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2025-22553ダイシングテープ、ダイシングダイボンドフィルム、及び、半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022553
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ダイシングテープ、ダイシングダイボンドフィルム、及び、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250206BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20250206BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20250206BHJP
   B28D 7/04 20060101ALI20250206BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20250206BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J7/29
B28D7/04
B28D5/00 Z
B26F3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127239
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】角野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
(72)【発明者】
【氏名】中浦 宏
(72)【発明者】
【氏名】土生 剛志
【テーマコード(参考)】
3C060
3C069
4J004
5F063
【Fターム(参考)】
3C060AA10
3C060CC13
3C060CC14
3C069AA03
3C069BA08
3C069BB04
3C069CA05
3C069CB02
3C069EA01
4J004AA06
4J004AA10
4J004AA17
4J004AB01
4J004CA03
4J004CB03
4J004CC03
4J004CD08
4J004CE01
4J004DA03
4J004DA04
4J004DB02
4J004FA05
4J004FA08
5F063AA18
5F063AA31
5F063CB07
5F063CB14
5F063CB29
5F063DD71
5F063DG04
5F063EE04
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE13
5F063EE42
5F063EE48
(57)【要約】
【課題】 エキスパンド工程において引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できるダイシングテープなどを提供することを課題としている。
【解決手段】 基材層と、該基材層の片面に重なった粘着剤層とを備え、
前記基材層は、積層された複数の層を有し、該複数の層として、少なくとも、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層と、前記エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層とを有し、
前記第1基材層と前記粘着剤層との間に前記第2基材層が配置されているダイシングテープなどを提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、該基材層の片面に重なった粘着剤層とを備え、
前記基材層は、積層された複数の層を有し、該複数の層として、少なくとも、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層と、前記エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層とを有し、
前記第1基材層と前記粘着剤層との間に前記第2基材層が配置されている、ダイシングテープ。
【請求項2】
前記第2基材層が、少なくともエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含む、請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
前記基材層は、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第3基材層をさらに有し、
前記第1基材層と前記第3基材層との間に前記第2基材層が配置されている、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
90℃における前記第1基材層の引張貯蔵弾性率は、前記第2基材層の引張貯蔵弾性率よりも大きい、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項5】
90℃における前記第1基材層及び前記第3基材層の引張貯蔵弾性率は、いずれも前記第2基材層の引張貯蔵弾性率よりも大きい、請求項3に記載のダイシングテープ。
【請求項6】
前記第1基材層の融点と、前記第2基材層の融点との差の絶対値が、10℃以下である、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項7】
前記第1基材層又は前記第3基材層の融点と、前記第2基材層の融点との差の絶対値のうち最大値が、10℃以下である、請求項3に記載のダイシングテープ。
【請求項8】
前記基材層を示差走査熱量測定によって測定したチャートは、100℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有しない、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項9】
前記基材層の90℃における引張貯蔵弾性率は、1.0MPa以上である、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項10】
半導体装置を製造するために使用される、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備える、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハを小片化して半導体チップ群を得るエキスパンド工程と、を備え、
前記半導体チップ群の周囲で、引き伸ばされた前記ダイシングテープの一部を加熱して収縮させる、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置などを製造するときに使用されるダイシングテープ、該ダイシングテープを備えるダイシングダイボンドフィルム、及び、ダイシングダイボンドフィルムを使用する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置などの製造において使用されるダイシングダイボンドフィルムが知られている。この種のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、ダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシートと、を備える。ダイシングテープは、基材層と、ダイボンドシートに接している粘着剤層とを有する。この種のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造において、例えば下記のように使用される。
【0003】
半導体装置を製造する方法は、一般的に、高集積の電子回路によって円板状のベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
【0004】
例えば、後工程は、半導体ウエハを小さい半導体チップ(ダイ)へ割断するための脆弱部位をレーザー光によって半導体ウエハに形成するステルスダイシング工程と、半導体ウエハの回路面とは反対側の面をダイボンドシートに貼り付けて、ダイボンドシートを介して半導体ウエハをダイシングテープに固定するマウント工程と、半導体ウエハの放射方向にダイシングテープを引き伸ばして、脆弱部位が形成された半導体ウエハをダイボンドシートと共に割断して、隣り合う半導体チップ(ダイ)の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンドシートと粘着剤層との間で剥離してダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップを取り出すピックアップ工程と、ダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップをダイボンドシートを介して被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着したダイボンドシートを熱硬化処理するキュアリング工程と、を有する。半導体装置は、例えばこれらの工程を経て製造される。
【0005】
上記のような半導体装置の製造方法において、例えば上記のエキスパンド工程を実施した後において、様々な問題が生じる場合がある。例えば、割断された半導体ウエハ(即ち半導体チップ)及びダイボンドシートの小片の一部が、ダイシングテープの粘着剤層の表面から浮き上がる場合がある。また、例えば、割断された複数の半導体チップの周囲でダイシングテープを加熱して収縮させても、ダイシングテープがたるんでしまい、引き伸ばされたダイシングテープが元に戻り、隣り合う半導体チップ間のいったん広がった離間距離(カーフ)が狭くなる場合がある。
【0006】
これに対して、前者の問題を解決すべく、即ち、エキスパンド工程後の半導体チップの浮きを抑制すべく、ダイシングテープの基材層の特定の物性を所定の数値範囲に設計したダイシングテープが知られている(例えば、特許文献1)。
【0007】
詳しくは、特許文献1に記載のダイシングテープにおいて、基材層が、単一構造または積層構造を備えた樹脂フィルムで構成され、基材層は、100℃におけるMD方向の熱収縮率が20%以下であり、かつ、ナノインデンターを用いて25℃で測定した基材層の弾性率と基材層の断面二次モーメントとの積として求められる曲げ硬さが40N・mm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-077753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、後者の問題に関しては、必ずしも十分に検討されていない。特に、ダイシングテープの一部を収縮させるための加熱温度が比較的低いと、引き伸ばされたダイシングテープの一部が必ずしも十分に収縮できず、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できない場合がある。
従って、引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できるダイシングテープが要望されている。
【0010】
そこで、本発明は、エキスパンド工程において引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できるダイシングテープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に係るダイシングテープは、
基材層と、該基材層の片面に重なった粘着剤層とを備え、
前記基材層は、積層された複数の層を有し、該複数の層として、少なくとも、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層と、前記エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層とを有し、
前記第1基材層と前記粘着剤層との間に前記第2基材層が配置されている。
【0012】
本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、
上記のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備える。
【0013】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、
上記のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハを小片化して半導体チップ群を得るエキスパンド工程と、を備え、
前記半導体チップ群の周囲で、引き伸ばされた前記ダイシングテープの一部を加熱して収縮させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムによれば、ダイシングテープが引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できる。
本発明に係る半導体装置の製造方法によれば、エキスパンド工程においてダイシングテープが引き伸ばされた後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した断面図。
図2A】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの基材層の一例を厚さ方向に切断した断面図。
図2B】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの基材層の他の例を厚さ方向に切断した断面図。
図3A】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
図3B】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
図3C】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
図3D】半導体装置の製造方法におけるバックグラインド工程の様子を模式的に表す断面図。
図4A】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図4B】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図5A】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5B】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5C】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図6A】半導体装置の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図6B】半導体装置の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図7】半導体装置の製造方法におけるエキスパンド工程時の加熱処理の様子を半導体チップの厚さ方向の一方側から見た模式図。
