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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022410
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/01 20250101AFI20250206BHJP
   H10D 30/66 20250101ALI20250206BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H01L29/78 658F
H01L29/78 652T
H01L29/78 652M
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L21/316 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126951
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 直
(72)【発明者】
【氏名】木村 慎治
【テーマコード(参考)】
5F058
【Fターム(参考)】
5F058BA01
5F058BB01
5F058BC02
5F058BE04
5F058BF04
5F058BF24
5F058BF29
5F058BF36
5F058BJ06
(57)【要約】
【課題】半導体装置の信頼性を向上する。
【解決手段】本開示では、炭化珪素基板上にゲート絶縁膜を形成する工程において、ハロゲン元素と金属元素とを含む材料ガスを使用したALD法でゲート絶縁膜を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程、
を備え、
前記(a)工程では、ハロゲン元素と金属元素を含む材料ガスを使用した化学気相成長法で前記ゲート絶縁膜を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記ハロゲン元素は、塩素である、半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記材料ガスは、炭素および水素を含まない、半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記材料ガスは、AlClである、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(a)工程における成膜温度は、摂氏25度以上摂氏400度以下である、半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記化学気相成長法は、原子層堆積法であり、
前記原子層堆積法は、
(a1)ハロゲン元素を含む第1材料ガスを導入する工程、
(a2)前記第1材料ガスをパージする工程、
(a3)酸素を含む第2材料ガスを導入する工程、
(a4)前記第2材料ガスをパージする工程、
を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1材料ガスは、AlClであり、
前記第2材料ガスは、HO、OまたはNOである、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
(b)前記ゲート絶縁膜を形成した後、前記半導体基板を加熱する工程、
を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程における加熱温度は、前記(a)工程における前記ゲート絶縁膜の形成温度よりも高い、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法において、
前記加熱温度は、摂氏500度以上摂氏900度よりも低い温度である、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程は、金属シリサイドを形成するためのシリサイドアニール工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板上に形成されたゲート絶縁膜を有する電界効果トランジスタを含み、
前記ゲート絶縁膜は、炭素よりも高い濃度のハロゲン元素を有する、半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記ハロゲン元素は、塩素である、半導体装置。
【請求項14】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタは、
前記半導体基板の下面に形成された裏面電極と、
前記半導体基板の上面上に形成されたエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層内に形成された複数のソース領域と、
前記複数のソース領域に含まれる第1ソース領域と第2ソース領域の間の前記エピタキシャル層の上面上に形成された前記ゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を有する、半導体装置。
【請求項15】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタは、
前記半導体基板の下面に形成された裏面電極と、
前記半導体基板内に形成されたソース領域と、
前記ソース領域を貫通するように前記半導体基板内に形成されたトレンチと、
前記トレンチの内壁に形成された前記ゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して前記トレンチに埋め込まれた部分を含むゲート電極と、
を有する、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造技術に関し、例えば、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板を有する半導体装置およびその製造技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-228679号公報(特許文献1)には、SiCパワートランジスタを含む半導体装置の信頼性を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-228679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電界効果トランジスタを含む半導体装置の性能を向上させるために、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板を使用して半導体装置を製造することが検討されている。
【0005】
ただし、現状の技術では、ワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板上に形成されるゲート絶縁膜は、シリコン基板上に形成される酸化シリコン膜ほど高い信頼性を有していない。したがって、ワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板を使用して製造される半導体装置においては、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成することが望まれている。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態における半導体装置の製造方法は、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を備える。この工程では、ハロゲン元素と金属元素を含む材料ガスを使用した化学気相成長法でゲート絶縁膜を形成する。
