(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022396
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/00 20060101AFI20250206BHJP
E02D 27/48 20060101ALI20250206BHJP
E02D 31/08 20060101ALI20250206BHJP
E02D 31/10 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
E02D31/00 A
E02D27/48
E02D31/00 Z
E02D31/08
E02D31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126928
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋介
(57)【要約】
【課題】新設地中構造物の施工に起因する既設地中構造物への影響を抑制しながら新設地中構造物を施工する。
【解決手段】既設地中構造物91の隆起を制御する方法は、既設地中構造物91の隆起に抵抗する力を発生するためのアンカー体21を打設する工程S1と、既設地中構造物91の天面91aを露出させる桁立坑12A、12Bを構築する工程S2と、桁立坑12A、12Bから露出する既設地中構造物91の天面91aに反力桁3を配置する工程S3と、反力桁3の天面にそれぞれ取り付けられて、ワイヤー22を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を反力桁3のそれぞれに与えるための定着装置4を取り付ける工程S41、S42と、定着装置4によって一対のワイヤー22を引っ張る動作を実行することにより、一対の反力桁3のそれぞれに鉛直下向きの反力(緊張力)を与える工程S43と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設地中構造物を挟むように配置され、前記既設地中構造物の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対の引き抜き抵抗部材を設ける工程と、
前記一対の引き抜き抵抗部材のそれぞれに連結された一対の引張部を内包するとともに前記既設地中構造物の天面を露出させる少なくとも一対の立坑を設ける工程と、
前記一対の立坑から露出する前記既設地中構造物の天面に反力部材を配置する工程と、
前記反力部材に設置されて、前記一対の引張部を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を前記反力部材に与えるための少なくとも一対の定着装置を取り付ける工程と、
前記一対の定着装置によって前記一対の引張部を引っ張る動作を実行することにより、前記反力部材のそれぞれに鉛直下向きの前記反力を与える工程と、を有する既設地中構造物の隆起を制御する方法。
【請求項2】
前記反力部材は、前記一対の立坑のうち一方の第1立坑から他方の第2立坑まで延びる反力桁であって、
前記反力部材を配置する工程では、前記反力桁の第1の端部が第1立坑から露出し、前記反力桁の第2の端部が第2立坑から露出するように前記反力部材を配置する、請求項1に記載の既設地中構造物の隆起を制御する方法。
【請求項3】
前記反力桁は、複数の桁部材が互いに連結されることにより構成され、
前記反力部材を配置する工程は、
前記桁部材を前記第1立坑から導入する工程と、
導入した前記桁部材を前記第1立坑に露出する前記桁部材の端部に接続する工程と、
接続した前記桁部材を前記第1立坑から前記第2立坑に向けて押し進める工程と、
を繰り返す、請求項2に記載の既設地中構造物の隆起を制御する方法。
【請求項4】
前記反力桁は、複数の桁部材が互いに連結されることにより構成され、
前記反力部材を配置する工程では、
前記第1立坑から前記第2立坑に至る桁導坑を設ける工程を実施し、
前記桁導坑を設ける工程を実施した後に、
導入した前記桁部材を前記第1立坑に露出する前記桁部材の端部に接続する工程と、
接続した前記桁部材を前記第1立坑から前記第2立坑に向けて押し進める工程と、
を繰り返す、請求項2に記載の既設地中構造物の隆起を制御する方法。
【請求項5】
前記反力部材は、互いに別体である第1桁枠及び第2桁枠を含み、
前記反力部材を配置する工程は、
前記一対の立坑のうち一方の第1立坑から露出する前記既設地中構造物の天面に第1桁枠を配置する工程と、
前記一対の立坑のうち他方の第2立坑から露出する前記既設地中構造物の天面に第2桁枠を配置する工程と、を含む、請求項1に記載の既設地中構造物の隆起を制御する方法。
【請求項6】
