次第に成長し、その結果、劣化していない耐火物層10と浸潤層12との間の界面で剥離が生じやすい状態となる。
【0021】
この状態でさらに容器1を使用し続けると、最終的には
図2(d)に示したように背面クラック14と表層クラック11とが連結する。そしてその結果、
図2(e)に示したように、表層クラック11と背面クラック14とで囲まれた部分の浸潤層12およびビルドアップ層13が剥離する。剥離が生じた部分では、健全な耐火物層10が表面に露出した状態となるため、さらにその部分から耐火物層10の劣化が進行する。
【0022】
このように、容器の使用にともなって耐火物層の内部にはクラックが形成されるため、 補修に供される容器においては、
図2(c)、(d)に示したように背面クラックの存在により浸潤層が剥離しやすい状態となっている部分が存在する。そのような部位においては、当該部位を破砕工具で破砕しなくても、その周囲を囲むように破砕することで剥離が生じる場合がある。
【0023】
本発明は上述した背面クラックに起因する剥離現象を利用したものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
【0024】
1.内面に耐火物層を有する容器を補修するにあたり、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する耐火物層の破砕方法であって、
前記容器の内面の第一の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第一の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第1破砕工程と、
前記容器の内面の、前記第一の方向と交わる第二の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定された第二の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第2破砕工程とを含む、耐火物層の破砕方法。
【0025】
2.前記第2破砕工程の後に、前記容器の内面の、前記第一の経路と前記第二の経路によって囲まれた未破砕領域において前記耐火物層の少なくとも一部が剥離したか否か判定する判定工程と、
前記未破砕領域において前記耐火物層の剥離が生じていなかった場合に、前記未破砕領域を通る第三の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記未破砕領域の前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する追加破砕工程とを、さらに含む、上記1に記載の耐火物層の破砕方法。
【0026】
3.前記破砕工具は破砕装置の一端に設けられており、
前記破砕装置の他端には反力支持装置が設けられており、
破砕を行う際には、前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕工具を押し付けるとともに、前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付ける、上記1または2に記載の耐火物層の破砕方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、第一の経路および第二の経路に沿って容器の内面の耐火物層の劣化層の少なくとも一部を破砕する。これにより、第一の経路と第二の経路とによって囲まれた領域の耐火物層の劣化層の剥離が誘発され、容器の内面全体の耐火物層を破砕することなく劣化層を除去することができる。そしてその結果、補修に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】耐火物層の全面を破砕工具によって破砕する場合の、破砕工具の移動経路の一例を示す模式図である。
【
図2】耐火物層にクラックが形成される過程を示す模式図である。
【
図3】第一の実施形態における破砕工具の移動経路の一例を示す模式図である。
【
図4】第二の実施形態における破砕工具の移動経路の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の好適な実施形態の例について述べたものであり、本発明は以下に説明する実施態様に限定されるものではない。また、本明細書で言及していない要素については、従来の補修方法と同様とすることができる。
【0030】
[容器]
本発明は、内面に耐火物層を有する容器を対象とする。前記容器としては、少なくとも内面に耐火物層を有するものであれば任意の容器を対象とできる。前記容器は、例えば、金属製の容器本体部と、前記容器本体部の内面に設けられた耐火物層を備えていてもよい。容器本体部は、典型的には鋼製であり、鉄皮とも称される。また、耐火物層は内張(ライニング)とも称される。
【0031】
前記容器は、例えば、溶融金属用容器であってよい。前記溶融金属用容器としては、溶銑鍋、溶鋼の取鍋、精錬容器などが挙げられる。
【0032】
本発明は、任意の材質および構造を有する耐火物層に適用できる。したがって、前記容器の内面に設けられた耐火物層は、耐火物で構成された層であれば任意の材質および構造であってよい。
