IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムアースEVエナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-負極板及び二次電池 図1
  • 特開-負極板及び二次電池 図2
  • 特開-負極板及び二次電池 図3
  • 特開-負極板及び二次電池 図4
  • 特開-負極板及び二次電池 図5
  • 特開-負極板及び二次電池 図6
  • 特開-負極板及び二次電池 図7
  • 特開-負極板及び二次電池 図8
  • 特開-負極板及び二次電池 図9
  • 特開-負極板及び二次電池 図10
  • 特開-負極板及び二次電池 図11
  • 特開-負極板及び二次電池 図12
  • 特開-負極板及び二次電池 図13
  • 特開-負極板及び二次電池 図14
  • 特開-負極板及び二次電池 図15
  • 特開-負極板及び二次電池 図16
  • 特開-負極板及び二次電池 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022533
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】負極板及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20250206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127210
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 尚範
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA23
5H050FA08
5H050FA12
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】効率よく合材層の剥離を抑制する。
【解決手段】二次電池の負極板50Nを構成する電極シート35Nは、基材36Nに塗工された負極合材としての合材ペースト37Nが合材層52Nを形成する合材塗工部51Nと、その合材ペースト37Nが塗工されない未塗工部39Nと、を備える。更に、合材ペースト37Nには、負極活物質とともにカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。そして、未塗工部39Nとの境界に位置する合材塗工部51Nの端部位置Xeの方が、この端部位置Xeよりも未塗工部39Nから離間した合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも多く、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含んでいる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に塗工された負極合材が合材層を形成する合材塗工部と、
前記負極合材が塗工されない未塗工部と、を備え、
前記負極合材には、負極活物質とともにカルボキシメチルセルロースが含まれるとともに、
前記未塗工部との境界に位置する前記合材塗工部の端部位置の方が、該端部位置よりも前記未塗工部から離間した前記合材塗工部の内側位置よりも多く、前記合材層中に前記カルボキシメチルセルロースの未溶解粒子を含む負極板。
【請求項2】
前記合材層の顕微鏡画像を二値化することにより得られた前記顕微鏡画像に占める前記未溶解粒子の粒面積比率が、前記合材塗工部の内側位置よりも前記合材塗工部の端部位置の方が大きい請求項1に記載の負極板。
【請求項3】
前記合材塗工部の内側位置における前記粒面積比率を基準に前記合材塗工部の端部位置における前記粒面積比率を指数化した値を粒面積指数として、
前記粒面積指数が、150以上である請求項2に記載の負極板。
【請求項4】
前記負極合材における前記カルボキシメチルセルロースの含有量が、
0.1wt%以上、1.0wt%以下である請求項1に記載の負極板。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の負極板を備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極板及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン二次電池等、二次電池用の極板には、集電体となる基材に電極合材を塗工することにより形成されるものがある。即ち、電極合材には、その電極活物質とともに、結着材や増粘材等が添加される。例えば、負極合材中には、その増粘材としてカルボキシメチルセルロースが含有される。更に、このような二次電池用の極板は、多くの場合、その基材に塗工された電極合材が合材層を形成する合材塗工部と、その基材に対して電極合材が塗工されない未塗工部と、を備えている。そして、その未塗工部を端子接続部として利用する構成が一般的となっている。
【0003】
また、このような二次電池用の極板においては、その基材に塗工された合材層が剥離し難いこと、つまりは合材層の剥離強度を高めることが重要な課題となっている。この点を踏まえ、例えば、特許文献1には、電極合材の原材料を練り混ぜる混練工程より前の粉体混合工程において粉末状の増粘剤を混合するとともに、混練工程より後の増粘剤水溶液混合工程において水に溶解した液状の増粘剤を混合する構成が開示されている。そして、このように、その異なる状態の増粘剤を二度に分けて混合することによって、非電池反応成分である結着材を増量した場合に見られるような電池性能の低下を招くことなく、その合材層の剥離強度を高めることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-93240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、電動車両等、高水準の電池性能が求められる用途においては、日々、その更なる性能の向上が模索されている。このため、上記従来技術についてもまた、その進化する要求水準を満たすべく、より一層の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する負極板及び二次電池の各態様を記載する。