既設地中構造物を挟むように配置され、前記既設地中構造物の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対の引き抜き抵抗部材を設ける工程と、
前記一対の引き抜き抵抗部材のそれぞれに連結された一対の引張部を内包するとともに前記既設地中構造物の天面を露出させる少なくとも一対の立坑を設ける工程と、
前記一対の立坑から露出する前記既設地中構造物の天面に反力部材を配置する工程と、
前記反力部材に設置されて、前記一対の引張部を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を前記反力部材に与えるための少なくとも一対の定着装置を取り付ける工程と、
前記一対の定着装置によって前記一対の引張部を引っ張る動作を実行することにより、前記反力部材のそれぞれに鉛直下向きの前記反力を与える工程と、
新設の地中構造物を施工する工程と、を有し、
前記新設の地中構造物を施工する工程は、
前記既設地中構造物の上方の地盤を掘削する工程と、
前記既設地中構造物の隆起の度合いを確認する工程と、
前記既設地中構造物の隆起の度合いに応じて前記一対の定着装置が前記一対の引張部を引っ張る度合いを調整することにより、前記既設地中構造物の隆起の度合いを所定の範囲に収める工程と、を含む、地中構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルといった地中に埋設された構造物は、周囲の地盤から力を受けている。この力は、構造物を鉛直上向きに押し上げる力と、構造物を鉛直下向きに押し下げる力と、を含む。これらの構造物に作用する力のバランスが釣り合っているとき、構造物は安定した状態となる。
【0003】
しかしながら、これらの力のバランスが何らかの要因で崩れることがあり得る。例えば、構造物を鉛直上向きに押し上げる力が構造物を鉛直下向きに押し下げる力よりも大きくなった場合には、構造物が浮き上がろうとする。特許文献1~3は、このような構造物の隆起を抑制する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-261604号公報
【特許文献2】特開平9-303082号公報
【特許文献3】特許第6744638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地中に設けられた既設の構造物(以下「既設地中構造物」と称する)が存在しており、既設地中構造物は、周囲から受ける力のバランスが保たれているとする。このような既設地中構造物の近傍に新たな地中構造物(以下「新設地中構造物」と称する)を施工することがある。既設地中構造物に作用する力は、既設地中構造物の周囲の地盤の影響を受ける。新設地中構造物を施工する際には、既設地中構造物の周囲の地盤を掘削などするので、既設地中構造物の周囲の地盤の状態に変化をもたらす。その結果、既設地中構造物に作用する力のバランスに変化が生じるので、既設地中構造物の移動や既設地中構造物の変形などが生じる可能性があった。
【0006】
本発明は、新設地中構造物の施工に起因する既設地中構造物への影響を抑制しながら新設地中構造物を施工するための既設地中構造物の隆起を制御する方法及び、当該新設の中構造物の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である既設地中構造物の隆起を制御する方法は、既設地中構造物を挟むように配置され、既設地中構造物の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対の引き抜き抵抗部材を設ける工程と、一対の引き抜き抵抗部材のそれぞれに連結された一対の引張部を内包するとともに既設地中構造物の天面を露出させる少なくとも一対の立坑を設ける工程と、一対の立坑から露出する既設地中構造物の天面に反力部材を配置する工程と、反力部材に設置されて、一対の引張部を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を反力部材に与えるための少なくとも一対の定着装置を取り付ける工程と、一対の定着装置によって一対の引張部を引っ張る動作を実行することにより、反力部材のそれぞれに鉛直下向きの反力を与える工程と、を有する。
【0008】
この方法によれば、引き抜き抵抗部材、引張部、反力部材及び定着装置によって、既設地中構造物に対して鉛直下向きの力を作用させることが可能である。そして、一対の定着装置が引張部を引っ張る動作を制御することにより、既設地中構造物に作用させる鉛直下向きの力の大きさを制御することが可能である。つまり、新設地中構造物の施工に起因して、既設地中構造物の周囲環境が変化することに伴い、既設地中構造物に作用する力のバランスに変化が生じたとしても、バランスを保つための力を既設地中構造物に作用することができる。その結果、新設地中構造物の施工に起因する既設地中構造物への影響を抑制しながら新設地中構造物を施工することができる。