【0033】
また、ライニングとしての耐火物層を、パーマレンガと称される定形耐火物の層と、不定形耐火物の層とで構成することも一般的に行われている。例えば、典型的な溶融金属用容器は、鉄皮と称される金属製の容器本体部と、前記容器本体部の内面に設けられた定形耐火物(パーマレンガ)の層と、前記定形耐火物層の内面に設けられた不定形耐火物の層とを備えており、前記定形耐火物の層と前記不定形耐火物の層とにより耐火物層が構成されている。本発明は、上記のような構造を有する耐火物層の補修にも好適に用いることができる。
【0034】
なお、本発明は容器を補修するにあたって、耐火物層を破砕、除去することを意図したものである。したがって、前記容器は、使用済みの容器であってよい。また、前記耐火物層は、少なくとも表面の一部が劣化していてよい。
【0035】
容器の形状は特に限定されないが、典型的には、上方に開口を有し、水平断面が円形である容器であってよい。容器の水平断面が円形である場合、内径が一定である容器、すなわち円筒形状の容器であってもよい。また、底部から上方にかけて(上に行くにしたがって)内径が大きくなる形状(逆円錐台形状など)の容器であってもよい。
【0036】
[破砕工具]
本発明においては、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する。これにより、劣化した耐火物層や、該耐火物層の表面に付着したビルドアップを除去することができる。
【0037】
前記破砕工具としては、とくに限定されず、耐火物層を破砕できるものであれば任意のものを用いることができる。典型的には、回転力および衝撃力の一方または両方を付与することにより耐火物層を破砕する破砕工具が使用することができる。破砕工具としては、例えば、油圧ドリフターを好適に用いることができる。
【0038】
本発明においては、上述したような内面に耐火物層を有する容器を補修するにあたり、前記耐火物層の少なくとも一部を破砕工具により破砕する。以下、具体的な実施形態に基づいて本発明における破砕方法の例を説明する。
【0039】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態における耐火物層の破砕方法は、第一の経路に沿って破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第1破砕工程と、第二の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する第2破砕工程とを含む。以下、前記各工程について説明する。
【0040】
・第1破砕工程
まず、第1破砕工程では、第一の経路に沿って破砕工具を移動させつつ耐火物層の少なくとも一部を破砕する。なお、本発明において、破砕工具を移動させつつ耐火物層を破砕するとは、破砕工具を連続的に移動させた状態で同時に破砕を行う態様のみならず、破砕工具を断続的に移動させる合間に破砕を行う態様も包含するものとする。典型的には、
図1の説明においても述べたように、破砕工具を耐火物層に押し当てて該耐火物層を所望の深さまで破砕し、次いで、残存する耐火物層と接触しない位置まで破砕工具を後退させ、その後、当該破砕工具を移動させるという一連の動作を繰り返し行うことが好ましい。
【0041】
上記第1破砕工程において破砕工具を移動させる経路である第一の経路は、容器の内面の第一の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定されていることが重要である。破砕工具により全体を破砕する場合には、
図1に示したように破砕されない部分をなくすために破砕される領域が重なり合うように破砕工具の移動経路を設定する。これに対して本発明では、意図的に、破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて移動経路を設定する。
【0042】
前記第一の方向は、とくに限定されず任意の方向であってよい。経路の設定しやすさの観点からは、前記第一の方向は、上下方向(鉛直方向)または左右方向(水平方向)であることが好ましい。なお、実際の容器の内面は曲面であるため、前記左右方向は、容器の内周方向ということができる。また、容器の内周方向に破砕工具を移動させる場合、容器の水平方向の中心を回転軸として、破砕工具を回転させればよい。そのため、前記左右方向は、回転方向と言い換えることもできる。
【0043】
また、第1破砕工程において左右方向に破砕を行った場合、次の第2破砕工程を実施する前に、経路と経路の間の破砕されない領域(未破砕領域)の耐火物層が剥離して落下する場合がある。耐火物は非常に重い材料であるため、面積の大きい耐火物が落下すると危険である。そのため、前記第一の方向は上下方向であることがより好ましい。
【0044】
・第2破砕工程