【0008】
一実施の形態における半導体装置は、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料から構成される半導体基板上に形成されたゲート絶縁膜を有する電界効果トランジスタを含む。ここで、ゲート絶縁膜は、炭素よりも高い濃度のハロゲン元素を有する。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】具現化態様で使用するALD法を説明するフローチャートである。
図2】トリメチルアルミニウムを使用するALD法において、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が多くなるメカニズムを定性的に説明する図である。
図3】三塩化アルミニウムを使用するALD法において、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が少なくなるメカニズムを定性的に説明する図である。
図4】昇温脱離法に基づく水分量の測定結果を示すグラフである。
図5】SIMS分析によってゲート絶縁膜中に含まれる炭素濃度を測定した結果を示すグラフである。
図6】SIMS分析によってゲート絶縁膜中に含まれる塩素濃度を測定した結果を示すグラフである。
図7】ゲート絶縁膜の酸化シリコン換算膜厚とゲート絶縁膜中に存在するトラップ量の関係を示すプロットである。
図8】ゲート絶縁膜の酸化シリコン換算膜厚とゲート絶縁膜を流れるリーク電流密度の関係を示すプロットである。
図9】ALD法の材料としてトリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜の構造例を示す図である。
図10】ALD法の材料として三塩化アルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜の構造例を示す図である。
図11】プレーナ型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置の構成を示す断面図である。
図12】応用例1における半導体装置の製造工程を示すフローチャートである。
図13】応用例1における半導体装置の製造工程を示すフローチャートである。
図14】トレンチゲート型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0012】
シリコンよりもバンドギャップの大きな半導体材料を主成分とする半導体基板に形成された電界効果トランジスタを含む半導体装置(以下では、ワイドバンドギャップパワー半導体装置と呼ぶ)が注目されている。
【0013】
なぜなら、バンドギャップが大きいということは、高い絶縁破壊強度を有していることを意味するから高耐圧を実現しやすくなるからである。
【0014】
そして、半導体材料自体が高い絶縁破壊強度を有していると、耐圧を保持するドリフト層を薄くしても耐圧を確保できる。このことから、例えば、ドリフト層を薄くするとともに、不純物濃度を高くすることにより、パワー半導体装置のオン抵抗を低減できる。
【0015】
すなわち、ワイドバンドギャップパワー半導体装置は、互いにトレードオフの関係にある耐圧の向上とオン抵抗の低減とを両立できる点で優れている。したがって、ワイドバンドギャップパワー半導体装置は、高性能を実現できる半導体装置として期待される。
【0016】
シリコンよりもバンドギャップの大きな半導体材料とは、例えば、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga)またはダイヤモンドなどを挙げることができる。以下では、炭化珪素に着目して説明する。
【0017】
<改善の検討>
シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜を有する電界効果トランジスタ(Si電界効果トランジスタと呼ぶ)において、ゲート絶縁膜は、例えば、熱酸化法によって形成された酸化シリコン膜から構成される。このようにして形成されるゲート絶縁膜は、高い信頼性を有する高品質な膜である。すなわち、Si電界効果トランジスタでは、ゲート絶縁膜を高い信頼性を有する高品質な膜から構成することができる。
【0018】
これに対し、炭化珪素基板上に形成されたゲート絶縁膜を有する電界効果トランジスタ(以下、SiC電界効果トランジスタと呼ぶ)において、ゲート絶縁膜は、例えば、NOガスまたはNOガスを使用して形成された酸窒化シリコン膜(SiON)から構成される。しかしながら、このようにして形成されるゲート絶縁膜は、高い信頼性を有する膜とすることが困難であることが知られている。
【0019】
具体的に、上述したゲート絶縁膜の形成方法では、酸化反応によって炭化珪素のSi-C結合を切りながら酸窒化シリコン膜を形成する。このため、SiONとSiCの界面に界面欠陥(ダングリングボンド)が形成される。この結果、ゲート絶縁膜中の界面欠陥準位密度が高い。これにより、半導体装置のオン抵抗の増大およびしきい値電圧のシフトが引き起こされるおそれがある。このように、SiC電界効果トランジスタにおいては、ゲート絶縁膜を高品質な膜から構成することが難しい。
【0020】
そこで、熱酸化法ではなく、炭化珪素基板上に膜を堆積する化学気相成長法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)を使用してゲート絶縁膜を形成する手法が提案されている。この手法は、炭化珪素のSi-C結合を切りながらゲート絶縁膜を形成する手法ではないため、界面欠陥準位を低減できると考えられる。
【0021】
ただし、CVD法で形成される堆積膜は、その成膜原理から水分とともに、本質的に原料に由来する元素が堆積膜中に不純物として含まれてしまうおそれがある。すなわち、CVD法で形成されるゲート絶縁膜には、水分と、原料に由来する不純物とが不純物として含まれることが改善の余地として顕在化する。
【0022】
この点に関し、本発明者は、以下に示す新規な知見を獲得している。
【0023】
(1)ゲート絶縁膜中に含まれる水分は、界面に移動して酸化反応を引き起こすため、界面欠陥準位の生成原因となる。このことから、ゲート絶縁膜に含まれる水分は除去することが望ましい。水分は、アニール(加熱処理)で脱離可能である。
【0024】
(2)CVD法の原料ガスに炭素が含まれている場合、ゲート絶縁膜中に炭素が含まれる。炭素は、アニールしてもゲート絶縁膜中から脱離せず、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させる原因となる。このため、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減することが望ましい。
【0025】
(3)CVD法の原料ガスにハロゲン元素が含まれている場合、ゲート絶縁膜中にハロゲン元素が含まれる。ハロゲン元素は、アニールしてもゲート絶縁膜中から脱離しない。ただし、ハロゲン元素は、ゲート絶縁膜中に含まれていても膜質を劣化させにくい。
【0026】
以上の知見に基づき、本発明者は、CVD法でゲート絶縁膜を形成する方法において、ゲート絶縁膜を高い信頼性を有する膜から構成できる技術的思想を見出している。以下では、本発明者が見出した技術的思想について説明する。
【0027】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、炭化珪素基板上にゲート絶縁膜を形成する工程において、ハロゲン元素と金属元素とを含む材料ガスを使用したCVD法でゲート絶縁膜を形成する思想である。この基本思想によれば、CVD法の材料ガスにハロゲン元素が含まれている。この結果、ゲート絶縁膜にハロゲン元素が含まれる。ただし、ゲート絶縁膜中にハロゲン元素が含まれていても膜質を劣化させるおそれが少ない。したがって、基本思想によれば、高い信頼性を有する膜からゲート絶縁膜を構成することができる。