態様1は、基材に塗工された負極合材が合材層を形成する合材塗工部と、前記負極合材が塗工されない未塗工部と、を備え、前記負極合材には、負極活物質とともにカルボキシメチルセルロースが含まれるとともに、前記未塗工部との境界に位置する前記合材塗工部の端部位置の方が、該端部位置よりも前記未塗工部から離間した前記合材塗工部の内側位置よりも多く、前記合材層中に前記カルボキシメチルセルロースの未溶解粒子を含む負極板である。
【0007】
上記構成によれば、合材層の乾燥時、この合材層に含まれたカルボキシメチルセルロース(CMC)の未溶解粒子によって、その溶媒の蒸発に伴い合材層中に生ずる結着材の上方移動が阻害される。つまりは、マイグレーションを抑制することができる。そして、これにより、その基材に塗工された合材層の剥離強度を高めることができる。特に、合材層の剥離強度が低下しやすい合材塗工部の端部位置に対して、より多く、その合材層中に含まれたCMCの未溶解粒子を偏在させることで、効果的に、剥離強度を高めることができる。そして、これにより、その電極合材に添加する結着材やCMCの増量に伴う電池性能の低下を招くことなく、効率よく、その合材層の剥離を抑制することができる。
【0008】
態様2は、前記合材層の顕微鏡画像を二値化することにより得られた前記顕微鏡画像に占める前記未溶解粒子の粒面積比率が、前記合材塗工部の内側位置よりも前記合材塗工部の端部位置の方が大きい態様1の負極板である。
【0009】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易且つ精度よく、合材層に含まれたCMCの未溶解粒子について、その含有量を比較することができる。そして、これにより、効率よく、その合材層の剥離を抑制することのできる負極板を形成することができる。
【0010】
態様3は、前記合材塗工部の内側位置における前記粒面積比率を基準に前記合材塗工部の端部位置における前記粒面積比率を指数化した値を粒面積指数として、前記粒面積指数が、150以上である態様2の負極板である。
【0011】
上記構成によれば、効率よく、その合材層の剥離を抑制することができる。
態様4は、前記負極合材における前記カルボキシメチルセルロースの含有量が、0.1wt%以上、1.0wt%以下である態様1~態様3の何れか一つの負極板である。
【0012】
上記構成によれば、合材層中にCMCの未溶解粒子が存在するとともに、この未溶解粒子が合材塗工部の端部位置に偏在する状態で、効率よく、その剥離強度を高めることができる。
【0013】
態様5は、態様1~態様4の何れか一つの負極板を備えた二次電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率よく合材層の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、二次電池の斜視図である。
図2図2は、電極体の分解図である。
図3図3は、二次電池の側面図である。
図4図4は、未塗工部及び合材塗工部の端部位置を示す電極シートの断面図である。
図5図5は、カルボキシメチルセルロース(CMC)の未溶解粒子を含む電極合材の作用説明図である。
図6図6は、合材層の乾燥時、その合材層に含まれる結着材について、マイグレーションの進みやすさを比較するグラフである。
図7図7は、走査型電子顕微鏡(SEM)による合材層の断面画像を模式的に示す図である。
図8図8は、裁断前の電極シートの平面図である。
図9図9は、電極合材層に含まれるCMCの未溶解粒子について、その含有量を比較するグラフである。
図10図10は、電極合材層に含まれるCMCの未溶解粒子について、その含有量を表す粒面積比率の演算方法を示すフローチャートである。
図11図11は、合材層の剥離強度を比較するグラフである。
図12図12は、CMCの未溶解粒子を電極合材層に含まない参考例の負極板について、その電極合材層の剥離強度を測定した結果を示すグラフである。
図13図13は、CMCの未溶解粒子を電極合材層に含む実施例の負極板について、その電極合材層の剥離強度を測定した結果を示すグラフである。
図14図14は、コンマコータの斜視図である。
図15図15は、コンマコータの断面図である。
図16図16は、コンマコータの上面図である。
図17図17は、二次電池の試験結果を一覧に示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、二次電池に関する一実施形態を図面に従って説明する。
(リチウムイオン二次電池)
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0017】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0018】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0019】
(電極シート及び電極体)
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32と、を備えた電極シート35としての構成を有する。
【0020】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ電極合材、即ち正極合材としての合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだスラリー状をなす電極合材、即ち負極合材としての合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、その正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極活物質層32P及び負極活物質層32Nが形成される構成となっている。