図8】半導体装置の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に表す断面図。
図9】半導体装置の製造方法におけるダイボンド工程後及びワイヤボンディング工程後の様子を模式的に表す断面図。
図10】半導体装置の製造方法における封止工程の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを備えるダイシングダイボンドフィルムの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、図1に示すように、ダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20の粘着剤層22(後述)に積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシート10とを備える。
なお、図面における図は模式図であり、実物における縦横の長さ比と必ずしも同じではない。
【0018】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1では、使用されるときに、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤層22が硬化される。詳しくは、一方の面に半導体ウエハが接着されたダイボンドシート10と、該ダイボンドシート10の他方の面に貼り合わされた粘着剤層22とが積層した状態で、紫外線等が少なくとも粘着剤層22に照射される。例えば、基材層21が配置されている方から紫外線等を照射して、基材層21を経た紫外線等が粘着剤層22に届く。紫外線等の照射によって、粘着剤層22が硬化する。
照射後に粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤層22からダイボンドシート10(半導体チップが接着した状態)を比較的容易に剥離させることができる。ダイボンドシート10は、半導体装置の製造において、回路基板又は半導体チップなどの被着体に接着されることとなる。
【0019】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープ>
上記のダイシングテープ20は、通常、長尺シートであり、使用されるまで巻回された状態で保管される。本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、割断処理されるシリコンウエハよりも、ひと回り大きい内径を有する円環状の枠に張られた後、カットされて使用される。
【0020】
上記のダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なった粘着剤層22とを備える。上記のダイシングテープ20の粘着剤層22は、例えば感圧接着型の層である。
【0021】
[ダイシングテープの基材層]
本実施形態において、粘着剤層22に重ねられた基材層21は、積層構造(例えば2層構造又は3層構造)を有する。
図2A及び図2Bにそれぞれ示すように、基材層21は、少なくとも、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層21aと、エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層21bとを有する。また、第1基材層21aと粘着剤層22との間に第2基材層21bが配置されている。
【0022】
基材層21は、例えば図2Aに示すように、第1基材層21a及び第2基材層21bが積み重なった2層で構成される。2層構造の基材層21は、エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)を含む第1基材層21aと、第1基材層21aに積層され且つエチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層21bとを有する。例えば、第2基材層21bの片面と、粘着剤層22の片面とが重なり合っている。
このような2層の積層構造を有する基材層21は、例えば、各層が共押出成形によって作製され且つ2つの層が一体化されて形成されている。
【0023】
2層構造の基材層21では、第2基材層21bがエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を含むことが好ましい。これにより、比較的弾性が高い等のエチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)の特性を基材層21が発揮できることに加え、高温において熱収縮率が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)の特性も基材層21が発揮できる。そのため、例えば、エキスパンド工程でダイシングテープ20が引き伸ばされた後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できる。
【0024】
一方、基材層21は、例えば図2Bに示すように、第1基材層21a、第2基材層21b、及び第3基材層21cが積み重なった3層で構成されてもよい。3層構造の基材層21は、エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)をそれぞれ含む第1基材層21a及び第3基材層21cと、これらの層の間に配置され且つエチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層21bとを有することが好ましい。
このような3層の積層構造を有する基材層21は、例えば、各層が共押出成形によって作製され且つ3つの層が一体化されて形成されている。
【0025】
3層構造の基材層21では、両面側にそれぞれ配置された第1基材層21a及び第3基材層21cがいずれもエチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)を含み、第1基材層21a及び第3基材層21cの間に配置された第2基材層21bがエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を含むことが好ましい。これにより、比較的弾性が高い等のエチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)の特性を基材層21が発揮できることに加え、高温において熱収縮率が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)の特性も基材層21が発揮できる。そのため、例えば、エキスパンド工程でダイシングテープ20が引き伸ばされた後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できる。なお、基材層21において、例えば、粘着剤層22から最も離れた層が第1基材層21aであり、粘着剤層22と重なった層が第3基材層21cである。第2基材層21bは、第1基材層21aと第3基材層21cとの間に配置されている。
【0026】
2層構造の基材層21において、第1基材層21aの厚さに対する、第2基材層21bの厚さの比(第2基材層21bの厚さ/第1基材層21aの厚さ)は、1以上10以下であることが好ましい。
3層構造の基材層21において、外層の総厚さに対する内層の厚さの比(第2基材層21bの厚さ/第1基材層21a及び第3基材層21cの総厚さ)は、1以上10以下であることが好ましい。また、第1基材層21a及び第3基材層21cの厚さは、ほぼ同じであってもよい。例えば、第3基材層21cの厚さに対する第1基材層21aの厚さの比は、0.9以上1.1以下であってもよい。
第1基材層21a及び第3基材層21cは、互いに同じであってもよい。換言すると、第1基材層21a及び第3基材層21cは、厚さ及び材質のいずれも互いに同じであり得る。
【0027】
基材層21の厚さ(総厚さ)は、80μm以上150μm以下であることが好ましい。斯かる値は、ランダムに選んだ少なくとも3箇所における測定値の平均値である。以下、粘着剤層22の厚さも、同様にして測定された平均値である。基材層21の厚さが80μm以上であることによって、基材層21の全体に対してより均一に応力をかけることができ、エキスパンド工程において半導体ウエハをより良好に割断することができる。
【0028】
2層構造の基材層21において、好ましくは、第1基材層21aが5μm以上40μm以下の厚さを有し、第2基材層21bが50μm以上120μm以下の厚さを有する。これにより、基材層21における各層の物性(特性)が基材層21においてより好適に反映されるという利点がある。
3層構造の基材層21において、好ましくは、第1基材層21a及び第3基材層21cが、それぞれ独立して1μm以上15μm以下の厚さを有し、第2基材層21bが、70μm以上120μm以下の厚さを有する。これにより、基材層21における各層の物性(特性)が基材層21においてより好適に反映されるという利点がある。
【0029】
基材層21が複数の層が積み重なった積層構造(例えば3層構造)を有するため、より弾性率が高い層とより弾性率が低い層とを積層することが可能となる。従って、比較的簡便に基材層21の弾性率をコントロールすることができる。例えば、1層のみで構成された基材層21の弾性率が比較的高い場合、エキスパンド工程において、基材層21の破れが生じやすくなり得る。また、例えば、半導体チップを割断するための応力は、エキスパンド工程においてダイシングテープ20を引き伸ばす力から基材層21及び粘着剤層22を経て伝わるところ、1層のみで構成された基材層21の弾性率が比較的低い場合、上記応力がやや伝わりにくくなり得る。
また、基材層21が積層構造を有するため、上記理由と同様の理由により、比較的簡便に基材層21の熱収縮率をコントロールできる。
このように、基材層21が複数の層で構成されているため、各層の物性(特性)を引き出すことができる。従って、複数層で構成された基材層は、単層の基材層よりも、所望の特性を発揮しやすい。
【0030】
基材層21の各層は、例えば、金属箔、ゴムシート、又は樹脂フィルムなどである。
【0031】
第1基材層21aは、上述したように、少なくともエチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)を含む。第1基材層21aは、好ましくは、エチレン-アクリル酸共重合樹脂製のフィルムで構成されている。これにより、ダイシングテープ20は、比較的高い熱収縮性と比較的高い弾性率とをより十分に兼ね備えることができる。
【0032】
エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)は、分子中に少なくともエチレン構成の単位とアクリル酸の構成単位とを有する。なお、構成単位とは、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を重合するときのモノマー(エチレン、アクリル酸)が重合した後の各モノマー由来の構造である。
エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)は、分子中にアクリル酸の構成単位を5質量%以上15質量%以下含んでもよい。
【0033】
第1基材層21aは、好ましくはエチレン-アクリル酸共重合樹脂を50質量%以上含み、より好ましくは60質量%以上含み、さらに好ましくは70質量%以上含む。これにより、ダイシングテープ20は、比較的高い熱収縮性と比較的高い弾性率とをより十分に兼ね備えることができる。
【0034】
基材層21が3層構造を有する場合、第3基材層21cの材質として、第1基材層21aと同様の材質を採用できる。
【0035】
第2基材層21bは、好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、及び低密度ポリエチレン(LDPE)のうち少なくとも1種を含み、より好ましくは少なくともエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含み、さらに好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂製のフィルムで構成されている。これにより、ダイシングテープ20は、比較的高い熱収縮性と比較的高い弾性率とをより十分に兼ね備えることができる。
【0036】
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)は、酢酸ビニルの構成単位を5質量%以上35質量%以下含んでもよい。なお、構成単位とは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を重合するときのモノマー(エチレン、酢酸ビニル)が重合した後の各モノマー由来の構造である。
【0037】
第2基材層21bは、好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を10質量%以上含み、より好ましくは20質量%以上含み、さらに好ましくは30質量%以上含む。これにより、ダイシングテープ20は、比較的高い熱収縮性と比較的高い弾性率とをより十分に兼ね備えることができる。第2基材層21bは、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を90質量%以下含んでもよい。
【0038】
必要に応じて、基材層21の各層は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;アイオノマー樹脂;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体等のエチレンの共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアクリレート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);脂肪族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース又はセルロース誘導体;含シリコーン高分子;含フッ素高分子などをさらに含んでもよい。
【0039】
基材層21の各層が樹脂フィルムを有する場合、樹脂フィルムが延伸処理等を施され、伸び率などの変形性が制御されていてもよい。
【0040】
基材層21は、背面側から紫外線等の活性エネルギー線を粘着剤層22へ与えることが可能となる点で、光透過性(紫外線透過性)の樹脂フィルム等であることが好ましい。
【0041】
