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特開2025-22420性状判定方法および学習用画像撮影装置
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  • 特開-性状判定方法および学習用画像撮影装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022420
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】性状判定方法および学習用画像撮影装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20250206BHJP
   E21D 9/12 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
E21D9/087 Z
E21D9/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126967
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(71)【出願人】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】志田 智之
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 計夫
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 健斗
(72)【発明者】
【氏名】木村 謙介
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054DA02
2D054DA03
2D054DA31
2D054GA17
2D054GA58
2D054GA82
2D054GA95
(57)【要約】
【課題】シールド掘進開始時点で掘削土(一例は、泥土)の性状を精度よく判定できる性状判定方法および学習用画像撮影装置を提供する。
【解決手段】シールド掘進機から排出される掘削土の性状を判定する性状判定方法であって、前記掘削土の性状を模擬した模擬土を作製する模擬土作製工程S11と、前記模擬土を撮像した画像データと、前記模擬土の性状に関する性状情報と、からなる学習用データのデータセットを準備する学習用データ準備工程S12と、前記データセットを用いて、前記掘削土を撮像した画像データを学習モデルに入力することによって性状情報を出力するように前記学習モデルを学習させる学習工程S13と、学習済みの学習モデルを用いて、前記掘削土を撮像した画像データから当該掘削土の性状情報を判定する判定工程S30と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機から排出される掘削土の性状を判定する性状判定方法であって、
前記掘削土の性状を模擬した模擬土を作製する模擬土作製工程と、
前記模擬土を撮像した画像データと、前記模擬土の性状に関する性状情報と、からなる学習用データのデータセットを準備する学習用データ準備工程と、
前記データセットを用いて、前記掘削土を撮像した画像データを学習モデルに入力することによって性状情報を出力するように前記学習モデルを学習させる学習工程と、
学習済みの学習モデルを用いて、前記掘削土を撮像した画像データから当該掘削土の性状情報を判定する判定工程と、を有する、
ことを特徴とする性状判定方法。
【請求項2】
前記模擬土作製工程では、設計図書に含まれる土質調査結果に基づいて、前記模擬土の性状を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の性状判定方法。
【請求項3】
前記模擬土作製工程では、立坑構築時に採取された土砂を用いて前記模擬土を作製する、ことを特徴とする請求項1に記載の性状判定方法。
【請求項4】
前記学習用データ準備工程では、複数のコンベアを無端状に配置した搬送手段を用いて搬送される前記模擬土を撮像する、
ことを特徴とする請求項1に記載の性状判定方法。
【請求項5】
シールド掘進機から排出される掘削土の性状の学習に用いられる画像データを作成する学習用画像撮影装置であって、
