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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022429
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20250206BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250206BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20250206BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20250206BHJP
   A23L 31/15 20160101ALN20250206BHJP
【FI】
A23L27/10 G
A23L5/00 J
A23L5/00 M
A23L27/00 Z
C12P1/04 Z
A23L31/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126988
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 悠希
(72)【発明者】
【氏名】勝又 忠与次
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4B047
4B064
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B035LC01
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG50
4B035LG57
4B035LK01
4B035LK02
4B035LP41
4B035LP42
4B047LB07
4B047LB09
4B047LE06
4B047LF07
4B047LG56
4B047LG59
4B047LP19
4B064AG01
4B064CA02
4B064CD19
4B064CD20
4B064CE16
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、酵母由来のたんぱく質素材において感じられる酵母臭と呼ばれる異風味が抑制された、乳酸菌発酵酵母たんぱく質含有組成物およびその製造方法、ならびに酵母由来のたんぱく質素材の異風味を抑制する方法を提供することである。
【解決手段】酵母由来のたんぱく質素材を懸濁した培地で乳酸菌を培養することで、該たんぱく質素材の、酵母臭と呼ばれる酵母に由来する異風味を抑制することができ、たんぱく質源として利用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌により発酵される前のたんぱく質量が40重量%以上、食物繊維量が4重量%以上である酵母たんぱく質素材を培地とする、乳酸菌発酵酵母たんぱく質含有組成物。
【請求項2】
酵母由来のたんぱく質素材を培地として乳酸菌を培養する工程を含む、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌により発酵される前のたんぱく質量が40重量%以上、食物繊維量が4重量%以上である酵母由来たんぱく質素材を、乳酸菌の培地に添加して、乳酸菌を培養することを特徴とする、酵母由来のたんぱく質素材の異風味を抑制する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の発酵組成物を含む、飲食品。
【請求項5】
請求項4に記載の飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異風味の抑制された酵母たんぱく組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口増加に伴いたんぱく質の需要が増す中で、供給量が不足することが懸念されている。このため、植物や微生物、昆虫等に由来するたんぱく質素材を食品として用いることを目的とした検討が多くなされている。中でも微生物は増殖が速く、少ない栄養で生育可能であり、大量生産に適していることから、たんぱく質の供給源として期待されている。微生物のうち酵母も、たんぱく質の供給源として期待されているものの、酵母臭と言われる独特の臭気があり、食品としての利用において課題があった。
食品系での酵母に由来する独特の臭気をマスキングする方法として、酵母エキスと2-フランメタノールおよび/又は5-メチル-2-フランメタノールを有効成分とするチョコレート製品の食味増強剤(特許文献1)や、酵母エキス粉末と液状油脂と固形脂からなることを特徴とする酵母エキス含有ペーストに香料を加えることで酵母臭をマスキングする方法(特許文献2)が報告されている。
【0003】
しかしながら、食品添加物や香料の添加による酵母臭のマスキング方法は、消費者の天然志向の高まりにより避けられる傾向にあった。また、たんぱく質素材としての酵母の独特の臭気を改善するための方法は未だ報告されていない。
このため、消費者のニーズを満たす、独特の臭気の改善された酵母由来のたんぱく質組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-175963号公報
