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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022573
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】施工器具における施工補助具
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/18 20060101AFI20250206BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
E04F21/18 B
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127273
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】前橋 義幸
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
(72)【発明者】
【氏名】牧 淳一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174BA01
2E174CA04
2E174DA34
2E174DA62
(57)【要約】      (修正有)
【課題】磁気吸着型の壁面施工器具において、手の届かない高所での施工に際し、脚立や足場台を使用する必要がなく、作業効率を上げることのできる施工補助具を提供すること。
【解決手段】片側に磁気吸着面16を有する磁気吸着部10と、磁気吸着部10における非磁気吸着面側に設けられた把手30とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して非磁性体からなる壁面材6を固着させる施工を行う施工器具2における施工補助具3であって、把手30の少なくとも一部に着脱自在に装着される固定部材40と、固定部材40を装着した施工器具2の磁気吸着面16に平行で且つ施工時の施工器具2の水平軸を中心として回動自在に固定部材40に軸支された最大長さ1m以上の棒材50とを有する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側に磁気吸着面を有する磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して非磁性体からなる壁面材を固着させる施工を行う施工器具における施工補助具であって、把手の少なくとも一部に着脱自在に装着される固定部材と、固定部材を装着した施工器具の磁気吸着面に平行で且つ施工時の施工器具の水平軸を中心として回動自在に固定部材に軸支された最大長さ1m以上の棒材とを有することを特徴とする施工器具における施工補助具。
【請求項2】
棒材は伸縮自在であるとともに所定長さでロック可能とされ、最短まで縮長させたときの長さが20cm以上50cmm以下である請求項1に記載の、施工器具における施工補助具。
【請求項3】
棒材及び固定部材が非磁性体を材質とする請求項1または請求項2に記載の、施工器具における施工補助具。
【請求項4】
固定部材に回動自在に両側が軸支された略U字状の枠体を有し、枠体は、固定部材を施工器具の把手の少なくとも一部に装着させた状態で該枠体を回動させたときに、枠体が施工器具と干渉しない形状及びサイズとされるとともに、枠体の非軸支側に1本のみの棒材が取り付けられる請求項1に記載の、施工器具における施工補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工器具における施工補助具に関する。より詳しくは、片側に磁気吸着面を有した磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して、非磁性体からなる壁面材を固着させる施工器具に用いる施工補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の内装工事では、下地鋼鈑(軟磁性体)あるいは木材に、例えば石膏ボード(非磁性体)をねじ留めするのが一般的であった。この場合、コードで電力を引いて電気ドリルで施工するので、それらを準備する手間がかかり、且つ騒音と粉塵が発生していた。
【0003】
また、固形接着剤を用いて下地鋼鈑に石膏ボードを重ね貼りする場合等では、特殊なローラーでもって該固形接着剤部分を、人力で体重を掛けて且つ一定時間を掛けて圧締作業を行うことが有った。この場合は、個人間の作業むら(バラツキ)があり、信頼性に欠ける面があった。
