(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022556
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】不燃紙又はシート
(51)【国際特許分類】
D21H 13/38 20060101AFI20250206BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
D21H13/38
D21H13/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127245
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000119287
【氏名又は名称】井前工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】井前 憲司
(72)【発明者】
【氏名】井前 義彦
(72)【発明者】
【氏名】白井 貴
(72)【発明者】
【氏名】新井 哲郎
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF01
4L055AF04
4L055AF05
4L055AF09
4L055AF33
4L055AG27
4L055AG71
4L055AG97
4L055AH18
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA32
4L055FA19
4L055FA30
4L055GA44
(57)【要約】
【課題】 1000℃近くの火炎に曝された場合でも、発火、燃焼せず、シート形状を保持できる不燃紙又はシートを提供する。
【解決手段】 シリカ系無機繊維、層状ケイ酸塩鉱物、有機繊維、及び所望によりガラス繊維を含有し、平面方向において、前記シリカ系繊維、前記有機繊維、前記ガラス繊維の少なくとも一部が絡み合っていて、厚み方向又は平面方向において、前記有機繊維の一部が融着している。前記層状ケイ酸塩鉱物は、繊維状粘土鉱物であることが好ましい。また、かかる不燃紙又はシートは、湿式抄造により製造されたものであることが好ましい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系無機繊維;層状ケイ酸塩鉱物;及び有機繊維を含有し、
平面方向において、前記シリカ系繊維及び前記有機繊維の少なくとも一部が絡み合っていて、
厚み方向又は平面方向において、前記有機繊維の一部が融着している不燃紙又はシート。
【請求項2】
さらにガラス繊維を含有し、前記ガラス繊維の一部が、前記シリカ系繊維又は前記ガラス繊維と絡み合っている請求項1に記載の不燃紙又はシート。
【請求項3】
前記シリカ系無機繊維40~85重量%、前記層状ケイ酸塩鉱物10~40重量%、前記有機繊維3~10重量%、及びガラス繊維0~15重量%である請求項1又は2に記載の不燃紙又はシート。
【請求項4】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、繊維状粘土鉱物である請求項1又は2に記載の不燃紙又はシート。
【請求項5】
シリカ系無機繊維;層状ケイ酸塩鉱物;有機繊維;及び所望により含まれるガラス繊維を含有する水性懸濁液を抄紙したものである請求項1又は2に記載の不燃紙又はシート。
【請求項6】
厚み0.3~10mmである請求項1又は2に記載の不燃紙又はシート。
【請求項7】
かさ密度が150~400kg/m3である請求項6に記載の不燃紙又はシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎に暴露されても発火せず、耐炎・防火機能を有する不燃紙又は不燃シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の防火・耐炎対策、発火のおそれがある機器や装置の防火・耐炎対策などにおいて、不燃性の紙又はシートが用いられている。
不燃紙としては、例えば、ガラス繊維を湿式抄紙法でシート化したガラス繊維ペーパー、アラミド繊維のような高耐熱性樹脂繊維を用いたシート、水酸化アルミニウムのような結晶水含有化合物を高配合することで自己消化性を持たせた不燃紙などが知られている。
【0003】
高耐熱性樹脂繊維は、発火するものではないが、400℃程度で酸化分解し、炭化するため、500℃以上の雰囲気に曝される仕様、火炎暴露される仕様では用いることができない。
【0004】
ガラス繊維ペーパーは、燃焼ガスが発生するわけではないが、汎用品であるEガラス繊維では、融点が800℃程度で、700℃程度から軟化し始める。このため、火炎暴露により700℃以上の高温に曝されると、繊維形状を保持できず、結果として、シート形状を保持できなくなるという問題がある。
水酸化アルミニウムは200~300℃程度で脱水吸熱反応により、自己消化性を付与できるものである。しかしながら、所望の不燃性を付与するためには、水酸化アルミニウムを大量に配合する必要があり、水酸化アルミニウムを大量配合したシートでは、紙又はシートに求められる強度を確保できないという課題がある。
【0005】
