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特開2025-22569熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、オイル、及びオイルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022569
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、オイル、及びオイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20250206BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20250206BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20250206BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250206BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20250206BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20250206BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/06
C08K3/04
C08K5/18
C08L91/00
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127263
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】久野 毬乃
(72)【発明者】
【氏名】奥野 明
(72)【発明者】
【氏名】森下 宏典
(72)【発明者】
【氏名】田原 聖一
(72)【発明者】
【氏名】北條 将広
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA06
3D131AA10
3D131AA13
3D131AA18
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB04
3D131BB05
3D131BB07
3D131BC09
4J002AC011
4J002AC033
4J002AE002
4J002DA037
4J002DA046
4J002EN078
4J002FD017
4J002FD022
4J002FD038
4J002FD146
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】熱分解して、イソプレン骨格ゴムの原料となる成分を含むオイルを回収するために用いる架橋済みゴム組成物を提供する。
【解決手段】熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物であって、該架橋済みゴム組成物はゴム成分と硫黄とを含み、前記ゴム成分がイソプレン骨格ゴムを含み、前記イソプレン骨格ゴムの含有量が前記ゴム成分100質量部中50質量部以上であり、前記硫黄の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が12以上であることを特徴とする、架橋済みゴム組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物であって、
前記架橋済みゴム組成物は、ゴム成分と、硫黄と、を含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴムを含み、
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以上であり、
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、
前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が、12以上であることを特徴とする、架橋済みゴム組成物。
【請求項2】
更にカーボンブラックを含み、
下記式(1):
exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943 + exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005 ≧ 0.4 ・・・ (1)
[式中、Aは、前記ゴム成分100質量部中の、前記イソプレン骨格ゴムの含有量(質量部)であり、
Bは、前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積(m/g)であり、
Cは、前記ゴム成分100質量部に対する、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量(質量部)であり、
Dは、前記ゴム成分100質量部に対する、前記硫黄の含有量(質量部)である。]を満たす、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項3】
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下である、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項4】
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3質量部以下である、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項5】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、70質量部以上である、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分が、前記イソプレン骨格ゴムのみからなる、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が180m/g以下である、請求項2に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項8】
老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まない、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項9】
前記オイルが、タイヤ用ゴム組成物を製造するためのオイルである、請求項1に記載の架橋済みゴム組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したことを特徴とする、オイル。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することを特徴とする、オイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、オイル、及びオイルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、使用済みタイヤを始めとする使用済みゴム製品については、地球環境の保護の見地から、リサイクルが推し進められている。かかるリサイクルの手法としては、使用済みゴム製品を熱分解して、オイル、カーボンブラック(炭化物)等の熱分解生成物を回収する技術が挙げられる。例えば、下記特許文献1には、熱分解処理により、廃棄タイヤまたは類似の重合体材料からカーボンおよび炭化水素混合物を回収する方法が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002-523552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1等に記載のように、使用済みタイヤを熱分解する方法については、従来から様々な検討がなされてきたが、熱分解で回収したオイル中の成分については、検討がなされてこなかった。また、市販のタイヤの熱分解オイルは、一般に燃料として利用されるため、熱分解オイル中の成分に配慮する必要もない。