【0028】
すなわち、基本思想によれば、Si-C結合を切りながら成膜する熱酸化法ではなく、Si-C結合を切ることなく膜を堆積させるCVD法を使用する。このため、界面欠陥準位を低減できる。そして、CVD法の材料ガスとして、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させにくいハロゲン元素を含む材料ガスを使用しているので、膜質を向上できる。
【0029】
つまり、基本思想では、(1)界面欠陥準位の生成を抑制できるCVD法を使用する点、(2)CVD法の材料ガスにハロゲン元素を含む材料ガスを使用する点の組み合わせによって、高品質なゲート絶縁膜を形成できる。
【0030】
ハロゲン元素としては、例えば、フッ素または塩素を挙げることができる。また、金属元素としては、アルミニウム(Al)、ハフニウム(Hf)またはジルコニウム(Zr)などを挙げることができる。例えば、アルミニウムは、ゲート絶縁膜を酸化アルミニウム膜(アルミナ膜)から形成する場合に用いられる。ハフニウムは、ゲート絶縁膜を酸化ハフニウム膜(ハフニア膜)から形成する場合に用いられ、ジルコニウムは、ゲート絶縁膜を酸化ジルコニウム膜から形成される場合に用いられる。
【0031】
このように、基本思想では、CVD法の材料ガスとして、ハロゲン元素と金属元素とを含む材料ガスを使用する。さらに、CVD法の材料ガスは、炭素および水素を含まないことが望ましい。なぜなら、炭素は、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させる原因となるからである。また、CVD法の材料ガスに水素が含まれていると、ゲート絶縁膜中に水素と酸素の化合物である水分が含有されやすくなる。水分は、界面に移動して酸化反応を引き起こして界面欠陥準位の生成原因となる。したがって、CVD法の材料ガスとしては、ハロゲン元素と金属元素とを含む一方、炭素と水素を含まない材料ガスを使用することが、上述した新規な知見(1)、知見(2)および知見(3)から望ましい。
【0032】
さらに、必須要件ではないが、ゲート絶縁膜を形成した後、炭化珪素基板を加熱する工程を有することが望ましい。上述した新規な知見(1)で説明したように、CVD法で形成されたゲート絶縁膜には、水分が含まれている。水分は、界面に移動して酸化反応を引き起こして界面欠陥準位の生成原因となる。したがって、高品質なゲート絶縁膜を形成するためには、ゲート絶縁膜に含まれる水分は除去することが望ましい。そのため、炭化珪素基板を加熱して水分をゲート絶縁膜中から除去することが望ましい。
【0033】
炭化珪素界面において、脱離した水分と炭化珪素が反応して炭化珪素が酸化されないためには、加熱温度(アニール温度)は摂氏900度よりも低い温度であることが望ましい。なぜなら、炭化珪素の酸化が開始される温度は、摂氏900度であるからである。すなわち、ゲート絶縁膜中の水分を除去するためには、ゲート絶縁膜から脱離した水分が炭化珪素と反応しない温度範囲であることが有効である。
【0034】
また、ゲート絶縁膜中の水分を除去するためには、炭化珪素基板の加熱温度は、ゲート絶縁膜の形成温度よりも高いことが望ましい。炭化珪素基板の加熱温度は、例えば、摂氏500度以上摂氏900度よりも低い温度である。
【0035】
以上のような基本思想によれば、炭化珪素基板上に形成されるゲート絶縁膜であっても、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0036】
以下では、基本思想を具現化した具現化態様について説明する。
【0037】
<具現化態様>
<<半導体装置の製造方法>>
具現化態様では、半導体装置の製造方法に含まれるゲート絶縁膜を形成する工程を取り挙げて説明する。特に、具現化態様では、炭化珪素基板上に形成されるゲート絶縁膜を酸化アルミニウム膜(Al膜)から構成する例を説明する。また、ゲート絶縁膜の成膜方法として、CVD法の一種である原子層堆積法(以下、ALD法(Atomic Layer Deposition)と呼ぶ)を使用する例について説明する。
【0038】
図1は、具現化態様で使用するALD法を説明するフローチャートである。
【0039】
図1において、まず、ゲート絶縁膜を成膜する炭化珪素基板上にハロゲン元素を含む第1材料ガスを導入する(S1)。その後、第1材料ガスをパージする(S2)。続いて、炭化珪素基板上に酸素を含む第2材料ガスを導入する(S3)。そして、第2材料ガスをパージする(S4)。このような工程を経ることにより、炭化珪素基板上に原子層レベルの膜厚を有するゲート絶縁膜を形成できる。所定膜厚のゲート絶縁膜が形成されていない場合、成膜処理を継続する(S5)。一方、所定膜厚のゲート絶縁膜が形成されると、成膜処理を終了する(S5)。以上のようにして、所望の膜厚を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0040】
ここで、第1材料ガスは、AlClである。また、第2材料ガスは、HO、OまたはNOのいずれかである。そして、ALD法における成膜温度は、例えば、摂氏25度以上摂氏400度以下である。このようなALD法を使用することによって、具現化態様によれば、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。すなわち、具現化態様では、ALD法のハロゲン元素を含む第1材料ガスとして、AlClを使用することにより、以下に説明する特徴点を得ることができる。この特徴点により、具現化態様によれば、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0041】
以下では、上述した特徴点について説明する。
【0042】
具現化態様における第1特徴点は、AlClを使用することにより、ゲート絶縁膜中に存在する水分を少なくできる点である。例えば、ゲート絶縁膜を酸化アルミニウム膜から形成する場合、一般的に、ALD法の材料ガスとして、トリメチルアルミニウム(Al(CH)が使用される。この点に関し、本発明者は、トリメチルアルミニウムを使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が多くなることを新規に見出している。
【0043】
したがって、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が界面欠陥準位の生成原因となることを考慮すると、トリメチルアルミニウムを使用する場合、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成することが困難となる。
【0044】
これに対し、本発明者は、ALD法の材料ガスとしてAlClを使用すると、トリメチルアルミニウムを使用する場合よりも、ゲート絶縁膜中に含まれる水分を低減できることも新規に見出している。このことから、AlClを使用すれば、界面欠陥準位の生成原因となるゲート絶縁膜中の水分を低減できる。このため、AlClを使用することにより、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0045】
以下では、トリメチルアルミニウムを使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が多くなる一方、AlClを使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が少なくなる定性的なメカニズムについて説明する。
【0046】