【特許文献2】特開2017-184625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、酵母臭と呼ばれる異風味が改善された、酵母由来のたんぱく質組成物およびその製造方法を提供することである。また、酵母由来のたんぱく質組成物の異風味を改善する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意検討した結果、酵母由来のたんぱく質素材を懸濁した培地で乳酸菌を培養したところ、該たんぱく質素材の異風味が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下の第一~第五に関する。
第一に、乳酸菌により発酵される前のたんぱく質量が40重量%以上、食物繊維量が4重量%以上である酵母由来たんぱく質素材を培地とする、乳酸菌発酵酵母たんぱく質含有組成物である。
第二に、酵母由来のたんぱく質素材を培地として乳酸菌を培養する工程を含む、第一に記載の組成物の製造方法である。
第三に、乳酸菌により発酵される前のたんぱく質量が40重量%以上、食物繊維量が4重量%以上である酵母由来のたんぱく質素材を、乳酸菌の培地に添加して、乳酸菌を培養することを特徴とする、酵母由来のたんぱく質素材の異風味を抑制する方法である。
第四に、第一に記載の発酵組成物を含む、飲食品である。
第五に、第四に記載の飲食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、酵母由来のたんぱく質素材を、培地に懸濁し、該培地で乳酸菌を培養することにより、酵母由来の異風味が抑制された酵母たんぱく質組成物を得ることができる。さらに、該酵母たんぱく質組成物は、酵母由来の異風味が抑制されているため、たんぱく質源として一般的な食品やサプリメントに用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のたんぱく質組成物は、酵母由来のたんぱく質素材を原料とするものであり、もとの酵母由来のたんぱく質素材と比べて、酵母臭と表現される異風味が抑制されたたんぱく質組成物である。また、本発明における酵母臭とは、酵母自体の独特な臭気や異風味を指すものであり、官能評価によってその程度を知ることができるものである。
【0010】
本発明のたんぱく質素材の由来となる酵母は、一般にビールや清酒、ワイン、パン、調味料などの食品製造に用いられるものであれば制限なく用いることができる。具体的には、出芽酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)やトルラ酵母(シベルリンドネラ・ジャディニ;キャンディダ・ユティリスとも呼ばれる)を挙げることができる。中でも、トルラ酵母が望ましい。
【0011】
本発明における酵母由来のたんぱく質素材としては、酵母菌体から可溶性エキス成分を分離除去した後の菌体が挙げられる。また、酵母由来のたんぱく質素材として、可溶性エキス成分を分離除去した後の菌体に、グルカナーゼ活性を有する酵素を作用させたのちに可溶性画分を除いて得られる不溶性画分を用いることができる。前記不溶性画分に含まれるたんぱく質量は、アミノ酸分析計にて常法に従い測定した総アミノ酸量として、固形分あたりで、40重量%以上であればよく、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60%重量以上である。ここで、グルカナーゼ活性を有する酵素は、一般に入手可能な酵素製剤を使用することができる。反応条件は、使用する酵素の至適条件でよい。酵素反応後の可溶性画分の除去は、遠心分離や濾過等の一般的な方法でよい。
【0012】
また、前記たんぱく質素材は、食物繊維を含むことが望ましく、4重量%以上がより望ましく、4.5重量%以上がさらに望ましい。食物繊維量は加水分解法によって求めることができる。具体的には、検体を1Nの硫酸にて110℃で3.5時間加水分解したのち中和し、得られた加水分解物であるマンノースおよびグルコースを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定し、グルカンおよびマンナンへと換算することで食物繊維量を求めることができる。HPLCの分析条件は、グルコースおよびマンノースを測定できる条件であれば、一般的な糖分析の条件でよい。
【0013】
本発明の組成物は、上記酵母由来のたんぱく質素材を、乳酸菌を培養する培地に添加することで製造することができる。乳酸菌の培養における、酵母由来のたんぱく質素材の培地への添加量は、5~20重量%を挙げることができ、好ましくは8~15重量%、より好ましくは9~12重量%である。
【0014】
本発明の効果を阻害しない限り、培地にはほかの成分を添加してもよく、たんぱく質酵素分解物や無機塩類、糖類、ビタミン類、ミネラル類を添加してもよい。
【0015】
本発明の組成物の製造における乳酸菌は、飲食品の製造に一般に用いられる乳酸菌であれば特に制限されないが、なかでもラクトバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、ラティラクトバチルス属、リギラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、リモシラクトバチルス属、レビラクトバチルス属、フルクチラクトバチルス属、アピラクトバチルス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ビフィドバクテリウム属の乳酸菌が好ましく、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属またはレビラクトバチルス属の乳酸菌がより好ましく、ラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum)またはレビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)がさらに好ましい。また、先に挙げた乳酸菌のうち1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