次いで、第2破砕工程では、第二の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ前記耐火物層の少なくとも一部を破砕する。ここで、前記第二の経路は、前記容器の内面の、前記第一の方向と交わる第二の方向に沿って、前記破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔をあけて設定される。前記第二の方向は、前記第一の方向と交差する方向であれば任意の方向とすることができる。前記第一の方向と第二の方向のなす角はとくに限定されないが、経路の設定しやすさの観点からは、前記第二の方向は前記第一の方向と直交する方向であることが好ましい。例えば、第一の方向が上下方向である場合、第二の方向は左右方向であることが好ましい。
【0045】
上記第1破砕工程と第2破砕工程による破砕を行うと、第一の経路と第二の経路とで囲まれた、破砕工具が通過しない領域、すなわち破砕工程による破砕が行われない領域(未破砕領域)が形成される。ここで、先述したように、劣化していない耐火物層と劣化した耐火物層(劣化層)との間には、熱膨張係数の違いに起因する背面クラックが存在している。そのため、周囲を囲むように破砕を行うことにより未破砕領域の耐火物層の剥離が誘発される。背面クラックを起点として剥離が生じた場合、当該部分では劣化層が除去され、健全な耐火物層が露出するため、破砕工具を用いた耐火物層の除去を行う必要がなくなる。これにより、容器の内面全体の劣化層を効率よく除去することができ、補修に要する時間を短縮できる。
【0046】
図3は、本実施形態における破砕工具の移動経路の一例を示す模式図であり、
図3(a)が第1破砕工程を、
図3(b)が第2破砕工程を、それぞれ表している。なお、
図1と同じく、対象の領域は高さ1900mm、幅1200mmの長方形とし、使用する破砕工具は直径200mmの円形の領域Sの耐火物層を破砕できるものとする。
【0047】
まず、
図3(a)に示す第一の経路30に沿って破砕工具を移動させつつ耐火物層の少なくとも一部を破砕する。具体的には、対象領域の上から下にかけて、破砕工具を100mmピッチで移動させつつ破砕を行う。次いで、
図3(b)に示す第二の経路40に沿って破砕工具を移動させつつ耐火物層の少なくとも一部を破砕する。具体的には、対象領域の左から右または右から左にかけて、破砕工具を100mmピッチで移動させつつ破砕を行う。その結果、格子状に破砕が行われ、破砕が行われなかった未破砕領域50の耐火物層の剥離が誘発される。
【0048】
図3に示したケースでは、第1破砕工程において19×3=57回の破砕が行われ、第2破砕工程では8×4=32回の破砕が行われる。したがって、合計の破砕回数は89回であり、
図1に示したケースの154回に比べ、大幅に破砕回数を減らすことができる。
【0049】
第1破砕工程および第2破砕工程における破砕工具の移動ピッチ(1回あたりの移動距離)は、とくに限定されないが、
図3に示したように、隣接する破砕領域同士が重なり合うようにすることが好ましい。例えば、破砕工具は円形の領域の耐火物層を破砕する場合、移動ピッチは前記領域の直径より小さくすることが好ましい。一方、移動ピッチが過度に小さいと効率が低下する。そのため、移動ピッチは前記領域の半径以上とすることが好ましい。移動ピッチは前記領域の半径とすることがより好ましい。
【0050】
第一の経路30同士の間の間隔31および第二の経路40同士の間の間隔41は、破砕工具により破砕される領域が重ならないように互いに間隔があいていればとくに限定されない。しかし、剥離させる耐火物層が巨大であると、該耐火物層が落下した際に補修装置や容器内面に衝突し、破損を招くおそれがある。そのため、間隔31および間隔41は、2m以下とすることが好ましい。一方、過度に間隔が小さいと剥離に要する時間が増加する。そのため、間隔31および間隔41は、0.3m以上とすることが好ましい。なお、間隔31および間隔41は、同じであっても異なっていてもよい。また、第一の経路30は、等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。同様に、第二の経路40は、等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。
【0051】
なお、
図3(a)に示した例では、常に上から下へ破砕工具を移動しているが、移動距離を短くするという観点からは、上から下に移動した後は下から上へ移動させるというように、移動方向を交互に反転させることも好ましい。
【0052】
また、
図3では、1900mm×1200mmの長方形の領域の耐火物層を破砕、除去する場合を例として示したが、破砕の対象とする領域は任意に設定することができる。例えば、容器の内面全体を対象領域とすることもできる。その場合、例えば、内周方向に360°回転するように破砕工具を移動させれば、元の位置に戻ってくる。そのため、
図3(b)のように、左右に往復するような移動経路とする必要はとくになく、同じ方向に移動させてもよい。
【0053】
・破砕深さ