基材層21の各層は、帯電防止剤をさらに含んでもよい。帯電防止剤によって、基材層21における静電気の帯電を防止できる。そのため、半導体チップにおける電子回路が静電気の放電によって静電破壊することを十分に防げる。また、帯電を防止することによって、埃等の異物が基材層21に付着することを十分に防げる。
【0042】
基材層21の背面側(粘着剤層22が重なっていない側)には、剥離性を付与するために、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の離型剤(剥離剤)などによって離型処理が施されていてもよい。
【0043】
一方、粘着剤層22と接する基材層21の表面には、粘着剤層22との密着性を高める表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的方法又は物理的方法による酸化処理等が採用され得る。また、アンカーコーティング剤、プライマー、接着剤等のコーティング剤によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0044】
本実施形態において好ましくは、基材層21を示差走査熱量測定によって測定したチャートは、110℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有さず、より好ましくは105℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有さず、さらに好ましくは100℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有しない。換言すると、本実施形態において上記のチャートに現れる最大吸熱ピークは、好ましくは110℃未満の温度に頂点があり、より好ましくは105℃未満の温度に頂点があり、さらに好ましくは100℃未満の温度に頂点がある。例えば、上記チャートは、110℃以上200℃以下の範囲に吸熱ピークを有しない。なお、上記の吸熱ピークは、通常、吸熱ピークのうち最も高さが高い最大ピークを指す。
上記チャートが、例えば100℃未満の温度に頂点がある吸熱ピークを有する場合、ダイシングテープ20が引き伸ばされた後の加熱処理の温度が比較的低くても、ダイシングテープ20の一部が加熱処理によってより十分に収縮できる。
【0045】
例えば、基材層21を構成する各層に含まれる樹脂のほとんどが、融点を110℃未満に有する樹脂であることによって、上記のチャートは、110℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有しない。
【0046】
示差走査熱量測定は、市販されているDSC測定装置を用いて、測定サンプルの約4mgを秤量し、0℃から200℃まで10℃/分の昇温速度で、窒素ガス雰囲気下において測定を実施する。測定サンプルは、基材層21を厚さ方向に切断することによって作製する。測定装置としては、一般的な装置を用いることができる。
【0047】
本実施形態において好ましくは、第1基材層21aの融点と、第2基材層21bの融点との差の絶対値が、10℃以下である。第3基材層21cを有する基材層21では、第1基材層21a又は第3基材層21cの融点と、第2基材層21bの融点との最大差の絶対値が、10℃以下であることが好ましい。
なお、第1基材層21a又は第3基材層21cの融点の方が、通常、第2基材層21bの融点よりも高い。
【0048】
上記の融点の差(絶対値)は、5℃以上であってもよい。
【0049】
第1基材層21a又は第3基材層21cの各融点は、それぞれ独立して、例えば90℃以上130℃以下の所定値であり、好ましくは90℃以上100℃未満の所定値である。
【0050】
第2基材層21bの融点は、例えば80℃以上100℃以下の所定値であり、好ましくは85℃以上95℃以下の所定値である。
【0051】
上記の融点は、上述した示差走査熱量測定と同様の測定法の結果から決定される。詳しくは、第1基材層21a、第2基材層21b、又は第3基材層21cを示差走査熱量測定によって測定し、それぞれのチャートに現れた吸熱ピークの頂点の温度を各融点とする。斯かる頂点としては、通常、現れた吸熱ピークのうち最大ピークの頂点を採用する。
【0052】
本実施形態において好ましくは、基材層21の90℃における引張貯蔵弾性率は、0.8MPa以上であり、より好ましくは1.0MPa以上である。これにより、エキスパンド工程後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)をより十分に維持できる。
基材層21の90℃における引張貯蔵弾性率は、100MPa以下であってもよく、好ましくは50MPa以下であり、より好ましくは10MPa以下であり、さらに好ましくは5MPa以下である。斯かる引張貯蔵弾性率がより小さいことによって、後述するエキスパンド工程において、ダイシングテープ20がより効果的に熱収縮できる。
【0053】
本実施形態において好ましくは、第1基材層21aの90℃における引張貯蔵弾性率は、第2基材層21bの90℃における引張貯蔵弾性率よりも大きい。第3基材層21cを有する基材層21では、第1基材層21a及び第3基材層21cの90℃における引張貯蔵弾性率は、いずれも第2基材層21bの90℃における引張貯蔵弾性率よりも大きいことが好ましい。これにより、エキスパンド工程後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)をより十分に維持できる。
第1基材層21a及び第3基材層21cの90℃における引張貯蔵弾性率は、例えば1.5MPa以上5.0MPa以下であってもよい。第2基材層21bの90℃における引張貯蔵弾性率は、例えば0.5MPa以上1.5MPa未満であってもよい。両者の差は、1.0MPa以上2.0MPa以下であってもよい。
【0054】
上記の引張貯蔵弾性率は、例えば、基材層21の各層の質量に対して、又は、基材層21の総質量に対して、引張貯蔵弾性率がより高い樹脂の含有率を高めることにより、大きくすることができる。一方、引張貯蔵弾性率がより高い樹脂の含有率を下げることにより、上記の弾性率を小さくすることができる。
【0055】
上記の引張貯蔵弾性率は、以下の測定条件で測定される。
測定装置:固体粘弾性測定装置(例えば測定装置名「RSA III」TA Instruments社製)
試料サイズ:初期長さ40mm、幅10mm、厚さ20μm
(厚さが20μmに満たない場合、複数枚を重ねて積層体を形成する)
測定環境:窒素ガス雰囲気下
昇温速度:10℃/min、
測定温度:-40℃以上280℃以下の温度範囲
90℃における引張貯蔵弾性率の値を読み取る
初期チャック間距離:22.5mm
周波数:10Hz
歪み:0.005%
【0056】
[ダイシングテープの粘着剤層]
本実施形態において、粘着剤層22は、例えば、アクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含む。
粘着剤層22は、40μm以下の厚さを有してもよい。粘着剤層22の厚さは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。粘着剤層22は、1μm以上の厚さを有してもよい。粘着剤層22の形状および大きさは、通常、基材層21の形状および大きさと同じである。
【0057】
本実施形態において、粘着剤層22は、少なくとも、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とをモノマー単位として分子中に有するアクリル共重合体を含む。
なお、「単位」とは、アクリル共重合体を重合するときのモノマー(例えば2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなど)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0058】
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)のうちの少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリル」という用語も同様である。
【0059】
上記のアクリル共重合体は、分子中に、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とを少なくともモノマー単位として有する。モノマー単位は、アクリル共重合体の主鎖を構成する単位である。換言すると、モノマー単位は、アクリル共重合体を重合するために使用したモノマーに由来するものである。上記のアクリル共重合体における各側鎖は、主鎖を構成する各モノマー単位に含まれる。
【0060】
上記のアルキル(メタ)アクリレート単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレート単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分を表す。
【0061】
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、直鎖状炭化水素であってもよく、分岐鎖状炭化水素であってもよく、環状構造を含んでいてもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)の炭素数は、6以上22以下であってもよい。
【0062】
上記のアクリル共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位として、アルキル部分が炭素数6以上22以下の飽和炭化水素である飽和アルキル(メタ)アクリレート単位を含むことがより好ましい。
【0063】
上記のアクリル共重合体は、分子中の全モノマー単位のうち、アルキル部分の炭素数6以上のアルキル(メタ)アクリレート単位の占める割合(モル換算)が最も高いことが好ましい。例えば、全モノマー単位のうちアルキル部分の炭素数6以上(好ましくは8以上)のアルキル(メタ)アクリレート単位がモル換算で50%以上90以下%占めてもよい。
【0064】
アルキル部分の炭素数6以上の飽和アルキル(メタ)アクリレート単位は、ベンゼン環、並びに、エーテル結合(-CH-O-CH-)、-OH基、及び-COOH基などの極性基のいずれも分子中に含まないことが好ましい。アルキル部分の炭素数6以上の飽和アルキル(メタ)アクリレート単位において、アルキル部分は、C及びH以外の原子を含まず、6以上10以下の炭素原子で構成された飽和直鎖状炭化水素、又は、飽和分岐鎖状炭化水素であってもよい。
【0065】
上記のアクリル共重合体は、アルキル部分の炭素数が6以上10以下の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位を上記のアルキル(メタ)アクリレート単位として含むことが好ましい。
【0066】
上記の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部分(炭化水素部分)の構造は、飽和分岐鎖状アルキル構造であればよく、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造であり得る。
具体的には、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位としては、イソヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートの各単位などが挙げられる。これらのなかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位が好ましい。
【0067】
上記の飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部分(炭化水素部分)の構造は、飽和直鎖状アルキル構造であればよい。
具体的には、飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位としては、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの各単位が挙げられる。
【0068】
上記のアクリル共重合体は、上述したアルキル(メタ)アクリレート単位として、1種を単独で含んでもよく、又は、2種以上を含んでもよい。
【0069】
架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、ウレタン化反応によってウレタン結合を形成できるヒドロキシ基、又は、ラジカル反応によって重合できる重合性基を有する。より詳しくは、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、未反応のヒドロキシ基、又は、重合性基としてのラジカル重合性炭素-炭素二重結合のいずれか一方を有する。換言すると、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位の一部は、未反応のヒドロキシ基を有し、他の一部(その他全て)は、ヒドロキシ基を有さずラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する。
【0070】
上記のアクリル共重合体は、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、炭素数4以下のアルキル部分にヒドロキシ基が結合したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有する。粘着剤層22がイソシアネート化合物を含む場合、イソシアネート化合物のイソシアネート基と、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位のヒドロキシ基とが、容易に反応できる。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有するアクリル共重合体と、イソシアネート化合物とを粘着剤層22に共存させておくことによって、粘着剤層22を適度に硬化させることができる。そのため、アクリル共重合体が十分にゲル化できる。よって、粘着剤層22は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0071】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位は、炭素数2以上4以下のアルキル部分にOH基が結合した、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2以上4以下のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。以下、本明細書において同様である。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0072】
ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各単位が挙げられる。なお、ヒドロキシ基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0073】
上記のアクリル共重合体は、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、側鎖にラジカル重合性炭素-炭素二重結合(重合性不飽和二重結合)を有する重合性(メタ)アクリレート単位を含む。
【0074】
重合性(メタ)アクリレート単位は、具体的には、上述したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位におけるヒドロキシ基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有する。
【0075】
上記のアクリル共重合体が、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含むことによって、上述したピックアップ工程の前に、粘着剤層22を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。例えば、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリル共重合体を互いに架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着剤層22の粘着力を、照射後に低下させることができる。そして、ダイボンドシート10を粘着剤層22から良好に剥離させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0076】
重合性(メタ)アクリレート単位は、アクリル共重合体の重合反応の後に、ウレタン化反応によって調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとの共重合の後に、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部におけるヒドロキシ基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、重合性(メタ)アクリレート単位を得ることができる。
【0077】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0078】
本実施形態において、上記のアクリル共重合体は、上述したモノマー単位以外のモノマー単位を含んでもよい。例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、又は、アクリロニトリルなどの各単位を含んでもよい。上記のアクリル共重合体がモノマー単位として(メタ)アクリロイルモルフォリン単位を含み、上記のアクリル共重合体における(メタ)アクリロイルモルフォリン単位の構成比率を変更することによって、上記のアクリル共重合体のガラス転移点又は極性を比較的容易に制御できる。
【0079】
粘着剤層22に含まれるアクリル共重合体において、上記の各単位(各構成単位)は、H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリル共重合体における上記単位のモル割合は、通常、アクリル共重合体を重合するときの配合量(仕込量)から算出される。
【0080】
上記のアクリル共重合体における全モノマー単位(100モル部)のうち、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位の占める割合が15モル部以上60モル部以下であり、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50%以上95%以下(モル換算)が上記のごとくウレタン結合を形成していることが好ましい。換言すると、上記のアクリル共重合体は、全モノマー単位を100モル部としたときに、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位を15モル部以上60モル部以下含み、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50%以上95%以下がラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。これにより、ダイボンドシート10と、硬化する前の粘着剤層22との粘着力を維持できる一方で、ダイボンドシート10と、硬化した後の粘着剤層22との剥離性をより良好にできる。
【0081】
上記のアクリル共重合体は、全モノマー単位を100モル部としたときに、重合性(メタ)アクリレート単位を10モル部以上50モル部以下含むことが好ましい。これにより、ダイボンドシート10と、硬化する前の粘着剤層22との粘着力を維持できる一方で、ダイボンドシート10と、硬化した後の粘着剤層22との剥離性をより良好にできる。
【0082】
本実施形態において、ダイシングテープ20の粘着剤層22がさらに含み得るイソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着剤層22におけるアクリル共重合体間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基をアクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させ、他方のイソシアネート基を別のアクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
なお、イソシアネート化合物は、ウレタン化反応などを経て合成された化合物であってもよい。
【0083】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0084】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0085】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
上記のイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートと活性水素含有低分子量化合物との反応物が好ましい。芳香族ジイソシアネートの反応物は、イソシアネート基の反応速度が比較的遅いため、斯かる反応物を含む粘着剤層22は、過度に硬化してしまうことが抑制される。上記のイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を3つ以上有するものが好ましい。
【0087】
本実施形態において、粘着剤層22に含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着剤層22が重合開始剤を含むことによって、粘着剤層22に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリル共重合体間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有する重合性(メタ)アクリレート単位を有するアクリル共重合体間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着剤層22を硬化させることができる。これにより、粘着剤層22の粘着力を低下させ、ピックアップ工程において、硬化した粘着剤層22からダイボンドシート10を容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0088】
粘着剤層22は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0089】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシート>
ダイボンドシート10は、図1に示すように、上述したダイシングテープ20の粘着剤層22に重ねられている。
【0090】
ダイボンドシート10の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上200μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上150μm以下であってもよく、5μm以上140μm以下であってもよい。なお、ダイボンドシート10が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0091】
ダイボンドシート10は、例えば図1に示すように、単層構造を有してもよい。本明細書において、単層とは、同じ組成物で形成された層のみを有することである。同じ組成物で形成された層が複数積層された形態も単層である。
一方、ダイボンドシート10は、例えば2種以上の異なる組成物でそれぞれ形成された層が積層された多層構造を有してもよい。ダイボンドシート10が多層構造を有する場合、ダイボンドシート10を構成する少なくとも1層が、後述する架橋性基含有アクリルポリマーなどを含み、必要に応じて熱硬化性樹脂をさらに含んでいればよい。
【0092】
ダイボンドシート10の0℃における破断伸度は、好ましくは4.7%よりも小さく、より好ましくは4.0%よりも小さく、さらに好ましくは3.5%よりも小さい。これにより、ダイボンドシートをさらに良好に割断できる。即ち、さらに良好な割断性を発揮できる。
なお、上記の破断伸度は、0.5%以上であってもよい。
【0093】
上記の破断伸度は、例えば、ダイボンドシート10におけるフィラー(後述)の含有割合を低くすることによって、大きくすることができる。一方、ダイボンドシート10におけるフィラーの含有割合を高くすることによって、上記の破断伸度を小さくすることができる。
【0094】
上記の破断伸度の測定条件の詳細は、以下の通りである。
ダイボンドシートから切り出された試験片:長さ40mm、幅10mm
測定装置:動的粘弾性測定装置
(製品名「RSA-G2」(ティー・エイ・インスツルメント社製など)
測定モード:引張モード
初期チャック間距離:20mm
引張速度:1mm/sec
測定温度:0℃(0℃で4分間経過した後に測定)
なお、試験片をチャック治具に固定するときに試験片が割れないように、チャック部において、2つのシリコーン離型処理PETライナー(50μm厚さ)を緩衝材として用いた。これらPETライナーで試験片を挟み込む。
引張測定開始前のチャック間距離をL0、破断時のチャック間距離をL1としたときに、下記式にて破断伸度を算出する。
破断伸度(%)=[(L1-L0)/L0]×100
【0095】
ダイボンドシート10は、熱硬化処理によって架橋反応を起こす架橋性基を分子中に有する架橋性基含有アクリルポリマーを含む。斯かる架橋性基含有アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーが少なくとも重合した高分子化合物である。
【0096】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、通常、側鎖に上記の架橋性基を有する。上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、側鎖の末端に上記の架橋性基を有してもよい。なお、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、主鎖の両端のうち少なくとも一方に上記の架橋性基を有してもよい。
【0097】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーが分子中に有する架橋性基は、熱硬化処理によって架橋反応を起こす官能基であれば、特に限定されない。
【0098】
架橋性基としては、例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基などが挙げられる。これらの架橋性基は、エポキシ基又はイソシアネート基と架橋反応を起こすことができる。例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を分子中に有する上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、エポキシ基又はイソシアネート基を分子中に有する化合物(例えば、後述するエポキシ樹脂など)との間で架橋反応を起こすことができる。
【0099】
また、架橋性基としては、例えば、エポキシ基又はイソシアネート基などが挙げられる。これらの架橋性基は、ヒドロキシ基やカルボキシ基と架橋反応を起こすことができる。例えば、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくとも一方を分子中に有する上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を分子中に有する化合物(例えば、後述するフェノール樹脂など)との間で架橋反応を起こすことができる。
【0100】
本実施形態において、ダイボンドシート10に含まれる架橋性基含有アクリルポリマーは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を架橋性基として含有することが好ましい。これにより、ダイボンドシート10をより良好に被着体に接着させることができる。
【0101】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーにおいて、架橋性基含有モノマーの構成単位が占める割合は、0.1質量%以上60.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以上40.0質量%以下であってもよく、1.0質量%以上30.0質量%以下であってもよく、3.0質量%以上20.0質量%以下であってもよい。
なお、構成単位とは、架橋性基含有アクリルポリマーを重合するときのモノマー(例えば2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなど)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0102】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、例えばラジカル重合開始剤を用いた一般的な重合方法によって合成できる。