【0009】
一形態において、反力部材は、一対の立坑のうち一方の第1立坑から他方の第2立坑まで延びる反力桁であって、反力部材を配置する工程では、反力桁の第1の端部が第1立坑から露出し、反力桁の第2の端部が第2立坑から露出するように反力部材を配置してもよい。この反力部材によれば、既設地中構造物に対して鉛直下向きの力を好適に作用させることができる。
【0010】
一形態において、反力桁は、複数の桁部材が互いに連結されることにより構成され、反力部材を配置する工程は、桁部材を第1立坑から導入する工程と、導入した桁部材を第1立坑に露出する桁部材の端部に接続する工程と、接続した桁部材を第1立坑から第2立坑に向けて押し進める工程と、を繰り返してもよい。この工程によれば、反力部材を架け渡すための穴を施工することなく、既設地中構造物の幅に応じた反力部材を設けることができる。
【0011】
一形態において、反力桁は、複数の桁部材が互いに連結されることにより構成され、反力部材を配置する工程では、第1立坑から第2立坑に至る桁導坑を設ける工程を実施し、桁導坑を設ける工程を実施した後に、導入した桁部材を第1立坑に露出する桁部材の端部に接続する工程と、接続した桁部材を第1立坑から第2立坑に向けて押し進める工程と、を繰り返してもよい。この工程によれば、桁導坑を設けることにより、既設地中構造物の幅に応じた反力部材を容易に設けることができる。
【0012】
一形態において、反力部材は、互いに別体である第1桁枠及び第2桁枠を含み、反力部材を配置する工程は、一対の立坑のうち一方の第1立坑から露出する既設地中構造物の天面に第1桁枠を配置する工程と、一対の立坑のうち他方の第2立坑から露出する既設地中構造物の天面に第2桁枠を配置する工程と、を含んでもよい。この工程によれば、第1立坑から第2立坑に反力部材を架け渡すことなく、既設地中構造物に対して鉛直下向きの力を作用させることができる。
【0013】
本発明の別の形態である地中構造物の施工方法は、既設地中構造物を挟むように配置され、既設地中構造物の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対の引き抜き抵抗部材を設ける工程と、一対の引き抜き抵抗部材のそれぞれに連結された一対の引張部を内包するとともに既設地中構造物の天面を露出させる少なくとも一対の立坑を設ける工程と、一対の立坑から露出する既設地中構造物の天面に反力部材を配置する工程と、反力部材に設置されて、一対の引張部を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を反力部材に与えるための少なくとも一対の定着装置を取り付ける工程と、一対の定着装置によって一対の引張部を引っ張る動作を実行することにより、反力部材のそれぞれに鉛直下向きの反力を与える工程と、新設の地中構造物を施工する工程と、を有し、新設の地中構造物を施工する工程は、既設地中構造物の上方の地盤を掘削する工程と、既設地中構造物の隆起の度合いを確認する工程と、既設地中構造物の隆起の度合いに応じて一対の定着装置が一対の引張部を引っ張る度合いを調整することにより、既設地中構造物の隆起の度合いを所定の範囲に収める工程と、を含む。
【0014】
この施工方法は、上記の既設地中構造物の隆起を制御する方法を含んでいる。従って、既設地中構造物の隆起が抑制された状態で、新設地中構造物を施工することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新設地中構造物の施工に起因する既設地中構造物への影響を抑制しながら新設地中構造物を施工するための既設地中構造物の隆起を制御する方法及び、当該新設の中構造物の施工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態の既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法を適用して施工した新設地中構造物と既設地中構造物とを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、グラウンドアンカーを打設する工程を説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、桁立坑を構築する工程を説明するための斜視図である。
【
図5】
図5は、反力桁を設置する工程を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は、グラウンドアンカーを定着する工程を説明するための斜視図である。
