(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022461
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】親水性付与剤、およびこれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20250206BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250206BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20250206BHJP
C09K 3/16 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C08L101/00
C08K5/20
C09K3/16 103C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127061
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都合 達男
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BB021
4J002BB051
4J002BB071
4J002BB081
4J002BB111
4J002BB231
4J002BC021
4J002BD031
4J002BD101
4J002BF021
4J002BG041
4J002BG051
4J002BN151
4J002BP011
4J002CK021
4J002EP016
4J002EP017
4J002FD206
4J002GC00
4J002GG02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】樹脂に親水性および低摩擦性を付与することが可能な親水性付与剤を提供すること。
【解決手段】上記課題を解決する親水性付与剤は、炭素数が16~24である脂肪族アミンaと炭素数が16~24である脂肪酸bとのアミドであり、前記脂肪族アミンaおよび前記脂肪酸bのうち、少なくとも一方がシス型の不飽和構造を含み、構造中にトランス型の不飽和構造を含まないシス型アミドと、炭素数が16~24である脂肪族アミンcと炭素数が16~24である脂肪酸dとのアミドであり、前記脂肪族アミンcおよび脂肪酸dのうち、少なくとも一方がトランス型の不飽和構造を含み、構造中にシス型の不飽和構造を含まないトランス型アミドを含み、前記シス型アミドおよびトランス型アミドの質量比が99.9:0.1~50:50である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が16~24である脂肪族アミンaと炭素数が16~24である脂肪酸bとのアミドであり、前記脂肪族アミンaおよび前記脂肪酸bのうち、少なくとも一方がシス型の不飽和構造を含み、構造中にトランス型の不飽和構造を含まないシス型アミドと、
炭素数が16~24である脂肪族アミンcと炭素数が16~24である脂肪酸dとのアミドであり、前記脂肪族アミンcおよび脂肪酸dのうち、少なくとも一方がトランス型の不飽和構造を含み、構造中にシス型の不飽和構造を含まないトランス型アミドを含み、
前記シス型アミドおよびトランス型アミドの質量比が99.9:0.1~50:50である、親水性付与剤。
【請求項2】
樹脂100質量部と、
請求項1に記載の親水性付与剤0.5~30質量部と、
を含有する、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性付与剤、およびこれを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂などの樹脂は、構造設計によって成型性や弾性、強度といった特性をコントロールすることが可能であり、日用雑貨や建築・土木素材、電化製品部品、自動車部品等幅広い分野に使用されている。表面処理や改質剤の添加によって、親水性やガスバリア性などの機能付与が可能となるため、各用途での要求特性に合わせて樹脂を改質することが一般的に行われている。
【0003】
樹脂に付与する機能として、親水性がある。樹脂に親水性を付与することで、防曇性や帯電防止効果などを付与することが期待できる。特許文献1には、ポリエチレン系樹脂に親水性を付与するための親水化剤として、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤を用いることが開示されている。特許文献2には、親水化剤としてアクリル変性グリコール系ポリマーを用いた、親水効果の持続性に優れた熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、樹脂に付与する機能として、樹脂の滑り性(低摩擦性)がある。樹脂の摩擦力を小さくすることで、摺動性の向上や離形性向上が期待できる。例えば、精密機械や食品包装などの分野で、このような特性が求められることが多い。このような要求に対し、特許文献3には、多孔質無機材料の添加によってラップフィルムの低摩擦性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-10906号公報
【特許文献2】特開2011-32467号公報