不燃性について、建築基準法を発熱性試験に適合でき、且つ曲げ強度を確保した不燃シートとして、特許5275602号(特許文献1)には、無機繊維、セルロース繊維、及びセピオライトの組合わせに、さらに、鉄鋼スラグだけ、鉄鋼スラグと珪酸カルシウムとの組合わせ、鉄鋼スラグと珪酸カルシウムと含水無機化合物との組合わせ、又は鉄鋼スラグと含水無機化合物との組合わせ30~85質量%(固形分)含有する原料スラリーを、凝集剤共存下で、湿式抄造した不燃シートが提案されている。
【0006】
特許文献1では、無機繊維としてロックウール繊維、ガラス繊維、セラミック繊維又は炭素繊維を使用することが提案され(段落番号0013)、ロックウール繊維、ガラス繊維を用いた実施例が開示されている。
実施例と比較例との比較から、セピオライトを含有しない場合には、不燃性が悪化したことが記載されている。なお、無機繊維としてガラス繊維を使用し、セピオライトを含有しない比較例は、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無機繊維としてガラス繊維を用いる場合、特許文献1においては、シートの構成主体であるガラス繊維が、火炎暴露により700℃以上の高温に曝されると、繊維形状を保持できなくなり、結果として、鉄鋼スラグ等の無機粒子、シート形状を保持できなくなる。
【0009】
この点、ロックウールは、ガラス繊維より高融点で耐熱性に優れ、火炎暴露によっても繊維形状を保持できる。ところで、ロックウールは、原料のスラグや岩石を1500~1600℃の電気炉で溶解し、溶融物を遠心力で吹き飛ばして空気中で固化させて製造される。かかる製造方法に基づき、ロックウールは、繊維になりきれなかった非繊維状粒子(ショット)が含まれている。かかる非繊維状粒子は、抄紙過程で低減できても完全に除去することは困難であるため、一定割合で不燃紙又はシートに混入することを回避できない。そして、このような非繊維状粒子は、紙又はシートと接触する物体表面を傷つけ損傷させるおそれがある。吸音材の被覆材、自動車板金作業現場で用いられる車体保護シート、ガラス工場や鋳造工場で用いられる防火・耐炎シートなどの場合、非繊維状粒子が最終製品に混入したり、製品を傷つけるおそれがあることから、ショットが含まれるロックウールやセラミック繊維、アルカリアースシリケートウールの使用には課題がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、1000℃近くの火炎に曝された場合でも、発火せず、短くても10分間は形状を保持でき、しかも不純物などの混入を回避できる防火・不燃紙又はシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の不燃紙又はシートの実施形態としては、以下のような態様が挙げられる。
(1)シリカ系無機繊維;層状ケイ酸塩鉱物;及び有機繊維を含有し、平面方向において、前記シリカ系繊維及び前記有機繊維の少なくとも一部が絡み合っていて、厚み方向又は平面方向において、前記有機繊維の一部が融着している不燃紙又はシート。
【0012】
(2)前記(1)の不燃紙又はシートにおいて、さらにガラス繊維を含有し、前記ガラス繊維の一部が、前記シリカ系繊維又は前記ガラス繊維と絡み合っている。
【0013】
(3)前記シリカ系無機繊維40~85重量%、前記層状ケイ酸塩鉱物10~40重量%、前記有機繊維3~10重量%、及びガラス繊維0~15重量%である前記(1)又は(2)に記載の不燃紙又はシート。
【0014】
(4)前記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記層状ケイ酸塩鉱物は、繊維状粘土鉱物であることが好ましい。
【0015】
(5)シリカ系無機繊維;層状ケイ酸塩鉱物;有機繊維;及び所望により含まれるガラス繊維を含有する水性懸濁液を抄紙したものである前記(1)~(4)のいずれかに記載の不燃紙又はシート。前記シリカ系繊維、前記有機繊維、及び所望により含まれる前記ガラス繊維は面方向に延設され、層状を形成していることが好ましい。
【0016】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の不燃紙又はシートにおいて、厚み0.3~10mmであることが好ましい。
【0017】
(7)かさ密度が150~400kg/m3である前記(1)~(6)のいずれかに記載の不燃紙又はシート。
【発明の効果】
【0018】
本発明の不燃紙又は不燃シートは、火炎に暴露されても発火・燃焼することなく、火炎暴露後も紙又はシートとしての形状を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例で行った火炎暴露試験1を説明するための図である。
【
図2】実施例で行った火炎暴露試験2を説明するための図である。
【
図3】実施例で行った火炎暴露試験2を説明するための図である。
【
図4】実施例で行った取り扱い性を説明するための図である。
【
図5】実施例で作製したNo.4の平面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図6】実施例で作製したNo.4の厚み方向に沿って切断した断面の電子顕微鏡写真(70倍)である
【