トリメチルアルミニウムを使用する場合のALD法は、以下の工程を有する。
(a1)トリメチルアルミニウムを導入する工程。
(a2)トリメチルアルミニウムをパージする工程。
(a3)HO(酸化剤)を導入する工程。
(a4)HOをパージする工程。
【0047】
これにより、例えば、図2に示すように、トリメチルアルミニウムの一部のメチル基は、酸化剤(HO)によって、水酸基に置き換わる。そして、メチル基を構成する水素と水酸基とが反応して水分が生成されて脱離する。このように、トリメチルアルミニウムにおいては、水分の構成元素となる水素が存在するため、水分が生成されやすい。この結果、トリメチルアルミニウムを使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる水分が多くなりやすい。
【0048】
これに対し、AlClを使用する場合のALD法は、以下の工程を有する。
(a1)AlClを導入する工程。
(a2)AlClをパージする工程。
(a3)HO(酸化剤)を導入する工程。
(a4)HOをパージする工程。
【0049】
これにより、例えば、図3に示すように、AlClの一部の塩素は、酸化剤(HO)によって、水酸基に置き換わる。そして、複数の水酸基が反応することにより水分が生成されて脱離する。この点に関し、AlClにおいては、水分の構成元素となる水素が存在しないため、水分が生成されにくい。この結果、AlClを使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる水分を低減しやすくなる。
【0050】
図4は、昇温脱離法に基づく水分量の測定結果を示すグラフである。図4において、横軸はゲート絶縁膜(酸化アルミニウム膜)を形成した炭化珪素基板を配置するステージの温度を示している。一方、縦軸はゲート絶縁膜に含まれる水分量を示している。
【0051】
グラフ(1)は、トリメチルアルミニウム(TMA)を材料ガスとしたALD法で形成された酸化アルミニウム膜を示している。グラフ(2)は、AlClを材料ガスとしたALD法で形成された酸化アルミニウム膜を示している。
【0052】
図4に示すように、AlClを材料ガスとしたALD法で形成された酸化アルミニウム膜中の水分量は、トリメチルアルミニウム(TMA)を材料ガスとしたALD法で形成された酸化アルミニウム膜中の水分量よりも少ないことがわかる。したがって、AlClを使用することにより、トリメチルアルミニウムを使用する場合よりも、ゲート絶縁膜中(酸化アルミニウム膜中)の水分量を低減できることが裏付けられている。
【0053】
なお、酸化剤として、HOに代えてOまたはNOを使用することもできる。この場合、さらにゲート絶縁膜中の水分を低減できる。なぜなら、HOには、水素が含まれているのに対し、OまたはNOには、水分の構成元素である水素が含まれていない結果、ゲート絶縁膜中に水分を生成しにくくできるからである。すなわち、ゲート絶縁膜中の水分を低減する観点から、酸化剤は、OまたはNOを使用することが望ましい。
【0054】
次に、具現化態様における第2特徴点は、AlClを使用することにより、ゲート絶縁膜中に存在する炭素を少なくできる点である。つまり、AlClには、炭素が含まれていないため、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減できる。すなわち、炭素は、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させる原因となることを考慮すると、炭素を含有しないAlClをALD法の材料ガスに使用してゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減できることは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できることに繋がる。
【0055】
例えば、トリメチルアルミニウムには、メチル基として炭素が含まれている。したがって、トリメチルアルミニウムをALD法の材料ガスとして使用すると、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素が多くなる。この結果、炭素によってゲート絶縁膜の膜質が劣化してしまう。
【0056】
これに対し、具現化態様のように、AlClを使用する場合、AlClが炭素を含有しないことから、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減できる。この結果、具現化態様によれば、ゲート絶縁膜の膜質劣化の要因となる炭素を低減できる。このことから、具現化態様によれば、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0057】
図5は、SIMS分析によってゲート絶縁膜中に含まれる炭素濃度を測定した結果を示すグラフである。図5において、グラフ(1)は、トリメチルアルミニウムを使用して成膜したゲート絶縁膜を示している。グラフ(2)は、トリメチルアルミニウムを使用して成膜した後に摂氏800度の加熱処理を施したゲート絶縁膜を示している。
【0058】
また、グラフ(3)は、AlClを使用して成膜したゲート絶縁膜を示している。グラフ(4)は、AlClを使用して成膜した後に摂氏800度の加熱処理を施したゲート絶縁膜を示している。
【0059】
まず、図5に示すように、AlClを使用することにより、トリメチルアルミニウムを使用する場合よりもゲート絶縁膜中に含まれる炭素濃度を低減できる。
【0060】
ここで、ALD法の材料ガスとして炭素を含有しないAlClを使用する場合であっても、ゲート絶縁膜に多少の炭素が含まれていることが図5から読み取れる。これは、ゲート絶縁膜が炭化珪素基板上に形成されるため、ゲート絶縁膜と接する炭化珪素基板からゲート絶縁膜に炭素が拡散することに起因していると推測できる。
【0061】
続いて、図5から、トリメチルアルミニウムを使用する場合だけでなく、AlClを使用する場合であっても、摂氏800度の加熱処理を施した後のゲート絶縁膜の炭素濃度は、摂氏800度の加熱処理を施す前のゲート絶縁膜の炭素濃度とほとんど変化がない。つまり、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素は、ALD法の材料ガスの種類に関わらず、摂氏800度の加熱処理を施しても脱離しない。
【0062】
このことから、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減するためには、加熱処理は有効な手段ではない。これに対し、具現化態様のように、炭素を含有するトリメチルアルミニウムに代えて、炭素を含有しないAlClを採用することは、ゲート絶縁膜中に含まれる炭素を低減する観点から有効である。
【0063】
続いて、具現化態様における第3特徴点は、AlClを使用する結果、ゲート絶縁膜中に存在する塩素が多くなる点である。つまり、AlClには、塩素が含まれているため、ゲート絶縁膜中に含まれる塩素が多くなる。
【0064】
ただし、塩素は、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させる原因とはならない。このことを考慮すると、塩素を含有するAlClをALD法の材料ガスとして使用することは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成するために問題とはならない。それよりも、AlClを使用することは、ゲート絶縁膜の膜質を劣化させる原因となる炭素を低減できるため、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成する観点から有用である。
【0065】