複数のコンベアを無端状に配置し、前記掘削土の性状を模擬した模擬土を搬送する搬送手段と、
複数の前記コンベアの一部または全部を覆う覆蓋手段と、
前記覆蓋手段内に配置され、前記搬送手段によって搬送される前記模擬土を撮像する撮像手段と、を備える、
ことを特徴とする学習用画像撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性状判定方法および学習用画像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機を用いてトンネルを構築するシールド工法として、土圧式シールド工法がある。これらの工法で用いるシールド掘進機は、カッタヘッドと、カッタヘッドにより掘削された土砂(掘削土)が取り込まれるチャンバと、チャンバ内の泥土(土砂に加泥材を添加して不透水性および塑性流動性を持たせたもの)を後方に排出するスクリューコンベアとを有している。この方式では、カッタヘッドで掘削した土砂をチャンバ内に取り込んで充満させ、チャンバ内の土圧により切羽の安定を図りながら、スクリューコンベアを介してコンベアへの排土が行われる。
したがって、土圧式シールド工法等では、切羽の安定を図るためにチャンバ内の泥土が適当な塑性流動性を保っている必要があり、トンネルの施工管理において当該泥土の性状を把握することが重要である。
これに関連して、機械学習の技術を用いて、シールド掘進機から排出された泥土の流動性を判定する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-116529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、シールド掘進機から排出された泥土を撮像することで、学習用の画像データを得ている。つまり、特許文献1に記載された技術では、実工事で排出される泥土を撮像して機械学習を行っているため、シールド掘進開始時点で学習を完了させることが難しく、学習モデルを地盤に適した状態で使用開始することができないという問題がある。
このような観点から、本発明は、シールド掘進開始時点で掘削土(一例は、泥土)の性状を精度よく判定できる性状判定方法および学習用画像撮影装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る性状判定方法は、シールド掘進機から排出される掘削土の性状を判定する方法である。この性状判定方法は、模擬土作製工程と、学習用データ準備工程と、学習工程と、判定工程とを有する。
模擬土作製工程では、前記掘削土の性状を模擬した模擬土を作製する。学習用データ準備工程では、前記模擬土を撮像した画像データと、前記模擬土の性状に関する性状情報と、からなる学習用データのデータセットを準備する。学習工程では、前記データセットを用いて、前記掘削土を撮像した画像データを学習モデルに入力することによって性状情報を出力するように前記学習モデルを学習させる。
判定工程では、学習済みの学習モデルを用いて、前記掘削土を撮像した画像データから当該掘削土の性状情報を判定する。
本発明に係る性状判定方法においては、シールド掘進開始時点よりも前の時点で、模擬土を用いて学習を完了させることができる。そのため、シールド掘進開始時点で学習モデルを地盤に適した状態にできるので、掘進開始時点から掘削土(一例は、泥土)の性状を精度よく判定できる。
【0006】
前記模擬土作製工程では、設計図書に含まれる土質調査結果に基づいて、前記模擬土の性状を決定してもよい。
また、前記模擬土作製工程では、立坑構築時に採取された土砂を用いて前記模擬土を作製してもよいし、購入した土砂をふるい分けして、土質調査における粒度試験結果を再現するように混合して作製してもよい。
このようにすると、学習に適した模擬土を容易に作製することができる。
前記学習用データ準備工程では、複数のコンベアを無端状に配置した搬送手段を用いて搬送される前記模擬土を撮像してもよい。
このようにすると、模擬土を繰り返し撮影可能なので、模擬土を撮影する負担が軽減される。また、コンベアの連結部分で模擬土がかき混ぜられるので、異なる状態(様々なバリエーション)の模擬土を撮影できる。
【0007】