図7】No.4の火炎暴露試験1後の平面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の不燃紙又は不燃シートは、シリカ系無機繊維;繊維状鉱物;有機繊維;及び所望によりガラス繊維を所定割合で含有していて、面方向において前記シリカ系無機繊維、前記有機繊維、前記ガラス繊維は少なくともいずれかが絡み合っていて、厚み方向又は平面方向において、前記有機繊維の一部が融着している。
【0021】
さらに、前記シリカ系無機繊維、前記有機繊維、前記ガラス繊維は、面方向に延設して、層状となっていることが好ましい。
具体的には、シリカ系無機繊維;繊維状鉱物;有機繊維;及び所望により含有されるガラス繊維を所定割合で含有する水性懸濁液(原料スラリー)を湿式抄造することにより製造できる。
【0022】
<原料スラリー(湿式抄造用懸濁液)の組成>
はじめに、本発明の不燃紙又はシートの原料となる原料スラリーについて説明する。
前記原料スラリーは、シリカ系無機繊維;繊維状鉱物;有機繊維;所望によりガラス繊維を所定割合で含有する。
【0023】
(1)シリカ系無機繊維
本発明で使用するシリカ系無機繊維は、繊維構成成分としてSiO2を80重量%以上、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上含有する非晶質繊維である。SiO2以外の成分として、アルミナ1~10重量%、Na2O、ZrO2、TiO2、Li2O、K2O、CaO、MgO、SrO、BaO、Y2O3、La2O3、Fe2O3等の金属酸化物が10重量%以下含有されていてもよいが、シリカ系無機繊維の融点が1000℃超、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1300℃以上となる組成である。
【0024】
本発明で使用するシリカ系無機繊維は、フィラメントを所定繊維長でカットすることにより製造されるもので、その製造方法に基づき、非繊維状粒子を実質的に含まないものが用いられる。具体的には、非繊維状粒子の含有率が0.1重量%未満、好ましくは0.01重量%未満である。
【0025】
以上のようなシリカ系無機繊維としては、市販品を用いることができる。市販の繊維としては、例えばBELCHEM GmbH社のBELCOTEX(登録商標)などが挙げられる。
【0026】
BELCOTEX(登録商標)は、アルミナで修飾されたケイ酸から作られるシリカ系アモルファス繊維であり、一般に90~97重量%のシリカ、約3~9重量パーセントのアルミナ、0.5パーセント未満の酸化ナトリウム、および0.5パーセント未満の他の成分(ZrO2、TiO2、Li2O、K2O、CaO、MgO、SrO、BaO、Y2O3、La2O3、Fe2O3、およびこれらの混合物)を含んでいる。融点は1500℃~1550℃の範囲である。
このようなシリカ系アモルファス繊維は、特性低下の原因、特性のばらつきの原因となる非繊維状粒子(ショット)を、実質的に含まないという点で優れている。
【0027】
なお、BELCOTEX(登録商標)は、末端にヒドロキシル基を有し、300℃以上の熱処理で、脱水縮合する。本発明では、未処理品(末端にヒドロキシル基を含有)であってもよいし、熱処理品(末端のヒドロキシル基は脱水縮合によりシロキサン結合(Si-O-Si結合)となっている)であってもよい。
【0028】
以上のような組成を有するシリカ系繊維は、径6~13μm、好ましくは7~10μm程度で、長さ3~30mmのステープルファイバー、または径6~13μm、好ましくは7~10μm程度で、一般に、長さ1~50mm、好ましくは3~30mmのステープルファイバーとして使用する。
【0029】
上記のようなシリカ系無機繊維は、原料スラリー中の固形分含有率が、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上で、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下である。
【0030】
(2)粘土鉱物
本発明で使用する粘土鉱物とは、スラリー状態では可塑性、柔軟性を有するため、繊維間間隙に入り込むことができ、乾燥固化することで塗膜を形成し、繊維間のバインダーとして機能することができるものである。好ましくは塗膜形成性に優れた層状ケイ酸塩である。
【0031】
具体的には、セピオライト、パリゴルスカイト等の繊維状粘土鉱物;ベントナイト、雲母、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク等の含水フェロケイ酸塩鉱物類、又はこれらの混合物を用いることができる。これらは、不燃性であり、また高温耐熱性を有するので、耐炎性、耐熱性の向上に役立つ。
【0032】
セピオライト、パリゴルスカイトは、2:1リボン型構造をもつ含水ケイ酸マグネシウムで、解繊処理により微細繊維状物を得ることができる。セピオライト、パリゴルスカイトは、成因の違いにより、α型とβ型に分類される。α型とは、高温高圧下における熱水作用を受け、結晶化度が高く、長繊維の割合が高い。β型とは、浅海底や湖底での堆積作用を成因とし、結晶化度が低く、短繊維(塊状または粘土状形態)の割合が高い。α型、β型のいずれも用いることができ、これらは混合して用いてもよい。
【0033】
セピオライトの層状構造は、鎖構造を有し、多孔質で非表面積が大きく、吸着性に優れている。チキソトロピー性を有し、水を分散媒体として用いたスラリー中で解砕されて繊維状となる。
【0034】