【特許文献3】特開2021-38376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調理直後の食品を保存する際など、各種樹脂を用いて食品を包装することが行われる。この際、ほこりの吸着等を防ぐべく、帯電性を防止するために親水性を付与することがある。さらに、高温多湿の倉庫などで保存した後でも機能を保持するために、経時安定性が求められる。また、包装の際に食品を傷めないようにするために低摩擦性も求められる。こうした特性を付与するために、上述の特許文献に記載されている添加剤をそれぞれ添加することが想定される。ただし、親水化のための添加剤や低摩擦性付与のための添加剤の量が多いほど、包装材の強度や耐久性などが低下するおそれがある。そのため、添加剤の量や種類は少ないことが好ましく、少量でも高い効果を発揮するか、1つの添加剤にて、複数の性能を付与可能であることが望ましい。しかしながら、親水性および低摩擦性の両方の性能を付与可能であり、かつ経時安定性に優れた親水性付与剤や、これを用いた樹脂組成物は、いまだ実現が難しいというのが実状であった。
【0007】
前述の先行技術における問題点に鑑みて、本願はなされたものである。本発明の目的は、樹脂に親水性及び低摩擦性を付与することが可能な親水性付与剤、並びに親水性および低摩擦性の経時安定性にも優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定の構造のシス型アミドと、特定の構造のトランス型アミドとを、特定の量比で含む親水性付与剤や、これを樹脂に対して特定の量比で含む樹脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)炭素数が16~24である脂肪族アミンaと炭素数が16~24である脂肪酸bとのアミドであり、前記脂肪族アミンaおよび前記脂肪酸bのうち、少なくとも一方がシス型の不飽和構造を含み、構造中にトランス型の不飽和構造を含まないシス型アミドと、炭素数が16~24である脂肪族アミンcと炭素数が16~24の脂肪酸dとのアミドであり、前記脂肪族アミンcおよび前記脂肪酸dのうち、少なくとも一方がトランス型の不飽和構造を含み、構造中にシス型の不飽和構造を含まないトランス型アミドを含み、前記シス型アミドおよびトランス型アミドの質量比が99.9:0.1~50:50である、親水性付与剤。
(2)樹脂100質量部と、(1)に記載の親水性付与剤0.5~30質量部と、を含有する、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂に親水性および低摩擦性を付与することが可能な親水性付与剤や、親水性および低摩擦性の経時安定性にも優れる樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る親水性付与剤および樹脂組成物について説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~10」は2以上10以下を表す。
【0012】
〔親水性付与剤〕
本発明の一実施形態に係る親水性付与剤は、(A)炭素数が16~24である脂肪族アミンaと炭素数が16~24である脂肪酸bとのアミドであり、当該脂肪族アミンaおよび脂肪酸bのうち、少なくとも一方がシス型の不飽和構造を含み、構造中にトランス型の不飽和構造を含まないシス型アミド(以下、「シス型アミド(A)」と称する場合がある。)と、(B)炭素数が16~24である脂肪族アミンcと炭素数が16~24の脂肪酸dとのアミドであり、当該脂肪族アミンcおよび脂肪酸dのうち、少なくとも一方がトランス型の不飽和構造を含み、構造中にシス型の不飽和構造を含まないトランス型アミド(以下、「トランス型アミド(B)」と称する場合がある。)を含む。また、シス型アミド(A)およびトランス型アミド(B)の質量比(A:B)が99.9:0.1~50:50である。
【0013】
シス型アミド(A)は、特定のシス型不飽和脂肪族アミンおよび特定の不飽和トランス型でない脂肪酸、特定の不飽和トランス型でない脂肪族アミンおよび特定のシス型不飽和脂肪酸、もしくは特定のシス型不飽和脂肪族アミンおよび特定のシス型不飽和脂肪酸を脱水重縮合させた化合物である。親水性付与剤は、シス型アミド(A)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、親水性付与剤がシス型アミド(A)を二種以上含む場合には、低摩擦性を良好にする観点から、それぞれのシス型アミド(A)中のシス型不飽和脂肪族アミン由来の構造が同一であることが好ましい。
【0014】
ここで、シス型アミド(A)に用いる脂肪族アミンaは、炭素数が16~24の脂肪族鎖と、これに結合する1つのアミノ基とを有していればよい。脂肪族アミンaは、シス型不飽和脂肪族アミンであってもよく、シス―トランス構造を取らない(すなわち、末端に不飽和構造を有する)不飽和脂肪族アミンであってもよく、飽和脂肪族アミンであってもよい。
【0015】
本明細書における「シス型不飽和脂肪族アミン」とは、シス型の不飽和脂肪族基と、当該不飽和脂肪族基の末端に結合した1つのアミノ基とを有する第一級アミンをいう。また当該シス型不飽和脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。当該シス型不飽和脂肪族基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0016】
また、当該シス型不飽和脂肪族基中の不飽和炭素-炭素結合の数は1つ以上であればよく、2つ以上であってもよい。なお、当該シス型不飽和脂肪族基が2つ以上の不飽和炭素-炭素結合を有する場合、(末端にある不飽和炭素-炭素構造を除き)いずれもがシス型構造である。
【0017】
上記シス型不飽和脂肪族アミンの例には、パルミトレイルアミン(炭素数16)、オレイルアミン(炭素数18)、リノールアミン(炭素数18)、リノレンアミン(炭素数18)、エイコセンアミン(炭素数20)、エルカアミン(炭素数22)が含まれる。
【0018】