本発明に係る学習用画像撮影装置は、シールド掘進機から排出される掘削土の性状の学習に用いられる画像データを作成する装置である。
この学習用画像撮影装置は、複数のコンベアを無端状に配置し、前記掘削土の性状を模擬した模擬土を搬送する搬送手段と、複数の前記コンベアの一部または全部を覆う覆蓋手段と、前記覆蓋手段内に配置され、前記搬送手段によって搬送される前記模擬土を撮像する撮像手段とを備える。
本発明に係る学習用画像撮影装置を用いれば、シールド掘進開始時点よりも前の時点で、模擬土を用いて学習を完了させることができる。そのため、シールド掘進開始時点で学習モデルを地盤に適した状態にできるので、掘進開始時点から掘削土(一例は、泥土)の性状を精度よく判定できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シールド掘進開始時点で掘削土の性状を精度よく判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る性状判定システムの構成図である。
図2A】学習用画像撮影装置の外観図である。なお、覆蓋手段を仮想線で記載し、内部の構成を見えるようにしている。
図2B】搬送手段の平面図である。
図3】シールド掘進機の断面図である。
図4】泥土性状学習装置および泥土性状判定装置の機能構成図である。
図5】本発明の実施形態に係る性状判定方法の工程を示すフローチャートの例示である。
図6】検証試験での模擬土の撮影状況を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0011】
<実施形態に係る性状判定システムの構成について>
図1を参照して、実施形態に係る性状判定システム1について説明する。図1は、実施形態に係る性状判定システム1の構成図である。性状判定システム1は、土圧式シールド工法で用いるシールド掘進機8から排出される泥土(掘削された土砂に加泥材を添加して不透水性および塑性流動性を持たせたもの)の性状(一例は、材料構成や硬さ)を判定するシステムである。性状判定システム1は、機械学習の技術を用いて、泥土を撮像した画像データから性状を判定する。
【0012】
性状判定システム1では、シールド掘進開始よりも前段階の工程である事前工程と、実際の工事現場でシールド掘進機8から排出される泥土の性状を判定する判定工程とがある。事前工程では、泥土の性状を模擬した模擬土を用いて、泥土の性状に関する学習を実施する。事前工程は、主に、泥土の性状を模擬した模擬土を作製する模擬土作製工程と、模擬土を撮影して学習用データを準備する学習用データ準備工程と、学習用データを用いて学習モデルを学習させる学習工程とを有する。
【0013】
図1に示すように、性状判定システム1は、学習用画像撮影装置2と、管理用端末3と、泥土性状学習装置4と、判定用画像撮影装置5と、泥土性状判定装置6とを主に備える。これらの装置は、インターネットやLAN(Local Area Network)などのネットワークを介して通信可能である。通信方法は、有線および無線の何れであってもよい。性状判定システム1は、クラウドシステムとして構成することも可能である。なお、図1に示す性状判定システム1の構成はあくまで例示である。事前工程においては、学習用画像撮影装置2、管理用端末3および泥土性状学習装置4が用いられ、判定工程においては、判定用画像撮影装置5および泥土性状判定装置6が用いられる。
【0014】
図2Aおよび図2Bを参照して、学習用画像撮影装置2について説明する。図2Aは、学習用画像撮影装置2の外観図であり、図2Bは、学習用画像撮影装置2を構成する搬送手段21の平面図である。なお、図2Aでは、覆蓋手段22を仮想線で記載し、内部の構成を見えるようにしている。
図2Aに示す学習用画像撮影装置2は、泥土の性状(一例は、材料構成や硬さ)を模した模擬土を用いて、学習用の画像データを作成する装置である。学習用画像撮影装置2は、主に、搬送手段21と、覆蓋手段22と、撮像手段23とを主に備える。
【0015】
図2Aに示す搬送手段21は、模擬土を搬送するものである。搬送手段21は、複数のコンベア25(一例は、ベルトコンベア)で構成され、当該コンベア25が無端状に配置されている。本実施形態での搬送手段21は、3つのコンベア25(第1コンベア25A、第2コンベア25B、第3コンベア25C)で構成され、図2Bに示すように三角形状に配置される。図2Bの矢印は、コンベア25の回転方向を示している。