乳酸菌の培養条件は、酵母由来のたんぱく質素材の酵母臭が抑制されれば特に制限はなく、乳酸菌の培養で一般的に採用される温度、pH、培養時間等を適宜設定することができる。例えば静置培養であれば、発酵の温度として、15~40℃、好ましくは24~34℃が挙げられる。また、発酵時間としては、12~168時間が挙げられ、好ましくは18~144時間、より好ましくは24~96時間が挙げられる。培養時は、有機酸産生に伴いpHが低下するため、乳酸菌の生育に適したpHになるよう水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどで調整すればよい。
【0017】
このようにして得られた乳酸菌培養物は、酵母由来でありながら酵母臭の抑制されたたんぱく質組成物を含むものである。このため、この培養物をそのまま本発明の酵母たんぱく質組成物として用いることができる。また、必要に応じてこの培養物に賦形剤等を添加して、濃縮・乾燥してもよい。乾燥方法は、一般に食品製造に用いられる方法を採用することができ、例えばスプレードライ、ドラムドライ、凍結乾燥などを採用することができる。形態は特に制限されず、粉末、顆粒、カプセル、錠剤、ペースト状等に調製することができる。
【0018】
本発明の組成物は、そのまま喫食してもよく、一般的な食品やサプリメントに添加して用いることができ、一般的な食品として、カレーやシチューのようなペースト状の加工食品、ミートボールや水産練製品などの加工食品が挙げられる。また、他のたんぱく質素材と混合しサプリメントとして用いることができる。本発明の組成物を飲食品に添加する方法は任意であり、他の原料と同時に添加してもよく、別々に添加することで飲食品を製造してもよい。
【0019】
本発明における酵母由来のたんぱく質素材の異風味を抑制する方法は、酵母由来のたんぱく質素材を、乳酸菌で発酵することである。乳酸菌で発酵する方法については、前段までの記載のとおりである。
【実施例0020】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<本発明の組成物の原料>
酵母由来のたんぱく質素材のうち、酵母菌体から可溶性エキス成分を分離除去した後の菌体である試料1として「KR酵母」(三菱商事ライフサイエンス社)を用いた。「KR酵母」のたんぱく質量について、常法に従いアミノ酸分析計L8800(HITACHI製)で総アミノ酸量として分析したところ、45重量%であった。食物繊維量について、HPLC(カラム:SUGAR SP0810(Shodex)、検出器:RI、移動相:超純水)で分析したところ、4.1重量%であった。
また、可溶性エキス成分を分離除去した後のトルラ酵母の菌体を10重量%となるよう水に懸濁し、市販のグルカナーゼ製剤を菌体に対して0.05%添加し酵素の至適条件で3時間作用させたのち、可溶性画分を除いて得られる不溶性画分を乾燥させ試料2とした。試料1と同様の方法でたんぱく質量および食物繊維量を分析したところ、たんぱく質量は82重量%、食物繊維量は15.2重量%であった。
【0022】
<本発明の組成物の製造>
水に試料1を10g、グルコースを2g加えて100mLにメスアップし、加熱殺菌して培地を調製した。ここにLactiplantibacillus plantarum subsp. plantarumを播種し、30℃で72時間、微撹拌の条件下で培養した。得られた培養液を凍結乾燥し、粉末状の実施例1のサンプルを得た。
また、播種する乳酸菌としてStreptococcus thermophilusを用いたこと以外は同様の操作を行い、実施例2のサンプルを得た。
乳酸菌を播種しないこと以外は同様の操作を行い、比較例1のサンプルを得た。さらに、対照例1のサンプルとして「KR酵母」を用いた。
この他、水に試料2を10g、グルコースを2g加えて100mLとし、加熱殺菌して培地を調製した。ここにLactiplantibacillus plantarum subsp. plantarumを播種し、30℃で65時間、微撹拌の条件下で培養した。得られた培養液を凍結乾燥し、粉末状の実施例3のサンプルを得た。
播種する乳酸菌としてLevilactobacillus brevisを用いたこと以外は同様の操作を行い、実施例4のサンプルを得た。
乳酸菌を播種しないこと以外は実施例2と同様の操作を行い、比較例2のサンプルを得た。
【0023】
<官能評価による酵母臭抑制の確認試験>
官能評価にて実施例1、実施例2および比較例1の各サンプルの粉末のにおいを評価したところ、実施例1および2は、対照例1と比較して酵母由来のにおいが低減されていた。また、比較例1は対照例1と同程度の臭気であり、比較例1と比較しても、実施例1および2のサンプルは、酵母由来のにおいが低減されており、酵母臭が改善されていた。
また、実施例3、実施例4および比較例2のサンプルの粉末のにおいを評価したところ、実施例3および4は、比較例2と比較して酵母由来のにおいが低減されていた。なお、比較例2は対照例1と比較してムレたような臭気が付与されていた。実施例3および4のサンプルは、対照例1と比較しても臭気が付与されることはなく、酵母由来のにおいが低減されており、発酵によって酵母由来のたんぱく質素材の酵母臭が改善されていることが示された。
【0024】
以上より、酵母由来のたんぱく質素材を乳酸菌で発酵することによって、酵母臭が抑制された酵母由来のたんぱく質発酵組成物を得られることが示された。