【0021】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸10x周りに捲回された捲回体としての構成を有するものとなっている。
【0022】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0023】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続されるとともに、負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0024】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸10xが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0025】
更に、このケース20内には、電解液45が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する二次電池1の電解液45には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液45が含浸される構成になっている。
【0026】
(合材塗工部の端部位置、及び合材層の剥離強度)
図2及び図4に示すように、本実施形態の二次電池1において、正負の極板50を構成する各電極シート35は、それぞれ、上記のように、その集電体31となる基材36に対して合材ペースト37が塗工されない未塗工部39を有している。本実施形態の電極シート35において、この未塗工部39は、帯状の外形を有した電極シート35の幅方向端部(図4中、左側の端部)35eに設けられている。換言すると、本実施形態の電極シート35は、この未塗工部39よりも幅方向内側(図4中、右側)となる位置に、その基材36に対して合材ペースト37が塗工された合材塗工部51を有している。即ち、本実施形態の電極シート35においては、基材36に塗工された合材ペースト37が、この合材塗工部51に電極活物質を含んだ合材層52を形成する。そして、本実施形態の電極シート35は、この合材塗工部51に形成された合材層52が、その電極活物質層32として機能する構成となっている。
【0027】
また、図4に示すように、本実施形態の電極シート35においては、その幅方向における合材塗工部51の端部位置Xeが、この合材塗工部51と未塗工部39との境界になる。即ち、この合材塗工部51の端部位置Xeには、その基材36上に積層された合材層52の縁部52eが配置されている。そして、本実施形態の二次電池1においては、この合材塗工部51の端部位置Xeにおいて、合材層52の剥離が生じ難くなるように、その基材36に塗工される合材ペースト37、詳しくは負極合材としての合材ペースト37Nが調整されている。
【0028】
即ち、未塗工部39との境界に位置する合材塗工部51の端部位置Xeにおいては、その基材36に塗工された合材ペースト37が流動しやすい。このため、合材層52の縁部52eには、電極シート35の幅方向、未塗工部39側(図4中、左側)に向かって、その厚みdが徐々に薄くなる薄肉部54が形成されやすい傾向がある。尚、この薄肉部54は、電極シート35の幅方向、例えば、概ね200μm程度の範囲において、その合材層52の縁部52eに形成される。更に、このように合材層52が薄肉化した部位においては、その合材ペースト37の乾燥が早く進むことで、この合材ペースト37に含まれる結着材の分布、つまりは、乾燥後の合材層52における結着材の分布にムラが生じやすくなる。具体的には、基材36上に形成された合材層52の乾燥時、その合材層52の表面52sから溶媒が蒸発する際、この溶媒とともに、その結着材が上方に移動しやすい。つまりは、マイグレーションが発生しやすくなっている。その結果、合材塗工部51の端部位置Xeにおいて、その合材層52の剥離強度が低下しやすいという問題が生ずる。尚、「剥離強度」は、「剥離耐性強度」や「結着強度」等に言い換えることができる。
【0029】
(カルボキシメチルセルロースの未溶解粒子)
この点を踏まえ、図5に示すように、本実施形態の二次電池1においては、負極板50Nとなる電極シート35Nについて、その基材36Nに塗工される合材ペースト37Nに、未溶解の粒子成分が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、上記のようなマイグレーションの発生を抑制する構成となっている。
【0030】
詳述すると、本実施形態の二次電池1においては、その負極4側の合材ペースト37Nに、増粘材として機能するカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれている。また、本実施形態の二次電池1において、このCMCは、その一部が溶け残った状態、つまりは未溶解粒子60の状態で、合材ペースト37N中に存在する。更に、本実施形態の二次電池1においては、このCMCの未溶解粒子60によって、合材層52Nの乾燥時、溶媒61の蒸発に伴い合材層52N中に生ずる結着材62の上方移動が阻害される。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その合材層52中に含まれる結着材62を、より多く基材36Nの表面36sに近い位置に留めおくことで、その合材層52Nの剥離強度を高める構成となっている。
【0031】
尚、本実施形態の二次電池1において、負極4用の結着材62には、例えば、スチレンブタジエンラテックス(SBR)等が用いられている。そして、その負極合材となる合材ペースト37Nに添加するCMCには、ナトリウム塩(CMC-Na)やリチウム塩(CMC-Li)が用いられている。