上記第1破砕工程および第2破砕工程において耐火物層を破砕する際には、該耐火物層の少なくとも一部を破砕すればよく、破砕深さはとくに限定されない。ここで、破砕深さとは、耐火物層の厚さ方向のどの位置(深さ)まで耐火物層を破砕するかを指すものとする。しかし、上述したように、背面クラックは劣化層と健全な耐火物層との間の界面付近で成長する。そのため、破砕工具によって耐火物層を破砕する際には、少なくとも前記界面まで破砕を行うことが好ましい。すなわち、破砕工具の先端が劣化層を超えて健全な耐火物層に到達するように破砕を行うことが好ましい。このように、成長した背面クラックが存在している界面まで破砕を行うことで、背面クラックを起点とした劣化層の剥離をより誘発しやすくなる。
【0054】
破砕深さを制御する方法はとくに限定されず、任意の方法で制御すればよい。例えば、健全な耐火物層に到達するために必要な目標破砕深さを予め設定しておき、それに従って破砕を行ってもよい。目標破砕深さは、例えば、容器の使用履歴(使用回数、使用時間など)や、容器内面の3次元形状の測定結果などから、劣化層の厚さを推定し、それに基づいて決定してもよい。
【0055】
(第二の実施形態)
上記第一の実施形態の説明で述べたように、上記第1破砕工程と第2破砕工程による破砕を行うことにより、背面クラックを起点とする剥離が誘発され、第一の経路と第二の経路とで囲まれた未破砕領域の耐火物層の一部(劣化層)が剥離する。このような未破砕領域の剥離が生じるためには、当該未破砕領域において背面クラックがある程度成長していることが望ましい。
【0056】
しかし、背面クラックの成長状態は、容器の使用状況など各種の条件によって変動するため、場合によっては、背面クラックが十分に存在しないために未破砕領域の剥離が生じないこともありえる。また、成長したクラックが未破砕領域に存在しているか否かを非破壊で(例えば、外観や容器内面の表面の3次元形状などから)判断することは困難である。そのため、複数の未破砕領域それぞれの剥離が実際に生じるかどうかを予め予測することは困難である。
【0057】
そこで、この問題を解決するために、本発明の第二の実施形態においては、上述した第一の実施形態における第1破砕工程および第2破砕工程に加え、さらに判定工程と追加破砕工程を実施する。以下、これらの工程について説明する。なお、特に言及しない点については、上記第一の実施形態と同様とすることができる。
【0058】
・判定工程
本実施形態では、後述する追加破砕工程を実施することにより、剥離が生じなかった未破砕領域についても、耐火物層を破砕するか、または剥離を生じさせる。前記追加破砕工程を実施するためには、未破砕領域において剥離が生じたか否かを判定する必要がある。そこで、上記第2破砕工程の後に判定工程を実施して、前記容器の内面の、前記第一の経路と前記第二の経路によって囲まれた未破砕領域において前記耐火物層の少なくとも一部(典型的には劣化層)が剥離したか否か判定する。なお、未破砕領域が複数存在する場合、判定工程では、前記複数の未破砕領域のそれぞれについて、剥離が生じたか否かを判断することが好ましい。
【0059】
判定を行う方法はとくに限定されず、任意の方法で行うことができる。例えば、作業者が目視またはカメラなどで撮影した画像を用いて判断を行ってもよく、また、何らかの測定データなどを解析することにより自動的に判定を行ってもよい。判定に使用する測定データとしては、とくに限定されないが、例えば、容器内面を撮影した画像データや容器内面の3次元形状データなどが挙げられる。前記3次元形状データは、プロファイルセンサやフォトグラメトリなど、3次元形状を測定できる任意の方法で取得することができる。
【0060】
・追加破砕工程
上記判定工程を行った後、次に追加破砕工程を実施する。この追加破砕工程では、前記未破砕領域において前記耐火物層の剥離が生じていなかった場合に追加の破砕を行う。前記追加の破砕は、剥離が生じていないと判定された未破砕領域を通る第三の経路に沿って前記破砕工具を移動させつつ行われる。
【0061】
前記第三の経路は、剥離が生じていないと判定された未破砕領域を通るものであればとくに限定されないが、当該未破砕領域を、2またはそれ以上の領域に分割するように設定された経路であることが好ましい。また、前記第三の経路は、第一の経路および第二の経路のいずれとも異なる方向(角度)であってもよいが、第一の経路と第二の経路のいずれかに並行であることが好ましい。
【0062】
以上のように、第三の経路に沿って破砕工具を移動させつつ未破砕領域の耐火物層を破砕することにより、剥離せずに当該未破砕領域に残存していた耐火物層の剥離が誘発される。
【0063】
なお、上記追加破砕工程を経てもまだ未破砕領域の剥離が生じないことも想定される。そこで、そのような場合を考慮して、上記判定工程と追加破砕工程は、2セット以上繰返し実施してもよい。判定工程と追加破砕工程を繰返し行う場合、その繰返し回数は、とくに限定されず、任意の回数とすることができる。前記繰返し回数は、予め定めておくこともできるが、判定工程において、剥離が生じていない未破砕領域が存在しないと判断されるまで繰り返すことが好ましい。
【0064】
図4は、本実施形態における破砕工具の移動経路の一例を示す模式図である。
図4(a)、
図4(b)は、それぞれ第1破砕工程および第2破砕工程を表した図であり、この2つの工程は基本的に
図3で説明した第一の実施形態と同様である。また、その他の条件についても
図3と同様とする。
【0065】
ただし、この例では、