一方、使用済みのゴム製品を熱分解して、ゴム製品の主成分である天然ゴム、イソプレンゴム等のイソプレン骨格ゴムに再度戻すためには、モノマーとしてのイソプレンの回収が必要であるが、市販のタイヤの熱分解オイルには、イソプレンは殆ど含まれていないため、イソプレンの回収が難しい。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、熱分解して、イソプレン骨格ゴムの原料となる成分(イソプレン等のモノマーや、リモネン等)を含むオイルを回収するために用いる架橋済みゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる架橋済みゴム組成物から得たオイル、及びかかる架橋済みゴム組成物からのオイルの製造方法を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の、熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、オイル、及びオイルの製造方法の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
[1] 熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物であって、
前記架橋済みゴム組成物は、ゴム成分と、硫黄と、を含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴムを含み、
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以上であり、
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、
前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が、12以上であることを特徴とする、架橋済みゴム組成物。
上記[1]に記載の本発明の架橋済みゴム組成物は、熱分解することで、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を含むオイルを回収することができる。
【0008】
[2] 更にカーボンブラックを含み、
下記式(1):
exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943 + exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005 ≧ 0.4 ・・・ (1)
[式中、Aは、前記ゴム成分100質量部中の、前記イソプレン骨格ゴムの含有量(質量部)であり、
Bは、前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積(m/g)であり、
Cは、前記ゴム成分100質量部に対する、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量(質量部)であり、
Dは、前記ゴム成分100質量部に対する、前記硫黄の含有量(質量部)である。]を満たす、[1]に記載の架橋済みゴム組成物。
上記[2]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。
【0009】
[3] 前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下である、[1]又は[2]に記載の架橋済みゴム組成物。
上記[3]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。
【0010】
[4] 前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3質量部以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[4]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量がより一層増加する。
【0011】
[5] 前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、70質量部以上である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[5]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。
【0012】
[6] 前記ゴム成分が、前記イソプレン骨格ゴムのみからなる、[1]~[5]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[6]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量がより一層増加する。
【0013】
[7] 前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が180m/g以下である、[2]~[6]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[7]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。
【0014】
[8] 老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まない、[1]~[7]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[8]に記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。
【0015】
[9] 前記オイルが、タイヤ用ゴム組成物を製造するためのオイルである、[1]~[8]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物。
上記[9]に記載の架橋済みゴム組成物によれば、当該架橋済みゴム組成物のケミカルリサイクルが可能となる。
【0016】
[10] [1]~[9]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したことを特徴とする、オイル。
上記[10]に記載の本発明のオイルは、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含む。
【0017】
[11] [1]~[9]のいずれか一つに記載の架橋済みゴム組成物を熱分解することを特徴とする、オイルの製造方法。
上記[11]に記載の本発明のオイルの製造方法によれば、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱分解して、イソプレン骨格ゴムの原料となる成分を含むオイルを回収するために用いる架橋済みゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる架橋済みゴム組成物から得たオイル、及びかかる架橋済みゴム組成物からのオイルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の、熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、オイル、及びオイルの製造方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0020】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0021】
本明細書において、使用済みタイヤとは、一度使用され、又は使用されずに収集され、若しくは廃棄されたタイヤ製品を指す。
【0022】