一方、シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪族アミンや、飽和脂肪族アミンも第1級アミンであることが好ましい。これらの脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。これらの脂肪族鎖は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0019】
シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪族アミンや、飽和脂肪族アミンの例には、セチルアミン(炭素数16)、ヘプタデシルアミン(炭素数17)、ステアリルアミン(炭素数18)、ノナデシルアミン(炭素数19)、アラキジルアミン(炭素数20)、ヘンイコシルアミン(炭素数21)、ベヘニルアミン(炭素数22)、トリコシルアミン(炭素数23)、テトラコシルアミン(炭素数24)等が含まれる。
【0020】
一方、シス型アミド(A)に用いる脂肪酸bは、炭素数が16~24の脂肪族鎖と、これに結合する1つのカルボキシル基とを有していればよい。脂肪酸bは、シス型不飽和脂肪酸であってもよく、シス-トランス構造を取らない(すなわち、末端に不飽和構造を有する)不飽和脂肪酸であってもよく、飽和脂肪酸であってもよい。
【0021】
本明細書における「シス型不飽和脂肪酸」とは、シス型の不飽和脂肪族基と、当該不飽和脂肪族基の末端に結合した1つのカルボキシル基とを有する第一級脂肪酸をいう。また当該シス型不飽和脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。当該シス型不飽和脂肪族基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0022】
また、当該シス型不飽和脂肪族基中の不飽和炭素-炭素結合の数は1つ以上であればよく、2つ以上であってもよい。なお、当該シス型不飽和脂肪族基が2つ以上の不飽和炭素-炭素結合を有する場合、(末端にある不飽和炭素-炭素構造を除き)いずれもがシス型構造である。
【0023】
上記シス型不飽和脂肪酸の例には、パルミトレイン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)、エイコセン酸(炭素数20)、エイコサジエン酸(炭素数20)、ミード酸(炭素数20)、ジホモ‐γ‐リノレン酸(炭素数20)、エイコサトリエン酸(炭素数20)、エイコサテトラエン酸(炭素数20)、アラキドン酸(炭素数20)、エイコサペンタエン酸(炭素数20)、エルカ酸(炭素数22)、ドコサジエン酸(炭素数22)、アドレン酸(炭素数22)、イワシ酸(炭素数22)、ドコサヘキサエン酸(炭素数22)、ネルボン酸(炭素数24)、テトラコサペンタエン酸(炭素数24)、ニシン酸(炭素数24)が含まれる。
【0024】
一方、シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸も第1級脂肪酸であることが好ましい。これらの脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。これらの脂肪族鎖は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0025】
シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸の例には、パルミチン酸(炭素数16)、ヘプタデカン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)、ノナデカン酸(炭素数19)、アラキジン酸(炭素数20)、ヘンイコシル酸(炭素数21)、ベヘン酸(炭素数22)、トリコシル酸(炭素数23)、リグノセリン酸(炭素数24)等が含まれる。
【0026】
シス型アミド(A)は、上記いずれの脂肪族アミンaと、いずれの脂肪酸bとの組み合わせであってもよい。ただし、いずれか一方は、シス型の不飽和構造を含む。脂肪族アミンaと脂肪酸bとの炭素数は近い方が好ましく、炭素数の差は6以下が好ましく、4以下が更に好ましい。シス型アミド(A)としては、例えば、N-パルミトレイルパルミトアミド、N-パルミトレイルステアリルアミド、N-パルミトレイルアラキジンアミド、N-パルミトレイルベヘンアミド、N-パルミトレイルリグノセリンアミド、N-パルミトレイルオレイルアミド、N-パルミトレイルパルミトレイルアミド、N-パルミトレイルリノールアミド、N-パルミトレイルリノレンアミド、N-オレイルパルミトアミド、N-オレイルステアリルアミド、N-オレイルアラキジンアミド、N-オレイルベヘンアミド、N-オレイルリグノセリンアミド、N-オレイルオレイルアミド、N-オレイルパルミトレイルアミド、N-オレイルリノールアミド、N-オレイルリノレンアミド、N-リノールパルミトアミド、N-リノールステアリルアミド、N-リノールアラキジンアミド、N-リノールベヘンアミド、N-リノールリグノセリンアミド、N-リノールオレイルアミド、N-リノールパルミトレイルアミド、N-リノールリノールアミド、N-リノールリノレンアミド、N-リノレンパルミトアミド、N-リノレンステアリルアミド、N-リノレンアラキジンアミド、N-リノレンベヘンアミド、N-リノレンリグノセリンアミド、N-リノレンオレイルアミド、N-リノレンパルミトレイルアミド、N-リノレンリノールアミド、N-リノレンリノレンアミド、N-エイコセンパルミトアミド、N-エイコセンステアリルアミド、N-エイコセンアラキジンアミド、N-エイコセンベヘンアミド、N-エイコセンリグノセリンアミド、N-エイコセンオレイルアミド、N-エイコセンパルミトレイルアミド、N-エイコセンリノールアミド、N-エイコセンリノレンアミド、N-エルシルパルミトアミド、N-エルシルステアリルアミド、N-エルシルアラキジンアミド、N-エルシルベヘンアミド、N-エルシルリグノセリンアミド、N-エルシルオレイルアミド、N-エルシルパルミトレイルアミド、N-エルシルリノールアミド、N-エルシルリノレンアミド、N-ステアリルエルカアミド等が挙げられる。