図6は、SIMS分析によってゲート絶縁膜中に含まれる塩素濃度を測定した結果を示すグラフである。図6において、グラフ(1)は、トリメチルアルミニウムを使用して成膜したゲート絶縁膜を示している。グラフ(2)は、トリメチルアルミニウムを使用して成膜した後に摂氏800度の加熱処理を施したゲート絶縁膜を示している。
【0066】
また、グラフ(3)は、AlClを使用して成膜したゲート絶縁膜を示している。グラフ(4)は、AlClを使用して成膜した後に摂氏800度の加熱処理を施したゲート絶縁膜を示している。
【0067】
まず、図6に示すように、AlClを使用することにより、トリメチルアルミニウムを使用する場合よりもゲート絶縁膜中に含まれる塩素濃度が増加することがわかる。これは、AlClには塩素が含まれているのに対し、トリメチルアルミニウムには塩素が含まれていないからである。
【0068】
続いて、図6から、トリメチルアルミニウムを使用する場合だけでなく、AlClを使用する場合であっても、摂氏800度の加熱処理を施した後のゲート絶縁膜の塩素濃度は、摂氏800度の加熱処理を施す前のゲート絶縁膜の塩素濃度とほとんど変化がない。つまり、ゲート絶縁膜中に含まれる塩素は、ALD法の材料ガスの種類に関わらず、摂氏800度の加熱処理を施しても脱離しない。ただし、ゲート絶縁膜中に塩素が残留しても、塩素はゲート絶縁膜の膜質を劣化させない。このため、ゲート絶縁膜中に塩素が残留することは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成する観点から問題とはならない。
【0069】
以上のことから、具現化態様によれば、AlClを使用することによって上述した第1特徴点、第2特徴点および第3特徴点を得ることができる。この結果、具現化態様では、これらの特徴点によって、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0070】
<<効果の検証>>
以下では、具現化態様によれば、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できることを裏付ける検証結果について説明する。
【0071】
図7は、ゲート絶縁膜の酸化シリコン換算膜厚(EOT)とゲート絶縁膜中に存在するトラップ量の関係を示すプロットである。横軸は酸化シリコン換算膜厚を示している。縦軸はトラップ量を示している。図7において、ゲート絶縁膜は、酸化アルミニウム膜である。また、丸印は、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜を示すプロットである。また、三角印は、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜を示すプロットである。
【0072】
図7に示すように、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜中のトラップ量は、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜中のトラップ量よりも小さい。つまり、AlClを使用して形成された酸化アルミニウム膜中の欠陥準位密度は、トリメチルアルミニウムを使用して形成された酸化アルミニウム膜中の欠陥準位密度よりも小さい。
【0073】
このことは、AlClを使用して形成された酸化アルミニウム膜が、トリメチルアルミニウムを使用して形成された酸化アルミニウム膜よりも、高い信頼性を有するゲート絶縁膜であることを意味している。したがって、図7から、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜(ゲート絶縁膜)は、高い信頼性を有するゲート絶縁膜であることが裏付けられている。
【0074】
次に、図8は、ゲート絶縁膜の酸化シリコン換算膜厚(EOT)とゲート絶縁膜を流れるリーク電流密度の関係を示すプロットである。横軸は酸化シリコン換算膜厚を示している。縦軸はリーク電流密度を示している。
【0075】
図8において、ゲート絶縁膜は、酸化アルミニウム膜である。また、丸印は、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜を示している。また、三角印は、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜を示している。
【0076】
図8に示すように、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜中のリーク電流密度は、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜中のリーク電流密度よりも小さい。
【0077】
このことは、AlClを使用して形成された酸化アルミニウム膜が、トリメチルアルミニウムを使用して形成された酸化アルミニウム膜よりも、高い信頼性を有するゲート絶縁膜であることを意味している。したがって、図8から、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜(ゲート絶縁膜)は、高い信頼性を有するゲート絶縁膜であることが裏付けられている。
【0078】
以下では、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜が、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜よりも、トラップ量およびリーク電流密度が小さくなる定性的なメカニズムについて説明する。
【0079】
図9は、トリメチルアルミニウムを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜の構造例を示す図である。図9に示すように、トリメチルアルミニウムを使用して形成された酸化アルミニウム膜では、CHxの残留や脱離によって、「トラップサイト」が生成される。これにより、トリメチルアルミニウムを使用して形成された酸化アルミニウム膜では、欠陥準位密度が増加する結果、リーク電流密度が増加する。
【0080】
図10は、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜の構造例を示す図である。図10に示すように、AlClを使用して形成された酸化アルミニウム膜では、塩素(Cl)によってダングリングボンドが終端される。これにより、AlClを使用して形成された酸化アルミニウム膜では、欠陥準位密度が減少する結果、リーク電流密度が減少する。
【0081】
以上のようなメカニズムによって、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜では、欠陥準位密度およびリーク電流密度が小さいという高品質なゲート絶縁膜を実現できることを定性的に理解できる。
【0082】
<応用例>
具現化態様によれば、高い信頼性を有するゲート絶縁膜を形成できる。したがって、具現化態様におけるゲート絶縁膜を使用した電界効果トランジスタを製造することにより、電界効果トランジスタを含む半導体装置の信頼性を向上できる。
【0083】
以下でも、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料の一例として炭化珪素を取り挙げる。そして、具現化態様におけるゲート絶縁膜の応用例として、炭化珪素基板上に形成されたゲート絶縁膜を有するSiC電界効果トランジスタを例に挙げて説明する。特に、応用例1では、プレーナ型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置について説明する。また、応用例2では、トレンチゲート型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置について説明する。