【0032】
具体的には、図6に示すように、CMCの未溶解粒子60を含まない合材層52Nにおけるマイグレーション量を「100」として、そのマイグレーションの進みやすさを指標化した値を「マイグレ指数」とする。この場合、合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含む本実施形態の二次電池1については、その「マイグレ指数」が「100」よりも低い値となっている。そして、この「マイグレ指数」の値から、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60が存在することによるマイグレーション抑制効果を確認することができる。
【0033】
尚、図7に示すように、合材層52Nにおける結着材62の「マイグレーション量」については、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、合材層52Nの断面を観察する。更に、この合材層52Nの断面を、上層域δ1、中層域δ2、及び下層域δ3に三分割した場合に、その解析画像中、これら各領域における結着材62(図示略)の占有面積を測定する。そして、この結着材62の占有面積について、その中層域δ2の値に対する上層域δ1の値の比率を「マイグレーション量」を表す値に用いる。
【0034】
(CMC未溶解粒子の端部位置偏在)
さらに詳述すると、図8に示すように、未塗工部39Nとの境界に位置する合材塗工部51Nの端部位置Xeと、この端部位置Xeよりも未塗工部39Nから離間した合材塗工部51Nの内側位置Xiと、を比較する。そして、本実施形態の二次電池1においては、この場合、その端部位置Xeの方が、内側位置Xiよりも多く、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含む構成となっている。
【0035】
具体的には、本実施形態の二次電池1においては、帯状に延びる箔形状を有した基材36Nの幅方向両端部(図8中、上下方向の端部)に未塗工部39N,39Nを形成する状態で、その合材ペースト37Nの塗工が行われる。更に、これにより形成された電極シート35Xが、その幅方向中央位置をスリット70として裁断される。そして、本実施形態の二次電池1は、この二分割された電極シート35N,35Nを、それぞれ、その負極板50Nに用いる構成となっている。
【0036】
即ち、本実施形態の二次電池1においては、裁断前の電極シート35Xについて、その幅方向両端部に形成された未塗工部39N,39Nに隣接する二位置が、それぞれ、合材塗工部51Nの端部位置Xe,Xeとなる。尚、本実施形態の二次電池1において、これら合材塗工部51Nの端部位置Xe,Xeは、その基材36Nに塗工された合材層52Nが剥離しやすい幅方向範囲、例えば、未塗工部39N,39Nから約8mm程度、幅方向内側の位置範囲に設定される。そして、本実施形態の二次電池1においては、その電極シート35Xの幅方向、その端部位置Xe,Xe間の位置範囲が、その合材塗工部51Nの内側位置Xiとなっている。
【0037】
また、図8及び図9に示すように、本実施形態の二次電池1においては、合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60が、その合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeに多く偏在する状態となっている。
【0038】
詳述すると、図10に示すように、本実施形態の二次電池1においては、基材36Nに塗工された合材層52Nの表面52sについて、光学顕微鏡を用いた顕微鏡画像Vdが取得される(ステップ101)。次に、画像解析により、この顕微鏡画像Vdが二値化される(ステップ102)。尚、この二値化処理によって、例えば、その顕微鏡画像Vd中に映るCMCの未溶解粒子60が「黒色」、この未溶解粒子60以外の部分が「白色」に表される。更に、この二値化された顕微鏡画像Vd中に映るCMCの未溶解粒子60の面積を「粒面積」として計測する(ステップ103)。そして、この「粒面積」を顕微鏡画像Vd全体の「領域面積」で除することにより、CMCの未溶解粒子60について、その顕微鏡画像Vdにおける「粒面積比率」が演算される(ステップ104)。
【0039】
また、本実施形態の二次電池1においては、合材塗工部51Nの端部位置Xe及び内側位置Xiについて、それぞれ、合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60の「粒面積比率」を演算する。更に、合材塗工部51Nの内側位置Xiにおける粒面積比率を基準となる「100」として、その合材塗工部51Nの端部位置Xeにおける粒面積比率を指数化する。そして、本実施形態の二次電池1においては、この値を「粒面積指数」として、その合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60が、合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeに多く偏在する状態が評価される(図9参照)。
【0040】
具体的には、図8に示すように、本実施形態の二次電池1においては、例えば、電極シート35Xが裁断される前の状態で、その合材塗工部51Nの幅方向両側の端部位置Xe1,Xe2における未溶解粒子60の粒面積Se1,Se2が計測される。また、同じく電極シート35Xが裁断される前の状態で、例えば、その合材塗工部51Nの幅方向中央部分、つまりはスリット70の設定位置近傍において、その内側位置Xiにおける未溶解粒子60の粒面積Siが計測される。更に、これら各粒面積Se1,Se2,Siの計測に用いる顕微鏡画像Vdの画角γ、つまり顕微鏡画像Vd全体の「領域面積」は一定となっている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これにより、次式を用いて、その合材層52Nに含まれるCMCの未溶解粒子60についての粒面積指数Isを演算することが可能となっている。