なお、セピオライト、パリゴルスカイトの繊維状形態は、繊維径に相当する幅が0.1μm未満で、顕微鏡観察により測定できる長さ(繊維長)としては、最大でも150μm程度である。
このような繊維状の粘土鉱物は、原料スラリー中で、シリカ系繊維、ガラス繊維と絡み合うことができるので、抄紙により作成されるシート状態においては強度アップ、可撓性付与に寄与できる。
【0035】
カオリナイトは、2八面体型の1:1層状ケイ酸塩であり、層間に水分子をもつものはハロイサイトと称されることがある。
【0036】
ベントナイトは、天然の粘土鉱物で、モンモリロナイトを主成分とする。スメクタイトは、2:1型鉱物のグループの総称で、モンモリロナイト、スチーブンサイト、ヘクトライトなどが含まれる。
モンモリロナイトの単位結晶は、4面体シート、8面体シート、4面体シートからなる平板状の単位で、かかる単位結晶が複数枚積み重なることで層状を構成している。モンモリロナイトの単位結晶が、厚み約1nm、幅100~1000nmのとても薄い板状結晶をしているため、スメクタイト、セピオライトと同様に、スラリーにおいて繊維間間隙に入り込むことができ、乾燥固化することで塗膜を形成し、これらのバインダーとして機能することができる。
モンモリロナイトは、高い液性限界を示し、含水量が多い。スメクタイトは、層間に水や有機物がはいって膨張する膨潤性を有し、層間に多量の水(例えばカオリンの10倍以上の水)を含有することができる。
【0037】
以上のような層状ケイ酸塩は、スラリー調製前の状態では、円相当径で、平均粒子径300μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは10~100μmの粉末として存在し得るが、水との混合により、粘性、粘着性、可塑性を示すようになり、自己塗膜形成能力がある。したがって、原料スラリーを抄造した後、乾燥すると、粘土は、繊維間間隙に入り込むことができ、乾燥固化することで塗膜を形成し、これらのバインダーとして機能することができる。
特に、これらの鉱物粘土は、耐熱性、耐炎性を有することから、800℃以上の高温や長時間の火炎暴露で、後述する有機繊維が焼失した後、さらにはガラス繊維が溶融するような温度下でも、シリカ系繊維のバインダーとして役割を果たすことができる。
さらに繊維状形態を有する粘土であるセピオライト、パリゴルスカイトを用いた場合には、シートに可撓性を付与することもできて好ましい。
【0038】
以上のような粘土鉱物は、原料スラリー中、不燃シートにおける含有率として、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上で、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下で含有される。
【0039】
(3)有機繊維
本発明で用いられる有機繊維は、抄紙工程において、有機繊維同士、あるいはシリカ系繊維と、さらに、後述するガラス繊維や断熱付与粒子と絡み合うことで、これらのバインダーとして作用することができる。
【0040】
使用できる有機繊維としては、例えば、セルロース繊維、パルプ繊維、ポリエステル繊維(軟化温度:約240℃、溶融温度:約255~260℃)、ポリプロピレン繊維(軟化温度:約140~160℃、溶融温度:約165~173℃)、ポリエチレン繊維(軟化温度:約100~115℃、溶融温度:約125~135℃)、アクリル繊維(軟化温度:約190~240℃)、ポリ塩化ビニル繊維(軟化温度:約60~100℃、溶融温度:約200~210℃)、ビニリデン繊維(軟化温度:145~165℃、溶融温度:約165~185℃)、ナイロン繊維(軟化温度:約180℃、溶融温度:約215~220℃)、ビニロン繊維(軟化点:220~230℃)、ポリビニルアルコール系繊維などが挙げられる。また、表層部に軟化温度が低い繊維を使用した芯鞘構造の熱可塑性樹脂繊維を用いてもよい。
【0041】
これらの有機繊維は、抄造中にはウェットシートに強度を与え、抄造後、加熱乾燥工程で、熱により軟化、さらには表面の一部が溶融し、乾燥後の冷却により、再び硬化することにより、有機繊維の一部が融着する。このことは、抄紙における加圧工程で、反発弾性が高い無機繊維のスプリングバックを抑制することができる。特にガラス繊維を含有する場合には、ガラス繊維のスプリングバックを抑えることで、最終的に得ようとするシートの厚み調節に寄与できる。
【0042】
また、有機繊維は、通常使用時だけでなく、昇温時、特にガラス繊維に先立って軟化することが可能であることから、後述するように無機粒子を含んでいる場合、無機繊維間の無機粒子の保持状態に合わせて、軟化することで、無機粒子をより安定的な状態に保持することを可能にする。
【0043】
本発明で使用する有機繊維のサイズは、特に限定しないが、繊維径3μm~50μm、好ましくは5μm~30μmで、繊維長1~20mm、好ましくは3~10mmのステープルファイバーが好ましく用いられる。有機繊維は、不燃シートの主体となる無機繊維と均質に絡み合う必要があることから、無機繊維と同程度の長さを有することが好ましい。
【0044】
以上のような有機繊維は、絡み合っている無機繊維の固定化、シートに可撓性を付与するのに必要十分な量だけ含有すればよい。含有量が多くなりすぎると、不燃性、耐炎性低下の原因となる。したがって、原料スラリー中の固形分濃度として、3~10重量%、好ましくは5~8重量%である。