【0084】
<<応用例1>>
<<<半導体装置の構成>>>
図11は、プレーナ型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置の構成を示す断面図である。図11において、半導体装置は、炭化珪素基板SUB、裏面高濃度半導体層BNL、裏面シリサイドBSLおよび裏面電極BEを有する。また、半導体装置は、エピタキシャル層EPI、チャネル層CH、ソース領域SR、ボディコンタクト領域PRおよび金属シリサイドSLを有する。さらに、半導体装置は、ゲート絶縁膜GOX、ゲート電極GE、層間絶縁膜IL、ソース電極SEおよびパッシベーション膜PASを有する。
【0085】
炭化珪素基板SUBは、例えば、n型半導体基板である。炭化珪素基板SUBの下面側には、例えば、n型半導体層からなる裏面高濃度半導体層BNLが形成されている。この裏面高濃度半導体層BNLと接するように裏面シリサイドBSLが形成されている。裏面シリサイドBSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成されている。そして、裏面シリサイドBSLと接するように裏面電極BEが形成されている。裏面電極BEは、例えば、チタン膜、ニッケル膜および金膜からなる積層膜によって構成されている。
【0086】
次に、炭化珪素基板SUBの上面上には、エピタキシャル層EPIが形成されている。エピタキシャル層EPIは、例えば、n型半導体層からなる。エピタキシャル層EPI内には、例えば、p型半導体層からなる複数のチャネル層CHが互いに離れるように形成されている。そして、複数のチャネル層CHのそれぞれの内部には、互いに接するソース領域SRとボディコンタクト領域PRとが形成されている。
【0087】
したがって、図11に示すように、半導体装置には、複数のソース領域SRと複数のボディコンタクト領域PRが形成されている。例えば、図11には、複数のソース領域SRに含まれるソース領域SR1とソース領域SR2とが示されている。複数のソース領域SRのそれぞれは、例えば、n型半導体領域から構成されている。また、複数のボディコンタクト領域PRのそれぞれは、例えば、p型半導体領域から構成されている。
【0088】
続いて、図11に示すように、ソース領域SR1とソース領域SR2の間のエピタキシャル層EPIの上面上にゲート絶縁膜GOXが形成されている。詳細には、ゲート絶縁膜GOXは、エピタキシャル層EPIの上面上、チャネル層CHの上面上、ソース領域SR1の一部上およびソース領域SR2の一部上に形成されている。
【0089】
このゲート絶縁膜GOXは、具現化態様で説明したゲート絶縁膜から構成されている。すなわち、ゲート絶縁膜GOXは、ALD法の材料ガスとしてAlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜から構成されている。これにより、ゲート絶縁膜GOXは、炭素よりも高い濃度のハロゲン元素(塩素)を有する。
【0090】
ゲート絶縁膜GOX上には、ゲート電極GEが形成されている。ゲート電極GEは、例えば、リン(P)や砒素(As)などのn型不純物(ドナー)が導入されたポリシリコン膜から構成されている。そして、ゲート電極GEを覆うように層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜ILは、例えば、酸化シリコン膜から構成されている。
【0091】
このように構成されている層間絶縁膜ILには、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRに達するコンタクトホールCNTが形成されている。コンタクトホールCNTの底面から露出するソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRの表面には、金属シリサイドSLが形成されている。金属シリサイドSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成されている。そして、コンタクトホールCNTの内部を埋め込み、かつ、層間絶縁膜IL上には、ソース電極SEが形成されている。これにより、ソース電極SEは、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRと電気的に接続される。ソース電極SEは、例えば、チタン膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜からなる積層膜によって構成されている。ソース電極SE上には、パッシベーション膜PASが形成されている。パッシベーション膜PASは、例えば、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0092】
以上のようにして、応用例1における半導体装置が構成されている。
【0093】
応用例1における半導体装置では、具現化態様で説明したゲート絶縁膜を使用している。このため、半導体装置のゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜となる。この結果、応用例1における半導体装置によれば、信頼性を向上できる。
【0094】
<<<半導体装置の製造方法>>>
次に、応用例1における半導体装置の製造方法について説明する。
【0095】
図12および図13は、応用例1における半導体装置の製造工程を示すフローチャートである。まず、炭化珪素基板SUBを準備する(S101)。次に、炭化珪素基板SUBの上面上にエピタキシャル層EPIを形成する(S102)。エピタキシャル層EPIは、n型半導体層である。エピタキシャル層EPIは、エピタキシャル成長法を使用して、例えば、窒素などのn型不純物を導入した炭化珪素層を成長させることにより形成される。
【0096】
次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法を使用することにより、エピタキシャル層EPIの内部にチャネル層CHを形成する(S103)。チャネル層CHは、p型半導体層である。チャネル層CHは、例えば、アルミニウムなどのp型不純物をエピタキシャル層EPIに導入することにより形成される。そして、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法を使用することにより、チャネル層CHの内部にソース領域SRを形成する(S104)。ソース領域SRは、n型半導体領域である。ソース領域SRは、例えば、窒素などのn型不純物をチャネル層CHに導入することにより形成される。
【0097】
その後、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法を使用することにより、チャネル層CHの内部にソース領域SRと接するボディコンタクト領域PRを形成する(S105)。ボディコンタクト領域PRは、p型半導体領域である。ボディコンタクト領域PRは、例えば、アルミニウムなどのp型不純物をチャネル層CHに導入することにより形成される。続いて、イオン注入法を使用することにより、炭化珪素基板SUBの下面に、裏面高濃度半導体層BNLを形成する(S106)。裏面高濃度半導体層BNLは、n型半導体層である。裏面高濃度半導体層BNLは、例えば、窒素などのn型不純物を炭化珪素基板SUBに導入することにより形成される。
【0098】
次に、炭化珪素基板SUBを加熱することにより、活性化アニールを実施する(S107)。活性化アニールは、例えば、炭化珪素基板SUBを摂氏1700度に加熱することにより行われる。この活性化アニールにより、イオン注入法で形成されたチャネル層CH、ソース領域SR、ボディコンタクト領域PRおよび裏面高濃度半導体層BNLに導入されている導電型不純物の活性化が行われる。