【0041】
Is=(Se1+Se2)/(Si×2) ・・・(1)
尚、図8中に示す未溶解粒子60及び顕微鏡画像Vdの画角γについては、説明の便宜上、その形状及び寸法を簡略的に記載する。また、上記(1)式中、各粒面積Se1,Se2,Siの値については、それぞれ、その顕微鏡画像Vdの撮影位置を変更しながら複数回の計測を行うことにより得られた平均値を用いるとよい。そして、上記(1)式は、その分子・分母に含まれる顕微鏡画像Vd全体の「領域面積」、つまりは、その「粒面積比率を求める演算式の分母」に相当する値を通分した式となっている。
【0042】
即ち、図9に示すように、本実施形態の二次電池1においては、合材塗工部51Nの端部位置Xeにおいて測定したCMCの未溶解粒子60についての粒面積指数Isが「100」よりも大きな値となっている。具体的には、この実施例において、その端部位置Xeにおける粒面積指数Isは、約176となっている。尚、この粒面積指数Isは、150以上であることが好ましい。そして、これにより、合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60が、その合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeに多く偏在する状態にあることを確認することができる。
【0043】
また、図11に示すように、本実施形態の二次電池1においては、合材塗工部51Nの内側位置Xiにおける合材層52Nの剥離強度を「100」として、その合材塗工部51Nの端部位置Xeにおける剥離強度を指数化する。そして、この値を「剥離強度指数」として、その基準となる合材塗工部51Nの内側位置Xiにおける合材層52Nの剥離強度に対する端部位置Xeにおける合材層52Nの剥離強度が評価される。
【0044】
具体的には、図12及び図13に示すように、本実施形態の二次電池1においては、例えば、電極シート35Xが裁断される前の状態で、その幅方向位置毎に合材層52Nの剥離強度Fが測定される。更に、その幅方向位置両側の端部位置Xe1,Xe2、及び、その端部位置Xe1,Xe2間の内側位置Xiについて、それぞれ、その測定された剥離強度Fの平均値が演算される。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの各平均値を、それぞれ、その各端部位置Xe1,Xe2の剥離強度Fe1,Fe2、及び内側位置Xiの剥離強度Fiとして、次式により、その剥離強度指数Ifが演算される。
【0045】
If=(Fe1+Fe2)/(Fi×2) ・・・(2)
尚、剥離強度Fの測定は、負極板50Nをサンプル台に固定して、その基材36N上に形成された合材層52Nをチャック等で把持する。更に、引張試験機を用いて、その合材層52Nを基材36Nから剥離させる。そして、このとき、オートグラフ等を用いて、測定位置毎に負荷を計測することで、その基材36Nから合材層52Nが剥がれる際の力の強さを、合材層52Nの剥離強度Fとして測定する構成になっている。
【0046】
即ち、図12に示す合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含まない参考例については、乾燥条件の最適化等によって、上記のようなマイグレーションの発生が抑制されている。そして、これにより、各端部位置Xe1,Xe2における剥離強度Fe1,Fe2が、その内側位置Xiの剥離強度Fiから大きく低下しない構成になっている。
【0047】
これに対し、合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeに多く、その合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60が偏在する実施例の場合には、端部位置Xe1,Xe2の剥離強度Fe1,Fe2の方が、内側位置Xiの剥離強度Fiよりも高い。そして、図11に示すように、この端部位置Xe1,Xe2における剥離強度Fe1,Fe2の向上効果が、その剥離強度指数Ifに現れている。
【0048】
(CMC未溶解粒子の調整方法)
さらに詳述すると、本実施形態の二次電池1においては、「CMCのエーテル化度」や「合材混練状態」等を制御することで、その負極合材としての合材ペースト37Nに含まれるCMCの未溶解粒子60を調整する。
【0049】
即ち、セルロース誘導体であるCMCは、その直鎖状に重合した個々のグルコースユニット中に、それぞれ、3つの水酸基(-OH)を有している。そして、その各3つの水酸基のうち、エーテル化した水酸基の数を示す値が「エーテル化度」である。
【0050】
本実施形態の二次電池1においては、この「エーテル化度」の値が比較的小さいCMCを用いることにより、その合材ペースト37Nに添加されたCMCの一部が溶け残る。つまりは、その合材ペースト37Nに、CMCの未溶解粒子60が含まれる構成となっている。
【0051】
また、本実施形態の二次電池1においては、合材ペースト37Nを混練する際、その混練機の回転数(RPM)が比較的低く抑えられている。そして、これにより、その予め負極活物質に混ぜ合わされたCMCの一部が溶け残りやすくなっている。
【0052】
更に、本実施形態の二次電池1において、合材ペースト37NにおけるCMCの含有量は、0.1wt%以上、1.0wt%以上に設定されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、合材層52N中にCMCの未溶解粒子60が存在するとともに、この未溶解粒子60が合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在する状態で、効率よく、その剥離強度Fを高めることが可能となっている。
【0053】