【0045】
(4)ガラス繊維
シリカ系繊維として、末端にヒドロキシル基を有するシリカ系繊維(未焼成又は未処理シリカ系繊維)を用いた場合、このヒドロキシル基が高温で脱水縮合するため、シリカ系繊維が収縮、いわゆる熱収縮が発生する。かかるシリカ系繊維の熱収縮は、シート(紙)の一部を固定する仕様においては、ひび割れ等の原因となる。
かかる場合に、ガラス繊維が共存することで、高温により溶融したガラス繊維が、シリカ系無機繊維の熱収縮部分を埋め、加熱により形状破壊、クラック発生を防止できる。
【0046】
したがって、シリカ系繊維として、末端にヒドロキシル基を有するシリカ系繊維(未焼成又は未処理シリカ系繊維)を用いた場合、ガラス繊維を含有することが好ましい。
【0047】
尚、ガラス繊維は、通常使用時(繊維が軟化溶融しない温度で、通常200℃以下)には、シートに引っ張り強度を付与するという効果がある。したがって、シリカ系繊維として、未処理、熱処理のいずれのタイプを用いる場合であっても、ガラス繊維が含まれることは好ましい。
一方、炎に曝されるような高温では、溶融・流動化して繊維形状を保持できなくなる。溶融したガラス繊維が、シリカ繊維間に閉じ込められ、垂れを抑制できるとともに、シリカ系繊維の収縮を相殺するという役割の観点からは、未焼成シリカ系繊維を使用する場合、5~15重量%含有することが好ましい。
【0048】
本発明で使用するガラス繊維は、種類、サイズについて特に限定しないが、入手容易性、コストの点から、Eガラス繊維が好ましい。
繊維径1~10μm、好ましくは3~8μm、より好ましくは6~8μm程度である。繊維長は、シリカ系繊維、後述する有機系繊維と絡み合うことができる長さ、強度があればよい。一方、ガラス繊維は炎にさらされるような高温では溶融するので、溶融により生じるガラス塊が大きくなりすぎると、自重で垂れてしまう。よって、よって、ガラス繊維としては、繊維長1~15mm、好ましくは2~10mmのステープルファイバーを使用することが好ましい。
【0049】
(5)その他の成分
上記成分の他、所望により、有機繊維以外の有機バインダー(ラテックス、高分子粉末など);無機系バインダー;凝集剤;粘土鉱物以外の鉱物繊維などを含有してもよい。
その他の成分を含有する場合、20重量%未満、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下で含有することが望ましい。また、有機成分を含有する場合には、本発明に係る不燃性を損なわない範囲(8重量%未満、好ましくは5重量%以下)で含有することが望ましい。
【0050】
(5-1)凝集剤
本発明で使用する凝集剤とは、架橋吸着作用等によって該原料スラリー中の成分のフロック形成を促進し、抄網上での繊維や粒子の沈着を向上するものであり、歩留まり向上剤又は定着剤とも称される。
【0051】
凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアミン系、ポリメタクリル酸エステル系、ジシアンジアミド系、ポリエチレンイミン系、キトサン系、カチオン澱粉系などの有機系凝集剤、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウムなどの無機系凝集剤が挙げられ、いずれを用いることもでき、また両者を混合して用いてもよい。
【0052】
かかる凝集剤は、原料スラリー中の全固形分100重量に対して、固形分換算で0.005~5重量部程度添加するのが好ましい。
【0053】
(5-2)有機バインダー
本発明で使用することができる有機系バインダーとしては、粉末、顆粒状、コロイド溶液、高粘度流体などの種々の形態で用いることができる。
具体的には、粉末状又は流体状の高分子が挙げられ、例えば、アクリルラテックス、(メタ)アクリルラテックス等のラテックス;ポリビニルアルコール粉末、デンプンなどの粉体状の増粘物質;スチレンとブタジエンのコポリマー、ビニルピリジン、アクリロニトリル、アクリロニトリルとスチレンのコポリマー等が挙げられる。
【0054】
(5-3)無機バインダー
無機バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、水ガラス、珪酸カルシウム、シリカゾル、アルミナゾル、アルコキシラン等が挙げられる。
これらの無機バインダーは、有機バインダーとともに、又は有機バインダーに代えて、無機繊維間のバインダーとして用いることができる。
【0055】
(5-4)粘土鉱物以外の鉱物繊維
ここでいう鉱物繊維とは、スラリーにおいてチキソトロピー性を有し、塗膜形成性を有する繊維状粘土以外の鉱物繊維をいう。具体的には、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカが挙げられる。
【0056】
ワラストナイトは、針状の結晶鉱物(メタケイ酸塩)で、繊維径に相当する幅は、1μm以下で、長さは50μm程度である。
チタン酸カリウムは、針状の単結晶(ウィスカ)として用いられる。通常、繊維径は0.1~0.5μmであり、長さは、10~50μm、入手しやすいものとしては、15~30μmである。
【0057】
(5-5)断熱付与無機粒子