本明細書において、架橋済みゴム組成物とは、ゴム組成物を架橋した後のゴム組成物を指し、「架橋ゴム」と呼ぶこともある。また、架橋済みゴム組成物には、使用済みタイヤを始めとする使用済みゴム製品から採取したゴム部材、ゴム断片等が包含される。
【0023】
<架橋済みゴム組成物>
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物である。そして、本実施形態の架橋済みゴム組成物は、ゴム成分と硫黄とを含み、前記ゴム成分がイソプレン骨格ゴムを含み、前記イソプレン骨格ゴムの含有量が前記ゴム成分100質量部中50質量部以上であり、前記硫黄の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が12以上であることを特徴とする。
【0024】
上述のように、従来、使用済みタイヤを始めとする使用済みゴム製品を熱分解して回収したオイル中の成分については、検討がなされてこなかった。これに対して、本発明者らが、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーを回収することを目的として鋭意検討したところ、ゴム成分と硫黄とを含み、該ゴム成分がイソプレン骨格ゴムを含み、前記イソプレン骨格ゴムの含有量が前記ゴム成分100質量部中50質量部以上であり、前記硫黄の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、更に、前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が12以上である架橋済みゴム組成物を熱分解すると、イソプレン等のモノマーや、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分を多く含むオイルを回収できることを見出した。なお、リモネンは、2つのイソプレン単位からなる化合物であり、イソプレンの二量体の一種であるため、イソプレン骨格ゴムの原料とすることが可能である。
【0025】
ここで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分は、架橋済みゴム組成物中に含まれるイソプレン骨格ゴムに主として由来するため、イソプレン骨格ゴムの含有量がゴム成分100質量部中50質量部以上であることで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が増加する。
また、硫黄は、ゴム成分を架橋する役割を果たすため、多過ぎると、架橋済みゴム組成物が熱分解し難くなり、また、複雑な分解生成物が増え、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分(イソプレン骨格を有する成分)の収量が減少してしまう。これに対して、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して8質量部以下であることで、複雑な分解生成物の生成量を低減して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を増加させることができる。
また、イソプレン骨格ゴムの含有量に対して、硫黄の含有量が多過ぎる場合も、架橋済みゴム組成物が熱分解し難くなり、また、複雑な分解生成物が増えるため、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が減少してしまう。これに対して、イソプレン骨格ゴムの含有量と硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)を12以上とすることで(即ち、相対的にイソプレン骨格ゴムの含有量を多くすることで)、複雑な分解生成物の生成量を低減して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を増加させることができる。
従って、本実施形態の架橋済みゴム組成物は、熱分解することで、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを効率良く回収することができる。
【0026】
(用途)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、熱分解によるオイル回収用の架橋済みゴム組成物、換言すると、熱分解して、オイルを回収するために用いる架橋済みゴム組成物である。上述の通り、本実施形態の架橋済みゴム組成物は、熱分解することで、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを効率良く回収できるため、熱分解して、オイルを回収する用途に特に適している。
【0027】
また、前記架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したオイルは、タイヤ用ゴム組成物を製造するためのオイルであることが好ましい。ここで、タイヤ用ゴム組成物を製造するためのオイルとは、タイヤ用ゴム組成物のゴム成分となるイソプレン骨格ゴムの原料になり得るオイルを指す。架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したオイルを、タイヤ用ゴム組成物のゴム成分となるイソプレン骨格ゴムの原料として利用することで、架橋済みゴム組成物のケミカルリサイクルが可能となる。また、使用済みタイヤから架橋済みゴム組成物を採取した場合は、タイヤへのリサイクルが可能となる。
【0028】
(ゴム成分)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分が、架橋済みゴム組成物にゴム弾性をもたらす。
【0029】
--イソプレン骨格ゴム--
前記ゴム成分は、イソプレン骨格ゴムを含む。該イソプレン骨格ゴムは、イソプレン単位を主たる骨格とするゴムであり、具体的には、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)等が挙られる。ゴム成分としてイソプレン骨格ゴムを含有する架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を含むオイルを回収できる。
【0030】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以上であり、70質量部以上であることが好ましい。また、前記ゴム成分は、イソプレン骨格ゴムのみからなることが更に好ましい。前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、50質量部未満であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が少なくなる。一方、前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、70質量部以上であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。また、前記ゴム成分が、前記イソプレン骨格ゴムのみからなると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量がより一層増加する。
【0031】
--他のゴム成分--
前記ゴム成分は、イソプレン骨格ゴム以外のゴム成分を含んでもよい。かかるイソプレン骨格ゴム以外のゴム成分は、ジエン系ゴムであることが好ましい。
前記ジエン系ゴムは、ジエン系モノマー由来の単位(ジエン系単位)を含むゴムであり、更に、共重合可能なコモノマー由来の単位を含んでもよい。
前記ジエン系モノマー由来の単位は、ジエン系ゴムの架橋(加硫)を可能とし、また、ゴムの様な伸びや強度を発現することができる。なお、架橋ゴム中においてジエン系ゴムは、通常は架橋された状態で存在するが、一部が架橋されていなくてもよい。ジエン系モノマー(ジエン系化合物)として、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。