【0099】
続いて、チャネル層CH、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRを形成したエピタキシャル層EPIの上面上にゲート絶縁膜GOXを形成する(S108)。ゲート絶縁膜GOXは、AlClを材料ガスに使用したALD法によって形成される。これにより、ゲート絶縁膜GOXは、酸化アルミニウム膜から構成される。
【0100】
具現化態様で説明したように、AlClを使用したALD法により形成された酸化アルミニウム膜は、欠陥準位密度およびリーク電流密度が小さく、高品質な膜である。したがって、ゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜となる。
【0101】
ここで、ゲート絶縁膜GOXを形成した後、例えば、ゲート絶縁膜GOXの形成温度以上摂氏900度より低い温度で、炭化珪素基板SUBを加熱することが有効である。なぜなら、この加熱工程によって、炭化珪素基板SUBが酸化されない温度(摂氏900度よりも低い温度)でゲート絶縁膜GOXから水分を脱離できるからである。
【0102】
その後、ゲート絶縁膜GOX上にゲート電極GEを形成する(S109)。ゲート電極GEは、CVD法およびパターニング技術を使用することにより形成できる。具体的に、ゲート電極GEは、例えば、窒素などのn型不純物が添加されたポリシリコン膜を堆積した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によって、このポリシリコン膜をパターニングすることにより形成できる。
【0103】
そして、ゲート電極GEを覆うように、チャネル層CH、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRを形成したエピタキシャル層EPIの上面上に層間絶縁膜ILを形成する(S110)。層間絶縁膜ILは、例えば、酸化シリコン膜から構成されている。酸化シリコン膜は、CVD法を使用することにより形成できる。
【0104】
次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、層間絶縁膜ILにコンタクトホールCNTを形成する(S111)。コンタクトホールCNTは、層間絶縁膜ILを貫通してソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRの両方に達するように形成される。
【0105】
続いて、コンタクトホールCNTの底面から露出するソース領域SRの表面およびボディコンタクト領域PRの表面に金属シリサイドSLを形成する(S112)。金属シリサイドSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成される。ニッケルシリサイドは、コンタクトホールCNTの底面を含む層間絶縁膜IL上にニッケル膜を形成した後、炭化珪素基板SUBに摂氏1000度の加熱処理であるシリサイドアニールを実施することで形成できる。ここで、上述したように、ゲート絶縁膜GOXを形成した後、炭化珪素基板SUBを加熱して水分をゲート絶縁膜GOX中から除去することが望ましい。すなわち、ゲート絶縁膜GOXを形成した後に、水分をゲート絶縁膜GOX中から除去するための加熱工程を実施してもよい。この場合、シリサイドアニールを実施する段階で、ゲート絶縁膜GOX中の水分は除去されている。このため、シリサイドアニールによって、炭化珪素基板SUBが酸化されることを抑制できる。
【0106】
ただし、ゲート絶縁膜GOXを形成した後の上述した加熱工程をシリサイドアニールで代用することもできる。つまり、ゲート絶縁膜GOXを形成した後の加熱工程を実施せず、シリサイドアニールによって、水分をゲート絶縁膜GOX中から除去してもよい。このように、金属シリサイドSLを形成するための機能だけでなく、水分をゲート絶縁膜GOX中から除去するための機能もシリサイドアニールに兼用させることができる。
【0107】
この場合、シリサイドアニールの温度が炭化珪素の酸化温度よりも高い温度であるため、シリサイドアニールによって、脱離する水分と炭化珪素とが酸化反応する。したがって、シリサイドアニールによって、水分をゲート絶縁膜GOX中から除去する場合には、ゲート絶縁膜GOXを形成する際の成膜条件を調整することにより、ゲート絶縁膜GOX中に含まれる水分を充分に低減しておくことが重要である。
【0108】
その後、底面に金属シリサイドSLを形成したコンタクトホールCNTの内部を埋め込むとともに、層間絶縁膜IL上にソース電極SEを形成する(S113)。ソース電極SEは、例えば、チタン膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜からなる積層膜によって構成される。ソース電極SEは、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成できる。そして、ソース電極SE上にパッシベーション膜PASを形成する(S114)。パッシベーション膜PASは、表面保護膜である。パッシベーション膜PASは、例えば、ポリイミド樹脂膜から構成される。ポリイミド樹脂膜は、例えば、塗布法によって形成できる。
【0109】
次に、炭化珪素基板SUBの下面に形成されている裏面高濃度半導体層BNLと接する裏面シリサイドBSLを形成する(S115)。裏面シリサイドBSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成される。ニッケルシリサイドは、裏面高濃度半導体層BNLと接するニッケル膜を形成した後、炭化珪素基板SUBに摂氏1000度の加熱処理であるシリサイドアニールを実施することで形成できる。
【0110】
続いて、裏面シリサイドBSLと接する裏面電極BEを形成する(S116)。裏面電極BEは、例えば、チタン膜、ニッケル膜および金膜からなる積層膜によって構成される。裏面電極BEは、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成できる。
【0111】
以上のようにして、応用例1における半導体装置を製造できる。応用例1における半導体装置では、AlClを使用したALD法により形成された酸化アルミニウム膜を使用している。このため、応用例1における半導体装置のゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜となる。この結果、応用例1における半導体装置によれば、信頼性を向上できる。
【0112】
<<応用例2>>
<<<半導体装置の構成>>>
図14は、トレンチゲート型のSiC電界効果トランジスタを含む半導体装置の構成を示す断面図である。図14において、半導体装置は、炭化珪素基板SUB、裏面高濃度半導体層BNL、裏面シリサイドBSLおよび裏面電極BEを有する。また、半導体装置は、エピタキシャル層EPI、チャネル層CH、ソース領域SR、ボディコンタクト領域PRおよび金属シリサイドSLを有する。さらに、半導体装置は、トレンチTR、ゲート絶縁膜GOX、ゲート電極GE、層間絶縁膜IL、ソース電極SEおよびパッシベーション膜PASを有する。
【0113】
炭化珪素基板SUBは、例えば、n型半導体基板である。炭化珪素基板SUBの下面側には、例えば、n型半導体層からなる裏面高濃度半導体層BNLが形成されている。この裏面高濃度半導体層BNLと接するように裏面シリサイドBSLが形成されている。裏面シリサイドBSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成されている。そして、裏面シリサイドBSLと接するように裏面電極BEが形成されている。裏面電極BEは、例えば、チタン膜、ニッケル膜および金膜からなる積層膜によって構成されている。