(CMC未溶解粒子の偏在配置方法)
また、図14図16に示すように、本実施形態の二次電池1において、基材36Nに対する合材ペースト37Nの塗工には、コンマコータ80が用いられている。即ち、合材ペースト37Nの塗工工程において、基材36Nは、その帯状に延びる箔形状が複数のロール81に巻き掛けられた状態で連続的に搬送される。また、本実施形態のコンマコータ80は、これらの各ロール81のうち、「Cロール」と呼称されるロール81cの支軸81xと平行な支軸82xを有して、このロール81cに並置されたコンマロール82を備えている。具体的には、本実施形態のコンマコータ80において、このコンマロール82は、ロール81cに巻き掛けられた基材36Nを上方から挟み込む位置において、そのロール81cに隣接して配置されている。更に、ロール81cは、図15中、反時計回り方向に回転するとともに、コンマロール82は、同図中、時計回り方向に回転する。そして、本実施形態のコンマコータ80は、これにより、そのロール81cに対して下方側から巻き掛けられた基材36Nが、このロール81cとコンマロール82との隙間から、図15中、左側に引き出される態様で連続的に搬送される構成になっている。
【0054】
また、本実施形態のコンマコータ80は、ロール81cの側方位置(図15及び図16中、右側)に、合材ペースト37Nの貯留部83を形成するダム85を備えている。更に、このダム85は、そのロール81cに巻き掛けられた基材36Nの表面36sを貯留部83の壁面83sとする。即ち、本実施形態のコンマコータ80においては、ロール81cに巻き掛けられた状態で搬送される基材36Nの表面36sに対し、その貯留部83内の合材ペースト37Nが付着する。そして、本実施形態のコンマコータ80は、この基材36Nがロール81cとコンマロール82との隙間から引き出される際、その基材36Nの表面36sに付着した合材ペースト37Nを、コンマロール82が引き伸ばす態様で、その塗工を行う構成となっている。
【0055】
また、図16に示すように、本実施形態のコンマコータ80は、そのダム85が形成する貯留部83に対して合材ペースト37Nを供給する合材供給部87を備えている。本実施形態のコンマコータ80において、この合材供給部87は、その先端から合材ペースト37Nを吐出する筒状の外形を有している。更に、この合材供給部87は、そのロール81cに巻き掛けられた基材36Nの幅方向中央位置に配置されている。そして、本実施形態のコンマコータ80は、この合材供給部87から、ロール81c側(図16中、左側)に向かって、その貯留部83内に合材ペースト37Nが吐出される構成となっている。
【0056】
(作用)
即ち、本実施形態のコンマコータ80においては、貯留部83に対して合材供給部87が合材ペースト37Nを吐出することにより、その貯留部83内の合材ペースト37Nに「流れ」が形成される。具体的には、その合材供給部87が設けられた位置、つまりは、ロール81cに巻き掛けられた基材36Nの幅方向中央位置において、そのロール81c側に向かう合材ペースト37Nの「流れ」が形成される。更に、このロール81c側に向かう「流れ」に沿って移動した合材ペースト37Nが、その貯留部83の壁面83sを構成する基材36Nに当たることで、ロール81cの軸線に沿って、その基材36Nの幅方向中央位置から端部方向に向かう「流れ」が形成される。そして、この端部方向に向かう「流れ」に沿って移動した合材ペースト37Nが、そのダム85が形成する貯留部83の両側壁83x,83x近傍に到達することで、貯留部83内の合材ペースト37Nに、渦巻き状の緩やかな「流れ」が形成される。
【0057】
また、本実施形態のコンマコータ80においては、このような貯留部83内に形成される合材ペースト37Nの「流れ」によって、その合材ペースト37Nに含まれたCMCの未溶解粒子60が、貯留部83の両側壁83x,83x近傍に滞留しやすくなっている。即ち、本実施形態の二次電池1においては、そのロール81cの軸線方向に沿った貯留部83の幅方向範囲(図16中、上下方向範囲)が、負極板50Nとなる電極シート35Nの合材塗工部51Nに対応する(図8参照)。更に、その貯留部83の両側壁83x,83x近傍近傍、つまりは幅方向両端位置が、それぞれ、その裁断前の電極シート35Xにおける合材塗工部51Nの各端部位置Xe,Xeに相当する。そして、本実施形態の二次電池1は、この状態で、その基材36Nの表面36sに付着した合材ペースト37Nが合材層52Nを形成することで、この合材層52Nに含まれるCMCの未溶解粒子60が合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在する構成になっている。
【0058】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)二次電池1の負極板50Nを構成する電極シート35Nは、基材36Nに塗工された負極合材としての合材ペースト37Nが合材層52Nを形成する合材塗工部51Nと、その合材ペースト37Nが塗工されない未塗工部39Nと、を備える。更に、合材ペースト37Nには、負極活物質とともにカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。そして、未塗工部39Nとの境界に位置する合材塗工部51Nの端部位置Xeの方が、この端部位置Xeよりも未塗工部39Nから離間した合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも多く、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含んでいる。
【0059】