一方、前記共重合可能なコモノマーとしては、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。該芳香族ビニル化合物として、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン等が挙げられる。
また、前記イソプレン骨格ゴム以外のジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらの中でも、イソプレン骨格ゴム以外のジエン系ゴムとしては、ブタジエンゴムが好ましい。前記ジエン系ゴムが、ブタジエンゴムを含む場合、ブタジエン等の再利用し易いジエン系モノマーが得られる。
【0032】
前記イソプレン骨格ゴム以外のゴム成分の含有量は、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以下であり、30質量部以下であることが好ましく、0質量部であってもよい。
【0033】
(硫黄)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、硫黄を含む。該硫黄は、前記ゴム成分を架橋(加硫)する作用を有し、架橋済みゴム組成物の強度を向上させる。
前記硫黄としては、通常の硫黄(可溶性硫黄(粉末硫黄)等)、不溶性硫黄等の種々の硫黄を使用でき、オイルトリート硫黄等を使用することもできる。
【0034】
前記硫黄の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であり、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることが更に好ましく、また、1.4質量部以上であることが好ましい。硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して8質量部を超えると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、複雑な分解生成物の生成量が増加して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分(イソプレン骨格を有する成分)の収量が少なくなる。一方、硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。また、硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3質量部以下であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量がより一層増加する。また、硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1.4質量部以上であると、架橋済みゴム組成物が十分に架橋されており、各種ゴム製品としての優れた強度を有するようになる。
【0035】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量と前記硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)は、12以上であり、好ましく20以上であり、また、80以下であることが好ましい。イソプレン骨格ゴムの含有量と硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が12未満であると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、複雑な分解生成物の生成量が増加して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が少なくなる。一方、イソプレン骨格ゴムの含有量と硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が20以上であると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、複雑な分解生成物の生成量を更に低減して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。また、イソプレン骨格ゴムの含有量と硫黄の含有量との質量比率(イソプレン骨格ゴム/硫黄)が80以下であると、架橋済みゴム組成物が十分に架橋されており、各種ゴム製品としての十分な強度を有する。
【0036】
(カーボンブラック)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、更にカーボンブラックを含むことが好ましい。該カーボンブラックは、架橋済みゴム組成物を補強して、架橋済みゴム組成物の補強性を向上させることができる。
前記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0037】
前記カーボンブラックの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上が好ましく、また、90質量部以下が好ましく、80質量部以下が更に好ましい。カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であると、架橋済みゴム組成物の補強性を更に向上させることができる。また、カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して90質量部以下であると、架橋済みゴム組成物全体中のイソプレン骨格ゴムの含有率が相対的に上昇するため、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。
【0038】
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、下記式(1):
exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943 + exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005 ≧ 0.4 ・・・ (1)
を満たすことが好ましい。上記式(1)の関係を満たす(即ち、式(1)の左辺の値が0.4以上である)架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が更に増加する。
【0039】
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、上記式(1)の左辺の値が0.6以上であることが更に好ましく、1.0以上であることがより一層好ましい。架橋済みゴム組成物の式(1)の左辺の値が0.6以上であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量がより一層増加する。また、架橋済みゴム組成物の式(1)の左辺の値が1.0以上であると、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が特に増加する。
【0040】
上記式(1)中、Aは、前記ゴム成分100質量部中の、前記イソプレン骨格ゴムの含有量(質量部)である。架橋済みゴム組成物中のイソプレン骨格ゴムの含有量が増加すると、イソプレン及びリモネンの生成量が増加する傾向がある。
【0041】
上記式(1)中、Bは、前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積(m/g)である。ここで、架橋済みゴム組成物が二種以上のカーボンブラックを含む場合、CTAB吸着比表面積は、各カーボンブラックの質量割合を加味した平均値である。換言すると、n種のカーボンブラックを含み、n種類目カーボンブラックを「CB」とすると、以下の式(2):
(平均)CTAB吸着比表面積(m/g)=Σ(CBのCTAB吸着比表面積×CBの含有量)/Σ(CBの含有量) ・・・ (2)
から算出することができる。