【0004】
上記問題を解決するための発明として、本出願人は、特許文献1に記載の施工器具を開発した。この施工器具は、片側に磁気吸着面を有した磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備える。具体的には、強力な永久磁石を内蔵したケーシングと、ケーシングの上部に取り付けられた把手とを備える。把手は軟磁性体を材質とし、ケーシング内の永久磁石のヨークとしても機能する。
この施工器具では、鉛直方向に沿って立設した下地鋼鈑に固形接着剤を介して石膏ボードを重ね貼りする場合、従来のように人力で圧締する代わりに、その磁気吸着面を石膏ボードに対面配置することで、石膏ボードと下地鋼鈑との間に磁気回路を形成し、磁力による強力な押圧力を得ることができる。
上記施工器具を用いた内装工事では、石膏ボードの数ヶ所(下地鋼鈑の存在箇所)で最上部から床面近くまで、非磁性体に施工器具を磁着させた状態で、垂直方向に移動させる作業となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO/2023/127915
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般住宅でも天井の高さは3m近くあり、上記施工器具を用いた内装工事は、天井に近い箇所では、脚立や足場台の上に乗っての作業となる。この場合、脚立や足場台から足を滑らせて転落する危険があり、またその都度上り下りする時間や位置を移動させる手間がかかる。また現場に脚立や足場台を携行する手間もあり、作業の効率がよくない。
【0007】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたもので、片側に磁気吸着面を有した磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して、非磁性体からなる壁面材を固着させるときに用いる施工器具において、脚立や足場台を使用する必要がなく、作業効率を上げることのできる施工補助具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために次のような手段をとる。なお、本欄(「課題を解決するための手段」の欄)において各構成手段に付した括弧書きの符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すための参考用のものであり、本発明の構成手段をこれに限定するものではない。
【0009】
本発明の一の態様では、片側に磁気吸着面(16)を有する磁気吸着部(10,20)と、磁気吸着部(10,20)における非磁気吸着面側に設けられた把手(30)とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材(4)に接着剤(5)を介して非磁性体からなる壁面材(6)を固着させる施工を行う施工器具(2)における施工補助具(3,3A)であって、把手(30)の少なくとも一部に着脱自在に装着される固定部材(40)と、固定部材(40)を装着した施工器具(2)の磁気吸着面(16)に平行で且つ施工時の施工器具(2)の水平軸を中心として回動自在に固定部材(40)に軸支された最大長さ1m以上の棒材(50)とを有することを特徴とする。なお、非磁気吸着面側とは、磁気吸着面とは反対側のことである。
【0010】
本態様によると、棒材(50)は、固定部材(40)を装着した施工器具(2)の磁気吸着面(16)に平行で且つ施工時の施工器具(2)の水平軸を中心として回動自在に構成される。これにより、作業者は、高所位置で下地鋼材(4)に壁面材(6)を固着させる施工作業時に、壁面材(6)に磁着保持された施工器具(1)において、鉛直軸から所定角度(θ)傾けた棒材(50)の握り端部(51)に力を加えながら、壁面材(6)に対して例えば前進または後退することにより、施工器具(1)を上下方向に移動させることができる。また、このとき作業者が棒材(50)に加えた力(F)の上下方向成分と、棒材(50)の握り端部(51)と回動軸(61)の水平方向距離(L1)との積により決まるモーメントの作用により、作業者の負担を軽減することができる。
【0011】
本発明の他の態様では、棒材(50)は伸縮自在であるとともに所定長さでロック可能とされ、最短まで縮長させたときの長さが20cm以上50cm以下である。
【0012】
本態様によると、施工補助具(3)及び該施工補助具(3)を装着した施工器具(2)の持ち運びや保管が容易になる。
【0013】
本発明の他の態様では、棒材(50)及び固定部材(40)が非磁性体を材質とする。