さらに、断熱性を要する用途では、シリカエアロゲル、グラスバブルやグラスバルーン等の多孔性又は中空無機粒子;コロイダルシリカ、アルミナ水和物(例えばベーマイト)等の水溶液中で粘着性を発揮できる無機粒子;酸化チタン、アルミナ、バインダー機能を有しないシリカ(結晶性シリカ粉末、アモルファスシリカ、フュームドシリカなど)等の輻射熱を散乱できるセラミック粒子などの断熱付与効果を有する無機粒子などを含有してもよい。
【0058】
(5-6)その他のフィラー
また、原料スラリーの固形分として、上記の他、5重量%未満、より好ましくは3重量%以下で、以下のようなフィラーが含有されていてもよい。
【0059】
その他の固形分フィラーとしては;中和剤、滑剤、ブロッキング防止剤、流動性改良剤、離型剤、難燃剤、着色剤、濡れ剤、粘剤、紙力向上剤、濾水剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0060】
(6)分散媒体
スラリー調製のための分散媒体としては、上記シリカ系繊維、有機繊維、粘土鉱物、ガラス繊維、その他必要に応じて添加される成分(バインダー、無機粒子など)を均一に溶解又は分散できるものであればよい。
例えば、トルエン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を必要に応じて用いることができ、好ましくは水が用いられる。
【0061】
<原料スラリー(抄造用懸濁液)の調製>
上記で挙げた各成分、すなわちシリカ系繊維、繊維状鉱物、有機繊維、及び所望により、ガラス繊維、さらに必要に応じて配合される凝集剤、バインダー、断熱付与無機粒子、その他のフィラーを、分散媒体中に所定量添加し、撹拌して、原料スラリーを調製する。
【0062】
原料スラリーの固形分濃度は、上記成分を均一に撹拌、混合できる濃度であればよい。具体的には、固形分率で、0.01~10重量%、好ましくは0.05~3重量%である。
【0063】
上記成分の配合順序は特に限定しないが、各種繊維を分散媒体中で撹拌しながら添加する方法が好ましい。また、無機粒子を含有する場合に、必要に応じて、予め分散剤などで表面改質させた後に添加してもよい。
【0064】
<湿式抄造>
湿式抄造とは、上記で調製した原料スラリーを抄紙機で抄きあげ、プレスして水分除去後、乾燥してシート状物を得る方法である。
抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合機を用いることができる。
【0065】
抄紙後、乾燥前、乾燥時、又は乾燥後に、不燃シートを所望の形状とするために、成形してもよい。成形は、通常、加熱下でプレス成形を採用できる。プレス機として、例えばエンボスを有するプレスを用いることで、不燃紙の表層を、凹凸を有する表面にすることもできる。
また、スリットなどの形状を付与できるプレス機を用いてもよい。
【0066】
連続的に抄紙、脱水、乾燥を行うことにより長尺のシートを製造する場合には、ロールなどに巻回して、不燃シートの巻回体を得てもよい。本発明の不燃シート、特に粘度鉱物として繊維状粘土を用いた場合、得られたシートは可撓性を有するので、巻回体として製造することも可能である。
【0067】
また、必要に応じて各種コンビネーション網、多層円網、各種ラミネーターなどによってシート層を2層以上重ね合わせてもよい。
【0068】
抄紙後、乾燥して、分散媒体を除去する。乾燥温度は、分散媒体を蒸発させることができる温度以上好ましくは有機繊維が軟化できる温度である80℃以上である。使用する有機繊維の種類にもよるが、通常、80~200℃、好ましくは100~150℃である。
【0069】
熱圧成形については、従来慣用の熱圧プレス成形、予熱コールドプレス成形、高周波加熱成形などを単独で又は2種以上組み合せて適用すればよい。
【0070】
上記抄造工程で得られる紙又はシート又は成形体の厚みは、0.3mm以上、0.5mm以上、1mm以上、1.5mm以上、10mm以下、5mm以下、3mm以下、2mm以下とすることができる。抄紙方法、用途により、適宜選択できる。
本発明の不燃シートにおいて、特に粘土鉱物として、繊維状鉱物を使用する場合には、脱水時(抄紙時)の抄網の目詰まりを回避できるので、厚み10mm程度のシートを製造することもできる。
一方、薄いシートしか得られない場合には、必要に応じて、複数枚重ね合わせた積層体とすればよい。複数枚重ねる場合、無機バインダーにより接着することが好ましい。無機バインダーとしては、原料スラリーであげたような無機バインダーを用いることができる。
【0071】
<不燃紙又はシートの構成>
本発明に係る不燃紙又はシートは、上記のような原料スラリーを湿式抄造し、乾燥により分散媒体を除去して得られるものである。
このようにして製造される本発明の不燃紙又はシートは、シート平面において、シリカ繊維、有機繊維、さらにはガラス繊維がランダムに絡み合うとともに、有機繊維の一部が融着している。さらに、シリカ繊維、有機繊維、ガラス繊維が面方向に延設することで、層状を形成していることが好ましい。
【0072】
得られた不燃紙又はシートを、複数枚重ね合わせた積層体としてもよいし、他の基材に積層した積層体としてよい。さらに、必要に応じて、化粧フィルムなどが重ね合わせられていてもよい。
【0073】
他の基材としては、例えば、無機繊維製布帛、ブランケット、金属箔、金属繊維シート、金属板、熱硬化性樹脂シート又は熱硬化性樹脂板などが挙げられる。