【
図7】
図7は、新設地中構造物を施工する工程の一部を説明するための斜視図である。
【
図8】
図8は、新設地中構造物を施工する工程の残りの部分を説明するための斜視図である。
【
図9】
図9は、変形例の既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法において用いられる桁枠を設置した様子を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、変形例の既設地中構造物の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法を用いて施工した地中構造物を示す。地表面90の下には、既設地中構造物91と、新設地中構造物92が埋設されている。本実施形態の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法は、既設地中構造物91の上に新設地中構造物92を施工するために用いられる。
【0019】
既設地中構造物91の上に新設地中構造物92を設ける手法として、いわゆる開削工法が挙げられる。開削工法によれば、まず、既設地中構造物91上において新設地中構造物92が設けられる領域を掘削する。次に、掘削した領域に新設地中構造物92を設ける。そして、新設地中構造物92を埋め戻す。
【0020】
掘削前の状態、つまり埋設された状態である既設地中構造物91には、所定の浮力が作用しており、この浮力によって既設地中構造物91は、鉛直上向きに移動しようとする。一方、既設地中構造物91は、上方に存在する地盤の質量に起因する鉛直下向きの力を受けている。従って、埋設された状態の既設地中構造物91は、鉛直上向きの力と鉛直下向きの力を常に受けており、これらの力のバランスが保たれることによって、その位置を維持している。
【0021】
そうすると、新設地中構造物92を施工する際に、既設地中構造物91上の地盤を掘削すると、既設地中構造物91に作用する鉛直下向きの力が小さくなる。その結果、既設地中構造物91は、鉛直上向きに隆起することが生じ得る。
【0022】
一方、掘削から新設地中構造物92を埋め戻すまでの間、既設地中構造物91は、所定の位置に留まり続けることが求められる。より詳細には、既設地中構造物91は、新設地中構造物92の施工中に許容可能な変位が設定される。そして、新設地中構造物92の施工中は、既設地中構造物91の変位をこの許容範囲に収める必要がある。従って、新設地中構造物92を施工している期間中、既設地中構造物91についてその隆起量が許容範囲に収まるようにコントロールする必要があった。
【0023】
既設地中構造物91の隆起量を制御する技術として、例えば、部分掘削法、カウンターウエイト法、地下水位低下工法が例示できる。しかし、これらの技術によっても、既設地中構造物91の隆起量を許容範囲に収めることは極めて困難であった。例えば、既設地中構造物91に作用する鉛直下向きの力は、掘削が進行するにしたがって次第に小さくなる。このように、既設地中構造物91に作用する力が経時的に変化する場合に、この力の変化に追従するように既設地中構造物91に作用する力のバランスを保つことは、これらの手法では困難である。
【0024】
本実施形態の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法は、既設地中構造物91の隆起量を許容範囲に収めるために鋭意検討した結果、得られたものである。
【0025】
図2は、本実施形態の地中構造物の施工方法が有する主要な工程を示すフローチャートである。また、
図3~
図8は、フローチャートに示すいくつかの工程の様子を模式的に示す斜視図である。以下、
図3~
図8を参照しながら、本実施形態の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法について詳細に説明する。
【0026】
地中構造物の施工方法の一部の工程は、既設地中構造物91の隆起を制御する方法を構成する。地中構造物の施工方法は、主要な工程として、グラウンドアンカー2を打設する工程S1と、桁立坑を構築する工程S2と、反力桁3を設置する工程S3と、グラウンドアンカー2を反力桁3に定着する工程S4と、新設地中構造物92を施工する工程S5と、を含む。このうち、グラウンドアンカー2を打設する工程S1、桁立坑12A、12Bを構築する工程S2及び反力桁3を設置する工程S3は、既設地中構造物91の隆起を制御する方法を構成する。
【0027】
<グラウンドアンカー2を打設する工程S1>
まず、グラウンドアンカー2を打設する工程S1を実施する。