【0114】
次に、炭化珪素基板SUBの上面上には、エピタキシャル層EPIが形成されている。エピタキシャル層EPIは、例えば、n型半導体層からなる。エピタキシャル層EPI上には、例えば、p型半導体層からなるチャネル層CHが形成されている。そして、チャネル層CHの内部には、複数のソース領域SRと複数のボディコンタクト領域PRが形成されている。例えば、図14には、複数のソース領域SRに含まれるソース領域SR1とソース領域SR2とが示されている。複数のソース領域SRのそれぞれは、例えば、n型半導体領域から構成されている。また、複数のボディコンタクト領域PRのそれぞれは、例えば、p型半導体領域から構成されている。
【0115】
続いて、図14に示すように、ソース領域SR1とソース領域SR2の間には、トレンチTRが形成されている。このトレンチTRは、チャネル層CHを貫通するように形成されている。トレンチTRの底部は、エピタキシャル層EPIの内部に達している。
【0116】
トレンチTRの内壁上には、ゲート絶縁膜GOXが形成されている。このゲート絶縁膜GOXは、具現化態様で説明したゲート絶縁膜から構成されている。すなわち、ゲート絶縁膜GOXは、AlClを使用することにより形成された酸化アルミニウム膜から構成されている。これにより、ゲート絶縁膜GOXは、炭素よりも高い濃度のハロゲン元素(塩素)を有する。
【0117】
次に、トレンチTRの内部には、ゲート絶縁膜GOXを介してゲート電極GEが埋め込まれている。そして、このゲート電極GEは、トレンチTRに埋め込まれた部分と、トレンチTRの上方にはみ出した部分とを有するように形成されている。ゲート電極GEは、例えば、リン(P)や砒素(As)などのn型不純物(ドナー)が導入されたポリシリコン膜から構成されている。そして、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRが形成されたチャネル層CH上とゲート電極GEとを覆うように層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜ILは、例えば、酸化シリコン膜から構成されている。
【0118】
このように構成されている層間絶縁膜ILには、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRに達するコンタクトホールCNTが形成されている。コンタクトホールCNTの底面から露出するソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRの表面には、金属シリサイドSLが形成されている。金属シリサイドSLは、例えば、ニッケルシリサイドから構成されている。そして、コンタクトホールCNTの内部を埋め込み、かつ、層間絶縁膜IL上には、ソース電極SEが形成されている。これにより、ソース電極SEは、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRと電気的に接続される。ソース電極SEは、例えば、チタン膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜からなる積層膜によって構成されている。ソース電極SE上には、パッシベーション膜PASが形成されている。パッシベーション膜PASは、例えば、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0119】
以上のようにして、応用例2における半導体装置が構成されている。
【0120】
応用例2における半導体装置でも、具現化態様で説明したゲート絶縁膜を使用している。このため、半導体装置のゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有するゲート絶縁膜となる。この結果、応用例2における半導体装置によれば、信頼性を向上できる。
【0121】
<<<半導体装置の製造方法>>>
次に、応用例2における半導体装置の製造方法について説明する。なお、応用例2における半導体装置の製造方法は、応用例1における半導体装置の製造方法とほぼ同じであるため、同じ工程については省略し、相違する工程を中心に説明する。特に、図12および図13を使用して、応用例2における半導体装置の製造方法を説明する。
【0122】
図12において、ステップS101からステップS107までの工程は、応用例1における半導体装置の製造方法と同様であるため省略する。
【0123】
次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、トレンチTRを形成する。トレンチTRは、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRを形成したチャネル層CHを貫通して、トレンチTRの底部がエピタキシャル層EPIの内部に達するように形成される(図14参照)。
【0124】
続いて、ソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRを形成したチャネル層CH上およびトレンチTRの内壁上にゲート絶縁膜GOXを形成する(S108)。ゲート絶縁膜GOXは、AlClを材料ガスに使用したALD法によって形成される。これにより、ゲート絶縁膜GOXは、酸化アルミニウム膜から構成される。
【0125】
具現化態様で説明したように、AlClを使用したALD法により形成された酸化アルミニウム膜は、欠陥準位密度およびリーク電流密度が小さく、高品質な膜である。したがって、ゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有する高品質なゲート絶縁膜となる。
【0126】
その後、ゲート絶縁膜GOXを介してトレンチTRを埋め込む部位と、トレンチTRの上方にはみ出した部位とを有するゲート電極GEを形成する(S109)。ゲート電極GEは、CVD法およびパターニング技術を使用することにより形成できる。具体的に、ゲート電極GEは、例えば、窒素などのn型不純物が添加されたポリシリコン膜をソース領域SRおよびボディコンタクト領域PRを形成したチャネル層CH上およびトレンチTRの内部に堆積した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によって、このポリシリコン膜をパターニングすることにより形成できる。
【0127】
その後の図13に示すステップS110からステップS116までの工程は、応用例1と同様であるため省略する。以上のようにして、応用例2における半導体装置を製造できる。応用例2における半導体装置でも、AlClを使用したALD法により形成された酸化アルミニウム膜を使用している。このため、応用例2における半導体装置のゲート絶縁膜GOXは、高い信頼性を有する高品質なゲート絶縁膜となる。この結果、応用例2における半導体装置によれば、信頼性を向上できる。
【0128】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0129】
BE 裏面電極
BNL 裏面高濃度半導体層
BSL 裏面シリサイド
CH チャネル層
CNT コンタクトホール
EPI エピタキシャル層
GE ゲート電極
GOX ゲート絶縁膜
IL 層間絶縁膜
PAS パッシベーション膜
PR ボディコンタクト領域
SE ソース電極
SL 金属シリサイド
SR ソース領域
SR1 ソース領域
SR2 ソース領域
SUB 炭化珪素基板
TR トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14