【0027】
上記の中でも好ましくはN-パルミトレイルパルミトアミド、N-パルミトレイルステアリルアミド、N-パルミトレイルアラキジンアミド、N-パルミトレイルベヘンアミド、N-パルミトレイルリグノセリンアミド、N-パルミトレイルオレイルアミド、N-パルミトレイルパルミトレイルアミド、N-オレイルパルミトアミド、N-オレイルステアリルアミド、N-オレイルアラキジンアミド、N-オレイルベヘンアミド、N-オレイルリグノセリンアミド、N-オレイルオレイルアミド、N-オレイルパルミトレイルアミド、N-オレイルリノールアミド、N-オレイルリノレンアミド、N-ステアリルエルカアミドであり、より好ましくは、N-オレイルパルミトアミド、N-オレイルステアリルアミド、N-オレイルオレイルアミド、N-ステアリルエルカアミドである。
【0028】
一方、トランス型アミド(B)は、特定のトランス型不飽和脂肪族アミンおよび特定の不飽和シス型でない脂肪酸、特定の不飽和シス型でない脂肪族アミンおよび特定のトランス型不飽和脂肪酸、もしくは特定のトランス型不飽和脂肪族アミンおよび特定のトランス型不飽和脂肪酸を、脱水重縮合させた化合物である。親水性付与剤は、トランス型アミド(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、親水性付与剤がトランス型アミド(B)を二種以上含む場合には、低摩擦性を良好にする観点から、それぞれのトランス型アミド(B)中のトランス型不飽和脂肪族アミン由来の構造が同一であることが好ましい。
【0029】
ここで、トランス型アミド(B)に用いる脂肪族アミンcは、炭素数が16~24の脂肪族鎖と、これに結合する1つのアミノ基とを有していればよい。脂肪族アミンcは、トランス型不飽和脂肪族アミンであってもよく、シス-トランス構造を取らない(すなわち、末端に不飽和構造を有する)不飽和脂肪族アミンであってもよく、飽和脂肪族アミンであってもよい。
【0030】
本明細書における「トランス型不飽和脂肪族アミン」とは、トランス型の不飽和脂肪族基と、当該不飽和脂肪族基の末端に結合した1つのアミノ基と、を有する第一級アミンをいう。また、当該トランス型不飽和脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。当該トランス型不飽和脂肪族基は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0031】
また、当該トランス型不飽和脂肪族基中の不飽和炭素-炭素結合の数は1つ以上であればよく、2つ以上であってもよい。なお、当該トランス型不飽和脂肪族基が2つ以上の不飽和炭素-炭素結合を有する場合、(末端にある不飽和炭素-炭素構造を除き)いずれもがトランス型である。
【0032】
上記トランス型不飽和脂肪族アミンの例には、パルミトエライジルアミン(炭素数16)、エライジルアミン(炭素数18)、エライジルエイコシルアミン(炭素数20)が含まれる。
【0033】
一方、シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪族アミンや、飽和脂肪族アミンも第1級アミンであることが好ましく、これらは上述の脂肪族アミンaで説明したシス-トランス構造を取らない不飽和脂肪族アミンおよび飽和脂肪族アミンと同様である。
【0034】
一方、トランス型アミド(B)に用いる脂肪酸dは、炭素数が16~24の脂肪族鎖と、これに結合する1つのカルボキシル基とを有していればよい。脂肪酸dは、トランス型不飽和脂肪酸であってもよく、シス-トランス構造を取らない(すなわち、末端に不飽和構造を有する)不飽和脂肪酸であってもよく、飽和脂肪酸であってもよい。
【0035】
ここで、本明細書における「トランス型不飽和脂肪酸」とは、トランス型の不飽和脂肪族基と、当該不飽和脂肪族基の末端に結合した1つのカルボキシル基と、を有する第一級脂肪酸をいう。また、当該トランス型不飽和脂肪族基を構成する炭素の数は、16~24であればよいが、親水性および低摩擦性をさらに良好にする観点で16~22が好ましく、16~20がより好ましい。当該トランス型不飽和脂肪族基は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、分岐鎖状である場合には、分岐鎖(主鎖に結合する鎖)を構成する炭素の数が1~4であることが好ましい。
【0036】
また、当該トランス型不飽和脂肪族基中の不飽和炭素-炭素結合の数は1つ以上であればよく、2つ以上であってもよい。なお、当該トランス型不飽和脂肪族基が2つ以上の不飽和炭素-炭素結合を有する場合、(末端にある不飽和炭素-炭素構造を除き)いずれもがトランス型である。
【0037】
上記トランス型不飽和脂肪酸の例には、パルミトエライジン酸(炭素数16)、エライジン酸(炭素数18)、バクセン酸(炭素数18)、トランス-11-エイコセン酸(炭素数20)、ブラシジン酸(炭素数22)が含まれる。
【0038】
一方、シス-トランス構造を取らない不飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸も第1級脂肪酸であることが好ましく、これらは上述の脂肪酸bで説明したシス-トランス構造を取らない不飽和脂肪酸および飽和脂肪酸と同様である。
【0039】