図2に示すように、グラウンドアンカー2を打設する工程S1は、アンカー坑11A、11Bを構築する工程S11と、グラウンドアンカー2を打設する工程S12と、を有する。
【0028】
図3に示すように、まず、複数のアンカー坑11A、11Bを構築する(S11)。複数のアンカー坑11A、11Bは、既設地中構造物91の隆起に抵抗する力を発生するためのアンカー体21を設けるためのものである。アンカー坑11A、11Bは、既設地中構造物91の幅方向Yに沿って、既設地中構造物91を挟むように設けられる。そして、一対のアンカー坑11A、11Bは、既設地中構造物91の延在方向Xに沿って所定の間隔をもって設けられる。
【0029】
アンカー坑11A、11Bは、アンカー坑底面を有する。アンカー坑底面の位置は、例えば、既設地中構造物91よりも鉛直方向に沿って下側である。換言すると、アンカー坑底面の位置は、既設地中構造物91よりも深い位置に設けられる。さらに、アンカー坑底面は、硬い地盤93に設けられる。その結果、アンカー坑底面の近傍に設けられるアンカー体21は、硬い地盤93に固定されて強い反力を生じさせる起点となり得る。
【0030】
次に、グラウンドアンカー2を打設する(S12)。グラウンドアンカー2は、アンカー体21(引き抜き抵抗部材)と、ワイヤー22(引張部)と、を有する。アンカー体21は、グラウトなどによって形成され、地盤93に定着する。ワイヤー22は、アンカー体21に繋がっている。引張部であるワイヤー22は、例えば、PC鋼より線である。引張部は、PC鋼丸棒などであってもよい。アンカー体21は、アンカー坑11A、11Bごとに一個づつ設けられる。ワイヤー22もアンカー坑11A、11Bごとに1本づつ設けられる。
【0031】
<桁立坑12A、12Bを構築する工程S2>
続いて、桁立坑12A、12B(第1立坑、第2立坑)を構築する工程S2を実施する。
図4に示すように、アンカー坑11A、11Bの地表面90側の内径を拡大する。つまり、桁立坑12A、12Bは、アンカー坑11A、11Bの地表面側の一部分が拡径されたものである。従って、桁立坑12A、12Bは、グラウンドアンカー2のワイヤー22を内包する。桁立坑12A、12Bの桁立坑底面12aは、既設地中構造物91の天面91aに達している。桁立坑12A、12Bの桁立坑底面12aは、既設地中構造物91の天面91aより深い位置に達していてもよい。桁立坑12A、12Bからは、既設地中構造物91の天面91aが露出する。つまり、平面視した場合、桁立坑12A、12Bは、既設地中構造物91と重複する。一方、平面視した場合、アンカー坑11A、11Bは、既設地中構造物91と重複しない。また、桁立坑底面12aが既設地中構造物91の天面91aより深い位置に達している場合には、既設地中構造物91の側面91bも露出する。
【0032】
<反力桁3を設置する工程S3>
続いて、反力桁3を設置する工程S3を実施する。
図2に示すように、反力桁3を設置する工程S3は、桁導坑15を構築する工程S31と、桁部材31を導入する工程S32と、桁部材31を接続する工程S33と、桁部材31を押し込む工程S34と、を有する。
【0033】
図5に示すように、反力桁3は、一方の桁立坑12Aから一方他方の桁立坑12Bに至る部材である。反力桁3は、既設地中構造物91の天面91aの上に配置されている。工程S3において設置された反力桁3は、既設地中構造物91の天面91aに直接に接していてもよい。反力桁3は、既設地中構造物91の隆起を阻止する。換言すると、反力桁3は、グラウンドアンカー2と定着装置4と協働して、既設地中構造物91に鉛直下向きの力を与える。
【0034】
反力桁3の長さは、既設地中構造物91の幅よりも長い。従って、反力桁3の一方の端部と反力桁3の他方の端部は、既設地中構造物91の側面91bから突出している。反力桁3の一方の端部は、一方の桁立坑12Aの内部に露出する。反力桁3の他方の端部は、桁立坑12Bの内部に露出している。
【0035】
前述したように反力桁3は、既設地中構造物91の幅よりも長い。つまり、反力桁3の長さは、桁立坑12A、12Bの内径よりも長い。そこで、反力桁3は、いくつかの桁部材31に分割され、桁部材31が継ぎ合わされることにより、1本の反力桁3を構成する。
【0036】
まず、桁導坑を構築する(S31)。桁導坑15は、一方の桁立坑12Aから一方他方の桁立坑12Bにまで貫通する穴である。桁導坑15の一方の開口は、一方の桁立坑12Aの内壁面に形成される。桁導坑15の他方の開口は、既設地中構造物91を挟んで逆側に存在する他方の桁立坑12Bの内壁面に形成される。桁導坑15は、既設地中構造物91の天面91aを露出させるものであってもよい。続いて、桁部材31を導入する(S32)。桁部材31の長さは、桁立坑12A、12Bの内径よりも小さい。