上記構成によれば、合材層52Nの乾燥時、この合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60によって、その溶媒61の蒸発に伴い合材層52N中に生ずる結着材62の上方移動が阻害される。つまりは、マイグレーションを抑制することができる。そして、これにより、その基材36Nに塗工された合材層52Nの剥離強度Fを高めることができる。特に、合材層52の剥離強度Fが低下しやすい合材塗工部51の端部位置Xeに対して、より多く、その合材層52中に含まれたCMCの未溶解粒子60を偏在させることで、効果的に、剥離強度Fを高めることができる。そして、これにより、その合材ペースト37に添加する結着材62やCMCの増量に伴う電池性能の低下を招くことなく、効率よく、その合材層52Nの剥離を抑制することができる。
【0060】
(2)合材層52Nの顕微鏡画像Vdを取得するとともに、画像解析によって、この顕微鏡画像Vdを二値化する。更に、その顕微鏡画像Vdに占める未溶解粒子60の「粒面積比率」を演算する。そして、負極板50Nは、合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeの方が、その未溶解粒子60の「粒面積比率」が大きくなっている。
【0061】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易且つ精度よく、合材層52Nに含まれたCMCの未溶解粒子60について、その含有量を比較することができる。そして、これにより、効率よく、その合材層52Nの剥離を抑制することのできる負極板50Nを形成することができる。
【0062】
(3)合材塗工部51Nの内側位置Xiにおける「粒面積比率」を基準に、その合材塗工部51Nの端部位置Xeにおける「粒面積比率」を指数化した値を粒面積指数Isとする。そして、負極板50Nは、この粒面積指数Isが、150以上となっている。これにより、効率よく、その合材層52Nの剥離を抑制することができる。
【0063】
(4)合材ペースト37NにおけるCMCの含有量が、0.1wt%以上、1.0wt%以上である。
上記構成によれば、合材層52N中にCMCの未溶解粒子60が存在するとともに、この未溶解粒子60が合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在する状態で、効率よく、その剥離強度Fを高めることができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0065】
・上記実施形態では、合材ペースト37NにおけるCMCの含有量が、0.1wt%以上、1.0wt%以上であることとしたが、CMCの含有量については任意に変更してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、「エーテル化度」が比較的低いCMCを用いること、混練機の回転数(RPM)を低く設定すること、によって、そのCMCの未溶解粒子60を含んだ合材ペースト37Nを調整する方法を例示した。しかし、これに限らず、その他、合材ペースト37Nの混練時間を短くする。或いは、合材ペースト37Nの溶媒量を少なくする等によって、その合材ペースト37N中にCMCの未溶解粒子60が含まれるように調整してもよい。また、CMCの「エーテル化度」は、任意である。そして、混練機の回転数(RPM)等、合材ペースト37Nの混練状態を規定する各種のパラメータについてもまた、任意に変更してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、コンマコータ80を用いた塗工工程において、その合材層52Nに含まれるCMCの未溶解粒子60が、合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも多く、合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在する状態を形成することとした。しかし、これに限らず、合材層52Nに含まれるCMCの未溶解粒子60を合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在させる方法については、任意に変更してもよい。例えば、CMCの未溶解粒子60について、その含有量が異なる複数種類の合材ペースト37Nを用意する。そして、塗工工程において、その合材塗工部51Nの端部位置Xeと内側位置Xiとで、これらの合材ペースト37Nを塗り分ける等の方法を用いてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、合材層52Nの顕微鏡画像Vdを二値化することにより得られた顕微鏡画像Vdに占めるCMCの未溶解粒子60の「粒面積比率」が、その合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも端部位置Xeの方が大きいこととした。しかし、これに限らず、このような「粒面積比率」を用いる以外の方法で、その合材塗工部51Nの端部位置Xeの方が、合材塗工部51Nの内側位置Xiよりも多く、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含む状態を規定してもよい。
【0069】
・また、上記実施形態では、合材層52Nの表面52sについて、光学顕微鏡を用いた顕微鏡画像Vdを取得することにより、その「粒面積」「粒面積比率」、及び「粒面積比指数」を演算することとした。しかし、これに限らず、観察倍率が適合する場合、光学顕微鏡以外の顕微鏡画像Vdを用いてもよい。そして、合材層52Nの表面52sに限らず、その断面の顕微鏡画像Vdを用いる構成であってもよい。
【0070】
・上記実施形態では、粒面積指数Isが150以上であることとしたが、粒面積指数Isは、150より小さくともよい。少なくとも、その粒面積指数Isが100より大きければよい(Is>100)。
【0071】