トランス型アミド(B)は、上記いずれの脂肪族アミンcもしくは脂肪酸dとの組み合わせであってもよい。ただし、いずれか一方は、トランス型の不飽和構造を含む。脂肪族アミンと脂肪酸の炭素数は近い方が好ましく、炭素数の差は4以下が好ましく、2以下が更に好ましい。トランス型アミド(B)としては、例えば、N-パルミトエライジルパルミトアミド、N-パルミトエライジルステアリルアミド、N-パルミトエライジルアラキジンアミド、N-パルミトエライジルベヘンアミド、N-パルミトエライジルリグノセリンアミド、N-パルミトエライジルオレイルアミド、N-パルミトエライジルパルミトレイルアミド、N-パルミトエライジルリノールアミド、N-パルミトエライジルリノレンアミド、N-エライジルパルミトアミド、N-エライジルステアリルアミド、N-エライジルアラキジンアミド、N-エライジルベヘンアミド、N-エライジルリグノセリンアミド、N-エライジルオレイルアミド、N-エライジルパルミトレイルアミド、N-エライジルリノールアミド、N-エライジルリノレンアミド、N-エライジルエイコセンパルミトアミド、N-エライジルエイコセンステアリルアミド、N-エライジルエイコセンアラキジンアミド、N-エライジルエイコセンベヘンアミド、N-エライジルエイコセンリグノセリンアミド、N-エライジルエイコセンオレイルアミド、N-エライジルエイコセンパルミトレイルアミド、N-エライジルエイコセンリノールアミド、N-エライジルエイコセンリノレンアミド、N-エライジルエルシルパルミトアミド、N-エライジルエルシルステアリルアミド、N-エライジルエルシルアラキジンアミド、N-エライジルエルシルベヘンアミド、N-エライジルエルシルリグノセリンアミド、N-エライジルエルシルオレイルアミド、N-エライジルエルシルパルミトレイルアミド、N-エライジルエルシルリノールアミド、N-エライジルエルシルリノレンアミド等が挙げられる。
【0040】
上記の中でも好ましくはN-パルミトエライジルパルミトアミド、N-パルミトエライジルステアリルアミド、N-パルミトエライジルアラキジンアミド、N-パルミトエライジルベヘンアミド、N-パルミトエライジルリグノセリンアミド、N-エライジルパルミトアミド、N-エライジルステアリルアミド、N-エライジルアラキジンアミド、N-エライジルベヘンアミド、N-エライジルリグノセリンアミド、N-エライジルオレイルアミド、N-エライジルパルミトレイルアミドであり、より好ましくは、N-パルミトエライジルパルミトアミド、N-パルミトエライジルステアリルアミド、N-エライジルパルミトアミド、N-エライジルステアリルアミドである。
【0041】
上記シス型アミド(A)および上記トランス型アミド(B)の組み合わせとしては、特に限定はないが、シス型アミド(A)中の不飽和脂肪族基、およびトランス型アミド(B)中の不飽和脂肪族基の組成が同じであることが好ましい。これにより、親水性付与剤を樹脂と組み合わせたときに、さらに長期に亘って、低摩擦性を維持することが可能となる。
【0042】
シス型アミド(A)およびトランス型アミド(B)の質量比(A:B)は99.9:0.1~50:50であり、好ましくは99.9:0.1~75:25であり、より好ましくは99.9:0.1~90:10であり、さらに好ましくは99.9:0.1~95:5である。質量比が上記の範囲内である場合、親水性付与剤を樹脂と混合した際に、親水性や低摩擦性が得られやすくなる。また、長期間に亘って、親水性や低摩擦性を安定して発揮しやすくなる。
【0043】
なお、親水性付与剤は、本発明の目的および効果を損なわない範囲でシス型アミド(A)およびトランス型アミド(B)以外の成分を含んでいてもよい。ただし、親水性付与剤100質量部に対する、シス型アミド(A)およびトランス型アミド(B)の合計量は30質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、100質量部がさらに好ましい。
【0044】
上記親水性付与剤の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述の脂肪族アミンaおよび脂肪酸b、ならびに脂肪族アミンcおよび脂肪酸dを、それぞれ70~250℃でアミド化反応させて、シス型アミド(A)およびトランス型(B)をそれぞれ調製し、これらを上記比率で溶融混合してもよい。一方、シス型アミド(A)、およびトランス型(B)の原料となる、共通の脂肪酸(脂肪酸bや脂肪酸d)と、シス型不飽和脂肪族アミン(脂肪族アミンa)およびトランス型不飽和脂肪族アミン(脂肪族アミンc)とを混合し、上記アミド化反応を行ってもよい。この場合、混合するシス型不飽和脂肪族アミンとトランス型不飽和脂肪族アミン、との比率を調整することで、シス型アミド(A)およびトランス型(B)が所望の範囲に収まる。また同様に、共通の脂肪族アミン(脂肪族アミンaやc)と、シス型不飽和脂肪酸(脂肪酸b)およびトランス型不飽和脂肪酸(脂肪酸d)とを混合し、上記アミド化反応を行ってもよい。この場合、混合するシス型脂肪酸とトランス型脂肪酸との比率を調整することで、シス型アミド(A)およびトランス型(B)が所望の範囲に収まる。
【0045】
〔樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂100質量部と、上記親水性付与剤0.5~30質量部とを含有する。樹脂組成物は、樹脂および親水性付与剤以外に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0046】
樹脂としては、食品包装用途に使用可能な樹脂であれば特に制限は無いが、汎用プラスチックが挙げられる。
【0047】
汎用プラスチックとしては、例えば熱可塑性エラストマー、エチレンコポリマー(例えばエチレン-メタクリルコポリマーやエチレン-アクリルコポリマーなど)、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリ塩化ビニリデン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリ酢酸ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、アクリロニトリルブタジエンスチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、メタクリル系エラストマー、オレフィン/アルケン系エラストマーが挙げられる。