【0014】
本態様によると、棒材(50)及び固定部材(40)が不意に施工器具(2)に磁着するなどして作業の妨げになることを防ぐことができる。
【0015】
本発明の他の態様では、固定部材(40)に回動自在に両側が軸支された略U字状の枠体(63A)を有し、枠体(63A)は、固定部材(40)を施工器具(2)の把手(30)の少なくとも一部に装着させた状態で該枠体(63A)を回動させたときに、枠体(63A)が施工器具(2)と干渉しない形状及びサイズとされるとともに、枠体(63A)の非軸支側に1本のみの棒材(50)が取り付けられる。
【0016】
本態様によると、棒材(50)が1本のみなので、製造コストが安くて済み、また棒材(50)を伸縮自在の構成としたとき伸縮の手間が軽減される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、片側に磁気吸着面を有した磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して、非磁性体からなる壁面材を固着させるときに用いる施工器具において、脚立や足場台を使用する必要がなく、作業効率を上げることのできる施工補助具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る施工補助具3を装着した施工器具1の外観斜視図である。
図2】施工補助具3の装着対象となる施工器具2の外観斜視図である。
図3】施工補助具3の装着対象となる施工器具2の形状を示す図である。
図4】施工補助具3の外観斜視図である。
図5】施工補助具3の形状を示す図である。
図6】石膏ボード6の初期位置P1での施工器具1の使用方法を説明するための斜視図である。
図7】施工器具1と鉄骨4との間に形成される磁気回路MFを示す側断面図である。
図8】施工器具1の使用方法を時系列的に説明するための側面図である。
図9】施工器具1による上方位置施工時に作用する力を説明するための側面図である。
図10】変形例の施工補助具3Aを示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、添付図面に図示した部材などの縮尺や角度は、必ずしも実物と一致するものではなく、適宜明示しやすい大きさに調整している。
【0020】
図1は本発明に係る施工補助具3を装着した施工器具2の外観斜視図、図2は施工補助具3の装着対象となる施工器具2の外観斜視図である。図3は施工補助具3の装着対象となる施工器具2の形状を示す図であり、(a)は正面断面図(図2のA―A線断面図)、(b)は平面図、(c)は側面図を示す。図4は施工補助具3の外観斜視図であり、(a)は斜め前から見た図を示し、(b)は斜め後ろから見た図を示す。図5は施工補助具3の形状を示す図であり、(a)は正面図、(b)は一部を断面とした平面図、(c)は一部を断面とした側面図を示す。なお、施工器具の符号は、施工補助具3を装着してない施工器具単体として捉えるときは「2」とし、施工補助具3を装着した状態の複合体として捉えるときは「1」とする。
【0021】
施工器具1は、図1のように、施工器具2と施工補助具3を有する。施工補助具3は、工具を使うことなく施工器具2に着脱自在となっている。なお施工器具2は、後述の図6のように、鉄骨4に特殊接着剤5を介して石膏ボード6を施工(固着)するときに使用する器具である。
【0022】
施工器具2は、図2,3のように、ケーシング10と、ケーシング10の内部に配置された一対の永久磁石20,20と、ケーシング10の上部にケーシング10と一体になって設けられた把手30とを備える。
【0023】
〔ケーシング〕
ケーシング10は、アルミニウム、合成樹脂などの非磁性材からなる中空直方体形状の箱体であり、図3のように、上部が開口した箱状のケーシング本体11と、ケーシング本体11の開口を閉塞する蓋体12とを備える。蓋体12は、その長手方向両側に厚み方向に貫通するボルト孔121を備え、四隅にビス孔122を備える。ケーシング本体11及び蓋体12の肉厚は、内部の永久磁石20の磁束が十分に透過できる厚さ、例えば1~3mm程度とされる。
【0024】
〔永久磁石〕
永久磁石20は、ブロック型のネオジム磁石からなり、一方の面にN極、反対の面にS極を有するとともに、中心部に厚み方向に貫通するボルト孔21を備える。永久磁石20は、ケーシング本体11内における長手方向両側に互いに間隔をあけて左右対称に配置される。一方の永久磁石20は、N極を底部側に向けて固定配置され、他方の永久磁石20は、S極を底部側に向けて固定配置される。
【0025】
〔把手〕