前記架橋済みゴム組成物に含まれるカーボンブラックのCTAB吸着比表面積が大きくなると、イソプレン及びリモネンの生成量が減少する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積は、JIS K6217-3に準拠して測定された値であり、カーボンブラックの微細孔を含まない外部表面積を、カーボンブラックにCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)を吸着させたときの比表面積で示したものである。
【0042】
上記式(1)中、Cは、前記ゴム成分100質量部に対する、架橋済みゴム組成物中の老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量(質量部)である。架橋済みゴム組成物中の老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量が増加すると、リモネンの生成量が減少する傾向がある。
なお、本実施形態の架橋済みゴム組成物において、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンは、必須成分ではなく、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量は、0質量部でもよい。また、後述の通り、本実施形態の架橋済みゴム組成物は、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まないことが好ましい。
【0043】
上記式(1)中、Dは、前記ゴム成分100質量部に対する、前記硫黄の含有量(質量部)である。架橋済みゴム組成物中の硫黄の含有量が増加すると、イソプレン及びリモネンの生成量が減少する傾向がある。
【0044】
上記式(1)中、「exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943」の項(左辺の第1項)は、架橋済みゴム組成物を熱分解した際のリモネンの生成量から算出された項である。本発明者らは、種々のゴム組成物(具体的には、後述の実施例及び比較例のゴム組成物)を熱分解した際のリモネンの生成量と、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、C:老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量、D:硫黄の含有量との間に相関があり、重回帰分析の回帰式から、上記の関係を見出したものである。
ここで、架橋済みゴム組成物を熱分解して得たオイルをガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)で分析し、GCクロマトグラムのリモネンのピークの面積値(積分値)をサンプル中のオイルの濃度で規格化して目的変数とし、また、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、C:老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量、D:硫黄の含有量を説明変数として、重回帰分析を実施して、上記の関係式を算出した。
【0045】
また、上記式(1)中、「exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005」の項(左辺の第2項)は、架橋済みゴム組成物を熱分解した際のイソプレンの生成量から算出された項である。本発明者らは、種々のゴム組成物(具体的には、後述の実施例及び比較例のゴム組成物)を熱分解した際のイソプレンの生成量と、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、D:硫黄の含有量との間に相関があり、重回帰分析の回帰式から、上記の関係を見出したものである。
ここで、架橋済みゴム組成物を熱分解して得たオイルをガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)で分析し、GCクロマトグラムのイソプレンのピークの面積値(積分値)をサンプル中のオイルの濃度で規格化して目的変数とし、また、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、D:硫黄の含有量を説明変数として、重回帰分析を実施して、上記の関係式を算出した。
【0046】
なお、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレンの生成量に比べて、リモネンの生成量が可成り多く、そのままでは、イソプレンの生成量の影響を強く受ける関係式となる。そこで、イソプレンの生成量とリモネンの生成量の影響を略等しく反映させるために、規格化して、式(1)を導出した。
【0047】
具体的には、左辺の第1項の「exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943」の項に関しては、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、C:老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量、D:硫黄の含有量から算出される「exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))」の部分を「243316566.160943」で除している。
また、左辺の第2項の「exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005」の項に関しては、A:イソプレン骨格ゴムの含有量、B:カーボンブラックのCTAB吸着比表面積、D:硫黄の含有量から算出される「exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))」の部分を「86230236.8833005」で除している。
【0048】
ここで、値「243316566.160943」は、GC/MSで分析した際の、最もリモネンの生成量が多かったサンプルの「exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))」の値に等しく、即ち、最もリモネンの生成量が多かったサンプルの左辺第1項の値が1になるように規格化したものである。
また、値「86230236.8833005」は、GC/MSで分析した際の、最もイソプレンの生成量が多かったサンプルの「exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))」の値に等しく、即ち、最もイソプレンの生成量が多かったサンプルの左辺第2項の値が1になるように規格化したものである。
【0049】
前記カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積は、180m/g以下であることが好ましく、140m/g以下であることがより好ましく、90m/g以下であることが更に好ましく、また、30m/g以上であることが好ましい。カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が180m/g以下であると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。また、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が90m/g以下であると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量をより一層増加させることができる。また、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が30m/g以上であると、架橋済みゴム組成物が、各種ゴム製品としての十分な強度を有する。
【0050】
(老化防止剤)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、更に老化防止剤を含むことが好ましい。架橋済みゴム組成物が、老化防止剤を含むと、耐老化性(耐候性、耐オゾン性)が向上して、各種ゴム製品としての優れた寿命を有するようになる。