【0048】
これらの樹脂の中でも、オレフィン/アルケン系エラストマー、エチレンコポリマー、アイオノマー樹脂が好ましく、オレフィン/アルケン系エラストマーが特に好ましい。上記樹脂は単独もしくは複数種を併用して用いることができる。
【0049】
ここで、樹脂組成物中における上記親水性付与剤の量は、樹脂の質量を100質量部としたとき、0.5質量部~30質量部であればよく、1質量部~20質量部が好ましく、2質量部~10質量部がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、十分な親水性および低摩擦性が得られ、さらに経時安定性が得られる。
【0050】
また樹脂組成物は、物性を調整するために、一般的に添加される各種成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、可塑剤、架橋剤、軟化剤、粘着付与剤、帯電防止剤、充填剤、老化防止剤、シランカップリング剤、亜鉛華(酸化亜鉛)、加硫促進剤、加硫剤、ステアリン酸、作業改良剤、樹脂、ワックス、オイル、溶媒等が挙げられ、これらを、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していても良い。
【0051】
樹脂組成物は、上述した各成分を配合して、配合物の性状等に応じて、撹拌や混練などの公知の方法により均質に混合することによって製造することができる。
【0052】
また、上述の熱硬化性エラストマー中に上記上述の親水性付与剤を共存させる場合は、加硫前の熱硬化性エラストマーを含むゴム組成物と親水性付与剤とを混合し、その後加硫することが好ましい。
【0053】
上記樹脂組成物を用いて、樹脂の種類に応じて公知の方法で成形することで成形体を形成することができる。成形体の製法としては、例えばT字型の金型から樹脂を押し出して成形するTダイ法や、加熱した樹脂組成物をロールの間に通して所定の厚さに成形するカレンダー成形等が挙げられる。成形体の耐熱性、親水性および低摩擦性の経時安定性は、例えば後述する実施例の評価法により行うことができ、これにより、親水性付与剤および樹脂組成物の評価を行うことができる。
【0054】
また、このような成形体は様々な用途に用いることができ、日用雑貨やシーラントをはじめとする建築・土木素材、電化製品部品、自動車部品等の用途、食品などの包装用途に用いることが出来る。特にシーラント、電化製品部品、食品包装用途に用いることが好ましい。
【実施例0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0056】
1.アミドの合成
(合成例1)N-オレイルパルミトアミド(シス型アミド(A))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた500mLの5つ口フラスコにパルミチン酸(200g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてオレイルアミン(209g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-オレイルパルミトアミドを363g(0.72mol)得た。
【0057】
(合成例2)N-エライジルパルミトアミド(トランス型アミド(B))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた500mLの5つ口フラスコにパルミチン酸(200g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてエライジルアミン(209g、0.78mol)を徐々に投入した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-エライジルパルミトアミドを363g(0.72mol)得た。
【0058】
(合成例3)N-パルミトエライジルステアリルアミド(トランス型アミド(B))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた500mLの5つ口フラスコにステアリン酸(220g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてパルミトエライジルアミン(187g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-パルミトエライジルステアリルアミドを355g(0.70mol)得た。
【0059】
(合成例4)N-オレイルミリスチルアミド(シス型アミド(A))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた500mLの5つ口フラスコにミリスチン酸(178g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてオレイルアミン(208g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-オレイルミリスチルアミドを372g(0.78mol)得た。
【0060】