把手30は、2つのベースヨーク31,31と結合ヨーク32とを有する。ベースヨーク31はブロック型の中密体であり、厚み方向に貫通するボルト孔311を中心に備える。結合ヨーク32は直方体形状の中密体であり、長手方向両側に厚み方向に貫通するボルト孔321,321を備える。いずれも磁性金属、例えばフェライト系ステンレス鋼SUS434やスチールを材質とする。
把手30は、2つのベースヨーク31,31を結合ヨーク32で連結した構成とされる。具体的には、互いに間隔をあけて配置した2つのベースヨーク31,31を架橋する形で結合ヨーク32が連結し、その正面視形状は、「コ」の字を反時計方向に90度回転させたものとされる。
【0026】
以上に示した各構成品は、左右両側について、下から永久磁石20、蓋体12、ベースヨーク31、結合ヨーク32の順に、各ボルト孔21,121,311,321が同軸となるように配置した後、これら各ボルト孔に皿頭付のボルト14を挿通させ、ナット15で締結する。そして蓋体12のビス孔122に挿入したビス13により、蓋体12をケーシング本体11のネジ孔(図示せず)に固定して組み立てる。このように組み立てられた本体2は、ケーシング10内の永久磁石20,20により、ケーシング10の底面が強力な磁気吸着面16となる。
【0027】
〔施工補助具〕
施工補助具3は、図4,5のように、固定金具40と伸縮ロッド50,50と連結部材60,60を備える。
【0028】
〔固定金具〕
固定金具40は、施工器具2におけるベースヨーク31に工具無しで着脱自在に固定可能に構成され、枠体41と開閉扉42と留具43(拘束バンド)を有する。
【0029】
枠体41は、アルミニウム等の非磁性金属を材質とする平面視コ字状体で、底板411と左右一対の側板412とを有する。側板412は、底板411の両端からそれぞれ同方向に直角に延びるように形成される。枠体41の内側には、施工器具2における一方のベースヨーク31に嵌まり込むサイズの直方体状の空間S1(図5(b)参照)が形成される。また側板412の中央には、平ボルト61の挿通する中央孔412hが穿設されている。
【0030】
開閉扉42は、底板411と略同一サイズの板状体であり、枠体41と同様にアルミニウム等の非磁性金属を材質とし、一方の側板412の端部にヒンジ44を介してヒンジ軸441を回動軸として270度回動可能に取り付けられる。これにより空間S1の入口S2が開放状態(図5(b)の破線参照)と閉鎖状態(図5(b)の実線参照)とに選択的に配置可能とされる。
【0031】
留具43は、閉状態とされた開閉扉42をこの位置に固定するための部材であり、可撓性のバンド431と、バンド431の長手方向両側に設けられた雄ホック432,432を備える。一方、ヒンジ44に連結していない方の側板412の端部近傍と、開閉扉42におけるヒンジ44に連結していない方の端部近傍とには、それぞれ留具43の雄ホック432,432に嵌合可能な雌ホック(図示せず)を有する。
【0032】
〔伸縮ロッド〕
伸縮ロッド50は、複数の異径の中空丸棒を入れ子にして構成され、各丸棒は、任意または所定長さ(各最長位置)でロック可能である。ロックするための機構は、例えば実公昭60-45907に開示のように、中腹部を中心を若干ずらした小さめの円柱部に形成し、該円柱部に中心を若干ずらした円柱孔を有する輪状体を回転自在に嵌め合わした係止具を、小パイプ(内側の丸棒)の端に固着したものや、内側の丸棒の下端領域を外側丸棒の上部以外の内周面を挿通可能な範囲で下方に向けて太径となるテーパ面とするとともに、外側の丸棒の上部の内周面の径を、上記テーパ面に当接する細径とするといった公知のものが用いられる。丸棒は、アルミニウム等の非磁性金属または合成樹脂を材質とし、伸長させたときの最大長さが1m以上2.5m以下である。これは、作業者が持ったとき一般住宅の天井高さまで達することができる長さである。また縮長させたときの最小長さは、例えば20cm~50cmとされる。最小長さをこの範囲とすることで、持ち運びや保管が容易になる。
伸縮ロッド50の一端部は、次述する連結アーム63の先端領域に溶接またはネジ留めなどにより固定され、他端部は、作業者が握るための滑り止めつきの握り端部51となっている。
【0033】
〔連結機構〕
連結機構60は、伸縮ロッド50を、一対の側板412の中央にそれぞれの面に垂直な方向を軸として回動自在に軸支する機構であり、具体的には、平ボルト61、ナット62、連結アーム63、ロックナット64を有する。
平ボルト61は、側板412の中央孔412hに挿通した状態でナット62により側板412に締付固定される。