第1コンベア25Aは、水平に配置されており、先端部25Aaおよび後端部25Abの高さは同じである(図2A参照)。第1コンベア25Aを搬送された模擬土は、先端部25Aaから落下する。
【0016】
第2コンベア25Bは、第1コンベア25Aの下流側に設置される。第2コンベア25Bは、水平面に対して傾けて設置されており、後端部25Bbよりも先端部25Baが高くなっている(図2A参照)。第2コンベア25Bの後端部25Bbは、第1コンベア25Aの先端部25Aaの下方に位置しており、第1コンベア25Aを搬送された模擬土が第2コンベア25Bの後端部25Bbに落下する。第2コンベア25Bに落下した模擬土は、第2コンベア25Bによって搬送され、先端部25Baから落下する。
第3コンベア25Cは、第2コンベア25Bの下流側に設置される。第3コンベア25Cは、第2コンベア25Bと同様であり、水平面に対して傾けて設置され、後端部25Cbよりも先端部25Caが高くなっている(図2A参照)。第3コンベア25Cの後端部25Cbは、第2コンベア25Bの先端部25Baの下方に位置しており、第2コンベア25Bを搬送された模擬土が第3コンベア25Cの後端部25Cbに落下する。第3コンベア25Cに落下した模擬土は、第3コンベア25Cによって搬送され、先端部25Caから第1コンベア25Aに落下する。
この構成により、模擬土は、コンベア25の連結部分で落下を繰り返しながら、搬送手段21上を巡回する(つまり、模擬土は、コンベア25間の移動を繰り返し、コンベア25を連続的に移動する)。
【0017】
図2Aに示す覆蓋手段22は、シールド工事において実際に泥土を撮影する環境(例えば、シールド掘進機8内の環境)を再現するためのものである。覆蓋手段22は、例えば外部からの光(自然光)を遮光可能な構造になっており、複数のコンベア25の一部または全部を覆うように設置される。本実施形態での覆蓋手段22は、第1コンベア25Aを覆うように設置されている。覆蓋手段22は、例えば袋状を呈しており、第1コンベア25Aに設置した架台24に上側から被せられている。覆蓋手段22の内部には、撮像手段23が設置されている。なお、撮影対象である模擬土を照らす照明手段(図示せず)が覆蓋手段22の内部に設置されていてもよい。
撮像手段23は、搬送手段21によって搬送される模擬土を撮像する。撮像手段23は、例えばデジタルカメラであり、画像データを管理用端末3(図1参照)に出力する。
【0018】
図1に示す管理用端末3は、性状判定システム1の管理者などによって操作される。管理用端末3は、学習用画像撮影装置2から模擬土を撮像した画像データを取得し、当該画像データを記憶する。また、管理者は、作製した模擬土の性状に関する情報(性状情報)を管理用端末3に登録する。例えば、管理者は、作製した模擬土の材料の配合などの情報を管理用端末3に登録する。また、管理者は、模擬土の硬軟に関する測定を実施し、測定結果を管理用端末3に登録する。管理用端末3は、取得した模擬土の画像データと、模擬土の性状に関する情報とを関連付けて、泥土性状学習装置4に送信する。
また、管理用端末3には、トンネル工事に関する様々な情報が記憶されていてもよい。管理用端末3には、例えばトンネル工事の設計図書の情報(土質調査結果を含む)が記憶されている。土質調査結果は、作製する模擬土の性状を決定するために使用される。
【0019】
図1に示す泥土性状学習装置4は、学習用データを用いて学習モデルを学習させる学習工程の処理に関して、中心的な役割を担う装置である。
泥土性状学習装置4は、管理用端末3から模擬土の画像データおよび模擬土の性状に関する情報(性状情報)を取得する(図1の白抜き矢印参照)。そして、泥土性状学習装置4は、模擬土の画像データおよび模擬土の性状情報を用いて、泥土の画像データと性状との関係を学習する。なお、学習方法の詳細は後述する。泥土性状学習装置4によって学習された学習済みの学習モデルは、実際のトンネル工事で用いられる泥土性状判定装置6に送信され、シールド掘進機8から排出された泥土の性状の判定に使用される(図1のドット柄矢印参照)。
【0020】