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まないことが好ましい。架橋済みゴム組成物中の老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量が増加すると、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量が減少する傾向があるため、架橋済みゴム組成物中の老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの含有量は、少ない程好ましく、老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まないことが特に好ましい。老化防止剤N-(1,3-ジメチルブチル)-N‘-フェニル-p-フェニレンジアミンを含まない架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。
なお、本明細書において、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンは「老化防止剤6PPD」と呼ばれることもある。
【0052】
前記老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して6質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して6質量部以下であると、架橋済みゴム組成物の耐老化性を向上させつつ、架橋済みゴム組成物を熱分解した際、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量の減少を十分に抑制できる。
【0053】
(その他の配合薬品)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、既述のゴム成分、硫黄、カーボンブラック、及び老化防止剤の他にも、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される各種成分、例えば、カーボンブラック以外の充填剤(シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤)、シランカップリング剤、軟化剤、亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸、加硫促進剤、硫黄以外の架橋剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0054】
前記亜鉛華(酸化亜鉛)の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~8質量部がより好ましい。
【0055】
前記ステアリン酸の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~8質量部がより好ましい。
【0056】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。該加硫促進剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~4質量部の範囲が更に好ましい。
【0057】
(架橋済みゴム組成物の起源)
本実施形態の架橋済みゴム組成物は、種々のゴム製品(使用済みゴム製品)に由来するものであってよく、例えば、タイヤ、ホース等に由来するものであってもよい。本実施形態の架橋済みのゴム組成物は、タイヤ由来の架橋済みゴム組成物を含むことが好ましい。タイヤ由来の架橋済みゴム組成物を含む場合、熱分解して、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを回収し、オイル中のイソプレン等のモノマーや、リモネン等からイソプレン骨格ゴムを合成し、再度、タイヤに使用することで、タイヤのリサイクルが可能になり、地球環境の保護の見地からも好ましい。
【0058】
前記熱分解に用いる架橋済みゴム組成物については、予め配合されているゴム成分の種類でグループ分けしてから、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。また、予め配合されている充填剤の種類(例えば、カーボンブラックの種類、シリカの種類、カーボンブラックとシリカの混合比率、等)でグループ分けをし、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。更に、ゴム成分の種類によるグループ分け及び充填剤の種類によるグループ分けを共に行った上で、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。そのようにグループごとで熱分解を行う場合、より均一な物性を有するオイル(例えば、イソプレン、リモネン、液状ポリマー等を含む)、再生カーボンブラック、再生シリカ等が得られるため、再度ゴムに配合する場合、より性能の良いゴム組成物が得られる。
【0059】
また、前記熱解に用いる架橋済みゴム組成物がタイヤ由来の場合、予めタイヤの種類別(例えば、乗用車用、トラックやバス用、オフロード等の大型車用、航空機用、農業車両用等)でグループ分けしてから、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。また、予めタイヤの部材別(例えば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、ビード部ゴム、スチールコード被覆ゴム、有機繊維被覆ゴム、パッドゴム、クッションゴム等)でグループ分けしてから、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。更に、タイヤの種類別によるグループ分け及びタイヤの部材別によるグループ分けを共に行った上で、それぞれのグループごとで熱分解を行っても良い。そのようにグループごとで熱分解を行う場合、より均一な物性を有するオイル(例えば、イソプレン、リモネン、液状ポリマー等を含む)や再生カーボンブラックが得られるため、再度ゴムに配合する場合、より性能の良いゴム組成物が得られる。
【0060】
(架橋済みゴム組成物の製造方法)
前記ゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、既述のゴム成分、硫黄に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。また、得られたゴム組成物を加熱することで、架橋済みゴム組成物とすることができる。
【0061】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0062】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0063】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0064】
前記架橋(加硫)を行う装置や方式、条件等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。架橋を行う装置としては、通常、ゴム組成物の加硫に用いる金型による成形加硫機等が挙げられる。架橋の条件として、その温度は、例えば、100~190℃程度である。
【0065】
<オイル>
本実施形態のオイルは、上述の本実施形態の架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したことを特徴とする。本実施形態のオイルは、上述の本実施形態の架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したオイルであるため、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含む。
【0066】