【0103】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、分子中の構成単位のうち、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位を質量割合で最も多く含むことが好ましい。当該アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、アルキル基(炭化水素基)の炭素数が1以上18以下のC1~C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、アルキル基(炭化水素基)の炭素数が1以上12以下のC1~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーであってもよい。
【0104】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマー、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。
【0105】
飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、直鎖状アルキル基部分の炭素数は、2以上8以下であることが好ましい。
飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、アルキル基部分は、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造のいずれかを有してもよい。
【0106】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能な架橋性基含有モノマーに由来する構成単位を含む。
本実施形態において、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、少なくともアルキル(メタ)アクリレートモノマーと架橋性基含有モノマーとが共重合したアクリルポリマーである。換言すると、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位と、架橋性基含有モノマーの構成単位とがランダムな順序でつながった構成を有する。
【0107】
上記架橋性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、酸無水物(メタ)アクリルモノマー、ヒドロキシ基(水酸基)含有(メタ)アクリルモノマー、エポキシ基(グリシジル基)含有(メタ)アクリルモノマー、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマー、スルホン酸基含有(メタ)アクリルモノマー、リン酸基含有(メタ)アクリルモノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマー等が挙げられる。なお、上記架橋性基含有モノマーは、分子中にエーテル基又はエステル基などを有してもよい。
【0108】
上記架橋性基含有アクリルポリマーは、好ましくは、
カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、エポキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、及びイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択された少なくとも1種の架橋性基含有モノマーと、
アルキル(メタ)アクリレート(特に、アルキル部分の炭素数が8以下のアルキル(メタ)アクリレート)と、の共重合体である。
【0109】
カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)サクシネートモノマーなどが挙げられる。なお、カルボキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
エポキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートモノマー、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、エポキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネートなどが挙げられる。
【0110】
ダイボンドシート10は、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の成分を含んでもよい。例えば、ダイボンドシート10は、熱硬化性樹脂、又は、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方をさらに含んでもよい。
【0111】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0112】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、又は、グリシジルアミン型の各エポキシ樹脂が挙げられる。
【0113】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得る。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
フェノール樹脂の水酸基当量[g/eq]は、例えば、90以上220以下であってもよい。
上記フェノール樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0114】
本実施形態において、ダイボンドシート10は、互いに架橋反応する、上記の架橋性基含有アクリルポリマーと熱硬化性樹脂とを含んでもよい。
【0115】
例えば、ダイボンドシート10は、エポキシ基含有アクリルポリマーを架橋性基含有アクリルポリマーとして含み、且つ、フェノール樹脂を熱硬化性樹脂として含んでもよい。これにより、架橋性基含有アクリルポリマーのエポキシ基と、フェノール樹脂のヒドロキシ基とが架橋反応してダイボンドシート10を十分に硬化させることができる。
【0116】
ダイボンドシート10に含まれ得る、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ポリアミド樹脂や6,6-ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、架橋性官能基を分子中に含まないアクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0117】
ダイボンドシート10において、上記の架橋性基含有アクリルポリマーの含有率は、好ましくは8質量%以上100質量%以下である。
【0118】
ダイボンドシート10において、フィラーを除く有機成分(例えば、上記の架橋性基含有アクリルポリマー、熱硬化性樹脂、硬化触媒等、シランカップリング剤、染料)の100質量部に対して、上記の架橋性基含有アクリルポリマーの含有割合は、好ましくは15質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上95質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以上である。なお、ダイボンドシート10における熱硬化性樹脂の含有率を変化させることによって、ダイボンドシート10の弾性や粘性を調整することができる。
一方、上記有機成分の100質量部に対して、熱硬化性樹脂の含有割合は、40質量部以下であってもよい。
【0119】
ダイボンドシート10は、フィラーを含有してもよく、含有しなくてもよい。ダイボンドシート10におけるフィラーの量を変えることにより、ダイボンドシート10の弾性及び粘性をより容易に調整することができる。さらに、ダイボンドシート10の導電性、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。
【0120】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられる。フィラーとしては、無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカや非晶質シリカといったシリカなどを含むフィラーが挙げられる。また、無機フィラーの材質としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金などが挙げられる。ホウ酸アルミニウムウィスカ、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等のフィラーであってもよい。フィラーの形状は、球状、針状、フレーク状等の各種形状であってもよい。フィラーとしては、上記の1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0121】
ダイボンドシート10がフィラーを含む場合、上記フィラーの含有率は、ダイボンドシート10の総質量の50質量%以下であってもよい。なお、上記フィラーの含有率は、例えば5質量%以上であってもよい。
【0122】
ダイボンドシート10は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
上記他の添加剤としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0123】
ダイボンドシート10は、弾性及び粘性を調整しやすいという点で、好ましくは、上記の架橋性基含有アクリルポリマー、熱硬化性樹脂、及びフィラーを含む。
【0124】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、使用される前の状態において、ダイボンドシート10の一方の面(ダイボンドシート10が粘着剤層22と重なっていない面)を覆うはく離ライナーを備えてもよい。はく離ライナーは、ダイボンドシート10を保護するために用いられ、ダイボンドシート10に被着体(例えば半導体ウエハ)を貼り付ける直前に剥離される。
はく離ライナーとしては、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等を用いることができる。
はく離ライナーは、ダイボンドシート10を支持するための支持材として利用できる。はく離ライナーは、粘着剤層22にダイボンドシート10を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、はく離ライナーとダイボンドシート10とが積層された状態でダイボンドシート10を粘着剤層22に重ね、重ねた後にはく離ライナーを剥がす(転写する)ことによって、粘着剤層22にダイボンドシート10を重ねることができる。
【0125】
続いて、本実施形態のダイボンドシート10、及び、ダイシングダイボンドフィルム1の製造方法について説明する。
【0126】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造方法>
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1の製造方法は、
ダイボンドシート10を作製する工程と、
ダイシングテープ20を作製する工程と、
製造されたダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程とを備える。
【0127】
<ダイボンドシートを作製する工程>
ダイボンドシート10を作製する工程は、
ダイボンドシート10を形成するための樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、
樹脂組成物からダイボンドシート10を形成するダイボンドシート形成工程と、を有する。
【0128】
樹脂組成物調製工程では、例えば、上記の架橋性基含有アクリルポリマーと、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化触媒、又は、溶媒のいずれかとを混合して、各樹脂を溶媒に溶解させることによって、樹脂組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。なお、これらの樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。
【0129】
ダイボンドシート形成工程では、例えば、上記のごとく調製した樹脂組成物を、はく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。次に、必要に応じて、脱溶媒処理や硬化処理等によって、塗布した組成物を固化させて、ダイボンドシート10を形成する。
【0130】
<ダイシングテープを作製する工程>
ダイシングテープを作製する工程は、
アクリル共重合体を合成する合成工程と、
上述したアクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤と、溶媒と、目的に応じて適宜追加するその他の成分と、を含む粘着剤組成物から溶媒を揮発させて粘着剤層22を作製する粘着剤層作製工程と、
基材層21を作製する基材層作製工程と、
粘着剤層22と基材層21とを貼り合わせることによって、基材層21と粘着剤層22とを積層させる積層工程と、を備える。
【0131】
合成工程では、例えば、アルキル部分の炭素数が6以上12以下のC6~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーと、をラジカル重合させることによって、アクリル共重合体中間体を合成する。
ラジカル重合は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、上記の各モノマーを溶媒に溶解させて加熱しながら撹拌し、重合開始剤を添加することによって、アクリル共重合体中間体を合成できる。アクリル共重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤の存在下において重合を行ってもよい。
次に、アクリル共重合体中間体に含まれる、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部のヒドロキシ基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応によって結合させる。これにより、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部が、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有する重合性(メタ)アクリレート単位となる。
ウレタン化反応は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、溶媒及びウレタン化触媒の存在下において、加熱しながらアクリル共重合体中間体とイソシアネート基含有重合性モノマーとを撹拌する。これにより、アクリル共重合体中間体のヒドロキシ基の一部に、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基をウレタン結合させることができる。
【0132】