図5に示すように、桁部材31は、桁立坑12A、12Bの開口からクレーン等によって桁立坑12A、12Bに搬入される。続いて、桁部材31を接続する(S34)。桁部材31は、先に押し出された桁部材31の後端に溶接などによって継ぎ足される。続いて、桁部材を桁導坑15に押し込む(S33)。接続された桁部材31は、既設地中構造物91を挟んで逆側に存在する桁立坑12Bに向けて押し込まれる。
【0037】
この導入(S32)、接続(S33)、押し込み(S34)を繰り返すことにより、一方の桁立坑12Aから一方他方の桁立坑12Bに至る反力桁3が形成される。
【0038】
<グラウンドアンカー2を反力桁3に定着する工程S4>
続いて、グラウンドアンカー2を反力桁3に定着する工程S4を実施する。
図2に示すように、グラウンドアンカー2を反力桁3に定着する工程S4は、定着装置4を配置する工程S41と、グラウンドアンカー2を定着装置4に接続する工程S42と、緊張力を導入する工程S43と、を有する。
【0039】
図6に示すように、まず、定着装置4を配置する(S41)。具体的には、定着装置4は、桁立坑12A、12Bから露出する反力桁3の両端部に載置される。定着装置4は、グラウンドアンカー2のワイヤー22を反力桁3に接続する。ここでいう接続とは、ワイヤー22に作用する鉛直下向きの力を反力桁3に伝達可能な構造にすることをいう。ワイヤー22の力は、まず定着装置4に伝わる。そして、ワイヤー22から作用する鉛直下向きの力を受けた定着装置4は、反力桁3の上面を押圧する。その結果、反力桁3は、既設地中構造物91が隆起しようとする鉛直上向きの力に対抗する鉛直下向きの力を既設地中構造物91に与えることができる。
【0040】
次に、グラウンドアンカー2を定着装置4に接続する(S42)。具体的には、グラウンドアンカー2のワイヤー22を定着装置4が備える把持機構によって把持する。
【0041】
例えば、反力桁3には貫通穴が設けられており、ワイヤー22は、この貫通穴を通って反力桁3の下面から上面に至る。反力桁3の貫通穴上には、定着装置4が載置されている。つまり、定着装置4は、反力桁3の上面に接する。そして、定着装置4が備える把持機構は、反力桁3の上面から突出したワイヤー22の上端部分を把持する。
【0042】
そして、緊張力を導入する(S43)。定着装置4は、把持したワイヤー22を鉛直上向きに引き上げる力を発生する。定着装置4がワイヤー22を引っ張る力が大きくなると、定着装置4が反力桁3に作用する鉛直下向きの力も大きくなる。つまり、定着装置4は、定着装置4が反力桁3に作用する鉛直下向きの力の大きさを大きくしたり、小さくしたりする制御を行うことができる。従って、定着装置4は、いわゆるジャッキの機構を備えていてもよい。工程S43では、予め定めた初期緊張力を発生させるように、定着装置4によってワイヤー22を所定長さだけ引き上げる。
【0043】
以上の工程S1~S4により、既設地中構造物91の隆起を制御する構造が形成される。
【0044】
<新設地中構造物92を施工する工程S5>
そして、新設地中構造物92を施工する工程S5を実施する。
図2に示すように、新設地中構造物92を施工する工程S5は、土留壁7を設ける工程S51と、深堀掘削する工程S52と、新設地中構造物92を構築する工程S53と、反力桁3及び定着装置4を撤去する工程S54と、埋め戻す工程S55と、を有する。
【0045】
図7に示すように、まず、土留壁7を設ける(S51)。土留壁7は、新設地中構造物92が設けられる領域を含む施工領域を形成する。このとき、既設地中構造物91の上に存在する地盤はいまだ存在するから、既設地中構造物91に作用している鉛直上向きの力と鉛直下向きの力とのバランスは保たれている。つまり、基本的には既設地中構造物91の隆起は生じない。
【0046】
次に、深堀掘削する(S52)。
図7に示すように、土留壁7に挟まれた施工領における地盤を掘削して取り除く。この深堀掘削によって、既設地中構造物91の上に存在する地盤が次第に減少するから、既設地中構造物91に作用している鉛直上向きの力と鉛直下向きの力とのバランスに変化が生じる。その結果、既設地中構造物91の隆起が生じる状態となる。
【0047】
そこで、深堀掘削(S52a)を行っている期間中に、隆起量を確認する(S52b)。そして、必要に応じて、定着装置4によるワイヤー22を引っ張る力を調整する(S52c)。具体的には、掘削によって既設地中構造物91に作用する鉛直下向きの力が減少するので、その減少した力を補うように定着装置4による鉛直下向きの力を増加させる。
【0048】
定着装置4の制御は、例えば、既設地中構造物91に設けた変位センサなどにより既設地中構造物91の変位を監視する(S52b)。そして、既設地中構造物91の変位が閾値を超えたと判断されたときに、既設地中構造物91の変位が閾値以下となるように、定着装置4を制御してもよい(S52c)。また、既設地中構造物91の鉄筋にひずみ計を設置し、ひずみ値を隆起量を検知するためのパラメータとしてもよい。