本実施形態のオイルは、イソプレンの含有率が0.1質量%以上であることが好ましい。また、本実施形態のオイルは、リモネンの含有率が1質量%以上であることが好ましい。イソプレンの含有率が0.1質量%以上であったり、並びに/或いは、リモネンの含有率が1質量%以上であるオイルからは、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレンを多量に入手できるため、イソプレン骨格ゴムにリサイクルし易い。
【0067】
また、本実施形態のオイルは、タイヤ用ゴム組成物を製造するためのオイルとして好適である。架橋済みゴム組成物を熱分解して回収したオイルを、タイヤ用ゴム組成物のゴム成分となるイソプレン骨格ゴムの原料として利用することで、架橋済みゴム組成物のケミカルリサイクルが可能となる。また、使用済みタイヤから架橋済みゴム組成物を採取した場合は、タイヤへのリサイクルが可能となる。
【0068】
本実施形態のオイルの製造方法は、特に限定されるものではないが、後述の本実施形態のオイルの製造方法により、本実施形態のオイルを得ることができる。
【0069】
<オイルの製造方法>
本実施形態のオイルの製造方法は、上述の本実施形態の架橋済みゴム組成物を熱分解することを特徴とする。本実施形態のオイルの製造方法は、上述の本実施形態の架橋済みゴム組成物を熱分解するため、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを得ることができる。
【0070】
前記架橋済みゴム組成物の熱分解の温度は、300℃以上が好ましく、350℃以上が更に好ましく、また、800℃以下が好ましく、550℃以下が更に好ましい。熱分解の温度が、350℃以上であると、架橋済みゴム組成物の分解を十分に促進でき、また、550℃以下であると、複雑な分解生成物の生成量を更に低減して、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分の収量を更に増加させることができる。
【0071】
前記熱分解は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。熱分解を不活性ガス雰囲気下で行うことで、分解生成物の酸化や還元を抑制できる。ここで、不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
【0072】
前記熱分解は、溶媒中で実施することもできる。ここで、前記溶媒としては、熱分解反応を阻害しない任意の溶媒を使用でき、例えば、エーテル類、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素(芳香族系溶媒)等が挙げられる。より具体的には、溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、シクロペンタン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0073】
本実施形態のオイルの製造方法は、上述の熱分解工程の他に、更に別の工程を含んでもよい。かかる工程としては、架橋済みゴム組成物の前処理工程(例えば、裁断工程、粉砕工程)等が挙げられる。
【0074】
また、本実施形態のオイルの製造方法は、バッチ式反応器でも、流通式反応器でも、実施できる。
また、熱分解後のオイル(分解生成物)は、濾過、蒸留等で分離・回収したり、貧溶媒を用いて沈殿させる等して回収することができる。
【実施例0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<架橋済みゴム組成物の調製>
表1及び表2に示す配合処方のゴム組成物を混錬して調製した。ここで、混錬を二段階で行い、第一混練段階は、110℃で3分15秒間行い、第二混練段階は、80℃で1分間行った。
更に、得られたゴム組成物の加硫カーブの測定(JIS K 6300-2)を行い、145℃で、T90の1.5倍の時間で加熱して、架橋済みゴム組成物を調製した。
【0077】
<架橋済みゴム組成物の熱分解>
上記のようにして調製した架橋済みゴム組成物25gを5分ごとに約1gずつ管型反応器に仕込み、温度500℃、窒素流量100mL/minの条件下で、熱分解を行い、オイルを得た。
【0078】
<オイルの分析>
熱分解によって得られたオイルをクロロホルムに溶解させて測定サンプルを調製し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS、Agilent Technology社製、商品名「7890 GC System 5977B MSD」、Agilent Technology社製、「HP-5MS UI (長さ30m、内径0.25mm、 膜厚0.25um)」を装着)で分析した。
イソプレン及びリモネンのピークの面積値(積分値)を、測定サンプル中のオイルの濃度で規格化し、イソプレン及びリモネンのピークの面積値(積分値)を目的変数、配合因子を説明変数として、重回帰分析を実施し、上記式(1)の関係式を導いた。
生成したイソプレン及びリモネンのピークの面積値及び面積割合の結果を表1及び表2に示す。
また、式(1)の左辺:exp(18.977663905+0.0085742124×A-0.003867326×B-0.028534179×C-0.251024648×D+(C-3.75)×((D-3.948)×0.0118234107))/243316566.160943 + exp(17.436413974+0.0140219114×A-0.00394088×B-0.137558684×D-(A-80)×((A-80)×0.000514996))/86230236.8833005
=exp(対数リモネン)/243316566.160943 + exp(対数イソプレン)/86230236.8833005として、表1及び表2に、「対数リモネン」及び「対数イソプレン」の値を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
*1 NR: 天然ゴム100質量部に対して大内新興化学工業株式会社製の商品名「ノクタイザーSD」を0.06質量部含有、天然ゴムの実質の配合量を下段に示す
*2 BR: ブタジエンゴム、UBEエラストマー株式会社製、商品名「UBEPOL BR150L」
*3 カーボンブラック1: CTAB吸着比表面積=41m/g
*4 カーボンブラック2: CTAB吸着比表面積=74m/g
*5 カーボンブラック3: CTAB吸着比表面積=123m/g
*6 ステアリン酸: 日油株式会社製、商品名「桐印ステアリン酸」
*7 亜鉛華: ハクスイテック株式会社製、商品名「酸化亜鉛」
*8 老化防止剤6PPD: N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック6C」
*9 加硫促進剤CBS: N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、三新化学工業株式会社製、商品名「サンセラーCM-G」
*10 20%オイル含有硫黄: 四国化成工業株式会社製、商品名「ミュークロン OT-20 EX」、オイルを20質量%含有、硫黄の実質の配合量を下段に示す
*11 老化防止剤TMQ: 2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、精工化学株式会社製、商品名「ノンフレックスRD」
【0082】
表1及び表2から、本発明に従う実施例の架橋済みゴム組成物を熱分解することで、イソプレン、リモネン等のイソプレン骨格ゴムの原料となる成分を多く含むオイルを回収できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の架橋済みゴム組成物は、熱分解して、イソプレン骨格ゴムの原料となるイソプレン等のモノマーや、リモネン等を多く含むオイルを回収するのに利用できる。
【0084】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は、「No.9_産業と技術革新の基盤を作ろう」、「No.12_つくる責任、つかう責任」及び「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。