連結アーム63は、長方形状をなし、一端側に平ボルト61の軸部に回動可能に挿通するルーズ孔63hを有する。材質はアルミニウム等の非磁性金属とされる。他端側は伸縮ロッド50の先端領域に溶接またはネジ留などにより固定される。ロックナット64は、連結アーム63のルーズ孔63hに挿通した平ボルト61の先端に螺合し、平ボルト61からの連結アーム63の抜け落ちを防止する。
これにより、左右に対称に設けられた2本の伸縮ロッド50は、一対の側板412にそれぞれ独立して回動自在に設けられることになる。
【0034】
なお、伸縮ロッド50や連結アーム63を非磁性体としたのは次の理由による。すなわち、施工器具2の磁気吸着面16は非常に強力な磁力を発し、ケーシング10周りにも磁力線が出ており、伸縮ロッド50や連結アーム63が不意に磁着するなどして作業の妨げにならないようにするためである。
【0035】
〔施工器具への施工補助具の装着〕
施工器具2への施工補助具3の装着について説明する。この装着に際しては、作業の容易さの観点から伸縮ロッド50は最小長さとしておくことが好ましい。
まず施工補助具3における固定金具40の開閉扉42を開状態にする(図5(b)の破線参照)。次いで、施工器具2を適当な平面上に置くとともに、固定金具40の開口入口S2を施工器具2における一方のベースヨーク31に向けた状態で、固定金具40をベースヨーク31に移動させ空間S1に該ベースヨーク31を嵌合させる。
次いで、開閉扉42を閉状態とし、留具43により固定する。すなわち留具43における一方の雄ホック432と固定金具40における側板412の雌ホックとを嵌合させ、留具43における他方の雄ホック432と開閉扉42の雌ホックとを嵌合させることで、固定金具40をベースヨーク31に固定する。
【0036】
次に、施工器具1の使用方法を説明する。
〔施工作業〕
図6は石膏ボード6の初期位置P1での施工器具1の使用方法を説明するための斜視図、図7は施工器具1と鉄骨4との間に形成される磁気回路MFを示す側断面図、図8は施工器具1の使用方法を時系列的に説明するための側面図である。
【0037】
以下で説明する作業は、具体的には、下地鋼材としての鉄骨4に特殊接着剤5を用いて、非磁性体としての石膏ボード6を張り付ける作業である。この特殊接着剤5は、所定の押圧力を加えることで、短時間で接着強度を増す性質を有する接着剤であり、ここでは両面接着テープタイプとする。
【0038】
まず、図6(a)のように、作業者は、表面に特殊接着剤5を張り付けた鉄骨4上に石膏ボード6を重ね合わせる。これにより、石膏ボード6は特殊接着剤5に密着し、図6(b)のように、石膏ボード6は鉄骨4に仮止めされた状態となる。
【0039】
この仮止め状態で、施工器具1を用意する。このとき伸縮ロッド50は2本とも最短または短い長さとしておく(図8(a)参照)。
次いで、図6(c)のように、施工器具1の磁気吸着面16を石膏ボード6に近づけて、石膏ボード6の表面のうちの鉄骨4が存在する部分に配置する。配置する高さは、作業者の手の届く範囲であり、本説明では、この位置を初期位置P1とする。このとき、図7のように、施工器具1の一方の永久磁石20、一方のベースヨーク31、結合ヨーク32、他方のベースヨーク31、他方の永久磁石20、及び鉄骨4は、これらを磁束密度の高い磁束が通過する磁気回路MFを形成する。石膏ボード6の厚みをエアーギャップとする磁気回路である。その結果、施工器具1が鉄骨4に大きな力で磁気吸着されることとなり、強い押圧力によって、石膏ボード6を鉄骨4に押し付けることが可能となる。
【0040】
この状態で、作業者は把手30を持って、図6(c)の矢印で示すように、施工器具1を下方に移動させる。これにより、施工器具1が鉄骨4に対して石膏ボード6を押さえ付ける領域が、鉄骨4に沿って移動することとなる(図8(a)の下向き矢印参照)。その結果、石膏ボード6のうちの、特殊接着剤5を介して鉄骨4に対向する部分が均等な強い押圧力で押圧されることとなり、最下位置P2まで移動させることで特殊接着剤5により石膏ボード6の下半部が1本の鉄骨4に本付けされることとなる。
【0041】
その後、作業者は把手30を持って、施工器具1を最下位置P2から初期位置P1まで移動させる(図8(a)の上向き矢印参照)。つまり上記した下降の経路を施工器具1が復路として辿るように上昇させる。これにより鉄骨4への石膏ボード6の下半部の上記本付けが確実となる。
【0042】
施工器具1が初期位置P1に配置された状態で、作業者は、2本の伸縮ロッド50を最長まで伸ばしロックする(図8(b)参照)。このとき例えば、各伸縮ロッド50の握り端部51を両手で握り、壁面に対面した状態で、2本の伸縮ロッド50と鉛直軸とのなす角度θが30度~70度、好ましくは40度~60度となるように壁面から後退する(図8(c)の実線参照)。この操作は、伸縮ロッド50が連結機構60を介して一対の側板412にそれぞれの面に垂直な方向を軸として回動自在に軸支されることから可能となる。