【0049】
次に、
図8に示すように、新設地中構造物92を構築する(S53)。このとき、定着装置4、反力桁3及びグラウンドアンカー2による既設地中構造物91の隆起を制御する動作(S52b、S52c)は、継続してもよい。この期間中は、既設地中構造物91に作用する鉛直下向きの力は、反力桁3及びグラウンドアンカー2によって与えられているので、基本的に変化することはない。しかし、深堀掘削が周囲の地盤に及ぼす影響が時間の経過と共に次第に顕在化することも考えられる。その結果、既設地中構造物91に作用する鉛直上向きの力が変化することもあり得る。従って、新設地中構造物92を構築する期間中も、同様に、既設地中構造物91の変位を監視するなどして、必要に応じて定着装置4の制御を行ってもよい。
【0050】
次に、定着装置4及び反力桁3を撤去する(S54)。この工程S54は、新設地中構造物92の施工によって、既設地中構造物91の隆起が生じないことが確認された後に実行することとしてよい。
【0051】
そして、新設地中構造物92を埋め戻す(S55)。
【0052】
<作用効果>
既設地中構造物91の隆起を制御する方法は、既設地中構造物91を挟むように配置され、既設地中構造物91の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対のアンカー体21を打設する工程S1と、一対のアンカー体21のそれぞれに連結された一対のワイヤー22を内包するとともに既設地中構造物91の天面91aを露出させる少なくとも桁立坑12A、12Bを構築する工程S2と、桁立坑12A、12Bから露出する既設地中構造物91の天面91aに反力桁3を配置する工程S3と、反力桁3に設置されて、一対のワイヤー22を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を反力桁3に与えるための少なくとも一対の定着装置4を取り付ける工程S41、S42と、一対の定着装置4によって一対のワイヤー22を引っ張る動作を実行することにより、反力桁3のそれぞれに鉛直下向きの反力を与える工程S43と、を有する。
【0053】
さらに、新設地中構造物92の施工方法は、既設地中構造物91を挟むように配置され、既設地中構造物91の隆起に抵抗する力を発生するための少なくとも一対のアンカー体21を打設する工程S1と、一対のアンカー体21のそれぞれに連結された一対のワイヤー22を内包するとともに既設地中構造物91の天面91aを露出させる少なくとも桁立坑12A、12Bを構築する工程S2と、桁立坑12A、12Bから露出する既設地中構造物91の天面91aに反力桁3を配置する工程S3と、反力桁3に設置されて、一対のワイヤー22を引っ張る動作によって生じる鉛直下向きの反力を反力桁3に与えるための少なくとも一対の定着装置4を取り付ける工程S41、S42と、一対の定着装置4によって一対のワイヤー22を引っ張る動作を実行することにより、反力桁3のそれぞれに鉛直下向きの反力を与える工程S43と、新設の地中構造物を施工する工程S5と、を有し、新設地中構造物92を施工する工程S5は、既設地中構造物91の上方の地盤を掘削する工程S52aと、既設地中構造物91の隆起の度合いを確認する工程S52bと、既設地中構造物91の隆起の度合いに応じて一対の定着装置4が一対のワイヤー22を引っ張る度合いを調整することにより、既設地中構造物91の隆起の度合いを所定の範囲に収める工程S52cと、を含む。
【0054】
これらの方法によれば、アンカー体21、ワイヤー22、反力桁3及び定着装置4によって、既設地中構造物91に対して鉛直下向きの力を作用させることが可能である。そして、一対の定着装置4がワイヤー22を引っ張る動作を制御することにより、既設地中構造物91に作用させる鉛直下向きの力の大きさを制御することが可能である。その結果、新設地中構造物92の施工に起因して、既設地中構造物91の周囲環境が変化することに伴い、既設地中構造物91に作用する力のバランスに変化が生じたとしても、バランスを保つための力を既設地中構造物91に作用することができる。その結果、新設地中構造物92の施工に起因する既設地中構造物91への影響を抑制しながら新設地中構造物92を施工することができる。
【0055】
反力部材は、桁立坑12A、12Bのうち一方の桁立坑12Aから他方の桁立坑12Bまで延びる反力桁3である。反力桁3を配置する工程S3では、反力桁3の第1の端部が桁立坑12Aから露出し、反力桁3の第2の端部が桁立坑12Bから露出するように反力桁3を配置する。この反力桁3によれば、既設地中構造物91に対して鉛直下向きの力を好適に作用させることができる。