図1に示す判定用画像撮影装置5は、シールド掘進機8から排出された泥土を撮像する機器である。判定用画像撮影装置5は、例えばデジタルカメラであり、画像データを泥土性状判定装置6に出力する。判定用画像撮影装置5は、例えばシールド掘進機8の後方であって、泥土を撮影可能な場所に設置される。
図3を参照して、判定用画像撮影装置5による泥土の撮影状況を説明する。図3は、シールド掘進機8の断面図である。図3に示すシールド掘進機8は、前端(切羽K側)に設けられたカッタヘッド(カッタスポーク)81とその後方に設けられた隔壁82とを備えており、カッタヘッド81と隔壁82との間にチャンバ83が形成されている。カッタヘッド81には、複数のカッタービット81a,81a,・・が固定されている。また、シールド掘進機8の内部には、チャンバ83内の泥土7を排出するためのスクリューコンベア84が設けられている。スクリューコンベア84は、隔壁82を貫通して、チャンバ83に接続されている。また、シールド掘進機8に推力を与えるシールドジャッキ85が設けられているとともに、カッタヘッド81に回転力を付与するモータ86が設けられている。
【0021】
土圧式シールド工法では、チャンバ83内において、カッタービット81a,81a,・・で掘削した土砂に加泥材を添加して練り混ぜることで、不透水性と塑性流動性を持つ泥土7を生成し、これをチャンバ83内に充満させる。この状態を維持しながらシールドジャッキ85の推力によりチャンバ83内の泥土7に泥土圧を発生させ、切羽Kの土圧と地下水圧に対抗し、シールド掘進機8の掘進量と排土量のバランスを図りながら掘進する。
シールド掘進機8の後方(坑口E側)には、スクリューコンベア84の排出口から排出された泥土7(本実施形態では前述した混合土砂)を更に後方に搬送するためのベルトコンベア87が設けられている。判定用画像撮影装置5は、ベルトコンベア87によって搬送される泥土7を撮影するように設置されている。これにより、シールド掘進機8によって地盤が掘削され、チャンバ83に取り込まれた土砂がスクリューコンベア84内を通って泥土7として排出され、ベルトコンベア87によって後方に搬送される。そして、搬送される泥土7の性状が、泥土性状判定装置6によって判定される。
【0022】
図1に示す泥土性状判定装置6は、実際の工事現場でシールド掘進機8から排出される泥土7の性状を判定する判定工程の処理に関して、中心的な役割を担う装置である。泥土性状判定装置6は、トンネル工事の作業員などによって操作される。泥土性状判定装置6は、判定用画像撮影装置5から泥土7の画像データを取得し、当該画像データを記憶する。この泥土性状判定装置6は、学習済みの学習モデルを用いて、判定用画像撮影装置5で撮像した画像データに写る泥土7の性状を判定する。判定に用いる学習済みの学習モデルは、模擬土を撮影した画像データによって学習したものである。泥土性状判定装置6は、泥土7を撮影した画像データを学習済みの学習モデルに入力することで、泥土7の性状を求める。なお、判定方法の詳細は後述する。泥土性状判定装置6は、判定した泥土7の性状を作業員などに通知してもよい。例えば、泥土性状判定装置6は、自身が有する表示部に判定した性状に関する情報(性状情報)を表示してもよいし、作業員などが所持する図示しないモバイル端末に性状情報を送信してもよい。作業員は、判定結果(泥土7の性状情報)に基づいて、トンネルの施工管理を行う。
【0023】
図4を参照して、泥土性状学習装置4および泥土性状判定装置6の機能構成について説明する。図4は、実施形態に係る泥土性状学習装置4および泥土性状判定装置6の機能構成図である。
泥土性状学習装置4は、学習用データ取得部41と学習処理部42とを備え、また学習処理部42は、学習モデルを有する。学習モデルは、機械学習における学習システムであり、与えられたデータを基に分類・予測・判定した結果と正答となる実際の結果とを比較し、各種パラメータを調整することで良い結果を導くことが可能になる。学習モデルのアルゴリズムは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、勾配ブースティングなどが利用できる。
【0024】