次いで、作業者は、壁面に向かって前進しながら、伸縮ロッド50をその長手方向奥に向けて押し上げる(図8(c)の破線参照)。この押上げ力の鉛直方向成分が施工器具1を上昇させる力となり、施工器具1は石膏ボード6の壁面を磁力により押し付けながら、初期位置P1から鉛直上方に上昇する。その結果、特殊接着剤5により石膏ボード6の上半部が1本の鉄骨4に本付けされることとなる。なお、2本の伸縮ロッド50は、独立に回動動作が可能であるため、左右で互いに異なる角度θの状態を設定可能である。また左右の伸縮ロッド50での力の入れ方を変更できる。これにより石膏ボード6上での微妙な軌道修正が可能である。
【0043】
施工器具1が最上位置P3に達したところで、作業者は押し上げ操作をやめ(図8(d)参照)、次は逆の操作を行う。すなわち、伸縮ロッド50をその長手方向手前に引き下げながら後退する(図8(e)の実線参照)。この引下げ力の鉛直方向成分が施工器具1を下降させる力となり、施工器具1は壁面を鉛直下方に初期位置P1まで下降する(図8(e)の破線参照)。
以上の作業により、手の届かない範囲での固着作業が完了し、1本の鉄骨4に対する施工作業が完了する。
【0044】
その後、石膏ボード6が本付けされた鉄骨4の隣に位置する鉄骨4に対して、石膏ボード6を押さえつける作業を同様に行う。このような作業を繰り返すことにより石膏ボード6を鉄骨4に張り付ける。これにより、特殊接着剤5により石膏ボード6が全鉄骨4に本付けされることとなる。
【0045】
このように、補助具3を備えた施工器具1では、手の届かない範囲での固着作業を、伸延させた伸縮ロッド50の押上げと引下げで実現でき、脚立や足場台を使用する必要がなく、作業効率を上げることができる。また、補助具3は、既存の施工器具2に工具なしで着脱可能であるので、既存の施工器具2の構造を変えることなく、機能を増長させることができる。
【0046】
ここで、石膏ボード6の上方位置での施工時に作用する力を、図9を参照して説明する。図9は施工器具1による石膏ボード6の上方位置での施工時に作用する力を説明するための側面図であり、(a)は施工器具1の押上げ時を示し、(b)は施工器具1の引下げ時を示す。
図9(a)のように、施工器具1の伸縮ロッド50を鉛直線に対して角度θ傾けた状態で、伸縮ロッド50を、握り端部51を握って伸縮ロッド50の向きに力Fで押し上げる場合、この系に働く上下方向の力成分F1は、下記(1)式のようになる。
F1=F×cosθ-(W-R)=F×cosθ-(W-μ×Q)・・・(1)
ここで、Wは施工器具1の荷重、μは施工器具1の磁気吸着面16と石膏ボード6との間の摩擦係数、Qは鉄骨4と施工器具1の磁気吸着面16との間に働く磁気吸着力である。
【0047】
式(1)において、施工器具1は強力に石膏ボード6に磁着しているため(W-R)の値は極めて小さい。従って、作業者が加えた力の上下方向成分であるF×cosθは殆どが上昇力に供される。
また、この系に働く横方向の力成分F2は、下記(2)式のようになる。
F2=Q+F×sinθ・・・(2)
つまり、押し上げ時は、把手を持っての作業時に比べて、より大きな押圧力が得られる。
また、伸縮ロッド50の回動中心である平ボルト61と、伸縮ロッド50の握り端部51との水平方向距離L1であるL×sinθが、上下方向の力F1の腕長となり、てこの原理によるモーメントM1が作用する。そのモーメントM1は、下記(3)式のようになる。
M1=F×cosθ×L×sinθ=F×L×sinθ×cosθ=F×L×sin(2θ)/2・・・(3)
ここで、sin(2θ)の値は、θ=0~90度の間で0~1の間の値をとり、特にθ=15~75度の間では0.278~1の間の値をとり、θ=30~60度の間では0.433~1の間の値をとる。よって、モーメントの効果を有効に利用するためには、比較的大きな係数値が得られる、θ=30~60度程度であるとよい。
【0048】
また、図9(b)のように、伸縮ロッド50を鉛直線に対して角度θ傾けた状態で、施工器具1の伸縮ロッド50を力Fで引き下げる場合、この系に働く上下方向の力成分F3は、下記(4)式のようになる。
F3=-F×cosθ-(W-R)=-F×cosθ-(W-μ×Q)・・・(4)
F3は施工器具1の下降に供せられる力である。
また、この系に働く横方向の力成分F4は、下記(5)式のようになる。
F4=Q-F×sinθ・・・(5)