粘着剤層作製工程では、例えば、アクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを溶媒に溶解させて、粘着剤組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。次に、粘着剤組成物をはく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。塗布した組成物に、脱溶媒処理や固化処理等を施すことによって、塗布した粘着剤組成物を固化させて、粘着剤層22を作製する。
【0133】
基材層作製工程では、一般的な方法によって製膜して基材層を作製できる。製膜する方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、ドライラミネート法等が挙げられる。共押出し成形法を採用してもよい。なお、基材層21として、又は、基材層21を構成する各層として、市販されているフィルム等を用いてもよい。
【0134】
積層工程では、はく離ライナーに重なった状態の粘着剤層22と基材層21とを重ねて積層させる。なお、はく離ライナーは、使用前まで粘着剤層22に重なった状態であってもよい。
なお、架橋剤とアクリル共重合体との反応を促進するため、また、架橋剤と基材層21の表面部分との反応を促進するために、積層工程の後に、50℃環境下で、48時間のエージング処理工程を実施してもよい。
【0135】
これら工程によって、ダイシングテープ20を製造することができる。
【0136】
<ダイボンドシートとダイシングテープとを重ね合わせる工程>
ダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程では、上記のごとく製造したダイシングテープ20の粘着剤層22にダイボンドシート10を貼り付ける。
【0137】
斯かる貼付では、ダイシングテープ20の粘着剤層22、及び、ダイボンドシート10からそれぞれはく離ライナーを剥離し、ダイボンドシート10と粘着剤層22とが直接接触するように、両者を貼り合わせる。例えば、圧着することによって貼り合わせることができる。貼り合わせるときの温度は、特に限定されず、例えば、30℃以上50℃以下であり、好ましくは35℃以上45℃以下である。貼り合わせるときの線圧は、特に限定されないが、好ましくは0.1kgf/cm以上20kgf/cm以下であり、より好ましくは1kgf/cm以上10kgf/cm以下である。
【0138】
上述した工程を経て上記のごとく製造されたダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、半導体装置(半導体集積回路)を製造するための補助用具として使用される。
【0139】
上記のダイシングダイボンドフィルム1を使用する半導体装置の製造方法は、例えば
上記のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なった上記のダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハを小片化して半導体チップ群を得るエキスパンド工程と、を備え、
前記半導体チップ群の周囲で、引き伸ばされた前記ダイシングテープの一部を加熱して収縮させる。
【0140】
以下、半導体装置の製造方法(ダイシングダイボンドフィルムの使用方法)について、さらに詳しく説明する。
【0141】
<半導体装置の製造方法(半導体装置を製造するときのダイシングダイボンドフィルムの使用方法)>
半導体装置の製造方法では、一般的に、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う。このとき、本実施形態のダイシングダイボンドフィルムが製造補助用具として使用される。
【0142】
本実施形態の半導体装置の製造方法は、
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法である。
本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述したダイシングダイボンドフィルム1のダイボンドシート10に半導体ウエハの片面を貼り付けて、ダイボンドシート10を介して半導体ウエハをダイシングテープ20に固定するマウント工程と、
ダイシングテープ20を引き伸ばすことによって、半導体ウエハの脆弱部位を境界にしてダイボンドシート10と共に半導体ウエハを割断するエキスパンド工程と、を備える。
さらに、本実施形態の半導体装置の製造方法は、ダイシングテープ20の粘着剤層22に貼り付けられた小片化されたダイボンドシート10を、半導体チップとともに粘着剤層22から剥離するピックアップ工程を備える。
【0143】
詳しくは、本実施形態の半導体装置の製造方法は、例えば、バックグラインドテープを貼り付けた半導体ウエハの内部にレーザー光によって脆弱部分を形成し、半導体ウエハを割断処理によって半導体チップ(ダイ)へ加工する準備を行うステルスダイシング工程と、バックグラインドテープが貼り付けられた半導体ウエハを研削して厚さを薄くするバックグラインド工程と、厚さが薄くなった半導体ウエハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンドシート10に貼り付けて、ダイボンドシート10を介して半導体ウエハをダイシングテープ20に固定する上記のマウント工程と、ダイシングテープ20を引き延ばすことによって半導体ウエハを割断して半導体チップを作製し、隣り合う半導体チップの間隔を広げる上記のエキスパンド工程と、ダイボンドシート10と粘着剤層22との間を剥離してダイボンドシート10が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出す上記のピックアップ工程とを有する。
本実施形態の半導体装置の製造方法は、さらに、半導体チップに貼り付いたダイボンドシート10を被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着したダイボンドシート10を硬化させるキュアリング工程と、半導体チップにおける電子回路の電極と被着体とをワイヤによって電気的に接続するワイヤボンディング工程と、被着体上の半導体チップ及びワイヤを熱硬化性樹脂によって封止する封止工程と、を有する。
【0144】
ステルスダイシング工程は、いわゆるSDBG(Stealth Dicing Before Grinding)プロセスにおける工程である。ステルスダイシング工程では、図3A図3Cに示すように、回路面が形成されたパターンウエハを半導体チップに割断するための脆弱部分を半導体ウエハWの内部に形成する。具体的には、まず、半導体ウエハWの回路面にバックグラインドテープGを貼り付ける(図3A参照)。次に、バックグラインドテープGを貼り付けた状態で、半導体ウエハWが所定の厚さになるまで研削パッドKによる研削加工(プレバックグラインド加工)を施す(図3B参照)。そして、厚さが薄くなった半導体ウエハWにレーザー光を当てることによって半導体ウエハWの内部に脆弱部分を形成する(図3C参照)。
【0145】
ステルスダイシング工程に代わり、ハーフカット工程を実施してもよい。ハーフカット工程は、いわゆるDBG(Dicing Before Grinding)プロセスにおける工程である。
ハーフカット工程では、半導体ウエハを割断処理によって半導体チップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウエハに溝を形成してから半導体ウエハを研削して厚さを薄くする。
具体的には、ハーフカット工程では、回路面が形成された半導体ウエハを半導体チップ(ダイ)に割断するためのハーフカット加工を施す。より具体的には、半導体ウエハの回路面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープを貼り付ける。半導体ウエハにウエハ加工用テープを貼り付けた状態で、半導体ウエハに分割用の溝を形成する。溝を形成した面にバックグラインドテープを貼り付ける一方で、始めに貼り付けたウエハ加工用テープを剥離する。
【0146】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルムは、上記のごとく半導体ウエハを割断して半導体チップを製造するためのSDBG(Stealth Dicing Before Grinding)プロセス又はDBG(Dicing Before Grinding)プロセスで使用されることが好ましい。
【0147】
バックグラインド工程では、図3Dに示すように、バックグラインドテープGを貼り付けた状態の半導体ウエハWに対してさらに研削加工を施し、後の割断処理によって作製される半導体チップ(ダイ)の厚さになるまで半導体ウエハWの厚さを薄くする。例えば、上記ハーフカット加工された半導体ウエハWが個別化しないように所定の厚さになるまで研削加工を施す。このように研削加工を施すと、後のエキスパンド工程(特に低温エキスパンド工程)によって、半導体ウエハWを半導体チップへと割断すると同時にダイボンドシート10も割断することとなる。
【0148】
マウント工程では、図4A図4Bに示すように、半導体ウエハWをダイシングテープ20に固定する。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けつつ、露出したダイボンドシート10の面に、上記のごとき切削加工によって厚さが薄くなった半導体ウエハWを貼り付ける(図4A参照)。続いて、半導体ウエハWからバックグラインドテープGを剥離する(図4B参照)。
【0149】
エキスパンド工程では、図5A図5Cに示すように、半導体ウエハWを割断することで、半導体ウエハWを小片化して、小片化された半導体チップXを作製し、作製された半導体チップX同士の間隔を広げる。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具Hに固定する(図5A参照)。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム1の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム1を面方向に広げるように引き延ばす(図5B参照)。これにより、特定の温度条件において半導体ウエハWを割断する。上記温度条件は、例えば-20~0℃であり、好ましくは-15~0℃、より好ましくは-10~-5℃である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(図5C参照 ここまで低温エキスパンド工程)。
さらに、エキスパンド工程では、図6A図6Bに示すように、より高い温度条件下(例えば10℃~25℃)において、面積を広げるようにダイシングテープ20を引き延ばす。これにより、割断後に隣り合う半導体チップXをフィルム面の面方向に引き離して、さらにカーフ(隣り合う半導体チップ間の離間距離)を広げる(常温エキスパンド工程)。
【0150】
本実施形態において、エキスパンド工程によってダイシングテープ20は面方向に引き伸ばされた状態となる。このとき、小片化された多数の半導体チップ群の周囲でダイシングテープ20が加熱処理されなければ、多数の半導体チップと重なり合った部分(中央部分)のダイシングテープ20が元の形状へ戻るように縮む。このようにダイシングテープ20が縮むことを抑えるべく、小片化された多数の半導体チップ群の周囲に沿ったダイシングテープ20の一部に対して加熱処理を施す。加熱処理は、例えば、ダイシングテープ20の加熱される部分の表面が90℃以上120℃以下程度になるように実施する。具体的一例では、多数の半導体チップと重なり合っていない部分であって多数の半導体チップ群の外周に沿った部分のダイシングテープ20に対して加熱処理を実施する。この場合の加熱処理は、例えば図7に示すように、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿って周方向に移動できるヒーターS等を用いて実施される。加熱処理では、ダイシングテープ20の加熱される部分の表面が120℃程度以下となるように温度を設定すると、加熱処理された部分でのダイシングテープ20の温度は、100℃未満となり得る。なお、ヒーターS自体の温度設定、ヒーターSの回転速度(移動速度)の設定、及びヒーターSからダイシングテープまでの距離の設定は、ダイシングテープ20の加熱時の温度に影響を与え得る。従って、これら設定は、生産条件等に応じて適宜調整される。
【0151】
ピックアップ工程の前に、例えば基材層21に重なった粘着剤層22に、基材層21側から紫外線を照射することによって、粘着剤層22に硬化処理を施す(硬化処理工程)。
【0152】
ピックアップ工程では、図8に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXをダイシングテープ20の粘着剤層22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップXを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップXを吸着治具Jによって保持する。
【0153】
ダイボンド工程では、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXを被着体Zに接着させる。ダイボンド工程では、例えば図9に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXを複数回積み重ねていくことがある。
【0154】
キュアリング工程では、ダイボンドシート10に含まれる上述した架橋性基含有アクリルポリマーにおける架橋性基(例えばエポキシ基)の反応活性を高めてダイボンドシート10の硬化を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0155】
ワイヤボンディング工程では、半導体チップX(ダイ)と被着体Zとを加熱しつつ、ワイヤLで接続する(例えば図9を参照)。
【0156】
封止工程では、図10に示すように、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂Mによって半導体チップXとダイボンドシート10とを封止する。封止工程では、熱硬化性樹脂Mの硬化反応を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0157】
近年の半導体産業においては、集積化技術のさらなる進展に伴って、より薄い半導体チップ(例えば20μm以上50μm以下の厚さ)、及び、より薄いダイボンドシート(例えば1μm以上40μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下の厚さ)が要望されている。
【0158】