【0056】
反力桁3は、複数の桁部材31が互いに連結されることにより構成される。反力桁3を配置する工程S3では、桁立坑12Aから桁立坑12Bに至る桁導坑15を構築する工程S31を実施し、桁導坑15を構築する工程S31を実施した後に、導入した桁部材31を桁立坑12Aに露出する桁部材31の端部に接続する工程S32と、接続した桁部材31を桁立坑12Aから桁立坑12Bに向けて押し進める工程S33と、を繰り返す。この工程S3によれば、桁導坑15を設けることにより、既設地中構造物91の幅に応じた反力桁3を容易に設けることができる。
【0057】
<変形例1>
本発明の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0058】
実施形態では、反力部材は、既設地中構造物91の天面91aに沿って幅方向に架け渡される桁状の部材であった。反力部材は、桁状の部材に限定されない。
図9に示すように、側面視した形状がL字型である桁枠8A、8Bを用いてもよい。
【0059】
桁枠8A、8B(第1桁枠、第2桁枠)は、本体部81と、引っ掛かり部82と、を有する。本体部81は、ワイヤー22に沿って延びており、その上面には定着装置4が載置される。本体部81には、ワイヤー22が貫通する貫通穴が設けられている。本体部81の側面は、既設地中構造物91の側面91bに対面する。本体部81の側面は、既設地中構造物91の側面91bに接してもよいし、接していなくてもよい。本体部81の側面から、引っ掛かり部82が既設地中構造物91に向かって延びている。引っ掛かり部82の底面は、既設地中構造物91の天面91aに接触する。
【0060】
<作用効果>
反力部材は、互いに別体である桁枠8A及び桁枠8Bを含む。反力桁3を配置する工程S3A(
図10参照)は、桁立坑12A、12Bのうち一方の桁立坑12Aから露出する既設地中構造物91の天面91aに桁枠8Aを配置する工程S35と、桁立坑12A、12Bのうち他方の桁立坑12Bから露出する既設地中構造物91の天面91aに桁枠8Bを配置する工程S36と、を含む。この工程S3Aによれば、桁立坑12Aから桁立坑12Bに反力桁3を架け渡すことなく、既設地中構造物91に対して鉛直下向きの力を作用させることができる。
【0061】
<変形例2>
実施形態では、新設地中構造物92は、既設地中構造物91に対して直交していた。しかし、本発明の既設地中構造物91の隆起を制御する方法及び地中構造物の施工方法を適用する場合において、既設地中構造物91に対する新設地中構造物92の配置は任意である。例えば、新設地中構造物92は、既設地中構造物91に対して上側の地盤領域において、既設地中構造物91に対して斜めに延びるものであってもよいし、既設地中構造物91の延びる方向に沿って延びるものであってもよい。
【0062】
<変形例3>
実施形態では、新設地中構造物92の施工が完了した後に既設地中構造物91の隆起等が発生しないことが確認されたことを条件として、反力桁3を撤去した。例えば、定着装置4は撤去するが、反力桁3は撤去することなくそのまま配置した状態としてもよい。
【0063】
<変形例4>
また、実施形態では、反力桁3を配置する工程S3は、桁導坑15を構築する工程S31を有していた。この桁導坑15を構築する工程S31は、省略することも可能である。つまり、反力桁3を配置する工程S3は、桁導坑15を構築する工程S31を実施することなく、桁部材31を桁立坑12Aから導入する工程S32と、導入した桁部材31を桁立坑12Aに露出する桁部材31の端部に接続する工程S33と、接続した桁部材31を桁立坑12Aから桁立坑12Bに向けて押し進める工程S34と、を繰り返してもよい。この工程S3によれば、反力桁3を架け渡すための穴を施工することなく、既設地中構造物91の幅に応じた反力桁3を設けることができる。
【0064】
<変形例5>
上記の実施形態では、引き抜き抵抗部材として、グラウンドアンカー2を例示した。引き抜き抵抗部材は、既設地中構造物91の浮き上がりに抵抗する反力を発生可能なものを適宜採用することができる。例えば、引き抜き抵抗部材として、摩擦杭を用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11A,11B…アンカー坑、12A,12B…桁立坑、12a…桁立坑底面、15…桁導坑、2…グラウンドアンカー、21…アンカー体、22…ワイヤー、3…反力桁、31…桁部材、4…定着装置、7…土留壁、8A,8B…桁枠、81…本体部、82…引っ掛かり部、90…地表面、91…既設地中構造物、91a…天面、91b…側面、92…新設地中構造物、93…地盤、X…延在方向、Y…幅方向。