(合成例5)N-ステアリルエルカアミド(シス型アミド(A))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた300mLの5つ口フラスコにエルカ酸(264g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてステアリルアミン(209g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-ステアリルパルミトアミドを419g(0.71mol)得た。
【0061】
(合成例6)N-オレイルオレイルアミド(シス型アミド(A))の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた300mLの5つ口フラスコにオレイン酸(220g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてオレイルアミン(208g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-オレイルオレイルアミドを386g(0.72mol)得た。
【0062】
(合成例7)N-ステアリルパルミトアミド(飽和アミド)の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた300mLの5つ口フラスコにパルミチン酸(220g、0.78mol)を仕込み、滴下ロートにてステアリルアミン(209g、0.78mol)を滴下した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、N-ステアリルパルミトアミドを344g(0.72mol)得た。
【0063】
2.組成物(親水性付与剤)の調製
以下の方法で、それぞれ親水性付与剤を調整した。
【0064】
(配合例1)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド199.6gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド0.4gとを仕込んだ。マグネチックスターラーで攪拌しながら120℃に加熱溶融し、1時間加熱攪拌を行い、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=99.8:0.2)である組成物1を得た。
【0065】
(配合例2)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド190.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド10.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=95:5)である組成物2を得た。
【0066】
(配合例3)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド180.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド20.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=90:10)である組成物3を得た。
【0067】
(配合例4)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド150.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド50.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=75:25)である組成物4を得た。
【0068】
(配合例5)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド180.0gと、合成例3で作製したN-パルミトエライジルステアリルアミド20.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-パルミトエライジルステアリルアミド=90:10)である組成物5を得た。
【0069】
(配合例6)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド100.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド100.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=50:50)である組成物6を得た。
【0070】
(配合例7)
合成例5で作製したN-ステアリルエルカアミド180.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド20.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-ステアリルエルカアミド:N-エライジルパルミトアミド=90:10)である組成物7を得た。
【0071】
(配合例8)
合成例6で作製したN-オレイルオレイルアミド150.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド50.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルオレイルアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルオレイルアミド:N-エライジルパルミトアミド=75:25)である組成物8を得た。
【0072】
(配合例9)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド80.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド120.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-エライジルパルミトアミド=40:60)である組成物9を得た。