上述した半導体装置の製造方法(ダイシングダイボンドフィルムの使用方法)において、エキスパンド工程(特に常温エキスパンド工程)では、ダイシングテープ20の面積を広げるように面方向に強い力で引き伸ばす。また、ダイシングテープ20を引き伸ばした後、ダイシングテープ20の一部を加熱処理(例えば120℃程度)することによって収縮させる。具体的には、小片化された多数の半導体チップと重なり合っていない、多数の半導体チップ群の外周に沿った部分(外周部分)のダイシングテープ20を加熱処理によって収縮させる。斯かる加熱処理は、例えば図7に示すように、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿ってヒーターS等を移動させることによって実施する。具体的には、多数の半導体チップ群の外周に沿って2つのヒーター等がそれぞれ半周するように移動する。
上記加熱処理の温度は、エネルギー節約の観点では低い方が好ましい。従って、例えばダイシングテープ自体の最高温度が100℃未満となるように、加熱処理の温度を設定する場合がある。このような場合、ダイシングテープ20の一部が加熱処理によって必ずしも十分に収縮できない状況となり得る。半導体チップ群の外周に沿った部分(外周部分)でダイシングテープ20が十分に収縮できないと、ダイシングテープ20が引き伸ばし方向の逆方向へ縮む力を必ずしも十分に抑えられなくなり得る。このような状態では、多数の半導体チップ群と重なり合った部分のダイシングテープ20が縮みやすくなり、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できない可能性がある。
これに対して、本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1では、ダイシングテープ20が、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層21aと、エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂など)を含む第2基材層21bとを有し、第1基材層21aとダイシングテープ20の粘着剤層22との間に第2基材層21bが配置されている。そのため、ダイシングテープ20が比較的低温の加熱処理によっても十分に収縮でき、しかも、上記のごとく縮もうとする力を十分に抑えることができる。従って、本実施形態のダイシングテープ20は、エキスパンド工程において引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できる。
【0159】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルムは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示のダイシングダイボンドフィルムに限定されるものではない。
即ち、一般的なダイシングダイボンドフィルムにおいて用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0160】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
基材層と、該基材層の片面に重なった粘着剤層とを備え、
前記基材層は、積層された複数の層を有し、該複数の層として、少なくとも、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層と、前記エチレン-アクリル酸共重合樹脂以外の樹脂を含む第2基材層とを有し、
前記第1基材層と前記粘着剤層との間に前記第2基材層が配置されている、ダイシングテープ。
(2)
前記第2基材層が、少なくともエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含む、上記(1)に記載のダイシングテープ
(3)
前記基材層は、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第3基材層をさらに有し、
前記第1基材層と前記第3基材層との間に前記第2基材層が配置されている、上記(1)又は(2)に記載のダイシングテープ。
(4)
90℃における前記第1基材層の引張貯蔵弾性率は、前記第2基材層の引張貯蔵弾性率よりも大きい、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(5)
90℃における前記第1基材層及び第3基材層の引張貯蔵弾性率は、いずれも前記第2基材層の引張貯蔵弾性率よりも大きい、上記(3)又は(4)に記載のダイシングテープ。
(6)
前記第1基材層の融点と、前記第2基材層の融点との差の絶対値が、10℃以下である、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(7)
前記第1基材層又は第3基材層の融点と、前記第2基材層の融点との差の絶対値のうち最大値が、10℃以下である、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(8)
前記基材層を示差走査熱量測定によって測定したチャートは、100℃以上の温度に頂点がある吸熱ピークを有しない、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(9)
前記基材層の90℃における引張貯蔵弾性率は、1.0MPa以上である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(10)
半導体装置を製造するために使用される、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載のダイシングテープ。
(11)
上記(1)乃至(10)のいずれかに記載のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備える、ダイシングダイボンドフィルム。
(12)
上記(1)乃至(10)のいずれかに記載のダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハを小片化して半導体チップ群を得るエキスパンド工程と、を備え、
前記半導体チップ群の周囲で、引き伸ばされた前記ダイシングテープの一部を加熱して収縮させる、半導体装置の製造方法。
【実施例0161】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0162】
以下のようにして、ダイシングテープを製造した。また、このダイシングテープをダイボンドシートと貼り合わせて、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0163】
<ダイシングテープの作製>
[基材層]
以下に示す樹脂(市販品)を用いて、3層又は2層が積層した基材層(A~I)をそれぞれ作製した。
(基材層を形成するための樹脂フィルム)
・EAA含有層1 融点95℃ 引張弾性率(90℃)2.62[MPa]
主成分:エチレン-アクリル酸の共重合樹脂(EAA)1
他成分:ポリマー型帯電防止剤
・EAA含有層2 融点102℃ 引張弾性率(90℃)4.23[MPa]
主成分:エチレン-アクリル酸の共重合樹脂(EAA)2
他成分:ポリマー型帯電防止剤
・EVA含有層1 融点88℃ 引張弾性率(90℃)1.01[MPa]
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)1
・EVA含有層2 融点94℃ 引張弾性率(90℃)1.05[MPa]
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)2
・EVA含有層3 融点94℃ 引張弾性率(90℃)1.31[MPa]
主成分:エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)2
他成分:ポリマー型帯電防止剤
・PP含有層1 融点124℃ 引張弾性率(90℃)24.7[MPa]
主成分:ポリプロピレン樹脂1
他成分:ポリマー型帯電防止剤
・PP含有層2 融点92℃ 引張弾性率(90℃)1.92[MPa]
主成分:ポリプロピレン樹脂1
他成分:エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)1
【0164】
(基材層の成形)
押し出しTダイ成形機を用いて基材層を成形した。押出温度は、190℃であった。2層タイプ又は3層積層タイプの基材層を作製するときに、Tダイから共押出成形して各層を一体化させた。一体化した基材層(積層体)が十分に固化した後、基材層をロール状に巻き取って保管した。
基材層の構成の詳細は、表1に示した通りである。
【0165】
【表1】
【0166】
[粘着剤層]
以下のようにして、粘着剤層a、b、cをそれぞれ作製した。
【0167】
[粘着剤層a]
(アクリル共重合体の原料モノマー)
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):20質量部
・2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):100質量部
上記と同様の反応容器に上記の各原料を入れた。モノマーの合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を熱重合開始剤として使用した。全モノマーの濃度が60質量%となるようにトルエンを反応溶媒として加えた。窒素気流中で62℃にて6時間、さらに75℃にて2時間の重合反応処理を行い、アクリル共重合体の中間体を得た。
次に、得られたアクリル共重合体の中間体を含む液に、HEAの合計量に対してモル換算で80モル%となるように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOI)(製品名「karenz MOI」 昭和電工マテリアルズ社製)を加えた、また、MOIに対して0.03質量%のジラウリン酸ジブチルスズを反応触媒として加えた。その後、空気気流中で50℃にて12時間付加反応処理(ウレタン化反応)を行い、アクリル共重合体を得た。
続いて、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(製品名「Omnirad127」 IGM社製)を2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(製品名「タケネートD-101A」)を0.8質量部、酸化防止剤(上記の「Irganox1010」)を0.01質量部加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。
[粘着剤層b]
(アクリル共重合体の原料モノマー)
・アクリロイルモルフォリン(ACMO):8質量部
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):20質量部
・2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):72質量部
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に上記の各原料を入れた。モノマーの合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を熱重合開始剤として使用した。全モノマーの濃度が35質量%となるように酢酸エチルを反応溶媒として加えた。窒素気流中で62℃にて5時間、さらに75℃にて2時間の重合反応処理を行い、アクリル共重合体の中間体を得た。
次に、得られたアクリル共重合体の中間体を含む液に、HEAの合計量に対してモル換算で80モル%となるように上記のMOIを加えた、また、MOI量に対して0.03質量%のジラウリン酸ジブチルスズを反応触媒として加えた。その後、空気気流中で50℃にて12時間付加反応処理(ウレタン化反応)を行い、アクリル共重合体を得た。
続いて、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(製品名「Omnirad127」)2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(製品名「タケネートD-101A」)1.00質量部、酸化防止剤(製品名「Irganox1010」 BASFジャパン社製)0.01質量部を加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。
【0168】
[粘着剤層c]
上記の粘着剤層aで得たアクリル共重合体を含む液に、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(製品名「Omnirad127」)を2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(製品名「タケネートD-101A」)を0.5質量部、酸化防止剤(「Irganox1010」BASFジャパン社製)を0.01質量部加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。
【0169】
[粘着剤層と基材層との貼り合わせ]
続いて、上記のようにしてそれぞれ作製した粘着剤層を粘着剤層作製後1時間以内に基材層と貼り合わせ、50℃にて24時間保存し、ダイシングテープを製造した。
なお、表2に示す第1基材層は、粘着剤層から最も離れるように配置され、第2基材層は、第1基材層よりも粘着剤層に近い位置に配置される。基材層が3層構造を有する場合の第3基材層は、粘着剤層の片面に重なっている。
【0170】
<ダイボンドシートの作製>
以下のようにして、ダイボンドシートα、β、γをそれぞれ作製した。
[ダイボンドシートα]
・アクリルポリマー(製品名「SG-P3」、ナガセケムテックス社製 ガラス転移温度12℃、エポキシ基含有)35質量部(固形分量)、
・エポキシ樹脂(製品名「JER1001」、三菱化学社製)45質量部、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)50質量部、
・シリカフィラー(製品名「SO-25R」、アドマテックス社製)100質量部、
・硬化触媒(製品名「キュアゾール2PHZ」、四国化成工業社製)0.5質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度20質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPET剥離ライナーのシリコーン離型処理面上に、アプリケータを使用して接着用組成物を塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して130℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、PET剥離ライナー上に厚さ10μmのダイボンドシートを作製した。