本発明の不燃紙又はシートを積層した積層体とすることで、これらの基材に断熱性付与、防火・耐炎性を付与することが可能となる。
【0074】
不燃紙又はシートの単層厚みは、0.3~10mm、好ましくは0.5~5mmであり、用途に応じて、薄い不燃シート、分厚い不燃シートを得ることができる。
【0075】
以上のような構成を有する本発明の不燃シートは、主要構成繊維がガラス繊維であったり、防火層としてアルミニウム箔を用いた不燃シートでは使用できないような700℃以上でも、防火・耐炎目的で使用できる不燃シートである。
1000℃以上の火炎暴露でも、発火、着火、分解、焼失せず、防火・耐炎シートの役割を果たすことができる。
しかも、シリカ系繊維単独を抄紙したシートと比べて、剛性、引張り強度が高い。また、ガラス繊維や鉱物系繊維を主成分とした紙と比べて、柔軟で、可撓性を有する。さらに、シートの坪量にもよるが、嵩密度を150~400kg/m3とすることができるので、マイカシート(一般に2000kg/m3程度)と比べてはるかに軽量である。
【0076】
<用途>
本発明の不燃紙又はシートは、耐炎性が求められる種々の用途で用いることができる。特にガラス繊維の耐熱温度やアルミニウムの融点を超えるような700℃以上の高温での耐炎性、不燃性が求められる用途、例えば、吸音材の被覆材、自動車板金作業等で使用する車体保護シート、ガラス工場や鋳造工場で用いられる防炎・防火シートとして用いることができる。特にロックウールで問題とされるような非繊維状粒子や粉落ちが問題となるような無機粒子が不含有の組成とすることが可能であり、かかる無機粒子の混入が問題とされるような精密機器の材料の製造現場に使用する耐火・防炎、断熱シートとして用いることができる。
【実施例0077】
〔評価方法〕
(1)不燃性
(1-1)火炎暴露試験1
図1に示すように、評価されるシート(150mm×150mm、厚み1.6mm±0.2mm)10を、カチオン鋼板11に粘着テープ12を用いて固定し、水平に固定したバーナー火炎13により10分間、シート10を加熱(サンプルの加熱側の面より5mmでの温度が1000℃となるように火炎を調節)し、発火、燃焼の有無、さらには火炎暴露試験後のシートの状態(クラックの有無、穴あきなど)を目視で観察した。
発火、燃焼せず、火炎暴露試験後のシートに、クラックや穴あきなどが認められない場合には、「OK」と評価した。一方、発火、溶融、構成成分の分解などによりシート形状が保持できなくなった場合を「NG」とした。
【0078】
(1-2)火炎暴露試験2
図2に示すように、評価されるシート(150mm×30mm、厚み1.6mm±0.2mm)15を、クリップ14で片持ち梁状態に保持し、シートの自由端(クリップ14で挟持されていない側のシート端部)を、バーナーにより10分間、加熱した。
燃焼、着火・発火の有無、さらには火炎暴露試験後のシート形状の保持状態を目視で観察した。発火・燃焼が認められず、火炎暴露後もシート形状を保持していた場合を「OK」と評価した。
一方、発火・燃焼した場合、不燃であっても、熱収縮等により元のシート形状が変形したり、シート強度(剛性)が低下して、
図3に示すシート15’のように、片持ち梁状態を保持できなくなった場合は、「NG」と評価される。
【0079】
(2)剛軟性
15cm×15cmのシート(厚み:約1.6mm±0.2mm)10の両側を手で持ち、
図4に示すように撓ませた。撓むことができた場合には、さらに、2つ折りに折り曲げた。
撓み試験又は折り曲げ試験でクラックが生じた場合を「×」、撓むことができるが折り曲げ試験でクラックが生じた場合を「△」、撓ませることができ、折り曲げ試験でもクラックが生じない場合を「〇」、さらに撓ませることができ且つ折り曲げ後に元のシート形状に復帰できた場合を「◎」と評価した。
【0080】
〔不燃紙の原料及び製造〕
<原料>
(1)シリカ系無機繊維
BELCHEM GmbH社のBELCOTEX(登録商標)110(組成はAlO1.5・18〔(SiO2)0.6(SiO1.5OH)0.4〕)のチョップドストランド(繊維径9μm、繊維長さ3~5mm)。
300℃で熱処理をしたもの(熱処理シリカ系無機繊維)又は熱処理しないもの(未処理シリカ系無機繊維)を用いた。
【0081】
(2)繊維状鉱物
・セピオライト
平均一次粒子径30~70μm、嵩比重0.13~0.15g/ml
・カオリナイト
林純薬工業のカオリン(研究実験用)
【0082】
(3)ガラス繊維
繊維径5~9μmで、長さ3~9mmのガラス繊維を用いた。
【0083】
(4)有機繊維
・パルプ繊維(繊維径20~30μm)
・ポリエステル繊維(繊維径5~10μm、繊維長3~9mm)
【0084】
(5)バインダー
・有機バインダーとして、アクリルラテックスを用いた。
・無機バインダーとして、コロイダルシリカ(スノーテックス30(登録商標))を用いた。
スノーテックス30は、平均一次粒子径10~20nmのシリカナノ粒子(アモルファス)が単分散したコロイド溶液で、シリカ粒子の比表面積は130~280m2/gである。
【0085】
・凝集剤
硫酸アルミニウムの水溶液(1.0重量%)
ポリアクリルアミド
【0086】
<抄造用懸濁液の調製及び抄造法によるシート作製:No.1~10>