図4(b)に示すように、第2破砕工程後に形成された6つの未破砕領域50a~50fのうち、50aと50bについては耐火物層が剥離したが、50c~50fの4箇所では耐火物層が剥離しなかったものとする。
【0066】
そこで、まず判定工程を実施して、耐火物層の剥離が生じていなかった未破砕領域(50c~50f)を特定する。
【0067】
次に、
図4(c)に示すように、耐火物層の剥離が生じていなかった未破砕領域(50c~50f)を通る第三の経路に沿って、破砕工具を移動させつつ耐火物層を破砕する(追加破砕工程)。なお、この例では、第三の経路は第二の経路と並行、すなわち水平方向とし、かつ、4つの未破砕領域50c、d、e、fを、それぞれ上下方向に等分するように設定した。
【0068】
これで判定工程と追加破砕工程をそれぞれ1回行ったことになるが、この例では、さらに2回目の判定工程を実施する。その結果、
図4(c)に示すように、追加破砕工程において、未破砕領域50c2、50f1の耐火物層(劣化層)は剥離したものの、残りの未破砕領域では剥離しなかったことが分かる。
【0069】
したがって、剥離しなかった未破砕領域の耐火物層を剥離するため、2回目の追加破砕工程を実施する。なお、この例では、剥離しなかった未破砕領域(50c1など)の上下方向の幅が破砕工具の直径よりも小さいため、2回目の追加破砕工程では当該未破砕領域の全面にわたって耐火物層を破砕することとなる。そしてその結果、1900mm×1200mmの領域全体の耐火物層(劣化層)が破砕または剥離により除去できたことになる。なお、この例では、
図4(d)に示すように、未破砕領域50a、50b、50c2、50f1については背面クラックを起点とする剥離により、破砕を行うことなく劣化層を除去できたこととなる。
【0070】
[反力支持装置]
なお、上記第一の実施形態と第二の実施形態のいずれにおいても、破砕を行う際に反力支持装置を使用することが好ましい。以下、この反力支持装置を用いる場合について説明する。
【0071】
破砕工具を用いて耐火物層を破砕するためには、破砕工具を耐火物層に押し付ける必要がある。その際、破砕工具や、該破砕工具を支持する部材(以下、破砕装置と総称する)には反作用により反対向きの力(反力)がかかることになる。この反力によって破砕装置が変形すると、破砕工具の位置がずれることとなり、耐火物層を除去する範囲(深さ)を制御する精度が低下する場合がある。
【0072】
そこで、破砕装置の一端に破砕工具を設けるとともに、前記破砕装置の他端に反力支持装置を設ける。そして、破砕を行う際には、容器の対向する内面の一方の面に前記破砕工具を押し付けるとともに、前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付ける。このように、破砕装置の破砕工具と反対の側を反力支持装置により支えることで、反力による装置の変形と、それに起因する破砕工具の位置ずれを防止することができる。そして、その結果、耐火物層を除去する範囲を極めて正確に制御することが可能となる。
【0073】
反力支持装置の構造はとくに限定されず、反力を支持できるものであれば任意の構造とすることができる。なお、破砕を行う際、反力支持装置の先端は容器内面に押し当てられることになる。その際、反力支持装置と接触した容器内面を破損しないよう、反力支持装置の先端には、容器内面と接する当接部材を備えることが好ましい。前記当接部材としては、とくに限定されることなく、任意の部材を使用することができるが、容器内面の損傷リスクを低減するという観点からは、前記当接部材が、軟質材料からなることが好ましく、弾性材料からなることがより好ましい。前記軟質材料としては、例えば、樹脂およびゴムから選択される材料を用いることが好ましい。複数の軟質材料を組み合わせて用いることもできる。前記弾性材料としては、例えば、ゴムを用いることが好ましい。なお、ここで前記ゴムには、エラストマーも包含するものとする。
【0074】
前記当接部材の形状はとくに限定されず、任意の形状とすることができる。本発明の一実施形態における当接部材は、耐火物層と接する側の面(当接面)が平坦であることが好ましい。当接面が平坦であることにより、耐火物層の一点に力が集中することを防止しつつ、確実に反力を支持することができる。当接面が平坦である当接部材としては、例えば、ブロック状、シート状などの当接部材を用いることができる。前記当接面の形状についてもとくに限定されないが、典型的には、矩形または円形とすることができる。
【0075】
なお、補修対象となる容器の形状は、典型的には円筒形状や円錐台形状であり、その水平断面は円形である。したがって、容器内面に沿って破砕工具と反力支持装置とを移動させるために、破砕装置は、容器の水平方向の中心を回転軸として回転可能に支持されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0076】
1 容器
10 耐火物層
11 表層クラック
12 浸潤層
13 ビルドアップ層
14 背面クラック
20 容器本体部(鉄皮)
30 第一の経路
31 間隔
40 第二の経路
41 間隔
50 未破砕領域
S 破砕工具により破砕される領域