つまり、引き下げ時は、把手を持っての作業時に比べて、小さな押圧力しか得られない。しかし、押し上げ時に、大きな押圧力を得ているので、問題とはならない。
【0049】
また、伸縮ロッド50の回動中心である平ボルト61と、伸縮ロッド50の握り端部51との水平方向距離L1であるL×sinθが、上下方向の力F3の腕長となり、てこの原理によるモーメントM2が作用する。そのモーメントM2は、下記(6)式のようになる。
M2=-F×cosθ×L×sinθ=-F×L×sinθ×cosθ=-F×L×sin(2θ)/2・・・(6)
ここで、sin(2θ)の値は、θ=0~90度の間で0~1の間の値をとり、特にθ=15~75度の間では0.278~1の間の値をとり、θ=30~60度の間では0.433~1の間の値をとる。よって、モーメントの効果を有効に利用するためには、比較的大きな係数値が得られる、θ=30~60度程度であるとよい。
【0050】
つまり作業者は、高所位置で鉄骨4に石膏ボード6を取り付ける施工作業時に、石膏ボード6に磁着保持された施工器具1において、鉛直軸から角度θ傾いた伸縮ロッド50の握り端部51に力を加えながら、石膏ボード6に対して前進または後退することにより、施工器具1を上下方向に移動させることができる。また、このとき作業者が伸縮ロッド50に加えた力F(または-F)の上下方向成分と、伸縮ロッド50の握り端部51と回動軸61の水平方向距離L1であるL×sinθとの積により決まるモーメントの作用により、作業者の負担を軽減することができる。
【0051】
〔変形例〕
図10は変形例の施工補助具3Aを示す外観斜視図である。
施工補助具3Aでは、伸縮ロッド50は一本だけであり、固定金具40にアーム枠63Aを介して、元の形態と同様に回動自在に取り付けられる。
【0052】
アーム枠63Aは、互いに対向配置されるアーム側板631Aと、2枚のアーム側板631Aを端部で連結する連結板632とを有し、内側に略U字状の空間S3を有する枠体であり、各アーム側板631Aの端部は固定金具40における各側板412に回動自在に軸支される。空間S3は、固定金具40を施工器具2の一方のベースヨーク31に装着させた状態でアーム枠63Aを回動させたときに、アーム枠63Aが施工器具2と干渉しない広さとされる。そして、連結板632の中央位置におけるアーム側板631Aと反対方向に1本の伸縮ロッド50が取り付けられる。
施工補助具3Aを装着した施工器具による施工方法は、基本的には、図8で示した内容と同様である。
施工補助具3Aでは、伸縮ロッド50が1本だけなので、伸縮の手間が軽減されるとともに製造コストも安くつく。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明を行ったが、上に開示した実施形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
すなわち、施工補助具3,3Aの全体または一部の構造、形状、材料、個数、取付位置及び適用などは、本発明の主旨に沿って適宜変更可能である。
【0054】
例えば、上述の実施形態では、固定金具40は、施工器具2における一方のベースヨーク31に固定する形態としたが、結合ヨーク32または把手30全体に固定させる形態としてもよい。
また、施工器具1の使用例として、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に特殊接着剤を介して、非磁性体からなる壁面材を固着させる場合を示したが、水平方向に沿って架設した下地鋼材に特殊接着剤を介して、非磁性体からなる例えば天井材を固着させる場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
片側に磁気吸着面を有する磁気吸着部と、磁気吸着部における非磁気吸着面側に設けられた把手とを備え、鉛直方向に沿って立設した下地鋼材に接着剤を介して非磁性体からなる壁面材を取り付けるための施工器具において、手の届かない高所での施工に際し、脚立や足場台を使用する必要がなく、作業効率を上げることのできる、施工器具における施工補助具として幅広く活用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 施工器具
2 施工器具
3 施工補助具
3A 施工補助具
4 鉄骨(下地鋼材)
5 特殊接着剤(接着剤)
6 石膏ボード(壁面材)
10 ケーシング(磁気吸着部)
16 磁気吸着面
20 永久磁石(磁気吸着部)
30 把手
40 固定金具(固定部材)
50 伸縮ロッド(棒材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10