水2000ccいれた容器内に、上記原料成分を添加混合し、表1に示す組成(固形分の重量%)の抄紙用懸濁液を調製した。成分は、シリカ系無機繊維、ガラス繊維、鉱物粘土、有機繊維、バインダー、凝集剤(硫酸アルミニウム、ポリアクリルアミド)の順で添加、配合した。ポリアクリルアミドは、抄紙用懸濁液のフロックの状態を確認しながら1cc~5ccの範囲で添加した。
【0087】
上記で調製した抄紙用懸濁液を、湿式成形機(ろ過用メッシュスクリーン#80(目開き180~200μm))に注入して、吸引脱水した。
脱水後、熱プレス機(100℃)を用いて、10分間、加圧しながら加熱乾燥した。これにより、150mm×150mm×厚み約1.2~2.0mmのシートを得た。各抄紙用懸濁液について、3枚のシートを作製した。抄紙用懸濁液の固形分から算出される平均収率は、80%~90%であった。
抄造後、100℃に加熱した熱プレスを用いて、10分間、加熱加圧した。これにより、150mm×150mm×厚み約1.6±0.2mmのシートを得た。
得られたシートについて、上記火炎暴露試験1,2を行い、不燃性、剛軟性を評価した。結果を1に示す。
【0088】
【0089】
No.5は、繊維成分が有機繊維のみの場合である。シートの主成分はセピオライトであるが、有機繊維分の含有割合が20重量%と多いため、発火燃焼が認められた。また、火炎暴露試験2では、試験開始から5分経過するとシート形状を保持できなくなった。なお、剛軟性については、有機繊維の含有割合が高いためか、可撓性を有していた。
【0090】
No.2は、熱処理シリカ系繊維を主体とするシートで、高温での熱収縮が生じないと考えられる。しかしながら、火炎暴露により有機繊維が焼失した後は、繊維同士を結合するものがなくなり、シリカ系繊維の集合体のような状態(綿状化)となった。かかる状態は、シート強度が不十分となり、火炎暴露試験2では、
図4のような垂れ下りが見られた。
【0091】
一方、No.6は主体となる繊維として、シリカ系繊維に代えて、ガラス繊維を用いた場合である。火炎暴露試験1では、火炎暴露部分において、ガラス繊維の溶融が認められた。シート単独で火炎暴露試験を行った場合には、シート形状を保持できないと考えられる。
【0092】
No.3は、未処理シリカ系繊維を主体とするシートである。火炎暴露試験1により熱収縮が起こるが、
図1に示すように、シート10は鋼板11により固着されているため、火炎暴露試験後のシートには、大きなクラックが発生した。火炎暴露試験2後では、熱収縮及び有機繊維の焼失により、シート形状を保持できなかった。
【0093】
No.10は、No.3と同様に、未処理シリカ系繊維を主体とするシートである。粘土鉱物(セピオライト)が含有されているが、ガラス繊維を含まないため、火炎暴露試験1後にはクラックを生じた。未処理シリカ系繊維が熱収縮したためと考えられる。
【0094】
No.7は、No.3と同様に、未処理シリカ系繊維を主体とするシートであるが、ガラス繊維が含有されているシートである。火炎暴露による熱収縮が起こらないと考えられるシートであるが、粘土鉱物を含まないため、火炎暴露試験1後、シートの綿状化が認められた。
【0095】
シートを構成する無機繊維がガラス繊維のみの場合(No.8)、粘土鉱物を含有していても、1000℃といった高温時に繊維成分が不在となるため、シート形状の保持は困難と考えられる。
【0096】
No.1は熱処理のシリカ系繊維を主体とし、粘土鉱物、ガラス繊維、有機繊維を含有するシートである。ガラス繊維が2重量%と少ないにもかかわらず、紙様の可撓性を有し、不燃性で、火炎暴露試験1後も穴あき、クラックなどは認められなかった。また、火炎暴露試験2後も、シート形状、シート強度を保持していた。さらに、可撓性を有し、折り曲げ試験でも割れなどを生じることがなかった。
【0097】
No4は、シート構成繊維の主体として未処理シリカ系繊維を用いた場合である。粘土鉱物、ガラス繊維、有機繊維が共存するため、紙様の可撓性を有し、不燃性であり、火炎後暴露試験後も穴あき、クラックなどは認められなかった。
【0098】
No.9は、粘土鉱物として、セピオライトに代えて、カオリナイトを用いた場合である。未処理シリカ系繊維を用いているが、不燃性を有し、火炎暴露後もシート形状を保持することができた。しかしながら、可撓性が不足し、
図4のような可撓性試験を行うと、折れ曲がり、クラックが生じた。
【0099】
No.4の不燃シートの面方向の顕微鏡写真(100倍)を
図5に示す。シリカ系繊維、有機繊維、ガラス繊維がランダム方向に存在し、絡み合っていることが確認できる。
また、No.4の厚み方向(切断面)の顕微鏡写真(70倍)を
図6に示す。繊維が層状になって積層している状態が確認できた。なお、顕微鏡写真の一部において、繊維が厚み方向に延びて絡み合っているようにも見えるが、これは切断時に繊維の一部が厚み方向(切断方向)に引っ張られたためと考えられる。
【0100】
No.4の不燃シートの火炎暴露試験後1の面方向の顕微鏡写真(100倍)を
図7に示す。繊維が絡み合った状態で保持されていることが確認できた。これにより、火炎暴露後もシート形状を保持するのに必要なシート強度を保持できたと考えられる。
本発明の不燃紙又はシートは、火炎暴露されても発火、着火せず、ガラス繊維が溶融するような800℃以上の高温でもシート形状を保持でき、さらにショットのような非繊維状粒子、無機粒子を含まないので、粉落ちが問題となるような厳しい条件で耐炎・耐火性が求められる用途、基材に耐火・耐炎性を付与したい用途に用いることができる。