図4に示す学習用データ取得部41は、学習モデルを学習させるための学習用データのデータセットを取得する。学習用データは、模擬土を撮像した画像データと、模擬土の性状に関する性状情報との組として構成される。性状情報は、画像データのアノテーションデータであり、例えば、模擬土の硬軟を示す複数の指標を画像データに紐づける。硬軟を示す指標は、例えば「硬い、やや硬い、中庸、やや軟い、軟い」の5つであり、模擬土を測定したスランプ値、スランプフロー値、テーブルフロー値、水分量(含水比)、ベーンせん断試験による粘着力、細粒分含有率等から分類分けしたものである。
【0025】
学習処理部42は、学習用データのデータセットを用いて、学習モデルを機械学習させる。学習モデルを学習させる方法は特に限定されず、学習モデルのアルゴリズムに適した方法で学習させるのがよい。例えば、学習用データの画像データが入力層に入力され、出力層から出力される結果と学習用データの性状情報との誤差に基づいて中間層を調整する。つまり、学習処理部42は、泥土7の画像データを入力することによって、当該泥土7の性状情報が出力されるように学習モデルを機械学習させる。データセットに含まれる学習用データの数は特に限定されず、例えば期待する精度(正答率)に到達することで学習を終了する。学習済みの学モデルは、泥土性状判定装置6に送信される。
【0026】
泥土性状判定装置6は、判定用データ取得部61と推定処理部62とを備え、また、推定処理部62は、学習済みの学習モデルを有する。学習済みの学習モデルは、泥土性状学習装置4によって学習モデルを機械学習させたものである。つまり、学習済みの学習モデルは、泥土7の画像データを入力することによって、適切な性状情報が出力されるように学習されたものである。
判定用データ取得部61は、泥土7の性状情報の判定を行う基になる判定用データを取得する。判定用データは、シールド掘進機8から排出された泥土7を判定用画像撮影装置5で撮影した画像データである。
推定処理部62は、判定用データ(泥土7の画像データ)を用いて、泥土7の性状を推定する。泥土7の性状の推定には、学習済みの学習モデルが使用され、学習済みモデルの入力層には、泥土7の画像データが入力され、出力層からは、当該泥土7の性状情報(一例は、硬軟を示す指標「硬い、やや硬い、中庸、やや軟い、軟い」)が出力される。
【0027】
<実施形態に係る性状判定システムを用いた性状判定方法について>
図5を参照して(図1ないし図4を適宜参照)、実施形態に係る性状判定システム1を用いた性状判定方法について説明する。図5は、性状判定システム1を用いた性状判定方法の工程を示すフローチャートの例示である。図5に示すように、性状判定方法は、例えば、事前工程「S10」、シールド掘進開始「S20」、判定工程「S30」と、を有する。また、事前工程「S10」は、模擬土作製工程「S11」、学習用データ準備工程「S12」、学習工程「S13」を有する。事前工程「S10」は、シールド掘進開始前に実施される作業である。
【0028】
(模擬土作製工程「S11」)
実際のトンネル工事で排出される泥土の性状(一例は、材料構成や硬さ)を模した模擬土を作製する。模擬土の作製においては、設計図書に含まれる土質調査結果を参考にして模擬土の性状を決定するのがよい。また、シールド掘進機の発進立坑や到達立坑を構築する際に採取された土砂や、購入した土砂をふるい分けして、土質調査における粒度試験結果を再現するように混合した土砂を用いて模擬土を作製してもよい。
また、管理者(技術者)は、作製した模擬土の性状に関する情報(性状情報)を管理用端末3に登録する。例えば、作製した模擬土の材料の配合などの情報を管理用端末3に登録する。また、模擬土の硬軟に関する測定を実施し、測定結果を管理用端末3に登録する。
【0029】
(学習用データ準備工程「S12」)
図2Aに示す学習用画像撮影装置2を用いて作製した模擬土を撮影し、模擬土の画像データを作成する。具体的には、搬送手段21を稼働させて、コンベア25上を搬送される模擬土を撮影する。模擬土を撮影した画像データは、管理用端末3に送られて記憶される。なお、長時間の撮影を行うことによって、撮影中に模擬土の性状が変化する場合には、撮影途中の模擬土を採集して性状に関する測定を実施し、その結果を性状情報として管理用端末3に登録してもよい。