【0171】
[ダイボンドシートβ]
・アクリルポリマー(製品名「SG-P3」、ナガセケムテックス社製 ガラス転移温度12℃、エポキシ基含有)35質量部(固形分量)、
・アクリルポリマー(アクリル酸エチルとメタクリル酸ブチルとグリシジルメタクリレートとの共重合体をメチルエチルケトンで溶解したアクリル樹脂溶液:重量平均分子量Mw=70,000/エポキシ当量=444(g/eq)/ガラス転移温度Tg=11℃)30質量部(固形分量)、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)6質量部、
・シリカフィラー(製品名「SE2050-MCV」、アドマテックス社製)27質量部、
・シランカップリング剤(製品名「KBM-403」、信越化学工業社製)2質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度15質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、調製した接着用組成物を用いて、上記と同様にして、PET剥離ライナー上に厚さ10μmのダイボンドシートを作製した。
【0172】
[ダイボンドシートγ]
・アクリルポリマー(製品名「PARACRON KG-8001」、根上工業社製 エポキシ基含有)100質量部(固形分量)、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)3質量部、
・シリカフィラー(製品名「SE2050-MCV」、アドマテックス社製)10質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度12質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、調製した接着用組成物を用いて、上記と同様にして、PET剥離ライナー上に厚さ10μmのダイボンドシートを作製した。
【0173】
(実施例1~9、比較例1~5)
[ダイシングダイボンドフィルムの製造]
各ダイシングダイボンドフィルムの構成を表2に示す。室温において、ラミネーターを使用して、円形状のダイボンドシートと、ダイシングテープとを貼り合せることによって、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0174】
【表2】
【0175】
<ダイシングダイボンドフィルムの物性測定>
各実施例及び各比較例のダイシングダイボンドフィルムを構成する各層について、以下のようにして各物性を測定した。
【0176】
[基材層の示差走査熱量(DSC)測定]
ダイシングテープの基材層の示差走査熱量測定の方法詳細は、上述した通りである。測定チャートに現れた最大吸熱ピークの頂点での温度を表2に示す。
【0177】
[基材層を構成する各層の各示差走査熱量(DSC)測定]
第1基材層及び第2基材層のDSC測定方法の詳細は、上述した通りである。測定結果から求めた各層の融点を表2に示す。
【0178】
[90℃におけるダイシングテープの基材層の引張貯蔵弾性率]
基材層の引張貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。90℃における各弾性率の測定結果を表2に示す。
【0179】
[基材層を構成する各層の90℃における引張貯蔵弾性率]
ダイシングテープの引張貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。90℃における各弾性率の測定結果を表2に示す。
【0180】
[ダイボンドシートの0℃における破断伸度]
ダイボンドシートの0℃における弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。測定結果を表2に示す。
【0181】
さらに以下のようにして、上記のごとく製造したダイシングダイボンドフィルムの性能を評価した。
【0182】
<性能評価(中心部における隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ幅))>
(評価用サンプルの準備)
評価用サンプルとして、ベアウエハを用いて作製したチップ(ダイ)付きダイシングダイボンドフィルムを準備した。
具体的には、ラミネーターを使用して、ウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)に保持されたベアウエハをダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシートに貼り合わせた。続いて、ウエハからウエハ加工用テープを剥離した。貼り合わせ時の条件は、貼り合わせ速度が10mm/秒、温度条件が50~80℃、圧力条件が0.15MPaであった。
(ウエハの準備)
まず、ベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工社製)において改質領域を形成する予定の第1面にウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)を貼り合わせた。次に、ステルスダイシング装置(製品名「DAL7360(SDE05)」、Power:0.25W,周波数:80kHz、ディスコ社製)を使用して、このベアウエハの内部に改質領域を形成した。詳しくは、ウエハ内部の第1面に近い側に集光点を合わせたレーザー光を、第1面とは反対の裏面(第2面)側から照射した。照射は、ベアウエハを分割するための予定ラインに沿って実施した。これにより、多光子吸収によるアブレーションによって、ウエハ内部(ウエハの第1面からの深さ50μm)に、一区画3mm×7mmの格子を描くように小片化用の改質領域を形成した。その後、バックグラインド装置(製品名「DGP8760」、ディスコ社製)を使用して、ウエハの第2面から研削することによって、当該ウエハを厚さ30μmになるまで薄くした。以上のようにして、ウエハ加工用テープに保持された状態のウエハを形成した。このウエハは、複数のチップ(3mm×7mm)へとウエハを小片化するための区画を含む。
(チップ(ダイ)の作製)
上記のようにして作製したベアウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた。ダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた状態のベアウエハを、エキスパンド工程によって割断し、小片化した。なお、上記のウエハ加工用テープをベアウエハから剥離した状態で、ダイセパレート装置(製品名「ダイセパレータDDS2300、ディスコ社製」を使用して、エキスパンド工程を実施した。また、エキスパンド工程では、クールエキスパンドを実施した後、常温エキスパンドを実施した。
クールエキスパンドは、以下のようにして実施した。具体的には、ベアウエハに貼り付けたダイシングダイボンドフィルムの粘着剤層上においてフレームが貼着される予定の領域に、直径12インチのSUS製リングフレーム(ディスコ社製)を室温にて貼り付けた。続いて、SUS製リングフレームが貼り付けられたベアウエハを、ダイセパレート装置に装着した。そして、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で、ウエハ及びダイボンドシートを割断して、複数のダイボンドシート層付きチップを得た。
さらに、室温環境下、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で常温エキスパンドを行った。
そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度250℃、ヒート距離20mm、ローテーションスピード3°/secの条件で、ウエハの外周縁を取り囲む部分におけるダイシングテープをヒーターによって熱収縮させた。すなわち、図7に示すような加熱処理方法によって、多数の半導体チップ群と重なっていない部分のダイシングテープに加熱処理を施し、加熱処理された部分を熱収縮させた。なお、上記の条件で加熱処理することによって、ダイシングテープの加熱された部分自体の温度は、100℃未満になり得る。
熱収縮の後、顕微鏡観察によって、複数箇所において、ダイボンドシート付きチップ間の間隔(カーフ)を測定した。カーフは、中心部における任意の10箇所における間隔を測定し、測定値を算術平均することにより求めた。カーフ(平均値)が20μm以上である場合を「良好(○)」、10μm以上20μm未満である場合を「やや良好(△)」、10μm未満である場合を「不良(×)」と評価した。
【0183】
<性能評価(ダイボンドシートの割断性)>
(評価用サンプルの準備)
評価用サンプルとして、ベアウエハを用いて作製したチップ(ダイ)付きダイシングダイボンドフィルムを準備した。具体的には、ラミネーターを使用して、ウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)に保持されたベアウエハをダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシートに貼り合わせた。続いて、ウエハからウエハ加工用テープを剥離した。貼り合わせ時の条件は、貼り合わせ速度が10mm/秒、温度条件が50~80℃、圧力条件が0.15MPaであった。
(ウエハの準備)
まず、ベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工社製)において改質領域を形成する予定の第1面にウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)を貼り合わせた。次に、ステルスダイシング装置(製品名「DAL7360(SDE05)」、Power:0.25W,周波数:80kHz、ディスコ社製)を使用して、このベアウエハの内部に改質領域を形成した。詳しくは、ウエハ内部の第1面に近い側に集光点を合わせたレーザー光を、第1面とは反対の裏面(第2面)側から照射した。ベアウエハを分割するための予定ラインに沿って照射を実施した。これにより、多光子吸収によるアブレーションによって、ウエハ内部(ウエハの第1面からの深さ50μm)に、一区画3mm×7mmの格子を描くように小片化用の改質領域を形成した。その後、バックグラインド装置(製品名「DGP8760」、ディスコ社製)を使用して、ウエハの第2面から研削することによって、ウエハを厚さ30μmになるまで薄くした。以上のようにして、ウエハ加工用テープに保持された状態のウエハを形成した。このウエハは、複数のチップ(3mm×7mm)へとウエハを小片化するための区画を含む。
(チップ(ダイ)の作製)
上記のようにして作製したベアウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた。ダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた状態のベアウエハを、エキスパンド工程によって割断し、小片化した。なお、エキスパンド工程は、上記のウエハ加工用テープをベアウエハから剥離した状態で、ダイセパレート装置(製品名「ダイセパレータDDS2300、ディスコ社製」を使用して実施した。また、エキスパンド工程では、クールエキスパンドを実施した後、常温エキスパンドを実施した。クールエキスパンドは、以下のようにして実施した。具体的には、ベアウエハに貼り付けたダイシングダイボンドフィルムの粘着剤層上においてフレームが貼着される予定の領域に、直径12インチのSUS製リングフレーム(ディスコ社製)を室温にて貼り付けた。続いて、SUS製リングフレームが貼り付けられたベアウエハを、ダイセパレート装置に装着した。そして、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度0℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量12mmの条件で、ウエハ及びダイボンドシートを割断して、複数のダイボンドシート層付きチップを得た。さらに、室温環境下、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で常温エキスパンドを行った。そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度250℃、ヒート距離20mm、ローテーションスピード3°/secの条件で、ウエハの外周縁を取り囲む部分におけるダイシングテープをヒーターによって熱収縮させた。すなわち、図7に示すような加熱処理方法によって、多数の半導体チップ群と重なっていない部分のダイシングテープに加熱処理を施し、加熱処理された部分を熱収縮させた。熱収縮の後、テープ背面側から光を当て、チップ及びダイボンドシートが割断されているか全体を観察した。より詳細な確認は顕微鏡を用いて行った。
(ダイボンドシートの割断性)
割断されるべきチップの総数のうち、チップとともにダイボンドシートが割断できている数を確認し、割断率を算出した。割断率が99%以上の場合を「良好(〇)」、85%以上99%未満の場合を「やや良好(△)」、85%未満の場合を「不良(×)」と評価した。
【0184】
上記の評価結果から把握されるように、実施例のダイシングダイボンドフィルムは、比較例のダイシングダイボンドフィルムに比べて、エキスパンド工程において引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できた。さらに、実施例のダイシングダイボンドフィルムは、比較的低温で十分に収縮可能な収縮性能と、良好な割断性能とを兼ね備えていた。
【0185】
実施例のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイシングテープが、エチレン-アクリル酸共重合樹脂を含む第1基材層と、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含む第2基材層とを有し、第1基材層とダイシングテープの粘着剤層との間に第2基材層が配置されている。そのため、エキスパンド工程の後に、比較的低温の加熱処理であってもダイシングテープが十分に収縮できることから、ダイシングテープが縮もうとする力を十分に抑えることができる。従って、実施例のダイシングテープは、エキスパンド工程において引き伸ばされた後に比較的低い温度で加熱されても収縮でき、隣り合うチップ間の離間距離(カーフ)を十分に維持できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、半導体装置(半導体集積回路)を製造するときの補助用具として、好適に使用される。
【符号の説明】
【0187】
1:ダイシングダイボンドフィルム、
10:ダイボンドシート、
20:ダイシングテープ、
21:基材層、 22:粘着剤層。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10