・上記実施形態では、未塗工部39Nから約8mm程度、幅方向内側の位置範囲を合材塗工部51Nの端部位置Xeとした。しかし、これに限らず、合材塗工部51Nの端部位置Xe及び内側位置Xiの位置範囲についての具体的な設定は、任意である。即ち、合材層52Nの剥離が生じやすい未塗工部39Nに隣接した幅方向の位置範囲を合材塗工部51Nの端部位置Xeとすればよく、この端部位置Xeよりも未塗工部39Nから離間した任意の位置を、その合材塗工部51Nの内側位置Xiとすればよい。そして、その内側位置Xiにおける未溶解粒子60の「粒面積」を計測する位置もまた、必ずしも、裁断前の電極シート35Xにおける幅方向中央位置、つまりは、この電極シート35Xを裁断するスリット70の設定位置近傍でなくともよい。
【0072】
・上記実施形態では、電極体10は、捲回体としての構成を有することとしたが、必ずしも、そのセパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが捲回されていなくともよい。即ち、負極板の形状については、任意である。そして、この負極板が適用される二次電池1は、必ずしもリチウムイオン二次電池でなくともよく、その他の非水電解質二次電池に適用してもよい。
【0073】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【実施例0074】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするための実施例等を記載する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
図17は、二次電池1の負極板50Nについて、その性能試験の結果を一覧に示す表である。この図17の表中に示す「比較例」及び「実施例1」~「実施例3」における負極板50Nの積層構造は、全て等しく、上記実施形態と同様である。更に、基材36に対して合材ペースト37Nを塗工する方法についてもまた、全て等しく、上記実施形態と同様である。そして、その合材ペースト37N中に含まれるCMC及び結着材の含有量もまた、全て同量となっている。
【0075】
また、図17の表中、「溶媒量」は、合材ペースト37Nにおける溶媒61を重量パーセントで表した値である。更に、表中に示す「混練負荷指数」は、「比較例」を基準となる「100」とした場合の指数値であり、合材ペースト37Nの混練に用いる混練機の回転数(RPM)に依存する。そして、この「混練負荷指数」は、その値が大きいほど、混練時、より大きな負荷を加えつつ、その合材ペースト37Nが練り混ぜられたことを示している。
【0076】
図17に示すように、「比較例」には、その「エーテル化度」が「0.89」のCMCを用いた。尚、この「比較例」の合材ペースト37Nに用いた溶媒量は「37.7wt%」である。そして、この「比較例」については、その合材ペースト37N中にCMCの未溶解粒子60を確認することができない結果となった。
【0077】
これに対し、「実施例1」~「実施例3」については、「比較例」に用いたCMCよりも、そのエーテル化度が低い「0.72」のCMCを用いた。これら「実施例1」~「実施例3」における溶媒量は「38.1wt%」である。更に、「混練負荷指数」は、「実施例1」が「100」、「実施例2」が「90」、「実施例3」が「70」である。そして、これにより、その「粒面積指数」については、「実施例1」が「150」、「実施例2」が「176」、「実施例3」が「190」となった。
【0078】
即ち、「混練負荷指数」の値が等しい「比較例」及び「実施例1」を比較した場合、CMCのエーテル化度が低い「実施例1」のみ、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60が存在する結果となった。そして、これにより、「エーテル化度」の値が比較的小さいCMCを用いることで、その合材ペースト37Nに添加されたCMCの一部が溶け残りやすい。つまりは、CMCの未溶解粒子60を含んだ合材ペースト37Nを形成可能であることが確認された。
【0079】
また、「エーテル化度」の値が等しい「実施例1」~「実施例3」を比較した場合、その「混練負荷指数」の値が小さいほど、その「粒面積指数」の値が大きくなっている。更に、これらの「実施例1」~「実施例3」については、その合材ペースト37Nの塗工方法が全て同一である。つまりは、その合材層52Nに含まれるCMCの未溶解粒子60を合材塗工部51Nの端部位置Xeに偏在させる方法が共通となっている。そして、これにより、合材ペースト37Nの混練する際の負荷を小さくすることで、その合材層52N中に、より多くのCMCの未溶解粒子60を存在させることが可能であると推察することができる。
【0080】
更に、「比較例」及び「実施例1」~「実施例3」を比較すると、その「粒面積指数」の値が大きいほど、その合材層52Nの「剥離強度指数」が高くなっている。具体的には、合材ペースト37N中にCMCの未溶解粒子60が確認できなかった「比較例」については、その「剥離強度指数」が「101」となった。そして、「実施例1」~「実施例3」については、並び順に、その「剥離強度指数」が「104」「108」「110」となった。
【0081】
以上の結果からも、合材塗工部51Nの端部位置Xeの方が、合材塗工部51Nの内側位置よりも多く、その合材層52N中にCMCの未溶解粒子60を含むことが好ましいことが確認された。そして、その合材塗工部51Nの内側位置Xiにおける「粒面積比率」を基準に、合材塗工部51Nの端部位置Xeにおける「粒面積比率」を指数化した値を「粒面積指数」として、この「粒面積指数」が、150以上であることが、より好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1…二次電池
35N…電極シート
36N…基材
37N…合材ペースト(負極合材)
39N…未塗工部
50N…負極板
51N…合材塗工部
Xe…端部位置
Xi…内側位置
52N…合材層
60…カルボキシメチルセルロース(CMC)の未溶解粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17