【0073】
(配合例10)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミドのみを用い、組成物10とした。
【0074】
(配合例11)
合成例4で作製したN-オレイルミリスチルアミド150.0gと、合成例2で作製したN-エライジルパルミトアミド50.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルミリスチルアミドとN-エライジルパルミトアミドの混合物(N-オレイルミリスチルアミド:N-エライジルパルミトアミド=75:25)である組成物11を得た。
【0075】
(配合例12)
合成例1で作製したN-オレイルパルミトアミド190.0gと、合成例7で作製したN-ステアリルパルミトアミド10.0gとを使用した以外は、配合例1と同様に操作し、N-オレイルパルミトアミドとN-ステアリルパルミトアミドの混合物(N-オレイルパルミトアミド:N-ステアリルパルミトアミド=95:5)である組成物12を得た。
【0076】
【0077】
3.樹脂組成物の調製
以下の方法で、樹脂組成物を調製した。
【0078】
(実施例1)
組成物1(樹脂用親水性付与剤)を0.05g秤量し、オレフィン/アルケン系エラストマー(製品名:ウルトラセン(登録商標)685、東ソー(株)製、エチレン酢酸ビニル共重合体)0.95g、および溶媒(トルエン)49gと混合して、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物について、後述の評価試験を行った。
【0079】
(実施例2~8、比較例1~4)
表2に示すように組成物2~12を用いた以外は、実施例1と同様に樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物について、後述の評価試験を行った。
【0080】
4.評価
上述の親水性付与剤を含む実施例1~8および比較例1~4の樹脂組成物について、下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(1)親水性評価
樹脂組成物を、それぞれガラス基板上にバーコーターにより塗布し、ホットプレートにて100℃で30分間乾燥した、これにより、厚さ1μmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜の接触角を、JISR3257に準じて接線法により測定した。以下の指標により、樹脂膜の親水性を評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:50°未満
○:50°以上70°未満
△:70°以上85°未満
×:85°以上
【0082】
(2)摩擦係数の評価
実施例1~8、比較例1~4の樹脂組成物を、それぞれガラス基板上にバーコーターにより塗布し、ホットプレートにて100℃で30分間乾燥した、これにより、厚さ1mmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜について、バウデン試験機にて接触子(半円柱ステンレス、1cm)、荷重:100g、速度:2.5mm/s、測定距離:10mm、試験回数:10回の条件下摩擦係数を測定し、平均値を算出した。評価基準は下記の通りである。
◎:0.200未満
○:0.200以上0.250未満
△:0.250以上0.300未満
×:0.300以上
【0083】
(3)経時安定性の評価
上記(1)及び(2)の評価において作製した樹脂膜を形成したガラス基板ごと、80℃湿度70%にて1週間保管し、加速試験を行った。その後樹脂膜を水洗し、室温で1日乾燥させた。乾燥後の樹脂膜の接触角及び摩擦係数を上記(1)及び(2)の評価と同様の方法で測定した。(1)及び(2)で測定した値を基準として、下記式より変化率を算出した。
変化率(%)=|(初期の値)-(加速試験後の値)|/(初期の値)×100
評価基準は下記の通りである。
◎:2.0未満
○:2.0以上5.0未満
△:5.0以上7.0未満
×:7.0以上
【0084】
【0085】
親水性については、親水性付与剤がシス型アミド(A)およびトランス型アミド(B)を含む実施例1~8および比較例1、3、4の接触角が小さく、これらは良好な親水性を示した。一方で、親水性付与剤がシス型アミド(A)のみからなる比較例2は接触角が大きく、親水性が低かった。これは、トランス型アミド(B)が親水性に寄与しており、添加量を増やすほど親水性になっているためであると考えられる。比較例2にはトランス型アミド(B)が含まれておらず、樹脂表面が疎水性を示したと考えられる。
【0086】
摩擦係数については、実施例1~8および比較例2、3が良好な滑り性を示し、比較例1、4については滑り性の評価が低かった。シス型アミド(A)はトランス型アミド(B)に比べて低融点であることから、比較例1のように、トランス型アミド(B)の含有率が多いと、樹脂表面の滑り性が低下したと思われる。また、同様の理由で飽和アミドを含む場合も表面の滑り性が低下したと思われる(比較例4)。
【0087】
経時安定性については、親水性、摩擦係数ともに実施例1~8および比較例2の変化率が小さく、比較例1、3、4については変化率が大きかった。
【0088】
以上の結果から、シス型アミド(A)およびトランス型アミドを所定の比率で含む親水性付与剤を樹脂に添加することで、親水性と滑り性を両立し、かつ保存安定性に優れる樹脂組成物を得ることが出来た。
本発明によれば、樹脂に親水性および低摩擦性を付与することが可能な親水性付与剤やこれを含む樹脂組成物が得られる。したがって、当該親水性付与剤や樹脂組成物は、様々な用途に非常に有用である。