管理者(技術者)は、管理用端末3を操作し、取得した模擬土の画像データと、模擬土の性状情報とを関連付け、これらをセットにして泥土性状学習装置4に送信する。これにより、泥土性状学習装置4において、模擬土を撮像した画像データと、模擬土の性状に関する性状情報とからなる学習用データのデータセットの準備が完了する。なお、模擬土の画像データと、模擬土の性状情報とを別々に泥土性状学習装置4に送信し、泥土性状学習装置4でアノテーション(タグ付け)を実施してもよい。
【0030】
(学習工程「S13」、シールド掘進開始「S20」、判定工程「S30」)
泥土性状学習装置4は、模擬土を撮像した画像データと模擬土の性状情報とからなる学習用データのデータセットを用いて、学習モデルを学習する。学習モデルの学習は、シールド掘進が開始される前に完了しておくのがよい。その後、シールド掘進機8による、シールド掘進が開始する。
シールド掘進が継続している期間中は、判定用画像撮影装置5がシールド掘進機8から排出される泥土7を撮影し、泥土性状判定装置6が撮影された泥土7の画像データに基づいて当該泥土7の性状を判定する。性状の判定には、模擬土を用いて学習された学習済みの学習モデルが使用される。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る性状判定システム1では、施工前の段階で模擬土を用いて学習モデルを学習させ、施工開始時から学習済みの当該学習モデルを用いて泥土7の性状を判定する。つまり、シールド掘進開始時点よりも前の時点で、模擬土を用いて学習を完了させることができる。そのため、シールド掘進開始時点で学習モデルを地盤に適した状態にできるので、掘進開始時点から掘削土の性状を精度よく判定できる。
【0032】
本実施形態に係る判定用画像撮影装置5の有効性を検証するための試験を行ったので説明する。
(1.撮影現場の作成)
検証試験では、図2Aに示すように、3台のベルトコンベアを三角形に組み、水平に配置されたベルトコンベアおよびカメラを暗幕で覆ったものを判定用画像撮影装置5として使用した。カメラを暗幕で覆うことで、シールド現場を想定した状況を再現している。カメラは、市販のマニュアルでの撮像設定が可能なネットワークカメラ(以下、AI用カメラ)を用いた。
【0033】
(2.模擬土の撮影)
図6に示すように、AI用カメラは、ベルトコンベアに対する角度を「35°,45°,55°」に設定して撮影する。撮影用のベルトコンベア上にあらかじめ目印をマーキングし撮影を行った。図6は、検証試験での模擬土の撮影状況を説明するための図である。
【0034】
(3.まとめ)
検証試験の結果、AI用カメラは、AI学習用に十分な数量の画像データを作成することができた。つまり、判定用画像撮影装置5は、AI学習用の画像データの作製するために有効であることが分かった。
また、前述した検証試験で撮影した画像を用いて、学習および判定のシミュレーションを行った。その結果、精度(正解率)、適合率、再現率の全てで「0.92」以上を達成した。ここで、精度は、全サンプル数に対する正解の数の割合である。適合率は、誤検出がどれだけないかであり、各性状の推論数に対する正解数の割合である。再現率は、取り漏れがどれだけないかであり、各性状の正解数に対する推論数の割合である。これらの結果により、判定用画像撮影装置5で模擬土を撮影した画像データを用いて精度良い推論を行うことができることが確認できた。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
実施形態では、掘削した土砂に加泥材を添加して練り混ぜることで不透水性と塑性流動性を持つ泥土を生成する場合を説明した。しかしながら、加泥材を添加しない土砂(掘削土)の性状を性状判定システム1によって判定することも可能である。実施形態での泥土は、掘削土の一例である。
【符号の説明】
【0036】
1 性状判定システム
2 学習用画像撮影装置
3 管理用端末
4 泥土性状学習装置
5 判定用画像撮影装置
6 泥土性状判定装置
8 シールド掘進機
21 搬送手段
22 覆蓋手段
23 撮像手段
25 コンベア
41 学習用データ取得部
42 学習処理部
61 判定用データ取得部
62 推定処理部
81 カッタヘッド
81a カッタービット
82 隔壁
83 チャンバ
84 スクリューコンベア
85 シールドジャッキ
86 モータ
87 ベルトコンベア
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6